普通過ぎる妹とおかし過ぎる兄の話   作:テレサ二号

6 / 20
どうもテレサ二号です。

仕事が今年一忙しくて中々更新できずに申し訳ありません。
そんな中で今やってるアフグロのモカちゃんイベントだけはしっかり見ています。
ストーリー泣けました( ;∀;)

では本編です!!
今回も長めなので少しずつ読んでください




Order 6:天災×天才×天祭

千聖達の騒動があった翌日の夕方、日菜は羽沢珈琲店を訪れていた。

 

「今日は羽沢珈琲店と中継が繋がっております、中継先の日菜ちゃーん。………………はいはーい♪私は今、巷で噂の羽沢珈琲店の前に来ております!早速、店内に入ってみましょー♪」

 

勿論中継も繋がっていないしカメラも無い。

彼女は今、中継ごっこで遊んでいるようだ。

 

「店内は思ったよりお客さんがいませんねー?」

 

「いらっしゃいませ……って何しに来たんだ?残念だったな今日はつぐみはいないぞ。バンドの集まりがあるらしいからな」

 

氷瀧は嫌そうに日菜を見た。

 

「えぇー!!何で私こんなに嫌われてるの!?」

 

「ふん、自分の胸に聞いてみな!」

 

日菜は自分の胸に手を当ててみた。

 

「シーンとしてて何も聞こえないよ?」

 

「ホントに確認するやつがあるか」

 

「あの……私達初対面ですよねー?」

 

「この前、お菓子教室でクリームチーズブラウニーの作り方を教えて上げたのは誰だったか忘れたのか?」

 

氷瀧は日菜に脅すように微笑みかけた。

 

「チーズブラウニー?…………もしかしておねーちゃんが持って帰って来たやつかな!?」

 

「お姉ちゃん?」

 

「あ、もしかして私とおねーちゃん間違えてます?私、この前お菓子教室に参加させていただいた氷川紗夜の双子の妹で氷川日菜って言います!」

 

「確かに言われてみれば、顔も微妙に違うし髪型も違うな」

 

「おねーちゃんがこの前作ってたるん♪とするブラウニーを教えてくれたのはお兄さんだったんだねー」

 

「るん♪とはどういう意味だ?」

 

「るん♪はるん♪だよー♪」

 

(わ、分からない……)

 

「とにかく、まず座ってもいいですか?」

 

「失礼しました。席へご案内致します」

 

氷瀧は空いているテーブル席へ日菜を案内した。

 

「うーん、何かこの席るん♪としないな……。カウンター席にしてもいいですか?」

 

「構いませんよ?」

(空いてるのにカウンター席をご所望とは珍しいお客さんだな)

 

日菜はカウンターに座ると嬉しそうに周囲を見渡した。

 

「お兄さんの作ったお菓子ってあります?」

 

「一応メニューには、パティシエこだわりの日替りケーキがありますが本日は完売しております」

 

元々メニューには氷瀧の作ったメニューは無かったのだが、母曰く氷瀧が作ったメニューはありますかという質問が良くという理由で最近になって増設された。

 

「そっかー……それは残念だね。てゆうかお兄さん、おねーちゃんには敬語使わないんでしょ?敬語はいらないよ?」

 

「分かった。それで注文は?」

 

「うーん、アイスコーヒーで!」

 

「承りました」

 

氷瀧はアイスコーヒーの準備を始める。

コーヒーを淹れながら先ほどの会話の経緯について尋ねた。

 

「どうして俺の作るお菓子を食べたいと思ったんだ?」

 

「それは内緒だよー♪」

 

(不思議な子だな。姉と違って人を引き寄せる明るい子だな)

 

「そういえばお兄さんって、つぐちゃんのお兄さんなんだよね?」

 

「あぁ、もしかしてつぐみの知り合い?」

 

「うん♪私が生徒会長でつぐちゃんが副会長だからね!」

 

「会長!?」

 

氷瀧は日菜に深々と頭を下げた。

 

「つぐみがいつもお世話になっております」

 

「いえいえ♪つぐちゃんにはいつもつぐって貰ってるから♪」

 

