叶わぬ願いⅩ   作:チャンプルン

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Last Prolog:さようなら

「でなぁ、ヴィータが―――」

 

「ちょ、はやて! その話はやめて別の話題にしようぜ!」

 

「いやいや、俺は結構興味があるな~?」

 

「テメエ・・・・・・退院したら絶対にブッ飛ばす!」

 

「はっはー! 出来るならやってみろ!」

 

 相変わらず賑やかな病室だ。その中でははやて、ヴィータ、ラプターがいつも通り会話をしていた。ここ一週間、これといって何事も無く、ラプターはいつもの様にはやて達と親交を深めていた。

 

「よしっ! 退院したら絶対にザフィーラとどっちが硬いか、シグナムとアタシで攻撃し続けてやる!」

 

「え、なにそのザフィーラ死刑宣告。ザフィーラ可哀想だからやめね?」

 

 流石にこの時ばかりはザフィーラが可哀想になり、思わずザフィーラをフォローする。いくら盾の守護獣といっても、サンドバックにするのは可哀想というものである。

 

「じゃあザフィーラ抜きでテメエの耐久度をチェックしてやる! アタシとシグナム、あとなのはとリインの四人でな!」

 

 あ、ザフィーラ巻き込んだ方が生存率高かったかもしれない。などと思ったことは、ザフィーラには秘密だ。絶対にバレてはいけない。

 

 てか、その前に―――

 

「ま、待て。俺、流石にAAA越えを四人も同時に相手できねぇよ?」

 

「猫被ってんじゃねぇ! ユーリをバインド一つで追い詰めるような芸当出来る奴が、たった四人で文句言ってんじゃねぇ!」

 

「いやそれおかしいからな!? エンシェントマトリクスとかあれ意図的に食らったけど死に掛けたからな!? 一歩間違えたらお兄さんミンチになってたからな?」

 

「それだけ耐久あるなら上等だ! タコ殴りにしても大丈夫そうだな」

 

「はやて、この赤いの止めてくれ! 俺がそろそろ挽肉になって肉屋に売り出されそうだ結構マジで!」

 

「ヴィータ、駄目やで」

 

 と、はやてに助けを求めてようやくはやてがたしなめてくれる。ヴィータは「はやて~」と甘えた声を出しているが、流石にものには限度というものが―――

 

「そう言うことなら、ウチや王様、あとユーリも混ぜなアカンやろ。あとフェイトちゃんと。いっそ、女性陣VS男性陣、って勝負してみたいと思うんや」

 

 ごめん、ユーノ、クロノ、ザフィーラ。君たちの犠牲は忘れない。というか、止められなくて本当にごめん。多分、みんなフルコッパになるだろうなぁ・・・・・・特にユーリによって、などとボーッとしていると、ハッ!? と我に返って流石にそれは訂正を要求しなければ本気で死にそうなので、訂正を入れる事にする。

 

「待て待て待て! せめてユーリ外してくれ! てか、ユーリ一人だけでも男性陣全員で勝てるかどうか分かんねえんだぞ!? そもそもユーリとか男性陣に倒せる奴いねぇよ! 俺のバインドでも十数個付けてようやく止まってくれるような化け物なんだぞ!?」

 

 そして最近思う。よくあのバインドで拘束されて、ディアーチェのジャガーノートをクリーンヒットして蒸発していなかったなぁ、と。改めてその時の記録を見せてもらったが―――うん、ディアーチェのジャガーノートはパワーがおかしい。食らったら非殺傷設定でも気絶は免れない・・・・・・!

 

「あ~、じゃあユーリは無しでえぇよ。その代り、その他女性陣全員VS男性陣や。これで文句ないな?」

 

「いや、正直文句しかねぇよ! 人数的にも合計魔導師ランク的にも圧倒的に俺らが不利だろうがそれ! こっちは俺とユーノとクロノとザフィーラだけで、そっち何人いるんだよ!? てか、これって明らかにシュテルやレヴィも加わるって落ちだよな? だとしたらそっちは最強の砲撃魔導師二人に、広域殲滅型の魔導師三人、神速二人にフルバック一人の上に万能型二人だよな!? 人数どころか実力合計すら合ってねえんだよ! しかも俺達に全て悪い方向で! あれか? リンチか? 公開処刑か? 俺達を殺す気か!?」

 

 ちなみにレヴィやシュテルとは、数日前にディアーチェが連れてきた、ディアーチェと同類のマテリアルというプログラム体らしい。

 

 余談だが、アースラの面々のほぼ全員とラプターは会っている。そのたびにお礼を言われたのは―――本当に、嬉しかった。

 

 しかし! しかし、だ。

 

 話を戻して、まず、敵の戦力を分析してみようではないか。

 

 高町なのは:砲撃魔導師にして魔導師ランクAAAという超エリート。バインドからの集束砲という洒落にならない即死コンボの持ち主であり、また砲撃をほぼ無尽蔵に打ってくる城塞のような魔導師。戦闘経験はそこそこあり、接近するのはそれなりに困難。空戦魔導師として非常に優秀であり、次期管理局のエースとも噂される。

 

 フェイト・T・ハラオウン:近接型のインファイターかと思いきや、中距離や遠距離もこなせるオールラウンダー。とにかく速度が馬鹿みたいに速く、視認するのが少々困難。戦闘経験はなのはより少し上。速度を重視している為か、装甲は紙だが、攻撃力も高い為、奇襲がとにかく侮れない。また、雷の魔力変換資質の持ち主。

 

 八神はやて:最近覚醒したばかりの魔導師だが、実は女性陣の中で二番目に(一番はユーリ)魔力総量の多い少女。夜天の書などというロストロギア認定されるような代物の保有者であり、ヴォルケンリッターの長。広域攻撃魔法をとにかく得意としており、当たればまず再起不可能。なのはと同レベルの砲撃魔法も打て、更になのは、フェイト、はやての三人が合わさって砲撃魔法を繰り出すと―――トリプルブレイカーなどというトンデモ技になり、そもそも防御するのが不可能なレベル。このトリプルブレイカー、恐らくユーリのエンシェントマトリクスと同格。

 

 シュテル・ザ・デストラクター:なのはと同じ砲撃魔法を得意とし、レアスキルに炎の魔力変換資質を持つ。実力はなのはと同格。とにかく砲撃が得意で、近接でも砲撃魔法ぶっぱしてくる恐ろしい子。なのはと合わさるともはや悪夢でしかない。また、知識のマテリアルであり、戦略においてこの上なく厄介な相手でもある。

 

 レヴィ・ザ・スラッシャー:フェイトと実力はほぼ同じ。雷の魔力変換資質を持ち、またフェイトと同じスピード型。第一印象アホの子で、戦闘では直感で動くタイプ。また、勘が鋭く、危機回避に対して有能。スピードはフェイトと同じ。とにかくスピード特化。それでいて攻撃力も高いが、装甲がフェイト同様紙。二人で奇襲とかされたらまさに悪夢。力のマテリアルであり、フェイトより若干火力が高いかもしれない。

 

 ロード・ディアーチェ:マテリアル、シュテルやレヴィたちの王。ちなみに盟主がユーリ。はやてと同じく広域攻撃型の魔導師で、言うまでもなくジャガーノートとか範囲広すぎる上に攻撃力絶大。夜天の書とは違う紫天の書を持っており、こちらもはやてと同格の魔力を保有する。はやてと同時に魔法撃たれたら、諦めるしかないと思う。

 

 烈火の将・シグナム:剣術を得意としており、近距離から中距離をこなす近接戦闘型。その剣術は見事の一言に尽き、まさに剣の達人。ついでにバトルジャンキーの節があり。強い相手と戦うのは何気に生甲斐としている模様。とりあえず、近づいたらまず苦戦する相手。ただし、中途半端に距離を開けると隼という弓を取り出され、射抜かれる。戦闘経験は他の比ではなく、速さでは劣るも1対1であればフェイトに勝てる。

