さらに翌日の放課後、今日の会議は絶対に決着つけるぞと私は意気込んでいる。昨日の夜一応比企谷くんと電話して一色さんと話したことや今日の会議についての打ち合わせもした。だから多分大丈夫。うん……。大丈夫だよね。
今はセンターへ向かう道中なんだけど実はすっごい緊張してる。だってあの会議の中で目立った発言はほぼしたことないんだもん。でも決着つけなければいけない……。
「ふぅ……」
とりあえず自分を落ち着かせるためにちょうど目の前にあった自販機で缶コーヒー買った。プルタブを開けて1口目を喉に流し込んだ。
「あー……。うんめぇだ……」
やっぱり寒空の下で飲む暖かいコーヒーは体に染み込みますわぁ……ちなみに缶飲料にある蓋の正式名称は「イージーオープンエンド」で、EOEと略されている。プルタブというのはEOEの中でのプルタブ式から来ていて、缶飲料のスタンダードらしい。なんかあいつらが喜びそうな説明である。他にも色々あるからGoogle先生に聞いてみてね。
コーヒー飲み終わったので備え付けてあるゴミ箱に捨てた。少しは落ち着いたかな。
今回の会議のために一応2パターン用意してある。ひとつは昨晩一色さんが言ってた通り総武高と海浜総合高の関係が微妙な関係になる可能性が高い。
もうひとつはその関係をぶち壊しかねない。とりあえずこれは最終手段で基本的に却下の方向で。まあどちらにせよこちら側は強気でいないとダメなので微妙な関係になるのは避けられないから誤差よ、誤差。これさえ切り抜ければ1週間ほどで向こうとの関係持つことも無くなる。と思いたい。
さて。コミュニティーセンター、もとい本日の決戦の場に着いてしまった。上手く行くといいんだけど……。
いや、もう覚悟決めるしかないんだ。ここでやらなきゃ失敗で終わる。やらないで失敗するぐらいならやるだけやってから失敗してやる。
意を決して会議室へ入る。いつも座ってる席に座り会議が始まるまで与えられた作業を黙々とこなす。思ったより集中していたのか比企谷くんに声掛けられるまでパソコンとにらめっこしてた。
「よう」
「ん?あ、比企谷くんやっほー」
「で、昨日電話で言ってたことマジでやんの?」
「うん。比企谷くんも一色さんと同じように私に合わせる感じでお願いしていい?」
「それは構わないが、なんか方法思いついてんの?」
「今のところはちょっとキツめに言うスタンスで行こうかなと」
「えぇ……」
「それで割と容赦なく行こうと思う。向こうにはそんぐらいしないとダメな気がするし」
「まあ……とりあえず了解した」
☆
「そうかもですけどー、わたし的には演劇やりたいなと思うんですよねー。そっちの音楽系とこっちの演劇もどっちも見れるとかお客さんちょーお得じゃないですかー」
程なくして会議が始まった。前回と違って一色さんはズバズバ意見言ってる。いい感じに変化みれて私はホッとした。ちょっと煽ってる感否めないのは気のせい。でもこれなら行けそう。
「ただセパレートするとシナジー効果薄れるし」
「ですよねー!でも予算的なのあるじゃないですかー」
やばい。やっぱり一色さんの喋り方若干煽ってるようでちょっとジワる。
「それはみんなで考えて行こうよ。そのための会議なんだし」
なんだろ、とうとうこいつが喋るだけでイラッとする体質になってる気がする。さっきまでジワるって言っといて急に真顔になった。我ながら凄い手のひら返しである。
「それアグリー」
「アグリーアグリー」
何がアグリーだよ。とこの民族の挨拶です?一色さんちょっと押されたけど大丈夫かな。良さそなタイミングで仕掛けるからもう少し頑張って……。
「それあるー!」
ねぇよ。何があるんだよ。
「ちょっといいかな。二部構成することに反対の理由は?」
お、副会長さんも乗っかってきた。やっぱり会長さんがしっかり意見言えると変わるものだね。
「んー反対ってわけじゃなくてさ、ビジョンを共有すればもっと一体化出来ると思うんだ。イメージ戦略の点でも合同イベント大枠はマストなんじゃないかな」
「そもそも合同でやる必要ってあるか?」
ありがとう比企谷くん。それ1番ツッコミたかった。そろそろ私の出番かな。
「もちろん。合同でやることでグループシナジーを生んで大きなイベント」
「シナジーなんてどこにもないし、このままだと大したこと出来ないでしょ。なのに何でそんな形にこだわるの?」
「コンセンサスも取れてるし、グランドデザインも共有出来てたわけで」
「違うな。自分は出来ると思い上がってたんだよ。……自分の失敗を誤魔化したかったんだろう。そのために策を弄した、言葉を弄した。言質を取って安心しようとした。間違えたとき誰かのせいにできたら楽だからな」
ほんとこれなんだよなぁ……やっぱ比企谷くんにもお願いしといて正解だった。これテストだったらたいへんよくできましたの判子押しちゃうぐらい完璧な回答。
「これって単にコミュニケーション不足なだけな気がするけど」
「一度クールダウンの期間を入れて話し合いを重ねれば」
さてそろそろ反撃しますかね。私もちょうどいい感じにイラついてるし。ふぅ……。とりあえず軽くジャブ入れますかね。
「あのさ、もうこの無意味な会議はもうそっちの学校だけでやっててくんない? 今までの会議、ずっと中身のない言葉ばかり並べてるだけでどれも平行線で1ミリも進んでない。ビジョンの共有やら合同やら大層なことぬかしてるけど、ちっとも共有してないからね?ことあることに仕事投げてくんのそっちだし、そっちが仕事受け持ったのほとんど見たことない。ちょっと1回こっちの身にもなってみろ。なーにが合同だよ。というかそもそも単純に決断する事にビビってるだけでしょ?」
あれ?なんかギアが入っちゃった……。ジャブどころが左フック直後に右ストレート入れたぐらいのこと言っちゃった気がする。まあいい。こんなの誤差。これだけ言わせてもらう。
「玉縄さん。前にも言ったよね?もう時間ないから早く決めようって。なのにそれ以降の会議は相変わらず平行線で終わる。はっきり言って時間の無駄。これ以上こんな会議を続けるなら正直こちら側はもう付き合いきれない。いい加減これ以上私らの時間を奪わないでもらえるかな?」
…………あれ?間違ったこと言ってないよね?え、脅した?気のせいだよ。なんかめっちゃ静かになっちゃったんですけど。ってえ!?比企谷くんなんか若干引いてない!?結構ボロクソ言うやんみたいな顔やめて!というかちょっとお願い誰かなんか言って!静かなままだとなんかすごく恥ずかしいから!