「つぐる?」

 

「そう!つぐる!」

 

「どういう意味なんだ?」

 

「つぐるはつぐるだよー♪」

 

(初めて紗夜ちゃんにいて欲しいと思った……)

 

「それとねー。千聖ちゃんがね?ふが……」

 

そこには千聖本人が立っていて。

日菜の口を塞いでいた。

 

「ふはほはーん」

 

「いらっしゃい、久しぶりだね」

 

「お久しぶりです」

 

「ご注文は?」

 

「アイスティーをお願いします」

 

「承りました」

 

氷瀧は紅茶の茶葉を取りに奥に消えた。

 

「日菜ちゃんはどうしてここに?」

 

「んーとねー。この前の千聖ちゃん、つぐちゃんのお兄さんが作ったクッキー食べて"ぷわぁ"っとしてたじゃん?だからきっとお兄さんのスイーツの虜になってるんじゃないかなー?と思って。だ・か・ら、お兄さんのスイーツ食べたらるん♪とするかもと思ってー♪」

 

(あながち間違ってないけど、氷瀧さん本人に聞かれなくて本当に良かった)

「ねぇ日菜ちゃん?私達が芸能人だってことお兄さんには伝えたの?」

 

「まだだよ?」

 

「だったら秘密にしておいてくれない?」

 

「どーしてー?」

 

「…………ほら、私達芸能人だってリラックスできるお店が必要だと思うのよ」

 

「確かにそーかもね!」

 

「黙っていて貰う代わりという訳じゃないけど、最近駅前にできた豆柴カフェの招待券をスタッフさんからいただいたからこれを日菜ちゃんに上げるわ。紗夜ちゃんを誘ってみたらどうかしら?」

 

「最高にるん♪と来た!!今からおねーちゃんを誘ってくる!!」

 

日菜は招待券を握りしめると一目散に店から出て行った。

 

「何も今行かなくても………」

 

千聖は日菜が出て行った後の扉を見つめていた。

 

「あれ?日菜ちゃんは?」

 

「急用ができたみたいで帰られました」

 

「………………無銭飲食だな……」

 

「………………私が立て替えておきます……」

 

二人の間に複雑な空気が流れた。

 

注文した紅茶を飲んでいた千聖は氷瀧の頬に貼られているガーゼを見つけた。

 

「頬の傷治らないんですか?」

 

「どうも治りが悪くてね。一応医者から手当てを受けたんだけど、傷が残りそうだってさ」

 

「…………ゴメンなさい。私のせいで……」

 

千聖の瞳には氷瀧への罪悪感から涙が溢れていた。

氷瀧は少し驚きながらも千聖にハンカチを差し出した。

 

「千聖が悪い訳じゃないさ。振り返ってみると男性を煽るような言い方をしてしまった自分にも責任がある。まぁ、女の子を守って受けた傷だから"名誉の傷"ってやつだね。つぐみには凄く心配掛けちゃったけどさ」

 

千聖の涙は止まらない。

気がつけば店内は客がいなくなり、千聖と氷瀧の二人きりとなっていた。

そんな様子を伺っていた母はそっと店の立て札を営業中から準備中にひっくり返し、氷瀧へアイコンタクトを送った。

 

(女の子を泣かせたんだから、責任を持って笑顔にしなさい!)

 

(まて、泣かせたのは俺ではない)

 

(女の子1人笑顔にできないなんて、それでもパティシエかしら?)

 

(ぐっ……)

 

(それにつぐみのお友達を泣かせたのならつぐみから嫌われるかもしれないわよ)

 

(見せてやるよ、一流のパティシエの力を!!)

