普通過ぎる妹とおかし過ぎる兄の話   作:テレサ二号

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どうもテレサ二号です!

今回は前回に続いて氷瀧の誕生日です!!
では、早速本編です!!



Order 19 :~はぴはぴばーすでー~後編

「えーそれでは!!両チーム料理が出揃いましたのでいよいよ実食に移りたいと思いまーす☆まずは先に完成したPastel✽Palettes から!」

 

リサの音頭で氷瀧、紗夜、花音の前にハンバーグが置かれる。

デミグラスソースがハンバーグと絡まりとても美味しそうだ。

 

「「「いただきます」」」

 

それぞれがナイフとフォークを使ってハンバーグを切り、口へ運ぶ。

 

「おいひぃ~♪」

 

「美味しいです」

 

「・・・・・」

 

花音と紗夜はハンバーグに称賛を送ったが、氷瀧は目を閉じハンバーグを咀嚼している。

その真剣さに一同は注目し言葉を待った。

 

「……美味しいぞ」

 

パスパレ全員が安堵の息を漏らす。

それに続いて氷瀧が言葉を続ける。

 

「焼き方とこね方に気を付けており、そのおかげで肉汁が外に逃げ出さずに旨味が残っている」

 

彩が力強くガッツポーズをする。

 

「だが、玉ねぎが焦げすぎで苦味が少しあるのとナツメグを入れすぎたな、スパイスの香りが少ししつこい」

 

「そうですか?私は感じませんが?」

 

「そうだよね?私にも良く分からないよ」

 

つぐみだけが知っている。

氷瀧は料理へのこだわりがとても強い。

今までも自分が作った料理には一度も『美味しい』と言ったことは無い。

そこには料理人としての氷瀧の飽くなき追求心から来ている。

故に氷瀧は料理においては忖度をしない。

そしてその舌は軽微な差を見抜く。

 

「そしてこの付け合わせだが、フライドポテトは市販の物を揚げただけだろうから特に言うことは無い。しいて言うなら小皿にケチャップとマスタードを添えた方がいいだろう。モヤシのナムルはモヤシを茹でた後にフライパンで軽く炒めると香りと旨味が引き立つし、ブロッコリーのチーズ和えも茹でて炒めてから粉チーズと粉末パセリをかけてもいいかもしれないな」

 

千聖を含めてパスパレのメンバーがガックシと視線を落とした。

それを見てから氷瀧は更に感想を付け加える。

 

「だが、とても美味しくできている。それに料理にとって大事な物が忘れずに入っていて俺はいいと思うぞ」

 

「大事な物ですか?」

 

千聖が氷瀧に尋ねる。

しかし氷瀧は首を横に振って微笑む。

 

「それは最後にしよう。あとは、俺はにんじんグラッセが好きだから、それが入っていないのが少し残念だったな」

 

「コホン」

 

紗夜が咳払いをし、顔を少し赤らめた。

その咳払いの意味を日菜だけが理解した。

氷瀧が紗夜の顔をジーっと見ていたが、『何ですか?』と質問すると『何でもない』と氷瀧は答えた。

 

「あとはこのデミグラスソースだが、肉汁の旨味を引き立たせる為にシンプルな味わいに仕上げているのが俺は好きだな。俺が作るとついついデミグラスソースを前日から仕込んでみたりして、手間が掛かり過ぎてしまう所があるから」

 

「そんな事はありません!!氷瀧さんのデミグラスソースはとても美味しいです!」

 

「そうだよ!私もお兄ちゃんのデミグラスソース大好きだよ?」

 

大好きな妹からの『大好き』と言う言葉に思わず氷瀧の頬が緩む。

そうこうしている間に紗夜は付け合わせのフライドポテトを完食した。

 

「では続きまして、Afterglowの料理の審査に移らせていただきます☆」

 

氷瀧・紗夜・花音の前にオムライスが運ばれる。

 

「「「いただきます」」」

 

三人の口へオムライスが運ばれる。

オーソドックスなケチャップライスの旨味が口全体に広がる。

 