「あーえっと!やっぱり無理に一緒にやるよりも2回楽しんで貰えた方がいいと思うんですけどどうですかね!?」
「あー……うん、それもあるんじゃない?ね?ね?」
「そうだね」「この案もありだねうん……」
何とかこちらの案を通すことに成功し、この会議は無事幕を閉じた。けど、一色さんに叱られてるなう。多分少し言い過ぎたから怒られてるんですね分かります。
「若宮先輩。あれはちょっと言い過ぎです」
「おっしゃる通りです、一応自覚あります」
自覚はあるんです。でもなんか楽しくなっt……なんかウチのリトル楓奏が面白くなっちゃっていろいろ言っちゃいました。ほんとすみません。
「せんぱいにも言ってるんですよ!」
「俺も合わせろって言われたんだよ……」
いや、なんかほんとすみませんでした……。でもわがまま聞いてくれてありがとね。
「私も乗じた身ですし、強くは言えませんがもう少し言葉選んでください」
「ほんとすんませんでした……」「へいへい……」
しかもド正論だからこそタチ悪いんですよね……とボソッと聞こえた。一応正論ということは認めてもらえたみたい。
「まあ、こないだのこともそうですけど、若宮先輩のおかげでいろいろ助かりました。本当にありがとうございます」
「……うん!」
こうして本当の意味で無事会議が終わった。大まかやることは決まっているので明日には体制を固め、そして土日を挟み本格的に始動する予定だ。今度こそ本当に忙しくなる。
「あー疲れたぁ……やっと方向性が定まってよかったよ」
変わらずいつもの道を比企谷くんと並んで歩く。今日は色んな意味で疲れた。慣れないことはするもんじゃないね。
「ほんとな。どっかの誰かさんがボロクソに言ったおかげだな」
「私は事実を述べただけです。よってボロクソは言ってません」
「事実だからタチわりぃんだよ……」
「比企谷くんも結構キツめに言ってたよ?」
「お前が合わせろって言ったんだろーが。俺は仕事を全うしただけだ」
「まあ確かにそうだね。あ、マッ缶飲む?」
予め2本買ったマッ缶を1本彼に渡した。もちろんあたたかーいやつ。
「マッ缶あるなら早く言え。ちょうど糖分欲しかったところだ。んで、100円か」
「お金はいいよ。私のわがままに付き合ってくれたお礼てことで」
改札口から少し離れたベンチに2人で腰掛けた。早速ほぼ同時にプシッといい音して蓋を開けた。私の上着暖かいからか、意外とマッ缶は冷めてなかった。そしてその神聖なる飲み物を口に流し込む。
あぁ美味い。この暴力的な甘さとほんのり優しい苦味。この味が喧嘩をせず自然に調和して素晴らしいハーモニーを奏でる。ほんとジョージアは神。マッ缶以外にも夏商品のココアあるんだけどこれもまた美味いんだ。缶のココアでは文句なしの1番だと思う。ジョージアのココアもぜひ飲んでみてね!
「やっぱうめぇなぁ」
「これこそ千葉県民のソウルドリンクだよね」
「分かってらっしゃる」
いつもの流れで握手を交わす。数少ないマッ缶ユーザーなのでこのやり取りはここ最近すっかりいつもの流れと化している。
軽いマッ缶談義を交わしてたら飲み終わっていた。近くのゴミ箱に缶を捨て、改札口の方へ向かう。
「明日から忙しくなるね」
「そうだな。何とかなったもののやっぱり働きたくない」
「ふふ。気持ちはわかるよ。じゃ気をつけてね」
「あぁ、じゃあな……あ、そうだ」
自転車に跨ろうとしたときに何かを思い出したかのように私の方に向いた。
「えっとあれだ、お前のおかげでいろいろ助かったし、俺個人で受けた依頼を概ねクリアできそうだ。そのなんだ、ありがとな」
なんというかやっぱりお礼を言われるのって少し恥ずかしい。でもそれと同時に嬉しくなる。
「……こっちこそ私のわがまま聞いてくれてありがとう。1人だったら多分上手く行かなかった。だからね、ありがと、比企谷くん」
私は心の底からの笑顔になっていた。ありがとうと言われ嬉しくなって、心の中はポカポカする。あの2人に言われたときとまた違う温かさを感じた。
「……おう。まあそんだけだ。じゃあな」
「……うん!また明日!」
残りはは本番の前日まで突貫的に作業を進めるのみ。これからもっと大変になる。明日は除くとして来週中には仕上げに近い段階に持っていかないといけない。もしかしたら土日出勤も有り得るかもしれない。まあ、アレだよ。がんばれ私。
しばらくの間、間空くことはないと思いますので続きお待ちください。
それでは。