いつも御愛読ありがとうごさいます!
まずはバンドリ三周年おめでとうございます!
( ^-^)ノ∠※。.:*:・'°☆
ドリフェスガンガン回しておりますよ!
ドリフェス限定のかのちゃん先輩欲しい……。
そして投稿がしばらく空いてしまってスミマセン!
仕事の過渡期とその他色々重なってしまったので……。
これからも自分のペースで少しずつ上げて行きますので御愛読いただけると幸いです。
では本編です!!
「ゴメンなさい、急に取り乱してしまって」
「大丈夫だよ♪千聖ちゃん、少し落ち着いたみたいで良かったよ~」
事務所のフリースペースに千聖を座らせてから、彩はアイスティーを差し出した。
「それで…………失恋したってどういうことなの?私で良ければ力になれないかな?」
「そうね……。ここまで迷惑掛けて、それは秘密じゃ自分勝手過ぎるわね」
「ち、千聖ちゃんが辛かったら話さなくてもいいんだよ?無理強いはしないからね?」
「大丈夫よ。むしろ彩ちゃんに話を聞いて貰いたいわ……」
千聖は自分の中で話を纏めると彩に話し始めた。
「実は最近好きな人ができてね?」
「好きな人ってどんな人?」
「えっと……その……」
千聖は頬を真っ赤に染めて俯いた。
「……は、羽沢珈琲の店員さんで…………つぐみちゃんのお兄さんなの……」
(か、可愛い……私が男の子だったら絶対にフらないのに~)
「この前、番組に出てくれたパティシエの人だよね?確かに素敵な人だったね。……フラれたって事は千聖ちゃん告白したの?」
「う……」
千聖はシュンとして言葉を詰まらせた。
「実は…………告白してないの……」
「え?告白してないのにフラれたってどういうこと?」
「それは……」
少し言い訳を考えた千聖であったが観念して話し始める。
「さっきまで羽沢珈琲にいたのだけど、彼の好きな人と思われる女性が現れたのよ。彼のあの表情、あの視線、きっとあの人が好きな女性で間違いないわ……」
「もしかして……その場にいられなくなって走って逃げて来たの?」
「えぇ、その通りよ」
「ダメだよ!!」
「え……?」
予想外の彩の反応に千聖は戸惑ってしまった。
「恋は情報戦だよ!?敵の正体も情報も掴めないまま逃げるなんてもっての他だよ!」
「あ、彩ちゃん!?」
彩の中で変なスイッチが入ったようだ。
「も、もしかしたら!つぐみちゃんの従姉かもしれないし!」
千聖が彩の表情を確認すると彩の視線は右往左往している。
千聖は気がついた。
彩に変なスイッチが入ったのではない。
自分を励まそうと必死に言葉を絞り出しているのだ。
「と、とにかく!このままじゃいけないよ!私、羽沢珈琲に乗り込んで来るね!?」
「や、止めて彩ちゃん!?と、とにかく一旦落ち着きましょう!?」
いつの間にかいつもの立ち位置に戻っている。
そんなやり取りに千聖は少し心を救われた。
「ありがとう……優しい彩ちゃんが大好きよ……」
「うん♪」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一方その頃羽沢珈琲では。
「それにしても元気そうで安心したよ~」
彼女の名前は村上 葵(むらかみ あおい)。
氷瀧がフランスに旅立った時に氷瀧のクラスに教育実習生として英語を教えていた教師で、今も都内の中学校で英語の教師を務めている。
「その節は御心配と御迷惑をお掛けしました」
「全くだよ~。でもこの前テレビで羽沢君を見た時は驚きと同時に安心もしたよ。立派なパティシエになるって夢、ちゃんと叶えたんだね」
「まだまだ通過点です。目標は世界一のパティシエですから」
「このケーキも本当に美味しいし、実現するのも時間の問題かもね♪」
ケーキを口に含み『おいひー』と葵は声を漏らす。
「それで今日は何か御用ですか?」
「実は羽沢君にお願いしたい事があってね?」
「お願い?」
「実は私、もうすぐ結婚するんだ♪」
氷瀧は表情強張らせる。
しかし一瞬で気持ちを整理し、自分の想いの全てを心の奥底に仕舞い込んだ。
「おめでとうございます♪それで俺は何をすればいいんですか?」
「羽沢君にはウェディングケーキを作って欲しくてね?自慢の教え子が作ったケーキで式を彩るって素敵じゃない?勿論、料金は払うよ?」
