普通過ぎる妹とおかし過ぎる兄の話   作:テレサ二号

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どうもテレサ二号です!!

前回は沢山の感想ありがとうございました(^^)
とてもとても嬉しかったです!!

そして今日は花音ちゃん先輩の誕生日です!!
誕生日おめでとう!!( ^-^)ノ∠※。.:*:・'°☆

ハロハピで一番好きですよ花音ちゃん先輩(*´-`)
いずれまた出番を用意しますので。
今日は沢山の方に祝福されて幸せな1日にしてね!!

では本編です!!




Order 15:想いは渡す物であり受け取る物でもある

「ねー、おねーちゃんちょっといい?」

 

「日菜、入る時はノックしてといつも言っているでしょう?」

 

秋が迫る9月の終わりに日菜は紗夜の部屋を訪れた。

 

「それで?何か用なの?」

 

「実はおねーちゃんにお願いがあって……」

 

「お願い?日菜が私にお願いなんて珍しいわね」

 

「今度の日曜日にパスパレのCDお渡し回があってね?そこにおねーちゃんも来て欲しいの……」

 

「お渡し会?」

 

「ライブ観て貰ってCDを手渡しするイベントなの……。おねーちゃん、忙しいから無理だよね?」

 

(日曜日は確か湊さんと今井さんが私用があって練習は自主練だったはず……。日菜は何度もRoseliaのライブに来ているのに、私はPastel✽Palettesのライブに行った事が無いわね……)

 

「私は参加券を持っていないから行けなry……」

 

「参加券があれば来てくれるの!?やったー!!るん♪ときたー!!じゃあ、これチケットね!これがあればイベントに参加できるから!じゃあねー!!」バタン!

 

「ちょっと日菜っ!?」

 

紗夜は選択肢を誤ったようで、日菜からの嵐のような約束の取り付けに文字通り"取り付く島が無かった"。

かなり一方的ではあったが紗夜の日曜日の予定はこの瞬間に確定した。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「お渡し回?」

 

「あぁ、千聖から今週の日曜日にお渡し回に来て欲しいと誘われたんだ」

 

療養期間を終え、氷瀧は日常生活に戻っていた。

今は夕食を終え、後片づけを氷瀧とつぐみの二人で行っている。

氷瀧の風邪の一件から氷瀧が1人で担っていた役割を分担するようになり、特につぐみは家事へと参入してくる機会が増えた。

 

「お兄ちゃんもたまにはお店の外に出た方がいいかもね」

 

「商店街への宅配や仕入れにはほぼ毎日行ってるだろ?」

 

「そういう意味じゃなくて、お兄ちゃんってお仕事以外の趣味ってあまり無いでしょ?たまには息抜きも大事だよ?メリハリって言うのかな?」

 

「うーん、お菓子作ってる時が一番楽しいんだけどな。ただ約束しちゃったから、破りはしないけど」

 

氷瀧は食後のティータイム用に茶葉を用意する。

今日は母の分も含めた3杯用意する事になっている。

 

「ストレート、ミルク、レモンどれがいい?」

 

「オススメは?」

 

「茶葉がマリアージュフレールのアールグレイ・ドールだから、ミルクティーがオススメだな」

 

「あ、お店用の黒缶だ!!お兄ちゃんが帰国からこのメーカーの茶葉が増えたよね?」

 

「親父は紅茶のメーカーあまり知らなくて日本メーカーのやつ使ってたからな。日本メーカーが悪い訳じゃないけど、俺が故意にマリアージュフレールを増やしてる」

 

「どうして?」

 

「そりゃフランスの老舗メーカーだからな」

 

「お兄ちゃんってたまに凄くメーカーに拘るよね……」

 

「そりゃフランスの紅茶が世界一だからな」

 

「イギリスじゃなくて?」

 

「おっとつぐみそれ以上は戦争になるぞ?」

 

「や、止めておくね……?」

 

氷瀧の笑顔から無言の圧をつぐみは感じた。

触らぬ神に祟りなしというやつである。

 

「今日は嗜好を凝らしてロイヤルミルクティーにしようか?」

 

「ロイヤルミルクティーって淹れ方難しいよね?お母さんもお兄ちゃんみたいに上手く淹れれないって言ってた」

 

「まぁ俺の入れ方は独学だけどな。フランスではストレートかフレイバーティーが主流だから、あまりミルクティーは飲まないし。帰国が決まってから勉強したんだ」

 

「メモに取ってもいい?」

 

