前回のウェディングケーキ編が思っていたより反響が良くとても嬉しいです。
その勢いもあって、お気に入りが1500を突破しました!
とてもありがたく光栄なことです。
これからも皆さんに楽しんで貰える小説を書けるように日々努力していきます!!
では、本編です!!
「おーい、おにーちゃーん!朝だよー!」
ウェディングケーキ製作の翌日、朝寝坊をしていた氷瀧を起こす為につぐみは氷瀧の部屋へと向かっていた。
「いつまでも寝てたらダメだよー!みんなで朝御飯食べようー……って…………なんだろ?」
部屋の前に着いたつぐみは扉に貼られている見慣れぬ貼り紙の内容に目を通した。
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つぐみ入室禁止。
当面の間何もしませんので、放置しておいてください。
食事はお盆に載せて扉の前に置いておいてください。
理由は秘密です。
体調を壊している訳ではないので心配しないでください。
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「お兄ちゃん!?どうしたの?」
部屋の扉をノックするが中からは返事が無く、扉にも鍵が掛かっていた。
「お母さん!お兄ちゃんが部屋から出てこない!」
「何ですって!?」
氷瀧の部屋の前に家族が集まる。
「よし、父さんに任せろ。…………氷瀧め、父さんが作った『御飯はみんなで食べること』という鉄の掟を破るとはいい度胸だな?」
しかし中からは返事が無い。
「おーし、お前がその気ならこっちにも考えがある!……つぐみ、部屋を少し借りるぞ?」
「う、うん……」
父は濡らしたタオルを持参するとつぐみの部屋の窓から屋根に降りた。
「氷瀧はあまりクーラーを使わないから、おそらく窓は開いているだろう…………ビンゴだ。…………とうっ!!」
窓を開け父が部屋に進入する。
気分は最早怪盗である。
「優れた芸術と泥棒は似ている。どちらも人の心を盗む術を知っているからだ。……って氷瀧!?」
ベッドの上で寝ている氷瀧は顔を真っ赤にし、息苦しそうにしている。
これだけ騒いでいるのに氷瀧の意識は戻っていない。
足を拭いた父は素早く扉を開けると母を部屋に招き入れた。
「か、か、か、か、母さん!氷瀧が大変だ!!」
「お、お、お、お、お兄ちゃん!!大丈夫!?しっかりして!!」
「二人とも!!」
母の一喝で二人は冷静を取り戻す。
「お父さんは往診のお医者様に電話して予約をとって。つぐみはタオルと氷水を用意して。それから氷瀧の病気が移ったらいけないから私達はマスクを着けましょう」
「慌ててゴメンね。お母さん……」
涙目になっているつぐみを母が優しく慰める。
「誰だって慌てる事はあるわ。ただ私達はお医者様じゃないんだから、できることは少ないし、落ち着いて行動するのが大切なの。だからタオルとマスクをお願いね?」
「うん!任せて!」
つぐみは自分の心を整えてから、タオルとマスクを取りに向かった。
「39.0℃。インフルエンザの検査は陰性だったので、おそらく風邪でしょう……」
しばらく経ってから到着した医師の診察を受け、そこまで重病では無い事が判明し、つぐみと両親はひとまず胸を撫で下ろすした。
「とても疲れが溜まっているようなので、熱が引いても数日間は療養させた方がいいですね。頑張り過ぎです。……では風邪の症状を抑える薬を出しておきますね。あとは、御飯は無理して食べさせなくてもいいですが、水分だけは目を覚ました都度飲ませてください」
「はい、ありがとうございました」
帰路に着く医師を送り出してから、母は時計を確認するとかなり時間が経過している事に気がついた。
「もうこんな時間!?大変!!今日はお店は休みにして、お父さんはつぐみを車で送って行って?」
「私も今日は休むよ!!」
「ダメよ!…………つぐみが学校を休んだりしたら、氷瀧の熱が上がっちゃうでしょ?学校が終わるまではお母さん達に任せて?帰ってきたら看病をお願いできる?」
