「状況はどうなっている?」
前線部隊の隊長であるゼストは、状況確認の為に近くの局員に現在の状況を聞く。
「はっ! 今も尚、魔力反応は衰えず、余波だけが渦巻いています。今も衰えることなく、ランクはオーバーS。敵の想定戦力は、最低でもSS以上と予想されております!」
「SS・・・・・・洒落にならんぞ」
地上本部の真上にあたる部分に、ほぼ全ての隊員が集合している。全員練度は高く、信頼には当たるのだが―――ランクSS相手では、少々、いや酷く辛い。
「・・・・・・今の状況を、どう考える?」
「はっ! 陸は今も尚、戦力不足の状態にあります。ゼスト隊長、他分隊長が全員で連携して戦っても、現状を打破するのは難しいかと。また、私たち一般隊員は恐らく、今回の場合では手出しをせず、最終防衛ラインか、あるいは後衛につくのが好ましい状況と思えます。何故なら、高レベルな戦闘で、我々のような実力が中途半端な者が出ても、邪魔にしかならない恐れがあるからです。この場合、本局から応援を呼んで、時間稼ぎをするのが得策だと、私はそう思います」
「なるほど。意見をありがとう。持ち場に戻れ」
「はっ!」
そう言って、隊員を持ち場に戻らせ、そして少し上空に存在する、魔力の渦を見る。
「明らかに・・・・・・異状だ」
もはやロストロギア、と見てもおかしくはないほどに、高密度な魔力が、渦巻いている。これは本当に、応援要請を出した方が良いかと考えあぐねていると―――
「ッ!?」
突然、魔力の渦巻いていた地点を中心に光り輝き、視界が白く染められる。一体何が起きた!? と思うと同時に、理解した。光の中心に、今までの魔力余波を出していた、犯人が現れたのだと―――
◆
「っと、何か気絶したような気分なんだが」
『あ~、ごめんね。ちょっとまだ魔力の調整が難しいみたい。次元移動するのに、大分手間取って、危うく虚数空間に落ちるところだったよ』
「洒落にならねぇから今度から絶対に次元移動だけは使うな!」
ナハトヴァールの念話に頭の痛い思いをするラプター。まさか、そんな危険な目に遭いそうになっていたとは、夢にも思わず、怒鳴ってしまう。いや、これは怒鳴っても仕方のない事態だと思いたい。
「あ~、これ絶対にお前が手間取ってるせいで集まってきたよな」
『知らないよ~。そういうことはセルフサービスだよ』
「次元移動にセルフサービスがあって堪るかっての」
全くもって危ない奴だ。優秀なのだが、逆に優秀過ぎてより何かをする際にリスクが高くなっている様に思える。ラプターは心の中で溜息を吐いて、周りを改めて見回す。
「ざっと見て百五十、か。隊長や分隊長クラスは三人か四人程度か?」
中年一人と、まだ二十代くらいの魔導師が三人。これが、隊長、分隊長クラスの魔導師。
「うぅむ・・・・・・ナハト、どうやって言い訳すりゃいいの?」
『そこは完全にセルフサービスだからね。私に振っても答えは出ないよ~』
うむ、実に面倒な状況だ。ナハトヴァールが使い物にならない状況が存在するなど、今の今まで考えたことが無かった。
「これってあの中年に話し掛けりゃ正解のパターンなの?」
『だから知らないよ~。自分で決めてよね。あと、戦闘とか控えてよ。今、ラプターは絶不調なんだから』
「へいへい」
ナハトヴァールを肩に乗せて、そして中年の男に話し掛ける。
「そこの隊長らしきおっさん。ちょっと質問がある」
「・・・・・・なんだ?」
こちらの出方を窺っているその構え。恐らく、次のラプターの質問を聞けば、嫌でも拍子抜けをしてしまうだろう。
「これって、もしかして軽犯罪になんの?」
「・・・・・・はっ?」
質問したのに、何故か「何言ってんだコイツ?」みたいな奇異の目を向けられる。それも、この場に居た全員から。
「正直に言う。これは不可抗力だ!」
デデーン! という効果音が出そうなほど胸を張り、堂々とラプターは宣言した。傍から見れば、ただのアホなのは言うまでもない。
「魔力余波オーバーSを出しておいて、何が不可抗力なんだ?」