 

(はいはい、頑張ってね)

 

母親は手をヒラヒラさせると店の奥に消えた。

母親を見送ってから氷瀧何かを作り始めた。

 

しばらくすると何か硬い物が千聖の頬をつついた。

 

「???」

 

「泣かないで欲しいさぎー。千聖ちゃんの笑顔が見たいさぎー」

 

千聖が顔を上げると折り紙で鳥のような物を作った氷瀧がアフレコをしていた。

 

「これは?」

 

せっかくのボケを千聖に全く触れられず、氷瀧は羞恥心で顔を真っ赤にながらも折り紙を続けて行った。

 

「……………………」

 

(意外と無邪気な所もあるのかしら……)

 

「お、俺達ってさ」

 

「???」

 

「…………俺達の名前って似てないか?」

 

「千聖と氷瀧がですか?」

 

「ファーストネームは似てないけどさ、白"鷺"千聖に羽沢"氷瀧"。どちらも名前に鳥が入ってる」

 

「鳥ですか?」

 

「氷瀧の名前の由来は鶲(ひたき)という鳥から取ったと母が昔言っていた。自分の夢を見つけたら迷わず巣から飛び立って行って欲しいという母の願いが込められているらしい」

 

「素敵な名前……」

 

「だから俺達は鷺と鶲という鳥に導かれて出逢えたのかもしれない。この出逢いは運命なのかもしれないね」

 

「運命……」

 

千聖は顔を真っ赤にして俯いた。

そんな千聖の視線の先に二羽の折り紙がおかれた。

それぞれが鷺と鶲の折り紙なのだと千聖は理解した。

 

「その折り紙あげるから笑顔になってくれよ」

 

「…………私が折り紙で喜ぶような女の子だと思ってるんですか?」

 

「も、もちろん今度来たときにケーキもご馳走するからさ!今日はもう俺が作ったケーキが完売してて…………。あ!母さんが作ったケーキならあるし、そっちを食って行くか!?」

 

「フフフ……冗談ですよ。それに氷瀧さんが作ったケーキがいいです」

 

「そ、そうか」

 

「だから今日はこの折り紙で我慢しますね」

 

「我慢とか言うなよ。綺麗に折れてるだろ?」

 

「では家宝にしますね?」

 

「そこまで大袈裟にしなくていい!」

 

ようやく千聖と表情に笑顔が戻り、氷瀧は安堵した。

 

「でも、このまま何もしないのは私の気持ちが収まりません。何かお詫びをさせてください」

 

「………………だったら約束しないか?」

 

「約束??」

 

「もし今後、千聖の目の前で誰かが涙を流して悲しんでいるときは必ず手を差し伸べてやってくれないか?」

 

「誰かが?」

 

「そう。間接的にその誰かの助けになるなら俺も嬉しいからさ」

 

「氷瀧さんって、キザなんですか?」

 

「キザじゃねぇよ!!ただ産みの親より育ての親って言うだろ?俺は育ての親の影響が強いのかもね」

 

「育ての親ですか?」

 

「まぁその話はまた今度で……。それで約束して貰えるのかな?」

 

「…………分かりました」

 

「じゃあ、ん……」

 

氷瀧は右手の小指を差し出した。

恐る恐る小指を差し出した千聖の小指を氷瀧の小指が迎えに行き、小指同士が交わる。

 

「Cross my heart and hope to die, stick a needle in my eye.」

 

「そこは指切りげんまん~♪じゃないんですか?」

 

「千聖……歌上手いな」

 

「論点がズレてます!!」

 

「あぁ、日本の指切りげんまんってあんまり好きじゃないんだよな。だって、約束破ったらゲンコツ1万回と針1000本飲ませるんだそ?重すぎるだろ?」

 

「い、言われて見たらそうかも……。それじゃあ、さっきの英語の意味は?」

 

「キリスト教の言葉で『十字を切って神に誓うよ。破ったら死んでもいい。針を自分の目に突き刺すよ』って意味だ」

 

「そっちも充分重たいじゃないですか!!」

 

「こっちは自分自身への戒めだからいいの!指切りはある意味脅しじゃねーか!」

 

「フフフ、氷瀧さんって変なところに拘りがあるんですね。いいですよ。私も神に誓います」

 

「千聖にも神の祝福があらんことを……」

 

絡み合う小指の温もりに千聖は心も暖まっていくのを感じた。

 

「そういえば氷瀧さんって何で金メッシュなんですか?」

 

「それもまた今度かなー」

 

「えぇーー」

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「暑くなって来たねー」

 

