自転車始めてからどっぷりハマったどうも比企谷八幡てす。つい最近は秋葉原まで行ってきた。片道30キロ近くあるから無理だろと思ったら案外行けちゃった件。
1時間半で行けちゃうし、交通費も浮くし、地球にやさしい。なにこれ最強じゃね? なお初期費用。
しかしアレ乗るとママチャリくっそ重いのな……
そう思いながらベストプレイスの道を歩む。あと最近心做しか食べる量増えた気がする。パンも2つや3つになってさらにおにぎりも食べるようになった。ラーメンも食べる頻度増えた。
自販機でマッ缶を買いベストプレイスに着いた。
いつもの定位置の隣に俺を自転車の世界に引き込んだ張本人がいらしゃった。
なんかベストプレイスに2人でいるのが普通になってきたな(今更)
「よう」
「あ、やっほー比企谷くん」
定位置に座り、おにぎりのビニールを剥がしながらさっきふと思ったことを聞いた。
「なぁ、1つ聞きたいことあるんだけど自転車乗るとやっぱり食べる量増えるもんなのか?」
「そうだけどなんで?」
ここ最近食べる量増えたということをそのまま伝えた。
「それは普通だよ。だって運動してるんだから。ほら車はガソリンないと動かないでしょ? だから私たちはカロリーがガソリンみたいなもので無くなると動かなくなるよ」
「なるほどな……どうりでお前よく食べるわけだわ」
「こう見えて増えてないか、少し体重落ちるぐらいだし。ま、交通費浮く分食費になるよ。ほんと車のガソリンみたいなもんだから」
「なるほどな。じゃ燃料補給てところか」
「そうそう。自転車やってると食べないよりも食べれる時に食べた方がいいよ。乗らないと太るけど……」
しれっと怖いこと言わないでもらえます?若宮さん。まあ始める前より体重減ったけども……
あ、焼きそばパンうめぇ。炭水化物と脂質の暴力を感じる。
「世にはグルメライドというのがあって、ご当地グルメを食べるために走るなんてこともあるよ。私はそれで川越まで行ったことあるよ」
「川越って……埼玉か?」
「そ。埼玉県の真ん中ぐらい」
ダメだ……こいつに追いつくの到底無理な気がしてきた。走る距離が違いすぎる。とか言いつつ俺もアキバまで余裕だったしな。下手すりゃ人のこと言えなくなるかもしれん。あ、マッ缶うめぇ。
「あ、今こいつとんでもない距離走るなぁ。って思ったでしょ?」
なぜ分かったし。エスパー若宮さんですか。
「比企谷くんももう少し装備を揃えたらこんな距離へっちゃらだよ!」
「装備ねぇ……何が必要なんだ?」
若宮が言うにはあと必要なのはサイクルウェアにアイウェア、携帯工具、予備チューブetc.
なぜチューブを持ち歩くかというとパンクしたら基本その場でチューブを交換するらしい。なおチューブ交換は基本中の基本なので覚えておくようにと、若宮教授はそう仰っている。
「それ諸々いくらぐらいかかるんだ?」
「んー。きっちり揃えると4万円はかかるかなー……ウェアは夏物と冬物あるし」
「おうふ」
これはガチでバイト始めねぇときちぃな……親父に金返さないといけないし。
一応働きたいと思った場所はいくつか候補はある。近日中に応募するか。
「まあ冬物は夏に買って、反対に夏物は冬に買うと安く済むよ」
「そうか。いろいろありがとな」
自転車談議に花を咲かせ、早くも予鈴が鳴った。あとから聞くと川越まで自走で往復150キロ近く走ったそうだ。ヤバいよな。
☆
待ちに待ったけど待ちに待っていない放課後である。何言ってるのか分からないと思うが、部活なのである。部活がなければ待ちに待ったココロオドル放課後であったのだ。ま、今日も紅茶を飲んで読書だ。お客さん来なければの話だけどね。
「うっす」
「比企谷くんこんにちわ」
「おう」
「ゆきのん!ヒッキーやっはろー!」
「由比ヶ浜さんこんにちわ。2人とも紅茶いるかしら?」
とか言いつつすでに準備してんだよなぁ……やはり由比ヶ浜を感知するレーダー探知機付属してるでしょ。ま、ありがたく頂くけど。