「………………少しだけ考える時間をいただけないですか?」
氷瀧は自分でも信じられないくらいケーキ作りを躊躇した。
本来であればウェディングケーキなど中々チャレンジできる物ではない。
いつもの氷瀧なら迷わず承諾するところであるだろう。
しかし今の氷瀧は素直に結婚を祝えない。
そんなやつが人生の門出となるウェディングケーキを作るべきではない。
しかし氷瀧にとって葵は特別な人でその人からのお願いを無下にはできないという想いもある。
そのため氷瀧は作る為の理由と作らない為の言い訳を考える時間を要求した。
勿論その事は氷瀧本人にしか分からない。
「分かった。いい返事を期待してるね?」
葵はあの頃と変わらない優しい笑みを浮かべると氷瀧と連絡先を交換して帰路に着いた。
羽沢珈琲の閉店後、氷瀧は自信の部屋に籠りベットに横たわって真っ白な天井を眺めながら気持ちの整理に努めていた。
「お兄ちゃんいるー?入ってもいーい?」
つぐみが部屋のドアをノックし入室の可否の確認をしてくる。
「構わないよ」
氷瀧の了承を得てからつぐみは部屋に入った。
「お母さんがご飯食べよーって」
「…………もうそんな時間か……。晩御飯の手伝いも忘れてしまってスマナイな。…………ってつぐみ?」
氷瀧が体を起こすとベッドの縁につぐみが腰かけていた。
「お兄ちゃん大丈夫?無理してない?」
「…………大丈夫だよ。元気元気♪」
「…………お兄ちゃん何かあったの?私に何か隠し事してない?」
氷瀧はハッとしたまさかつぐみがそんな事を言うとは思ってもみなかったからだ。
「…………大丈夫だよ。ありがとう、つぐみは優しいな」
氷瀧はつぐみに優しく微笑むと頭を撫でてからつぐみを連れて食卓へ向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「千聖ちゃーん!!」
翌日、学校に登校してきた千聖のもとに花音が駆け寄ってきた。
「ど、どうしたの花音!?」
「ち、千聖ちゃん!ちょ、ちょっと付き合って!!」
「へ?」
花音は千聖の腕を掴むと一気に階段を駆け上がり、屋上へ連れて行った。
「か、花音?一体どうしたの?」
「ち、千聖ちゃんの元気が無いって彩ちゃんから聞いたよ?と、とりあえず揚げパン買ってきたから一緒に食べない?シナモンときなこどっちがいい?」
「とりあえず一旦落ち着きましょう?私はシナモンをいただくわね?」
千聖は揚げパンを受けとると空いてるスペースに腰掛けた。
「それで?千聖ちゃんに何があったの?」
「それがね…………」
千聖は彩に話した内容と全く同じ事を花音にも話した。
昨日彩に話して気持ちの整理がついたこともあり、千聖は自分の事を客観的に話すことができた。
「苦しかったよね……。でもそのままでいいの?」
「その……ま……ま……?」
「私が知ってる白鷺千聖ちゃんはね?努力家でどんな困難にもぶつかって行けるとても格好いい人だよ?確かに気持ちを確かめるのは怖い事だよ?でもね、今のままじゃきっといい方向には変わらないと思うんだ。……私もね一度はドラムから逃げようとしたよ?でもこころちゃんが私を引っ張ってくれて……ドラムから逃げなかったから、特別な景色を見ることが出来たんだと思うんだ」
「花音……」
「ご、ゴメンね!?ドラムと氷瀧さんじゃ、全く違うよね!?なんだか説教みたいになっちゃって……本当にゴメンね!?」
「いいえ……ありがとう花音……。忘れていたわ、私にはいつもあなたがそばにいてくれたことを。あなたの様な人を優しいと言うのね」
「大袈裟だよ……」
花音は照れながら軽く頬をかいた。
「フフフ♪それじゃ、今日の帰りにでも羽沢珈琲店に行きましょうか?」
「ふぇぇ~!?い、いきなり過ぎないかな!?」
「あら?あなたの知ってる白鷺千聖はどんな困難にもぶつかって行ける人なんでしょ?さぁ、授業始まるわよ?」
千聖の不敵な笑みを残し屋上を後にする。
そんな千聖の仕草に少し安心した花音はそれに続いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