「確かにな」

 

「モカ行儀悪い」

 

「蘭ってば厳しいー」

 

「氷瀧君に嫌われるよ」

 

モカはビシっと姿勢を正した。

 

「みんなバンドの練習お疲れ様、みんなの為にケーキを用意したぞ?」

 

「ひーくん大好きー!!ラブ~!!」

 

「モカ!氷瀧君に抱きついちゃダメ!!」

 

氷瀧に抱きついたモカを蘭とひまりが引き離した。

 

「それでお兄ちゃん、今日は何のケーキを用意してくれたの?」

 

「スイカのケーキだ」

 

「「「「スイカのケーキ!?」」」」

 

「スイカって言ったら、ガブガブ~っと食べてプーっと種を吐き出すのが一般的じゃない?」

 

「モカ、行儀悪い」

 

「あ、私もあこと良くそうやって食べてるからモカに言及できないな……」

 

「どうしてスイカのケーキなの?」

 

「この前八百屋さんの娘さんが誕生日でケーキの依頼を受けたんだ。勿論お金はいただいたんだけど、娘さんが凄く喜んでくれたらしくてそのお礼でスイカをいただいたんだ。北海道の"でんすけすいか"っていうブランド品らしくて凄く甘いんだ。そのままでも美味しいんだけど、せっかくだからケーキにしたら贅沢だろ?」

 

「最高級の食材を使って作られたひーくんのケーキ。これは食べる前から美味しいのが分かるよー。あ、ひーちゃんはダイエット中だったよね?」

 

「私も絶対食べるからね!!」

 

「ひ、ひまりちゃん落ち着いて?」

 

「ケンカしたらケーキ無しだぞ?」

 

「「………………」」

 

二人は一瞬で静かになった。

氷瀧は冷蔵庫からスイカのケーキを持って来た。

※レシピは最後に載せます。

 

ケーキは三層仕立てになっており、下から抹茶のスポンジ・スイカのババロア・スイカゼリーの順で重なっている。

 

「き、綺麗~♪」

 

「ま、まるで宝石のようだ」

 

ひまりはSNS投稿用に写真を撮った。

それを終えるのを待ってから、氷瀧はケーキを切り分けお皿に盛り付けた。

 

「「「「「いただきまーす!」」」」」

 

「召し上がれ♪」

 

「…………おいひー♪」

 

「今度レシピ教えてくださいね?」

 

「私も知りたい!!」

 

「あぁ、いいよ」

 

「お兄ちゃん、八百屋さんにお礼は?」

 

「同じものをお渡ししたよ。とても喜んでいてくれた」

 

「さすがお兄ちゃん、抜け目ない」

 

喜んで食べる五人の表情に氷瀧は笑みを溢した。

しばらくすると店の入口から黒服を来た女性数名と一人のご年配が入店してきた。

 

「いらっしゃいませー。誠に申し訳ごさいませんが、現在準備中となっております」

 

「羽沢氷瀧様は御在宅でしょうか?」

 

「自分ですが?」

 

「申し遅れました、私弦巻家の執事長の蔵宇土(クラウド)と申します」

 

「当て字かよ。偽名じゃねーだろうな?」

 

「お、お兄ちゃん!!初対面の方に失礼だよ!!」

 

「いえ、良く言われますので大丈夫です」

 

「それで?何か俺に御用ですか?」

 

「本日は御仕事を依頼したく参らせていただきました」

 

「???」

 

「来たる8月8日に弦巻家の一人娘であらせられるこころ様のお誕生日となっております。それを祝して旦那様が世界中のお菓子職人を集め、スイーツ王決定戦を開催したいと申しております」

 

「何故俺に声が掛かるんですか??こんなしがない喫茶店の店員にお声が掛かる訳が無いのは、俺で無くとも分かると思いますが?」

 

「大変失礼ですが、元々羽沢様のお名前は候補にも上がっておりませんでした。しかしながら、フランス在住の世界一のパティシエと名高いセドリック・エルメ様に御依頼をした所、依頼はお断りされたのですが『私の一番弟子の氷瀧という男が日本にいる、私は彼を推薦する』と御言葉をいただき、今に至ると言う訳です」

