叶わぬ願いⅩ   作:チャンプルン

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Blank Period9:激闘

 

「っと、間に合った、か?」

 

 エリートクラスの選手控室A。今しがた到着したラプターとゼストは、そこに設置されて映されているインターミドルのテレビ中継を見てみる。

 

「え、終わってんのか?」

 

 しかし、試合は既に第二試合へと突入していた。選手は必ずひとつ前の試合開始時間前には集合しなければならないので、別に進行に支障は出ないのだが、現在の時刻は本来のものであれば初戦の試合開始から3分ほどしか経っていない。つまり―――

 

「試合時間は・・・・・・1分も無かったようだな」

 

 そう。前の試合時間が圧倒的に短い事を、それは意味していた。つまり、その試合の選手のどちらかは圧倒的な実力を持っていた、ということを示しているに他ならない。

 

「やっちまったな~」

 

 まさか見逃してはいけない試合を見逃してしまうとは。後悔しながら、今度はしっかりと初戦から中継を見れるように来ようと心に誓うラプターだった。

 

「まぁ、また見る機会はある。今日は最後までキッチリと見ておくぞ」

 

 次の試合は選手の調整と兼ねているのか来週だ。だから、今日で集められるだけの情報はすべて集めておく―――!

 

「お、去年の都市本戦第三位選手だな。まぁ、安心しろ。お前とは別の組だからな」

 

「へいへい」

 

 都市本戦第三位選手、一体どれくらいの実力なのだろうかとテレビを見ていると、どうやら純格闘型(ピュアファイター)ではなく、武器を使った近接戦闘、魔力弾を使った中距離戦闘、主体の総合選手らしい。しかし、分析し切る事など出来ず、試合はその第三位選手が相手をKOにして試合終了。

 

「ちょっと今のは不味いな・・・・・・」

 

「心にも思っていない事を言うな」

 

「あ、バレた?」

 

 ゼストと軽口を叩き合いながら五戦目、六戦目と次々の試合を見ていく。が、それからはあまり目立つ選手は居らず、いつの間にかラプター自身の試合が目前に迫っていた。

 

「ふぅ、さて、行きますか」

 

「だな。ちなみにお前の次の相手、去年の都市本戦五位選手だから気を抜くな」

 

 ラプターの出る前の試合が終わり、いよいよラプターの出番になったとき、ゼストがそんな重大事項をポロリと呟いた。

 

「それ、早く言って欲しかった」

 

「お前の場合、逆に分かっていない方が良いだろうと思っただけだ。それで頭を悩ませて眠れなかった、じゃ馬鹿みたいだからな」

 

 ごもっともで。昨日のラプターの精神状態からして、言い返せるわけがなかった。

 

「なら、軽く捻ってきますよ。グングニルは使わない範囲で」

 

「当たり前だ。こんな場所で全力のグングニルを使えば、それこそセコンドだけじゃなく観客にまで被害が及ぶ」

 

「だからこそ使わねえよ。さて、相手の顔を拝みにいくか」

 

『ブルーコーナー。こちらからは初参戦の全試合一分未満の試合記録を持つスーパールーキー! 及び陸戦Sランク魔導師資格保有者、ラプター・プルート!』

 

 控室から出ると、ラプターはすぐにオーディンを起動さあせる。そしてラプターの姿が観客席から見えるようになり、たちまちそのような解説が流れてくると、会場がそれなりに沸いた。しかしきっと、次の上位選手は―――

 

『レッドコーナーからは、IM(インターミドル)4回出場、内2回が都市本戦出場、これといった型を持たない無流派選手、アルバート・メイソン!』

 

 わぁぁぁ! と、会場がラプターの時に比ではない程に沸いた。これが、ルーキーと上位選手の差、という奴なのだろう。

 

 相手のアルバートという男を見てみる。体格的に明らかにラプターよりも身長が40センチほど大きい。これは別に、ラプターが小さいわけではない。10歳にしては平均的な方だ。ただ、単純な肉体年齢の差が出ているだけなのだ。

 

 そしてこのアルバートという男、ラプターがスーパーノービスクラス時に会場全体に揺さぶりをかけ、その時に強そうだ、と目星をつけていた見た目年齢十七、十八ほどの男だ。デバイスはラプターと同じ二の腕までを覆う、あちらは鋼色のガントレット。

 

 これは楽に勝てそうも無いな―――、とラプターは相手の無形の構えと様子から見て判断する。

 

『どちらもこれといった型を持たない、しかし全く違うタイプの選手! この試合、果たしてどんな結果となるのでしょうか?』

 

 実況者の言葉は続く。

 

『一回戦は4分4R(ラウンド)。規定ライフは12000! さあ、そんな二組第一試合のゴングが今―――』

 

 規定ライフとは、つまり試合での攻撃を食らっていい範囲のことだ。これが0になれば、KO判定となり負けになる。回復する方法は魔法やインターバル時、などとあるので、とにかく0にならなければチャンスは存在する。

 

 カンッ!

