ベストプレイス   作:自由人❀

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ただの日常回です。それではどぞ。


冬休みのある日

クリスマスイベントから数日経ち、冬休みをエンジョイしてるかどうかよく分からない、どうも楓奏です。

現在の時刻は午前9時ごろ、絶賛家でゴロゴロしております。ホットコーヒーうまうま。コーヒーを片手にTwitterを徘徊している。

 もう少し寝ても大丈夫だったんだけど、体が染み付いてるのか普段学校ある日と変わらない時間で起きてしまった。それに誰かと約束してるわけでもないので暇している。

 イヤホンから流れる音楽に合わせてふんふんと鼻歌を歌う。実にまったりした優雅な朝である。

 イヤホンから流れているのは萌え萌えのアニソンでもなく、流行りに乗ったJ-POPでもない。有名な弾幕ゲームのキャラクターBGMを爆音なジャズアレンジした曲である。

 ホットコーヒーにこのサックスのメロディーがノリノリなBGM。恐らく今現在千葉県で1番優雅な朝を過ごしているJKではなかろうか。

 両親は早くから出かけており、家にいるのは私と京楓だけである。妹の京楓は今何しているんだろうか、向かいにある部屋のドアをノックする。

「やっほー。勉強してる感じ?」

「うん。あ、この問題分からないんだけどお姉ちゃん解ける?」

 ふむ。どれどれ。って数学かー……。京楓がスっと差し出したのは数学の問題集である。そもそも数学得意というわけではないし、三平方の定理なんてイマイチ覚えてない。

 夏鈴だったらこんなの一瞬で解けるだろうなぁ。普段少しアホの子だけど理数だけ突出的に強い。どれぐらい強いかと言うと、定期テストで理数だけいつも上位1桁をグラついてるバケモンである。ほんといろいろ助かっております。なお文系(ry

「……ごめん。ぶっちゃけるとお姉ちゃん数学得意じゃないんだ」

「そっかー。あと私は午後少し出かけるね」

「了解。ごめんねお邪魔して」

 ドアをそっと閉じて自分の部屋へ戻る。京楓も勉強してるし自分も課題を消化するかと思い、机へ向かって課題を進めていく。

 私は学校の勉強に関してはどちらかと言うとバランスタイプでめっちゃ成績悪いわけでもなく、いいわけでもない。でも数学は嫌い。

 aだの、bだの、xだの、とにかくめんどくさいし回りくどい。なんでいちいち仮定するんだよ。点P動くなじっとしてろ。危ないからたかしくんは池の回り走るなetc……などとしょうもない文句たれつつもなんとか数学の課題は終わらせた。

 やり始めてから2時間ほど経ち、午前11時少し回ったところである。思ってたより早く終わった。ちょっと糖分補給しにリビングへ向かう。

 冷蔵庫を開けると上段にストックしてるマッ缶が鎮座している。1本取り出し、開栓して半分ほど喉に流す。うめぇ、うんめぇよ。やG神(やっぱりジョージアは神)

 残り半分も飲み干し、ふとテーブルを見たらメモ書きが置いてあるの気がづいた。

『2000円置いておくので、お昼は作るなり買って食べてください』

 そう言えば朝何かと慌ただしかったからさては夫婦仲良く寝坊したな。ま、2000円あれば結構いいもの作れるし京楓のリクエスト聞いてみるか。

「お昼作る予定なんだけどなんか食べたいものある?」

 2階にある京楓の部屋へ行き、ドアからひょこっと頭だけ出す感じで京楓のリクエスト聞いてみた。

「んー。今思いついたのはハンバーグかな?」

「じゃハンバーグね。何時には食べときたいとかある?」

「やったー!1時には食べたいかな」

「おけ。じゃお姉ちゃん買い物行ってくる」

「はーい」

 京楓に留守番をお願いして、部屋で着替えたら自転車を持って1階へ降りる。そしてスニーカーを履いて鍵を閉めたら自転車を跨ってスーパーへ向かう。

 

