昼下がりの千葉市を横断する
私はめったに使わない少し大きめなボストンバッグを持って蕨さんのお宅へ向かっている。
なぜこうなったかと言うと、先日の夜こんなメールをもらったからだ。
『おっす。起きてる?』
『起きてるよん。どしたの?』
『去年私たち3人で何かやったの覚えてる?今くらいの時期』
『夏鈴んちでお泊まり会開催したことかな?』
『そうそれ。例年通り開催なのでよろすく。んじゃ明後日我が家へカマーン』
『おけまるb』
それで今に至る。冬休み期間ということもあり、千葉へ遊びに行くのかそこそこの乗客がいる。
唐突だけどさ、今日の乗り換える予定の千葉駅っていつも工事しているじゃん?それで1ヶ月とかしばらく行かないうちに駅構内の通路が地味に変わっているから県民の私すら迷うことたまにあるんだよね。
お隣の東京都民から見ると、新宿ダンジョンと千葉のサクラダファミリアだとどっちが迷いやすいの?と、私は心の中でそっと都民の皆さんに聞いてみました、まる。
適当な音楽を聞き流して十数分、黄色い電車の終点の千葉駅に着いた。 迷う前にそそくさと駅の外に出てモノレールの駅へ目指す。
青と黒でスタイリッシュな雰囲気を醸し出す車両を乗り込み、数駅揺られる。
夏鈴んちの最寄り駅を降りて数分歩けば到着。
ピンポーンとチャイムを鳴らして1分ほど経っただろうか。お泊まり会の主催者、ではなく私と他にもう1人のゲストが出迎えた。
「あれ?夏鈴どうしたの?」
「いつの間にか寝落ちした」
「あらら」
どうやら主催者はお休みになられてる(物理)模様。美笹の案内のもと、お邪魔させていただくことに。
「お邪魔しまーす」
靴の向きを揃えたら私と美笹は夏鈴の部屋へ上がり込む。
「おーいお客さんだぞー」
「寝かしといてもいいんじゃない?」
「そっか。そだね」
しっかし寝顔可愛いなぁ……。夏鈴自身の身長も相まって正直に言うと庇護欲がそそる。ほっぺぷにぷにしたいな。
ぷにぷに。うん。柔らかい。
「この子ほっぺめっちゃ柔らかいよ」
「ほんと? じゃちょっとだけ……」
美笹も夏鈴の頬をぷにぷにと押した。ぷにぷに。どうやら気に入ったご様子。
「ん……」
「起きちゃいそうだよ」
「ん。もう少し寝かしておこっか」
「課題でも消化しよっか」
「じゃあ私は国語を消化しようかな」
そうして寝ている夏鈴を寝かせて、私たちは冬休みの課題を消化する。
そう。このお泊まり会は一応勉強会も兼ねているのだ。まあ去年は結局そこまで捗らず結局しゃべりまくりのお茶会と化したけどね。
美笹は国語の課題をやっているので私も合わせて国語の課題を消化している。
「そういえば美笹って文系なの?それとも理系?」
「どっちかというと文系かな。理数は良くて50点台だよ。そっちは?」
「点数ならどれも同じぐらいかなー。家庭科だけはやけに高いけど」
「楓奏は料理とか家事得意だもんねー。今夜なんか作ってよー」
「いいけど親御さんいらっしゃらない感じ?」
どうやら夏鈴のお母さんは美笹のお母さんと一緒に遊びに出かけて今晩は外泊らしく、作ってほしいとのこと。
「りょーかいー。それならおまかせあれ。じゃあ何か食べたいのあったら言ってよ」
「やったー」
「ただし材料費を頂戴すること無きにしも非ず」
「材料費ぐらいだすよ~」
ほんと早く大人になってお金に余裕持ち始めたらたくさん料理したいと思う。学生だからお財布事情が少しシビアなところが……バイト始めようかしら。
「あ、そうだ夏鈴のリクエストにしようよ」
「それにしよっか!起きたら聞こ!」
窓から外を見ると日が落ち始め、空はオレンジ色に染まり始めてる。
お互い分からないところ聞きあったり、答え合わせもして国語の課題を終わらせた。私はそもそも国語の課題はある程度進めてたからわりと早く終わったりしている。
「ん~……。……ん?あれ?ってもう夕方じゃん!」
ようやく主催者も起床した模様です。おはようございます。
「あ、起きた」
「お邪魔してまーす」
「楓奏も来てたなら起こしてよー」
