「これが、無限書庫入場の許可証だ。無くすんじゃないぞ」
「はい。ありがとうございます。それでは、行ってきますね」
そんな会話をしたのは、およそ一時間前。今は既に無限書庫内で、ラプターはお目当ての本を探していた。
「―――っと、これか?」
手に取り、そして中身を見る。
『ガイスト・クヴァール―――拳にイレイザーを付与し打撃する。その一撃は全てを消し去り、一撃必殺。
シュペーア・ファウスト―――身を屈め、敵の腹部を痛打する一撃。魔力強化した拳は敵に大打撃を与える』
「使い物になんねぇ」
まぁ、それでも一応持っていくか。と、〝古代ベルカ格闘術伝承書〟という本を手に取り、そして自分の借りようとしている本の山の一つに置く。
「えーっとお次は・・・・・・ん?」
高さ50m以上ある本棚の一番左隅っこに、やけに綺麗な本を見つける。興味本位で手に取って、中を確認する。
『ゼーゲブレヒト及びシュトゥラ滞在時の記録を手記にて残す』
「え、何でこんな重要なものが隅っこに・・・・・・」
疑問に思いながらも、読み進める手は止めない。
『エレミア―――あるいはヴィルフリッド。もしくはリッド』
「ちゃんと、仕事してんのか?」
色んな者に対してそう言いたくなる超重要文献だった。
『その日
夜盗に襲われた馬車を助けたのが縁の始まりだった』
「現れたのは、まだ幼い女の子。この強さから見て―――十中八九、オリヴィエか。これ、オリヴィエの子ども時代の話・・・・・・これ、本物だな」
書かれている事が事実と合致していることから、本物であることを確認する。しかし、何故このような最重要文献のような本が隅っこに放置されているのだろうか・・・・・・解せん。
『こんな出会いが、その後も当分続く縁になるとは
この時は夢にも思っていなかった―――』
「いや、そりゃそうだろうな」
過去の記憶を探りながら、苦笑する。
『夜盗に襲われた馬車を助けたことのお礼から、僕は食客としてゼーゲブレヒト家に招かれる。その後間も無く、ゼーゲブレヒトに和睦の使者が現れた。名を、ラプターと言った』
「・・・・・・」
冷や汗が流れる。これ、持って帰るの止めようかな~、などと考えながらも、その読み進める手は進む。
『ラプターは優れたエンジニアだった。モグリモグリなどと自称しているが、その腕は間違いなくベルカ随一。聞けば、思考を最大で32768分割出来るという。ハッキリ言って、バケモノのレベルだ』
「テメエに言われたくねえよバーカ」
こいつ、自分の事を棚に上げてやがる。
『どうやら、ガレアから来ていたらしい。到着してから三日間の中で初めて何処から来たかを聞いた気がする。オリヴィエやクラウスたちにも、あの様子では恐らく言っていなかっただろう。本当に、和睦の使者なのだろうか?』
「うるせぇ」
『それにしても、ガレアの王は残虐な暴君だと聞いていたが、どうやらそれも間違いなのかもしれない。和睦の使者で交渉にくるなど、そのような者のすることとは思えない』
「単純に人使い荒かっただけだったな。いわゆるミニ暴君。見た目も」
あ、悪寒が走った。これ以上、イクスについての無礼は働かないようにしよう。じゃないと、再会した時に本気で殺されそう。
『ラプターはいつも、どこか面倒臭そうにしている節があった。詳しく追及しても口を割らない為、少し実力行使に出て、クラウスやオリヴィエと一緒に稽古に参加させ、大義ある訓練という名の尋問を開始した』
「あ、今思い出した。エレミア、絶対に後で泣かす」