「こっちもおいひーよー♪」

 

「そうですね。ケチャップライスの酸味も絶妙でとても美味しいです」

 

「・・・・・」

 

またしても氷瀧だけが瞳を閉じ、無言で咀嚼を続ける。

皆が固唾を飲んで見守るなか、静かにその瞳が開かれた。

 

「……美味しいぞ。だが、ミスの少ない作り方だと思うがその分工夫が足りない。オーソドックスなケチャップライスのオムライスもいいが、ドライカレー風や和風キノコライス、高菜ピラフや明太子マヨソースなど、もっとアレンジを効かせるのもありだっただろう。このオムライスは教科書通りに作りすぎていて面白味に欠ける。……しかし玉子は丁寧に焼かれていて口当たりがいい。しいて言うならもう少しバターを多めに敷いて、玉子には牛乳か生クリームを入れると更に風味が良くなるだろう」

 

氷瀧は続けてオムライスを口に運ぶ。

氷瀧の言葉を聞いていた花音がフォローを入れる。

 

「でもこのオムライスとっても美味しいよ?私は好きだな♪」

 

「そうですね。私もとても美味しいと思います」

 

「ありがとうございます、花音さん、紗夜さん」

 

つぐみが笑顔でお礼を言う。

つぐみの笑顔はまるで空気清浄機のように、気まずくなっていたその場の空気を綺麗にした。

そして、今度は氷瀧が花音の顔をジーっと見ていたが『私の顔に何か付いてますか?』と言う質問にも『何でもない』と答えた。

 

 

 

 

「「「ごちそう様でした」」」

 

氷瀧・紗夜・花音の3人は綺麗にハンバーグとオムライスを完食した。

 

「それじゃあ、そろそろ審査に移ろっか?」

 

「そうですね」

 

「……それでは運命の御時間でーす☆」

 

じゃらじゃらとBGMが流れそうな掛け声でリサが音頭を取る。

 

「まずは松原審査員!ハンバーグとオムライス、どちらの方が美味しかったですか?」

 

「わ、私は……どちらもとても美味しかったけど、ど、どちらかを選ぶとしたら私はオムライスかな?」

 

「なるほどー♪それでは続いて、氷川審査員!」

 

「私はハンバーグですね。ですが、オムライスもとても美味しかったので甲乙つけがたい所ではありますが」

 

これで1勝1敗。

勝敗の行方は本日の主役である羽沢氷瀧に委ねられた。

 

「それでは本日の主役の羽沢氷瀧さん!!勝敗の結果をお願いします!!」

 

「……では勝敗を」

 

『ドックン……ドックン……ドックン……』と千聖と蘭の鼓動が高鳴る。

 

 

『Afterglow……』

『Pastel✽Palettes……』

 

 

『Afterglow……』

『Pastel✽Palettes……』

 

 

『Afterglow……』

『Pastel✽Palettes……』

 

 

2人はそれぞれのバンド名が呼ばれるように、心の中で何度も自分達のバンド名を連呼する。

祈る2人とは対象的に、『答えは既に決まっている』と言わんばかりに氷瀧は迷う素振りを見せず口を開く。

 

「勝敗の結果は引き分けだ」

 

「「え?」」

 

ズコーっと音がしてもおかしくないくらいにリサがズッコける。

 

「えーっと、氷瀧さん?真面目に……」

 

「俺はいたって真面目だぞ?」

 

「……理由を聞かせていただけますか?勝負である以上、勝ち負けを決めないのであればそれなりの理由が無ければ、双方納得がいかないと思います」

 

いまいち状況が理解できていない司会のリサに代わって、紗夜が状況を整理し始める。

そんな紗夜の言葉に蘭と千聖は大きく頷き同意した。

 

「まず料理としては、どちらにも改善点もあるし長所もあった。それにさっきも言ったが、どちらの料理も料理にとって大切な物がちゃんと入っていた」

 

「そういえばそんなこと言ってたね……。それで?大切な物って?」

 

「それは愛だ」

 