 

『鳴りましたッ!』

 

「まぁ軽く、お願いしますよ」

 

「ははっ、秒殺KO記録持ちの陸戦Sランクチートルーキーが何ほざいてやがる」

 

 意外と軽口には乗ってくれるタイプらしい。しかし、隙はどこにも見当たらない。なるほど、去年の都市本戦五位は伊達では無いらしい。

 

「いやぁ、攻め手が見つからない。流石都市本戦五位」

 

「お、気が合うじゃねえか。オレも攻め手が全く見つからねえんだよ」

 

 数十秒かけてお互いがお互いの様子を見るが、どちらも攻め手が見つからない為に攻められない。会場はこの試合の静けさに、自然と沈黙していた。

 

『両者、お互いに様子見か、嵐の前を思わせる静寂が続いています―――』

 

「・・・・・・なぁ、流石にこれ、観客が退屈するんじゃねぇの? 都市本戦五位」

 

 互いに間合いを一定に保つために、しかし相手を崩す為に微量だがすり足で移動して間合いを調節する中、ラプターがアルバートに向けて話し掛ける。

 

「奇遇だなスーパールーキー。オレも今ちょうどお前と同じことを考えていた。オレらにとっちゃ確かにこれは重要だが、正直埒が明かねえわ。このままやっていたら第一ラウンド全部使い切っちまう」

 

 何かを防御するように両手を前に、上に向けて垂直にしているラプターに対して、アルバートは何も構えずただすり足で間合い調節をしながら言葉を返す。どうやら、お互いに考えている事は全く同じの様だ。

 

 ―――ならば、自然と次も同じことを考える筈だ。お互いがお互いの性格と読みと(おかしなことだが)相手を信じて、お互いが全く同時に動いた。

 

 ラプターは急激な加速を付けた低空タックル。アルバートは全く構えを取らず未だに無形で間合いを詰める為に加速した。しかし、無形とはつまり、どの様な場合にも対処できる可能性を持っている事を意味している。

 

 だからこそ、ラプターは手を抜かない。この男にならば全力で打ち込んでも怪我程度で済むだろうと考えて、惜しむことなくプレシアの作った最高傑作の右腕の猛威を振るため、拳を握る。

 

 ラプターとアルバートが衝突間近、またも同時に二人が急停止した。つくづく、考えは合うようだとお互いに苦笑をもらし、ラプターは震脚を地面に打ち込み、拳の前には即席でチャージしたディバインバスターを、そして最後に発勁を使用して、敵の腹へと思いっきりその拳を打ち込みに掛かる。

 

 アルバートはそれに対して防御はしない。その攻撃が見えなかったわけでも、読めなかったわけでもない。全て分かった上で防御せずに、敢えて防御を捨てて右肘に全体重を乗せてラプターの首元目掛けて叩き込む。

 

「ぐっ!?」

 

「ッ!」

 

『ラプター・プルート

 DAMAGE 3400

 LIFE 8600

 クラッシュエミュレート:意識混濁』

 

『アルバート・メイソン

 DAMAGE 4200

 LIFE 7800

 クラッシュエミュレート:左肋骨3番、4番骨折』

 

 刹那、お互いの攻撃がクリーンヒットし、クラッシュエミュレート判定と共にアルバートはラプターの拳の威力を殺し切れずにリング外へと吹っ飛び、ラプターは首を打たれた衝撃から地面に膝を着いてしまう。

 

 クラッシュエミュレートとは、ライフへのダメージとは別に、受けた攻撃によって「打撲・骨折・脳震盪・火傷・感電」などといった身体ダメージが表現されるもので、実際の負傷を受けた時と同じように痛みを感じたり、身体の動きが鈍るといった状況が再現される。

 

(ッ、い、今のはヤバい・・・・・・!)