つぐみの真面目な態度に氷瀧はフランス留学当初の自分を重ねていた。

 

(そういえば俺もガンガン質問してたっけ……。初めてマカロンを任された時は嬉しかったよな……)

 

「淹れるのが上手くなったらロイヤルミルクティーの担当はつぐみに任せる」

 

「本当!?」

 

「あぁ。ただ分かっているとは思うが俺は厳しいぞ」

 

「よろしくお願いします!」

 

つぐみはペンを構えて氷瀧の説明を待った。

 

 

【ロイヤルミルクティーの淹れ方】

 

まずはお湯を準備する。

ティーカップ9分目のお湯3杯をミルクパンに投入し、火にかける。

 

 

「ロイヤルミルクティーを淹れる際は最初から最後まで全開の強火でいる事が大事。母さんは火力が弱い事が多い」

 

「ふむふむなるほど」

 

お湯が沸騰したらミルクパンに茶葉を入れる。

茶葉の量はメジャースプーンで山盛6杯分。

 

その後、茶葉を淹れてから10分間煮込む。

この間もずっと強火で煮込み、茶葉の旨味をしっかりと引き出す。

煮込んでいる最中にミルクパンにこびりついてしまった茶葉は、ロングスプーンなどでお湯の中に茶葉を落とし、再び軽くかき混ぜ何度も何度も丁寧にかき混ぜて行く。

 

10分間煮込んでいる間に牛乳と3種類の目の粗さが違う茶漉しを用意する。

1つのミルクパンに牛乳パック1本を使用する。

 

「牛乳は、脂肪分が4.0%以上の物を使うこと。一般的な牛乳だと牛乳が茶葉の味に負けてしまうからな」

 

「ロイヤルミルクティーって最初から牛乳で煮込むイメージがあるけど違うんだね?」

 

「あぁ。茶葉が開かないうちに牛乳で煮込むと牛乳に含まれる"カゼイン"という成分が紅茶を包んでしまい、紅茶の旨味が出にくくなるんだ」

 

10分煮たったら牛乳をミルクパンに入れる。

牛乳を入れてからも火力は強火のままで丁寧に丁寧に混ぜて行く。

 

牛乳が沸騰しミルクパンから零れるギリギリまで噴き上がったら火を止めて、目の粗い順番にミルクティーを濾していく。

 

「火を止めたら直ぐに濾すこと」

 

「何で?」

 

「直ぐにやらないとエグみが出てしまうからだ」

 

三回の濾しを終えるとロイヤルミルクティーの完成だ。

 

「好みで砂糖をいれるといい」

 

氷瀧はお気に入りのティーカップにミルクティーを注ぐ。

 

「うん、いい香りだ」

 

「ホントに美味しいね♪…………ねぇお兄ちゃん?」

 

「ん?」

 

「質問してもいい?」

 

「あぁ、いいぞ?」

 

「お兄ちゃんから見て蘭ちゃんってどう思う?」

 

「蘭?」

 

「うん、お兄ちゃんから見た蘭ちゃんの印象を聞きたいの」

 

「そうだな……。蘭は子供の頃は嫌々華道をしている感じだったけど、最近は華道に取り組み姿勢が変わったなと思う」

 

「向き合う姿勢?」

 

「そう、何となくだけどそんな感じがする。多分それにはお前達が関わっているんだろうけど」

 

「お兄ちゃんって良く見てるなぁ……。じゃあ別の質問。…………今、付き合ってる人はいるの?」

 

「いないよ?」

 

「欲しいと思わないの?」

 

「………………」

 

「お兄ちゃん?」

 

「欲しくないと言ったら嘘になるかもしれないけど、誰でもいいって訳じゃないかな」

 

「お兄ちゃんの好きな女性のタイプは?」

 

「うーん、何かに一生懸命で笑顔が素敵な人かな」

 

「今、好きな人いるの?」

 

「…………秘密!」

 

氷瀧は微笑むとつぐみの頭を撫でた。

 

「逆に質問してもいいか?」

 

「いいよ?」

 

「彼氏はいないんだろうな?」

 

「い、いないよ!!」

 

「彼氏ができたら連れてこい、俺がお前に相応しい男か確認してやる……」

 

「う、うん……」

 

氷瀧は真剣な顔立ちでつぐみを諭した。

つぐみは断る事ができなかった。

 

「それとお兄ちゃんにお願いがあるの……」

 

「お願い?」

 

「私ってお兄ちゃんと比べて女子力が低いと思うの」

 

