「比企谷くんって文理選択どっち選んだの?」
無事に三学期に突入し、再び学校へ通うという生活が慣れた頃合いでの昼休み。
もう2月半ばに差し掛かったけどな。ぼっちはスロースターターなんだよ。
変わらず昼食をとるべくベストプレイスに来た。が、そこにはもう人いるのが当たり前になりつつのである。
1人の場所を求めここに行き着いたはずなのに、誰かがいることに順応したあたり本末転倒な気がする。
「理数は端から捨ててるから消去法で文系だ」
「なんとなく想像通りだった」
ふふっと彼女は笑ってそう言う。
「ならなぜ聞いた」
「ほら今朝文理選択のプリント渡されたじゃん?それでなんとなくどっち選ぶのかなーって」
「ほーん。まあ私立文系でも行っていい人居たら養って貰いたいなぁ…」
「えぇ…」
言葉通り彼女は引いていた。なんなら表情にも現れてる。
「あくまでも専業主夫が目標だ。そのために進学をするのはただの手段に過ぎない」
「専業主夫ねぇ…家事をするイメージあまりないんだけど」
「ばっかお前、ほらあれだ。小学生部門なら優勝待ったなしだぞ」
「それは全国の専業主夫に謝った方がいい」
ほぼ秒差なしでツッコミ入れられた。
しょうがねぇだろ、いつの間にか小町がみるみると成長して家事をこなすようになったんだから。
ちなみに俺が中一あたりから小町に抜かされた気がする。(家事力的な意味で)
あ、小町に養って貰えばいいんじゃね?
可愛い上に圧倒的な家事スキルもあり、由比ヶ浜に次ぐコミュニケーションモンスターでもあり下手すりゃそこら辺の中学生よりレベチ。
よし小町に養って貰おう、帰ったら相談してみるか。
「まあそれでも養ってくれる心優しい女性きっといるだろ。小町みたいな」
「シスコンぇ…そういえば小町ちゃんって中学生でしょ?想像より料理がすごく上手で手際もすごく良かったからびっくりしたよ」
そういえばある日の休日家に来てたな。まああくまでも小町の友達として、だと思うが。
「当たり前だろ。小町だからな」
「納得出来たようなそうでもないようなこの気持ちはなんだろう…」
特に何かあったわけでもなくそのまま放課後に突入。
いつも通り特別棟にある教室へ赴く。
立て付けの悪い扉に対して少し強めの力で開けようとする。
ガッ!…ガッ!…ってこれ鍵開いてねぇじゃん。てことは本日休業か?
よし帰れるという気持ちを少しだけ抑え、念の為に何か連絡来ていないかスマホを見る。するとメールが1件入っていた。
内容は『少し遅れる』といったものだ。ワンチャン帰れんじゃねと思ったけどダメでした。
少しその場で待った後雪ノ下と由比ヶ浜が来てようやく扉は開けられた。
紅茶の香りが広がる特別棟の一角にある教室。
相変わらず俺は読書に勤しみ、由比ヶ浜はケータイをいじり倒してる。
そんな中雪ノ下は読書はしておらず、ノートパソコンを立ち上げて何かを見ていた。
「なになに相談メール?」
ケータイをいじっていた由比ヶ浜は雪ノ下が立ち上げたパソコンの画面を見ていた。
…そう言えば体育祭の時にも使われてたな。千葉県横断相談メール。
「1件来ているわね」
ダブルクリックでそのメールの内容が開かれる。
『文理選択ってみんなどうやって選んでんの? 差出人 ゆみ ゆみ』
3人共に画面を見る。
俺はなぜか分からないが頭の中にF組にいる金髪縦ロールの女王様が横切った。
予感が的中したのか差出人らしき人物がこの教室にやってきた。
「…あなたはノックすることが出来ないのかしら」
「うっさい…。メール送ったんだけど」
「今確認したところだけれど、あなただったのね。ところで何か用かしら?」
「…メールの内容も交えて相談があんだけど」
相談の内容は簡潔にいうと葉山の進路を知りたい、だけど本人に聞いてもはぐらかされたりして知ることが出来ない。
「あいつの進路を知りたいんだな?」
「うん。知りたい…」
「じゃあ俺が聞いてきてやるよ。俺みたいなどうでもいいやつならぶっちゃけるだろ」
「え?ほんと!?」
「ああ。聞くだけ聞いてみるわ」
夕暮れのグラウンド。サッカー部の方々が片付けをしている最中俺は葉山を待っていた。
正直ちゃんと答えてくれるのではなんて期待はしていない。聞ければ儲け程度だ。
彼は現状維持を好み、自分や周りのものが変わってしまうことを嫌がる。
別にそれが悪いことかって言われたら、そうではないとと思う。そいつの自由であり、俺がどうこう言える立場でもない。
なんならカースト下位の者がトップカーストに対してどうこう言うなんてあってはならない。
まあちょっと前の俺なら葉山の気持ち少しだけ分かっていたかもしれない。
「なんか用かい?」
「あぁ、単刀直入に聞く。お前は文理選択どっち選んだ?」
そう言うとあからさまにため息をつかれた。
「優美子の差し金か?」
「そうだ、と言ったら?」
「…はっきり言うとそういうのはやめてくれ。彼女はそういう仲なりたいだろうと俺はそういう仲になる気は無い。」
それは随分と先の話な気がする。
まあ三浦優美子がこういう依頼をしてくる時点できっとそういう考えがあったのだろう。
「仮に本人が聞いてきても答える気は無い。すまない。」
このままだと依頼はこなせず終わってしまう。ならば。
「タダでは教えてくれないんだな。そんな気はした。」
「あぁ。そうだな。」
だがこれはどうだ。
「今度のマラソン大会、勝ったら教えろ。負けたらこのことは白紙に戻す。」
「…本気で言っているのかい?文化部にあたる君と運動部の俺じゃ話にならないと思うが?」
「部活動以外の時間で運動していたとしたら?」
サッカー部員とほぼ読書しかしていない奉仕部員。どっちか勝つなんて論を講じることもなく結果は分かりきっているだろう。
だけど運動は必ずしも部活内でやらないといけないという決まりなんてない。
家に帰ったあとなんてやりたければ自由に運動できる。自主トレみたいなものだ。
どっかの誰かさんが勧められた長距離競技始めたおかげで割と体力は悪くないと思ってる。
だから普通に考えて勝つわけが無い宣戦布告をした。
「本気か?」
「おう。依頼をこなすための過程だからな。働きたくはないが与えられた仕事は最善を尽くすつもりでいる。」
「分かった。マラソン大会で君が勝ったらなんでも聞いてやる。その代わり俺が勝ったらそういう話は持ってこないでくれ。」
よし交渉成立だ。勝てるかはさておき最善を尽くそうと思う。