 

 鉄槌の騎士・ヴィータ:メイン武器は鉄槌で、破壊力抜群。まず腕で防御したら腕が砕けるので、極力攻撃を避けなければならない。こちらも近距離から中距離型なのだが、シグナムと違い魔力弾を使用する。それも、鉄球の実弾であるため、まともに防御したらまず間違いなく骨にヒビが入る。近接型馬鹿力であり、必殺技はその鉄槌を何十倍にも質量を大きくして敵に叩き付けるというパワー馬鹿。とにかく、攻撃を避けなければこちらの命が危ないタイプ。

 

 湖の騎士・シャマル:完全な後衛型で、回復と結界魔法を大得意としており、そちらのスペシャリスト。また、必殺技はリンカーコア抽出というエグイ技で、これをやられると魔導師として復帰できるかどうかさえ怪しい大変危険な技。食らえば即KOなのは言うまでもなく、だからこそずっと後衛だと思っていてはいけない相手。また、転移魔法も得意らしい。

 

 祝福の風・リインフォース:ラプターが救った夜天の書の管理人格であり、現在ははやてのユニゾンデバイスとして活躍。ただし、単体戦力だけで普通にユーリ以外の全員中最強であり、近距離から遠距離の全てで戦う事が可能。殴り合いも出来れば広域攻撃魔法や砲撃、バインドも出来、魔力保有量は軽くはやてを超越。魔力弾形式のブラッディダガーという魔法は鋭い上に出が早く、速度も速い上に魔力消費も少ないし威力も高いというおかしな魔法を持っている。正直、これ一人に勝てるかどうかすら怪しい。また、はやてとユニゾンしたら手に負えない。また、戦闘経験はシグナムやヴィータと同格かそれ以上。

 

 

 と、ざっとこんな感じである。

 

 ―――こ・れ・は・ひ・ど・い!

 

 うん、素直にそう言いたい。これに対して男性陣はというと―――

 

 ラプター:基本近距離専門の魔導師。保有魔力はそこまで多く無く、良い所でAといったところ。切り札は無限連環機構という、ユーリの動力源である永遠結晶エグザミアとほぼ同じような効果を持つもので、発動すればかなり強いのだが、そもそも相手が多人数過ぎると発動させる時間を与えてくれるかどうかすら怪しい。必殺技はバインドという地味な技のグレイプニールだが、能力はとてつもなくエグイ。何十と重ねれば、ユーリも抑える事が可能。他の者に使えばほぼ一撃必殺といっていいのがこのバインド。ただし、バインドに気を付ければいいだけの話だったりもする。

 

 ユーノ・スクライア:後衛型魔導師であり、回復魔法や結界、バインドを得意とするトラップ型魔導師。戦闘経験はなかなかにあり、自分を結界に包みながら敵に突撃して爆発、などというエグイ技ももっている。その結界の強度はなのはの砲撃にも耐えうるほどで、結界張れば砲撃魔導師一人相手のみなら無双出来る程の実力の持ち主。ただし、今回は敵が多すぎる為にそれが腐る。

 

 クロノ・ハラオウン:フェイトと苗字は同じだがどうやら義兄妹とのこと。実力は高く、大威力攻撃はないもののバインド、直射型砲撃、魔力弾といった技に長けており、こちらもいってしまえばトラップ型魔導師。フェイトやなのは相手なら二人同時にでもギリギリ勝てる実力を誇るが、そこにはやてが加わると流石に無理ゲーだというのは察してほしい。必殺技はエターナルコフィンという破格の威力の技なのだが、威力が高すぎて相手を殺してしまう危険があるので現在は封印中。戦闘経験はヴォルケンよりは下だが、なのはやフェイト、ユーノに比べれば圧倒的に上。その為、戦闘での立ち回りは非常に上手い。

 

 盾の守護獣・ザフィーラ:狼やガタイの良い男になったり忙しい人物。盾の守護獣の異名は伊達では無く、なのはやシュテルの砲撃魔法でも落とすことは出来ない、徹底的なタンク。はやてやディアーチェ相手には流石にきついが、それでも一人だけなら耐えうることが出来る。必殺技は鋼の軛で、威力はなかなか。補助系の魔法にカテゴライズされる筈なのに何故か攻撃魔法というふざけた魔法で、敵を串刺しにしてその後に欠片を爆散させて敵を徹底的に傷つけるという、実戦ではものすごくエグイ技。メイン盾の筈なのに何故、このようなエグイ攻撃魔法を持っているのかは謎。

 

 

 確かに、みんな強い。うん、これはかなり良い戦力だと言える―――うん、普通ならそうだった。相手が、こちらの倍以上もいなければ。同人数なら、普通に勝てた。うん。ユーリ以外で同人数なら、勝てる見込みがありました。

 

 しかし! 今回敵は倍以上の人数でこちらを殺りに掛かってくる! 正直に言おう。詰んでいると。男性陣に一番足りないのは決定力だと、そう叫びたい。ちなみに、ユーリがどちらかに加わるとその時点で勝利が確定したりする。

 

「・・・・・・よし! 俺はもう退院しない!」

 

 これがユーノやクロノ、ザフィーラの為だ。よかったな、一人が犠牲になって、お前達は救われた。

 

「それ、アースラの人からしたら迷惑この上ないで」

 

「あ、はい。そうですね」

 

 ごめん、みんな。正論には勝てなかったよ。公開処刑、もう覆せないや。

 

「いやぁ・・・・・・みんなの戦闘記録とか今更になってマジで見るんじゃ無かったと思ったわ。あの時の自分を眠らせたいなほんと」

 

 人数的に既にリンチ確定なのだが、それでもまだ試合の前、までは恐怖が和らいだ筈だ。何だか、もう本気で退院が嫌になりました。センセー、退院したくないでござる。

 

「いやぁ、ほんと、退院楽しみにしているぜ、ラプター」

 

 ものすごい悪人面でヴィータが言ってくる。おかしい。普段はあんなに可愛いロリっ娘なのに、何をどうしたらこんな悪人面になったんだ。お兄さん、訳がわからない。

 

「こらこらヴィータ、そんなに脅しちゃアカン。ラプターが本当に鬱病とかで退院出来んくなったら、それこそ大変や」

 

 おぉ、はやて。ようやく心配をしてくれるのか。何だかいろいろ手遅れな気がするが、それでも嬉しいぞ!

 

「そんなことしたら、集団戦による正式なボコ出来んくなるやろ!」

 

 ダメだこの子。何処で教育間違えているんだろう? 九歳にしてこの発言。本当に将来が心配過ぎる。いや、というかもう手遅れな気もするなぁ~。責任者出てこい。グレイプニールで一日拘束してくれる。

 

「ラプター、我らが見舞いに来てやったぞ」

 

 と、入ってくるのは王様たちことマテリアルズ+ユーリだった。つまり、ディアーチェ、シュテル、レヴィ、ユーリの四人である。と、何故かついでに後ろからはシグナムとシャマルの姿も見える。

 

「やっほー! ラプター元気~?? 王様やっぱり世話になったからって、再び参上!」

 

「ご無沙汰しております、ラプター」

 

「こんにちは、ラプター」

 

 と、元気な声はレヴィ、礼儀正しいのはシュテル、挨拶をしたのがユーリだ。

 

「あぁ、毎日悪いな。―――てか、最近気付いたんだけど、見舞いに来る人数が日に日に多くなってる気がするんだが」

 

「まぁ、お前には此処に居る誰もが世話になっているからな」

 

「そうですよ~。みんな、ラプター君に感謝しているんですよ」

 

 奥に居たシグナムとシャマルが前へと出てくる。ザフィーラの姿が見えないが、恐らく留守番をしているのだろう。八神家のガードは今日も完璧と見た。

 