『結果、僕が勝ちはしたが驚いた。彼はエンジニアとして優秀なだけでなく、戦闘面でもオリヴィエ、クラウスに全く引けを取らない。僕ですら、後一歩のところで負けるところだった。彼の秘術―――無限連環機構は、本当に厄介この上ない。6個の中央魔法陣に、64個の外側の魔法陣。どれも一つ一つが大魔法に匹敵するほどの補助効果があるにも関わらず、6時間ずっと、それを維持していた。詳しい事は教えてもらえなかったが、あれはまさしく、人類を超越するオーバーテクノロジーの一つだと僕は思う』
「エレミア、生きてたら100本勝負するぞオラァ」
『そして試しに、彼に体術を教えてみた。彼の戦い方は、正直どの枠に当てはまらないような無茶を平気でやらかすようなスタイル。ただ、それは一流の敵と戦えば、突破力さえあれば見事に倒されてしまう―――現に、オリヴィエとクラウスと模擬戦をやった際には、12時間ずっと勝負がつかなかった。これは、どちらも決定打に不足した為だ』
「あの二人マジバケモノ。一時、64個全て〝防御機構〟とかにしちまったじゃねぇか」
愚痴を垂れる口は止まらない。読み進める手は止まらない。
『教えてみた結果―――まるでスポンジのように技術を吸収していった。成長スピードはもはや異常のレベルだ。飲み込みが早い、というか応用力がおかしい。一度覚えればそこからどんどん派生していって―――純粋な格闘戦で、一時は僕ですら打ち負かされかけた』
「結果相打ちで終わったけどな。てか、神髄使ってない時点で引き分けといえるかどうかすら怪しい」
『彼は素晴らしい原石だ。しかし、聞くところによると魔法がほぼ全く使えず、効果付与の魔法陣を描く魔法くらいしか使えないらしい。飛行魔法もあまり得意ではないという話だ』
「今は全部改善済み。肉体変わっていろいろ不便になったけど」
『これでは、神髄を教えることは出来ない。いや、そもそもアレは人に教えるような技ではない。何を考えているのだ僕は』
「全くだ」
丸腰で何百人の相手をケロッとした顔で屠ってくる技とか、人に教えるようなものではない。
『そういえば、何やらシュトゥラの森の悪戯猫魔女と仲良くなっていた。いつの間に、などと思ったが、次の日には僕がその悪戯に引っ掛けられた。単純な落とし穴だ。普通に、それくらいであれば避けられたのだが―――避けた瞬間、謎の黒い生物Gが、蜘蛛の子を散らすように大量に出てきて、僕は思わずその穴ごと、庭園の四分の一を焦土にしてしまった』
「よく免罪になったよな。あの時、空から見てて、空中で転がり回りながら魔女と大爆笑してたっけ」
その後こっ酷く叱られて、エレミア・オリヴィエ・クラウスVSラプター などと言う理不尽を強いられたが、今となっては良い思い出だ。
『後から聞いて見れば、それはラプターの幻術魔法だったらしい。これは更に後で聞いたが、どうやらこちらの滞在期間中に宮殿内にある蔵書を漁って覚えた魔法らしい。やられた。してやられたと思って腹いせに三対一の勝負―――勿論、ラプターを一人にして模擬戦という名の処刑を開始した。しかし、結果は引き分け。おかしい、どうしてこの短期間でここまで強くなったのだろう?』
「努力の賜物」
『ただ、どうやらラプターも遊びまわっていた訳ではないらしい。一日中暇人に見えたが、陰で仕事はしっかりと熟していた様で、もう既に和睦の交渉は終わらせてしまったらしい。では、何故此処に残るのかと思って聞いてみたら―――何て答えたと思う?』
「う、む・・・・・・」
途端、どうしてか文句垂れ流しの口の歯切れが悪くなる。
『曰く、〝ミニ暴君様は人の扱いにおいて本当に暴君だから帰りたくないでござる。拙者働きたくないでござる〟と言ってきたのだ。この時、僕とオリヴィエ、クラウスとクロゼルグは大爆笑したものだ』
今思えば、和睦を終えた後にすぐに帰ればよかったと、後悔している。
『しかし、笑い合えたのもほんの一時だった。何せ、ガレアが謎の疫病により、滅びかかっているという伝達が、その後間も無くに来たのだ』
そう。後悔の念は、全てそこに存在する。