「・・・・・・おいナハト。お前、あちらさんあんなこと言ってるんだけど、どんだけ魔力調整下手なの?」
『赤ん坊くらいには下手だと自負してる』
「自負するとこが違ぇんだよ! 何だよコレ!? 魔力余波オーバーSとかお前馬鹿なの? それとも俺が無限連環機構加えたからか? どっちだ!?」
『ちょ、首絞まってる。首絞まってるから!』
「知ったことかァ! 軽犯罪者程度かと思ってたけど、明らかに重犯罪くらいに重いだろうがこれ! どうしてくれんだよ!?」
『く、くるじ、い・・・・・・わ、悪かった、悪かったって・・・・・・そもそも、今まで魔力、とか、暴走させたことしか、ない、んだから』
「・・・・・・それを早く言えぇェ!」
傍から見れば、自分のペットの首を絞めて叫び散らしているキチガイだった。というか、ペットに当たり散らしている子どもにしか見えない。
「と、に、か、く! 不可抗力だ!」
「いや、だから何が不可抗力なんだ?」
呆れ果てる中年の男と他管理局員。もう、何だかいつも人前出るたびにキャラ的な修正が不可能な方向に行っている気がする。
「具体的に言えば、このバカプログラムに一時は助けられたは良い物を、無人世界に次元移動してしまって結局知ってる座標が此処しかなく、ここに次元移動してきたらこのバカプログラムが魔力暴走させて見事に騒ぎを起こした! 以上!」
『ちょ、いくら何でもバカバカ言い過ぎ―――』
「元はと言えば元凶全部お前だろうがァ!」
管理局員の前でコントをやる容疑者を見たことの無い管理局員たちは、呆然としてしまう。ほぼ100%呆れからくる視線は、ラプターの精神力をガリガリと削っていく。
「あ、やべ・・・・・・ちょっと貧血・・・・・・頭クラクラしてきた・・・・・・」
『って、騒ぐから傷口開いてるよ!? 早く治療しなよ!』
「てんめぇ・・・・・・本気で、後で覚えてやがれ」
不毛な争いで死んだとか末代までの恥を残さないべく、背中に未だにある無限連環機構の外側の魔法陣六つを全て〝修復機構〟へと書き換える。
「ッ! その右腕はどうしたんだ!?」
中年の男が驚いたようにラプターの消滅した右腕を見ている。よく見れば、その傷跡はかなり生々しく、更に服の長袖が消えている部分まで綺麗に消滅しており、その上に出血もしている。それは心配されるのも無理のない傷だった。
「綺麗さっぱり、消滅いたしました」
人に心配を掛けないようにいつも心掛けていたせいか、おどけて苦笑しながら軽い一礼をして、ラプターは言った。
「いやぁ、本当に危機一髪だったぜ? 何せ、後一秒も遅れていたらこの世に細胞一つ存在していませんでしたから」
そして笑顔で、恐ろしい事を言い放ってみせた。これはラプターが昔からよく使う、相手を信用させるための技術の一つだ。笑いながら、少し凄みを入れて発言することにより、相手を本気にさせる。凄む事に対して、どのような者でも少なからず警戒の為に気を入れることにより、それと連鎖させて発言を本気だと思わせるように誘導。この技術のロジックはこのような感じだ。
何でもない風に言っているからこそ、信憑性は更に高くなる。ただし、これは死に掛けるようなケースの話をする場合かつ実物証拠があってこそ発揮できる技術であり、嘘を吐く事には向いていない。むしろ、真実を理解させるために使う技術なのだ。
今回は本当に死に掛けている。そして、実物証拠は消滅した右腕。あとは、ラプター自身の技術力によって、相手に印象付ける信憑性は大分変ってくる。
「・・・・・・目的は、何だ?」
信用したのかしていないのかは分からないが、ようやく話が進展する。
「とりあえず、人の居るところに行くことだけ。後は有り金とかゼロだから、どこか適当にバイトでもして、食費稼ごうかな~、とか考えてた」
「辻褄は合うな」
未だに警戒しているのか、中年の男は顎に手を当てて考える仕草をする。
ラプターの右腕はとりあえず再び止血することに成功する。ただし、激しい動きをするとまた傷口が開くため、油断する事は出来ない。
「ふむ。ならば、管理局の地上本部で働いてみるのはどうだ? 給金の保証は俺がする」