「いや、それは本当に嬉しいんですけど、何だかなぁ・・・・・・」

 

 男性陣の比率が少なすぎて圧倒的に居心地が悪いであります。というか、そのせいで公開処刑になりそうなわけだし。

 

「コホン。ヌシには迷惑を掛けたからな。今日も、我が腕によりをかけて栄養たっぷりの食事を作ってきてやったぞ!」

 

「おぉ!!」

 

 実は、それが一番嬉しかったりする。何故なら、ディアーチェの料理は栄養バランスだけでなくとにかく美味しい。料理初めて間も無いとは思えない程に美味しいのだ。食は人生の中での楽しみの一つ。だからこそ、ディアーチェの料理は本当に毎日楽しみにしている。それとどうやら、ディアーチェたちはこのアースラの中で生活しているらしい。

 

「じゃあ、食堂に移動するか」

 

「あ、それならウチらもそろそろ昼時やし、家に帰るね」

 

「ほいほい。また何時でも来てくれよ――っと、俺も」

 

 そう言って、ベッドから降りようと床に足をついて、重心を傾けて足に力を入れる、まさにその瞬間だった。

 

「のわっ!? ぐべっ!」

 

 ゴンッ! と思い切りタイルに向かって顔面からダイブすることになった。何故だか分からないが、足に力が入らなくなっていたのだ。ちなみに、鼻は折れていないので大丈夫。

 

「・・・・・・うん、人生ヘルモードだと本気で自覚した」

 

 足に、力が入らない。腕には力が入るのだが、それでも足に力を入れる事が出来ない。動かすことさえできやしない。

 

「ど、どしたん!?」

 

「だ、大丈夫か!?」

 

 帰ろうとしていたはやてが、食堂へと向かおうとしたディアーチェが、驚いたように声を少し荒げて聞いてくる。

 

「いや、何。足に力が入らんというか、足の感覚無いわこれ。うん、多分これ早いうちに心臓まで麻痺して死ぬパターンだと予見した」

 

「えっ!? ちょっと見せてちょうだい!」

 

 冗談半分に言って心配させないようにしたのだが、シャマルは驚いたように、何か焦りを浮かべてラプターへと詰め寄ってすぐに足の検査を行う。

 

「これは・・・・・・」

 

 やっぱり、と呟いて、シグナムたちの方を向いて頷くと、ヴォルケンリッターの皆は何があったのか分かったように、首を縦に振った。

 

「うん、何故だか知らんけど腰辺りも動かなくなってきてるんだけど・・・・・・というか、感覚が無くなってきてんだけど」

 

 ラプター本人は至って冷静を装っているが、その頬に流れる冷や汗は本物だった。

 

「ラプター君、ごめんなさい、ごめんなさい! 本当に、ごめんなさい!」

 

 シャマルがラプターに向けて、本気で、涙を浮かべて謝罪をする。それを見て、ラプターは「あ~」と何があったのか分かったのか、そこで力の無い笑みを浮かべた。

 

「うん、まぁ、分かってた。この危険も無きにしも非ずと思ってたし。うん、まぁ、そりゃ9割方この時点で人生詰んでるよね。うん、流石人生ヘルモード。鬼畜過ぎて逆に笑えてきた。あれでしょ? ナハトヴァールの副作用みたいなもので――というか、闇の書のあれがそのまま残ってるんでしょ? 蒐集しなきゃ持ち主を体麻痺らせて殺すよ~、ってやつ。うん、全部分かってて承知の上だから。俺の生き残れる確率って、実際一厘残っていたらいいな~、程度だったし。ほらほら、みんな落ち込まない。というか、ほぼ赤の他人なんだから泣く必要なし。助けたのに不幸になってもらっちゃ、俺が死んでも死にきれない」

 

「で、でも・・・・・・」

 

「アレだ、つまり、俺なんて別に忘れてオッケー。というか忘れて。あと、俺に本当に悪いと思っているなら、ちょっと此処の艦長の所まで連れてってもらって大丈夫?」

 

「何か用が、あるんか?」

 

「うん、最後の賭け。どちらにしろ死ぬのなら、後腐れなくしないといけないし、じゃないとリインフォースがまた危ない。うん、これ実際生存率3割ほどまで上げる策なんだよね。いや、一厘から三割とかマジお買い得。しかも一人は絶対助かる訳だから、これほど美味しい話はないわ」

 

 あまりにも平然としていて、本当に死んでしまう人間の声、顔には見えなかった。まるで世間話をするように、本当に気楽に話している。

 

 それは、はやてやヴォルケンリッターの守護騎士、そしてここには居ない管理人格に気を遣っていると、誰もが分かった。みんなが何か気負いしない為に、わざと明るく振る舞っているのだと。

 

「いや~、というかマジ頼む。急がないと、時間がマジでない。恐らく余命あと一日あるかな、って感じ。うん、俺こういう時の勘が外れた事ないんだよな。自分の悪い方向へと向く勘は何時だって当たり。同じ当たりでも、宝くじの方が何倍も嬉しいのになぁ・・・・・・」

 

 それはある意味での、自身の死亡宣告だった。この状況下でそれを言えるのは、よく言えばポジティブ、悪く言えば狂っている。自分の死に対してここまで明るくなるなど、常人にはまず出来ない事だ。

 

「おい、ラプター。貴様、まさか本当に、死ぬ気ではなかろうな!?」

 

 声を荒げて、ディアーチェが聞いてくる。それにラプターは「うーん」と少し悩んでから、そしてもう一度、力無く、笑った。

 

「うん、ごめん。正直助けた時から、こうなることは覚悟していたし、助けた時から死ぬつもりだった。まぁ、また生まれ変われると思うしいいか~、程度に思っていたんだけどね。だって、ほら。俺達元は赤の他人。あのとき死ぬなら、きっと誰も悲しまなかったんじゃないかな。いや、多少悲しみはしたかもしれないけど、それはどっちかっていうと哀れみだろ? 同情だろ? 信頼できる者、家族とか友達を失った悲しみとはまた別だろ? だから、あの時は自分への労いを含めての〝おやすみ〟だったのになぁ・・・・・・こんなにしぶとく、生き残っちまった。まぁ、あれだ。これからは結果的に平常運転だ。今までが逆に異常だったんだよ。ちょっと知り合い助けたくらいで、こんなに仲良くなっちまって。普通こういうのって、〝助けてくれてありがとう、それじゃバイバイ〟程度に思っていたからなぁ・・・・・・」

 

 ハハハ、と乾いた笑い声が聞こえる。ラプターの目には既に生気が宿っていない。生きる意志が、そこには存在していない。これではまるで、生ける屍だ。

 

 パチン! と、乾いた音が聞こえる。それも二回続けて。

 

「っ、ちょっと、効いたな」

 

 左頬を擦るラプター。その隣には、瓜二つの二人が、憤怒の表情を浮かべて君臨していた。

 

「愚か者! 我らの事を考えるのは良いが、貴様が、貴様が生きる事を諦めてどうするのだ!? 救われた方の身にもなってみよ! まだ恩義を果たせていおらんというのに、先に逝かれたら、どれだけ、後味が悪いか・・・・・・!」

 

「王様の言う通りや! 第一なんやねん、〝助けてくれてありがとう、それじゃバイバイ〟? ウチらはそんなに薄情やない。家族の命を救われてるんよ? そんな薄情に何て、少なくともウチはなれん。そして恩を返せないまま逝かれるのは、本当に後味悪いんよ? 救われた側になって、少しは考えてぇな」

 

「・・・・・・あ、うん。だな。確かに、後味最悪というかなんか強迫観念に囚われかけた。あれ、俺こんなにメンタル豆腐だったのか? あー、何だかな。てか、生存率・・・・・・ううむ、ううむ、うぬぅ・・・・・・」

 

