普通過ぎる妹とおかし過ぎる兄の話   作:テレサ二号

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どうもテレサ二号です。

仕事が過渡期で忙しく中々執筆する時間が無く、更に評価点で0点を執筆活動で初めて付けられたショックでモチベーションが下がっており筆がのりませんでした。
しかし更新していない間もずっとUAが増えていたので待っていてくださる方がいるんだなと感じて頑張れました(ToT)。
いつも本当にありがとうございます!

今月も忙しいのでもしかしたらこれが今年最後の更新になるかもしれません。
皆さん、良いお年をお迎えください。
クリスマス??
平日です。

では、本編です!!



Order 8:パスパレVS羽沢珈琲店

「困ったなぁ……」

 

プールに出掛けてから数日後、氷瀧は頭を悩ませていた。

悩みの種は数日後に迫ったテレビの取材である。

 

『氷瀧には季節のフルーツを使ったケーキとスペシャリテを作って貰うわ』

 

取材内容は最近人気の羽沢珈琲店のお店の雰囲気とスイーツを紹介し、更にフランスで修行した氷瀧のスペシャリテを紹介するという内容らしい。

 

『そもそも何故テレビ局の人が俺がフランスで修行してた事を知っているんだ?』

 

『母さん話しちゃった♪テヘペロ』

 

(このババア……)

 

そして今に至る。

氷瀧は日々ケーキ作りに勤しんでいるので季節限定のケーキを作るのは造作もない。

しかしスペシャリテとなると話は別である。

スペシャリテとはパティシエの最も得意なケーキや看板メニュー、思い入れがあるメニューの事を指す。

 

氷瀧にとって得意なケーキや思い入れのあるケーキはあるが、どれをスペシャリテにするかは決めていない。

今はそれに悩んでいるのだ。

 

「お兄ちゃん大丈夫?」

 

「あぁ、それよりつぐみも看板娘として取材を受けるんだろう?頑張れよ」

 

「う、うん!頑張ってみる!それよりお兄ちゃんでもテレビの取材は緊張するんだね?」

 

「緊張?しないよ。そもそもフランス時代はかなりテレビの取材を受けてたんだ。取材慣れしてるよ」

 

「お、お兄ちゃん芸能人みたい……」

 

「師匠が世界一のパティシエだからな。嫌でも取材は来るんだよ」

 

「じゃあ何に悩んでるの?」

 

「自分のスペシャリテさ。何を出すのが正解なのか決めかねてる」

 

「スペシャリテってどういう意味?」

 

「分かりやすく言うとパティシエの最高の一皿だ」

 

「いつも出してるケーキとは違うの?」

 

「全く違う。そもそも俺がウチの店で出すケーキには2つ気を付けている事がある」

 

「2つ?」

 

「1つ目、材料にこだわり過ぎないこと。これはコストの問題だが、ケーキの単価を上げないように材料の質にこだわり過ぎず技術でカバーできるところはカバーするように心掛けている。単価が上がると学生さんが気楽に来れなくなるからな」

 

「2つ目は?」

 

「見た目に手を加え過ぎない事」

 

「手を加え過ぎない事?」

 

「そう。ウチの店の魅力の1つはアットホームな落ち着く雰囲気の珈琲店だ。そこにブティックで出てくるような見た目にこだわり過ぎたケーキが出て来たら違和感があるだろ?『このケーキ美味しいけど頑張ったらウチでもできるかな?』くらいのシンプルさを心掛けている。それにこれは俺や母さんの下処理を簡略化して作業効率を上げる狙いもある」

 

「さ、さすがお兄ちゃん……。ただケーキを作っているだけじゃないんだ」

 

「母さんはケーキ作りは上手いけどあくまでもアマチュアだからな。プロである俺がリードしないとね」

 

「ねぇお兄ちゃん?」

 

「ん?」

 

「お兄ちゃんがそのスペシャリテを決める基準って何?」

 

「決める基準か……」

 

「お兄ちゃんの事だから、『自分の技術を全て出しきったケーキ』とか『観るものを魅了する芸術的なケーキ』とかじゃない?」

 

「確かにそれは大切な要素だな……」

 

『チョイチョイ』

 