氷瀧のハートにロンギ○スの槍が突き刺さった。

 

「お、俺って女子力高いのか……?」

 

「うん!」

 

再び氷瀧のハートに槍が刺さる。

無意識とは恐ろしいものだ。

 

「それでね?私も少しは女子力上げて花嫁修業しないといけないなって思ってるの」

 

「な、なるほどな……」

 

「お兄ちゃんには私の花嫁修業を手伝って欲しいの!」

 

「くっ……」

 

氷瀧は頭を抱えた。

最愛の妹の頼みであるが故に断りたくはない。

しかしつぐみが他所の男に嫁ぐ為の準備の手伝いと言うのが頭を悩ませた。

 

「ダメかな……?」

 

「分かった……俺にできることなら協力しよう……」

 

「やったー!!よろしくね!氷瀧先生!」

 

(その響きも悪くない……)

 

こうして氷瀧はつぐみの花嫁修業に付き合う事となった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

そして迎えたお渡し回当日、氷瀧は千聖から貰った招待券に書かれてあった会場に向かう。

氷瀧の服装はいつも通りのお気に入りメーカーのシャツにシンプルなパンツのコーデである。

 

「思ってたより会場広いなぁ。しかも人が多い!!」

 

氷瀧は入口の長蛇の列に驚きを隠せなかった。

 

「この列に並ばないといけないのか…………。それにしても男女比率は同じくらいなんだな?勝手なイメージで男しかいないと思っていた」

 

「あ!お兄さんってもしかして千聖さん推しですか!?」

 

「推し?」

 

「私、推しの髪の毛の色と合わせてる同志と初めて会いました!!」

 

「あ、このメッシュの事か……」

 

「そうですそうです!私は彩ちゃんと日菜ちゃんのカラーにしてるんです~♪」

 

カラフルな髪の毛の女の子は髪を見せびらかすような回って見せた。

 

「もしかしてお兄さんってお渡し回は初めてですか?」

 

「そうなんだ。だから勝手が分からなくて困っている」

 

「だったら私がいいことをお教えしましょう♪」

 

「いいこと?」

 

「はい♪あちらの列は物販待ちの列なので、ミニライブのチケットの引換は向こうの入口です♪」

 

「そうなのか。親切にありがとう」

 

「いえいえ~♪お兄さんはチケット何枚持っているんですか?」

 

「一枚だ」

 

「だったらいいブロックを引けるかは運次第ですね?」

 

「いいブロック?」

 

「はい♪AからCまでのブロックがあって、A2が最前列の真ん中のブロックになってます♪」

 

「なるほどそれはランダムという訳か?」

 

「はい、私は数枚持っているのでループして最前列のブロックを確保しました♪」

 

「あはは、凄い情熱だね」

 

「はい♪それでは私は行きますね?お兄さんの御武運をお祈りしてます!」

 

女の子は丁寧に頭を下げるとどこかに消えた。

 

「俺……こういうくじ運無いからな……」

 

氷瀧はチケット引換口に向かった。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「Cの1…………。日菜から遠いけど、日菜には見つからないかもしれないからいい場所かもしれないわね」

 

日菜に招待されて来た紗夜は帽子を深く被りマスクをしていた。

 

『今日の彩ちゃんの衣装どんなのかな?』

 

『さっきSNSに上げてたよ?』

 

『見た見た!超可愛かったよね!?』

 

『日菜ちゃんポテト食べてたよ?スッゴく可愛かった!!』

 

「ポテッ!?」

(か、会話に入りたい…………。ハッ!?いいえそんな事は無いわ……)

 

 

 

『せっかくイベントに行くんだから♪楽しんでおいでよ~♪』

 

 

 

紗夜の頭の中に数日前のリサの言葉が蘇る。

 

「楽しむ…………」

 

その瞬間に周囲が薄暗くなりパスパレのメンバーがステージに上がると同時に演奏を始める。

 

『しゅわしゅわ~♪ はじけたキモチの名前教えてよ~♪

きみは知ってる?』

 

『しゅわしゅわ! どり☆どり~みん yeah!』

 

Pastel✽Palettesの代名詞ともいえる"しゅわりん☆どりーみん"が流れ始め会場のボルテージが最高潮に達する。

 

『お気に入りのグラス~♪眺めながら~♪』

 

『そそぐ~♪』

 

『cha,cha!』

 

『さわやか~♪』

 

『cha,cha!』

 

『しゅわりん☆サイダー♪』

 

「たのし~!るんるん!」

 

「・・・・・」

 