「起こそうとしたけど結構ぐっすりだったよ?だから寝かしといた」
「マジで?ろくに茶も出さなくてごめんな楓奏」
夏鈴は目をこすりながらそう言う。
いやいやお構いなくー。その代わり可愛い寝顔見させてもらったのでだいぶ癒し効果を貰い、
と、そのまま口にしたらドン引きされそうなので心の奥に押し込んだ。
それから夕飯のリクエストを聞いて、夏鈴は顔を洗いに行った。ちなみにオムライス食べたいらしい。
「それで私が寝てる間は2人は何してたの?」
顔を洗い、寝ぐせもある程度直した夏鈴は戻ってきた。何したかって、ちょっとぷにぷにして、国語の課題を消化しただけだよ?何も悪いことはしていないとリトル楓奏が語りかけてくる。
「私たち冬休みの課題を消化してたよ」
美笹は私の心を代弁してくれた。そう。冬休みの課題を消化していただけだ。決してやましい事はしていない。
「もう少しゆっくりしたらスーパー行く?冷蔵庫のもの勝手に使うのも申し訳ないし」
「別に使ってもいいぞ?卵ぐらいあったと思うよ」
「ほんと?じゃ何あるかちょっと見てもいい?」
夏鈴の許可を貰い1階にあるキッチン周りを見てみる。それはちゃんと綺麗にしてあって、彼女の母親はかなり几帳面と思うほど。
フライパンも使い込まれているようでいい味に仕上げてるように見える。
「もしかしてお母さん料理人だったりする?」
「よく分かったな。そうだよ」
やっぱりか。だいたいの人がもうちょい綺麗に洗えよと言われそうなぐらい油が付着している。でもこれはある種のコーティングであり、チャーハンなどを作るのに欠かせないものである。
そして整理整頓していて、綺麗に拭いてある水回り、恐らくこまめに掃除しているであろうコンロ周り。どれも抜かりがなく完璧である。
というか料理好きな私から見たら普通に見惚れるレベル。さすが料理人。
「キョロキョロ見てるけどどうかしたん?」
私すっかりその徹底っぷりに見惚れてて気づいたら夏鈴に声かけられてた。
「キッチン周りすごい綺麗だなぁって」
「そういうことか。うちの母さん昔から結構几帳面でいつも綺麗にしてるよ」
の割には娘さん……もとい夏鈴はわりとテキトーな部分が多い。彼女のお母さんと1、2回ほどお会いしたことあるけど、やっぱり夏鈴とそのお母さんとは正反対なところが多かった気がする。でも本質的には似てるところも多かったと記憶がある。
「そっか。じゃ冷蔵庫の中を拝見させていただいても?」
「どぞどぞ」
ふむ。やっぱり予想通りしっかり整理されている。じゃなくて中身中身……
「卵とケチャップは足りてそうだから鶏肉かな……あ、お宅はチキンライスするタイプ?」
「鶏肉大好きだからチキンライスだな。てか鶏肉ないのは考えられん」
そう言って腕を組み、うむうむと頷く仕草を見せる。
うん。めっちゃわかる。私も鶏肉大好き人間だから。主にタンパク質とか。じゃなくてもも肉の食感大好きなんだよね。
「じゃあ買うのは鶏肉かな……。他になければ私が買いに行くよ」
「お菓子ないからついでに買いに行こ?美笹も連れてさ」
「デブ活かい?」
「ポテチとかじゃがいもだし実質的に野菜だから誤差。うん」
なお油……とツッコミ入れようとしら夏鈴はそれ言ったらどつくぞと言わんばかりの怖い目線送られた。まあお菓子ないのも味気ないしね。
☆
すっかり暗くなって、街灯が点いた大通りを歩く。昼前私が歩いた道である。
「駅の辺りにスーパーやら百均あるから……ってバカさみぃ」
「確かに寒いね~」
「そういえば美笹って1月生まれだよね。やっぱり寒い方が好き?」
「あー……言われてみれば寒いほうが好きかも。ずっと昼ぐらいの寒さがいいなと思うときある」
人って生まれたその季節や誕生月が好きになるんじゃないのかなとふと思ってそう聞いた。ちなみに私は11月下旬生まれで、寒い方が好きなタイプ。
「私は寒いの無理だ。せいぜい秋ぐらい」
めっちゃくちゃ寒そうにしている夏鈴は8月のバリバリ夏生まれである。
「そんな夏鈴はやっぱり夏の方がいい?」
「そうね。ほら夏休みあるし、軽装で楽だから」
