叶わぬ願いⅩ   作:チャンプルン

10 / 12
空白期 インターミドル編
Blank Period7:追憶とケジメとそして兆し


「イクス!? 何処だ、何処に居るんだ!?」

 

 人の気配の感じられない城の中、一人の男が場内を駆け回っていた。自分の王の名を呼びながら、その姿を懸命に探していた。

 

 ガレアが謎の疫病により、滅びかかっているという伝達を受けてから約半日。その半日の内に男はガレアに帰省していた。既に体力が限界にも関わらず、彼は必至で止まる事無く王を探す。

 

 後探していないのは―――自分の、男の部屋だけ。この場所には最初は居ないと思って探す場所から除外していたのだが、ここまで探していないとなれば、様子を見てみる価値だけはあるだろう。そう考え、すぐに行動へと移し、男は自室へと向かい、そして扉を開けた瞬間に、その少女は居た。

 

「イクス!」

 

 その少女は室内にあるベッドにもたれ掛かって、意識を失っていた。息は穏やかだ。脈も正常だ。しかし、油断は出来なかった。何故なら、今流行っているガレアの疫病は・・・・・・普通の医者では、治せない。ウイルスすら発見することの敵わない、病気だ。

 

 彼は自身の目を魔力で強化し、〝観察眼〟を発動する。

 

 この〝観察眼〟とは、目視しているモノを構築するデータをDNA単位まで解析することの出来る、一種のレアスキルのようなものだった。DNA単位で詳しく見れば、流石に病気を患っているか、患っていないか、分かるだろう。

 

「―――異常は、ない?」

 

 ホッ、と男は自分の胸を撫で下ろす。そしてもう一度、自身の仕える王を見て―――

 

「ッ!? な、何だよ・・・・・・これ・・・・・・!?」

 

 入ってくる情報が、まるっきり、全く違う事に、気が付いた。驚いてすぐにすぐそばのデータを見ると・・・・・・まるで別人のように、全く違うデータ、かと思えば、そのデータが書き換えられ、また先ほどとは違った、全く別のものへとなってしまった。

 

「どうなってるんだよ・・・・・・どうなってるだよこれは!!」

 

 おかしい。人間のデータは確かに体細胞分裂などを起こしてそれなりには変わるのだが、このような根本から変わる事は、まず有り得ない。

 このような事例は初めてだ。しかし、それでもこのままでは体の全てのデータをメチャクチャにされて・・・・・・体が機能しなくなり、死んでしまう。

 

 それだけは分かったために、男は全力で、自分に出来る事を成そうと決心し、〝観察眼〟を発動したまま自身の魔法を起動させる。

 

「起動しろ、無限連環機構」

 

 中央に6つの魔法陣と、外側に64個の魔法陣が、背中に彼の魔法によって描き出される。

 

 中央の6つには全て〝この魔法陣に触れたある一定のモノを一定の状態に戻す〟という効果が付与されており、それは縦一列に並んで、自動回転している。綺麗に、外側が円を描くように。

 

 外側の58個は全て〝制御機構〟で、残りの6個は全て〝魔力精製機構〟となっている。

 

 何故そのようなことをしたのか。それは、〝制御機構〟で自身の分割した思考が暴走しないようにする為だ。〝魔力精製機構〟は分割した思考を維持するための魔力を供給する為だ。

 

「今助けてやる!」

 

 思考をいきなり16384個にまで分割し、そしてその半分を書き換えられた部分の元のデータを、具体的には脳の記憶から取出し、そのデータ通りにデータを書き直す。そしてもう半分は、この原因となっている病原菌と呼べるモノを探して、それぞれの役目を分けて全力で、作業に取り掛かった。

 

 しかし、三十分経過しても、その病原菌と呼べるモノは見つからなかった。データの書き直しも、上手くいかない。―――いや、上手くいってはいるのだが、それをすぐにまた他のメチャクチャなデータに書き換えられてしまうのだ。

 