 

 先ほど首への攻撃を食らってしまった為か、意識を失いかけたラプター。踏ん張って何とか意識は保ったものの、これから反応が鈍る事には間違いない。

 

『リングアウトダウン。カウント、20。19、18、17―――』

 

「まぁ、オレの作戦勝ちってところか。ってぇ・・・・・・」

 

 と、場外に吹っ飛ばされ倒れていたアルバートは何事も無かったかのように起き上がろうとして―――左腹部に骨折の激痛が走ったのか顔を歪めて、リングへと戻ろうとする。

 

「アルバート選手、試合続行はいける?」

 

「当ぜっ、ん・・・・・・ってぇ」

 

 大声を張り上げようと腹部に力を入れたためか、どうやらアルバートは腹部に痛みを覚えた様だ。肋骨が二本も折れた痛みがクラッシュエミュレートで再現されているので、当然と言えば当然だ。

 

「それではラプター選手、ニュートラルコーナーへ」

 

「あ、あぁ・・・・・・」

 

 リングの最初に立っていた位置におぼつかない足取りで戻り、アルバートの方へと体を向ける。たった一撃で、お互いがこれほど重度のダメージを負うとは―――などと、考えている余裕はない。何せ、今回のたった一撃の攻撃で、分かったことがあるのだから。

 

「ったく、バカそうに見えて、結構お利口じゃねえか第五位」

 

「テメエはお利口そうに見えて結構脳筋なんだなァ? スーパールーキー」

 

 お互いの純粋な打ち合いの中で分かること。それは、普段の素のスタイルだ。

今回、アルバートはダメージを省みずに、攻撃した。ここまでは別にラプターと全く変わりは無い。しかし、この次でアルバートはただ単にダメージになるような攻撃をするのではなく、今後の相手との戦いでより自分が有利になるような決定打、つまり首を狙う事による意識混濁をピンポイントに狙ってきたのだ。これに気付いたのは、アルバートが肘を打ち込もうとした時で、既に避ける事など出来なかった。その為に、ラプターはまともにそれを食らってしまった。

 

 一方で、ラプターは単純な力押しで敵に拳を叩き込んだ。

 

 今回のお互いの一撃、確かにダメージはラプターの方が多く与えた。しかし、クラッシュエミュレートでは明らかにアルバートの方が有利な結果となっている。意識混濁など、近接戦闘において致命傷もいいところである。肋骨の骨折も確かに激痛が走るが、それは我慢すればいいだけの話。意識混濁と肋骨骨折では、不利の比較にはならない。

 

『両者位置についたようなので―――試合再開ですっ!』

 

 試合再開の合図と同時に、アルバートが間合いを詰めてくる。ラプターはアルバートの接近を許すまいと後ろにバックステップを取り、足を着いた瞬間―――ゴォン! という破砕音が鳴り響いた。

 

「ちょっ―――」

 

 アルバートが焦ったように接近を辞めようとするが、時は既に遅し。まだ一メートル半離れているが、それはラプターの間合いだ。

 

「これでも、喰らえぇ!」

 

 バァン! と震脚を打った時に発生したコンクリートの破片を弾き飛ばしながら、ラプターはアルバートへと急接近する。それも、物凄い加速力と速度だ。今からアルバートが全力で避けようとしても、今のラプターの突撃は避けられない。

 

 ならば、とアルバートは肘を構える。つまり、近づいた瞬間、それを頭や首に叩き込む、という算段だ。

 

 ―――今だッ!

 

 タイミングを見計らったアルバートはラプターの肩に目掛けて肘を振るう。狙いは、肩を外すこと―――だが、アルバートの肘は空中を空振った。

 

「ばあーか」

 

 何とラプターは、アルバ―トとの距離二歩前の所で急停止していたのだ。アルバートが次にする攻撃が分かっていた為に、タイミングをずらして、空振って勢い余った拍子に下に向いた肩に、ラプターは自分の両足の裏を着けた。つまり、ラプターは急加速したものの、アルバートの攻撃を先読みし、寸でのところでそれに当たらない位置で急停止、そして跳躍してアルバートの肩に乗ったのだ。

 

「カノーネ・バインW!」

 

「がぁぁぁあああ!?」

 

『アルバート・メイソン

 DAMAGE 6100

 LIFE 1700

 クラッシュエミュレート:左肩粉砕』

 

 そして容赦することなく、アルバートの左肩を両足の震脚で踏み抜き、左肩を粉砕する。もちろん、エミュレートでという意味だ。本当に左肩を粉砕したわけではない。

 

「でらぁぁァァ!」

 

「っぐ!?」

 

『ラプター・プルート

 DAMAGE 4200

 LIFE 4400

 クラッシュエミュレート:視界一時遮断 中度脳震盪』

 

 もはや今の衝撃で怯んで動けないと思っていたアルバートが、気合の雄叫びを上げてラプターの顔面に目掛けて全力で右の拳を叩き込む。それも、ラプターは重傷を負うだけでなくエミュレートにて視界を遮断され、更に脳震盪まで起こしてしまう。

 

(―――不味い、相手が何処に居るか分からない!?)