 

 ☆

 

 

 あたりのスーパーまで実は歩いて5分ほどなんだけど、歩くのがめんどくさいので自転車を出した。自転車乗ると歩くことをしないんだよね。自転車乗ってると足の裏に筋肉つく(?)から1kmも歩かないうちに足の裏が疲れるんだ。

裏道を3回ほど曲がればスーパーに着く。

材料は冷蔵庫である程度揃ってたので買うのは玉ねぎとひき肉。野菜コーナーでぱぱっと玉ねぎを吟味してひき肉もぱぱっと選んでレジで会計を済ます。

 家に戻り、さっそく調理を始める。さっき買った玉ねぎをみじん切りしたらフライパンにサラダ油大さじ1杯入れて、今切った玉ねぎを放り込む。

 弱めの中火で8分か9分ぐらい炒め、玉ねぎがキツネ色になってきたら火を消して粗熱を取る。

 粗熱取れたらあらかじめボウルに移したひき肉に先程炒めた玉ねぎを始め塩や砂糖などの調味料を入れてこねこねする。

 材料が混ざったら分量に合わせ手に取って楕円形に整え、キャッチボールみたいに左手と右手でぽんぽんとパスをする。ちなみにパスする回数は10回から20回ぐらいがちょうどいいよ。そして焼くと真ん中が膨れるので真ん中を少し親指で凹ます。

 あとはハンバーグを焼いている合間に冷凍保存しているご飯をレンチンして茶碗に乗せたり、冷蔵庫にあったレタスを適当にちぎりみじん切りしてない少し余った玉ねぎを乗せてドレッシングをちょちょいとかければ超簡単なサラダができる。

 ハンバーグ出来上がったらフライパンに残ってる油などを利用して、トマトソースや醤油を入れて軽く混ぜながら熱すればハンバーグソースの出来上がり。それをハンバーグにかければ完成。

「ご飯のお時間ですわよー」

「はーい」

 こうして姉妹揃って出来たてのランチを頬張る。

「うまうま♪……そういえば思ったんだけどどうしたらこんなに料理上手なの?」

「お世辞言ってもなんにも出てこないよ?……京楓がまだ小さいとき、お母さんに教えて貰ったんだ。それで慣れたんだと思う」

 昔も今も両親共働きで時々帰りが遅くなるときがある。だからそんなときは私が代わりに作れるようにしたいってお母さんにお願いした。たしか最初は火と包丁は危ないからダメって言われたなぁ……。

 それからなんとかお願いして簡単なものから教えてもらい、回数を重ねていったら今に至る。今ではクックパッド先生やレシピさえあればだいたい出来るようになった。

「へぇ……。いつもありがとね」

「……どういたしまして。ところでこの後友達と出かけるの?」

少し恥ずかしくなってしまい、照れ隠しに京楓の予定を聞いた。

「うん。ちょっと千葉へ行く予定。夕方頃には帰って来るよ」

「おけ。お姉ちゃんは留守番してるから」

 食休みから数十分後、京楓は出かけて行った。さて1人になったところで何しますかね、そう思ってふらふらと家の中を歩いていた。

 廊下の奥の方まで歩くと申し訳程度の物置スペースがある。ちょうど階段の直下にあたる場所だ。そこに父が乗ってる自転車が置いてある。

 その自転車は私が乗ってるものと引けを取らないぐらい特徴的な形状をしている。子は親に似るってこういうことなのかな? 