つぐみが氷瀧にこちらに来るように手招きする。

そして口元に手を添えている。

どうやら秘密の話があるようだ。

 

「なんだ?」

 

氷瀧はつぐみの口元に耳を近づける。

 

『フゥー』

 

「ひやっ!!」

 

つぐみが氷瀧の耳に息を吹きかけた。

驚きのあまり氷瀧は乙女のような声を出して耳を押さえならが飛び退いた。

 

「アハハ!ひやっ!だって!お兄ちゃん可愛い~♪」

 

「いきなり何すんだよ!!」

 

「お兄ちゃんは難しく考えすぎ!何でも完璧にこなそうとするのはお兄ちゃんのいい所でもあるけど悪い所でもあるよ?たまには肩の力を抜かなきゃ♪」

 

「この前と立場が逆だな」

 

「お兄ちゃんのスペシャリテはどんなケーキにするじゃなくて誰に食べさせて上げたいかで決めたらどうかな?」

 

「誰に食べさせたいか……」

 

「お兄ちゃんにとって特別な人への想いを込めて作れば、それがきっと最高の一皿になるよ!!」

 

「…………サンキューつぐみ。何か答えが見えた気がする!ちょっと出掛けてくるよ」

 

「うん!行ってらっしゃい!」

 

可愛い妹に手を振って見送られながら店を後にした。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「ハァ……困ったわ」

 

テレビ番組の打ち合わせ終了後千聖は頭を抱えていた。

千聖がベースを務めるPastel✽Palettes(以降パスパレ)の新番組パスパレ散歩の第一回が地元の商店街の人気店のインタビューに決まった。

その中に羽沢珈琲店も含まれている。

 

「千聖ちゃん!新番組の収録頑張ろうね!!」

 

「彩ちゃん……」

 

彼女は丸山彩。パスパレのボーカルを務めているピンク髪の女の子だ。

 

「千聖ちゃん元気が無いみたいだけど大丈夫?」

 

「彩ちゃん…………。大丈夫よ」

 

「私で力になれない事かな?お話を聴くくらいなら私にもできると思うんだけど」

 

「…………そうね。彩ちゃんに話を聴いて貰おうかしら」

 

千聖は自分の悩みを打ち明けた。

羽沢珈琲店に仲の良い店員さんがいてその人に自分が芸能人だということを秘密にしていること。

今回のインタビューでそれがバレてしまい店員さんから嫌われないか心配だということ。

それが原因で羽沢珈琲店に行きにくくならないか不安だということ。

 

「そっか……千聖ちゃん芸能人だということを秘密にしてたんだね」

 

「初めは言おうとしたのよ?ただあの人は私の事知らなかったから言う機会が無かったのよ」

 

「私はその店員さんがどんな人が知らないからいいアドバイスはできないけどきっと大丈夫だよ」

 

「どうしてなの?」

 

「だって芸能人だって知らなくて一般人として千聖ちゃんと仲良くしてくれてるんだよ?きっと千聖ちゃんが芸能人だったとしても関係無いと思うよ?花音ちゃんだってそうだったでしょ?」

 

「…………そうかもしれないわね」

 

「大丈夫!何かあったら私がいるから!」

 

「………………」

 

「何か言ってよー!!」

 

「冗談よ♪頼りにしてるわね彩ちゃん」

 

「うん♪大船に乗ったつもりでいてね!それよりー?」

 

「ん?」

 

「その人ってどんな人なのー?」

 

「それは会ってのお楽しみよ♪」

 

「えぇー」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

つぐみと別れてから商店街をブラブラしていた氷瀧は花屋の前で美竹親子に遭遇した。

 

「あ、氷瀧君」

 

「おぉ、蘭。それと…………お久しぶりですねおじさん」

 

「お前は!!まさか羽沢氷瀧!?一体何の用だ!?」

 

蘭パパは氷瀧と蘭の間に割って入る。

 

「用というほどの事ではありませんが、作品のヒントを求めてブラブラしてました」

 

「ほぅ……確かに数年前に会った時とは別人のようだ」

 

「父さんに何が分かるの?」

 

「こやつの力量などは分からんが、その道で生きていく覚悟ができた男の眼をしている。ちっとはマシな男になったようだな」

 

