ベストプレイス   作:自由人❀

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少し忙しくなり、少し間が空いてしまいました。
それではどぞ。


三学期

 あまりだらけきってなかったような気がした冬休みは瞬く間に過ぎ、三学期となった。

 なぜか今年は去年と比べると外に出かける機会が多かった。

 去年まではせいぜい小町と初詣に行くために外に出るぐらいで、課題をせっせと消化してはほとんど自分の部屋でだらけた気がする。

 そんな体育館の中で響いている校長先生によるありがたいお話を聞き流しながら今年の冬休みを振り返ってた。

 いやまあ多分ありがたいお話ではあるが、小中高と変わらず毎年恒例すぎてありがたみがなくなりつつあると言いますか……。

 つまるところ、スキップしたいのである。

 このご時世、女の子が出るゲームですらスキップ機能ついているっていうのに現実世界はまだ搭載されてない。おかしい。

 俺はどちらかというと既読メッセージはスキップする派だから、このイベント……と言う名の始業式をスキップしたい気持ちに駆られる。

 そして次のイベントを進めたい。いやイベント特にないけどよ。

 だが現実世界でスキップ機能を搭載するべきだと俺は思う。

 特にこういう固定イベントをスキップするために。

 ……結構需要あると思うからそろそろアップデート入れませんか?運営様。

 きっとこのワールドを運営しているであろう、天にいる神様へそっとお願いした。

 あ、ついでに色んなユーザーから発見された数多のバグ修正お願いします。特に俺が見つけた働かないと生きていけないバグとか重点的に。

 デバッグはしっかりお願いします。

 そんなくだらない思考を繰り広げていたら始業式が終わった。

 ぞろぞろと他の生徒たちと合わせ教室へ戻っていく。

 冬休みどうだったやら課題ギリギリ間に合ったわーとかの雑談の間をすり抜けそそくさと教室へ歩む。

 残りのHR乗り切れば今日は帰れる。

 午前中で終わるのは確定している上、奉仕部も明日から営業するとのことなので放課後どこか寄り道するかと少し心踊りながらHRが始まるの待つ。

 

 

 ☆

 

 

 序盤の方でイベントなんてないと言ったな?あれは嘘だ。

 ガタイのいいあんちゃんが誰かさんに身体を押され「うわぁぁぁ」と叫んで崖から落ちていったのもきっと気のせいだ。

 ん?序盤ってなんだ。いや聞き間違えだろう。

 とまぁ、おそらく始業式中に脳内で立てたフラグらしきものが今になって見事に回収されたわけだ。

 言葉にしなくてもフラグ成立するとか聞いたことねぇよ……。

 HRは普通に終わったのはいい、問題はそのあとだ。

 そろそろ置き換えてもいいだろと思うぐらいうるさい音を出す自販機の前でマッ缶を味わっているときだ。

「お、比企谷か。ちょっと来てくれないか?」

「……奉仕部の営業は明日からですよ。先生」

「そんなの分かっている。ただ今ちょっと男手が欲しくてだな」

 そんな感じで平塚先生に頼まれ、今絶賛力仕事中である。

 見事に労働イベントの真っ只中である。って誰得だよ。

 頼むからやっぱりこのワールド(現実世界)のバグ修正早くしろください。

 多くの備品がしまわれてる空き教室の方から平塚先生に指定されたダンボールを四つを奥から取り出しそれを職員室付近まで運ぶという単純な作業を頼まれたのだが、これがけっこう大変だ。

