こんにちは若宮楓奏てす。今は道の下調べをしつつ自転車屋に向かっています。ロードバイクってママチャリとかと違ってスピードも出るから些細な判断ミスで最悪死に至る可能性もある。そして加害者にもなりかねない。脳内検索をかけながらどこら辺は危なかったかなーとかここいい道だったなーとか確認している。
今日も爽やかな秋晴れで自転車日和である。しかし私服で乗るの久しぶりだなー。いつもピチピチなジャージ着て乗るから違和感と乗りづらさが否めない。
…あれはちゃんと理由あってピチピチしているからね? 別にボディーラインを見せたくてあんなピチピチの着るわけじゃないんだからね!? 誰にツッコミ入れてるのかいざ知らず、まだ時間に余裕がありそうなので美浜大橋で東京湾を眺めている。
左から見てゲードブリッジ、工業地帯に東京のビル群が見え、そして右側にはスカイツリーがある。空気が澄んでいるからどれもハッキリと見える。
向こうも雲なかったらこの時期富士山も見えたりする。夏はモヤっとしているから富士山は見えない。というか暑いから夏嫌い。
マッ缶を片手に持って東京湾をぼうっと眺めてたら意外な人物が来た。
いいエンジン音を響かせながらハザード焚いて私の後ろに車は止まった。アーストンマーティン、V8ヴァンテージだ。しかも左ハンドル。んーかっくーい!え?なんで車分かるのって?小さい頃ポケモンとかドラクエとかそっちのけでハンコンとレバーを握ってGTやってたからだよ。ほとんどお父さんの影響だけどね……ちなみに90年のNSXが好き。リトラ可愛い。
だけど降りてきた人が意外な人だった。
「おーやっぱり若宮か。何してるんだ?」
「ひ、平塚先生?!」
「そうだ。でこんな所で何してるんだ?」
「待ち合わせの時間までまだ時間があったので暇してただけです」
「そうか。ん?いい自転車乗ってるじゃないか」
「そうですね。ほとんどお父さんから影響されて始めたんですけどね」
「私の友達も今でも乗ってる人いてな、そいつは今このあたりで自転車屋営んでいるらしい」
「えっともしかして……」
まさかなー……と思って名古木さんの自転車屋のことを話してみた。そしたら……
「あー! そうその人だよ。へぇ元気にしてたか? あいつ」
「へ? えぇまぁ……」
「そいつは私と同じ大学の卒業生でな、自転車屋営んでみたいって言ってたが夢は叶っていたんだなあいつ……というか若宮とはどういう繋がりなんだ?」
名古木さんはうちの母さんと同じ高校の同級生であったことと、単純に私がその自転車屋の常連であることを説明した。
「なんというか世間って狭いな……」
「ほんとですね。こんな近くに繋がりがあるとは思いませんでした。ところで平塚先生こそなぜこんなところに?」
「あぁ、ドライブだよ。珍しく休日だしたまにはこいつ動かさないと駐車場の肥やしになってしまうからな。それでたまたま若宮がここにいたの見かけただけだ。じゃ私はそろそろ行くから、自転車は気をつけて乗れよ?若宮」
「はい!先生こそお気をつけて!」
さーて湾岸線流してくるかーとちょっと不穏な文章に聞こえたのは気のせい。先生?車をブイブイ言わすのにまだ時間が早いですよ?というか今度よかったら大黒PAまで乗せてください。チューニングカーとかいろいろ見たいので。と、ちょっと私欲が混ざった心の声が出てしまった。ヴァンテージのいい音を響かせながら平塚先生は去っていた。
「平塚先生が男性だったらすっごくモテたんだろーな……」
誰にも聞こえない独り言を呟いて自転車跨った。今から出発したらちょうどいい時間に着くかな。
☆
美浜大橋から15分ほど漕いで自転車屋に着いた。やっぱ私服だとスピードが出ない……
外にあるラックに自転車を掛けお店に入った。
「あれ?もういたの比企谷くん」
「おう」
「楓奏ちゃんこんちはー。彼はヘルメットを買いたいから早めに来てたよ」
「あ、宮子さんこんにちはー。そうだったんですね」
「いろいろ調べてな、公道はヘルメット付けるべきと知ったから早めに来てた買いに来た」
「そっか」
「じゃあこれで会計お願いします」
「はいはーい」
「フィッティングは終わったの?」
「あぁ、ここに着いてからすぐやったわそれ」
フィッティングとは簡単に言うとポジションの最終確認。自転車は測ったその人の身体データの数値通りには限らず、その人の好みや走り方にも影響される。つまりこれから乗って行ってさらにポジションを煮詰めることになる。自転車はそれだけ深いものなのだ。
◇
会計を済ませ、納車を済ませた。今俺が跨っている自転車はかなりグレード高いもので、親父曰く「どうせならいいものにしよう。車やバイクみたいにな」と言ってこの自転車になった。親父ぃ、あんたは今1番輝いているぜ……!