 

「なるほどね。エルメの推薦なら納得だ」

 

「勿論タダでとは言いません。参加していただけるのなら100万円、優勝賞金は5000万円となっております」

 

「「「「「5000万円!!!」」」」

 

「5000万円あれば、パンがえーっと……」

 

「パンより服がいくらでも買えるよ!!」

 

「新しいギターが欲しいかも……」

 

「私はドラム欲しいな………」

 

「それで?いかがでしょうか?」

 

「分かりました。エルメからの推薦ならば断る理由もありませんし」

 

「ありがとうごさいます」

 

「必要な備品も御連絡いただければ当家で用意致します。何かあればこちらまで御連絡ください」

 

黒服の女性は氷瀧に向け名刺を差し出した。

 

「それでは本日は失礼致します」

 

弦巻家の執事は黒服の女性達を連れて店を去った。

 

「それじゃあ氷瀧君の表舞台も決まった事だし、気合い入れる為にあれやっとく?」

 

「あれ?」

 

「せーの!えい!えい!おー!!」

 

「「「「「・・・・・」」」」」

 

「何で誰もやらないのー!?」

 

ひまりの悲痛の叫びが店内にこだました。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

その夜、氷瀧のスマホにエルメから着信があった。

 

「久しぶりだね氷瀧」

 

「まだ1ヶ月くらいしか経ってないだろ」

 

「どうだい?そっちの生活には慣れたかい?」

 

「元々はこっちの生活だったんだから、慣れるとか無いよ」

 

「それもそうだね。それよりスイーツ王決定戦の話はもう聞いたかな?」

 

「あぁ、まさかエルメから推薦されるとは思ってなかったよ」

 

「私は訳あって参加しないが、氷瀧には私の一番弟子として恥ずかしくない行動を期待するよ」

 

「何か引っ掛かる言い方だな」

 

「それではまた。今度は氷瀧から電話してくれると妻も喜ぶ」

 

「電話ありがとう。婦人にもよろしく」

 

氷瀧は電話を切るとエルメからの期待とエルメ弟子という重圧を感じ、今一度身を引き締めた。

 

「とにもかくにもまずは情報収集だな」

 

氷瀧はつぐみの部屋を訪れるとつぐみの了承を得てから部屋に入った。

 

「………………」

 

「どうしたのお兄ちゃん?」

 

「可愛い部屋だな。いい匂いもするし。……学生の内は俺以外の男を連れ込むなよ?」

 

「連れ込まないよ!!」

 

つぐみは顔を真っ赤にして否定した。

 

「それで何か用事?」

 

「弦巻こころさんの情報を知りたくて、好きな食べ物とか好きな事とか知ってるか?」

 

「うーん、こころちゃんは何でも好きで嫌いな物は無いかな?」

 

「おいおい、情報屋つぐみの名が泣くぜ?」

 

「そんな大それた名前は持ってないよー!」

 

「特に秀でた情報は無しか」

 

「力になれなくてゴメンね?」

 

「そんな事は無いさ。いつも助かっているよ」

 

氷瀧は優しくつぐみの頭を撫でた。

 

「だとすると……ここは料理の基礎に立ち戻るか」

 

「料理の基礎?」

 

「完璧な料理の条件ってなんだと思う?」

 

「うーん…………美味しい事かな?」

 

「間違いでは無い。むしろ正解だと言える」

 

「お兄ちゃんは何だと思ってるの?」

 

「これは師匠の受け売りだが、"六感の全てを満足させる料理"だと思っている」

 

「六感全て?」

 

「味覚、視覚、聴覚、嗅覚、触覚、心の全てを満たす事。特にスイーツはこの6つ全てを満たすのは中々難しい」

 

「五感じゃないの?」

 

「これもエルメの受け売りだが、『お腹を満たしたいなら家でいい。お金をいただく以上は心を満たしてプロだ』」

 

「凄いプロ意識……」

 

「そんな訳で六感を満たせるスイーツを作ってみせるよ。期待しててくれ」

 

