その日の放課後。小町に言われた通りサイゼにきた。小腹が空いていたのでミラノ風ドリアとドリンクバーを注文した。
小町が言うには助っ人を連れてくるとか言っていた。なんのこっちゃ。
サイゼに着くの少しばかり早かったのでコーヒーとスティックシュガー×3を席へ持って行き読書を始めた。別にブラック嫌いじゃないけど、やっぱコーヒーは甘くないとな。
数十分後、小町と愉快な仲間たちが来店した。
「じゃっじゃーん!助っ人を連れてきました!」
こら、小町ちゃん。お店の中では騒いじゃいけませんよ。その助っ人とやらのメンバーは川……川なんとかさんと……と?戸塚ぁ!?戸塚が助っ人とかこれはもうレベル3の懺悔しなければならない。
ちなみに懺悔は大きく分けてレベル3つがあって、レベル1は目からは熱い涙、全身の毛穴から熱い汗を流して、「私が悪かった」と懺悔する。
レベル2は目から血の涙、全身から熱い汗を流す。「私が悪かった、二度といたしません」という誓いがある。
レベル3は最も深い懺悔、目から血の涙、全身から血の汗を流す。
戸塚の手を煩わせるとかレベル3の懺悔しなければならない。アーメン。
「お兄ちゃん?息してる?」
「あぁちょっとな」
「やほー八幡!」
「なんで私が……」
てか助っ人にしてもなぜこのメンバーなのか小町に聞いたら、なんとなくだそうだ。なんでだよ。ま、戸塚がいれば解決したようなものだな。うん。
「えっと、まずなんで雪ノ下さんは選挙に出ようとしているの?」と戸塚様が疑問を飛ばしてきた。事情を説明し一色を選挙枠から下ろすにしても他に立候補する人がいない。だから雪ノ下は選挙に立候補し一色を選挙枠から下ろせるからと伝えた。
「小町はね、奉仕部の皆さんが好きなの。結衣さんと雪乃さんを奉仕部に残って欲しいの。だからお兄ちゃんお願い!」
「いやでもそうすると一色の依頼がな……」
「一色さんのことそんなに大事なの?」
「いや全然まったく」
「仕事と小町どっちが大事なの!」
「小町に決まってるだろ」
「消去法なんだね……」
こうして4人で集まっているもののさっぱりいい案は出てこない。まあそうだよなぁ……小町はまだしも川なんとかさんと戸塚は奉仕部にそんなに関わりはない。
川なんとかさんもスカラシップの1件以来そこまで関わりがある訳でもない。戸塚もテニスを鍛えてほしいという1件と夏休みのボランティア以来そこまで関わりがあるわけではない。
まあどちらにせよ雪ノ下と由比ヶ浜の奉仕部に残留することで方針を進めよう。ここでふと川なんとかさんに聞いてみた。
「なぁここにお前が生徒会長にいいなった思ったやつの名前書いてみろ」
「あたしが?」
「あぁ」
三浦、葉山、海老名……ほか2名。まあ妥当だよな。いや三浦は女王政権始まるからダメだ。葉山は女子人気で生徒会を運営が難しくなる。というか他の役職の奪い合いによる戦争が始まりかねん。却下。
「あと……あんたとか」
「そりゃ面白い冗談どうも」
ここで天啓を得たかのように思いついた。逆に一色を説得して生徒会長になってもらうという手もあるな。一色は計算であのキャラ演じているのであればそれはむしろ説得に向いている。好条件をチラつかせれば飲んでくれるだろう。
「あんたらしい発想だね……」
「あはは……」
深夜23時ごろ。この発想を経ていよいよ実行の時間だ。まず一色を説得する下準備として規定以上の推薦人数を集める必要がある。
SNSをフル稼働し、アカウントを大量作成する。そして既存アカウント名を弄る。そしてそれらのアカウントのフォロワー数が実質的に推薦人となる。が、1人となると難しいところが出てくる。ここで材木座を召喚することにした。
今日の昼休み図書室に行った時に材木座からこう言われた。「我はどれほど貴様に与太話してきたと思っている。貴様の与太話はいくらでも聞いてやるさ」とくっそドヤ顔で言われた。腹立つ顔だがそう言われると助かる。なので頼ることにした。