「イクス・・・・・・!」

 

 このままでは、彼女が死んでしまう。このようないたちごっこ、彼もいつまでも続けられる訳が無かった。データの書き直し、書き換えのスピードは残念ながら男の方が4倍以上遅い。彼の思考分割の限界は32768分割。しかし、16384分割の倍は32768分割。16384分割の半分は、8192分割。そして、8192分割の4倍は、32768分割。相手現時点でこちらより4倍以上のスピードを誇っている時点で、もはや勝ち目など、どこにも存在していなかった。

 

 だからこそ、彼は冷静になった。冷静になって、感情を殺して、冷徹になって・・・・・・そして、答えをこう導き出した。

 

 彼女の情報を―――つまり、体の時間を、完全に止めてしまおうと。

 

 もはや、今の技術では治せない。しかし、もし未来があるのであれば―――未来の技術で、この病気を治すことが出来るかもしれない。そう考えての、行動だった。

 

 全てを未来に託して、男は自身の仕える王の時間を停止させた。これは、無限連環機構を駆使しての技だ。〝時間停止機構〟という魔法陣を描き出し、それを中央の〝この魔法陣に触れたある一定のモノを一定の状態に戻す〟によって、効果発動時の一秒後程度に戻し、その中央の魔法陣をずっと触れさせることによって、永久的にそれをその時点に戻し、時間をずっと停止させる。勿論、中央のそれは二つ存在し、それを二つくっつけている。つまり、その効果もまた、お互いがあり続ける限り永久的に持続する。

 

 この〝時間停止機構〟の意味を正確に言うのであれば〝3秒間結界を張り続け、その内部に居る全ての時間を完全停止させる〟というものだ。

 

 この機構―――つまり魔法陣たちは、確かに最初は魔力で描き出されるが、別に魔力で動いている訳ではない。この魔法陣たちは単独でその意味を、役割を果たす。何かをエネルギーとはしていない。いや、強いて言えば〝役割を果たすこと〟そのものをエネルギーとして、動いている。魔法陣とはそういうものだ。魔力で描き出された時点で、それは既に魔力とは切り離された独立の存在。〝役割を果たすこと〟を動力としている魔法陣たちは、役割を果たせなければ消える事が出来ない。

 

 そして、男が使う機構―――魔法陣の全てに共通しての効果がある。

 

 それは、何秒間○○をする、という効果。つまり、時間制限。

 

 しかし、〝この魔法陣に触れたある一定のモノを一定の状態に戻す〟は、その時間制限すらもその時の状態に戻してしまう為に―――時間は、巻き戻る。しかし、何秒間の役割を果たせていない魔法陣は、それを果たすまで消える事は出来ない。その無限ループが発生することにより、無限連環機構は成立していると同時に、イクスの時間は、誰かがこれを解除するまで、永久的に止まり続ける。

 

 また、時間を止めている間は外からの干渉を全く受けない。たとえナイフを刺そうとしても、ナイフは通らないし、硫酸をかけても、それはただその空間に当たって、滴り落ちる。

 

 つまり、時間を止めている対象は、世界から隔絶されていることを意味する。時間を停止されている者は、その時間の停止を止めない限り、外の世界からの干渉は絶対に受け付けない。たとえ空間ごと破壊しようと、既にそこは干渉することの出来ない絶対の空間として存在するために、傷一つ付ける事は出来ない。

 

 だからこそ、いくら時間が経とうとも・・・・・・治る手段さえ見つかれば、助かるチャンスがある。第一条件としてこの仕掛けに気付いて、イクスを解放しなければならないが・・・・・・そもそもこの仕掛けに気付けないような時代の人間が、この病気の改善策を持っているとは端から思っていない。今は彼女が助かる可能性の一番高い道を選ばなければならないのだ。

 

「イクス・・・・・・ごめん。俺には貴方を、救えない」

 

 小柄な体を抱きかかえ、部屋を移動する。この世で一番、安全な場所へと運ぶ為に。

 