 そのダンボールには備品や書類などがどっしり入っており、一つ一つどれもそれなりに重い。

 しかも特別棟の端に近い空き教室だから職員室までが遠い。

 運良く空き教室から台車みっけたと思ったら残念ながら車輪が逝っちまってた。さっさと捨てちまえよ……。

 なので仕方なく重いダンボールを1個ずつ運ぶはめになった。

 そんな重たいダンボールを1個ずつ丁寧に運んで、ようやく残り1つとなった。

 言われたとおり職員室付近に置いてやっと任務完了である。

 職員室にいる平塚先生に報告したらさっさと帰ろうと思い、扉を開ける。

 パソコンで作業をしていた平塚先生は手を止めてこちらまで歩いてきた。

「これでいいんですかね」

 ダンボールに指を指して確認を取る。

「ああ、ありがとう。じゃこれをやるよ」

「?なんすかこれ?」

「そこの駅の近くに新しくラーメン屋出来たらしくてな。前行った時に開店イベントなのか食事した人は抽選機回す権利があって、それでラーメンのタダ券もらったわけだ」

 右手で回す仕草をしてそう言う。あーアレね。ガラガラ(福引きのアレ)ね。

 魅力的なものではあるが、先生が当てたものだから流石に貰うのは申し訳ない。

「さすがにそれ貰うのは気が引けます」

「……これ期限近くなっているし、私も行きたいがなかなか行く機会ないからなー。今回の労働の報酬ということで消費してくれると助かるんだがな」

 そう言われると弱る。確かに期限が切れて使えなくなるタダ券が可哀想だ。

 決してタダ飯に乗じたいわけではない。

「……わかりました。ではお言葉に甘えます」

「おうよ。店の住所はここに書いてあるからな」

「はい。ありがとうございます」

 職員室の片隅に置いておいたカバンを手に持ち先生に一礼をして玄関へ向かう。

 せっかく頂いたタダ券を大事にしまいその店へ向かう。あ、一応小町にメールしておくか。

 外履きに履き替えて、駐輪場の定位置から自転車を取り出す。

 券に書いてある住所を地図で調べて、そこへ向かってペダルを踏み出した。

 

 

 ☆

 

 

 その店は駅の目の前にあり、かなりわかりやすいところに立地している。

 だが栄えてる方の反対側にあるにあるため、比較的に人が少ない。

 もし美味かったらこれは隠れた名店になりそうだなと思いつつ、店の前まで自転車を押す。

 そして店前に着くと、ほぼ店の真ん前にあるガードレールに見覚えがありまくりな自転車が止めてあった。

 チラッとそのラーメン屋のちょっとした列を見るとあぁやっぱりと思った同時に、向こうも俺のこと気づいて手を振ってきた。

 とりあえず自分の自転車をその自転車の隣に止めて列を並ぶ。

「やっほー。比企谷くんも食べにきたの?」

 ちょうど列の最後尾にいた若宮は聞いてきた。

「あぁ。これ平塚先生がくれてな」

 自慢したいわけじゃないが、貰ったタダ券を彼女に見せる。

「へー! いいなぁ……」

 彼女は羨ましそうにタダ券を見つめる。

「先生がこの店の開店イベントの福引きで当てたみたいだが、あまり行ける機会ないからよかったらって渡してきた」

 嘘は言っていないが、この券は一応俺の労働の証でもある。

「いいなぁ……。それを貰ったってことは比企谷もここ初めて?」

「そうだな。なんならここにラーメン屋出来たのも今日知ったまである」

「私もこの間ネットで調べてたらこのお店、去年の終わり頃に出来たらしくて」

 若宮がブクマしたサイトを俺に見せる。

 そのサイトを通じてメニューやらその店の情報など2人で見ていたら、いつの間にか列の先頭になっていた。

 やがて順番になり、店員の案内のもと奥の方にあるテーブル席に案内された。

 どうやら券売機ではなく、口頭で注文するタイプの店のようだ。

 ぼっちとしては券売機方式の方がありがたかったりするが、仕方ない。

「私はネギラーメンかな。ネギ好きだし」

「決めんのはえーな。……じゃあ俺はとんこつにするわ」

 各々注文をして、出来上がるまで待つ。

 初めての店なので俺個人としてはかなり楽しみだったりする。

「そう言えば女子が1人でラーメン屋で並ぶのって抵抗があるって聞くが、そうでもないのか?」

 スマホいじっているのも申し訳ないから思っていたことを聞いてみた。

 これは列に並んでた時に思っていた疑問だ。実際はほとんどが1人で並ぶには抵抗があると聞くし、あまり女性1人で並ぶところは見ない。

「あー。だいたいは抵抗あるかもね。……でも私は食べたいものを食べたい人だからそんなに気にしないかな」

 まあ視線はちょっと感じるけどね、と付け足して肩を窄める。

「ほーん」

 それからラーメンが出来るまでお互い冬休み何してたのか時間を潰すように話していた。

「結局私はイツメンで行動すること多かったなー。そろそろ走らないとという危機感に襲われてるよ」

 はははと彼女は笑う。言われてみれば他人事じゃない気がしてきた。

 年越してから餅だいぶ食べたし、そう言われてワンチャン体重増えたかもしれんなとふと思ってしまった。

「あ、そうだ。良かったら今度久しぶりにどっか行かない?」

 どこか行かない?というのはほぼ間違えなく自転車のことであろう。

 主語なくてもわかってしまうあたりまあまあ毒されてるなこれ。

「まあ土日とかならいいぞ。アホほど遠くなければの話だが」

 こいつは平気と100キロやら200キロを走っているのだ。だから予防線は張っておく。

 じゃないといつの間にか森の中にいたりする。(経験談)