『ボンッ』と音がしそうなくらいに蘭と千聖の顔が一瞬で真っ赤に染まった。

そして咄嗟に言い訳を始める。

 

「そ、そんな訳無いじゃん!!」

 

「そ、そうですよ!?あ、愛なんて入れた覚えは……」

 

「いや、確かに入っていた」

 

氷瀧は二人の言葉を遮り、説明を続ける。

 

「食べてくれる人に喜んで欲しいと言う気持ちでメニューを選び、美味しくできて欲しいと丁寧に丁寧に作られていた。そして、確かに料理を食べた紗夜ちゃんと花音ちゃんには笑顔が生まれていた。更に俺の誕生日を祝いたいという気持ちがちゃんと伝わってきた。これは愛だろう?」

 

蘭と千聖は言葉が出ない。

しかしつぐみだけは『やっぱりなぁ』と呟いた。

始めからこうなる気がしていた。

氷瀧にとって料理とは全て尊い物。

そしてそれぞれの料理にはそれぞれの素晴らしさがあり、それに上も下もない。

作り手の気持ちがこもっているのなら、それは氷瀧にとって『素晴らしい料理』であり、よって結果は引き分けである。

氷瀧は最初から味はどうあれ、想いがこもった料理であれば勝ち負けを付けるつもりは無かった。

 

「だが、どうしても勝ち負けを決めるのであれば俺は困ってしまう。紗夜ちゃんか花音ちゃん、どちらかに判定を委ねなければいけないからだ」

 

紗夜と花音が顔を向き合わせる。

お互いに思いは同じらしく、視線を合わせた数瞬後にはお互いに頷いた。

 

「氷瀧さんが引き分けだと思うのであれば、それが正解だと思います。私も松原さんも納得してしまったので、結果は変わりません。構いませんよね、松原さん?」

 

「うん、もちろんだよ♪」

 

紗夜と花音は納得の表情に満ちていた。

もう結果は揺るがない。

蘭がガックリと肩を落とした。

 

「あのー?デート権はどうなるんですか?」

 

一同が『忘れてた……』という空気を出す。

意外にも氷瀧だけは忘れておらず、妥協案を提案した。

 

「親父が勝手に決めた事だろうから、俺とのデート権なんて誰もいらないかもしれないが、両チームの代表と半日ずつ出掛けるというのはどうだろうか?プランはそちらに任せる形になってしまうが、構わないだろうか?」

 

「「大丈夫です!!」」

 

蘭と彩が同時に答える。

『まさか彩さんも!?』という顔を蘭がしたので、『大丈夫だよ♪』と口パクで彩は答えた。

 

「では以上をもちまして、料理対決を終了します!司会は私、今井リサがお伝えしました!」

 

「ちょっと待ってくれ」

 

リサへ拍手が送られるなか、氷瀧だけが待ったを掛けた。

 

「今日はみんなありがとう。おかげさまで、騒がしかったけど楽しい誕生日になった。そのお礼をみんなに渡しておこうと思って」

 

氷瀧が店の奥に進む。

奥からトレイに乗った袋入りのお菓子を一人ずつ『今日はありがとう』と伝えながら渡す。

 

「ねぇねぇ、ひーくんや。中身は何が入ってるのー?」

 

自らの順番を待ちながらモカが尋ねる。

 

「ショコラフィナンシェとマドレーヌ、フロランタンだな」

 

「おぉー!!こだわってますなー」

 

「これスッゴく美味しいよ♪」

 

「日菜ちゃん?もう食べてるの?」

 

「コラっ日菜、立って食べるのは行儀が悪いわよ?」

 

『はーい』っと言って日菜は着席する。

その日菜の手にあるフロランタンを千聖は凝視する。

フロランタンの完成度はとても高く、ドラマや映画の撮影の差し入れでいただく高級店のそれと全く遜色無い。

しかし念のために氷瀧に確認する。

 

「えっと……これはどこのお店で?」

 

「はぁ?これは俺の手作りだぞ?」

 

「えぇ!?これおにーさんの手作りなの!?とーっても美味しいよ!?お店で売ってるやつみたい!!」

 