「でも、未来の人間ならもしかすれば・・・・・・貴方を救う事が出来るかもしれない」

 

 男の頬が、涙で濡れる。自身の王を助けられない自分の無力さが、悔しくて、それに憤りを覚えて、それでも何も出来ない自分が情けなくて、涙している。

 

「だから俺は・・・・・・未来に、貴方を託します。全ては、貴方の為に」

 

 イクスを運んだ場所は、今の時代よりももう少し前に作られた、遺跡の最深部の祭壇だった。祭壇の中央には寝台があり、イクスをそこに寝かせる。そしてそこに先ほど説明した時間停止の無限連環機構を張り、侵入者が入って来て彼女を殺してしまわないように、遺跡に無限連環機構を張り巡らせて要塞化させる。見つける事も困難になるだろうが、何よりイクスの安全を考えた結果が、こうなった。

 

「最後のケジメ、つけますか」

 

 遺跡を要塞化してから出た後、男はもう一度遺跡の方に振り返って、覚悟を決める為に、その言葉を口にした。

 

「さようなら、我が王よ」

 

 それを最後に、男は二度と、遺跡へと振り返る事はなかった。

 その後に繰り広げられたのは、暴走したマリアージュたちとの総力決戦。1対何十万、何百万の数で、戦いは繰り広げられた。

 

 しかし後少し、後何十という数だけは仕留めきれず、彼はそこで、戦死したのだった。

 

 

                                     ◆

 

 

「っ!?」

 

 ガバッ! と勢いよくラプターは起き上がった。そしてそれが夢であると同時に、過去にあったことだと自覚するのに、そう時間は掛からなかった。

 

「過去の夢・・・・・・か」

 

 今更そんなものを見ても、今はどうしようもないというのに。心の中で自嘲し、そして気付く。自分が脂汗で汗だくなことに。そして―――

 

「何で・・・・・・いや、明らかに母さんの仕業か」

 

 自分の寝ていた―――というか、眠らされていたフトンの両隣に、はやてとディアーチェが居る事に、気が付いた。

 

「ん、ぅ・・・・・・あれ? あ、ラプター起きとったん?」

 

 眠い目を擦りながら、はやてが起き上がる。ふぁ、と小さく欠伸をして伸びをすると、もうその目に眠さは感じられず、いつものはやての目になっていた。

 

「おはようさん」

 

「あぁ、おはようはやて」

 

 左隣に居るはやてに挨拶を返して、右隣に居るディアーチェを見ると、こちらも丁度目を覚ましたのか、仰向けになったまま一度目を擦り、そして少しずつ、目を開けていく。

 

「む・・・・・・ぅ、ラプター、か。・・・・・・おはよう」

 

「おはよう、ディアーチェ」

 

 ディアーチェもはやて同様、起き上がって小さく欠伸をして伸びをすることにより、いつもの目つきに変わる。

 

 二人とも、本当に切り替わりが早いなぁ、とラプターは心の中で密かに思っていた。しかし、別段言うことでもないので、口にも出さないし、顔にも出さない。

 

「ラプタァ、昨日のはちょっと激しすぎやで・・・・・・」

 

「・・・・・・は?」

 

 朝っぱらから妙に甘ったるい声で、いきなり意味の分からない事を言われて、ラプターがポカンとする。その隙を突くかのように、はやては言葉を続ける。

 

「あぁ~、ラプターのせいで、ウチの初めてが~・・・・・・うぅぅ」

 

「は? いや、待て・・・・・・はい?」

 

 もちろん、ラプターにそんな記憶は存在しない。はやてとはキスもしていなければ、そのような行為に及んだ覚えも全く無い。そもそも、父親のブルーノがそれをみすみすと許すとは思えない。

 

 しかし、目の前のはやての落ち込みようからして、記憶はないが過ちを犯してしまった、という可能性は、完全には否定できない。仮定すれば否定出来るが、この件に関して無闇に仮定する事は出来ない。