 まあでもここクネクネしてるのえっちぃと思うんですよグヘヘじゃなかったふつくしいんですよ、ええ。芸術的というかイタリアみを感じます。

 右手の人差し指ですっとチェーンを撫でてみた。その人差し指にはうっすら黒い汚れが付いた。

「ちょっと油足らない感じかなー……あ」

 いい感じに暇だしこれを洗車するか、名案を閃いたと言わんばかりに手を叩いてすぐさま2階の部屋へ行った。メカニックエプロンを身につけて洗車用のスタンドと持って駐車スペースへ向かった。あ、ごめん上着だけ羽織らせて。予想以上に寒かった。

 自転車も表に出し、さっそく前後のホイールを外たらスタンドに装着。このスタンドは前後左右自由に向きを変えることができて、なおかつちょうどいい目線の高さで作業ができるプロも使っているスグレモノ。これだけのものあるとガチ勢のころのお父さん見てみたいまである。

 つい最近密林でポチったプロのメカニックが使っている洗剤を紙コップに適量を移し、刷毛でかき混ぜる。

 洗剤が馴染んだ刷毛をチェーンを始めとしたドライブ機構に当て、右手で空回しする。すげぇこの量でめっちゃ油汚れ落ちる。これはプロが愛用するのもうなずけるな。

 洗剤が一通り行き渡ったら車用の高圧洗浄機で軽く流す。その後食器用洗剤とスポンジでゴシゴシ洗う。

 泡だらけになったチェーン周りをもう一度水かけて綺麗に流す。そしたらあらびっくり、少しばかり油汚れが付着していたチェーンがまるで新品のように輝いてるではありませんか。

 自転車本体にも食器用洗剤付けたスポンジで隅々洗い、最初に外したホイールも泡まみれにする。さっきと同様、水で洗い流したら洗車完了。

 ピカピカのホイールを履かせてはチェーンの水分を拭き取り、他はしばらく自然乾燥させる。

「うわー……手がカチカチだぁ」

 12月下旬、関東とはいえもう着るもんも着ないと凍える季節である。しかも日は傾きはじめているので、自宅を含む多くの住宅による日陰ができている。

 ゴム手袋使っていても冷水で洗車したものだから手はキンキンに冷えている。デニム生地のメカニックエプロンが風通さないだけせめての救いである。

「まぁ、ついでにやっちゃうか」

 私が乗ってる自転車も下ろしてきてさっきと同じ手順で洗車をする。

 

 

 ◇

 

 

 只今の時刻、午後3時頃をお知らせします。

 ラーメン食べて、本屋めぐりをしていたらなぜか1人の女子を前にしてカフェの席に座っている。どうしてこうなった。

 いや、正確には小休止に茶でも飲もうとカフェに入った。が、その店は千葉公園周辺にあり、おやつの時間なのか店内はそこそこ混んでいた。

 なんとかして確保したのは、窓際にあるちょっとしたテーブル席である。まあ長居するつもりはさらさらないのでそこの席にした。

 そこで運命のいたずらなのか知らんが、どこ座ろうと困った1人の女子がいた。しかも顔見知りというおまけ付きだ。まあ俺が退いてやればいい話だが俺も来たばかりだし、周りを見ると他に1人で掛けれそうな席はなかった。俺だって茶ぐらい‪シバき‬たい。

 申し訳ないが背景に溶け込んでもらおう、そう思ったときにその女子は俺のこと気づいた。

「あれ?えっと……ひき……ヒキタニくん?」

 いいえ違います。わたくし比企谷と申します。ヒキタニさんは存じ上げないのでスルーさせていただきます。

「私のこと覚えてる?」

「……俺が記憶喪失してるみたいに言うな」

「だってスルーしたじゃん」

「俺はヒキタニじゃなくてヒキガヤだ。まあ読みづらいてのは分かるが」

「そんぐらいのことでスルーしなくていいじゃん。……周りの席混んでるからここの席使っていいか?ここ4時回ると割と空くからさ」

 と、申し訳なさそうに言ってくる。まあ時計を見ると30分ぐらいだしいいかと俺は了承した。てか苗字についてはそんぐらいのことで蹴散られた。泣きそう。

 ……こういった具合で小休止のつもりでいたのが顔見知りの女子が俺の目の前に座っている。たしか蕨って言うんだっけか。てかあれ?俺普通に了承してんじゃん。なら文句言えんわ。