雪ノ下と由比ヶ浜は相変わらず談笑とゆるゆりをしている。そんな俺は定位置に座り読書をしている。読書に集中していたら話しかけられた。どうやら会話に入ってたらしい。
「ねぇヒッキーってば!聞いてる?」
「おうなんだ?」
「聞いてないじゃん……ほら最近乾燥し始めてるじゃん?だからUS……ゆ、ゆーえすえー?で繋げて使える加湿器買おうかなと思ってるんだけどどうかな?」
いや、アメリカと繋いでどうすんだよ。USBなUSB。そんな国交レベルの加湿器いやだわ。気になるけど。U.S.B!違うか。違うな。
「ばっかお前。アメリカと繋いでどうする。USBだUSB」
思ったことをそのまま口にしていた。
「そうそう!USBのやつ!どうかな?」
「いいんじゃねーの。知らんけど」
「ヒッキーテキトーだなー」
いや、知らんがな。買いたきゃ買えばいいだろうが。男子の俺に意見を聞く自体間違いだっつーの。
そんな時にノックが響いた。お客様が来たようです。
「どうぞ」
「お邪魔しまーす」「し、失礼しまーす」
2人のお客さんだ。1人は城廻先輩。もう1人は……知らん顔だ。
「城廻先輩と……1年生の一色いろはさんかしら?」
「は、はい。ご存知なんですか?」
「えぇ。全校生徒の名前覚えてるもの」
おう。そのへんにしとけ一色さん?が地味に引いてるぞ。しかし変わった組み合わせだな。どんな依頼が舞い込んで来るのだろうか。
「どうぞお掛けください。それではどういったご要件でしょうか?」
今回の依頼を簡単にまとめると、1年生の一色の依頼はクラスの周りの悪ノリで生徒会の会長選挙に出る羽目になり、それを当選しないようにしてほしい。そして生徒会長になるつもりはないけれど、信任投票で不信任になりさらし者になるのは嫌だ。という内容だ。
「それにしても随分タチの悪いいたずらね。悪質極まりないわ」
ごもっともである。いたずらところが恨み買われてるんじゃないかというレベル。
「とりあえず1つ案はある」
「どんな案かしら」
それは最初から嫌われ者俺が応援演説をし、一色の名誉を傷つけない形で落選避けることだ。
「そういうやり方しか知らないのね。私は反対よ」
「は?いや時間も少ないしこれが1番手っ取り早いだろ」
「私も1つ案あるわ」と、前置きを添えてこう言い放った。選挙に出馬すると。
「ゆ、ゆきのん?!」
「そもそも自主的に選挙出ようとする生徒は少ないから、理由を説明しても一色さんを選挙から取り下げるのは難しい。だから私が選挙に出れば一色さんは確実に選挙から下ろせるわ」
確かに理にかなっている。さらに言えば突貫的に準備を進めれば選挙に間に合わせることができる。
しかしだ。この部活はどうなるのか。部長である雪ノ下雪乃が居なくなれば消滅する可能性が孕んでくる。
「部活はどうなるの……?」
由比ヶ浜の純粋な疑問。
「大丈夫よ。生徒会の仕事をこなしつつ、ここにも顔出すわ」
それは無理だ。生徒会長になれば必然的に生徒会の仕事に傾き、かなり早い段階でこの部活に来なくなるだろう。生徒会長と奉仕部部長かけ持ちはかなり無理がある。
「っ……私も出る!選挙に出るよ!」
「は?」
「由比ヶ浜さん……あなたはいいのよ。私が……」
「ゆきのんに任せっきりじゃいやだ!」と、由比ヶ浜は被せ気味でそう言い放った。
「それこそこの部活どうするんだ?」
「もし私が当選したらゆきのんのように仕事をこなして、顔を出すよ」
「それは無理だ」と、さっき考えついたあらゆる可能性を伝えた。
「で、でも部長のゆきのんがいればこの部活は無くならないでしょ!」
確かにそうだ。部長がいれば奉仕部自体無くなることはないだろう。しかしそうしたら由比ヶ浜は次第に来なくなり、それは奉仕部という名をした奉仕部では無いものになる。
☆
放課後。俺は自転車を押し、隣に由比ヶ浜と並んで歩いている。眩しい夕日に照らされながらお互い無言でバス停に向かっていた。
が、由比ヶ浜が急に立ち止まった。
「どうした?」
「ヒッキーは私が選挙に出ることは反対しないの……?」
由比ヶ浜らしくなく、少し涙声そう言われた。
「由比ヶ浜は出たいのであれば反対する理由はないだろ」