「アホほどって酷いなー。ちょっと東京の方行こうかなと思ってるだけだから大丈夫だよ」

「ほーん。ならまだ平坦だしな」

「そうそう。平坦で往復70もないからさ」

「それでも70あるのか。そこでなんかやってんのか?」

「そこに……あ、ありがとうございます」

 どうやらラーメンが出来上がったみたいで、店員さんが持ってきた。

 ほう。これは美味そうだ。

「とりあえず食べてから続きの話をしよ?」

「だな。……いただきます」

「いただきまーす♪」

 箸で麺をつかみ、ひとすすり。

 麺の太さは普通ぐらいだが、スープとの絡まりがよく非常に美味い。

 有名店と引けを取らないぐらいのレベルの高さだ。

 合わせてチャーシューも食べてみる。

 ほう。噛みごたえはあるが、いざ口の中に含むと少しふわふわしていて肉汁が染み込む。

 そしてスープをレンゲで掬い、一口飲む。とんこつスープなのにそこはかとなくさっぱりしていて、とても濃厚である。

 これは八幡的にポイントが高い。

 俺的割と定期的に行きたい店のランキングの上位に食い込む。

「うめぇな……」

「これは定期的に行きたいね……」

「あぁ」

 それからお互いほぼ無言になり夢中でラーメンをすする。

 ……まったく、ラーメンというものを作り上げたパイオニアには本当に頭上がらないぜ。

 基本的に麺、スープ、具材の3つで出来上がる。だが作る人、作りたいラーメンの系統でそれぞれの性格()が現れる。

 これ程奥深い食べ物はそうそうないと俺は思う。

 

 

 ☆

 

 

「はぁ……妾は幸せじゃぁ~……」

 余韻に浸っている若宮はそう言って背中に壁をつけた。

 正直なところ、俺も壁に背中を預けたいのだが残念ながら俺の後ろには壁がない。ちくせう。

「もうちょいしたら行くか。そういえばさっきなんか言いかけたけど何だったんだ?」

「え?あぁ何かやってるのか、の話だっけ」

「おう」

「んー……確かに何かはやっているけど、来てのお楽しみかな~」

 なにか大規模なイベントでもやるのだろうか。まあどのみち俺も少しは動かないとまずいという危機感を感じていることだし、話に乗ることにする。

「まあ俺も多少は運動しないとまずい気がするしとりあえずその話乗るわ」

「え?もしかして比企谷くんもちょっと……」

 彼女は自分の腹をさすった。

 ……そのジェスチャーはいろいろ誤解生みそうだからやめようね。あとそれ何とも言えんエ……いいやなんでもねェ。

 まあ彼女か言いたいのは体重のことだろうと思うが。

「あぁ、否定出来ないかもしれん……」

 別に特段と体重気にしてるわけではないが、年末年始の過ごし方を考えると多分デブったと思う。

 それに若宮とどこかへ行くって言うのも久しぶりだったりするからちょうどいいなと思った。

「今度の日曜なんだけど、どう?」

「あぁ、いいぞ。てかそろそろ出るか」

「だね」

 彼女から端数切り捨てで700円を徴収し、俺はタダ券を取り出し支払いを済ます。

「細かいの足りなかった分、今崩して渡すよ」

「いいや、気にすんな」

「そう?……比企谷くんはもう真っ直ぐ帰る?」

「そうだな……」

 正直に言うとラーメン食べれたからわりと満足している。その上何か買いたいものあるわけでもない。

「特に用は無いから帰るわ」

「はーい。んじゃ行こ」

 彼女は颯爽とロードを跨り、ガチャンといい音を鳴らす。

「よっと」

 ちょっと進んだらスっとサドルから立ち上がり、右手でブレーキを使いながら絶妙なバランスを保ちその場に留まる。

 そう、足は地面についていないのに人と自転車が立った状態でいるのだ。

 もっと分かりやすく言うと、立ち漕ぎしてる人に対してストップモーションをかけたような状態だ。

 さすがに少し前後には動くが、彼女はブレーキと身体のバランスを使いにその場に留まろうとする。……大道芸かしらん? 