さすがは十数年つぐみの母親を努めているだけあって、娘の納得のさせ方を心得ている。
「ほらっ!急いで!つぐみが遅刻したら氷瀧も悲しむわよ?」
「うん……分かった……」
父はつぐみを車に乗せると急いで学校へ向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「…………ぐ…………つ……、つぐみ!!」
「へ?」
昼休み、お弁当を食べるために集まっていた蘭の声で自身がボーッとしていた事に気づかされた。
「どうしたの?ボーッとして?」
「今日のつぐ変だぞ?英語の授業中に国語の教科書開いてるわ、体育の授業のバドミントンも全くラケットに当たって無かったし」
「クラスのみんな心配してたよ?」
「ゴメンゴメン。大丈夫だよ?」
「今日はいつものひーくん特製の愛妻弁当じゃないし、もしかしてひーくんに何かあった?」
「…………お兄ちゃん風邪ひいちゃって。熱も39℃以上あるのに私、慌てるばかりで何もできなくて……ホント情けない…………って蘭ちゃん?」
蘭がつぐみの頬を口角を上げるように指先でつつく。
「氷瀧君の特効薬はつぐみの笑顔なんだから、つぐみが元気ないと氷瀧君心配で風邪どころじゃなくなるよ?」
「そーそー。つぐがニコーってしてるのが一番ひーくんの元気の源だからねー。目が覚めたら『今日はつぐみにお弁当作れなかった!』って騒ぎだすだろーしねー」
「フフ……確かに言えてる。みんな心配掛けてゴメンね?」
「つぐ?そこはゴメンじゃなくてありがとうでしょ?」
「うん!みんなありがとう!」
暗かったつぐみに笑顔が戻り、幼なじみ達にも笑顔が生まれる。
「そうだ!みんなで氷瀧君のお見舞いに行かないか?」
「賛成!!お見舞いの品をみんなで持参してつぐの家に集合って事で!!」
「「意義無し!!」」
こうして幼なじみ達のお見舞い大作戦が決行されるのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
学校の授業が終わり、大急ぎで帰路に着いたつぐみは飛び込むように氷瀧の部屋にやってきた。
「お兄ちゃん大丈夫!?」
「しー」
部屋にいた母が指先を口元に立て、つぐみに静かにするように促した。
つぐみは慌てて自身の口を手で覆った。
「まだ熱は高いけど呼吸は落ち着いたから大丈夫よ。さっきまで起きてたんだけど、飲み物と薬を飲んで寝ちゃった。『みんなに申し訳ない』って言ってたわよ?」
つぐみがピョコっと母に隠れる兄の顔を覗くと、今朝に比べてだいぶ顔色が良くなり、呼吸も整っていた。
つぐみは少し安心してベッドの横に腰かけた。
「さて、お母さんは晩御飯の買い物と準備に行くからあとは任せたわね?」
「うん、任せて」
「もし氷瀧が起きたら何か食べたい物は無いか聞いておいて?」
「あ、そうだ。蘭ちゃん達がお見舞いに来るって」
「そう。氷瀧も喜ぶわ。マスクだけはちゃんと着けてね?それじゃ、母さん行ってくるわね」
「うん、行ってらっしゃい」
母を見送ってからつぐみは氷瀧のタオルを再び濡らしてオデコに置いた。
「そういえば昔、私が風邪をひいたらいつもお兄ちゃんがこうしてくれたな……」
つぐみは何か無いか探していると来客を知らせるインターホンが鳴った。
「はーい♪」
「やっほー」
「オッス!」
「モカちゃん、巴ちゃんいらっしゃい♪一緒に買い物してきたの?」
「いやぁ、ともちんとそこで合流してねー」
「巴ちゃんは凄い荷物だね?」
「いやぁ、氷瀧君のお見舞い品を買ってたら色々聞かれてさ?氷瀧君が風邪だって伝えたら色々貰っちゃって」
「あはは、お兄ちゃんは商店街の人気者だからね。とりあえずマスクを着けて部屋に上がって?」
「おぉ、流石つぐ。準備がいいですなー」
氷瀧の部屋に上がるとモカと巴は空いてるスペースに腰かけた。
「蘭が一番に来てると思ったんだけどなー」