 

 アルバートの気配が完全に断たれた。きっと、視界が一時遮断されることを先読みして、気配を完全に消したのだろう。何という巧みなテクニックだと思いながら、とにかく五感を最大限に働かせる。次連続で攻撃を食らえば、今のライフポイントでは完全にKOされてしまうから。

 

(いや、そうじゃない! 次に、次に攻撃の来る部位を考えるんだ!)

 

「オーディン!」

 

『(上から来ます)!』

 

「遅い!」

 

 ゴォン! という大きな衝撃が頭に響いた。恐らく、踵落しの類の攻撃を加えられたのだろう。ラプターは既に頭部や首を何度も攻撃されており、中度脳震盪というエミュレーターまで付いている為に、その場に崩れ落ちる。

 

『ラプター・プルート

 DAMAGE 4100

 LIFE 300

 クラッシュエミュレート:視界暗転 重度脳震盪』

 

『き、決まったぁぁぁ! ラプター選手、ダウン! アルバート選手、ラプター選手の攻撃を耐えて何とかここまで削りました! 今、レフリーがカウントに入っております!』

 

(く、そ・・・・・・)

 

 体に力が入らない。目の前が何も見えない。どちらが上で、どちらが下なのかすら分からない。それはつまり、平衡感覚が無い。あぁ、こんな時、アイツ等はどうしたっけ? と、カウントが数えられる中、ラプターは過去のことを思い出していた。

 

『視界と平衡感覚を奪われたなら、その分、それまでの戦いのデータを分析して、頭を使うんだ。次にどこに攻撃が来るか、どこから相手が攻めてくるか、しっかりと考えるんだ。視界と平衡感覚が奪われただけでも、まだ触覚と聴覚、嗅覚は残っている。思考能力が失われていても、この三つがあればまず対処可能だよ』

 

 そうだ。確か、アイツはその様な事を言っていた。頭を使え。頭を使えないなら肌で、耳で、鼻で感じ取れ、と。

 

 とにかく両腕に力を入れる。平衡感覚は未だに回復しないが、それでも力を入れれば、触覚が、手を着いている場所が地面だと教えてくれる。何せ、ここはリングの上なのだ。地面意外に、手を着ける場所は存在しない。

 

 そして、足を着く場所も自然と地面しか存在しない。平衡感覚が無かろうと、足を着く場所がどういった場所にあるのか、しっかりと理解していれば分かる。混乱しなければ、平衡感覚など必要ない。上か下が分かれば、後は触覚が平衡感覚の代わりをしてくれる。

 

『た、立ったぁぁぁ! ラプター選手、残りカウント1で立ちました! ギリギリの復帰ですがしかし、このまま続行しても大丈夫なのでしょうか!?』

 

「ラプター選手、見た所かなり重症のようだが・・・・・・このまま、試合を続行するか?」

 

「大丈夫だ。触覚があれば、平衡感覚が無くても、上と下、左右くらいは分かる」

 

 そう。触覚があれば右手左手が分かる。足の裏の触覚が生きていれば、自然とどれだけ体重を掛けているのかも分かる。重心は分からないが、つまり心臓が無い方に心臓分だけ体重を乗せれば良いだけだ。正確には分からないが、両足にどれだけの体重が掛かっているか触覚で分かるので、調整は難しくない。

 

「さて、お互い満身創痍。このラウンド中には、決めてぇ所だな第五位」

 

「ったく、何て奴だ。平衡感覚も視覚も失っている筈なのに、それでもまだ立てるのか? こりゃあ、本当にスーパールーキーなんてものじゃねぇなァ、ウルトラルーキー」

 

 お互いに軽口を叩く。その間にも、ラプターはニュートラルコーナーへとゆっくりと歩き、思考を回転させる。

 

(今、ここで使うには・・・・・・隙が、大きすぎる、か)

 