 納得したような表情をすると、再びその目に生気が、生きる意志が戻った。そしていつも通りのラプターに、ちょっと今回は本気で悩んでいるが、いつも通りのラプターが、戻ってきた。

 

「あ~、うん、アレだ。もう死亡フラグ建築とかゴメンだから約束とかは絶対にしたくないんだけど・・・・・・」

 

「それぐらい圧し折ってみせよ!」

 

「せやな。圧し折る勢いでいかな、生き残れる訳があらへん!」

 

 見事に論破される。あぁ、本当にどうしよう。これほどプレッシャー与えられたことって、過去に三度くらいしか無い気がする。あぁ、本当に不味い。何だか、プレッシャーが超重い。

 

「う、うぐぅ・・・・・・分かった、約束する。絶対に生きて帰るって。もちろん、ナハトを連れてな」

 

「あぁ、約束だぞ。破ったら、あの世でたっぷりと―――ジャガーノートをずっと撃ち続け、獄門の刑にしてくれるわ!」

 

「王様、それ協力するで。ウチのラグナロクと組み合わせれば天下一や」

 

「子鴉、もしかして初めて意見が一致したのではないか?」

 

「王様こそ」

 

「・・・・・・何だか、地獄の鬼すら泣いて逃げそうな構図だ」

 

 ラプターの言葉に、はやてとディアーチェ以外の全員が賛同する。地獄よりも地獄絵図、とは。死んでも安息訪れない。酷過ぎる。魂が蒸発しそうだ。ここで生きて帰ってこれなければ、次、絶対に生まれ変わることが出来ない気がする。

 

「あ、とりあえず、レヴィ。俺をリンディさんの所まで運んでくれないか?」

 

 力のマテリアルレヴィであれば、その程度朝飯前だろう。レヴィも、それくらいであれば承諾してくれる筈―――

 

「うーん・・・・・・今回は、二人に譲ろうかなぁ。ラプターのすることが分かるから、やっぱり、ね。ほら、二人に花を持たせてあげたいじゃん」

 

 少し使い方が違う気もするが、意味は通じた。だからこそ、ラプターも無理強いはしない。

 

「・・・・・・分かった。頼めるか? はやて、ディアーチェ」

 

「任せよ!」

 

「任せとき!」

 

 二人の肩を借りて、立ち上がる――というよりは、持ち上げられる。少し不格好で、格好悪いのだが、二人に良い恰好をさせる為だ。それも甘んじて受けようではないか。何せこれが、最後になるかもしれないのだから。

 

 

                                     ◆

 

 

「簡潔に言うと、闇の書の防衛プログラム、ナハトヴァールによる汚染が、予想以上に進んでいるんです。このままでは、今日明日中にラプター君は―――死に至り、再び、防衛プログラムが暴走します」

 

 シャマルがラプターの状態を簡潔に伝えると、リンディは納得したように頷き、ラプターに訊いてくる。

 

「それで、貴方はどうしたいのかしら?」

 

 そう。ここではまだ、ラプターの意志が尊重される。あまりに危険だったり、周りに被害が出れば却下されるが、提案する権利と選ぶ権利は与えられている。

 

 レヴィは既に分かっているようだが、他の皆は彼が何をしようというのかが分からない。だからこそ、次に発言したその言葉が、全員を驚愕させた。

 

「自分がナハトを浄化できなければ、アルカンシェルで、俺諸共ナハトを消してください」

 

「なっ!? 何を言うておるのだ貴様は!?」

 

「そんなことしちゃアカン! 考え直すんや!」

 

「二人は黙っていて。これはラプター君の権利なのだから」

 

 リンディに言われ、はやてもディアーチェも食い下がることは出来ず、引き下がる。

 

「具体的なプランは?」

 

「まず、かなり長いケーブルで繋いだ、アースラとは別の・・・・・・小型の、そう。救命ポッドのような奴に俺を入れて、宇宙に投げ出し、アルカンシェルの軌道上にそのポッドを置いてください。そしてポッドには簡単な仕掛けで良いです。それと付けてほしい。具体的には、シグナルや信号を、アースラに送る仕掛けです。成功か失敗か、その仕掛けで送ります。成功すればこちらを回収、失敗すればアルカンシェルを迷うことなく、撃ってください。もし信号が10分以上来ない場合、または状況がおかしいと思った場合は、迷わずアルカンシェルを撃ってください」

 

「・・・・・・確かに、それが妥当、かしらね」

 

 リンディが納得したように頷く。他の皆は、ただ結論を緊張しながら、待っていた。最終決定権はリンディがもっている。だからこそ、行動するには最終的に彼女の承諾が必要なのだ。

 

「・・・・・・分かったわ。そのプランでいきましょう」

 

 恐らく、もっと良い手はないかと考えていたのだろう。しかし、見つからなかったからこそ、ラプターの最初の意見を承諾した。

 

「ありがとうございます。生存率三割、何としてももぎ取って見せます」

 

 ラプターの言葉には、固い決意が込められていた。絶対に生還するという、決意。それが力強く、込められていた。

 

「準備まで、一日だけ掛かるわ。それまでは何とか、持ち堪えてちょうだい」

 

「えぇ。試す前から崩壊なんて、しませんよ」

 

 それにしても、よくもまぁ、こんな運命受け入れたものだと、自分でも思ってしまう。一週間くらい前の自分なら、明らかにこの運命に背いて居た筈なのに・・・・・・。

 

「まったく、俺も誰かのせいで、逞しくなったな」

 

 誰にも聞こえない小さな呟き。それはもちろん、誰に聞こえる事も無く、消えていった。

 

「それでは、今日はこれで解散とします。各自、やり残したことが無いように、してください」

 

 こうして、今日のミーティングは、解散したのだった。

 

 

                                     ◆

 

 

「ラプター、その・・・・・・なんて、言葉を掛ければいいか・・・・・・」

 

「・・・・・・ごめん」

 

「すまない。私たちが、力及ばないばかりに」

 

 クロノ、ユーノ、ザフィーラの順に話した。現在は病室のベッドの上で、ここで皆と話をする為に居たのだ。

 

「おいおい、暗すぎだっての。大体、生存率三割ってわりかしいい方だぞ? それに、お前達が責任を感じるようなことじゃねぇ。悪いのは、夜天の書を改悪したクソヤロウだ」

 

 それは分かっている。それは誰もが、分かっている事だ。だからこそ、やるせない。今そいつは既に生きてはおらず、存在しない相手に怒りをぶつける事は出来ない。心の中にある怒りのぶつけ所を、みんな決めかねているのだろう。

 

「まぁ、死んでも帰ってくるさ。じゃないと―――ディアーチェに、地獄でジャガーノート乱射されて、はやてにラグナロクを乱射されるんだ」

 

「地獄絵図だね」

 

「鬼も裸足で逃げ出すよ」

 

「生き残らなければ、もっと辛いぞ」

 

 見事に、全員から同情が飛んできた。しかも、別ベクトルのものが。やはり、みんな怖いのだろう。ジャガーノートとラグナロクのコラボが。そりゃそうだ。何せ、ラプター自身も恐ろしいのだから。

 

「まぁ、そう言う訳で、絶対に生還する。じゃないと、俺の来世が消え去る・・・・・・!」

 

 鬼気迫る表情で、ラプターが言った。三人はただ、それに同情する他無かったのだった。

 

 

                                     ◆

 

 

「あの・・・・・・本当に、ありがとうございます!」

 

「その・・・・・・私たちを助けてくれたり、リインを助けてもらって、本当に、ありがとうございます!」

 

 なのは、フェイトの順に今度は話が進む。

 

「よせよせ。終わったことだろ。それに、ユーリの方はディアーチェに言ってくれ。俺だけじゃまず、倒せなかった。決定打に欠けたからな」

 

「それでも! ・・・・・・ラプターさんがいたからこそ、勝てたんです」

 

「本当に、ありがとうございます!」

 