授業を終え、花音と合流してから千聖は羽沢珈琲店を訪れた。
今は店内に繋がる入口の取手を掴み、中々扉を開ける事ができずにいた。
そんな千聖の手に花音の暖かい手のひらが重なる。
「大丈夫…………私もいるよ……」
千聖は花音に頷いてから扉を開いた。
店内を見渡して見ると客は誰一人としておらず、イヴが慌ただしくしていた。
良く見ると扉の立て札には"準備中"と書かれていた。
「お邪魔しま……す」
「千聖さん!花音さん!いいところに!泣き面に蜂とはこの事です!」
「イヴちゃん使い方が違うと思うわよ?それで何かあったの?」
千聖と花音がつぐみに視線を移すとつぐみが大粒の涙を流していた。
「つ、つぐみちゃん!?だ、大丈夫!?」
「どうしよう……」
「何かあったの?」
「………………このままじゃまた、お兄ちゃんがいなくなっちゃう……」
「「「!!!」」」
つぐみの涙の理由を知った3人は事の詳細をつぐみから聞くことにした。
「氷瀧さんに何かあったの?」
「今朝から部屋にいなくて、スマホも持って出掛けてないんです……。だから連絡も着かなくて」
「氷瀧さんってスマホはいつも身につけておくタイプなの?」
「いえ、割りと忘れてる事が多いです」
「だ、だったらつぐみちゃんの考え過ぎじゃないかな?」
「そうです!悪い方に考え過ぎても良くないです!きっといつもの様に『ただいまつぐみ、今日も可愛いな』と言いながら帰ってくると思います!」
「お、お兄ちゃんはそんな事言わないと思うけど……」
(((愛されてる自覚無いんだ……)))
「それにね?」
つぐみは何かを悟った様に語り始めた。
「お兄ちゃんって基本的に何かに悩む事は無いんです。悩むくらいなら飛び込んだ方が上手く行くと思っているので……。そんなお兄ちゃんが悩んでいる所を初めて見たのは私が小学生の時で、悩み事があるとベッドに横になって天井を眺めながら心を整えるんです。その癖に気づいた2日後にお兄ちゃんはフランスに旅立ちました」
「それで?その癖を最近見たのはいつなの?」
「昨日です」
「「昨日!?」」
「お二人は何か心当たりがあるんですか!?」
「あるなら教えてください!お願いします!!」
心当たりはある。
むしろ心当たりしかない。
千聖の脳裏に氷瀧の特別な表情が過る。
昨日はあんなに嬉しそうにしていたのに、たった1日でそこまで感情が揺らぐ出来事があったのだろうか?
千聖は脳内で何度も自問自答を繰り返す。
その中で千聖の中で氷瀧のある言葉が湧き出て来た。
『ここから見る夕陽は格別でね。嫌な事があるとここに来るんだ』
「あそこだ……」
千聖の口から言の葉が滑り落ちたと同時に千聖は店を飛び出し駆け出していた。
理性ではなく本能が彼女の足を動かした。
後ろで誰かが呼び止める声が聞こえたが、今の彼女にとってそれはただの音でしかない。
今はただ彼のもとへ。
突き破れそうになる心臓の鼓動を無視してただひたすらに走る。
あの場所に。
「千聖ちゃん……行っちゃったね……。あれ?雨が?」
千聖は走る。
彼のもとへ。
降り頻る雨など今の彼女には関係ない。
髪も顔も制服も全てがびしょ濡れだ。
それでも今はただ彼のもとへ。
「いた……」
千聖の予想通り、街が一望できる小高い丘に氷瀧はいた。
降り頻る雨の中、ただただ雨色に染まる街を眺めていた。
その瞳が本当に街の景色を見据えているのかは定かではない。
「何を……しているんですか……?」
「………………………………何をしているんだろうね」
氷瀧は千聖に視線を向けず、ただ街を眺め続ける。
「何かあったんですか?」
「…………何も無いよ」
「…………だったら帰りませんか?」
「そうだな。すぐに帰るから先に帰っていてくれないか?」
「…………ダメです」
千聖は氷瀧の隣に座り、氷瀧の瞳を見つめた。
氷瀧は千聖の瞳を見つめる。
やっと氷瀧と千聖の視線が交わった。
氷瀧の瞳は赤くなっていた。
「傘を差していないじゃないか。風邪ひくぞ」
「あなたには言われたくありません」
千聖は氷瀧の手を握った。
驚きのあまり咄嗟に手を離した氷瀧の手を再度優しく千聖は握りしめる。
「こっちへ」
千聖と氷瀧は雨が凌げる小さなスペースへ移動した。