「そういや、モカは何を買ってきたんだ?」
「モカちゃんは山吹ベーカリーでパンを買ってきたよー」
「それ自分用だろ?」
「えへへ~♪」
「モカちゃんらしいね」
「アタシからは風邪に効きそうな果物を……。それと商店街のみんなからは八百屋さんから高級ゼリーセット、うどん屋さんからはうどんのセット、お米屋さんからはお粥用のお米、魚屋さんから治った時に食べてくれと冷凍の干物を貰ったぞ」
「あとは沙綾ママからカップケーキ貰ったよー」
「す、凄い量だね……」
「これもひとえに氷瀧君の人望だな」
「お邪魔しまーす♪」
「お邪魔します」
いいタイミングでひまりと蘭がつぐみの部屋に入ってきた。
「ひまりちゃん、蘭ちゃん、いらっしゃい♪」
「インターホン鳴らしたか?」
「店先でおじさんと会ったからそのまま入れて貰った」
「凄い数だね……」
テーブルに置いてあるお見舞いの品々に蘭とひまりは驚いた。
すでにモカの口にはパンケーキが咥えられている。
「私はお部屋のアロマを持ってきたよ?」
「私はガーベラをメインとしたフラワーアレンジメントを」
「二人とも女子力たかーい」
「モカは氷瀧君のお見舞い品を食べないの!」
「これだけあったら悪くなっちゃうしねー」
「そうだ!みんなお守り持ってきた?」
「うん」
「あぁ」
「もちー」
「じゃあ、お守りを氷瀧君の傍に置こう?」
氷瀧の傍にクマ?の様なひまり特製のお守りが置かれる。
「ふふ、お兄ちゃん何か可愛いね」
「ホントだ」
「ひーくんモカってる。はい、チーズ」
カシャッ
「あっ!モカだけズルい!私も撮る!」
いつもとは違うぬいぐるみが囲う可愛らしい氷瀧をモカを筆頭に全員が写メに残した。
「そーだー。みんなでひーくんにお粥でも作って上げない?」
「グッドアイディア!」
「私は蘭ちゃんのアレンジメントを花瓶に移して来るね?」
「10円入れるといいらしいぞ?」
「それじゃあ、蘭お留守番よろしくー」
「え?私、何をしたらいいか良く分からない」
「モカちゃんがRINEでリンク送っといたからー」
モカは手をヒラヒラさせると部屋から出ていった。
蘭と氷瀧だけが部屋に残る。
「えっと…………とりあえずタオルを濡らしてっと」
蘭の太ももの上に置いていたスマホが落ちた。
「・・・・・」
蘭は周囲を見渡してからスマホをつま先で軽く蹴ってベッドの下に滑らせた。
「あぁ、スマホがベッドの下に転がってしまった。良く見えないから屈んで拾おう」
自身を言い聞かせるように独り言を呟いてからベッドの下に視線を送る。
ベッドの下をくまなく探したが、スマホ以外は何も無かった。
「何も無いか……」
蘭は少し顔を赤らめてから自身の体を起こした。
「そういえば何をしたらいいかリンクを送ったって言ってたよね」
蘭はRINEを起動させるとモカとのトークからリンクをクリックしてページを開いた。
"弱った彼の落とし方。彼との距離を縮めよう。これで彼の身体は私の物"
「モカー!!!」
蘭の悲痛の叫びが部屋に響き渡った。
「ん…………蘭?」
「氷瀧君!?大丈夫?」
「……あぁ、お見舞いに来てくれたのか?ありがとう……」
氷瀧は身体を起こそうとするが上手く行かない。
「蘭、少し引っ張ってくれないか?」
「うん、分かった」
蘭は氷瀧の手を取ると軽く引っ張るがバランスを崩してベッドの上に倒れ込んだ。
蘭が氷瀧に覆い被さる形になる。
お互いの呼吸が重なるくらいに顔と顔が近い。
「蘭?」
氷瀧は寝起きと高熱が重なり思考回路が上手く機能していない。
その為、気持ちも高揚している。
一方の蘭は一時的な動揺で感情が上手くコントロールできていない。
"弱った彼の落とし方。彼との距離を縮めよう。これで彼の身体は私の物"
このフレーズが蘭の脳内を駆け巡った。
そんな蘭が取った次の一手はマスクを下に降ろす事だった。
「ねぇ……風邪って誰かに移すと治るって本当なのかな?」
少しずつ蘭の顔が氷瀧の顔へと近づく。
"ドックン!"