「父さん!怒るよ!?」

 

「それでも蘭とは月とスッポンだがな」

 

「アハハ……おじさんは相変わらずで少し安心しました」

 

「蘭、私は先に帰っているから彼に付き合って上げるといい」

 

「父さん?」

 

「ただし今日だけだ!それに帰る時は蘭を家まで送るように!送り狼なんぞになったら許さんからな!!…………二十歳になったら一度酒でも交わそう」

 

氷瀧は去り行く蘭パパに頭を下げた。

 

「それで?今日はどうしたの?」

 

「あぁ、この前プールで話してたテレビのインタビューでスペシャリテを作ることになってな?それのアイデアを探してたんだよ」

 

「ふーん、氷瀧君のスペシャリテって食べてみたいかも」

 

「まだ完成していないからまたの機会な?」

 

蘭と氷瀧は花屋を見て回る。

 

「花って心を落ち着かせてくれるよな」

 

「花は無条件で私達の味方でいてくれるからね。それに花には形や色味以外にも花言葉なんかで想いを伝えられる良さもあるよ」

 

「花言葉か……。そういえばつぐみが蘭から色々教えてもらったっていうワレモコウを大切に育ててるぞ」

 

「ワレモコウは私の好きな花だから……」

 

蘭は少し顔を赤らめた。

 

「小学生の頃、私が一度だけ花が嫌いになったの覚えてる?」

 

「そんな事あったっけ?」

 

「覚えてないんだ?」

 

蘭は頬を膨らませた。

そして小学生の頃の話を始めた。

 

 

________________________________

 

 

 

 

小学生の頃の蘭は特別気が強かった訳では無い。

 

そんな蘭が同級生の男の子から実家が華道の家元であることをバカにされ、それが原因で父親と大喧嘩をして家出をしてしまった時の話である。

 

当初幼なじみの実家のどこかにいると踏んでいた蘭パパであったが、蘭は幼なじみの家には行かず隣町の大きな公園のタコの滑り台で雨避けをしていた。

 

当時中学生だった氷瀧を含め、幼なじみの家族を巻き込み数時間の捜索の結果氷瀧がやっと蘭を見つけたのだ。

その時に蘭に氷瀧が贈った言葉が今でも蘭の胸に残っている。

 

「蘭、親父さんとケンカしたんだって?」

 

「お父さんと華道なんてカッコ悪いってケンカしちゃった……」

 

「何故そんな事を言ったんだ?」

 

「クラスの男の子達からお父さんがお花屋さんなんてカッコ悪いって言われたから…………」

 

氷瀧は少し考えてから口を開いた。

 

「蘭達にとって格好いいお仕事ってなんだ?」

 

「格好いいお仕事?…………男の子達はみんなサッカー選手が格好いいって言ってた」

 

「それじゃあ、一流のサッカー選手の条件ってなんだと思う?」

 

「一流の条件?…………それはいっぱい点を取る人じゃないかな?」

 

「確かに結果を出すことはとても大切な事だ。だが俺はそれ以上に大切な事があると思っている」

 

「それってなぁに?」

 

「それはな?その競技の魅力を伝える事ができる事だ」

 

「魅力?」

 

「そう。サッカーにも言える事だが、選手の活躍の裏には色んな人が関わっている。その人達に感謝しながら、その競技の魅力を伝えて競技の発展に寄与している人が本当の一流だと思う」

 

「きよ?」

 

「頑張ってるって事さ。親父さんのお仕事は、お花を頑張って育てた人達に代わってお花の魅力を伝える素晴らしいお仕事だから全然カッコ悪くないよ。むしろ格好いいお仕事だと俺は思う」

 

氷瀧は蘭の頭を優しく撫で微笑んだ。

 

「だから娘のお前がそんな事でどーするんだ?もっと胸を張って堂々としていろ」

 

「…………私、お父さんに謝りたい」

 

「じゃあ、一緒に帰ろう?」

 

「うん!」

 

蘭と氷瀧は手を繋いで家まで帰宅した。

その時、蘭パパから言葉で言い表せないくらいの感謝と後日羽沢珈琲店にとても大きなフラワーアレンジメントが届いたのは後日談である。

 

 

________________________________

 

 

 