千聖は持っていたハンカチで氷瀧の頬を拭う。
「何故一人で雨に降られていたんですか?」
「大したことじゃないさ。少しボーっとしていただけだよ」
「嘘……」
千聖は再び氷瀧の頬を拭った。
「ボーっとしていただけなら、何故私は何度も頬を拭っているんですか?」
「これは雨だよ」
氷瀧は千聖に優しく微笑む。
また氷瀧の瞳から頬に向けて雨が流れた。
「私、約束してるんです」
「約束?」
「『千聖の目の前で誰かが涙を流して悲しんでいるときは必ず手を差し伸べてやってくれないか?』貴方の言葉です」
「………………アハ、……アハハ!」
氷瀧は困ったように笑った。
「まさか、その約束を自分の為に使うことになるとはね」
氷瀧は観念したように真相を語り始めた。
「昨日、千聖がお店にいる時間帯に俺を訪ねて来た女性を覚えているか?」
「はい、覚えています」
忘れるはずがない。
昨日のあの悲しみと涙と理由となった恋敵だ。
忘れたくても忘れられる訳が無かった。
「彼女は村上葵さんと言ってね?俺が中学生の時に教育実習生として俺のいた学校に来ていた先生でね?………………もうすぐ結婚するんだってさ……」
千聖は自信の誤解が解けた喜びが生まれたと同時に憂いの表情を浮かべた氷瀧を見つめ、罪悪感が同時に生まれて来た。
「…………好き………だったんですか?」
千聖にとって核心を突く質問であったが、自分には味方がいてくれるという勇気が千聖を前へ後押しした。
「…………最初は憧れだったんだと思う。でも今は間違いなく好きになってる」
その言葉が私に向けられた物だったらどれだけ嬉しい事だろう。
千聖の想いとは裏腹に氷瀧の想いは葵へ向かっている。
「だから涙を流していたんですか?」
「…………俺の世界一のパティシエになりたいって夢は彼女の応援に背中を押されたからそうなりたいと勘違いしているんじゃないだろうかと思ってさ。そしたら、俺ってなんだ?俺の努力って結局その程度の物なのか?と思ってしまって」
再び氷瀧の頬を雨が伝う。
「俺のやってきた事は全て夢の為と言いながら彼女に振り向いて貰う為で、実は全て嘘だったんじゃないかと思ってさ……」
「…………嘘ですか?」
千聖は再び氷瀧の頬をハンカチで拭う。
「私がいつも氷瀧さんのケーキを食べて心が満たされるのも嘘ですか?」
「花音が美味しい紅茶とケーキを食べて笑顔になるのも嘘ですか?」
「紗夜ちゃんが氷瀧さんから教わったお菓子で日菜ちゃんと過ごす笑顔の時間も、つぐみちゃんが大好きなお兄さんと過ごす日々も、貴方が作った誕生日ケーキを囲んで笑顔になる家族の笑顔も全て嘘ですか?」
「……………………」
「確かにキッカケは彼女だったかもしれない……。でも貴方が作った笑顔と思い出は嘘なんかじゃない。だったらそれは全て本当じゃないかしら?」
再び千聖が氷瀧の手を握った。
そして空いている手で氷瀧の視界を遮った。
「ち、千聖!?」
「付いて来て?」
耳元で優しく囁くと千聖は氷瀧の手を引き、先ほどまで立っていた位置へ氷瀧を誘導した。
「見て?」
千聖が手を退けると氷瀧は眩しさで顔をしかめた。
徐々に視界が冴えていく。
その瞳には太陽の様に微笑む千聖と雨が止み、宝石の様に煌めく夕陽と虹が架かっていた。
「晴れたわね♪」
その神々しい光景は氷瀧の中に鮮烈な衝撃を与えた。
「貴方はどうしたいの?」
千聖は『もう答えは出ているのでしょう?』と言わんばかりに悟り、慈しむような表情で氷瀧に答えを催促した。
「………………千聖」
「はい……」
「俺にはやらなければならない事ができた……」
「うん……」
「今更想いを伝えても相手にとって迷惑だけかもしれない。かえって傷つけてしまうかもしれない……」
「そうね……」
「だけどこのままじゃ俺は前に進めない。傷つき傷つける覚悟ができた……。だから俺は俺のやるべき事をやる」
「大丈夫よ……貴方なら……」
氷瀧は帰路に体を向ける。
その視線にも心にも千聖は写っていない。
「ありがとう……このお礼は必ず」
氷瀧は帰路を走り出した。
もう自分のやるべき事・やりたい事・その為に必要な事、全てが明確となっていた。