「ははは・・・・・・まぁ、ありがとよ。気持ちは受け取っておく。これが終わったら一度模擬戦があるから、その時にでも、手合せしようぜ」

 

「はいっ! その時は、全力全開で!」

 

「その時は、全力でいかせてもらいます!」

 

「元気でよろしい」

 

 ははっ、全く、何だか約束事がまた増えた気がするが、まぁいいか。帰ってきたらクロノ、ユーノ、ザフィーラ、覚悟しておけよ。

 

 

                                     ◆

 

 

「って、人数多いなおい」

 

 目の前には、はやて、ザフィーラ以外の守護騎士とリインフォース、それにディアーチェ率いるマテリアルズとユーリが居た。

 

「いやぁ、ちょっと女子会開こうと思うてな」

 

 公開処刑はお断りである。

 

「出て行けコラ」

 

「冗談やって」

 

 はやてがおどける。それはきっと、場の緊張感を少しでも和らげるためのものだろう。

 

「にしても、なんだかんだ言って、もう一週間も経つんだよな」

 

 ヴィータの言葉に、そうだなぁ、と懐かしそうにラプターが昔を思い出す。あんな気まぐれで、人生が180度くらい回れ左して、既に一週間。長かったようで、短かった。

 

「思えば、俺の人生ってあの時から、ヘルモード直行したんだよなぁ~」

 

 リインフォースを助ける為に、ナハトを吸収したその瞬間から、人生のヘルモードは始まっていた。何とも、笑えない話である。

 

「まぁ、これだけの出会いがあっただけでも、人生のヘルモード突入した甲斐があったってもんだよ。両親には悪いけど、これも俺の人生だ」

 

 そこで浮かべたのは、清々しい笑顔だった。全くもって清々しい。その表情に、迷いや悲しみは、一切混じっていない。

 

「・・・・・・どうやら、我らが心配する必要も無いようだな。恩義を尽くす時は、また別の機会にあろう。失礼した」

 

 ディアーチェはそう言うと、とっとと部屋から出て行ってしまった。それはつまり、ラプターを信用してこその行動。ラプターの頬が、自然と綻んでしまう。それを見て、全員が、同じことを思った。

 

「大丈夫やね。うん、今のラプターなら絶対にいける。だから明日は――頑張ってきいや」

 

 そう言い残して、はやてが退場し、他の守護騎士たちも出て行く。部屋に残されたのは、リインフォースとラプターだけだった。

 

「どうした、行かないのか?」

 

「・・・・・・いや、これだけは伝えておかないといけないと思ってな」

 

 リインフォースは言うと、真っ直ぐラプターの目を見た。その目に迷いは無く、また何か下心も一切ない。純粋に、何かをお願いする時の目だ。

 

「勝手なのだが―――ナハトのことを、よろしく頼む」

 

「あぁ、そんなことか。任せておけ」

 

 あまりに真摯なので、何かと思えば――少々、拍子抜けしてしまった。まったく、別に頼まれなくても、そのつもりなのに。

 

「まぁ、お前の気持ち分、生存確率何となく上がった気がするよ。四割程度にはな」

 

「ふふっ。それは良かった。それと、生き残ることが前提条件なのは、忘れないでくれ」

 

 それだけを最後に言い残して、リインフォースもはやての後に付いていった。

 

「生きて残るのが前提、か・・・・・・全く、全員して無茶いってくれる」

 

 でもやっぱり、心構えはそれくらいにしないと、生き残れるものも生き残れなくなる。

 

「ありがとう、みんな。明日は絶対、成功させる」

 

 まったく、前途多難な人生を突っ走り過ぎている。

 だけど、それも自分が決めて、選んで、納得して、突っ走った道だ。後悔は無い。あるのはただ・・・・・・未練だけだ。

 

「イクス、今頃どうしてるのかなぁ・・・・・・」

 

 自分の王の名を口にして、どうしているのかを考える。

 

「・・・・・・多分、いや、やっぱり今は俺こそが、必要とされているんだよな」

 

 最後の最後まで一緒だったからこそ、今の状況は何となくだが分かる。古代ベルカの高度な封印術式でも埋め込まれていたら―――それこそ、自分が必要になってくる。マジックシステムエンジニアとしての、自分が。

 

「どちらにしろ、前提条件は一緒だ。生き残りさえすれば、良い」

 

 そう、〝生き残りさえすれば〟いいのだ。ならば、手段もあるというものだ。

 

「人生ヘルモード、楽しんでいきますか」

 

 生還することは出来なくても、また会える日は、きっと来るだろう。彼女たちが管理局に所属しているのであれば、その可能性はより高くなる。

 

「おやすみ俺。明日はハッスルするぜ」

 

 それを最後に、ラプターは眠りに落ちる。明日に備えて、万全で迎える為にも。

 

 

                                     ◆

 

 

「それでは、準備は大丈夫?」

 

 リンディ提督が心配するように声を掛けてくれるが、ラプターは「大丈夫」と、即座に答える。

 

「まぁ、これはちょっと格好悪いけど」

 

 腰から下が全く動かないこの現状、はやてとディアーチェの肩を借りなくては、真面に歩く事さえ出来なかった。

 

「ふん、これくらい我らからしてみれば恩を返す一環に過ぎん」

 

「せやで。それに、困った時はお互い様や」

 

 生死を分ける事へ出向く前だというのに、全く、明るいものだ。ラプターも人の事は言えないが、それでもみんな昨日と比べて大分明るくなっている。

 

「出来る手段は全て使ってこい」

 

「生還しなかったら、一生恨むよ」

 

「あんな約束をした手前、まさか生還しなかったら、どうなるか・・・・・・分かっているよね?」

 

 ザフィーラが励ましの言葉を、クロノとユーノが怨嗟の言葉を掛けてくる。後者の二人も形は違うが、これも生還しろ、と励ましてくれている。まぁ、怨嗟の方は本物なのだろうが。

 

「おぅ。四対十の無理ゲーに参加するために戻ってくるわ。じゃないと、三対十のリンチになるからな」

 

 女性陣をチラッと見るが、大変良い笑顔である。ボコる気満々の顔だアレは。特に、ヴィータとシグナム、はやてがやる気に満ち満ちている。

 

「黄色いボタンが成功の時。赤のボタンが失敗の時、押すボタンよ。忘れないでね」

 

「えぇ、忘れません。選択ミスった瞬間俺の人生がゴールインするので」

 

 アルカンシェルの威力は知っている。正直、あれは対人に向けるような兵器では無い。対国とかに向ける兵器だ。撃たれれば最後、本気で死ぬ。というか、生存できない。肉片一つ残らない。もっと言えば細胞すら残らない。

 

「それじゃ、そろそろ良いか?」

 

「あぁ、適当にやってこい」

 

「それとこれ、ウチと王様で作ったお守りや」

 

 と、救命ポッドの中に入れられた後、はやてが二つの薬莢の首飾りを渡してくる。違いがあるといえば、薬莢に付属した羽の色が、黒一色か三色か、というところだけだ。

 

「生存率、五割までアップしたかもな~。こりゃ、生還しないとな。うん、頑張るわ。ありがとう」

 

 その薬莢の首飾りを二つ、首に掛ける。恐らくこれは、カートリッジシステムに使用するカートリッジだろう。それも、二人の魔力が限界まで圧縮されて詰められている。確かに、これはお守りとして十全の役目を果たしてくれることだろう。

 

「それでは、扉を閉めて、酸素供給を開始しますね」

 

 パタン、と救命ポッドの扉を閉められる。中は少し狭いが、それでも畳一畳ほどのスペースがある。これなら、広さ的にも十分といえる。俺も頑張らなければならないなぁ、と今更ながら、何度も反復して考えていると、通信機器から声が聞こえてくる。

 

『それでは、発進させます。少々揺れるかもしれないから、しっかりと掴まっておいてね』

 