"ドックン!"
"ドックン!"
"ドックン!"
唇と唇が重なりそうになる。
その刹那、蘭は扉に視線を奪われた。
そこには両手で目を覆いその隙間から成り行きを観察しているひまり。
ニヤニヤしながら見つめているモカ。
顔を真っ赤にしながらつぐみの視線を両手で遮る巴。
何も見えず混乱しているつぐみだった。
「うぉーーーー!!」
パァン!!
蘭のビンタが氷瀧に炸裂。
室内に渇いた音が響き渡った。
「なん…………で……だ…………」
電源を強制シャットダウンするように氷瀧は意識を手放した。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
「蘭ってばー、だ・い・た・ん♪」
「っ!!…………わ、私帰るね!!」
「オイ、蘭!!」
蘭は顔を真っ赤にして部屋を飛び出して行った。
「モカー!蘭を煽っちゃダメでしょ!!」
「えへへ~♪」
「何だったんだろう?」
一人成り行きを知らないつぐみは首を傾げた。
後日談ではあるが、幸い蘭のビンタの威力が凄まじかった為、氷瀧は今回の顛末を覚えていないのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
数日後、風邪は治ったが自宅療養中の氷瀧のピンチヒッターとしてつぐみとイヴが店を回していた。
そんな羽沢珈琲に千聖と花音が訪れていた。
「今日は氷瀧さんいないんだね?」
「歴戦の傷を癒しています!」
「歴戦の傷?」
「オーバーワークをお医者さんに注意されたらしく、自宅療養中です!」
「なるほどね」
「確かに最近の氷瀧さん、頑張り過ぎていたものね?」
「それだけじゃありません!」
珍しく語尾を強めて怒っている素振りを見せるつぐみに3人は少し驚いた。
「雨でびしょ濡れで帰って来るし、ウェディングケーキ作りが終わった後は公園で寝てたって言うんですよ?……自己管理ができてません!!」
「………………」
どちらの現場にも居合わせた千聖はつぐみへの申し訳なさで言葉を失った。
「それで?氷瀧さんはお部屋にいるの?」
「はい、退屈して本でも読んでるんじゃないかと」
「だ、だったらお見舞いしてもいいかな?」
「きっとお兄ちゃんも喜ぶと思います♪」
「ちょっと花音?」
「案内してくれる?」
「はい、こっちです♪」
すかさず花音はスマホを取り出す。
「アァ、今日ハバイトノ日ダッター。彩チャンが困ッテルダロウカラ私ハ行クネー」
「花音さん?」
「千聖ちゃん♪私の分までお見舞いヨロシクね♪」
花音は荷物を纏めると満面の笑みを残して消えた。
お見舞いの流れを作り千聖の退路も断つ戦略家の花音の姿がそこにはあった。
「・・・・・」
「千聖さん、お兄ちゃんの部屋はこっちです」
「え、えぇ……」
つぐみに案内されて部屋に入ると氷瀧はイスに腰掛け、スケッチブックに何かを書いていた。
「お兄ちゃん、千聖さんがお見舞いに来てくれたよ」
「おぅ、ありがとう」
「私はお店に戻るね?」
「頑張れよ!」
「お兄ちゃんはしっかり休むようにね」
「おう、分かってるよ」
つぐみは氷瀧にしっかり釘を刺すと部屋を後にした。
千聖は千聖で初めて入る男性の部屋に緊張しながらもキョロキョロと周囲を見渡していた。
「お見舞いに来てくれてありがとな」
「いえ、お店に来たら氷瀧さんは療養中だと伺ったので」
「それでも誰かが来てくれるというのは嬉しい事さ」
千聖がスケッチブックに目を向けるとそこには美しいケーキのデザインが何枚も描かれていた。