『彼は手早く僕たち全員に別れを言うと、人間とは思えない速度でガレアへと返って行ってしまった。何だかんだ言って、盟主想いの優しい臣下だ』
―――だが、とその本には、少し滲んだ字でこう書かれていた。
『それ以降、彼の姿を見た者は―――誰も居なかった』
そう。この時点で、人生は既に幕を閉じている。ガレアは崩壊し、イクスは重病に掛かり、延命治療の為仕方なく眠らせ、抗体プログラムを打ち込んだ。そこまでは良かったのだが・・・・・・今度は何十万を超えるマリアージュが暴走し、結果、ガレア国内全マリアージュVSラプターという、総力決戦をする羽目になり、そこで戦死する。
「あとちょっと早ければ、助けられたのになぁ・・・・・・」
しかし、ただ眠らせただけだ。遺跡の最深部へと運び、そこに眠らせた。だから今も―――生きている可能性が、高い。
「あーあ・・・・・・やること増えちった」
現代に生きているかもしれないイクスの捜索。そして、子孫の居る可能性のあるエレミアへのリベンジマッチ。クラウスをフルボッコ。やることは、たくさんありすぎる。
「・・・・・・あ、義手の製造方法」
一番欲しかったデータが、愚痴を垂れ流している内に見つかった。ならば、この文献は持ち帰らねばならないだろうと、そう考えて丁寧に、本をテーブルへと置いた。
「えーっと・・・・・・後はもう、いいか。また今度にしよう」
山のように積まれた本を左手だけで持ち、そして貸出受付の方へとそれをそこのテーブルにドンッ! と置く。決して強く置いたわけではなく、単に本の量が多いだけだ。
「これ全部貸出をお願いします」
「えっ、こんなに!?」
受付の人に、信じられない! というような目で見られた。読書家なだけなのに・・・・・・解せぬ。
「えーっと・・・・・・合計54冊。その内、貸出許可が必要なものが43冊・・・・・・になります」
「えーっと、ちょっと待っててください」
とりあえず、ホロウィンドウを出現させてレジアスにメール。本の名前を全て記入して―――貸出許可申請を要求。送信、と。
「今、レジアス・ゲイズ中将に仲介してもらって今、貸出許可を貰っている所です。俺はそこで本を読んでおきますので、確認出来たらまた声を掛けてください」
「は、はい。分かりました」
若干引いている受付員は放っておいて、本の束をドサリとテーブルに置き、その中から適当な一冊を引っこ抜いて読み漁る。
『この技術伝承書は、古代ベルカの戦闘技術を総編集したものであり、奥義などといったものは乗っていない。ただし、戦闘において必ず役に立つことは保証する。以下からは、魔力を使わなくとも実践することの出来る戦闘技術を乗せる』
頁をめくると、そこには文字がギッシリと詰まって、色々な技術のことが事細かに、書かれていた。
『旋衝破:これは相手の魔法攻撃、主に魔力弾の威力をピッタリ殺し、受け止め、そして相手に投げ返す技。通常であれば当たれば即攻撃を食らうのだが、これは触れた瞬間に大気を震動させ、そこで魔力弾と全く同じ速度で手を引き、大気を震動させつつそのベクトルをゼロにして、掴み取る技。他の流派がどうかは知らないが、我々の流派ではそういう原理になっている。ただし、それはあくまでベクトルがゼロになり相手の制御下から半分離れた状態になっている場合だから可能なだけであり、ベクトルがゼロであっても完全に相手の制御下に置かれている状態であれば、掴めば普通にダメージを食らう。その為、見極めが困難かつ度胸の必要な技だ。まぁそもそも、この技を完成させているのであれば魔力弾など怖くないだろうが』