「お粗末様。フランスの高校の地域交流会で販売はしてたんだけどな」

 

「お店では売ってなかったんだ?」

 

「フランスの修行してたお店はブティックだから、こういう家庭的なお菓子は作らないんだ」

 

「これいつ作ったの?作ってる素振りなんて無かったのに」

 

「朝早くに少しずつな。つぐみが寝てる間だ」

 

「氷瀧さん、このフロランタンやフィナンシェの作り方を教えてくれませんか?」

 

「私も!」

 

紗夜とリサが懇願する。

氷瀧は首を縦に振った。

 

「また今度、お菓子教室を開こう。要望が集まってきてるからな」

 

「それって今から予約できないの!?」

 

蘭が前のめりで氷瀧に詰め寄る。

 

「ま、まだ日にちも何も決まってねぇよ。決まったら連絡するから」

 

「絶対だよ!?」

 

「あ、あぁ……約束だ。……それじゃ、お開きにするか!」

 

「ちょっと待ってください!!」

 

今度はイヴが氷瀧に待ったを掛ける。

その手にはプレゼントが握られていた。

 

「まだ氷瀧さんに誕生日プレゼントを渡していません。はい♪ハッピーバースデーです♪」

 

「開けてもいいか?」

 

「喜んで!!」

 

氷瀧が箱を開けると中にはティーカップのセットが入っていた。

 

「これはティーカップか?」

 

「はい、氷瀧さんはフランスに留学されていたのでフランスのメーカーのティーカップを用意しました」

 

ティーカップは黒と青をベースとした色づけで、陶器独特の光沢を放っている。

 

「うん、俺が好きなデザインだ。ありがとう。大切に使わせて貰うよ。実はお店の自分用のカップが無くて、お客様用のカップを使い回してたんだ。自分用のカップができて凄く嬉しい」

 

氷瀧はイヴに微笑む。

イヴは一緒に働いているから氷瀧がお店のカップを使い回していることを知っていた。

千聖と蘭は『これが正解だったのか』と心の中で地団駄を踏んだ。

 

「では続いて自分から」

 

「大和さんも用意してくれたのかい?」

 

「はい、いつもお店でサービスしていただいてますから」

 

麻弥から小さい箱が渡される。

氷瀧は中身を確認した。

 

「ネーム入りの木製のボールペンです。一応替芯もセットにしてますので」

 

黒をモチーフとした木目調が美しいボールペンが入っていた。

そして"H.Hitaki"と彫られていた。

氷瀧は動作の確認として何度か芯を出し入れする。

 

「このメーカーのボールペンは書き心地とカチカチって音が堪らないんですよね。ふへへ……」

 

「確かに良さそうだ……毎日仕事で使わせて貰うよ。いい仕事はいい道具からって言うしな♪」

 

どうやらこれも氷瀧のお気に召した様だ。

 

「んじゃー次はアタシね?」

 

リサは細長い箱を取り出した。

どうやら中身はネクタイの様だ。

 

「氷瀧さんって仕事中は、白シャツに黒のミドルエプロンとナロータイですよね?だから、オシャレなナロータイにしました!!」

 

箱の中には黒とピンクをモチーフとした斜めのチェック柄のナロータイが入っていた。

氷瀧が首元にナロータイを持っていき、つぐみの方を向く。

 

「似合ってる?」

 

「うん♪とっても似合ってるよ♪おにーちゃん、格好いい!」

 

氷瀧は心の中でガッツポーズをしてナロータイを箱に戻した。

 

「ありがとうリサちゃん。これも仕事で使わせて貰うよ♪」

 

氷瀧は元々オシャレ好きである。

故にオシャレな物を貰えば上機嫌にもなる。

このプレゼントについては流石のリサのセンスと言わざるを得ない。

 

「んじゃ、リサちーに続いて私からもあるよー!!」

 

幅の薄いプレゼント箱を開けると白・黒・水色を基調とした、薄羽のストールが入っていた。

 

