Blank Period1: A sign of a Storm
「ぬ、ぐ、ご、うぬ、ぬ・・・・・・?」
はて、痛みがある。特に頭と右手に痛みがある。右手は特に、何だか綺麗に消滅しているような痛みがある。というか、痛い。痛い。めちゃくちゃ痛い。
「っっっ!? いってぇぇぇ!?」
飛び起きた。どこか見知らぬ大地で飛び起きて右手を振りまわそうとして―――気付いた。右腕が、二の腕から先が綺麗に無くなっていることに。ついでに、地面が血の池になっていることに。
「あ、まさか俺生きてる? 生きてんの? え、俺転移魔法使えないのに生きてんの!? アルカンシェルぶち当たったような気がするのに生きてんの!? ロストロギアですら出来ないこの所業・・・・・・とか言ってる前にマジで痛い」
とりあえず、痛覚をカットしよう。そう考え、魔法で右腕の感覚を完全に遮断する。痛みは無くなったが、出血は未だにしている。今まで流していた量と、人間の出血してしまうと死んでしまう量から考えて―――
「死ぬ間際だな」
既に貧血で頭がクラクラしてきている。とりあえず、無限連環機構を起動させるために魔法で、背中に魔法陣を描き出す。中央以外の六つは全て〝修復機構〟にして、そして起動。綺麗さっぱり消滅しているが、〝修復機構〟を6つも重ねれば、出血多量で死ぬ前には治るだろう。
「あ~・・・・・・此処何処?」
今更になって周りの状況を確認する。ラプターが周りの状況を確認するのが遅い事は毎度の事だ。気にしてはならない。
周りを見渡せば、あるのは森林。そして草木と土。空は見えない。何故なら木々の枝や葉が覆っているからだ。しかし、別に熱帯で熱い、というわけでもない。至って平温。少し涼しいくらいだ。
つまり、此処はジャングルではなく森であるという事が分かる。ただし、地理はさっぱりだ。何せ、このような場所、見たことが無い。
「・・・・・・あれ? ナハトは何処だ?」
今更だが、ナハトヴァールの反応が自分の中に無いことに気が付く。まさか、アルカンシェルによって蒸発したのでは―――などと危惧して、自分の近くに居ないかとすぐに索敵魔法を広範囲に使う。
「・・・・・・・・・居た。無事、か。良かったぁ・・・・・・」
ナハトヴァールが近くに居た事に安堵して、胸をなでおろす。ちなみに、自分以外にやったら犯罪者かホモになるので他人にはやらないようにしよう。
「っと、さて探しに行くか」
大体の位置は分かる。ならば、後はそちらに行くだけだ。
左腕に力を入れ、そして足を動かす為に足に力を入れると―――まだ少し痺れるが、力は入る。歩くことも、ゆっくりであれば出来る。麻痺していたときに後遺症で筋肉が少し衰弱しているのだろうが、たった一週間だ。戦闘でもなければ、そこまで問題とはならない。
「だけど、追いつけないほど遅いとなると問題だよな」
ナハトヴァールの反応は次第に遠くなっている。何処に向かおうとしているのか、目的は分からないが、とにかく遠くなっていく。
「病人おいて、薄情だなぁ・・・・・・」
いや、逆に大怪我しているから、急いで薬草か何かを取りに行った、と思えばいいのだろうか? もしそうであれば、それほど嬉しい事はない。
「・・・・・・空飛ぶか」
低空飛行ではあるが、そうでもしなければ追いつけない。足はまだ不完全な状態で、そしてたった今、右腕は止血した。二の腕から先は相変わらず無くなったままだが、無い物ねだりも出来ない。ならば、今はナハトヴァールが優先されるべきなのだ。
「っと、まずは〝機構〟を入れ替えて、と」
背中の魔法陣を魔法で書き換えて、〝魔力精製機構〟を三つ、そして〝修復機構〟〝防御機構〟〝能力補助機構〟にして、魔力を使って出来るだけ速く、しかし木々にぶつからないようにナハトの方へと低空飛行をしながら近づいていく。そして飛行した瞬間に分かった。歩くのはナンセンスだったと。主に、スピード的な意味で。
「あれ? そういえば、ナハトってどんな姿しているんだ?」
飛行しながら、ラプターが重大事項に気が付く。そう、データとしてのナハトはみっちりと、それこそ穴が開くほど調べ尽くしたのだが、生憎実体した姿は、まだ一度も見たことが無いのだ。リインフォースのような人型をしているのか、それとも狼型のザフィーラのように動物型なのか・・・・・・それが分からない。というか、それすら分からない。
「まぁ、分かるか」
魔力で目を強化して見れば、一目でわかる。ならば問題無いなと考えて、少しだけスピードを上げてナハトヴァールを追う。
「もうそろそろ、かな」
やはり飛んでいる分、圧倒的にこちらが有利。もう数秒すれば、その姿も見えてくる筈だ。ちなみに、ウルトラ○ンみたいに飛んでいるのはご愛嬌。じゅわっち! とかは言わない。
残り十メートル・・・・・・五メートル・・・・・・一m・・・・・・追いついた!