 それで俺は了承したあと、彼女は荷物を置いて席に座ったら店員さんがやってきたわけなんだが、お冷を持ってきたり注文を取るわけでもなく出来立てのカフェラテを持って来ていた。こればかりはさすがに驚きを隠せなかった。だって注文した様子見てないんだもん。能力者なんじゃないかとさえ思った。

 どうやら父親の知り合いが経営しているらしく、彼女が小さいときから顔見知っているらしい。その上結構な頻度でここを通っているらしい。

 カフェラテを用意されてもなお、至って普通の表情で持ってたカバンの荷物を取り出していた。顔パスとかガチの常連じゃん。これは恐れ入った。

 まあ席は同じになったとはいえ特に会話はせず俺は今日買った本を読み、彼女は冬休みの課題を消化しているのか勉強をしている。

 カフェ、というか喫茶店か。雰囲気は落ち着いてるし、喋り声が多少あっても気にならない程度だ。家とはまた違った安らぎを与えられる。

 店内は60年代ぐらいかのジャズが流れており、時折少しノイズが混じってる。何となく入った店ではあったが、流れてる音楽を合わせて周りをよく見るとマンハッタンの一角にある喫茶店にいるのではないかと錯覚してしまうレベル。

 店内にスピーカーらしきもの見当たらないなと思ったらカウンター席の横にあるレコードから音楽が流れていた。デカくて黒いディスクがぐるぐる回ってるアレ。実物が稼働してるの初めて見たわ。

 ここ千葉だよな?マンハッタンにワープしてたとかじゃないよね?というかオサレとかそういう次元ではなく上品すぎてだな、庶民の俺居ていいのというレベル。でもメニューを見るとお値段はわりと普通。

「あーわかんないよー」

 黙々と課題をやっていた彼女はシャーペンをノートの上に放り投げてカフェラテを飲む。ふと彼女がやっている課題を見てみる。どうやら古文の課題をやっていたみたいだ。

 まあ難しいだろうけど頑張れと他人事のように傍観する。彼女は課題の消化、俺は読書しているだけだ。本に目線を戻したときに彼女は。

「なぁなぁこれ分かるか?」

 彼女は俺の左手の袖をちょいちょいと引っ張っていた。ちょっと?無闇に触らないでくれ。俺のことが好きなのかと思っちゃうだろ。んなわけねぇけどよ。

「自分で解かないと意味ねーだろ」

「そうだけどさー……」

 俺と彼女は身長差がそこそこあるので必然的に彼女は上目遣いのようになる。千葉のお兄ちゃんは上目遣いに弱いからやめてくれ。くっ……!お兄ちゃんスキルががが。

「……しゃーねぇな。見せてみ」

「いいの?ありがと」

 一瞬で折れてしまった俺は問題解くの手伝っていた。見たところ少し簡単な基礎問題はなんとかできているが、いざ応用問題になると結構手こずっている様子だった。

「数学とかだったら余裕なのにいつも国語とかはダメダメなんだよね」

「自分が生まれた国の言葉ぐらいしっかりしとけ」

「だったら現代文だけでいいじゃん」

「まあ気持ちはわかるが」

 いつの間にか読書をやめ、適当な会話のキャッチボールしながら彼女の勉強を見ていた。

 それから数十分ほど経っただろうか、なんとか課題を終わらせたみたいだ。

「んー……。やっと終わったぁ……」

 彼女は蹴伸びをしていた。あのですね、何とは言わないですけどまあまあ主張しているんですよ、ええ。母性的な何かが。通報はされたくないので一応目線は窓の外にやった。

「ってすっかり暗くなってんな」

「んあ?もう4時半回ってるじゃん!というか途中から勉強に付き合わせてごめんな?」

 彼女は顔の前に手を合わせて、ごめんなさいの代表的ポーズでそう言う。

「まあそれは構わんが……。俺はそろそろ帰ろうと思ってるんだがお前はどうする?」

「もう暗いし帰ろっか」

 

 

 ◇

 

 

 私の行きつけの喫茶店を離れ、ヒキタ……比企谷と千葉公園の中を歩いている。実を言うと今少し緊張している。こうして男の人と2人で歩くのって滅多にない、というかもう10数年経つかもしれない。

 なぜなら私が物心つく前に、わずか数年しか会っていない父親は病気で他界している。それからずっと母子家庭で育った。

 別に男の人が苦手とかそういうのではないけど、関わることが少なく慣れてないからか少しドキドキしている。

 もし父親がまだ生きていたら、もう少し男の人に慣れていたりするのかな? 