つまり、魔力弾に慣れてしまうほど食らって初めて完成する技らしい。怖く無ければ、もうこんな技要らなくなる気がする。ただ、インファイターにとって魔導師に対しての防御策を張るのと張らないのではかなり勝率にも影響する為、覚えておくに関して損は無いだろう。そんな感想を心の中で呟きながら、ラプターは次の行を見る。
『旋衝破の覚え方:とにかく書いてあることを試すべし。試して試して試しまくり、大体五百回程度反復練習すれば、恐らく出来るようになっているだろう。大気の震動のさせ方は、〝震脚〟または〝発勁〟を参照』
つまり、最低でも五百発くらいの魔力弾はその体で受け止めろ、ということらしい。何とも残酷な技術伝承書である。
ただ、その二つの技が気になった。まだ見たことのない技術の名称に心を躍らせながら、その項目を目次で探し、そしてページを開く―――
「お待たせいたしました。貸出許可、全て確認いたしました」
「んっ? あぁ、そっか。うん、ありがとう」
受付員に礼を言って、再び本を読む体制に入る。
「・・・・・・こっちはまた今度で良いか」
技術伝承書を机の上に置き、今度は〝ロストロギアの詳細データ〟という分厚い本の目次をみて、そこから夜天の書・闇の書という項目を見つけ出し、そのページを開く。
『夜天の書・闇の書:本来の名を〝夜天の魔導書〟と呼び、これら全ては同一のものである。ただ、夜天の魔導書であった時代から闇の書に変わった時代は定かでは無く、また無限にある次元世界を長い時の間転生し続けた為、今どこにあるのかも不明。
本来は主と共に旅をして、各地の偉大な魔導師の技術を収集し、研究するために作られた収集蓄積型の巨大ストレージ。しかし、歴代の持ち主の何人かがプログラムを改変したために破壊の力を使う〝闇の書〟へと変化した。頁数は全666頁。改変により、旅をする機能が転生機能に、復元機能が無限再生機能へと変化してしまった。これらの機能があるため、闇の書の完全破壊は不可能とされる
』
書かれた文章は、ここで終わっていた。そこから先は、何故だが空白となって、次のページを開けばまた別の項目に変わっていた。
「無駄極まりないな」
すぐに次の項目に移ればいいものを。と、ラプターは苦笑しながら思い、その本を机の上に置く。
「義手の製造方法書いて、とりあえず申請だけ出しとくか」
製作は早いほどいい。そう考えて、ラプターはレジアス宛にメールを書く。先ほど読んだ本を手に取り、そのページを開いて、本文に事細かに、現代のミッド語で製造方法を記していく。そして―――送信。
これで本当に、やることが無くなった。
「もう少し、読み漁ってみるか」
帰ってもやることが無い為、ラプターは無限書庫の中でずっと、本を読み耽るのであった。
◆
「む・・・・・・? ラプターからか」
メールの受信を確認し、すぐにそちらを確認する。どうせ、義手の件だろうと予見したし、早く手を回さず、後で何か言われても面倒なだけだと考えたのだ。
本文の内容を確認する。最初は流し読みする程度の、ただの確認の為に読んでいたのだが、レジアスはその文から徐々に、徐々に目が離せなくなっていた。
「なんて、ことだ・・・・・・」
それは、驚嘆だ。何かに絶望したのではない。いや、ある意味では絶望的だったかもしれない。何せこの義手の件―――表に回せるような代物、ではないのだ。明らかに。それは、魔法知識の聡くないレジアスですら、分かる事だった。
こんなものを要求したのがアイツだとバレれば・・・・・・考えて、それだけはダメだと確信する。これがもし本局にでも知れ渡れば、ラプターを強制的に手放さなければならない事態に陥る。これをこのままいつも通りの調子で注文すれば―――地上本部の優秀な魔導師がまた一人、引き抜かれてしまう。教会に。
「奴に頼むのは・・・・・・ダメだ。悪用されれば、俺らが壊滅しかねん」
考えを却下する。アイツの技術力には絶対的な信用を置いているが、人として終わっている。こんなもののデータを差し出せば、喜んで悪用しかねない。