 グングニルを使おうとしたが、流石に発動するまでのチャージ時間を、この状態で稼げる筈がない。

 

 ならば、頼りは一つ。

 

『オーディン、何か良い案は無いのか?』

 

 オーディンのAIに直接念話を送ると、すぐに答えが返ってくる。

 

『(スレイプニル、と叫んでもらえば、貴方の足となる事は可能です。しかし、今度は貴方の腕となる事が出来なくなります。最初からグレイプニールを使っていただいていれば、勝つことは容易だったでしょうに)』

 

『うるせぇ。発動条件に制限があり過ぎて、アレはアレで使い勝手悪いんだよ。しかも、誘いに乗ってこなかったんだ。グレイプニールを設置なんてする時間、無かった。・・・・・・だが、そのスレイプニル・・・・・・信じていいんだよな?』

 

『(貴方が私に信頼を置いてくれるのであれば、私はその信頼相応の成果を出すことを誓います)』

 

『上等だ』

 

 オーディンとの作戦会議も終わり、ラプターは見えない目を開けて構えを取る。両腕を垂直に上の方へと向け前に出した、攻撃を度外視した構えだ。

 

『両者、再び元の位置へと戻りました。第三試合1R、残り試合時間は20秒―――試合、再開ですっ!』

 

「スレイプニル!」

 

『(はい。その信頼に、私は全力を以てお答えします)』

 

 刹那、溢れんばかりの閃光が、会場内を光に包んだ。その光に、誰もが思わず目を瞑った。そして次に感じたのは―――

 

「この二十秒が、俺達のファイナルラウンドだ。第五位」

 

 アルバートの目の前に見えるのは、ガントレットを外して、今度は膝までを覆った脚部装甲を展開した、ラプターの姿だった。しかし、今までと圧倒的に違うのは・・・・・・その、脚部装甲、つまりデバイスが纏う、圧倒的、魔力量。

 

 ―――そう。光の次に感じたのは、圧倒的魔力の存在だった。

 

「この期に及んで、まだそんな隠し玉を・・・・・・!」

 

「オーディン! テメエに指示することは唯一つ!」

 

 ゴォッ! という突風が吹き荒れる。いや、叩き付けられるという表現の方が正しいかもしれない。それは、全て魔力によって巻き起こされた突風だ。その風速は、危うくアルバートが吹き飛ばされかけるような、それほどに強い突風。いや、近くに居た彼にとってはもはや衝撃にすら感じられた。それは会場の観客席をも揺らし、会場全体―――いや、会場そのものを、震動させた。

 

『リング内の基準魔力値オーバー。

 リング外周保護フィールドの強度をエマージェンシーレベルに強化します。

 セコンドおよびレフェリーは、衝撃余波に注意してください』

 

「っ! リング内基準を上回る魔力・・・・・・だと!?」

 

 アルバートが驚愕するのも無理はない。何せ、リング内の基準魔力値オーバーとはつまり、次に放たれる一撃が観客やレフェリー、セコンドにすら大きな影響―――魔力余波による怪我を与えかねない魔力値が叩きだされた時に、発令される。

 

 究極的に言えば、これは次に放つ一撃が決め手だと意味しているのと同義なのだ。

 

「全力で、敵をブッ飛ばし、俺に勝利をもたらせ!」

 

『(その言葉、待ちかねていました!)』

 

 もはや、誰の間にも言葉は要らない。

 

 視覚と平衡感覚を失ったラプターは、ただその行く末をオーディンに一任した。託した。オーディンも、その信頼に全力で答えようと、圧倒的な魔力を放出し続けている。

 

 残り試合時間、15秒。

 

 誰もが固唾を呑む中、ラプター、いやオーディンが、ようやく破砕音と共に地面を駆けたのだった―――。

 

『(全ては我が主人に、勝利をもたらす為に!)』

 

 最初で最後の、短い第三試合第一Rの本番。どれだけの衝撃が走ったか、数え切れない。どれだけの震動が起こされたのか、それも分からない。

 

 ラプター・プルートとそのデバイス〝オーディン〟と、都市本戦第五位の実績を誇る、アルバート・メイソン。三人の僅か十五秒ばかりの最終決戦は、強烈の一言に尽きた。

 

 もはや、これが世界代表戦の決勝戦のクライマックスであるかのようにさえ、感じられた。

 

 攻防は一進一退だった。どちらもその15秒に、余力を残そうなんて気は一切無かっただろう。何せ、あの知能派のアルバートですら、魔力を惜しむことなく全力を振り絞り、応戦していたのだから。