これの言葉は嘘だ。上手く言葉に言い表せないが少なくとも確信している。
「そっか……私ね、好きなの……。奉仕部が。ゆきのんとお喋りして、美味しいお茶を飲んで。そしてたまにヒッキーと話すのが好きなの!だから……あの部活は無くなって欲しくない……」
「……それでも選挙に出るのか?」
「うん。ゆきのんに任せっきりは嫌だし、私は正々堂々と戦うよ」
目の前にいるのは、強い意志を持った女の子だった。
それからバス停で由比ヶ浜と別れ、俺は自転車漕いで帰路に着いた。
☆
家に着きあれからほかに何か案ないかと考えに考え、結局あまり寝つけず朝を迎えていた。今日の天気は雲の多い一日になるでしょう。テレビに映る天気予報士はそう言った。
雨は降らないといいんだがなと心の中で切に願っていたら小町が話しかけてきた。
「昨日から元気ないけど、どったのお兄ちゃん」
「いやなんともない。いつも通りだ」
「嘘だぁ」と、わざとらしく言ってくる。お兄ちゃんとしては今はほっといてほしいところはある。
「奉仕部の中で何かあったの……?」
さすが我が妹。鋭い。お兄ちゃんの考えはお見通してか?ああ大正解だよ。お兄ちゃんの考えはお見通しであればほっといてほしかったな。
「だからそんなんじゃねぇよ……」
その話はするなと言わんばかりに感情が顕になり、強く当たってしまった。猫のカマクラは何か空気を察したのか食べかけのエサを残しリビングから離れて行った。
「何その言い方……そんな言い方しなくたっていいじゃん!」
小町は珍しく怒り大きな声を出していた。少し冷静に考えたら俺が強く当たったのが原因と気づき謝ろうとしたが遅かった。
「……今日小町1人で学校行く。もう行くから食器片付けといて」
謝る場もなく、小町は学校指定の鞄を引っ掴み玄関へ行った。ドアの閉める音がやけに乱雑なのは気のせいではなかった。嫌われたかしらん……
今日は普段より少し早く起きてしまった。まだ時間に少し余裕があるから皿洗いして家を出た。
曇りで日差しがないため普段より1層冷える。だんだんと冬に近づいていると実感する。しかし雲が少し厚いな。帰るまで降らないといいんだが。
いつもの通学路を経て、学校内の駐輪場に着いた。
下駄箱で上履きに履き替え、廊下を歩いて教室に入って席につく。相変わらず騒がしい教室である。イヤホンをつけ適当な音楽を流し机を突っ伏した。
そんな中俺の肩を軽く叩いてくるやつがいた。戸塚だといいなぁ……
顔上げたら昼食によくお邪魔するアホ毛がいた。俺に対して軽く手を振り席についてた。俺も軽く手を挙げて応答しておいた。
1限、2限、中休み、3限、4限。それぞれの科目の授業を受けたがさっぱり頭に入ってこなかった。昨日の1件についてずっと頭を駆け巡っていた。
そろそろ糖分不足で倒れるかもしれない。マッ缶2本コースと行こうか。
考えることに集中しすぎてメールを見落としていた。大手通販サイトのおすすめ商品ですかね……と思ったら違っていた。
若宮 『今日お弁当あるから手ぶらで来てね( ˆoˆ )朝のうちにメールしようとしたんだけどすっかり忘れちゃった……』
スマホのロック画面の通知欄にそう書いてあった。「了解」と簡潔に返信していつもの場所へ向かった。
「うっす」
「あ、やっほー比企谷くん」
「その、弁当ありがとな。ほれ報酬のマッ缶」
「いいのいいの。マッ缶ありがとね」
本日のメニューは唐揚げにだし巻き玉子、そしてサラダである。シンプルながらも量がある。男の俺としてはありがたい組み合わせである。
「今日はどちらかというと量を重視してみました」
若宮はドヤ顔でそう言った。ドヤ顔が絶妙に似合うのは気のせいだろうか。
「おお。それはありがたい。じゃいただきます」
「いただきまーす」
唐揚げをひとつまみ。うめぇ。昨日と今日で脳みそ酷使しすぎたせいかめちゃくちゃ美味く感じる。
「相変わらずうめぇな……」
「えへへ……照れるなぁ」