 ガゴンッ! と瞬間的にだが激しい揺れに襲われる。なるほど、確かに揺れに襲われた。言われた直後なので、頭を打ちかけたが、そこは無重力に救われた。

 

 それから、一体何十分、経っただろうか。

 

『オーケー。アルカンシェルもチャージ完了。始めてください』

 

 抵抗オーケーの合図が出る。その瞬間、自分の全力を、これ以上は出来ないというほどの、抵抗をする。

 

「無限連環機構・起動」

 

 背中には、相も変わらず真ん中に二つの魔法陣と、〝魔力精製機構〟が四つ、〝制御機構〟が計十二という、自分の連環機構最大数の十八の魔法陣を形成する。

 

「オラオラ、そろそろ浸食やめやがれやナハトヴァール!」

 

 溢れ出るような魔力を感じながらも、自分の中に居るナハトヴァールは一向に従僕する気配を見せない。ならば、と〝制御機構〟のみを魔力で強化し、更に強力なものへと仕上げる。

 

「まだまだ、こっちは出力上がるんだぞアァ!? お前俺が人生ヘルモード突入しているのほぼ100%お前のせいだからな分かってんのかえぇ!? 悪いと思うなら大人しく服従しやがれ!!」

 

 口汚い言葉を使いながらも、テンションと秒間魔力精製量が上昇し、〝制御機構〟の力も増強されていく。あとはラプターの精神状態の問題なのだ。

 

「くっそ、どこのじゃじゃ馬だこりゃァよ! てか、まさか最初から弱ってた? 端から弱ってる? 弱ってるのに俺には服従するだけの力が無いとでもいうの? あ、今少しカチンと来た。うん、そうか俺には力がないか認めるけどざけんなクソが! あァ? 何か返事したらどうブベラ!?」

 

 久しぶりに、内臓への直接攻撃を食らった。自分でもどういう原理かは分からないが、ラプターの中のナハトヴァールは、ラプターのあらゆる部分を攻撃できるのだ。

 

「いってぇ・・・・・・返事するのは良いけど肉体言語やめにしね? じゃないと俺の体がちょっともたないんですけどグブ、ゴバァ!?」

 

 今度は胃、続けて肺に攻撃が来た。やばい、軽い嘔吐感が、何か、本当に嘔吐しそうだ。この二つの臓器、続けて攻撃されるとこんなに効果あるのな。覚えておこう。

 

「て、んめぇ・・・・・・絶対俺を殺す気ねぇだろコノヤロウ。俺殺す気ならもう最初の最初、吸収したところで殺せたよなァ? ゲフッ、ゴフッ、ガハッ、いや、肺はやめような。返事はいいけど臓器はやめよう。痛い、痛いから。暴力以外のコミュニケーションツールを作ろう。とか言っている間に制限時間残り7分かよコンチキショウ」

 

 馬鹿をやっている内に既に三分が経過。しかし、一番重要なことが、今分かった。遅すぎた気がするが、今分かった。

 

 つまり、ナハトヴァールにはそれなりの意志があり、またこちらを殺す気―――つまり浸食する気が端から無かったのだ。今までの威力から見て、殺そうと思えば、絶対に殺すことが出来ただろうから。なら、ナハトヴァール以外の力が関与していると見て、今はまず間違いがない。

 

「なるほど、な。本当に汚染されたままだから、浄化が最優先ってわけね」

 

 しかし、バックアップデータが無い事には、浄化の仕方が分からない。いや、それでもやるしかない。成功の為に。

 

「プログラム、すぐに解析させてもらうぞ」

 

 目を瞑り、自身の中のナハトヴァールのデータの解析を始める。瞼の裏に焼きつくのは、ナハトヴァールの大量の構造データの内容。別に、どこも怪しい部分は無い。量が膨大過ぎるので見るのに時間は掛かるが、今のところ、問題のプログラムは―――

 

「っと、まずこれか」

 

 そのデータだけをピックアップして、頭の隅に止めておく。それは、夜天の書と繋がっている限り、ナハトヴァールの所有者の体を蝕む、というプログラム。これは明らかに害だ。それ以外の何者でもない。

 

「これも、か」

 

 再び発見。今度は時間が経つにつれてリンカーコアを侵食される、というプログラム。あれ? つまり今の今までリンカーコアを侵食されていた・・・・・・? いや、作業に戻ろう。

 

 ここに入って来て、残り時間は五分。しかし、まだ膨大な量のデータは一割しか片付いていない。だからこそ、時間に間に合わせる為にもラプターは今ここで、ようやく魔力を割いてマルチタスクを行う。それも、思考を四分割して。

 

 そしてさっそく、三つ目の思考がデータの海から拾ってきた。防衛する、その手段を絶対に破壊、というものにしてしまうプログラム。害、これも害だ。

 

 そして二つ目の思考がデータの海から拾う。それは、夜天の書とナハトヴァールを、ギリギリのところで繋げているプログラム。最終手段として、これは切断して、魔力の配給源を別の場所に変えなければならない。

 

 一つ目の思考がまたデータの海から拾う。今度は妙なウイルスプログラム。それも、悪い形でバックアップされたデータに向けて、無限修正されるウイルスプログラムだ。これは後でバックアップデータを書き換えれば問題ないが、忘れたら致命的。頭の片隅に止めておく。

 

 続いてまた二つ目と三つ目思考がデータの海から異常なプログラムを拾ってくる。てか、四番目の思考、お前仕事しろ。働きたくないでござるとかいったら許さん。

 

『働きたくないでござる!』

 

 よし、四番目の思考は消滅させよう。居ても魔力を喰うだけだ。まさに親の脛齧り。などと本気で四番目の思考を消そうとしたとき、四番目の思考がデータを拾ってくる。

 

 それは、一番根柢のプログラム。つまり、システムの根幹。それの、汚染された形だった。

 

「っよし!」

 

 四番目、お前が一番の功労者だ、と掌返しをして、中心人格は送られてきたデータの処理を開始する。

 

「まず、細かいところから・・・・・・体の麻痺は根幹とリンクしているから不可能。まず、リンカーコアの浸食から・・・・・・うん、これならいける」

 

 リンカーコアを侵食するプログラムを書き換えて、リンカーコアを最善の状態に修復するプログラムにする。かなり細かい作業なのだが、本体の思考を八分割くらいすれば、何とか三十秒以内には処理できるレベルだ。

 

「えーっと、次は・・・・・・防衛の手段が破壊すり替わる・・・・・・破壊の部分を、魔力配給と身体能力強化と意識レベルの高上にでも書き換えて・・・・・・と、完了」

 

 現在、本体思考を十六分割して作業中。無限連環機構で膨大な量の魔力を秒間に供給されているから出来る事だが、素であればこのような芸当は無理だ。

 

 そして残り時間三分。やはりというべきか、サブのデータを回収するほうが追いついていない。まだ、四割程度しか終了していない。その為、そちらに魔力を割いて自分の能力の限界、百二十八分割して、作業を続行させる。今はもう、出し惜しみ出来る場合ではない。そして本体思考も、限界の六十四分割して回収されたデータの処理作業に当たる。

 

 しかし、こうなると後は時間との勝負になってくる。魔力消費の量は既に供給値を越えている。もって1分。それ以内に、どれだけ大量のデータを処理できるかが、勝負。

 

『働きたくないでござる!』

 

『働きたくないでござる!』

 

『働きたくないでござる!』

 

『我らはレジスタンス! 仕事の量の改善を要求―――』

 

 とりあえず、四つほどサブの思考を消滅させる。何をやっているんだあのバカ思考共は。と、そんなことをしているとその四つの思考が自動復活してデータを寄越してくる。どれも重要なデータばかり。でかした! と言いたくなるのは秘密。今は重要なのは、とにかくスピード作業。

 

 データが送られる。処理する。送られる、送られる、処理、処理、送付、処理、送付送付送付、処理処理、送付送付、処理、送付送付送付送付送付送付―――

 

 ヤバい、明らかにこちらの処理が追いついていない。すぐに気付き、サブの思考の半分をメインの方に移動させ、分割数を逆転させる。

 

 維持できる時間は、残り30秒。データ処理率、71%。残り時間、一分三十秒。

 

 状況は絶望的だ。根幹プログラムにはまだ一つも手を付けていない上に、データの海から回収できていない害悪プログラムはあと全体の中の3%以上は含まれている。―――いや、それでもやるしかないのだ。生還する為にも。

 

 処理、処理、処理処理処理処理、送付送付送付送付送付送付処理処理送付処理送付処理! 速い、とにかく速い。この処理速度、もしかしてスーパーコンピューターに届いているんじゃないか? と思う程に処理速度が速い。脳回路が吹っ飛びそうになるのを魔力で強引に耐えながら、何とか送られるプログラムを少し上回る要領で、処理をする。これならば、間に合うか!?