 

 今もはやては、シクシクと泣いている。嘘泣きの可能性がかなり高いのだが、もし間違っていたらそれこそ一大事だ。確実に、肉体的にも精神的にも処刑されかねない。

 

「責任、しっかりと取ってくれる?」

 

 いや、何の責任だ。と、叫びたい。しかし、その度胸が無い自分が今は何より恨めしい。

 

『ふぁ~・・・・・・あ、おはよう~。いやぁ、昨日はお盛んだったねぇ』

 

「は? いや、ナハトまてやコラ。俺はずっと気絶していたんだぞ?」

 

「え、もしかしてあんなことまでして、忘れったちゅうん? ひ、酷い・・・・・・酷いで・・・・・・うぅぅ・・・・・・」

 

『オーディン。お前なら、真実を知っているよな?』

 

 遂にはやてが両手で顔を抑えて静かに泣きだしてしまった。ラプターは最後の助け舟のオーディンを頼りにするのだが・・・・・・

 

『(責任から逃げるのはどうかと思いますが)』

 

「・・・・・・え、マジなの?」

 

 オーディンですらこの反応。最後の最後、恐る恐る、といった様子でラプターはディアーチェに訊く。

 

「嘘に決まっておろうこの戯け」

 

 即答だった。

 

「あ、王様~。何でバラすんや~」

 

 と、嘘泣きから復活したはやてが明るく楽しそうに言う。本人からしてみれば楽しいのかもしれないが、ラプターからしてみれば、まさに肝が冷える思いだった。

 

 今しがた、ラプターは思わず腹括ってある場所で懺悔して、その後すぐにはやての家に婿入りしてしまうという鮮明なビジョンまで想像してしまった。

 

「はやて、ちょっと目を瞑って、少し顎を上にしてくれないか?」

 

「え・・・・・・? う、うん・・・・・・えぇけど・・・・・・」

 

 先ほどまであのような恥ずかしい演技をしていたくせして、こちらが要求すると本当に恥ずかしがりながら要求にこたえる辺り、根元までは邪な心に染まっていないらしい。ならば、少しは手加減しようと、ラプターは心に決める。

 

 ラプターの表情を見てか、ディアーチェがそそくさと部屋から退散する。同時に、ナハトも部屋から退出していった。実質、部屋で二人きりになるラプターとはやて。それもここは、ラプターの自室だ。朝っぱらからこのロマンチックなムード、誰もが自重しろと言いそうな状況の中、ラプターははやての顎に手を当てて、位置を調整するためにもう少しだけ顎を上へと向ける。

 

「ん・・・・・・」

 

 はやての顔は紅潮して赤みを帯びていた。このロマンチックなムードに当てられたのか、はたまた別の理由なのか。それはラプターの知る由では無い。

 

 ラプターが顔を近づけると、目を瞑っていても近づいてくるのが分かるのか、はやてはギュッと目を瞑って、両手を胸の前で硬く握る。そのまま、徐々に、徐々にとラプターははやてに顔を近づけていき―――その瞬間に一気に頭を後ろに引いた。同時にこの部屋が結界に包まれたようだが、今の二人にはそんなことはどうでも良かった。

 

「ディバイン・シュラーク!」

 

 技名を口にした瞬間、ラプターは一気にはやての頭へと頭を急接近させて―――その後すぐに、先ほどからチャージしていたラプターの額のディバインバスターが、二人の額を中心に、爆ぜたのだった。

 

 

                                     ◆

 

 

「うぅ・・・・・・酷い、本当に酷いでラプター」

 

「手加減してやったんだぞ。それだけでもありがたく思いやがれ」

 

 現在は朝食の席に皆着いていた。ラプターのディバイン・シュラークをクリーンヒットさせられたはやてのおでこは未だに赤い、が自業自得の為同情の余地は無い。もちろん、砲撃魔法を爆発させてしまった為、本来部屋が無事の筈はないのだが―――どうやら、ディアーチェがライラに報告して、結界を張ってもらったらしい。それにより、部屋は傷一つ付かなかった。流石、元SSSランク魔導師といえる。