パスパレのライブを楽しむと覚悟を決め、紗夜が合いの手を叫んだ数瞬後に紗夜と氷瀧の視線がガッツリ合った。

 

「「・・・・・」」

 

氷瀧はふふっと軽い失笑を残しステージに視線を戻した。

 

「ち、違うんです!!こ、これには深い理由がありまして!!」

 

「心配するな、見なかった事にする」

 

「そうじゃなくて~!!」

 

紗夜の悲痛な叫びはパスパレの演奏によってかき消された。

 

 

 

 

 

「まったく……氷瀧さんに会うなんて想像していませんでした」

 

ミニライブとトークショーが終わり、お渡し回に移るまでの空き時間に氷瀧と紗夜は会場近くのファーストフード店を訪れていた。

 

「まぁそう言うなよ、昼飯奢ってやるんだから?んで?何にするんだ?遠慮はいらねーぞ?」

 

「氷瀧さんが選んでいる間に決めます」

 

「んじゃー俺は照り焼きバーガーのポテトセットでドリンクはオレンジジュースで」

 

『承りました』

 

「私はチーズバーガーセットでドリンクは私もオレンジジュースで……」

 

「それだけでいいのか?」

 

「…………ポテトは大盛でお願いします……」

 

『承りました』

 

「わ、私は席を確保しておきますね!」

 

紗夜は顔を真っ赤にしてその場を離れた。

 

「紗夜ちゃんって、確かバンドやってるって言ってたよな?だったらステージに立つこともあるだろうに……。それなのに店員さんに注文するのが恥ずかしいのかな?」

 

この男はその辺の感情を察する事が疎いのである。

 

注文した食べ物を全て受けとると、氷瀧は紗夜が待つテーブルに向かい腰掛けた。

 

「お待たせ」

 

「いえ、そんなに待っていません」

 

「ほれ」

 

「ありがとうございます。いただきます」

 

紗夜は自分の注文した食べ物を口にする。

氷瀧もそれに続いて照り焼きバーガーを口にした。

ポテトを食べた瞬間、口元が緩んでしまったが紗夜は一瞬で表情を元に戻した。

 

「それにしても意外でした」

 

「何が?」

 

「氷瀧さんがアイドルのイベントに興味があるなんて」

 

「そりゃお互い様だろ」

 

「う…………」

 

紗夜は再び顔を少し赤らめた。

 

「私は……日菜に頼まれたので……」

 

「俺も似たようなもんさ」

 

「誰からですか?」

 

「千聖だよ」

 

「白鷺さんからですか」

 

「おぅ」

 

「氷瀧さんは白鷺さんと仲がよろしいのですね」

 

「まぁな」

 

「お友達と言った所ですか?」

 

「……………………」

 

「氷瀧さん?」

 

「いや、何でもない。それよりこの後の流れって分かるか?」

 

「この後は好きなメンバーのレーンに並んでCDを受けとります。その間に数秒メンバーと会話することができます」

 

「ふーん、詳しいんだな」

 

「す、少し調べただけです!」

 

「なるほどな。並ぶメンバーはどうやって決めるんだ?」

 

「それは人によって違います。一番推しているメンバーだったり、認知されたいメンバーであったり」

 

「推し?認知?」

 

「推しとは特に好きなメンバーの事で、認知とはメンバーに自分の事を覚えて貰う事です」

 

「詳しいな」

 

「か、関連ページをチラッと見ただけです!!…………あとは逆に今まで話したことの無いメンバーの列に並ぶファンもいます」

 

「なるほどな……。とりあえず、丸山さんか大和さんの所に並ぼうかな?」

 

「丸山さんか大和さんですか?何故です?」

 

「丸山さんって、千聖と花音ちゃんと仲がいいんだろ?俺はあんまり面識無いからさ。大和さんはつぐみの学校の先輩だって言うし。千聖と日菜ちゃんは良くウチに来るし、イヴなんてウチで働いてるからわざわざ並ぶ必要も無いだろう」

 

「氷瀧さんのご意見は分かりました。しかしその選択は間違いだと思います」

 

「間違い?」

 

「はい、氷瀧さんは白鷺さんから招待されたのであれば白鷺さんの列に並ぶべきです」

 

「なるほど……確かにそう言われるとそうだな」

 

「私は日菜に誘われたので日菜のレーンに並ぼうと思います」

 

「それじゃ、一緒に会場に戻ろうか?」

 

「そうしましょう」

 

氷瀧は余ったポテトを全て紗夜に差し出す。

 