 

 維持出来るのは、残り5秒。データ処理率、89%。残り時間、一分五秒。

 

 しかし、未だに根幹プログラムに手を付ける事が出来ていない。このままではジリ貧だと思い、一度マルチタスクをメイン四分割、サブ八分割の状態に戻して、〝制御機構〟のほぼ全てを〝魔力精製機構〟に書き換える。

 

「ラストスパート、三十秒に賭ける!」

 

 それでも、その間に処理は行う。しかし、処理速度は圧倒的に落ちている。〝制御機構〟は、実を言えばマルチタスクで分割された思考を制御するためのものでもある。だからこそ、大量のマルチタスクには大量の〝制御機構〟が、絶対的に必要になってくる。しかしそうすると、今度は魔力の精製が追いつかなくなる。だからこそ、此処は時間が無いと分かっていても、敢えて魔力精製の方を優先させる。

 

 処理速度は、本当に遅い。残り時間50秒の時点で、まだ90%しか処理出来ていない。それでも、まだ自分には、奥の手がある。脳みその都合上、二十五秒しかもたない、最終手段が。

 

 残り時間、三十五秒。そろそろか、と全ての〝魔力精製機構〟を〝制御機構〟へと書き換える。そして計、十六個の〝制御機構〟の魔法陣が浮かび上がる。

 

 残り時間、30秒。

 

「―――フルドライブ!」

 

 しかし、決してデバイスを最大出力にするのではない。最大出力にするのは、己の脳みそ―――つまり、脳みそを100%の状態で駆動させることだ。これが、最終手段。最後の、奥の手。

 

 マルチタスクを一気に起動する。メインの方を2048分割し、サブの方を1024分割して、とにかくデータ処理を進める。酷い頭痛がするが、今はそんなこと関係ない。

 

 維持可能時間、20秒。データ処理率、97%。残り時間、25秒。

 

 残りは、根幹のプログラムと、夜天の書との最後の繋がりの部分のみ。頭の負担を少しでも軽くするために、サブの1024分割された思考を全て閉じる。もう、データの海から回収するものは何も無い。

 

 根幹プログラムを神速で解析する。しかし、何があったのかどうしても解析できない部分が一か所、存在した。黒い霧で覆われて、解析が阻まれているのだ。恐らく―――いや絶対に、これが最後の関門だ。

 

 2048の分割された思考、総当たりでその関門の解体作業に取り掛かる。しかし、どれと見ても全く分からない。いや、プログラムがねじりにねじれて、歪な形に変化してしまった、と言った方が正しいのか。どうやら、そもそものプログラムが一番の重傷を負っていたようだ。それも、意味不明な形で。

 

 しょうがなく、思考分割していたサブの1024を再び起動し、更にそれに2048分割された思考を加えて、データの海を神速で解析して根幹プログラムでバックアップデータの隠し場所を探し―――二秒もしない内に見つかる。しかし、今度はセキュリティプログラムがそれを阻み、その上12ケタの暗号(ミッド語、古代ベルカ語、地球の全文字、数字)が立ちはだかる。おかしい、何故、こうなったと嘆きたいが、すぐにそれを解くためにハッキングを開始する。

 

 まず一桁、分かった。正直ラテン語は分からないので、ただ入れただけのような感じだ。

 

 二桁、今度はミッド語だ。これなら少し分かる。しかし、この暗号の意味は分からない。ただの嫌がらせにしか思えない。製作者が頭の中で笑った様な気がするので、とりあえず頭の中だけでもその製作者に対してグレイプニールを使い拘束しておく。

 

 馬鹿をやっている間に、五桁、六桁、七桁と解明されていく。どうやら、これらの文字を原点に戻すと、ある単語になる構造らしい。本体には全く理解不能な構造だが、マルチタスクがそれを理解してくれているので、問題は無い。

 

 十桁目まで解き明かし、十一、そして遂に、十二桁目を入力。そして、解放する。そのバックアップデータを。

 

 ちなみに暗号の単語は―――というか文章になったのだが、こうなった。

 

〝すまない。ナハトを、解放してやってくれ。名も知らぬ者よ〟と。

 

 ―――まったく、つくづく面倒事を抱えて、絶賛人生をヘルモードとインポッシブルモードの中間を彷徨い中の俺。だけど、咎人は己の罪を自覚し、最後にこのメッセージを託した。ならば、解放してやらなければ、それは嘘だ。何せ、咎人の最後の叫びを、俺は聞いてしまったのだから。

 

 最後の最後、限界を突破して、マルチタスクで、思考を8192分割にまでして、そのバックアップデータを、全てを理解するために一つ一つ細かく、しかく神速の速さで読み進める。一割、二割、三割、四割・・・・・・読み進めていく内に、どんどん、分割した思考が消滅していくのを感じる。どうやら、タイムリミットが近いようだ。

 

 五割、六割、七割・・・・・・既に、8192分割した思考は、4096と半分にまでなっていた。しかし、解析スピードは半分にも落ちていない。本人の負けん気と気合が、その効率を補っているのだ。

 

 八割、九割・・・・・・もう既に、128分割にまで、思考はブラックアウトしている。しかしそれでも、大丈夫だ。もう、残り一割は―――今、解析し終わったのだから。

 

 分割した思考を全て消し去り、本体思考のみにする。しかし、データは全て理解した。バックアップデータの、その意味を。

 

 構造はこうだ。根幹プログラムは、実は夜天の書の全プログラムと少なからずリンクしている。しかし、ちょっとしたことで、強く無い所は簡単に関係が切れてしまう。関係が切れた場合、ある一部のデータがナハトヴァールの中にある更に分割された防衛プログラムに反応して、暴走する。そのせいで、夜天の書にあったナハトヴァールは、暴走した。

 

 暴走を止める方法は、やはり根幹プログラムで全書き換えしか、方法は無い。しかしそのためにはどうしても、ナハトヴァールのバックアップデータを見る必要があった。原形のデータが分からなければ、根幹プログラムなど、手の出しようがないから。変に弄れば、今度はナハトヴァール自体が最悪な状態で暴走、あるいは改悪されてしまう可能性すらある。だからこそ、知る必要があった。

 

すぐに自分の思考と残り魔力だけで、プログラムを精製していく。何やら通信機器から嫌な音が聞こえてくるが、そんなことは後回しだ。しかしロストロギアだけに、今の残り魔力だけでは、どうしても根幹プログラムを作るだけの、維持するだけの魔力が足りない。

 

 これは詰みか、そう考えた瞬間、脳裏に最後の閃きが駆け抜ける。それはあまりに危険で、あまりにリスクが高い、方法だ。しかし、ナハトヴァールも好きで暴走している訳ではないのだ。ならば、最後の最後は、ナハトヴァールを信用してやっても、良いじゃないか。

 

「無限連環機構・起動」

 

 無限連環機構は、簡単に言えば永久機関だ。人類が目指しても、どうしても作ることの出来なかった、永久機関。否、作ることは出来たが結局封印された機関、ともいえる。

 

 そしてラプターの操る無限連環機構は、発動すれば最後、半永久的に止まらない。たとえラプター自身が死んだとしても、だ。だからこそ、最初に目覚めた時に無限連環機構が停止して焦ったのだが―――まぁ、それは今は置いておこうではないか。

 

 精製するプログラムの中に、最小にまで収縮、圧縮した無限連環機構を加える。それは、魔力精製と制御、そして防衛に特化したプログラム。決して攻撃的なプログラムは入れない。もう二度と、暴走などしてほしくないから。

 

「受け取れ。俺直伝最強・根幹プログラム」

 

 汚染された根幹プログラムをすべて削除して、バックアップデータすら完全に浄化したものにして、新しい、根幹プログラムを、ナハトに与えてやった。

 

 そして、それとほとんど、同時だったのだろうか?