 

「それで、はやてちゃん、ディアーチェちゃん。ちょっと聞いていいかしら?」

 

「む?」

 

「どないしたん? お母様」

 

「おい、お母様じゃねぇだろ」

 

 はやての発言にツッコミを入れるラプターだが、この場に居る全員に無視されて話は進む。

 

「昨日、ウチの息子の偽物が現れたんだけど―――あれって、もしかして何か事件なのかしら?」

 

「―――あ」

 

「・・・・・・そうだ、昨日は話に夢中になりすぎて忘れておったわ」

 

「おい」

 

 事件の詳細の方が本当は重要視される筈なのに、何故話を優先した。という意味合いを込めてのラプターの「おい」だったのだが、それも華麗にこの場ではスルーされる。誰一人として、反応はしてくれない。

 

「こほん。ではまず、我らの出自から話さねばならぬな。まず結論から言うとだな、我らは元を辿れば闇の書の一部での。闇の残滓だの、闇の欠片だのと呼ばれておったが―――要約すれば、闇の書の防衛プログラム破壊時に飛び散ったその残骸よ。それがそれぞれ何者かをコピーして、体を構築して、独立した意識を持った。ただ、独立した意識とはいっても、所詮コピーはコピーだ。過去のトラウマに囚われる者も居れば、心残りを達成するためにだったりと、意識のレベルは本物の模造品ばかりであった。

―――しかし、我らはだけは違った。高町なのはを元にしたマテリアルSのシュテル・ザ・デストラクター。フェイト・T・ハラオウンを元にしたマテリアルLのレヴィ・ザ・スラッシャー。そしてそこの子鴉を元にしたマテリアルDの我こそがロード・ディアーチェ。我ら三人だけは、ベースとした人間の記憶を多少なりとも引継ぎはしたものの、目的や意識は全く別のモノに仕上がっておった。見た目も多少違うが、性格は全く別物だ。これが、我らマテリアルの正体ぞ」

 

 今明かされる、マテリアルの真実。それを聞いたライラとブルーノとラプターの三人は多少なりとも驚きはした。が、そこまで大きく反応することはなかった。

 

「ふむ・・・・・・馬鹿親父、ロストロギア関係の本を何処にやった?」

 

「ん? あぁ、それなら此処にある。ほれ、返却だ」

 

 ラプターに至っては、もう興味を失くしたかのようにブルーノから本を奪い取って―――というより返却してもらい、そちらを読み漁ろうとさえしている。

 

「なるほど、ね。つまりウチの息子に化けて出たあの子は、闇の欠片ってわけね」

 

「昨日―――か。気付かなかったし見ていなかったので、実際はどうか分からぬが・・・・・・恐らく、そういうことだ」

 

 ライラが逸早く昨日の偽物正体に気が付いた。しかし、やはりこうなってくると自然と無関係ではいられなくなりそうだ。特に、ラプターが。

 

「大体、状況は掴めた。というか、多分核心に迫れた」

 

「あら? そうなの? 私はまだ情報不足なのだけれど・・・・・・」

 

 ブルーノの宣言に、ライラは少し残念そうに肩を落とす。恐らく、勝負に負けた、といった感覚になっているのだろう。

 

「核心って・・・・・・もしかして、おおもとの原因っちゅうこと?」

 

「あぁ。何となーく、色んな所から俺の所に情報入ってくるのよ。闇の書事件は既に解決していることとか、闇の欠片事件も既に解決していることとか。んで、今更になってまた闇の欠片事件が再発した、だろ?」

 

「は、はい。その通りです」

 

 思わず敬語になってしまうはやて。ブルーノは自分の考察話を続ける。

 

「んで、闇の書事件と闇の欠片事件は解決されているのに、何でまた闇の欠片事件が起こったかってことだが・・・・・・お前さんら、分かるか?」

 