「確かに。ってじゃなくて季節的に言うとどうなの?」
「それでも夏かな。なんとなくだけど……あそこ曲がったら着くよ」
人って生まれた季節が好きなんじゃないか説を唱えたらいつの間にかスーパーに着いた。私はカゴを持って入店する。
「はぁ~あったけぇ」
3人揃って全く同じことを言う。これはもう条件反射で言ってしまうと思うんだよね。
食料の持ち具合を考えると暖房ガンガンというわけでないが、それでも風がないだけでずいぶんマシ。
「んじゃ肉コーナー行きますか」
鶏肉を求め肉コーナーへ行く。食べる量を計算してひょひょいとカゴに入れる。ちなみにお菓子食べるとのことで普通より少なめにしようとのこと。
どんだけ菓子食う気やお前ら。
その後店内を少し歩き回り、最後に世界共通でみんな大好きなお菓子コーナーに到着。
「これと、これかな」
「個包装のものも……」
……なんか片手に重さ増しているのは気のせいだろうか。いや気のせいじゃないね。カゴにの底にいる鶏肉は「シテ……コロシテ……」と言わんばかりにお菓子に埋もれてる。
いやちょっとまてーい!?そんなに食べれないでしょ!?それだけあったらもう夜ご飯いらんよ!?ほらそこにいるちびっ子見てみ?すげー!とか大人買いってやつか?!みたいな輝く眼差しでもなく少し冷ややかな目だよ?!ちょっと引いてるよこれ!
さすがに私は2人にストップかけた。審議の結果、イエローカード、指導です。
いくらなんでもありすぎるのでそれぞれ元に戻す。会計を済ませて家の方へ戻る。
「あんたらどんだけ菓子食う気やねん……」
思わず関西弁でツッコミ入れちゃうほどあの状況は凄まじかった。エセなのは怒らないでね。
「いやーついつい」
なんの悪気を感じない夏鈴は言った。まあ気持ちは分かるよ? お菓子美味しいもんね。でも美笹は止める側でしょうと目線を送った。
「お菓子を前にすると……ねぇ?」
同意を求める目で私を見る。まったく仕方ないな~。ペチッ。
デコピン(無慈悲)を1発かました。痛そうにしている美笹を横目で見てふと思った。子供を持つ親ってこんな気持ちなのかなぁと。
まあそういうところ嫌いじゃないよとこの2人を見て心の中で呟いた。
「家に戻ったらもう作る?食べたい時間に合わせるけど」
「今戻ったらちょうどいいんじゃない?」
スマホをチラッと見ると18時少し回ってるぐらいの時間。思ったよりスーパーにいた時間が長かったみたい。ごはん炊いてから家を出たのは正解だった。
「そだね。ごはんもそろそろ炊きあがるだろうし」
頭の中で作る手順を整理しながら戻る道を歩いていく。
☆
てれってってってって♪てれれってって……。今チキンライスを作るための下準備の真っ最中なんだけどどうしても右耳からお昼に流れるあのBGMが聞こえる。鶏肉についている脂肪を取り除き、1.5cm角で切ってっと……
「楽しいそうで何よりだけど指切らないでよ?あと3分じゃ無理だぜお嬢ちゃん」
全国で誰しも1度は聞いた事あるであろうあのBGMを口ずさんでいるのは手伝っている夏鈴である。
普段の様子じゃ分からなかったけど、ある程度の料理ができるらしく手伝える人を募集したら夏鈴が手を挙げた。
2つの包丁あったので私は鶏肉担当、夏鈴は玉ねぎ切る担当となった。
「調理実習以外で友達と何かを作るのって滅多にないからさー。楽しいじゃん?」
「まぁ確かに」
「ごめんねー……何も出来なくて」
ちょっとしょんぼりしてる美笹は料理があまり得意ではないので、今回は傍観するということに。
材料の準備出来たのでさっそくチキンライスを作っていく。
まずは中火で温められたフライパンにバターを入れて溶かす。バターが溶けたら鶏肉と玉ねぎを放り込んで炒める。
「ん?どした?」
鶏肉と玉ねぎをせっせと炒めてる最中なんだけどやけに2人の視線を感じる。手順は間違えてないと思うけど……
「あー、そういえば楓奏は左利きだなって。フライパン右手で持ってるからさ」
あぁ、そういうことね。左利きの人の動作ってやっぱり右利きの人から見ると違和感あるのかな?