相当腹減っていたのか我ながらけっこうな勢いでかっ込んでいた。そしていつの間にか平らげていた。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした……今日食べるの早いね」
「多分めちゃくちゃ腹減ってたからだろうな」
「多分って……」若宮はクスクス笑っていた。さてお待ちかねマッ缶タイム。缶を開けのどに流し込む。まさに確定演出。実家のような安心感。ただいまって感じ。
「今日随分いろいろ勢いあるね……?」
「ああ。ちと脳みそ酷使しすぎて糖分不足で倒れそうだったからな」
「あんま根を詰めちゃダメだよ?」
「おう……あぁうめぇ」
語彙力が低下しているあたり相当糖分足りてないな。これはマッ缶3本フルコースかな?
「今日さ、放課後というか部活のあと時間ある?」
「まあ、ひまっちゃあ暇だが。というか中休みぐらいの時間に今日は部活休みというお達しが来ていた」
「ほんと? じゃもし良かったらぷらっとどっか遊びに行かない?」
「漠然としてるな。どこか行きたいとかそういうのじゃないのか?」
「ううん。適当に遊びにいきたいなってだけ。ダメかな?」
適当に、か。気晴らしにいいかもしれないな。昨日からずっと考えることしかしていなかったしな。休息大事。
「ああ。いいぞ。とりあえずゲーセンにでも行くか?」
「お! ゲーセンいいね! そういえば最近行ってないなー」
「お前ゲーセン行くのな」
「週何回かたまに行くよ。比企谷くんは?」
「俺もたまにだな。だいたい格ゲーか音ゲーやるわ」
「私はレースゲームよくやるよ」
レースゲームか。マリカとかだろうか。あと思いつくのは某チョメチョメDしか出てこないが女子だし流石にやらないよね。あのゲームは原作を読むぐらい相当コアなファンでもない限り遊ぶ女子はなかなかいないだろう。
「イニDとか湾岸とか。あとたまに太鼓とか」
そんなレアな女子が目の前にいました。すみません。わ、湾岸? あぁ、首都高の走り屋のお話ですね分かります。どちらも嗜んでらっしゃるのですね若宮さん。
「マリカとかかと思ったらそっちかよ。自転車といい走り屋系女子かお前」
「走り屋系女子ってまた斬新な……でも否定出来ないのが悔しい」
「まあ俺も一時期それ遊んでたことあるけどな」
「じゃあ比企谷くんだって走り屋系男子じゃん!」
「それはあくまでも過去形だから走り屋ではないな」
若宮が言うには、チョメチョメDとか湾岸とかはほとんど父親の影響だそうだ。小学生のころは若宮の父親が遊んでいたGTシリーズを遊び倒していた。
ポケットなモンスターやらドラゴンなクエストとかそっちのけでハンドルを握ってサーキットを爆走(ゲーム)していた。で、某Dとかは原作とアニメ観ていたそうだ。とんでもねぇ英才教育してるな若宮の親父さん……
「ま、そのせいかポケモンの名前とか全然分からないよ。○○強いよとか言われても、ん?ってなるね」
「お、おうとんでもねぇ英才教育受けてんな……」
「私はやりたくてやっていたからね。遺伝子は逆らえないものなのかな……」
「蛙の子は蛙っていうしな……」
☆
予鈴が鳴り、昼休みは終わりを告げようとしていた。5限目は生物の授業で移動教室だから割と急がないとまずい。
廊下は走ってはいけないがやむを得ず走って移動した。
何とか間に合い、5限目の授業を受けた。6限は数学で睡眠を貪る。もう数学は捨てた身ですから。中1で習う連立方程式で躓くぐらい数学は無理なのだ。
というわけでおやすみなさい。
◇
ただいま絶賛数学の授業を受けているどうも若宮楓奏です。数学は得意でもなく極端に苦手というわけではない。成績もだいたい真ん中をキープしているよ。
でも数学はめんどくさいし嫌い。算数さえ分かればいいじゃんっていつも思う。xやらyとかいつも仮定ばっかりをするから嫌い。ハッキリしてよと思うの。
あとこれだけツッコミ入れさせて。点P、お前はダメだ。お前は動くからめんどくさい計算するはめになるんだよ。
チラッと2つ隣の席に座ってる比企谷くんを見てみた。え?机に突っ伏しているけどもしかして寝てる?数学は捨て科目だったりする?