「それが分からぬから、こうして苦労しておるのだ」

 

「なるほどな。やっぱり、お前達には一番の見落としが存在するぞ」

 

 ブルーノの指摘に、はやてとディアーチェは首を傾げる。つまり、分からないという事なので、ブルーノはそのまま話し続ける。

 

「記録と今聞いた話によれば、闇の書事件を解決したとき、防衛プログラムを破壊して、その防衛プログラムが破壊された時に飛散したのが、闇の欠片。つまり、闇の欠片事件に繋がる布石だろ?」

 

「うむ、その通りだ」

 

 ここまでの推理と情報は全て合っている。

 

「んで、つまり防衛プログラムを破壊したりすると闇の欠片事件が起きたわけだから、闇の欠片事件の原因は防衛プログラムだ。そして、今回の事件の再発生も、その例に違わず防衛プログラムが原因だ。なぁ? この馬鹿息子が。テメエ、後先考えずに突っ走り過ぎなんだよ」

 

 そこでいきなり、話に全く参加していなかったラプターに話が振られる。ラプターはばつの悪そうな顔をして、口を開く。

 

「あぁ、本当にその通りだったよ。今考えれば、俺はナハトヴァールごとアルカンシェルぶっぱされたからな」

 

「あぁ、そういうことだ。正直、あの報告聞いた時も別に悲しまなかったけどな。どうせ奇跡の一つでも起こして漂々とした顔で帰ってくると思ってた。つまり、悲しむだけ無駄ってもんだ」

 

 あの報告、とはつまり、ラプターがナハトヴァールの浄化に失敗して、アルカンシェルによって死んだ、という報告のことだ。

 

「ちなみにはやて、ディアーチェ。俺はナハトヴァールから要らないデータを全て〝削除〟して、その後にバックアップデータ調べてそれを基準に、削除したデータの代わりを全て作って穴埋めして、コイツを浄化したんだ。削除と破壊、確かに違う言葉だが、最終的には一緒だ。もし、削除した時に―――つまりデータが壊され、消える時に欠片が飛散してしまったら?」

 

 あっ、とはやてとディアーチェが同時に声を上げる。つまり、今回の事件のおおもとに気付いたのだ。

 

「それにナハトヴァールって無限再生するんだろ? だからあの時、昔に破壊された防衛プログラムがリインフォースの中に存在した。んで、最初の闇の欠片事件の時はその初代ナハトヴァールが原因だ。んで、今回は俺がデータ削除するときに、消滅する前に闇の欠片となって飛散した奴があるらしいな。言っておくが、データ処理の合間のそんな一瞬で確実に削除するような几帳面な事はやってないからな。削除を免れた闇の欠片があっても、別段おかしくはない。つまりこれは、今俺が所有している、二番目のナハトヴァールの闇の欠片、ってことだ」

 

「―――って、それほとんどラプターのせいやん!?」

 

「まぁ、一方的に責任を押し付ける事は出来ぬが・・・・・・流石に協力しない、というわけはないよな?」

 

 説明し終わった後のこの威圧。ラプターは困った様にいつもの癖で頭を掻きながら、苦笑して言う。

 

「嫌だ、って言いたいなぁ・・・・・・」

 

「馬鹿息子、男ならケジメと責任にはしっかりとしろ」

 

「へいへい。分かってるよ」

 

 願望系の言葉は即否定されるが、ラプターも初めからそうするつもりではあったのか、協力する意思をすぐに示す。この潔い所は、彼の長所だ。

 