周りをすぐに見る。反応が遠ざかった様子は無い。ならば近くに居る筈だと思ったのだが―――周りに草木が生い茂っており、何処に何が居るのかまるで分からなかった。
と、ラプターが困り果てていると不意にヒュッ! と何かが一瞬横切った。何かを思いそちらを見てみると―――ゴチンッ! と見事にその何者かが顔面にぶつかった。地味に痛いのは内緒だ。
「テテテ・・・・・・何、これ?」
猫掴みして、不思議な生物を見る。大きさは子猫くらいで、毛並みは真っ白。しかし耳や手、二尾の先っぽと本当に小さな両翼の先は紫色に染まっている。まさか、と思い索敵魔法を解除して、今度は魔力で目を強化すると―――
「お前、ナハトか?」
『そうだよ~』
「あ、念話出来るのね」
というか、ナハトヴァールって改めてどういう生命体だ、などと考えさせられる。動物形態かと思えば念話で話せる。潜在魔力もかなりの量を感じる。夜天の書の元防衛プログラムだけあって、スペックが驚くほど高い。
アレだけ凶暴だったくせして、今ではすっかり可愛い小動物。
―――何だかもう、どうでも良くなってきた。
『っとういか、動いて大丈夫なの!? 腕の傷は? ちゃんと止血してる? あ、止血はしてるんだ良かった。とかじゃなくて、本当に危ないんだよラプターは! 後数分、止血遅れていたら死んでいたんだよ!?』
「いや、分かった。分かったから、そんな音量を上げるな。頭が痛い」
『あ、ごめん』
しゅん、と耳と尻尾がしおれて明らかに落ち込んだ。何この可愛い生物。本当に右腕消滅とかどうでもよくなってきた。
「てか、どうやってあの状況から脱出したんだよ」
あの状況、とはつまりナハトヴァールを修理した時の話だ。アレは確実に、アルカンシェルを発射されて絶望的な状況だった筈なのだが・・・・・・
『ラプターの新しい根幹プログラムのおかげで復活したから、適当に転移してひとっ跳び!』
なるほど。それで消滅を免れた、というわけか。ラプターは納得すると、先ほどまで得意気に話していたナハトヴァールが再び落ち込んだ様子になる。
『でも、ごめんね。本当に間一髪だったから、五体満足、とまではいけなかったんだ。本当に、ごめん』
と、本当に申し訳なさそうに言う。しかしどうして、自分の周りには自分に責任を感じる奴が多いのだろうか・・・・・・。とにかく、その考えを正すのが先決だ。
「謝らんでいい。というか、死を覚悟してたから右腕くらい安い安い。義手でも付ければ、日常生活に支障は出ねえよ。それに左腕だけでも、困る事はあまり無いだろ」
『いや、絶対困ると思うんだけど・・・・・・』
「だったら、その時はサポートくらいしやがれ。何せお前に、無限連環機構譲ってやったんだからな」
別に有限というわけではないため、そこまで気にしなくては良いのだが、こちらの秘術を分け与えた、という意味では十分気にしてほしい。この世にそんなもの、ユーリの永遠結晶エグザミア以外には存在しないのだから。
『うん、私にも助けてもらった恩義がある。それくらいはお安い御用だよ!』
「気前がいいことで」
さて、と。前置きのように呟いて、ラプターは本題へと入った。
「んで、ぶっちゃけ地球に帰れんの?」
『無理』
即答だった。
「んで、何で?」
『単純に座標が分からない。夜天の書との繋がりとか全部切れちゃったから、それ参考に出来ないし』
「なら、人の居る場所に出る事は?」
『ちょっと難しいかな~。だってここ、観測指定世界だよ?』
「移動手段とか無いの?」
『あるけど、完全に犯罪者扱いになると思う。だって、魔法で移動したら絶対に足跡つくでしょ?』
「むぅ・・・・・・もういいんじゃね? 命に代えられないし。早く生存報告しないと、俺が殺される」
『後の方が本音に聞こえたんだけど』
「両方本音だ」
苦笑しながら言って、高度を上昇させ、邪魔な木々を、左手を魔力強化して手刀で伐採する。
「うわぁ・・・・・・こりゃ酷い」
一面見渡す限り緑、緑、緑。とりあえず、緑だらけ。遠くには山まで見えて、人工物は何一つ見えない。これは、何と言いますか・・・・・・
「空気が美味い」
『本当に、美味しいよね~』
二人して自然の空気を味わう。やはり、都会と自然では空気が全く違うと再認識しながら、今度は本当に真面目に考える。
「んで、これからどうするか。一番のデンジャーポイントを抜けたから、ここからは結構ヌルゲー臭がするんだけど」