というか私も眠くなってきたよ……ふぁぁ……
眠気と格闘して授業を受けていたらいつの間にかチャイムが鳴った。その後短いHRがあって今は放課後の帰り道。
右側に自転車を押している比企谷くんが居て、私はその隣を歩いている。
何気に車道側いるあたり紳士だよねぇ……しかし冬にだんだんと近づいてきてから日が落ちるの早くなってきた。空はわずかなオレンジ色を残しほとんどが暗い紺色に染っている。そういえば朝曇り予報だったのに外れたのか、晴れていた。
比企谷くんのご提案で駅の大通りじゃなくて海浜公園側の大通りから駅方向に向かっている。なんでだろ?
「そういえばなんでこっちから駅に向かってるの?」
「あぁ。駅の通りだと同級生多いだろ? また変な噂出回ったら面倒なだけだ」
あーなるほどね。私としては噂され……たくはないよ? 嘘じゃないよ? たしかにいろいろめんどくさいし……
左側にセブンが見えてきた。それとほぼ同じタイミングで1人出てきた。
出てきた人が総武高生だった。このあたりに住んでいるのだろうか?そう思った時に向こうも気づいたみたい。
「ん? あれ若宮?」
「岩槻さん?」
岩槻さん。名前は岩槻美幸。少し背が高く、地毛が茶髪で立派なロングポニテールしている女の子。うちのクラスにいる川崎さん?を少し柔らかくした雰囲気。普通にすればだけどね。
「あと比企谷だっけか?」
「お、おう?」
「2人は何? デート?」
「ちげぇよ。こいつに誘われて駅前のゲーセン行こうとしてんだよ」
「ふーん。ま、男女交際なくても男子と女子と出かける約束するだけでもデートという扱いらしいよ?テレビで見た」
そうすると私は比企谷くんと今まで何回デートしたんだろう……今までの概念で考えたらどんなラブラブカップルだよ!昼休みはよく一緒にいるし、なんなら同じ趣味も持っている。あれ? 付き合っちゃ……ゲフンゲフンなんでもないですすみません。
「邪魔すんのも悪いから行くわ。じゃあな」
「あ、岩槻さん!良かったら岩槻さんもゲーセン来る?」
「……まあ、2人の邪魔じゃないならいいが」
「比企谷くんは大丈夫?」
「まあ、構わんが」
んじゃれっつらごー!3人でゲーセン行くことになりました。
セブンからはもうそんなに距離がないのであっという間に駅前に着いた。ちなみに岩槻さんは格ゲーとたまにメダルゲーム(競馬限定)を遊ぶみたい。
え、おっさん……あ、すみません殴らないで……睨むと割と怖いよ岩槻さん……
ゲーセンに入ると聞き慣れた騒がしい音が響く。まず岩槻さんと比企谷くんはドン☆パチ(格ゲー)するみたいなので観戦する。
「そこまでやりこんではいないからお手柔らかに」
「ごちゃごちゃ言ってねぇでやるぞ」
2人とも100円を投入して店内対戦始めた。比企谷くんはやりこんでいないと言いながらかなりの速さで技を捌いていく。岩槻さんはガンガン攻撃していく。もうやめたげて!レバーちゃんのライフはもう0よ!
比企谷くんは上手く相手の技を捌きつつ時々攻撃する。岩槻さんは攻撃こそ最大の防御と言わんばかりの攻撃。守りに入ったの指折り程度しかしてないよ?