「・・・・・・右腕がこんな状態でも、出来る仕事だと?」
「こちらの観測で、お前には余裕のSS判定が出ている。これは右腕が無くとも、スカウトするのが良いだろう?」
「SS判定は100%こっちのバカでもか?」
「それなら尚更期待できる。何せ、そんな化け物を飼える実力なのだろう?」
「身元不確かな奴を入れていいのか?」
「すぐ分かるから心配は要らないな」
「言っておくが、俺は自分の奥の手を誰かに教える気はないぞ?」
「心配するな。そんな奥の手を教えろなんて野暮、誰もしない」
「ナハトを研究や検査に出すつもりは一切ないぞ?」
「安心しろ。こちらで庇ってやる」
「・・・・・・本当か?」
「本当だ」
「本当に本当か?」
「本当に本当だ」
「本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に―――」
「いや、そんなにしつこく繰り返さなくていい。本当だと言っているだろう」
後半、何という不毛な遣り取り。ラプターが疑いに掛かるにも関わらず、相も変わらず中年の男に揺らぎは出ない。これはつまり、嘘は言っていない。もしこれで嘘を言っているのであれば、一体人生の中で何万回嘘を吐いている事やら。
「・・・・・・こっちから条件を付ける。これは雇ってもらうじゃなく、雇われてやる、だ」
「あまり無茶なものは、付けられないがな」
あくまで譲らない態度を見せるラプターに対して、中年の男は大きな余裕を見せる。常識の範囲内であれば、これは絶対に通ると見て、まず間違いはないだろう。
「一つ、週休二日は約束をすること。これは、どの様な場合にも適用する。
一つ、ミッドにある無限書庫への立ち入りの許可すること。
一つ、俺はデバイスを持たない。その為、管理局で働くにはデバイスが必要になってくるため・・・・・・そのデバイスを、そちらで用意して、尚且つ無料でこちらに提供すること。また、俺は魔法を得意としない為、杖型デバイスは却下。近接戦闘のガントレット型の、重さは気にせず、しかし出来るだけスマートで強度の高いものを要求する。
一つ、俺には保護者と呼べる人物が遠くに居る為、何かあった時は、地上本部の誰かの名前を、保護者の枠に記入する許可をくれ。
一つ、俺は見ての通り右腕を失っている。その為、こちらの指定した義手を作ること。
一つ、ナハトについて余計な詮索、また検査などを一切しないこと。これを破った場合、覚悟しとけ。
一つ、俺が所属している部隊で、俺が居る事を公開しないこと。
一つ、古代ベルカの書物を、出来るだけスマートに無限書庫から借りる為のバックアップをすること。
一つ、俺の魔法について、あまり深く詮索しないこと。
―――今のところは、この程度だ」
今のところは、の部分で中年の男の眉がピクッ、と動く。しかし、別段関係が無かったのか、中年の男は気前よく頷いた。
「良いだろう。後の責任は全部レジアスに押し付ければ、俺にデメリットはない。あいつも、リスクは振り返らないようなことを言っていたからな」
見事に責任転嫁しようとする中年男。あまりに普通に責任転嫁する辺り、恐らくそのレジアスとやらは親友のような関係なのだろう。
「よし、なら付いてこい。他の全員は解散して大丈夫だ。警戒レベルも平常時に戻せと全員に通達。それと地上本部に警戒解除と伝えてくれ。―――さぁ、降りるぞ」
「はいよ」
中年男に言われ、ゆっくり、あくまでゆっくりと地上に降りる。また出血しては大変だからだ。
「言っておくが、デバイスの方は最低でも二週間は掛かるぞ」
「分かっている。流石にそこまで急いではいない」
いや、そもそもデバイスを二週間で作ろうとしていること自体がおかしいのだが。一体、経費がどれだけ掛かることやら。
「じゃあ、案内しよう。こっちだ」
『何だか、上手くいったみたいだね~』
「だな」
ナハトヴァールの念話に相槌を打って、ラプターは中年男の後ろを付いていくのだった。
◆
「レジアス、連れてきたぞ」