「……方向反対なのにありがとな」

「まあこっから大学の方へ歩けば一応電車乗れるしな」

 それから特に言葉を交わすことなく歩いていった。というか比企谷って妙なところで紳士的だよな。さっき地味に私が店から外に出るときにドア持っててくれたり、私は背が低いから歩くのが少し遅いのに歩調を合わせようとする。初対面の印象とは全く異なる。

 初対面の印象?目が腐ってるし、時々発言が捻くれてるし楓奏はなぜこの人とつるんでるだって思うぐらいそこまでいい印象ではなかったと思う。

 だけど今日たまたま2人で話してみたら意外と最初の印象と違っていた。捻くれてはいるけど何かと発言は的を得てるし、結構博識だったりする。

 私の右前を歩くあまり頼りなさそうな比企谷の背中を見て、あの喫茶店であったことを思い出していた。

「うわっ!」

 そう思い出していたら何もないところでつまづいて転んでしまった。比企谷も驚いでこっちに振り向いていた。

「大丈夫かお前……」

「いつつ……」

「すまん。歩くペースが速かったか」

 比企谷はそう言って私に左手を差し伸べていた。私は左手で掴み立ち上がった。

「少しぼーっとしただけだから大丈夫」

 立ち上がってホコリを払い落としていたら左手が少しヒリヒリしていた。

「お前、左の手のひら少し擦れてんぞ。……これ使うか?」

 そう言ってどこにでも売っている至って普通の絆創膏を私に渡そうとする。家もすぐそこだし遠慮しておく。

「もうすぐ家に着くから平気だよ」

「そうか。なんかすまんな」

 正直に言うと膝も少し痛いが歩けないこともない。歩き出す比企谷に合わせて歩こうとする。

「……やっぱりちょっと膝痛いな」

「ぶつけたのか。ちょっとベンチで休むか?寒いけど」

 ちょっとした独り言のつもりだったけど比企谷に聞かれていたみたい。

「じゃ少しだけ座りたい」

「はいよ」

 少し比企谷に甘えて近くにある休憩スペースに腰掛けた。家まであと少しとはいえあと10分かからないぐらいの距離がある。

「ちょっと待ってろ」

 彼は買った物を置いて休憩スペースから離れた。お手洗いかなと思いあまり気にかけずこの公園にある広い池を眺めていた。

 私から見て左側はモノレールが車内の明かりを漏らして走っていた。暗い色をしている池は反射してキラキラと光が水面上を移動していく。

 そしてモノレールが通過すればまた暗い色の池に戻る。それをぼうっと眺めていた。

「何がいいか聞くの忘れて適当に買ったが、これいるか?」

 いつの間にか戻ってきた彼の方を見たら右手にミルクティーを持っていた。反対の左手はあの黄色い缶である。

「じゃあその黄色いのがいいな」

「え、お前もマッ缶飲むの?」

「けっこう前に楓奏の少し飲ませてもらってからちょっとハマった」

「あいつやりよるなぁ……じゃあやるよ」

「ありがと。いくらだった?」

 そう聞くと彼はお金取るの断った。買ってきてもらったわけだし、何より私が転んだから迷惑かけてるだろうとお金ぐらいはと思っている。

「怪我人から金巻き上げるつもりはねーよ」

 いやでも……。ほら、救急隊員だって正当な報酬貰ってるわけじゃん?と私は反論すると、「救急車は金取らねぇだろ?」と正論なのかよく分からない返しされた。

 ここまで言われたら私は諦めて甘えることにしといた。

「んと……じゃ、いただきます」

 栓を開けてこの到底コーヒーとは言えない甘いにおいがする飲み物を口にする。

「やっぱりうまいなこれ」