「やっぱり左利きは左利きで大変なこと多い?」
美笹は素で質問をしてきた。そりゃあねぇ……。
「いろいろ大変だよー。まあ17年も生きてれば愛着も湧くけどね」
「例えばどんなことが?」
例えば?飲食店の席で左隣の人が右利きだったとき、肘が当たることもあるから座席はなるべく左端を選んだり、改札で電子マネー使うと腕が前でクロスして何かのレンジャーに変身するようなポーズになったり。あ、これは別に困ってはいないや。あとノートを書く時手が汚れるとかetc.
「結構大変だね……」
「あとファミレスとかにあるスープバーあるじゃない?スープバーにあるあの片方だけとんがったおたまは大っ嫌い。アレをこの世に生み出した人を末代まで呪いたいぐらいには嫌い。アレだけは許さん。あと左利き=頭いいていう風潮やめて欲しい」
「めっちゃ言うじゃん……」
「あぁ……。アレな。あのおたま意外なところで人を苦しめてるんだな」
「けっこう些細なことで苦労するんですよ、ええ」
あのおたまを使うとでっかいお肉に塩を振るサングラスかけたおじさんみたいなポーズになるんだよ。しかも使いにくいったらありゃしない。どうせなら真ん丸の普通のおたまの方がマシなんだよね。
その点ガストは神。おたまが左右両方どもとんがっている神仕様。だけどサイゼを選ぶ。
唐突に始まった左利きあるある、もといスープバーのアレの愚痴をしていたら鶏肉がいい感じに色づいてきた。
塩とこしょうを少し振って混ぜ混ぜする。ごはんも入れてほぐすようにフライパン全体にご飯を広げる。
木べらで切るようにして炒めご飯がぱらりとしたらケチャップを加える。
上下を返すようにして混ぜながら炒め、ケチャップが全体に馴染んだらパセリをちょいちょいと加える。
さっと混ぜて火を止め、ボウルに取り出せばチキンライスの出来上がり。
続いて、オムライスの要と言っていい乗せるたまごの方を作る。
1人分ずつつくるのでボウルに卵2個を割って入れ、牛乳大さじ1と塩少々を加える。
菜箸2本を間隔をあけて持ってボールの底をこするようにして、白身と黄身が混ざるまでしっかり溶きほぐす。
白身のかたまりが残っていると、フライパンに広げにくいから注意してね。
チキンライスを炒めたフライパンをさっと洗い、ペーパータオルで水けを拭く。
サラダ油小さじ2を入れて強めの中火にかけ、1分ほど熱する。卵液を一度に加え、すぐにフライパン全体に広げる。火の通りにくい中心だけを菜箸で手早くかき混ぜる。
卵が半熟状になったら火を止め、先ほど作ったチキンライスを入れる。ただ放り込むのでは無く、なるべく持ち手側に寄せるように置く。差し込んだフライ返しを手前に起こしながら卵をそっと持ち上げ、卵をチキンライスをおおうようにそっとかぶせる。