「うん!楽しみにしてるね!」

 

氷瀧はもう一度つぐみの頭を撫でてから部屋に戻った。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「とは言ったものの……決まらねー」

 

机の上には沢山の資料が置かれている。

氷瀧は何を作るかイメージが湧かず苦戦を強いられていた。

 

「ウダウダしてもしょーがないし、気分転換にでも行くか」

 

氷瀧は手荷物を持つと目的の場所へ向かった。

 

 

 

 

数時間後、帰宅した氷瀧の胸につぐみが飛び込んで来た。

 

「ゴフッ!」

 

「どこに行ってたの!?心配したよー!!」

 

氷瀧はつぐみの頭を撫でながら周囲を見渡すと、机に伏せている父とそれを苦笑いで見ている母がいた。

 

「おい母さん、こいつは一体どういう状況だ?」

 

「母さん巨人化なんてしてないわよ?」

 

「お、ボケに気づいてくれたんだ?」

 

「だてに長年アンタの母親やってないわよ」

 

「それで?何があったの?」

 

「つぐみが氷瀧の部屋に行ったら部屋の本棚が散らかっていて、心配して電話してもアナタ出ないでしょ?お父さんが『もう氷瀧は帰ってこないかもしれないな』ってつぐみを煽ったら、『そんな事言うお父さんなんて嫌い!!』って言われてお父さんショックを受けてるのよ」

 

「あ、ホントだ。スマホの電源切れてる。……つぐみ?心配掛けてゴメンな?」

 

「もう私に内緒でいなくならないでね?」

 

「あぁ分かった。それとそろそろ離れてくれないか?お兄ちゃんの一日の尊さがオーバーしてしまう」

 

「…………!!ゴメンね!?苦しかったよね?」

 

「いや、苦しくは無いが色々困るから……」

 

「???。それより作品のイメージできた?」

 

「あぁ、バッチリだ!!本番楽しみにしてな!」

 

氷瀧は部屋に戻ってからイメージを硬めつつ、弦巻家に必要な物の発注依頼を掛けた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

そして迎えたこころの誕生日当日、氷瀧は沢山のパティシエに囲まれて少し緊張していた。

 

「うわー……みんな雑誌とかで見たことある人ばっかりだ」

 

氷瀧は観客席につぐみとアフグロのメンバーを見つけた。

氷瀧は手を振るとモカだけが嬉しそうに手を振り返して来た。

特につぐみは自分の事のように緊張しているようだ。

 

そして弦巻家を代表して執事の蔵宇土さんが挨拶を始めた。

 

「本日はご多忙の中お集まりいただき、ありがとうございます。優勝賞金5000万円を目指し、存分に励んでください!それでは調理開始!」

 

「羽沢様、まずは参加料の100万円をお渡し致します。それとご所望の器具や食材は羽沢様用のキッチンブースにご準備させていただいております」

 

「ありがとうございます」

 

氷瀧はキッチンブースに着くと周囲を見渡した。

すでに皆調理を始めており、中には持ち込みの物でほぼ完成している人もいた。

 

「隣で調理方法見ていたいくらいレベル高いな。さて俺も始めますか……」

 

氷瀧は予め用意されていた最高級のベルギー産チョコレートを湯煎する。

氷瀧は一口チョコレートを試食した。

 

「すげぇ上手い。流石は弦巻家、最高級のチョコレートを用意してくれた。つぐみ達にも食わせてやりたいな」

 

湯煎したチョコレートに水色の油性色素を加えて水色にしていく。

綺麗な水色になったチョコレートを半円の透明なカップに流し込みチョコレートを型取りをしていく。

 

「さてここから秘密兵器の投入だ」

 

氷瀧は革製の手袋を着用すると鉄製の容器の蓋を開いた。

容器の中から冷気が沸き立つ。

容器の中身は液体窒素だ。

液体窒素にイチゴ・バナナ・マスカット・ネーブル・チョコレートなどを入れ、瞬間冷凍していく。

 

「あとはソース作りか……」

 

しかし氷瀧は何が引っ掛かり作業を中断した。

その間にも他のパティシエは作品を作り上げて行く。

 