「絵を描くの得意なんですか?」
「これでも中学の時は美術部だったんだぜ?」
「美術部?調理部か家庭科部だと思ってました」
「そっちはお菓子作り以外もやるだろ?俺にはいらないんだよ。それに料理も基本的な事しかやらないし。教師のレベルも低いからね」
「子供の頃から氷瀧さんは氷瀧さんだったんですね」
「それ褒めてるか?」
「褒めてます……フフッ。…………でも何故美術部なんですか?帰宅部でも良かったと思うのですが」
「いいところに気がつくな。ケーキってさ、ちょっと他の料理とは違うんだ」
「他の料理と?」
「例えばラーメンとかだと多少ごちゃごちゃしてても気にしないし、食べてたら混ざっていくだろ?でもケーキっていかに形を崩さないようにして食べないか?」
「言われたらそうですね?」
「つまり、ケーキには他の食べ物と違って求められる造形美が多いんだ。だから、ケーキのデザインを多様化するために美術部に入ったのさ」
「な、なるほど」
「そうだ!」
「???」
余っているスケッチブックとペンが千聖に渡される。
「千聖も何か書いてくれよ?」
「嫌です」
「何でもいいからさ」
「嫌です」
「どうしてry……」
「嫌です」
うーんと氷瀧は頭を悩ませる。
そして何かを思い付いたようで左手の上に右手の拳を乗せた。
「じゃあ、千聖が俺に何でも一つお願いを聞いてやるってのはどうだ?」
「何でも?」
「うん、何でも♪」
千聖にとっては苦渋の選択ではあったが、あまりにも魅力的な条件に千聖は渋々氷瀧からの提案を受け入れ、ペンを握った。
「こ……これは?百鬼夜行の何かか?」
「…………ウチの愛犬のレオンです」
「犬種は?」
「…………ゴールデンレトリバーです」
「ふ、ふふ…………アハハハ!!」
氷瀧は腹を抱えて笑いだす。
可笑しすぎて瞳には薄ら涙が浮かんでいる。
「だから書きたく無かったんです!」
「でも……ハハハ……下手に……ハハハ、程が……アハハハ!!ゲホッ!ゲホッ!」
「笑い過ぎです!!」
氷瀧の爆笑が治まるのに数分を要した。
「氷瀧さんは何を描いていたんですか?」
「ん?タイトルは『あーでもない、こーでもない千聖』だ」
スケッチブックには絵を描くことに悪戦苦闘している千聖が綺麗に描かれていた。
「う、上手いです……」
「まぁ元美術部だしねー。これくらいは…………。なぁ千聖」
「はい?」
「もう一つお願い」
「何ですか?」
「余白に『氷瀧さんへ』って書いてくれない?」
「書いてどうするんですか?」
「部屋に飾りたいから」
「絶対に嫌です」
「そこをなんry……」
「嫌です」
頑なに断る千聖であったがふと交換条件を思いつき、氷瀧に提案した。
「私のお願いを3つ聞いてくれるならいいですよ?」
「ポ◯ンガかよ」
「ポ◯ンガ?」
「いや、こっちの話。…………まぁ女優に書いてもらうわけだからな。それくらいしないと等価交換にはならないだろう。いいぞ!」
「大げさですよ」
千聖は『氷瀧さんへ Shirasagi Chisato』と四葉のクローバーをモチーフにしたサインを書いた。
「うぉ!可愛いサインだな!」
"可愛い"という単語に思わず千聖は顔を赤らめた。
「貰ってもいいのか?」
「その為に書いたので……」
ヨッシャー!!と氷瀧は歓喜の雄叫びを上げた。
「それじゃ、代わりのお願いは?」
「一つ目は……氷瀧さんが書いた私のイラストに氷瀧さんのサインを書いて私にください」