さらにフライ返しで手前に引き寄せて、フライパンの側面にかるく押し当てながら形作る。
出来上がったオムライスを皿に移し、ケチャップかけたら完成だ。
「凄いなぁ……いただきます」
「ケチャップの追加はこちらからどぞ~」
「わーい!いっただきまーす」
いただきます。私もひと口を食べて咀嚼する。うん。久しぶりにオムライス作った割には上手く行ったかな。
この後誰が後片付けをするやらお風呂沸かすかしないかとかいろいろ決めたり、冬休み課題どこまでやったとか冬休みどっか遊びに行く?とか会話を弾ませていた。
「数学の課題さ、やっぱ不安だから夏鈴後で教えてよ~」
「任せたまへ~」
「というかどうしたら理数でそんなぶっ飛んだ点数出せるか知りたい」
「理科と数学なんて所詮法則性の塊なのだよ。それさえ見抜けば……!」
眼鏡なんてかけてないのにメガネクイッをしてドヤ顔な夏鈴はそう言う。
法則性の塊だと言われてもどちらかというと文系な私と美笹は首を傾げる。我々文系から見ると法則性がどうの以前に、数学はもはや数字を用いた新しい言語に見えるんだよね。教科書2、3回読んでやっと分かるかどうかのレベル。
その言語(?)すら分からない私たちはどうすればいいのだろうか。
「一概に言えないけど、割りと法則的な部分が多いんだよ。特に数学。それを気づいたりすると楽にやれるよ。まあ最もは公式を覚えることだな」
公式覚えられたら苦労しないんだよなぁ……これか理系と文系の違いなのかな?
「数学は公式を覚えたらあとは出された問題文に合わせてパズルのように公式に当てはめるんだよ。そして計算」
「パズルのようにて……できる気がしないや」
「まあ怪しいところあったら私が教えるぞ?数学の楽しさ教えてやる」
ん?なんか不穏な言葉聞こえたけど「お、オナシャス」と言ってしまった。新境地はまだ行きたくないよ?
「ごちそうさま~」
「ごちそうさま。あー美味かった」
「お粗末さまでした」
オムライス食べ終わり、今絶賛食休み中。
「あ、コーヒー飲む?飲むなら入れてきちゃうけど」
夏鈴は立ち上がり、そう言う。ではマックスコーヒーを……なんて図々しいことは言わず、普通のコーヒーをいただくことにした。
「ほい、お待たせ」
美笹の前には特に変哲もないブラックコーヒーが置かれ、私の前には少し、いやかなりマッ缶に似てる色の液体が入っている。もしかしてマッ缶を温めたのかな?
「ありがとー。じゃいただきます」
ズズッ……。!?マッ缶……でもあるけど何か違う美味しさを感じる。これはマッ缶の甘さを少し落とし、少し苦味が出たようなイメージかな。
マッ缶そのものの味を損なわず、程よい甘さになって姿を表す。ほんとなにこれ?