このやり方は決していい方法ではないとは分かっている。だがこの俺が学校中を歩き回り一色の推薦人を集めてたらなに言われるか分かったもんじゃない。
なので裏で動くしかない。
全てのアカウントのフォロワー数を足すと全校生徒の3分の1か……俺はある男に電話をかけた。
『我だ』
「数は充分だ。次の段階に移行するぞ」
『これはあまり褒めれた手段ではない。危険を伴う』
「材木座……」
『おっと勘違いするなよ?お前を心配してるのではなく、実行するまでに責任及ぶのではないか、あまつさえ貴様がとぼけの尻尾切りするのではないかと危惧しているのだけだ。またその場合当方は暴露すると宣告しておく』
「清々しいぐらいクズいなお前。大丈夫だ。正体見つけようにもこのアカウントの人間は存在しない。誰にもダメージは行かない」
知ってるか?材木座。問題は問題にしない限り、問題にはならないんだよ。
それからそれぞれのアカウント名を書き換え、それらを済んだら最終的に削除を行う。これで何も無かったことにする。
これで下ごしらえは終わった。あとは明日一色に交渉を持ちかけるだけだ。
☆
翌日の昼休み。一応若宮に対してメールで『用があるから今日はあそこには行かん』と送り一色のクラスに訪れた。
とりあえず一色のクラスであろう男子に「一色さん呼んでもらえる?」とお願いした。
一色は期待していた顔から急転直下し、めっちゃ露骨に嫌そうな顔していた。ごめんね。俺で。
比較的に人が少ないであろう図書室に移動し、昨日こちらが用意した推薦人名簿の書き写し作業に移った。
「せんぱーい。これ書き写すのちょー辛いですよ~……あ、昨日駅前で一緒に歩いていた人ってせんぱいの彼女さんですか?」
「どうだろうな」
「えー教えてくれてもいいじゃないですか」
「これ終わったらな」
「ていうか葉山のことす……どう思ってんの?」
「は?なんですか口説いてるんですかごめんなさい無理です好きな人いるので」
告白もしていないのに振られたよ俺。斬新すぎて八幡超ビックリ。てかそうじゃねぇよ。単純にどう思っているのか聞きたかっただけだ。
しかもいいなと思った人に手を出すって言いかけなかったかこいつ……これ刺されても文句言えねぇよ……
「ねーせんぱーい。これってやる意味あるんですか?」
「ま、なくはないな」
「なんか言い方が曖昧なんですけど」
一色は何をどうしたところで雪ノ下や由比ヶ浜には勝てない。雪ノ下のカリスマ性や由比ヶ浜の人望の厚さには敵わないだろう。そういう意味じゃ無意味だ。
「……ま、別に勝てなくてもいいんですけど。でも案外勝っちゃったりしたら怖いなーって」
「勝てる部分、ないだろ」
「はぁ、まぁ……」
「それに最初の推薦人の連中だって一色には投票しないし」
「……」
「そいつら今頃大爆笑だろうな。で、選挙に負けた姿を見てさらに爆笑……そういうの腹立つよな。やっぱやられたらやり返さないとな」
「いや、まあ出来たらいいですけど」
「出来る」
「え?」
「さっきから書いてるコレ、なんだと思う?」
「推薦人名簿ですよね?」
「そうだ。ただしこれは一色の推薦人名簿だ」
「へ……え!?いやでもわたし推薦人はもう集まってるんですけど……」
「推薦人の規定は30人以上、何人集めてもいいんだよ。ネット上で一色の応援アカウントが稼働していたんだ。全校生徒の3分の1、これだけの支持者もいれば勝てる」
「い、いきなり言われても無理ですよー……ていうかなっても出来ないと思うんですよね。あんまり自信ないっていうか……それに部活もあるし……」
「ま、確かに両立は大変だな。でも得る物は大きい。それはなんだと思う?」
「はぁ……まあ経験とか……あと内申とか。ていうかせんぱい先生みたいですね」
違うな。お前が得られるのは……『1年生で生徒会長なのに頑張って部活出てる
わたし』だ。おいこらそこうっわぁとか言わないの。裏声出すの割と大変なんだからね?