メーカーは若宮と同じで、形式が違うと言えばいいのだろうか。色はシンプルな黒。形状は直線的で、正面から見ると平べったい。エアロバイクという種類だそうだ。横から見るとフレームの下の部分の中心から前にかけてだんだん太く作られている。大丈夫か? 伝わってるか? ちなみに名古木さん曰くこのメーカーはいろいろ特徴的で見てるだけで楽しいらしい。
あとから教えてくれたのだが、変速機構やブレーキなどのことを「コンポーネント」と言うらしい。略してコンポと呼ばれることが多い。そのコンポは日本のもので、グレードは上から数えて2番目の電動のものを使っている。
電動アシストではなく、変速が電動であとは変わらず人力である。ここ重要。
「最初が電動コンポかー贅沢だね」とニヤニヤしながら話しかけてきた。
「そうなのか?」とよくわからず生返事をした。
それから近くの車通り少ない道路で変速の仕方、ブレーキのかけ方、乗り降りの仕方など基本動作を覚えた。
「次はビンディングだね。シューズ買ったでしょ?」
「あぁこれか……ビンディングってなんだ?」
「それビンディングシューズと言って裏に黄色い金具みたいのあるでしょ? その金具でペダルに固定させて外れないようにするの」
「へぇ……って外れないのやばくねーか?」
「あ、走ってるときに踏み外すリスクを無くすって意味ね。外そうとすれば外れるようになっているから」
「なるほどな」
「まあペダルを見ないですんなりハマるまでは慣れがかなりいるよ」
カチャっといい音してペダルにハマった。ほう。これは外れんな。
「外す時は足首を外側に捻ると外れるよ」
パコーンっといい音して外れた。なるほどな。だが……
「なんかこえーからとりあえずスニーカーでいいや……」
「たはは……ま、それが賢明な判断だよ。家の近くで練習してから使ったほうがいいよ」
「だな。んでどうやって家の方に戻るか。俺の通学路で戻るか?」
「せっかくだし海沿いの県道通って行かない? あそこ路肩が広くて走りやすいんだー。初めての車道だろうし練習になるよ」
「ま、ママチャリと勝手が違うだろうしそうだな」
「そうそう。理解が早くて助かるよ。分かっていると思うけど、ロードはママチャリと比べてスピードも出る。だから些細な判断ミスで大怪我や死に至る可能性もある。怪我だけはして欲しくないからこれだけは肝に銘じといてね」
「お、おう。そうだな」
真面目なトーンで若宮はそう言った。
言ってることはご最もだと思う。昨今自転車による交通事故増えてると聞くからな。それにルールは守っても轢かれることだって有り得る。これは肝に銘じるべきだな。
「○○が起きるかもしれない。と常に予測しておくのが基本。これは自転車問わず乗り物全般に言えることなんだよね」
「だな」
「ま、あまり言っても気を張り詰めちゃうだけだしとりあえず行きますか!」
「おう。案内よろしく頼んだわ」
☆
自転車屋を離れ、稲毛海岸駅前の大通りを南西へ進む。このあたりは通学路なのである程度は分かる。しかし楽しいわこれ。スイッチ1つで変速する感覚は慣れないものだ。
わずか2,3分で稲毛海浜公園に着いた。自転車ってすげぇ(小並感)
「せっかくだし写真撮ってこ!」
「そうだな」
園内を自転車押して海の方に向かって歩いた。潮の香りがいい感じに漂う。
若宮's撮影スポットに着いたら2台並べ、写真を撮った。ほう。いいねこれ(小並感)
近くの自販機でマッ缶を買い近くのベンチでくつろいだ。
「ほらよ」
「お、マッ缶!120円だっけ?」
「いや金はいい。今日のお礼みたいなもんだ。それに前に貰ったことあるしな」
「そう?じゃいただきまーす♪」
そういえば若宮って普段どれぐらい走るのかふと疑問に思って聞いた。平日はたまに夕方か夜に往復20キロぐらいで休日は少なくとも片道40キロ近くは走るそうだ。その域に達するにはどれぐらいかかるのだろうか……ちなみに過去最長はお仲間さんと1日240キロ弱で埼玉の秩父まで往復してきたそうだ。コウテイペンギンもびっくりだわ……アスリートかよ……
本人は今までで1番過酷だったかもしれないと感慨深い表情していた
「まあ最初いきなり200キロは無理だから、最初は20キロ、50キロ、そして100と徐々に目標を大きくするもんだよ。家の方から片道20ぐらいとなるとディスティニーランドぐらいだね」
「ほう」
「ま、初めたてなら10キロ以上行けたら上出来だよ!比企谷くんは普段から自転車通学だからそれなりに走れると思うよ?ただ姿勢に慣れないと最初背中とかお尻が痛くなるかも……」
「ま、慣れてくしかないか」
「うん!その心意気だよ」
缶を捨て、ふたたび道路に向かって園内を歩いた。そして海沿いの県道に着き北西へ進んだ。
ここは本当に路肩が広く、走りやすい。信号も少ないから気持ちよく流せる。
しかし前を走る若宮は無駄な力を加えてないからなのか上体はまったくぶれていない。なめらかにペダルを回している。普通にすごいと思った。多分俺は少しはぶれているだろうな。
☆
県道をさらに北西に進み美浜大橋を差し掛かった。登りもなんもなくスイスイ登る。やっぱりロードはすげぇ(小並感)
「夕日綺麗だね」
「あぁ全くだ」
幕張海浜公園の交差点を右へ曲がってメッセの横を通っていく。そして程なくして海浜幕張駅前を過ぎる。駅の交差点をすぎるとさらに大きい交差点があった。
「ここ湾岸道路で、トラックを始め車多く通ってるから気をつけてね」
「あぁ」
1つ道路を横断し高速道路の下を潜り抜け、もう1つ道路を横断した。うん。これは怖いわ。信号待ちしてたときトレーラーバンバン通ってたもん。
「さっきの通りは産業道路で時間帯問わず車たくさん通るから私たちもあの道路は使わないんだ。道も荒いし。もう少し整備したら東京方面行きやすいんだけどね……」と若宮は嘆いていた。
件の交差点を過ぎ程なくすると国道14号の交差点に着く。このあたりも通学路だから土地勘はある。
「ここら辺まで来れば道は分かるよね」
「あぁ、この一帯は俺のテリトリーだ。あとは左行って右だろ?」
「そそ。あとちょっとだから頑張ろ!」
ヤマダ電機やニトリ、ドン・キホーテと見覚えのある建物が増えてきた。このあたりも道が広めで走りやすい。あれ? 千葉県案外自転車に向いているのでは?