「それすげぇけどなにしてんの?」

「これ?スタンティングっていう技。最近覚えた」

「へぇ……よいしょっと」

 ちょっと見様見真似で自分もちょっとやってみたが無理でした。

 さすが若宮パイセンかっけぇっす。

 

 

 ☆

 

 

 河川敷と国道を使い、毎度よろしくあのコンビニの前に着く。

 思いのほか暑くなったので上着を脱いでカゴに突っ込んで休憩を取る。

 空を見上げるとすっかり晴れていて、雲は途切れ途切れで流れていた。

 朝は結構寒かったんだがな……。

「しばらくチャリ乗ってないからやっぱり身体なまってるわ……。ちょっと飲み物買うから行ってていいぞ」

「私も買うから待ってるよ」

「はいよ」

 少し厚手な上着のポケットから財布を取り出し店内に入る。

「あちぃ……」

 暖房ガンガンである。単に自転車乗ってたというのもあるが些か効きすぎではなかろうか。

 額に汗が少し滲み出るとほどなので、テキトーにペットボトルと紙パックの飲み物を手に取ったらレジを通して外に出る。

 前カゴが満タンである自転車の方を見ると……ん?小町じゃね? 

 とりあえず自分の自転車のところに戻る。というか自転車が止まっている所に小町がいた。

「なにしてんの?」

「あ、お兄ちゃん!」

 小町は小走りで俺の前まできた。なんだろうか。

「あの人が若宮さん?」

「そうだが、てかなんでここにいんの?」

「外にお兄ちゃんの自転車止まってあったから待ってた」

 ほーん、狭い店内で偶然入れ違っただけか。

「で!で!そこで待っている女の子同じ制服だけど、もしかして前話していた若宮さんかなーって!」

 やや興奮気味に食いついてくる。気になるなら好きに話すりゃいいじゃないんでしょうかね。

 その間俺は自宅に帰投しますけどね。

「だからそうだよ……ってちょっ!」

 いつの間にか小町は若宮の元に走って行った。てかいきなり行ってもあいつ困惑するんじゃね? 

 ……チラッと見てみるとやっぱり予想通り過ぎて思わず笑いそうになったが、堪えて仲裁に入る。

「たでーま」

「おかえり~。この子が比企谷くんの妹さん?」

「あぁ、可愛いだろ?」

「確かにそうだけどいきなりシスコン全開はどうかと思うよ……。妹いるから気持ちわかるけど」

「へぇー妹さんいるんですか!おいくつなんですか?」

「中三だよ~」

 こりゃお喋りが尽きそうにないと思い、さっきお買い上げした紙パックのりんごジュースをちびちびと飲む。

 ちびちびと飲んで数分。早くも飲み干したので紙パックを捨てて帰る準備をする。

 小町も気づいたのか上手く話を切り上げようとする。

 というか話終わるまでずっとスマホを見てては話は聞き流していたからなんの話をしていたのか少し気になるところである。

 変な悪知恵でも入れられてなけりゃいいんだが。

「話に付き合ってくれてありがとうございました!それでは土曜日よろしくお願いします!」

「うん!よろしくねー」

「じゃあな……あ、ほらよ」

 俺はビニール袋に入ってる未開封のスポドリを若宮の方へ投げた。

「うわっ!とっと……」

「飲もうとしたけど腹たまったからやるよ。金はいらん」

「……ありがと!またねー」

 手を振ってきたので軽く手を振り返して小町と家路につく。

「ほーん……」

 小町何やら言いたげな顔をしてこちらを見る。

「なんだよ……」

「なんでもー」

「そうかよ」

 ……そういえばどんな話をしていたのか聞いてみるか。やっぱりお兄ちゃんとしては気になります! 

「さっき聞き流してたけど、お前らなんの話してた?」

「んと、まず自己紹介して、楓奏さんの妹さんの話を聞いて、それから料理の話になって、今度の土曜日ウチに来ることになった」

「は?」

 どうしてこうなった。あいつの妹の話までは聞いていた気がするが、それ以降は9割、いや、ほぼ全部聞き流していたがなして土曜日に我が家に来ることになったんですかね? 

「は?ってお兄ちゃんおうって相槌打ってたじゃん……」

 マジで?それ多分無意識的に言ってたと思うからなしでしょ?あ、ダメ?さいですか……

「あの時無意識に言ってたのか知らないけどとにかく土曜日に来るからね?」

「はいよ……」

 まあ言っちまったもんは仕方ないかと諦め、昼下がりの閑静な住宅街を兄妹2人で歩いていく。




さっさと書くので待ってて下さい。
それでは。

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