「スタイリストさんに相談したら、今年はストールが流行ってるって言うから買っちゃったんだ♪かーっこいいでしょ!?」

 

色合いや形など全てにおいて氷瀧の好みにどストライクである。

 

「かーっこいいよ日菜ちゃん!!ありがとう!!大切に使うね!?」

 

氷瀧は嬉しさから箱を抱き締める。

『最近の女子高生』はプレゼントのセンスがヤバいなと感心させられた。

 

「それじゃあ、次は私と千聖ちゃんから♪ホラホラ千聖ちゃん」

 

「ちょっ、ちょっと押さないで彩ちゃん!?」

 

彩は千聖を氷瀧の前に押し出した。

千聖は「どうぞ」と言いながら、視線を斜め下に落としながら視線を合わせずに氷瀧にプレゼントを差し出す。

氷瀧が箱を開けると、中には黒・赤・ターコイズのチェックのマフラーと漆黒の手袋が入っていた。

 

「マフラーと手袋か」

 

「えっと……その……はい……」

 

「氷瀧は週に何度か明け方に仕入れに行ってて、これから寒くなるから暖かくして風邪をひかないようにって千聖ちゃんが♪」

 

「………」

 

千聖は顔を赤くして俯く。

否定しないと言うことは彩が言っていることは正しいと肯定しているようなものだ。

氷瀧はマフラーを取り出して首に巻く。

そして今度は目の前の千聖に微笑む。

 

「似合う?」

 

「…………はい、とても……」

 

氷瀧は満足そうに微笑んでからマフラーを大切そうにしまった。

 

「それじゃあ、次はアタシからだな。まずはアタシからのステンレスタンブラーと……、酒屋さんから成人祝いのビールセット。八百屋さんからのフルーツの詰め合わせに、魚屋さんからはおつまみセット。クリーニング屋さんからタオルハンカチのセットと花屋さんからはお祝いのフラワーアレンジメントだ。それから……」

 

巴は次から次へとプレゼントを積み上げていく。

事前に巴がプレゼントを探していた際に、商店街の人達へ氷瀧の誕生日が伝わっていたらしく、皆が思い思いのプレゼントを用意してくれたらしい。

氷瀧は商店街の皆さんの気持ちがとても嬉しくなった。

 

「またみんなにお礼しないとな……」

 

「なーに言ってんだよ!!これはみんなからの日頃のお礼だって!!お礼にお礼を返すなんて変だろ?」

 

氷瀧は少し照れ臭くなり鼻の先をかいた。

 

「あぁー、ひーくん照れてるー」

 

「照れてない!!」

 

「それじゃー、改めてモカちゃんからのプレゼントを渡すよー」

 

大きめの段ボールの中にはマンガの単行本が20冊ほど入っていた。

 

「これはマンガか?」

 

「そうこのマンガはある理由で文明を失った人達が、再び文明を取り戻すための努力や葛藤が描かれてるモカちゃんオススメのモカってるマンガなのだー。そして、最新刊ではry……」

 

「モカっ!!それ以上言ったら氷瀧君が面白くなくなるでしょ!?」

 

「アハハ、ありがとうなモカ。寝る前に少しずつ読ませて貰うよ」

 

「えへへー♪読んだら一緒に語ろうねー♪」

 

『分かった分かった』と氷瀧はモカの頭を撫でる。

とても心地よかったらしくモカが再び『えへへー』と喜んだ。

 

「それじゃ、次は私だね?」

 

『ジャジャーン』っと自ら効果音を付けたし、ひまりはプレゼントを差し出す。

小箱のようなそれを氷瀧は取り出して中身を確認する。

 

「これは?」

 

「それはねぇ?アンティークなアクセサリーボックスだよ?氷瀧君って、ネックレスとか部屋に飾らないタイプでしょ?だからこの箱に入れておけばオシャレかなって♪」

 

アンティークなアクセサリーボックスは氷瀧の部屋のイメージに合っている。

飾りながら収納する。

オシャレなひまりなりのアイデアが詰まったプレゼントとなっている。

 