「これは?」

 

「もうお腹いっぱいだから残りを食べてくれないか?」

 

「…………仕方ないですね」

 

紗夜は三度顔を赤らめた。

 

 

 

 

 

 

「では私は日菜の列に並びます」

 

「おう、ここで待ってる」

 

会場に戻った氷瀧と紗夜はまず日菜のレーンに並ぶことにした。

数分後、いよいよ紗夜の順番が回って来た。

 

「おねーちゃん!来てくれたんだ!!」

 

「日菜が一方的に約束をこじつけるからでしょ?チケットを無駄にするのは勿体ないから来ただけよ」

 

「それでもおねーちゃんが来てくれた事が嬉しい!」

 

「うぅ……」

 

日菜の屈託の無い満面の笑みに紗夜は顔を真っ赤にさせる。

紗夜はなるべく日菜と目を合わせないようにチケットを日菜に渡す。

 

「本当は丸山さんの列に並ぼうと思ったけど、人が多かったからこっちに来たのよ」

 

「あ、おねーちゃん。チケットの裏をちゃんと読んで無いんだね?」

 

「チケットの裏?」

 

「うん、このチケットは招待券だから特定のメンバーの列にしか並べないの」

 

チケットの裏には"氷川日菜専用"と小さく記載されていた。

 

「だからおねーちゃんが来てくれたら、絶対に私の列に並ぶしか無かったんだ♪えへへ~♪」

 

「全く……あなたって子は……」

 

日菜の笑みに思わず紗夜も笑みで答えた。

二人の間に暖かい空気が流れる。

 

「はいっ、これCDだよ♪」

 

「ありがとう。帰ったら聴くわ」

 

「帰ったらパッケージにサインして上げるね!」

 

「ダメよ。私だけ特別扱いになるでしょ?」

 

「えぇ~、今日の記念に私がしたいのに~」

 

「ダーメ。気持ちだけはいただいておくわ」

 

「うん!また来てね、おねーちゃん!バイバーイ!」

 

日菜に送り出されて紗夜は列を後にした。

そして出口で待っていた氷瀧と視線が交わる。

 

「楽しめたみたいだね?」

 

「そう見えますか?」

 

「あぁ、俺にはそう見える」

 

「気のせいですよ」

 

紗夜の表情が暖かく柔らかくなっていることを氷瀧は見逃さなかった。

ただそれは二人の問題であり、これ以上詮索するのは野暮という物だ。

氷瀧は黙っておく事にした。

 

「次は氷瀧さんの番ですよ?」

 

「そうだな……。千聖の列……一番並んでるな……」

 

『嫌だ!嫌だ!』

 

「「???」」

 

千聖の列の前で小さな女の子が大声を出して泣いており、その子供を母親らしき人物がなだめている。

 

「ワガママ言わないのあなたが悪いんでしょ?」

 

「でもさっきまであったもん……」

 

「どうかされました?」

 

氷瀧は母親の方に声を掛けた。

 

「いえ、この子がチケットを無くしちゃって……。私の分を上げれたらいいのですが、10歳未満は保護者と一緒じゃないとダメな決まりになっているので……」

 

「私だって、ちーちゃんに会いたいもん……」

 

「自業自得でしょ?諦めて帰りましょ?」

 

「でも…………」

 

涙を流している女の子の表情が幼い頃のつぐみと重なった。

氷瀧は少し寂しそうに微笑んでから、女の子と同じ目線まで屈んで両手を開いた。

 

「???」

 

「今、両手には何も入ってません。…………しかし、"フッ"と魔法の息をかけると飴玉が出てきます」

 

氷瀧は手品の要領で取り出した飴玉を子供に渡した。

 

「あれあれ?」

 

氷瀧は子供のパーカーのフードの中に手を伸ばす。

 

「無くしたチケットはこれじゃないかな?」

 

氷瀧はチケットを子供に手渡した。

 

「これだ!!」

 

「見つかって良かったね!!」

 

「もしかして!?」

 

氷瀧は人差し指を口元に当てると母親に向けてウインクを送った。

 

「これでちーちゃんに会えるね!」

 

「やったね♪ちーちゃんによろしく伝えてね♪」

 

「うん!おにーちゃんバイバーイ!」

 

「バイバーイ♪」

 

氷瀧に向け、女の子は手を振り母親は深々と頭を下げてその場を後にした。

氷瀧は二人を見送ってからスマホを取り出し何か操作を始める。

しばらくしてから氷瀧は紗夜に正対した。

 