コンコン。と、その時、まるでタイミングを計ったようにドアをノックされる。
「入れ」
許可を出すとドアは開き、そして三名の者が入ってくる。
一人目はゼストだった。いつもながら、その人相のせいで管理局の制服が似合わない奴だ、と思う。
二人目は、青い長髪の若手の陸戦魔導師―――この地上本部のエース級の、クイント・ナカジマ。
三人目は、紫色の髪の、クイントと同じ年齢の―――こちらも地上本部のエース級の、メガーヌ・アルビーノ。
そう言えば、と思い出す。ゼストとメガーヌは、確か古代ベルカについてそれなりに齧っていたなと。
「施設の捜索許可を貰いに来た。後はお前が判を押すだけだ」
「・・・・・・」
この三人になら、このデータを見せても大丈夫だろう。三人とも、信用のおける部下たちだ。力になれなくても、これを公表するような真似は、絶対にしない筈だ。
「三人とも、少し俺の後ろに来い」
「・・・・・・は?」
意味が分からない、といった風に最初は全員が固まるが、レジアスが「早くしろ」というと、三人は言われた通り、レジアスの事務机より奥、彼の椅子の隣に並んで立つ。
「今から見せるデータは、見れば分かると思うが絶対に公開するな。口も滑らせるな。内密にしろ。いいな?」
「待て。話が見えてこない」
ゼストの言葉に、レジアスはそれもそうか、と思い仕方なく、一から説明をする。
「貴様が連れてきたラプター・プルートだが、その入局の条件で、義手を用意しろというものがあっただろう?」
「それと内密にしろだのと、一体何の関係がある?」
「見れば分かる・・・・・・のだが、念の為に説明する。これは、恐らく古代ベルカの、最重要文献の一文からの抜粋だ。俺がラプターに、無限書庫への立ち入り許可を出したのは、覚えているだろう?」
「あぁ、確かに忙しそうに出していたな。しかし、古代ベルカの文献の一文と義手と、一体どういう関係が―――」
「その前に約束しろ。三人とも、この件に関しては、極秘事項として、処理すると」
「・・・・・・」
ゼストはしばし考える。レジアスの表情を見て、判断を決めようとしているのだろう。
「お前達は、どうする?」
ゼストは隣の二人―――クイントとメガーヌに問い掛ける。
「えーっと・・・・・・どう、と言われましても・・・・・・そもそも、私が力になれるのかどうか・・・・・・」
「心配はするな。ただ、意見を聞きたいだけだ。―――この義手の制作を、どこに回せばいいのか、な」
「・・・・・・そんなに危険な代物なのですか?」
メガーヌがレジアスに聞いてくる。レジアスは迷うことなく「あぁ」と首を縦に振る。
「それと、俺もこれに関して、正確には分からんのだ。どれくらい危険なのか、どれくらい凄い物なのか。問題は―――」
「ラプターを教会に引き抜かれる恐れがある。そういうことか?」
「正解だ」
ゼストの言葉に、レジアスが頷く。これは困ったものだと頭の痛い思いをゼストも強いられる。まさか、そのような事態になっていようとは。
「つまり、正規の手段では重要な新人を他にとられてしまうので、そうならない為にも意見が欲しい、と?」
「そういうことだ」
クイントの問いはまさに的を射ていた。クイントもメガーヌも、レジアスの知る限りは誠実な人間だ。だからこそ、このような裏工作は嫌うだろうと思った。
しかし、最近では綺麗事ばかりも言っていられないのも、また事実。貴重な戦力は、一人でも多く確保したいのは、陸のものであれば誰もが―――いや、そもそも管理局全体で、同じ意見だろう。
「分かりました。お力になれるかどうかは分かりませんが、この件は決して、口外しません」
「私も、この件に関して口外しないとお約束します」