「ありがとう。お気に入りのネックレスはこれに入れて保管させて貰うよ♪」

 

「どういたしまして♪」

 

「……それじゃ、次は私だね」

 

蘭はオシャレなブランドの紙袋を渡す。

氷瀧はそのパッケージで自身が好きなメーカーの物だと確信する。

その中身は香水だった。

 

「これ、俺の好きなメーカーじゃん。良く知ってたな?」

 

「たっ、たまたまだよ。たまたま」

 

蘭は顔を真っ赤にして否定した。

しかし蘭は事前の調査で氷瀧が好きなメーカーをリサーチしていた。

その上で、氷瀧の趣味が香水集めであることを知っていたので蘭にとってはプレゼント選びはそれほど悩ましい物では無かった。

 

「ありがとう。プライベートで使わせて貰うよ♪」

 

嬉々する氷瀧の表情に蘭は自らの心も満たされていく事を感じた。

 

「そういえばこっちは父さんから。いらなかったら捨てていいからね?」

 

前回のライブの際に約束していたとっておきの日本酒とそれに合う有田焼の焼酎グラスが入っていた。

 

「絶対捨てない!!今夜から少しずつ大切に飲むんだ♪」

 

氷瀧は日本酒セットを大切そうに抱き締めた。

 

「あとはつぐだな?」

 

「わ、私はまだいいよ!!あとで渡すから!!」

 

「そうか?ならちゃんと後で渡せよ?」

 

「う、うん……」

 

歯切れの悪さをつぐみが残したが、続いて花音がプレゼントを取り出す。

 

「あの、これはこころちゃんの黒服さん達から『弦巻家を代表してのプレゼントです』って預かって来ました。氷瀧さんが必ず喜ぶ物だから、氷瀧さん以外は開けないようにしてくださいって言ってました」

 

「ありがとう。早速開けようか?」

 

氷瀧の目の前には横長の茶封筒とプレゼント包装されている箱がある。

あの弦巻家からのプレゼントである。

全員が固唾を飲んで見守った。

氷瀧はまず茶封筒から開く。

そこにはクリアファイルに何か資料の様な物が挟まっている。

氷瀧はその資料に目を通す。

 

「………………なるほど………こう来ましたか……」

 

氷瀧は喜ぶどころか顔面がひきつっている。

氷瀧は慎重に資料を茶封筒に戻した。

続いて、プレゼント箱の中身を確認する。

 

「こ、これは!!」

 

中には包丁のセットが入っていた。

氷瀧が前々から欲しいと言っていた、職人の包丁の特注品である。

※第9話参照。

 

「た、誕生日に包丁って……嬉しいのかしら?」

 

しかし、氷瀧の瞳はオモチャを貰った子供のように輝いていた。

そして花音だけが知っている。

氷瀧がどれだけこのメーカーの包丁を欲しがっていたか。

※第9話参照。

 

「それじゃあ、他にプレゼントを渡してない人はいないね?それじゃあ、今日はこれで解散!!」

 

「みんな今日は本当にありがとう!!」

 

料理対決が始まった時とは別人の様に氷瀧の表情は明るくなっていた。

 

そんな氷瀧の表情を確認してほっとした蘭は羽沢珈琲店の外に出てから、千聖に声を掛けた。

 

「あの千聖さん?」

 

「どうしたの?蘭ちゃん?」

 

「この前は、突っかかってゴメンなさい」

 

「いいのよ。蘭ちゃんの気持ち、私にも分かるもの」

 

蘭は他に人がいないのを確認してから会話を続ける。

 

「……やっぱり千聖さんも氷瀧君の事……」

 

「……そうね。私"も"って事は蘭ちゃんも?」

 

「はい、私はずっと氷瀧君が好きです。だから……」

 

千聖に向けて、蘭が右手を差し出す。

 

「負けませんから」

 

千聖は蘭の右手を握り返す。

 

「私も遠慮しないわよ?」

 

「望むところです」

 

二人はライバルとして正々堂々闘う事を握り合った手に誓った。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「おにーちゃん、いるー?」