「悪いね紗夜ちゃん、急用ができてしまったから帰らないと」

 

「もしかしてさっき……」

 

氷瀧は再び人差し指を口元に持っていくと寂しそうに微笑んだ。

 

「…………帰りましょうか」

 

紗夜はそれ以上の詮索をする事は無かった。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「遅いなぁ……」

 

休憩時間中に千聖は腕時計を見る。

お渡し回も終盤に近づいているが未だに氷瀧は姿を見せない。

 

「あれ?千聖ちゃん、誰か待ってるの?」

 

「あら日菜ちゃん。特に誰かを待っている訳じゃないの。それより紗夜ちゃんは来てくれた?」

 

「うん!さっきおねーちゃんにCD渡せたんだ!!帰ったら聴いてくれるって!!」

 

「良かったわね♪」

 

日菜の満面の笑みに千聖は自身の寂しさが少しだけ救われた気分になった。

 

「千聖ちゃん、スマホ光ってるよ?」

 

「本当ね?花音かしら?」

 

千聖はスマホを手に取るとRINEを開く。

メッセージの相手は氷瀧であった。

千聖にとって氷瀧からの初めてのRINEである。

千聖は心をときめかせた。

しかしメッセージの内容に千聖は落胆した。

 

 

 

_________________________________________

 

千聖へ

 

今日のお渡し回は急用ができて行けなくなった。

今回の埋め合わせは必ずする。

本当にスマナイ。

謝って許して貰えるかは分からないが、

君が許してくれるなら俺は何でもしよう

 

氷瀧より

 

 

_________________________________________

 

 

 

千聖は意気消沈した。

今日は氷瀧が来ると分かっていたから、朝からメイクにも力を入れ、服装もお気に入りの1着を身に付けている。

千聖にとって一番いい状態で氷瀧を迎える準備ができていた。

 

「…………バカ」ボソッ

 

千聖はスマホを閉じると一気に仕事モードに気持ちを入れ替える。

拗ねていても仕方ない。

千聖には氷瀧以外にも待っているファンがいるのだから。

 

「千聖ちゃん?大丈夫?」

 

「何でも無いわ?それよりファンの皆さんが待ってるし、最後まで頑張りましょう?」

 

休憩を終え、千聖と日菜はCDを渡すブースに移動した。

 

「千聖さん今日も美しいですねー」

 

「ありがとうございます」

 

千聖はいつも通りにCDの手渡しを続けていく。

 

「あー!ちーちゃんだ!かわいー!!」

 

「コラっ!千聖ちゃんでしょ?」

 

「構いませんよ?」

 

千聖は小さな女の子と母親に微笑む。

 

「ハイこれ!チケット!!」

 

「ありがとう♪」

 

しかし千聖は受け取ったチケットを見て思考が停止した。

チケットの裏側には小さく"白鷺千聖専用"と書かれていた。

 

「この……チケット……は……」

 

「先程、チケットを無くして泣いていたこの子に、入口にいた若い男性が譲ってくださったんです」

 

「おにーちゃんがちーちゃんによろしくって!」

 

「…………そう、確かにいただいたわ♪」

 

千聖は女の子の頭を撫でると、親子にCDを渡した。

 

「バイバーイ!またねー!」

 

「えぇ、またね♪」

 

 

 

 

 

お渡し回を終えた千聖はいの一番にスマホを開くとRINEを開き氷瀧への返事を打った。

 

 

 

 

_________________________________________

 

 

 

氷瀧さんへ

 

今日はお会いできなくて残念です。

急用なら仕方ないですね。

代わりのお願いはお渡し回の打ち上げを

花音と羽沢珈琲でしたいので

お店で売っていない特別なケーキを

ご馳走してください。

それで今回は許します。

 

千聖より

 

 

_________________________________________

 

 

 

 

メッセージを送ってから千聖はスマホを閉じる。

 

「もう……ホントにキザなんだから」

 

千聖は自分のスマホのマカロンのストラップに微笑みかけた。

 

 




いかがでしょうか?

ドキドキのお渡し回でした。
書いてて楽しかったです(*´-`)

次回からシリアス回に入ります。
自分のペースで少しずつ書いて行きますので、今後も御愛読していただけると幸いです。

では今回はこの辺で失礼します。

評価・ご感想・お気に入り登録ドシドシお待ちしております。

執筆の励みになりますので小さな感想でもとてもとても嬉しいです(^^)

それではまた次回!ほなっ!(^^)ノシ

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