「ならば、俺も断る道理はないな」
クイントが了承するとメガーヌが了承し、そして最後にゼストもその事を了承した。恐らくゼストは、部下に無闇なリスクを負わせることを、良しとはしなかったのだ。だからこそ、二人の意思表示の提示を求めた。つくづく出来た友だと、レジアスが心の中で称賛する。
「データは送らない。足跡すら、正直残したくはないからな。文面だけど見て、判断してくれ」
そう言うと、レジアスはゼストの方へとそのメール文面表示を寄せる。
三人とも、最初は気を張って損した、と言いたげな表情だったのが、徐々に、徐々にと表情を険しくしていく。どうやら、しっかりとその意味を理解出来たらしい。
「とんでもない、代物だな」
読み終わったゼストが感想を言う。ゼストの感想に、クイントとメガーヌも頷く。どうやら、此処に居る誰もが同じ意見の様だ。
「というかこれ、古代ベルカの、それも一番レベルの高い文献の一文に見えるのですが・・・・・・」
「もし、そんな文献を易々と解読できるような人材が居ると知られたら―――」
「確実に、教会に引き抜かれる」
メガーヌ、クイント、ゼストの順に言う。息の合った三人だと内心で思い、いつもなら苦笑の一つもするのだろうが、今はその様な余裕はどこにもない。
「そういうことだ。―――ゼスト、どうやら俺達は、とんでもない奴をスカウトしてしまったようだ」
「・・・・・・正直、予想の斜め上をいった。優秀過ぎて困るとは、このことを言うのだろうな」
「しかし、一体どうするのですか? 既に義手の要求をされている時点で、彼を留めるにはこれを受ける他にありませんけど・・・・・・」
「あ、居るじゃないクイント。昨日、貴方の旦那が言っていたわよね? 古代ベルカ関連で良い知り合いが出来た、って。確か、ギル・グレアム? だっけ」
「メガーヌ、少し違うわ。ギル・グレアムさんはゲンヤの大先輩で、そのグレアムさんの知り合いの・・・・・・何て言ったかしら、確か、ハヤテ・ヤガミ、とか何とか。その子が古代ベルカに、深く精通しているのよ。詳しくは教えてもらえなかったらしいけど」
「それ、頼んでも無理なんじゃない? それに、技術力や信用問題の方もあるし、この件に関しては難しいわ」
「それもそうね・・・・・・。すみません。力になれずに」
メガーヌが発案したのに、どうしてクイントが謝罪しているのだろうか・・・・・・と、中年二人は思った。
「しかしそうなると・・・・・・やはり、個人でまた別の者に内密で頼むのが良いのだが・・・・・・逆に外の者にこれを取り扱わせるのは危ない」
「だがうちの部には、これを作る技術力も人材も存在しない」
ゼストとレジアスは頭を抱える。これはいよいよ、詰みの状態に入っている気がしてならない。しかし、ラプターという貴重な人材を手放すのは、どんなことがあっても避けたい。
「・・・・・・あ」
そうだ、と思いついたようにゼストが声を上げる。何か案があるのかと他三人が注目する中、ゼストはやや歯切れが悪くも、口を開く。
「一人、技術的には絶対の信頼を置ける者が、うちの部には居たな」
「何だ? 妙に歯切れが悪いぞ」
「いや、なに。そういえば、ラプターのようなことが、つい最近もあったな、と思ってな」
「まさか・・・・・・ゼスト、お前、正気か?」
「あぁ、問題はない。それに、同一人物ではない。時間軸の違う存在で、技術力は高い。現状打破には、これしかないぞ?」
「いや、しかしだな・・・・・・それは良いとしても、奴が話を受けるかどうか―――」
「大丈夫だ。何せ今、奴の娘を助けられるのも、ラプターだけじゃないのか?」
「・・・・・・どういう事だ?」
怪訝に眉を顰め、レジアスが聞く。すると、レジアスは何かのデータを、レジアスの方へと送ってきた。