 

入浴後に氷瀧の部屋を訪れたつぐみはドアをノックし声を掛ける。

しかし中からは返事はない。

部屋のドアを開け部屋の中を確認するが、今日貰ったプレゼント達がテーブルに置かれているだけで氷瀧本人はいなかった。

また氷瀧がどこかに行ってしまったのでは無いかとつぐみは不安になったが、その心配は取り越し苦労で羽沢珈琲店のお店側のキッチンに氷瀧はいた。

見つけた氷瀧は包丁を磨いでいた。

 

「やっと見つけた……」

 

「おぉつぐみ。何か用か?」

 

つぐみには視線を送らず、一心に刃先に集中しながら氷瀧はつぐみに問う。

 

「せっかくの誕生日の夜なんだから、ゆっくりしておけばいいのに」

 

「誕生日だからこそ、道具に感謝して念入りに手入れをな?それに今日は色んな人が使ったから、色々負荷が掛かってるだろうし」

 

「お兄ちゃんってホント調理器具の手入れに一生懸命だよね」 

 

一瞬だけ氷瀧の手が止まる。

何かを思い出しているように遠くを見つめた。

 

「お兄ちゃん?」

 

「……なんでもない。そりゃ、調理器具は自分の分身みたいなもんだし、修行時代に厳しく躾られているからな」

 

「やっぱりフランスのお店の修行って厳しかったの?」

 

「そうだな……。厳しかったかどうかは分からないが最初の1ヶ月はお店用の玉子1つ割らしてくれなかったな」

 

「その1ヶ月は何かをしてたの?」

 

「基本的に洗い物と接客だ。昔から『弘法筆を選ばず』とか『下手の伊達道具』とか言うけどさ?ウチの師匠は『道具を大切にしないやつは料理をする価値なし』ってタイプだったから。実際にウチの店で働き始めても、先が見えない洗い物と接客に痺れを切らして何人も辞めていったらしい。幸い俺は、洗い物も接客も好きだったから苦痛では無かったな。それから1ヶ月くらい経ってから住み込みだったってのもあって、仕入れに付き添うようになったんだ。仕入れの目利きはその中で養ったんだ」

 

「師匠さんに教えて貰ったの?」

 

「それもあるが、一番は市場にいる人達だな。俺って小さい頃から英語とフランス語習ってたろ?だからコミュニケーションには困らなくてな?」

 

「フランスの市場なんだから、フランス語でいいんじゃないの?」

 

「基本的にはな?ただフランスはEU加盟国だから、ヨーロッパ中から人が集まる。中には英語で話す人もいるからな」

 

「なるほど……。確かに3か国語を喋れる人って希少かもしれないね」

 

「そうなんだよ。それが便利って理由でエルメから仕入れに付き添うように言われたんだよなー」

 

氷瀧は慈しむように微笑む。

きっといい思い出だったのだろうとつぐみは察した。

 

「ねぇお兄ちゃん?」

 

「なんだ?」

 

「今日の誕生日どうだった?」

 

「そうだな……。沢山の人に祝わって貰えて、普段はしないような経験をできて俺は楽しかったぞ」

 

「そっか~良かった~♪あのね?今日はお兄ちゃんの誕生日をみんなで祝えて私も嬉しかったんだ♪」

 

「なんで、つぐみが嬉しいんだ?」

 

「だってお兄ちゃんの誕生日を祝えたのは四年ぶりだもん。…………お兄ちゃんがフランスにいる間にね?お父さんからはお兄ちゃんはフランスで自分のお店を出すから、日本にはもう帰ってこないかもしれないって言われてたから……。もう一緒に誕生日やクリスマスを祝ったり、お正月を迎えることができないんだって思ったら寂しくなっちゃって」

 

「最初はそのつもりだったんだがな?急がば回れと言うが、日本に帰ってくることが自分の夢の近道になるとは思わなかったな」

 

「近道?」

 

「おっと、これはまだ誰にも秘密だ」

 

氷瀧は口の前で人差し指を立てる。

 