「そんな事あったかな?あんまり覚えてないや」

 

「私、それから華道の事もっと好きになれたんだからね」

(その時、氷瀧君の事も……)

 

「俺も蘭のおかげで花の事をもっと好きになったからwin-winだな!」

 

「なんでそんな恥ずかしい事を簡単に言うかな……ボソッ」

 

「何か言ったか?」

 

「何でもない!」

 

蘭は顔を真っ赤にしながら否定した。

その後はしばらく色々な花を見ていた二人だったが、蘭は氷瀧に提案をした。

 

「いつも氷瀧君にはお菓子貰ってばかりだから、私からお花をプレゼントしてもいい?」

 

「無理しなくていいんだぞ?」

 

「無理じゃない。私がそうしたいの」

 

そう言うと蘭は店内を物色し始めた。

 

「これにした」

 

蘭は薄い赤色をした八重咲きのベゴニアを氷瀧に贈った。

 

「へぇ綺麗な八重咲きだな」

 

「でしょ?」

 

「ありがとう、大事に部屋に飾るよ。それと蘭にはこれを……」

 

「???」

 

氷瀧は赤い小さな花を咲かせたサボテンを取り出し蘭に贈った。

 

「何でサボテンなの?」

 

「このサボテン蘭に似てないか?触ると危険。でもこの小さく咲いた花が蘭の赤メッシュに似てるし、何て言うか可愛い所もあるみたいな」

 

「ん……」

 

蘭はほんのり顔を赤らめた。

 

「サボテンは氷瀧君だよ」

 

「何故だ?」

 

「サボテンの花言葉は『暖かい心』だから」

 

「そうか……。だったらベゴニアは?」

 

「知らない!!自分で調べたら!?」

 

蘭は顔を更に赤くして帰路に向かった。

 

「じゃあね」

 

「おい!送ってくよ!」

 

「いいよ。忙しいんでしょ?」

 

「それとこれとは別問題だ。ホラっ、行くぞ」

 

氷瀧と蘭は夕焼けに染まる空を背に帰路に着くのだった。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

そしていよいよ取材当日を迎えた。

羽沢珈琲店は本日は臨時休業となっている。

 

「お、お兄ちゃん……もうすぐ来るのかな?ソワソワ」

 

「落ち着けつぐみ。緊張してもいいこと無いぞ?」

 

「分かってるけど落ち着けないから困ってるんだよー」

 

可愛い妹のつぐりっぷりに氷瀧は肩を落とした。

 

「緊張しない方法は今度教えてやるとして、まずは緊張を解さないとな。つぐみ?手をグーとパーに連続で開閉してみな?」

 

「こう?」

 

「もっと速く!」

 

「こう?」

 

「もっと速く!」

 

「こう!?」

 

「もっと速く!」

 

「こう!?」

 

「そうすると疲れるだろ?実際大した効果は無い」

 

「お兄ちゃん!?」

 

「ハハッ。ただ肩の力抜けただろ?」

 

「あ……ホントだ」

 

「それじゃ、そろそろ来るぞ?」

 

氷瀧の合図を待っていたと言わんばかりにパスパレのメンバーとカメラが店内に入って来た。

 

「い、いらっしゃいませ!は、羽沢珈琲店にようこそっ!」

 

「お客さま、何名様でしょうか?」

 

つぐみの前に立ったイヴが接客を始める。

 

「え、えーと、当店は淹れたての珈琲とケーキを…」

 

「四名様ですね? こちらの席にどうぞ~♪」

 

「え、えーと…、イヴちゃん?!」

 

(ダメだこりゃ……)

 

噛み合わない二人の接客に氷瀧は苦笑いを浮かべた。

 

(しかしイヴちゃんはカメラ慣れしているな……流石芸能人。……ってあれ?)