千聖は無言で氷瀧を送り出してから、頬に一滴の雨を伝わせた。
「行っちゃった……何してるのかしら……私…………」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「つぐみ!母さん!」
その掛け声と同時につぐみが氷瀧の胸に飛び込む。
氷瀧はつぐみが飛び込んでくる可能性を考慮していたので、今回は転けずに済んだ。
「………………ただいま」
「…………心配した」
「うん…………」
「心配した!!」
「…………ゴメン」
「…………今日は許さない……」
「今日"は"ね……」
氷瀧は少し困ったように微笑むと自分の胸の中の可愛い妹の頭を撫でた。
「それで?何か言いたい事があるんでしょ?」
しばらくしてから母が氷瀧に質問を投げ掛けた。
「休みが欲しい」
「お兄ちゃんが休みが欲しいなんて珍しいね?」
「どういう風の吹き回し?」
「俺の特別な人からウェディングケーキの依頼を受けた。しばらくはそのウェディングケーキ製作に全神経を集中したい。…………このウェディングケーキと向き合う事で、俺は人として……1人のパティシエとして成長できると思うんだ!…………ワガママ言ってるのは分かってる。迷惑なのも分かってる。だけど許して欲しい…………」
「迷惑じゃないよ?」
つぐみは氷瀧の目を見てハッキリと否定した。
「お兄ちゃんがフランスから帰って来てくれた日にお兄ちゃんは言ったよね?『俺がつぐみのやりたい事を応援したいんだ。この気持ちがつぐみが俺の夢を応援したいという気持ちとどう違う?』って。私の気持ちもあの頃からずっと変わってないよ。ずっとお兄ちゃんを応援したいと思ってる。……だからお兄ちゃんがやるべき事を頑張るなら、私もやるべき事を頑張るね!!」
「…………つぐみ」
「つぐみの言う通りよ。私達は家族なんだから、たまには家族に甘えなさい?」
「ありがとう……母さん」
氷瀧は涙を流しながら感謝を告げた。
「話は聞かせて貰った!!」
厨房の奥から父が颯爽と現れた。
「好きなだけ休むがいい。氷瀧がいない間の店は父さんが何とかしよう!」
流し目とグッドポーズで決めた父親に三人は言葉を失った。
「………………ありがとう父さん」
「いつもみたいに悪態づけよ!?」
「「アハハハハ!!!」」
羽沢珈琲店にいつも通りの雰囲気が帰って来た。
もう氷瀧に迷いは無かった。
「もしもし、羽沢です。今お時間大丈夫ですか?」
氷瀧はウェディングケーキ製作を承諾するための電話を葵に掛けていた。
『羽沢君?折り返しありがとう!ウェディングケーキの件決まったかな?』
「はい、承諾致します」
『ありがとう!とても嬉しいよ!』
「最高のウェディングケーキを用意します」
『ありがとね♪そうだ?ウェディングケーキの代金はどうすればいいかな?』
「最低限掛かった材料費だけでいいです」
『材料費だけ!?そんなの悪いよ!だってプロのパティシエさんに頼むんだから、それなりの料金は払わないと』
「…………その代わりにお願いがあるんです」
『お願い?』
「結婚式の前夜からケーキ作りに取り掛かります。当日の朝に数分でいいんです。二人きりで話をさせてくれませんか?…………材料費の請求書はその時にお渡しします」
『…………分かった。それじゃあ、結婚式当日は少しだけ早く式場に行くね?』
「はい、よろしくお願いします。それでは当日に……。失礼します」
氷瀧は電話を切った。
「さてと、まずは食材の調達と例の物の準備だな……」
氷瀧は押し入れから中学校の卒業アルバムを取り出すと更に寝泊まり用の荷造りを始めた。
いかがでしょうか?
ホントは1話に纏めようと思っていたんですが、思いの外文字数が増えてしまったので2話構成にさせていただきます。
連載当初から書こうと思っていたストーリーなので力が入りました(笑)
では前編はこの辺で失礼します。
後編をお楽しみに!!
評価・ご感想・お気に入り登録ドシドシお待ちしております。
特に感想が最近少なくて寂しいです(笑)
執筆の励みになりますので小さな感想でもとても嬉しいです(^^)
あ、心優しい感想待ってますね(笑)
それではまた次回!ほなっ!(^^)ノシ