「もう一つ聞いてもいい?」

 

「いいぞ」

 

「私が高校を卒業したらまたフランスに戻っちゃうの?」

 

つぐみにとってずっとしたかった質問をいい機会なのでしてみた。

氷瀧がまたフランスに旅立つなら、自らの寂しさを抑えて応援しようとつぐみは密かに覚悟を決めていた。

しかし氷瀧から返ってきた回答は意外にも、否定的な言葉だった。

 

「いや、また修行し直す事があればフランスに行くかもしれないが、自分の店は日本で持つ予定だしな」

 

氷瀧は包丁をしまうと今度はティーポットを磨き始めた。

 

「そういえばつぐみ、何か俺に用があったんじゃないのか?」

 

「っつ!?……えっと……その……」

 

「??なんだよ?お腹でも空いたのか?おにぎり握ってやろうか?」

 

「違うよ!人を食いしん坊みたいに言わないで!!」

 

「そうか?育ち盛りなんだから遠慮はいらないのに……。それで?どうしたんだ?」

 

「えっと……これなんだけど……」

 

つぐみは氷瀧に向けて誕生日プレゼントが入っている箱を手渡した。

 

「開けていいか?」

 

「う、うん!大丈夫だよ!!」

 

氷瀧がプレゼント箱を開けると中には白シャツとチャコールのミドルエプロンが入っていた。

 

「仕事用のシャツとエプロンか?」

 

「う、うん……。ただ、みんなみたいにオシャレなブランド品とかじゃなくて……私の手作りだから……継ぎ目と縫い目が粗いかも……。それに格好だって悪いかもしれないし……。デザインは燐子さんに相談したから、大丈夫だとは思うんだけど……」

 

確かにつぐみの言う通り、市販の物と比べると縫い目が多少荒く手作り感はある。

そして手縫いで"羽沢珈琲店"と縫われている。

 

「ゴメンね?もっとちゃんとした物にすれば良かったね?」

 

「……つぐみ、ちょっとだけ向こう向いてろ」

 

「???」

 

つぐみは氷瀧に言われるがままに背を向ける。

数十秒後には『いいぞ』と声を掛けられた。

つぐみが氷瀧と正対すると氷瀧はシャツとエプロンを着用していた。

 

「似合うか?」

 

「…………うん!凄く似合ってる!!」

 

氷瀧は満足そうにどや顔をする。

 

「そうか……だったら良かった。つぐみが作ってくれたエプロンが似合わないような男だったら、まだまだ男として磨きが足りない証拠だからな。ありがとう、大切にするよ」

 

氷瀧はつぐみに微笑む。

つぐみは満足そうに微笑み返した。

 

氷瀧はお店用の冷蔵庫から二切れケーキを取り出す。

 

「これは?」

 

「洋梨のムースだ。今の時期が旬の洋梨をまるごとブランデーでフランベした物を、これまた今が旬の瀬戸内レモンで作ったムースをケーキに乗せた物だ。これは玉子にもこだわっていて、お店で出す物じゃないから、これは特別なケーキだ」

 

「わぁ美味しそう♪」

 

「それじゃ、二人だけの誕生日会を始めるか。紅茶淹れるな?」

 

「あ、私も手伝う!」

 

「だったらお湯を沸かして、ティーカップを温めておいてくれないか?」

 

「うん!任せて!!」

 

つぐみと氷瀧は、羽沢珈琲店での二人だけの誕生日会の準備に取り掛かる。

二人にとって何気ないけど、とても大切な時間となった。

 

 

 




いかがでしょうか?

氷瀧の誕生日会も無事に終わり、次回から日常に戻っていきます!
デート回は2話後くらいに書きますので今しばらくお待ちください。

では今回はこの辺で失礼します。
次回はまたしばらく間が空くかもしれませんが、気長にお待ちいただけると幸いです。

評価・ご感想・お気に入り登録ドシドシお待ちしております。

執筆の励みになりますので小さな感想でもとてもとても嬉しいです(^^)

それではまた次回!ほなっ!(^^)ノシ
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