 

氷瀧はメンバーの中に常連客である白鷺千聖を見つけた。

その瞬間氷瀧は全てを理解した。

母からはイヴが所属しているアイドルグループが来ると伝えられていた。

そのグループの中に千聖がいる=彼女も芸能人なのだ。

初めて会った時の戸惑いは芸能人である自分を知らない人に会う事が珍しかったのだと理解した。

 

カメラの死角にいた千聖と氷瀧の視線が交わる。

千聖は気まずさから視線を反らしてしまった。

 

(なるほど今日は芸能人として接しなければならないのか)

 

「こちらの可愛いらしい方は羽沢つぐみちゃん。このお店の看板娘です」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

(マズイ、つぐみの可愛さが遂に世界に広まってしまう)

 

「今日はオススメのケーキを紹介していただけるとか?」

 

「はい!私の兄で当店のパティシエから紹介させていただきます」

 

いよいよ氷瀧の出番がやってきた。

 

「当店のパティシエを務めさせていただいております私、羽沢氷瀧と申します。よろしくお願い致します」

 

(この人が千聖ちゃんが言ってた人か……。確かに優しそうな人だなぁ)

 

「お兄さんも看板息子って感じですねー」

 

「勿体ないお言葉です」

 

(お、お兄ちゃん手慣れてる……)

 

日菜からの言葉を華麗に受け返した兄につぐみは感心した。

更に事前に母が番組側にリークしていた情報が麻弥から語られる。

 

「お兄様はフランスで修行されたと伺っておりますが?」

 

「はい、フランスで約四年間修行させていただきました」

 

「しかも師匠はフランスの巨匠と伺っておりますが?」 

 

「はい、セドリック・エルメ氏にお菓子作りをご教授頂きました」

 

「なるほど……今日はそんなお兄様が作る本場仕込みのスイーツが食べられると期待してよろしいですか?」

 

「はい、よろしくお願い致します」

 

氷瀧は大皿に乗ったタルトを取り出した。

 

「旬の果物同士を使った、オレンジとマンゴーのタルトでございます」

 

カスタードクリームをタルト生地の上に乗せ、大きめにカットしたマンゴーとオレンジを乗せたタルトだ。

旬の濃厚なマンゴーの甘さと香り、さわやかなオレンジの組み合わせが最高な逸品である。

 

(こ、これは食べる前から美味しいのが分かる)

 

彩は輝いているように見えるケーキに熱い眼差しを送った。

 

「それではこちらを彩ちゃんと日菜ちゃんと麻弥ちゃんに食べて貰います」

 

氷瀧が綺麗に切り分け三人の前に置いていく。

 

「「「いただきまーす♪」」」

 

「おいひぃーよー」

 

「るるるん♪って来た!!」

 

「マンゴー甘さとオレンジの酸味のバランスが素晴らしいですね♪」

 

(30点・0点・100点)

 

氷瀧は心の中でコメントの採点をした。

 

「当店はケーキの他にもコーヒーや紅茶にもこだわっていますので、甘いものが苦手という方もお気楽に御来店ください」

 

(補足も完璧……)

 

「本日はこの番組の為にスペシャリテを用意していただいているんですよね?」

 

「はい、準備致します」

 

彩からの振りに氷瀧はこの日の為に試行錯誤した逸品を取り出した。

 

「チーズケーキ イスパハンでございます」

 

イススパンは鮮やかでかわいらしいピンク色をしているため、特に女性に人気が高いケーキである。

その名高いイスパハンの風味を斬新にチーズケーキにアレンジしたこの逸品は、まさに極上のチーズケーキのといえる。

薔薇入りチーズケーキのソフト感、フランボワーズ果汁を沁み込ませたビスキュイ生地のウェット感、フランボワーズとライチのコンポートのサワー感、薔薇を加えた甘味のないクリームチーズ入り生クリームのムース感、さらにフランボワーズジャムのビビッド感が次々とパートサブレの台の上で重層的に展開される。

更に氷瀧はケーキの表面に生クリームで作った薔薇とイチゴを飾り切りで作ったシクラメンが飾られている。

 

「これは綺麗ですね」

 

今まで口数が少なかった千聖がケーキのあまりの美しさに口を開いた。

 

「ケーキの表面に飾られた花はそれぞれ薔薇とシクラメンをイメージしております。『白薔薇は尊敬』を『シクラメンは憧れ』をそれぞれの想いを込めて作らせて頂きました」

 

この時、氷瀧は二人の人物を思い浮かべていた。

つまりこのケーキはつぐみのアドバイス通り『誰に食べさせたいか』を形にした逸品と言える。

 

「ではこちらを白鷺様に召し上がっていただきます」

 

「!?」

 

台本ではこのケーキを食べる事になっていなかったが、元気が無い千聖に氷瀧がとっさにアドリブを振った。

驚きと共に千聖はショックを受けていた。

 

(いつもは千聖って呼んでくれるのに、今日は『白鷺様』なのね……。やっぱり私が芸能人だから……。でもこれは仕事!ここは切り替えないといけないわ!!)