「実はな、それマッ缶一滴も入れてないんだよ」
なんだと……っ!?こんなレベルの高いマッ缶もどき初めて飲んだ……。
自分でもマッ缶もどき作ることあるけどこんなに再現度か高く、なおかつここまでコーヒー自体の美味しさ前面に押し出したものは見たことない。
マッ缶ではあるけど食休みにちょうどいい具合の苦味があるコーヒーでもある、そんな感じだ。
「楓奏ならマッ缶!とか言い出しそうだなと思っていろいろ調べて作ってたらそれにたどり着いた。かなりの自信作だぜ」
私にサムズアップしてそう言う。なぜ思考が読まれたのはさておき、普通にこれのレシピを知りたいレベルで美味しい。
「これなら美笹も飲めると思うよ」
「ほんと?じゃひと口貰っていい?」
「いいよ。これマジで美味いから」
若干興味津々な美笹は大人なマッ缶もどきを受け取りひと口を飲む。さて、感想は如何に。
「あ……。これなら好きかも」
「マジ?やったぜ」
「缶のアレはさすがに甘すぎるけどこれならたまに飲みたいな」
美笹にも好評の模様。これは史上最強のマッ缶もどきで間違いない。
☆
お風呂を済ませ、勉強会という名のをお茶会を開催している、と言うより夏鈴によるありがたい数学講座が開催している。
「んー。楓奏はちょいちょいケアレスミス、美笹は……もしかして授業が追いつけなくなってきた感じ?」
隣りに座る美笹はギクッ!となってそおっと目線を外した。まぁ難しくなってきたもんねぇ……。でも大丈夫。完全に数学を捨てた人約1名知っているから。
「図星だな」
「だね……」
「はい……」
「楓奏のはミスしたところに印付けとくからもっかいやってみ。美笹は教えてあげるよ」
こうして美笹は夏鈴という名の家庭教師付きで、私はミスしてるよと言われたところもう一度解き直してみる。
家庭教師しているところを見るとまるで2人の立場が逆転してるようで少し面白い。
2人の会話をBGMにして、教科書と照らし合わせては問題を解いていく。
言われた通り凡ミスがちょっと多いかなって感じだった。これらのミスをさっと見て一瞬で分かるあたりただ者ではないと確信した。
一通り解き終わり、夏鈴に答え合わせしてもらう。
「うん。あってる。やっぱりケアレスミスがなければ悪くない点数出せると思う」
OKサイン貰ったので紅茶を飲んでゆっくりくつろぐ。
「美笹の調子はどう?」
「ちゃんと教えれば分かる感じだね。理解力は悪くないと思う」
「授業ってポンポン進んでくから一度つまづいたら追いつくの難しいもんね」
「多分それが原因だなー。どっかでつまづいては遅れて、学校で教わったところが途切れ途切れな部分が少しあった」
分析力の高さに驚く私。こ、こんなの私の知っている夏鈴じゃない……!
私の知っている夏鈴は……ちょっとアホの子だった気がする。いや、理数に関しては頭脳明晰に近いからこうも冴えてるだけなのか……?
「なんか失礼なこと考えてない?」
「気のせいだようん」
むっとした顔で私を覗き込む。ほんとこの子変なところで鋭いんだよね。これが女の勘というものなのか。いやまて私も女じゃん。
そうしてるうちに美笹も夏鈴に教えて貰いながらも何とか数学の課題を終わらすことが出来たらしい。
「んー!終わったー!」
バンザイして喜びを表しているご様子。その直後、そのまま隣りにいた夏鈴を抱きついた。
「ありがとー!夏鈴!」
「うわ!ちょっ!」
突然のことで夏鈴も受け止めきれずに夏鈴が下になって2人とも床に倒れ込む。私もその様子を見て驚いて少しフリーズした。
「ほんと助かったよー……。夏鈴だーいすき……」
夏鈴の胸元かそのあたりでそう呟いたように聞こえた。えっ、愛の告白ですか?
「……」
おぅふ……。これはきっと幼馴染による愛情表現なのだろう。だけどあまりの
それを聞いていた夏鈴は顔が赤くなって
「んなの……わかってるつーの……。てか楓奏いるぞお前……」
顔を赤くした夏鈴は目を逸らし、観念したような様子で右手を使って美笹の後頭部をなでる。
あ、これキマシタワー設立されたわ。Tから始まるSNSでよく見る尊さが上限に達すると死ぬ、というネタ画像の意味理解した気がする。これは先立つかもしれない。そう思い思わずこんな言葉をこぼしてしまった。
「えっと、多分終電ギリギリあるから帰るねうんお楽しみにー……」
そそくさと立ち上がって一旦部屋を去ろうとしたら左足掴まれた。
「マジでそういうんじゃないから忘れてくれ……」
夏鈴恥ずかしさのあまり、左腕を目の上に置いてボソッと呟いた。
「あ、はい」
私も素直に応じた。これは夜が長くなりそうだ。
少し改行を増やして読みやすくしようとしましたがいかがでしょうか。
続きもさっさと書くので少々お待ちください。それでは。