『う~ん・・・・・・やっぱり、密入国?』
「いや、どこにだよ」
『ミッドチルダ。唯一そこだけなら、座標分かるよ?』
「ちなみに、どんな場所だ?」
『管理局の十八番』
なるほど。つまりアジトか。
「にしても、密入国は無理だろ。流石に」
『うん、無理。だけど保護くらいならしてもらえるよ?』
「保護という名の拉致―――!」
『もうそのネタはいいよ』
サラッと流され、ラプターの豆腐メンタルが傷ついた。具体的には豆腐の角が崩れたくらいに傷ついた。
「さて、それじゃあ保護されに行くか」
『そうだね~。それじゃあ、いっくよ~』
ナハトヴァールの掛け声と共に、視界がホワイトアウトしたのだった。
◆
「まったく、優秀な人材や戦力は、皆本局が持っていく。陸はそのせいで圧倒的に人手不足だ。いくら引き抜こうにも出来ない。若い優秀な魔導師もそっちへいく。これでは陸が弱体化していく一方だ」
「せめて若く優秀な魔導師の一人でも入れば、状況は大きく変わるのにな。最近、ますます陸戦の出来る者が減ってきている」
「全くだ。何故こうも、陸はままならないのだろうな」
此処は、ミッドチルダの管理局地上本部の、レジアス・ゲイズの仕事部屋だ。そこではレジアス・ゲイズともう一人、そのレジアスの友人であるゼスト・グランガイツが今日も戦力不足に悩んでいた。
「誰でもいい。身元不確かでもかまわん。若く優秀な魔導師が居れば・・・・・・」
「身元不確かは問題になるぞ。まぁ、俺もほとんど同意見だがな」
管理局の中将がこのような問題発言をしていいものなのだろうかと思わなくもないが、事実、地上の戦力は海や空、本局と比べて明らかに不足していた。
『ゼスト隊長! 大変です!』
「む、すまん。部下からの通信がきた」
レジアスに一度断りを入れて、ゼストは部下からの念話に応じる。
『何だ、騒々しい』
『地上本部の上空に、魔力反応を感知! 魔力ランクはオーバーS! それも、これは恐らく次元移動の前触れです! 至急、こちらに来てください!』
「なっ、次元移動の余波でオーバーSだと!?」
馬鹿な。と、ゼストは念話にも関わらず口で、それも大声で声を上げてしまう。
確かに、次元移動とは必ず魔力の余波が存在する。だからこそ、管理世界の、また管理外世界等の密入国は無理だとされているのだが・・・・・・余波はせいぜい、どれだけ高くてもランクDからCだ。魔導師ランクオーバーSですら、余波はB、よくてA-程度。余波だけでオーバーSなど、聞いたことが無い。
『すぐに全戦力をそちらに向かわせろ! それと、三分後には建物内を完全に閉鎖しろ! 警戒レベルA! 俺もすぐに現地に向かう! この事を、地上本部の全部隊に通達するんだ! 対象が現れたら、交戦せずにまずは様子を見ろ! いいか? 俺が到着するまで何としても時間を稼ぐんだ!』
『りょ、了解しました!』
「悪い、レジアス。急用が入った」
「問題ない。ただ、余波だけでオーバーS・・・・・・か。拾える人材なら、遠慮なく拾って来い。問題はこちらで揉み消す」
「問題発言だぞ。まぁ、出来ればそうするつもりだがな。ただ、もしかしたら今日、地上本部は壊滅するかもしれない」
「メガーヌやクイントは?」
「まだ連絡は取っていない。ただ、全部隊に通達指示を出したからな。もう既に伝わっている筈だ」
「上出来だ。行ってこい」
「あぁ、地上本部を壊滅させないように、頑張ってくる」
状況の確認と、そして軽口の叩き合い。どちらも二人の間にはいつもの光景だが、今回、ゼストの危機迫る表情は異常だった。まるで、死を予感し、それに必死で抗おうとする者の表情。
「・・・・・・嵐が、来るかもな」
外の様子を見て、天候を確認すると、空は真っ黒な雲に覆われ、如何にも、嵐の前触れのような天気だった。
もし嵐が来れば、海も空も、こちらに応援に来ることは極端に難しくなる。最悪の事態を想定して、そうはならないことを、レジアスは祈ることしか出来なかった。
さて、sts編の前のところ。流石にそう簡単にははやてとディアーチェに合流はさせません!
さて、最初からしてこんなラスボス臭のする展開ですが、本当にまだ序盤。
はたして、ラプターは無事、はやて、ディアーチェと合流できるのか!?
感想、批判、ご指摘、常時募集中。心より、お待ちしております。
PS.お気に入り入れてくれるとチャンプルンのモチベが向上するシステムになっております(笑)。