 

「失礼します」

 

氷瀧は丁寧な所作でケーキを切り分けた。

 

「いただきます」

 

千聖の口の中に幸せな味が広がる。

 

「千聖ちゃん?美味しい?」

 

「彩ちゃん……」

 

「千聖ちゃん?」

 

ケーキの幸せな味と自身の心境のギャップに千聖は無意識に涙を流していた。

 

「何で泣いてるの?」

 

「こ、これは…………涙が出るほど美味しいです♪」

 

「す、凄い演技だね!?」

 

千聖は涙の理由を誤魔化した。

続けて氷瀧へ称賛を贈った。

 

「今まで食べたケーキの中で一番美味しいです♪」

 

「勿体無い御言葉です」

 

ケーキを完食した所で撮影は終了し、パスパレのメンバーを店をあとにする。

 

「ねぇねぇお兄さん、おねーちゃんにお土産上げたいんだけど?」

 

「だったらこれを持って帰るといい」

 

氷瀧は紙袋に入ったクッキーをパスパレのメンバーに配った。

 

「ありがとー!!バイバーイ♪」

 

「ありがとうございました。またの御来店をお待ちしております」

 

日菜を先頭にロケ車に乗り込んで行く。

結局千聖は氷瀧と会話しないままバスに乗り込んでしまった。

 

「千聖ちゃん大丈夫?」

 

「えぇ大丈夫よ?それより台本を頭に入れたいからそっとしておいてくれる?」

 

「うん♪千聖ちゃん頑張ってね♪」

 

千聖は台本に視線を移す。

しかし台本を入れたいなんて嘘だ。

台本の内容が全く頭に入らない。

 

「どーしよー?もうクッキー無くなっちゃった♪」

 

「えぇ!?日菜ちゃん、紗夜ちゃんと食べるんじゃなかったの!?」

 

「るん♪としちゃって気づいたら無くなってたよー♪ドンマイドンマイ♪」

 

「日菜さん、自分で言う事じゃありませんよー」

 

「だったら私のを上げるわ……」

 

「ホントに!?」

 

千聖はクッキーを紙袋から出し日菜に手渡した。

 

「えへへー♪ありがとー千聖ちゃん♪」

 

日菜は嬉しそうに自分の席に戻った。

千聖も自分の席に戻り、台本に視線を戻そうとしたが紙袋に何か入っていることに気がついた。

 

「???」

 

千聖が紙袋の中身を取り出すとそこにはメッセージカードと折り紙で作られた鷺が入っていた。

 

『またね 氷瀧より』

 

メッセージカードには手書きでそう記載されている。

 

「ねぇ、お土産ってクッキーだけだった?」

 

「お土産ですか?…………はい、クッキーだけですね?」

 

「私もクッキーだけだよ?」

 

「私もです!!」

 

「千聖ちゃんは何か入ってたの?」

 

「い、いいえ!私もクッキーだけよ!」

 

千聖はゆっくり紙袋の中を見た。

やはりそこには鷺とメッセージカードが入っていた。

千聖は台本を閉じる。

 

「千聖ちゃん、もういいの?」

 

「いいの♪今日はみんなと話がしたい気分だから♪」

 

 

 




いかがでしょうか?
日に日に文字数が増えて来ているので気を付けないとですね。
次回は常連さんであまりスポットの当たっていない彼女にスポットを当てたいと思います!!

あとお気に入り登録が1000人突破しました!
最終的に300人行ったらいいなと思っていたので感謝しかありません( ;∀;)
今後も変わらず御愛読いただけると幸いです。

ではこの辺で失礼します。
評価・ご感想・お気に入り登録ドシドシお待ちしております。
特に高評価・感想は執筆の励みになりますのでとても嬉しいですm(_ _)m

それではまた次回!ほなっ!(^^)ノシ

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