高速道路を跨ぐ陸橋に着いた。あとは北東へ進むと地元に着く。
そしていつものセブンに着いた。
「ふぅ……着いたな」
「おつかれ比企谷くん!やっぱり普段の自転車通学のおかげか結構いいペースだったよ」
「そうなのか?」
「そうだよ!始めたての人はだいたいは30キロが壁で、その壁を超えれたら初心者卒業みたいな感じだけど、比企谷くん余裕じゃん!」
「あぁ、確かにママチャリよりスピード出せる感じがするわ。前傾姿勢だしな」
俺は特にペースを考えてはいなかった。前を走る若宮に合わせただけだ。
セブンで休憩していたらある1人の女性がこちらに向かって歩いて来た。
「あら、楓奏……お友達かしら?こんばんは」
軽く頭下げて会釈した。
「あ、お母さん!彼はね、同じクラスの比企谷くん。今日自転車の納車日だったから一緒走って帰ってきたの」
「比企谷くんね……初めてまして!私は楓奏の母親の華楓(かえで)です」
「初めてまして。比企谷八幡です」
「どう?うちの娘と上手くやっているかしら?」
「まあ、よくわか……楓奏さんと話をしています」
「そう……ねぇ楓奏、最近やけに張り切ってお弁当作るけどもしかしてそういう?」
「おべんと……な!違うよ!アレは何となくというか……」
「へぇ……じゃお邪魔しちゃ悪いから先に行くわね。比企谷くんもうちの娘をどうかよろしくお願いね?」
「は、はぁ……」
「なんか意味が違って聞こえるからー!……ごめんねうちの母さん、あんな感じなんだ……」
なんというか見た感じは大人しい女性だが、いざ話すと柔らかな表情になる。何とは言わないけどそこまで大きいではなかった。遺伝だなうん。多分。
「まあ、男子の俺がいたらそうなるもんじゃね?」
「なのかなー……いい感じに日が沈んだしそろそろ帰ろっか」
「だな」
「じゃまた明日学校で!」
「あぁ」
「あ、言い忘れてたけど納車おめでとー!」
「おう。今日はサンキューな」
若宮に手を振り返していつも通りセブンで別れた。
☆
「たでーま」
「おかえりお兄ちゃん。ってそれどうしたの?」
「あぁ、親父から金借りて買った。話してなかったっけ?」
「ううん聞いていないよ? あ、もしかして若宮さんの影響?」
小町ったら鋭すぎて困っちゃう。確かにそれもある。だが1番は俺自身が楽しいと思えたからだ。
「まぁあながち間違ってはない」
「ほう若宮さんやるな……落としにかかっている……」
なんかブツブツ言ってるような気がするが気のせいだろ。
「今度若宮さん連れてきてよーお兄ちゃん」
「まあかなり前向きに検討しておくわ」
「ぶえー。それ断る常套句じゃーん」
うるせぇ。まあ、前も紹介してほしいとか言ってたしな。聞いてみて向こうの反応次第だろう。今度聞いてみるか。
それから晩飯を食べ、シャワーを浴びて自室でゆっくりしている。
軽く今日のことを思い出した。
約束した時間よりも早めに店に着きヘルメットを買いに行った。会計しようかというところで若宮も店に着いた。そして2人で走って帰ってきた。
ちなみに自転車は自室の一角に置くことで落ち着いた。これからいろいろあいつから学んで行くだなと思いながら眠りについた。
久しぶりの自転車回いかがでしたでしょうか。実は自転車で秩父往復は中の人の実話なのてす。
それではまた。