そう言って入ると、レジアスは無言でこちらを向いて、最初にゼストの方を見て―――その次にゼストの隣に居た小動物を肩に乗せた子どもを見た。
「その子どもが、さっきの奴か?」
「あぁ。実力は俺が保証する。だから安心しろ」
「お前の保証付きなら、まず間違いないのだろうな。・・・・・・しかし、よく連れてくることが出来たな。お前、ここを出る時に死を覚悟するような顔をしていたぞ」
「敵意が無かったからだ。交戦していたら、多分、この建物が無くなっていた」
冗談でも無く、ゼストは至って真面目にそう答える。
その言葉に、嘘偽りはない。交戦しなくて本当に良かったと思っているし、相手が殺す気であれば、交戦すれば確実に命を失っていたことだろう。
「それでレジアス。さっき送った条件は読んだか?」
「ゼスト。お前、俺に全部責任転嫁したな?」
「地上に貴重なSSランク並みの魔導師を入れられるんだ。それくらいは耐えろ」
「・・・・・・まぁ、これくらいでその見返りなら、悪くはない。〝今回〟提示された条件は全て承諾する。デバイスの方は既に話を回した。無限書庫の方は、明日には許可を取れるだろう。ついでに教会の方に、話も回しておいた」
「流石の仕事の早さだな」
「ふん。とにかく、今日はもう休め。―――と、その前に、名前は何ていう?」
ようやく、ラプターの方に話が回ってくる。ラプターはその問い掛けに、実にシンプルに、答えた。
「ラプター・プルートです。今後とも、よろしくお願いしますね、レジアスさんに、ゼストさん」
「ラプター・プルート―――よし、登録は完了した。三日後ぐらいには正式に魔導師ランクを取ってもらう為、一度試験を受けてもらう。でなければ階級のつけようなければ、どの部隊に入れれば良いかさえ分からないからな」
「了解しました。それまでには戦えるようにしておきます」
「それで、右腕は大丈夫なのか? 止血はしているようだが」
今更それを訊くのか。などとツッコミを入れたくなるが、ラプターは別段気にした風も無く言った。
「もう止血しましたし、今日安静にしていれば治ります。まぁ、戦っても出血しない程度には、って意味ですけど。では、明日もう一度ここに窺ってから、無限書庫の方に向かわせてもらいます。―――ちなみに、俺は何処で寝れば?」
と、そこで困った様にゼストがレジアスに向けて目配せをする。すると、レジアスは「はぁ」と溜息を吐いてから引き出しからあるモノを取り出した。
「抜かりはない。此処の209号室を使え。これがそこの鍵だ」
ポイ、と乱雑にレジアスはラプターに向けて引出から取り出した鍵を投げると、ラプターは左手だけで器用にキャッチして、「ありがとうございます」と一礼する。
「それでは、今日は休ませていただきますね。もう、流石に疲れたので」
「あぁ、ゆっくり休むといい」
ゼストの言葉を背中に受けながら、ラプターはそのままふらふらとした足取りで部屋を出て行った。
「・・・・・・で、実際のところはどうなんだ?」
レジアスが含みのある言い方でゼストに訊くと、ゼストは躊躇なくキッパリと答える。
「片腕が無い状態だとAAAクラスにまで落ちるだろう。そもそも、SS並みはアイツ自身ではなく、アイツの方に乗っていた小動物の方だ。両腕がある状態で、恐らくS-程度だ。」
「まぁ、それでも十分だ。それに、そんな化け物を従えているだけでも、大概だ」
「全くだ。だからこそ、アイツには何かある。いくら戦闘がAAA並みだと推測しても、他の分野では、誰にも負けない程の才を持っているかもしれん。でなければ、あのような化け物は従えられない」
レジアスとゼストの意見が一致する。アイツは、ラプター・プルートにはまだ隠し持った、自分たちには見極められない何かがある、と。
そしてそれは今後、地上本部に大きな影響をもたらしてくれると。
こうして、ラプター・プルートの管理局入局は、正式に決まったのだった。
と、ラプターの管理局入局が決定!
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