「あれー?ひーくんの手が止まったねー?」

 

「お兄ちゃんどうしちゃったんだろ?」

 

「レシピ忘れちゃったのかな?」

 

「ひーちゃんじゃないんだから」

 

アフグロのメンバーが氷瀧を心配そうに見つめる。

当の氷瀧は思考を巡らせていた。

 

(なんだろ……この違和感。何か大事な事を見落としている気がする)

 

氷瀧は今日の主役である弦巻こころに視線を向けた。

どうやらちょうどケーキを食べ終えた所のようで笑顔になっている。

そんなこころに数名の女子が話し掛けている。

その中にはぐみを見つけた。

 

(はぐみはこころさんの友達なのか)

 

黒髪の少女からプレゼントを渡されたこころは今日一番の笑顔を見せた。

氷瀧はエルメの言葉を思い返していた。

 

 

『私は訳あって参加しないが、氷瀧には私の一番弟子として恥ずかしくない行動を期待するよ』

 

参加できないのでは無く参加しない。

結果では無く行動を期待する。

 

(そういう事かよ……あのオッサン俺を試しやがったな。さてどうしたものか……)

 

氷瀧はおもむろにスマホを取り出すと電話を掛け始めた。

電話相手は妹のつぐみである。

当然つぐみと視線が合う。

 

「もしもしお兄ちゃん?どうしたの?」

 

「もし俺が優勝できなかったら悲しいか?」

 

「残念だけど悲しくないよ?何かあったの?」

 

「俺がしたい行動をすると優勝は100%できない。そうするとつぐみ達の期待に背く事になる」

 

「私は……お兄ちゃんが納得の行く事をして欲しい。お兄ちゃんの選んだ事なら私は応援するよ!」

 

「そっか……ありがと。つぐみ……」

 

「ん?」

 

「愛してる」

 

まさかの発言につぐみは顔を真っ赤にして俯いた。

氷瀧は電話を切ると手荷物から封筒と小箱を取り出した。

そのまま主催者である弦巻家の皆さんの前に歩み寄った。

そんな氷瀧に執事の蔵宇土さんが声を掛けた。

 

「羽沢様?どうされましたか?」

 

氷瀧は封筒から100万円を取り出すと真上に放り投げた。

一万円札の紙吹雪が舞う。

 

「この大会。辞退させていただきます」

 

「何故ですか?」

 

「この大会の本当の目的はお誕生日であるこころさんのお祝いのはずだ。なのに職人は賞金や名誉の為にケーキを作っていて、誰一人心から誕生日を祝う気持ちがない。こんなの誕生日じゃない」

 

氷瀧はこころに歩み寄り小箱の中からプレゼントを取り出した。

 

「誕生日おめでとうございます。これはこころさんの誕生花のアザレアとクレオメを使ったハーバリウムです。良ければ受け取ってください。それと……」

 

氷瀧は紙とペンを取り出し何かを書きはじめた。

 

 

_______________________________________________

 

招待券 弦巻こころ様

 

羽沢珈琲店にてケーキとお飲み物をプレゼントさせて

いただきます。

お時間がございましたらいつでもご来店ください。

 

有効期限:無期限

 

羽沢珈琲店パティシエ:羽沢 氷瀧

 

_______________________________________________

 

氷瀧はこころに微笑むの踵を返して荷物を持ち会場を後にした。

 

こころは嬉しそうにハーバリウムと招待券を見つめていた。

 

 

 

 

 

 




いかがでしょうか?

今回は日菜ちゃんとこころんを出してみました!
次回は出ないと思いますが後日談は別の機会に執筆したいと思います。

あと別の作者さんの作品を見ていると挿絵があって羨ましいです(*´-`)
俺は絵心無いんで誰か書いてくれませんかね?(笑)
募集するかもです(笑)

ではこの辺で失礼します。
評価・ご感想・お気に入り登録ドシドシお待ちしております。
特に高評価・感想は執筆の励みになりますのでとても嬉しいですm(_ _)m

それではまた次回!ほなっ!(^^)ノシ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。