 

 二人はどちらも笑っていた。その試合がきっと楽しかったのだろう。好敵手、と戦える喜びを味わったのだろう。

 

 実に、長く感じられた15秒。実際には短いが、観客の誰しもには、それが3分にも5分にも、もっと長い時間にも感じられるような、強烈極まりない、熱い闘い。

 

 観客のほぼ全員は思った。この試合に、勝ち負けをつけてはいけないと。

 

 熾烈を極めたその闘いの最期は、魔力による光の柱がリング全域を包み、その中から一人を排出する形で迎えた。

 

 しかし、勝者と敗者は自然と決まるものだ。

 

 どれだけ、誰が願おうとも、それは決まってしまう。

 

 勝敗の行方は、勝利の女神は、果たしてどちらに微笑んだのだろうか。

 

 壁に叩き付けられた、選手の周りを覆っていた土埃が、今晴れる。

 

 同時に、リングを覆っていた魔力の柱も、消えた。

 

 そして、結果が今、表示された。

 

『ラプター・プルート

 DAMAGE 17620

 LIFE 0

 クラッシュエミュレート:内部器官一部破損 昏倒』

 

 会場内が、一瞬、沈黙に包まれた。そして誰もが、アルバートの勝利を確信したと同時に、それを称えようと拍手喝采を送ろうとした直後、それは映った。

 

『アルバート・メイソン

 DAMAGE 19020

 LIFE 0

 クラッシュエミュレート:肋骨全骨折 昏倒』

 

 それを合図に、会場に居た誰もが、時間が止まったように感覚に陥った。

 

 壁に激突していたのは、後から気付いたのだがアルバート。そして、リングの魔力の柱の中に居たのは、そこに仰向けに倒れているラプター。

 

 お互いのライフはゼロ。同時に、お互いに意識が無い。

 

 これはつまり―――

 

『ひ、引き分け―――引き分けだぁぁぁ!』

 

 解説者の声が響いて数秒後、わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! と会場全体が震動するほどに沸いた。両者の闘いが素晴らしかったからこそ、沸いた歓声だ。

 

『今、死闘を繰り広げた、上位選手、アルバート選手と、スーパールーキー、ラプター・プルート選手が、タンカーに運ばれ退場します! 皆さん、最後に今一度、この熾烈を極め、素晴らしい闘いを繰り広げた彼らに、拍手喝采をお願いします!』

 

 再び、会場が揺れた。それは会場に居た全員の心が一つになり、それが形になった揺れだ。つまり、皆の歓声だ。

 

 そんな歓声に見送られながら、気絶したアルバートとラプターは運ばれていく。二人のセコンドも彼らに付き、退場する。

 

 その後、この会場に居た誰もがこの話をした。

 

 子ども達の中の噂に。ライバル同士の語らいに。そして酒の肴に。この激戦は、その熱を残した。

 

 こうして、二組第一試合、アルバート・メイソンとラプター・プルートの試合は、幕を閉じたのだった。




 最初にまず一言。

 UA2200突破! お気に入り数30に達成しました! 皆様のご愛読、誠に、誠にありがとうございます!

 この回からいよいよ、インターミドルらしい動きに入りました。色々と忙しくて更新が遅れてしまいましたが、その点に関しては前回のあとがきにて理由を書いておりますので、ご了承願えればと思います。
 ただ、更新遅れたことは事実です。それについては、本当に、申し訳ありませんでした。しかし、これからも恐らく、このような事態が続いてしまう可能性があります。その時はまたご愛読者様を待たせてしまう、非常に失礼な状況になってしまいます。誠に恐れ入りますが、その時はどうか暖かい目で見守っていただければと、そして祈っていただければと思います。「更新早く完了してくれ!」と。

 と、長々と長文を失礼いたしました。

 これからはどんどんインターミドルらしい動きに入ってきます。つまり、インターミドル編の醍醐味ともいえる部分になります!

 更新が遅くなった分は、内容で補わせていただきたいと思います! どうかこれからも、この拙い二次創作者の応援を、よろしくお願いいたします。

 それでは、感想、批判、コメント、ご指摘などをお待ちしております。感想は嫌だという方がいれば、メッセージにて送っていただいても構いません。必ず、返信いたします(システムの不都合でお返しできない場合はご了承を)。

 それでは、本当に長くなりましたが、次回にまた、お会いしましょう。
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