「サインか……」
氷瀧は何かを悩むように困っている。
「ダメですか?」
「いや、ダメじゃないけど……。俺ってサインとか考えた事無いから。でも確かに俺の夢を叶えたらサインとか書かないといけなくなるかもしれないしな……」
氷瀧は白紙に色々なサインの試し書きを始める。
「氷瀧さんの"夢"ってなんですか?」
氷瀧の筆が止まる。
珍しく恥ずかしいようで氷瀧は答えるかどうか悩んでいる。
そこに千聖からのお願いが発動する。
「二つ目のお願いです。その"夢"を教えてください」
「ぐっ……」
こう言うと氷瀧は断れない氷瀧は困ったように千聖の目を見た。
「笑わない?」
「笑いません」
「…………日本一有名なパティシエになって……」
「なって?」
「日本でサミットが開かれたら、日本代表のパティシエとして各国の首相をおもてなしすんの……身丈に合ってない夢だろ?」
「いえ、氷瀧さんらしくて素敵だと思います」
千聖は全く笑わなかった。
真っ直ぐで氷瀧らしいいい夢だった。
女優として成功するという目標はあっても具体的な"夢"が無い千聖にとって今の氷瀧が眩しかった。
「さて……こんなもんかな?」
●Hazawa Hitaki◯
氷瀧は千聖のサインを真似てシンプルなサインを書いた。
両端の◯はマカロンをイメージしている。
「千聖の真似しちゃった。シンプルでいいなと思ったから」
「じゃあ、これ貰いますね?」
「折れたらあれだし。そのスケッチブックごとあげるよ。何枚か使ってるけど、いらなかったら破いて捨てて?」
「捨てません♪」
千聖の満面の笑みに氷瀧は少しだけ照れ臭くなって頬を書いた。
「それじゃあ、最後のお願いは?」
「最後は…………」
千聖が少し考えてから、氷瀧に提案する。
「今度の日曜日……」
「うん」
「Pastel✽Palettesの新曲のCDお渡し回があるんです」
「お渡し回?」
「はい、チケットを持っている方限定で最初にミニライブとトークショーをしてその後に希望するメンバーの列に並んでチケットとCDを交換してメンバーが手渡すというイベントなのですが……」
「うん」
「そのイベントに来てください」
「俺なんかが行っていいのか?」
「はい、一度氷瀧さんにはパスパレの私を見て欲しいので」
「チケットはどこで買えばいいの?」
「私専用の知人招待券があるのでそれを後日お渡しします。基本的に母と妹くらいしか渡しませんのでいつも余っちゃって」
「じゃあ、楽しみにしてるな♪」
「はい、精一杯お・も・て・な・し・しますね♪」
氷瀧は笑顔で右手の小指を差し出す。
千聖は戸惑いながらも氷瀧と指を絡める。
「Cross my heart and hope to die, stick a needle in my eye.」
「だからそれは分からないんです!!」
いかがでしょうか?
蘭ちゃんのドキドキ看病回&千聖さんのお見舞い回でした。
書いてて楽しかったです(^^)
次回は氷瀧がお渡し回に行きますよー。
お楽しみに!!
そういえば自分はバンドリの他にアプリはFGOをしているんですが、『僕もやってるよ!』って方は無料で貰える☆5は誰を貰ったか教えていただけると嬉しいです(^^)
自分はアナスタシアさんです(*´-`)
では今回はこの辺で失礼します。
評価・ご感想・お気に入り登録ドシドシお待ちしております。
執筆の励みになりますので小さな感想でもとてもとても嬉しいです(^^)
それではまた次回!ほなっ!(^^)ノシ