 喫茶店で頭を働かせていた分、糖分を欲しがっていたのかすごく美味しく感じた。

「分かってんじゃねぇか。まあいかんせん凶暴な甘さだから敬遠されがちなんだよな。まったく千葉県民のソウルドリンクつーのによ」

「その凶暴の甘さが好み分かれてんじゃ……私は美味しいと思うよ」

 比企谷は寒いだろうし飲み終わったら多少痛くても移動しないと、そう思ってこのマッ缶?を飲んでわんわんお!……わんわんお?んん?なんか混じったような? 

「ってうわああ!!??」

 そう。このわんわんおの正体は両方の前足で私の太ももにちょこんと乗せているリードがついた白くて少し大きい犬である。いつの間にか居たもんだからつい大きい声出してしまった。近隣の方々、大変ご迷惑をおかけいたしました。

「声でけぇよ……」

「だっていつの間にかいたんだもん!比企谷くんは気づいていたの?」

「ああ、ものの十数秒前にな」

「あーびっくりした。……てかこの子さくらちゃんじゃん。久しぶりだなーよしよし」

 びっくりしたけど知っている犬だと気づき、わしゃわしゃと頭を撫でた。この子しばらく見ないうちにまた大きくなった気がする。

「その犬知ってんのか」

「うん。ほらサイゼで初めて会ったとき私と楓奏ともう1人いたじゃない?美笹って言うんだけど、その子とはお隣の幼なじみでよくこの子と一緒に遊んでいたんだ」

「あぁ、あの人か」

「すみませーん!うちの犬が!」

 やっと来た。美笹は昔からあまり運動得意とは言えないからきっとさくらちゃんを追いかけるのでいっぱいいっぱいなんだと思う。というか現に息が上がっている。大丈夫か?と心配しちゃうレベルである

「本当にご迷惑を……。って夏鈴!?」

「やっぱり美笹か」

「と、比企谷くんだよね?」

「おう」

 

 

 ☆

 

 

「赤の他人だったらどうしようって思ってたけど知ってる人でよかった……」

「ちっとも良くないよ!マジでびっくりしたかんね?!」

「こいつ意外とデカい声出すからびびったわ」

 膝の痛みだいぶ落ち着いたので今は比企谷と美笹とさくらちゃん(犬)で公園を出て家に向かって歩いている。

 ちなみに美笹は手が滑ってリードを離しちゃったからさくらちゃんは走って行ったらしい。多分においとかで私のこと気づいたからだと思う。犬の嗅覚ってやっぱすげーや。わんわんお。

 歩いて数分、競輪場も通りすぎモノレールの駅に着いた。

「私たちは右の方行くけど、比企谷くんは?」

「俺は左だ」

「分かった。じゃまた来年かな?」

「じゃあな~」

「まあ機会があったらな。んじゃ」

 私と美笹が渡る横断歩道の信号が変わるの合わせて比企谷と別れた。その後2人と1匹で大通りを少し歩き、閑静な住宅街を歩く。

「そう言えばなんで2人あそこにいたの?もしかして?」

「多分美笹が思ってるのは違うと思うよ」

 今日あったことを粗方説明した。

「え、じゃ膝は大丈夫なの?」

「だいぶ落ち着いてるからへーき。寝れば治るよ」

 閑静な住宅街にある道路を1つ2つ曲がれば家の前に着く。私はふと思い出して自分の左手を見た。

「やっぱりありがたく絆創膏もらった方がよかったのかな」

「ん?」

「あ、いや独り言。んじゃまた明日な」

「はーい。じゃバイバイ」

 軽く手を振り玄関へ入る。さて私はさっさと怪我でも治しますかね。




また間を空いてしまってすみません。もっと間隔を詰めるように頑張ります(フラグ)

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