 

 圧倒的圧力と、閃光、そして魔力。そして最後に、轟音。それが聞こえたのは。目の前がブラックアウトするのではなく、ホワイトアウトしたのは。

 

 それはただ、一つの事実。現実を、教えていた。

 

 ―――時間切れ、だと。

 

 

                                     ◆

 

 

「嘘、吐き・・・・・・ラプターの、嘘吐き・・・・・・!」

 

 作戦行動の場では、リンディ提督以外には、彼とは関わりの無いオペレーター達しか居なかった為、直接見た訳ではない。

 

 しかし、聞いてしまった。結果を。

 

 アルカンシェルは、放たれた。ラプターの居た生命ポッドに向けて、容赦なく、狂いなく、叩き込まれた。そしてアースラも、ロストを確認している。

 

「何で、や。何で、良いことしたラプターが、最後に死ななアカンのや・・・・・・!」

 

 やり場のない、悲しみと怒り。これは、誰のせいというわけでもない。強いて言うのであれば、これは時間に間に合わなかった、ラプターの自己責任だ。

 

 ラプターが時間を設定したのは、恐らく本気を出せる時間が、限られていたからだ。だからこそ、あのような無茶な、たった十分を、指定した。そしてラプターも馬鹿ではない。むざむざ自分が絶対に死ぬような条件を、自ら提示する訳がない。きっと、うまくいけば、成功していたのだ。

 

 時と間に、ラプターは嫌われていたのかもしれない。

 

「ラプター・・・・・・約束、したやん・・・・・・絶対に生きて、帰ってくるって・・・・・・」

 

 涙が、零れ落ちる。周りには誰も居ない。だから、大声で、最後は泣いた。二度も自分たちを救ってくれた、大切な人。ヒーローの死を、嘆いて。

 

 

                                     ◆

 

 

「王様~、僕たち先に行っちゃうよ~?」

 

「後で我も追いつく。だから先に行ってよいぞ」

 

「は~い」

 

 レヴィとシュテル、ユーリは食堂に行った。どんなことがあっても、やはり空腹には勝てないのだろう。

 

「まったく、あやつは・・・・・・どう責任を取るつもりだ」

 

 お守りの制作は、はやてと一緒だった。考えている事は同じらしく、ラプターがらみだった為か、いつもなら素直には協力しない筈なのに、何故か今回だけは、抵抗なく協力してしまった。

 

 こちらは万全の準備を整えていた。丹精込めて作ったお守りを渡して、作戦開始時間の前からずっと、ラプターの無事を祈り続けた。柄にもなく、祈ってしまった。

 

 思えば、恩人だからといって少々、似合わないことをやり過ぎた気がする。だからこそ、その報奨としてラプターが帰ってくるのは必然だと、そう信じていた。

 

 しかし、結果は違った。

 

 ラプターは、ラプター自身が決めたタイムリミットに、敗北してしまったのだ。

 

 あの場で自分たちが居なかったのは、ある意味正解だったと思う。いや、確実に正しかった。あのリンディ・ハラオウンという女は、決断力が高く、また人としても出来ており、何よりラプターの意志を尊重してくれた。行動してくれた。

 

 あの場に自分たちが居れば、まず間違いなく、泣きながらでも懇願したと思う。もう少し、もう少しだけ待ってくれ、と。そんなことをすれば、今度は全員の命が、何億という命が危険に晒されるかもしれないのに、それも顧みずに。

 

 それでもあの女は、行動しただろう。どれだけ恨まれることがあっても、きっと。時間通りに、行動した。彼女に負担を掛けない為にも、そしてラプターの意志をより尊重する為にも、自分たちがあの場に居なかったのは、正しかった。

 

 しかし、それと心の整理はまた別だ。正しいか正しくないか、頭で理解出来ても、心が整理出来ない。追いつかない。あの自分たちを、ユーリを救ってくれたラプターが、何故死なねばならない? という気持ちがある。

 

 やり場のない悲しみと怒りは、心の中に渦巻く。いっそのこと後を追って、ラプターにジャガーノートを叩き込めればスッキリするのだろうが、それは確実に、ラプターの望む結末ではない。

 

 だからこそ、やるせない。何も出来なかった自分が、嫌になる。

 

「く、ぅ・・・・・・ラプタ、ァ・・・・・・」

 

 彼は最後まで、尊厳に満ちていた。知り合いとして、恩人として、とても誇らしい。これ以上に無いほどの、誇りだ。

 

 しかしだからこそ、失った時の衝撃は大きい。反動が二倍にも三倍にもなって、返ってくる。

 

 王は静かに涙を流す。誰も居ない一室で、涙を流し、そして零した。

 

 

 アースラのみんな、そして世界を救った恩人、ラプターは死んだ。それが誰もの見解。アルカンシェルをまともに食らって生き残るなど、どんなことをしようと、不可能だから。

 

 時の歯車は回る。誰が望むも望まないも、無情にも回っていく。

 

 しかし、イレギュラーという言葉は、どのような状況においても、適用するものだ。

 

 可能性は、仮定するからこそ100や0になるのであって、仮定しなければ、100も0有り得ない。そしてそもそも、世界に仮定していいことなんて存在しない。真実を知る者は、神以外には―――いや、これも所詮は仮定だ。

 

 仮定なしには世界は回らない。しかし仮定していいことなんて、何一つ存在はしない。みんなはそれを、まだ知らない。

 

 1+1=2だというが、これも所詮は複数の仮定の集合体。1が3の役割をしていた可能性もあれば、2が9の役割をしていた可能性だって、存在するのだ。そうすれば、その公式自体が、おかしくなる。

 

 世界は仮定でまみれている。だからこそ、仮定なしには回らない。そして1が本当にその意味なのか、10が本当にその意味なのか、真実は誰も知らない。知る筈がない。世界の起源が、宇宙の起源が、空間の起源が分からないのだから、そもそも知る由が無い。

 

 真実を知るには、起源を知る以外に方法はない。

 

 矛盾したことだが、世界は矛盾して成立しているともいえる。

 

 だからこそ。

 

 アルカンシェルが彼に当たったなどという仮定そのものは―――おかしいのだ。

 




 まず謝罪から。ごめんなさい、今回馬鹿みたいに長くなりました本当に申し訳ありませんでした(棒)。

 と、棒は半分冗談です。ただ、もしも、本当にこれ読むのが苦痛だった方は、本当に申し訳なかったと思っております。自分でも、長くなり過ぎたと反省しております。ちなみに、23417文字らしいです。今回の文字数。

 さて、いよいよプロローグ終了といったところでストックが無くなりました(笑)。次からは本編の方に入りますが、空白期です。そして、私も個人のスキルアップとして、皆様に満足していただけるような文章を書けるように頑張りますので、どうかこれからもよろしくお願いいたします。

 感想、批判、ご指摘などは常時募集中。そういったものを、心より、お待ちしております。

 それでは、次は空白期でお会いしましょう。
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