「それを見てくれ。本当はもう少し後に報告するつもりだったが―――これを見れば、嫌でもラプターは切りたくなくなる。そもそもレジアス。お前、妙だとは思わなかったのか? あのラプターの、消滅したような右腕について」
「それが、何だというんだ?」
「とにかく、まずはデータを見てみろ」
促され、レジアスが仕方なくそちらを優先して、ゼストが送ってきたデータに一通り目を通していく。
「・・・・・・これは、まさか・・・・・・いや、だがもしそうだとしたら―――」
「そもそも、おかしいと思わなかったか? 何故、ラプターは自分の魔法だけでなく、あの小動物を調べないように、厳重に条件を付けてきたか」
「いや、しかしまだ決まったわけでは」
「小動物の方の名前は、ナハト」
「っ!?」
レジアスが驚愕し、再びゼストが送ってきたデータを見る。そしてゼストを見て、もう一度、データを見る。
「・・・・・・近日に起きた、闇の書事件、及び闇の欠片事件―――死亡者、〝ラプター〟? 解決者も、〝ラプター〟・・・・・・だと?」
「そう、ラプターは両方を、根本から解決している。出現した日付は、一週間くらい前。それと、追加の添付ファイルがあるだろう? それは、レジアスの権限を借りて無理矢理提供してもらった物だ」
「ゼスト・・・・・・後で覚えておけ」
恨み言を言いながら、器用に操作して添付ファイルを開く。すると、そこには更に詳細な事件の記録が書かれていた。
「まったく、過ぎたオーバーテクノロジーだ。自分の奥の手を教えたくない理由も、小動物を調べて欲しくない理由も、それを見れば一発だった」
「・・・・・・永久、機関? 馬鹿な。古代文明にも、そのようなものは―――」
「無かったと、言い切れるか?」
ゼストの言葉に、レジアスは押し黙るしかなかった。
「それを見れば分かるだろうが、ラプターは闇の書を―――正確にはその管理人格を浄化してしまうほど、システムエンジニアとして優れている。アレは一種のプログラム体だ。必要とされるのは、システムエンジニアとしての、実力だ。そこに武力は必要ない、のだが・・・・・・ラプターはその前に一度、戦闘を行っている。流石に極秘事項となっていて、何とは分からなかったがな。ただ、バケモノであったことは、そこを見て分かるだろう?」
ゼストの言葉を要約すれば、ラプターは本来システムエンジニアとして類を見ないほどに優れており、その技術を持って尚、戦闘能力において秀でたモノを持っている、ということだ。
「そして最後、何て書いてある?」
「・・・・・・闇の書の防衛プログラム、ナハトヴァールを吸収した際に、その害が、およそ一週間で発症。腰から下が麻痺し、余命は残り1日ほど。その為、ラプターは最後、自らをアルカンシェルの軌道上に置き、そこでナハトヴァールの浄化を行い・・・・・・これに失敗。アルカンシェルの砲撃にて、死亡」
「これで全て、説明がつくだろう? つまり、ラプターは永久機関を魔法で生み出せるが人目につくのを嫌い、更にラプターの肩に乗っていた小動物はこの防衛プログラム、ナハトヴァール。ロストロギアを所持しているなんて知られたら事だからな。
本人が言っていた危機一髪のところを脱出したとは、このアルカンシェルを放たれた瞬間に、何とか右腕を犠牲にしてギリギリ生き残った。右腕が消滅したように無かったのも、それで説明がつく。
そしてそんな咄嗟の事だ。無人世界やらに飛ばされて困り果てるのも、おかしくはない。だから次元移動の使えない自分では無くナハトヴァールにこれを頼み、そしてこちらに移動する時に膨大な魔力余波を生んだ。元がロストロギアだ。次元余波でオーバーSなど、朝飯前だろう。それにラプター自身が、あの小動物をこう呼んでいた。ナハト、バカプログラム、と。