1年生なら失敗しても許されることもある。その上生徒会がダルいときは部活を言い訳に使える。逆もまた然りだ。
「で、でもやっぱり大変ですよねー……」
「そういうときは葉山に相談すりゃいい。なんなら手伝ってもらえ。部活なら家まで送ってくれるアフターケア付きだ」
「……もしかしてせんぱいって頭がいいんですか?」
「まぁな」
「……まぁこれだけ支持されたならしょうがないですね……その提案らそれなりに魅力的ですし。それにクラスの子に影で笑われるのは嫌ですし。
せんぱいに乗せられてあげます」
ビジネスマン比企谷八幡、交渉成立させました。あ、飯食う時間ないですねありがとうございました。
☆
2日ぶりの部室。俺はいつも通りやや立て付けの悪い扉をがらがらと開けた。
「うっす」
「こんにちわ」
「やっはろー」
定位置に座り、本を取り……本を取り出す前に書き写した一色の推薦人名簿を取り出した。
「なぁ、お前らはもう選挙に出なくてもいいようになった」
「え?」
「比企谷くん、それだと一色さんが……」
そうじゃない。そう言い一色の推薦人名簿の紙束を2人の方に渡した。
「一色が生徒会長やる気になってな、あの依頼は実質的に無くなった。今渡したそれは一色の推薦人名簿だ。ざっと全校生徒3分の1の名前がある」
「すごい……」
「これあなたが?」
「さぁな。どっかの有志の人間がやったんだろ。まあそのなんだ。とりあえずお前らは選挙に出る必要はなくなった」
「これなら私は出る必要なさそうね……」
これでひとまず小町の「雪ノ下と由比ヶ浜を奉仕部に残っていてほしい」という依頼と由比ヶ浜の「奉仕部無くなって欲しくない」という願いは解決しただろう。俺もひと仕事終えしばらくゆっくりできそうだ。
……依頼は概ねクリアしたものの、雪ノ下から生徒会長の仕事のチャンスを奪ってしまったのではないかという不安要素も拭えない。
「先生に報告してくるわね」
「私もいくよ!」
「1人で大丈夫よ」
雪ノ下は先生へ報告するため部室を離れた。部室は俺と由比ヶ浜の2人しかいない。
「……すまん」
「なんで謝るの!?」
「いや、ほら選挙出たかったんだろ?」
由比ヶ浜は立ち上がって俺の後ろまで歩いて来た。そしたら俺の頭撫でられていた。いやいや近い近いというか触るな。
「ヒッキーは頑張ったもんね」
「やめろ触んな」
「やーめない! ……このアホ毛凄いね。寝癖直しで直せないかな?」
「やめてくれ。直したらそれこそ俺の存在意義はなくなる」
「そんなに!?」
ばっかお前。このアホ毛はトレードマークだ。それが無くなったらそれこそ生きる意味無くなってしまう。だって小町とおそろじゃん? いやちょっと言っといてキモいかもしれんわこれ。
「つーか触んなっての。お前あれだ不必要な接触は危険だぞお前」と右手で撫でてくる手を軽く払い除けた。
「?厨二なの?」
ちげーよバカ。そういう無防備な行為は多くの勘違いを生ませ、最終的には多くの犠牲者を出すんだよ。いいか?無闇に男子にボディタッチしない、休み時間のとき勝手に椅子を座らない、なんなら事務的なこと以外話しかけない。これが三原則だ。そうすれば勘違いは生まず、各々の世界を生き、世界は平和が訪れるのだ。ぼっちによる平和条例だ覚えとけ。
雪ノ下が先生の報告が終わり、一旦部室に戻ってきたらそのまま部活は終わりとなった。いつも通り雪ノ下と由比ヶ浜の2人は鍵を返しに行き、俺は下駄箱の方へ向かう。
ママチャリはパンク修理してるため、今日は電車で帰る。とりあえず駅へ向かう。電車がちょうど来ていたので急いで駆け込み、席に座った。駆け込み乗車は危ないから良い子は真似しないでね。
日が落ちて行く東京湾の車窓を眺めながらぼんやり考えていた。今夜気晴らしに軽く走ろうと思った。最近ロード乗れてないから飯食ったら走りに行くか。
珍しく楓奏たん登場しませんでした。続きはちゃっちゃと書くのでお待ちください。それでは。