やり合ってからしばらく経ち、勝者が決まった。勝者は僅差で岩槻さんでした。
「お前、結構な腕前じゃねぇか」
「それはどうも。てかお前ほど攻撃仕掛けてくるやつ初めて見たわ」
「攻撃こそ最大の防御だろ」
「脳筋か?」
「あ?」
岩槻さんの睨みで怯む比企谷くん。何気にこの2人も相性悪くなかったりするのかな。
「言っとくけど、むちゃくちゃやっているように見えるけどこう見えて地元のゲーセンはランカーだからな」
「マジかよ……」
「2人とも凄かったね……レバー壊れないか心配だったよ。ほい」
お疲れ様という意味と来てくれてありがとねという意味で岩槻さんにコーラを渡した。店内の自販機は残念ながらマッ缶はなかったのでコーラにした。
「え、いやなんか悪いからいいよ」
「ううん。来てくれてありがとねって意味で受け取ってほしいな」
「……じゃあ頂くわ。ありがとな」
「比企谷くんもね」
「おう……サンキュ」
◇
店内対戦はたまにしかやらないが、あれほどガンガン攻撃してくるやつは初めてだ。正直技を捌くだけで手一杯だった。
若宮は某Dをやりたいと言うのでハンドルとシフトレバーがついてる筐体の前にきた。
「若宮もこれやってんの?」
「うん。楽しいよこれ」
「奇遇だな。実は私もやってんだ」
岩槻もやってんのかよ……ハンドルもげそうだな……
と、思っていた時期もありました。一言で言うとレベルの高い戦いだった。
2人とも100円を入れ、店内対戦を始めた。コースは中級レベルで上級者からすると簡単かもしれないが、さらなる速さを求めるという点ではそのコースを極めるのが難しい。
俺も一時期遊んだことあるから車種はなんとなく分かる。
若宮はNSX。90年代のものだ。そして岩槻はGTR R34だ。
どちらもプライヤーカードを持っているほどやりこんでいる。俺も持っていることは持っているが、ストーリーも途中までしかやっていない。
「NSXかーボディデカいし曲がれんの?」と岩槻は少し挑発ぎみに言った。
「そっちこそ4WDで突っ込んでこないでよね」と若宮もノリノリのご様子。
レースは始まった。先頭に出たのは若宮で後続は岩槻だ。岩槻は様子見るために後ろに付いたのだろうか。
2人ともけたたましいエンジンを轟かせコーナーに突っ込む。ガードレールや壁はもちろんのこと、お互いの車も接触寸前で接触せずギリギリまで詰めている。
2人とも左に右に忙しなくコーナーを捌いて行く。あとから気づいたが2人ともMTである。か、かっけぇ……
シフトもコーナリングも全く無駄がなく、めっちゃ速い。
「ここからは私の得意セクションだよ」と岩槻はアクセルベタ踏みで若宮を追い抜く。
流石得意と言うだけであって少しながらも距離を稼ぎ始めた。若宮も諦めたわけではなくジリジリと距離を詰めようとする。
「仕掛けるなら……この先の5連続ヘアピンカーブ……」と某Dの主人公のようなセリフ聞こえたのは気のせい。
このコースの難所、件の5連続ヘアピンカーブに近づいてきた。上手く離してきた岩槻は無念にも真後ろに若宮に張り付かれていた。
最初のヘアピンが近づいてきた。が、若宮はまさかのやり方で抜きにかかった。そう。ライトを消したのだ。暗闇の峠道(ゲーム)で。
「な!? 消えた?!」と岩槻は驚いている様子。
今運転しているのだから隣の筐体の画面の確認出来ない。すなわち若宮の居場所は分かる術はない。
岩槻は冷静にヘアピンを2つほど処理したところ、3つ目のヘアピンで若宮の反撃が始まった。
「ここだよ!」と若宮は言い放ちライトを再び付けた。
3つ目のヘアピンカーブで岩槻は外側に膨らんでしまったため、内側は空いていた。それの隙をついて若宮は内側にねじ込んだのだ。
そのまま前に躍り出た若宮は逃げ切り勝利を果たした。
「あーあ負けちったよ」
「でも凄かったよ? 店内対戦してこんな楽しかったバトルはなかったよ」
「私もこんなレベル高い相手とやり合ったの久しぶりだな……溝落としは予想していたけどまさかライト消すとはね」
レベル高い者同士の談議は邪魔してはいけないなと思い俺はトイレ行ってきた。
ちなみにそれなりにギャラリーがいて結構盛り上がったのはまた別の話。それから3人で競馬のメダルゲームに興じて、俺らは帰路に付いた。
「あー面白かった!」
「誰かと行くのも面白いもんだな」
「とりあえずレベル高すぎてびっくりしてるわ」
「そんなことないよ?」と2人はハモって言ってきた。いやそんなことあるよ? 某D上手いJKとか僅かながらいろいろ需要はあるよ?