余命が一日と言っていたが、今も生きている。これは、ナハトヴァールを処理出来たと見て間違いない。それでもアルカンシェルを撃たれたのは、恐らくタイムリミットと同時に浄化が終了したのだろう。ラプターが出した条件が、10分らしいからな。
そしてラプターが次元移動を使えないからこそ、ここで出てくるのがナハトヴァール。浄化と同時にアルカンシェルを撃たれた。つまり、ナハトヴァールはアルカンシェルが着弾する前には、既に自らの正常な意識を取り戻していたことに他ならない。そして、次元移動をナハトヴァールは使用した。―――これで、決まりだろう?」
「え、嘘・・・・・・クイント、あの子、そんなに凄い子なの?」
「隊長の調べたことだから・・・・・・まず、間違いないと思う」
ゼストの完全な推理に、レジアスはグウの音も出ない。否定材料も存在しない。
しかし、一つだけ疑問は残った。
「ならば何故、ラプターは自分の存在を隠そうとした?」
そう。ゼストから送られたラプターの提示条件には、こう書かれていた。〝一つ、俺が所属している部隊で、俺が居る事を公開しないこと〟と。これは明らかに、自分の存在を隠したいがために、提示した条件に他ならない。
「それは分からない。判断材料がそもそも無い。恐らく、知られたら何か不都合なことがあったのだろう」
その部分は推測にすぎないが、ここが不安定だからといって、今までの推理が間違っている材料になるかと言われれば、否だ。
「で、話を元に戻そう。奴の娘を治すには、確か極めて高度な・・・・・・それも失われた古代技術ほどの医療技術と、システムエンジニアとしての技術が、必要なのだろう?」
「・・・・・・まるで、悪役だな」
「しかし、今はこれしかない。それに結果的には、全てが上手くいく。古代ベルカの文献をスラスラと読めるんだ。医療技術くらい、どうにでもなるだろう。それに奴も、相当な技術者だろう? それなら、何も問題は無い」
「しかしこれはまた、本人に伝えなければいけない上に―――俺が、本の貸し出し申請許可を貰わねばならんのか」
「これだけの逸材を、むしろそれだけで留められるんだ。悪い話ではない」
「・・・・・・分かった。ゼスト、クイント、メガーヌ。お前達は、奴の方に話をつけてくれ。情報提示は、そちらの判断に任せる。今回の事件の出撃は、あまり重要ではないだろう? ならば、また後日に回せ。今はこっちの方が大切だ。俺はラプターの方に話をつけておく」
「了解した。そっちも頑張る事だ」
「むしろ俺より、そっちの方が面倒だと思うがな。・・・・・・それとこれが、義手製作のデータを入れたメモリーだ。無くすんじゃないぞ」
「あぁ。それじゃあ、俺達はこれで失礼する」
「あ、失礼しました」
「失礼しました」
そう言ってから、三人はレジアスの作業室から出て行った。全く持って前途多難な日常だと思いながらも、それを悪くない、と思う自分が居る。
「まさに今が、最初で最後の、チャンスなのかもしれないな」
そう。これはチャンスだ。地上本部を、泥沼の底から引き上げる、最後の、チャンス。
そのチャンスを台無しにしない為にも、レジアスは出来る限りのことを実行に移す。ただただ、地上本部の為に。地上の皆の為に、持てるすべてを出し尽くすのだった。
さて、レジアスやゼストの言う「奴」とは誰なのか。もしかすれば、文章から既に分かった方が居るかもしれません。
今日は同時に二話投稿しているので、よろしければそちらもどうぞ。
感想、批判、ご指摘などを、心より、お待ちしております。
また、お気に入り登録してくださっている方、ご愛読者様にも、感謝を込めて。
―――ありがとうございます。
※ガレアのところがガリアになっている部分を修正いたしました。原作に大変な失礼をした行為、心よりお詫び申し上げます。