「そこの本の記述によれば、『闇の書の完全破壊は不可能とされる上に、破壊されれば今度はその欠片を各地に散らばらせ、過去に闇の書に蒐集された者、または闇の書のデータベースにある者の形を取り、行動を始める。記憶がどこまで継承されているかはその時になってみなければ分からず、それらは欲望に非常に忠実。自分の成し遂げたいと思うことは何が何でも押し通そうとする傾向が見られる。この事から、闇の書の破壊はとてもじゃないがお勧めできない。対策としては、封印や永久凍結が望ましい。―――しかし、もしも闇の書の本当の闇を解放出来るのであれば、彼ら彼女ら、そしてプログラムたちの為に、そうしてやってほしい。どうか、ナハトたちを解放してやってくれ』だとよ。ここだけ何故か白紙になってるから何かあるんじゃないかと調べたら見事にヒットして、ちょっと弄ったら文字が浮かんできて、この情報は得られたわけだ」

 

 ブルーノは長々と二人に向けて情報源の補足を加える。確かにラプターも不自然な空白だとは思っていたが、まさかそのような情報が書かれているとは思いにもよらなかった。流石、現役遺跡発掘者。こういった仕掛けには慣れている。

 

「さて、それじゃあ馬鹿息子、後始末に行ってこい。あ、後レジアスのところで働いているとかミッド新聞に書いてあったがな、間違っても俺達のことバラすなよ?」

 

「分かってるって―の。いちいち言わなくていい。面倒な事になるの分かり切ってるんだから。苗字だって嘘言ったよ」

 

「流石は俺の馬鹿息子。思考回路がまるで同じだ」

 

「親子似た者同士ってか? はっ、言ってろ馬鹿親父。はやて、ディアーチェ、荷物纏めてくるからちょっと待っててくれ」

 

 それだけを言い残して、ラプターはリビングから二階へと上がった。話に夢中になっていて忘れていたが、今は朝食の最中だった。見てみれば、ラプターは既に自分の分を完食していた。

 

「ま、あの馬鹿息子のこと、嬢ちゃん二人に任せたぜ?」

 

「はい、喜んで!」

 

「大船に乗ったつもりでいるがいい」

 

「本当に、頼もしい子達ね~」

 

「そうだなぁ」

 

 ライラの一言に同意して、四人は食事を再開するのだった。

 

 ―――それから約一時間後。

 

「んじゃ、また行ってくるわ」

 

「おぅ。気を付けろよ~、特に送り狼とかに」

 

「それと、インターミドル・チャンピオンシップにはちゃんと今年に出ておくのよ~? もう十歳になっているんだから~」

 

「気が向いたらな~」

 

「それでは、昨日からお世話になりました。ありがとうございました」

 

「昨日から泊めてもらい朝食までもらって・・・・・・その、なんだ。ありが、とう」

 

 それぞれに挨拶を済ませると、はやてとディアーチェが呼んでいたらしいアースラに回収される。これが終わったら、インターミドルとは・・・・・・先は本当に、長い。

 

 そんなことを考えながらも、ラプターは今回の事件に積極的に、そして集中して取り組んでいた。

 

 闇の欠片の量も、全員で手分けして掛かれば、それほど殲滅に時間は掛からなかった。特にユーリの戦闘能力は異常で、闇の欠片のほとんどは彼女によって殲滅されたと言っていい。

 

 初任務にしてはあまりに長く、しかし楽な仕事で、ラプターは拍子抜けするも・・・・・・大事にならなくて良かったと、心の底から安堵した。

 

 そして、闇の欠片事件が片付き、ミッドに帰る前の話だ。

 

「本当に、ナハト置いてかなくていいのか?」

 

 そう、まだ一つ解決していない問題が、ナハトを誰が所有するか、という問題だったのだが・・・・・・八神一家(はやて、ヴォルケンリッター、リインフォース)と紫天一家(マテリアル、ユーリ)は、ラプターが所有する事を望んだのだった。

 

「えぇよ。だってその子、ラプターにめっちゃ懐いとるし」

 

「それを浄化したのはうぬだからな。遠慮なく、貰って行け」

 

「てか、ナハトは良いのか? リインフォースと離れても」

 

『別に良いよ~。だって、どのみちもう会えないって訳じゃないんだから。だからこれからも、どうぞよろしくね~』

 

「俺が困るんだけどなぁ・・・・・・」

 