「それこそ私から見たら格ゲーのときの2人凄まじかったよ?」
「そうか?」と岩槻とハモってしまった。
「その感覚だよ! 2人は普通かもしれないけど、私から見たら凄いの!」
「なるほどな」
☆
若宮と岩槻は電車通学だから改札口の近くで別れ、俺は自転車に乗り家に向かった。まあ、そのなんだ。意外と楽しいなと思ってしまった俺がいる。
家に着き、自室で今日の出来事を思い出していた。
ゲーセンはだいたい1人で行っている。誰かいても材木なんとかそれぐらいだ。だがらこれほど誰かとゲーセン行くのが面白いと思ったのは初めてだ。
部屋のドアがノックされ少し不機嫌な声で「ご飯」と簡潔に言われた。小町だ。今朝のことについて話さないといけないなと思った。
だが、小町は終始ムスっとしていてなかなか話しかけられずにいた。
それから小町は皿を片付け部屋へ戻っていった。俺はシャワーも浴びず奉仕部のことをひたすら考えていた。今日……いや日付変わったから昨日か。ゲーセンでリフレッシュしただろうしいい案出るかと思いきや全然出てこない。リビングのソファーで寝転がりずっと思考に張り巡らされた。
そんな時に小町がリビングに入ってきて冷蔵庫で探し物していた。
「なぁ、小町……」
気づいたら声にしていた。でもやっぱり小町はまだ少しムスっとしていた。
「なに?」
「えっと、コーヒー入れるんだが飲むか?」
「……飲む」
コーヒーが出来上がり、小町にマグカップ渡した。
「……ありがと」
「そのなんだ。話あるんだかいいか……?」
なるべく低姿勢でお願いをしてみた。小町はどう出るだろうか。もしコーヒーかけてきたらもうお兄ちゃん号泣。
「はぁ……他に言うことあるでしょ?」
「あ、あぁ……今朝はすまん」
「ん。許したげる。それで話ってなに?」
小町に奉仕部であったことや、今後どうすればいいかいろいろ話した。
まず雪ノ下が選挙に出ればかなり高い確率で当選するだろう。孤高ではあるが、学校内ではそれなりに有名人だ。
雪ノ下が選挙に出れば一色の依頼どおり選挙枠から下ろせる可能性が一気に高まる。実に効率的だ。しかし部活は無くなってしまう可能性が高い。そしたら由比ヶ浜の「奉仕部は残ってほしい」という願いは叶うことが出来なくなる。
この相反することをどうすればいいかまったく示しがつかず、小町の意見を聞きたかった。
全くぼっちと名乗っているのに他力本願かよ。俺らしくねぇな。
「そっか。そんなことあったんだね」
「あぁ。どうすればいいかお兄ちゃんお手上げだ」
「……小町ね、今の奉仕部の皆さんが好きだなー。だからね、結衣さんと雪乃さん、それとお兄ちゃんの3人で奉仕部に残っていて欲しい」
「……あぁ」
「だからお兄ちゃんお願いね?」
「おう」
それから少したわいのない話をして小町は寝室に戻った。
こうする理由。それを手入れたからあとは実行に移すのみだ。ちなみに小町に今日の放課後サイゼ来てねと言われた。
その後俺はさっさとシャワー浴びて、数時間しかないが眠りについた。
続きは早めに上げますのでよろしくお願いします。
それでは。