 ラプターのその言葉に、その場にいた全員が笑った。まったく、何事もなく終わって本当に愉快だ。みんながそう、思っている事だろう。

 

「それじゃ、またな。ユーノとクロノとザフィーラは、今度また連絡するから男子会でも開こうぜ。女子率多すぎて正直息詰まるだろ?」

 

「ははっ。まぁ、たまには良いんじゃないかな」

 

「息が詰まる、というよりはもう慣れたけど・・・・・・その提案、乗らせてもらうよ」

 

「一度、お前とはゆっくり話してみたかったからな。機会があれば、是非も無い」

 

 三人が快く了承してくれるのに嬉しく思いながら、ラプターは「それじゃ」と最後に軽めの別れを告げて、転送装置へと乗りミッドへと転送される。既にあちらの許可は取っているので、問題にはならない。

 

「さっ、みんなまだ事後処理が少し残っているんだから、最後の最後まで、気を抜かずに行くわよ!」

 

 と、一瞬静まりかけた空気を、リンディはその一言でまた沸かせ、事後処理―――主に書類仕事の方へと集中するのだった。

 

 そして、ミッドに戻ってきたラプターはと言えば・・・・・・。

 

「っしゃ~、ただいま~戻りました~」

 

「ふざけているのか?」

 

 気の抜けた声でノックも何もなしに入ってくる部下に対して、レジアスは若干キレ気味に目つきを鋭くして言ってくるが、ラプターにはどこ吹く風だ。

 

「報告は、まぁとりあえずアースラ局員から受け取っておいて。んで、これの保護者枠にサインしてほしいんだが・・・・・・」

 

「む、何だこれは・・・・・・あぁ、なるほど」

 

 一つの紙切れを取り出して渡してきたラプターに怪訝な顔をするレジアスだったが、すぐにその真意を理解して、その申込み用紙の保護者枠にサインをする。

 

「インターミドル・チャンピオンシップ、か。そういえば、局の中から誰かが出るのは久しいな」

 

「はは、そりゃいいね。これで俺が優勝すれば、また地上本部の株は上昇、ってやつか」

 

「身も蓋も無い事を・・・・・・まぁ、その通りだがな。そら、サインしたぞ」

 

「お、ありがとう。それじゃ、ちょっと申込用紙すぐに出してくる!」

 

 そう言って、まるで嵐のようにラプターは過ぎ去って行った。全くもって、面白おかしい奴だとレジアスは思った。

 

 そして、インターミドル・チャンピオンシップ、通称インターミドルまでは、残り一週間の猶予しかない。

 

 はたして、あのラプターのめちゃくちゃな戦いぶりがどこまで通用するのか―――この時、レジアスの楽しみが、また一つ、増える事になったのだった。

 

 




 ようやく無限連環機構の詳細な説明を加える事が出来ました。また、ディアーチェたちの存在についてもGOD知らない方にとって、何とか説明出来たと思います。

 さてさて、闇の欠片編に入るかと思いきやまさかのブラフ(正直書くことが無かっただけです)。これからはインターミドル編に入っていきます。ちなみにvividの14年前なので、vividキャラ(vividに入ってからのキャラ)は登場しないと思ってください。

 それでは、あまり長く雑談をするとアレなので今回はここまでという事で。

 あと、お気に入り数が20件を突破しておりました。お気に入り登録してくださった方々、本当にありがとうございます!
 そして、感想をくれた方々、貴重な意見をしてくださった方々にも最大限の感謝を込めまして、本当に、ありがとうございます。

 皆様に、これからもご愛読の方をよろしくお願い出来たらな、と思っております。

 それでは、感想、批判、コメント、ご指摘などの御言葉を、心より、お待ちしております。

PS.ご指摘をいただき、一番最初のプロローグの序盤部分を物語に影響がない程度に修正いたしました。活動報告にも書きましたが、あまりにUA数少ないので、こちらに追記という形で書かせていただくことになりました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。