叶わぬ願いⅩ   作:チャンプルン

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Blank Period4:Test and Cure

 ラプターが管理局に入局して、三日が経つ。ついに、この時が来たのだ。

 

『それでは、魔導師ランク取得試験を開始する。ラプター・プルート。小動物を置いて中に入れ』

 

 館内アナウンス。これはレジアスの声だ。言われた通り、入口近くの椅子にナハトヴァールを置いて、ラプターは演習場へと入っていく。

 

「・・・・・・Sクラス騎士が、試験官ですか?」

 

 目の前に居たのは、ゼストだった。魔導師ランクSのベテランが出るとはまさか、夢にも思っていなかった。

 

「デバイスも片腕も無いということを考慮しても、お前の立場は少し厄介なのでな。特別に俺が試験官になった。ただ、負傷やハンデがあるからといって、手加減はせんぞ」

 

「では、新技のサンドバックにでもなってもらいます」

 

「出来るものならな」

 

 挨拶代わりとばかりに軽口の叩き合い。そしてラプターは今回、無限連環機構を使うつもりはさらさら無かった。何故なら、アレばかりに頼るのは、自分の戦いの勘を鈍らせるからだ。それに今回は、格闘技で文字通り新技を身に付けてきた。それを試すに当たっても、無限連環機構を使っては試す意味が無くなってしまう。

 

『それでは、準備は良さそうだな―――始め!』

 

 レジアスの合図と共に二人が同時に突撃する。ガァン! という炸裂音のような金属音のような音を鳴らしながら、二人は衝突する。

 

 ゼストのデバイスは薙刀だ。今はギリギリ刃ではない棒状の部分に当てたから左腕は無事だが、まともにその刃に触れれば本当に切り落とされかねない。何せ、今は魔力による防御がほとんど無しの状態なのだから。

 

「デバイスに魔力補助無しでこれとは・・・・・・何という、馬鹿力だ」

 

「お褒めに預かり、光栄、ですねッ!」

 

 返しの言葉と同時に地面を踏み鳴らし、ゼストのデバイスに向けて震動だけを打ち込む。するとゼストはそれに反応してすぐに後方へと飛び、ラプターとの距離を開けた。

 

「震脚、か。また厄介な技を」

 

「あら、知っていたか」

 

 ゼストの言うとおり、今打ったのは地球出自の武術、震脚。地面を踏み抜き、その振動を体の至る所に、または周囲のあらゆる空間に伝導させ、攻撃する技法。接触さえしていれば、効果は十全に発揮できるのが、この技術の長所といえる。

 

「じゃあ、次はもちっとこっちに馴染みのある技でいきますか」

 

「来い!」

 

 左手を腰の横に垂直に構え、腰を低くする。そして次の瞬間には、急激な加速を見せた。

 

「っぬぅ!?」

 

「シュペーア・ファウスト!」

 

 昔習った通りに、今の肉体で、それを実践し、体を慣らす。しかし、教えられた原形ではなく、それを更に威力の高い形へと昇華させ、使う。これが、ラプターのあの時からの戦闘スタイル。いや、本来の戦闘スタイルといえる。

 

 低空タックルの急加速からの、勢いを殺さずに発勁を加えた拳で敵を殴打。本来ならば魔力強化した拳での殴打なのだが、それではあまりに非効率的だったために、ラプターが自分の好みの形に変えて、取り込んだ格闘術。

 

 しかしゼストも甘くは無い。その殴打をデバイスで受け踏ん張ることで、地面から宙に浮かずに耐えたのだ。これには流石に驚きを隠せないが、ラプターには驚く暇さえ無い。次の手に出なければ、間違いなくこの騎士は反撃に出てくるからだ。

 

 こちらの加速の勢いは殺されたが、未だに宙には浮いている。ならばと、ラプターは両足をゼストの薙刀に押し付け、そして足をその押し付けた状態で震脚―――本気の踏み抜きを行う。これは行動の通り、震脚の応用技だ。

 

「カノーネ・バインW(ダブル)!」

 

 まるで砲撃の発射音のような音が鈍く聞こえたかと思うと、ゼストは今度こそ吹き飛んだ。足をほとんど曲げていた状態だった為、それをバネにしたのも功を成したのだろう。

 

 室内の壁に叩き付けられむせるゼスト。しかしすぐに立ち上がり、再び薙刀を構える。

 

「今のは相当効いたぞ。未だに手が痺れている」

 

「そりゃどうも」

 

「本当に、片腕無しによくここまでやるものだ。本来ならここでもう合格判定をくれてやってもいいくらいなのだが―――」

 

 会話の最中、ゼストが急加速する。しかし、ラプターは反応を遅らせることなく、その目で武器を捉え、そして適切な防御を行う。

 

 薙刀の軌道に合わせて左肘を出来る限り魔力強化して、震脚で地面を踏み抜き、更に発勁を使うことにより、魔力と震動と衝撃、三つの層が肘をすっぽりと覆う。が、もちろん目には見えない。

 

「これは限界を試すものなのでな。途中合格は許されない!」

 

 ガンッ! という鈍い衝突音と共に、再び地を鳴らす。肘をすっぽりと覆った三つの力と薙刀のベクトルが小競り合いをしていたのを、もう一度行った震脚が決め手となり、その薙刀を僅かながら弾くことに成功する。しかし、本当に僅かなので追撃出来るような間も無く、仕方なく急ぎ距離を取る。なお、左肘は無傷だ。

 

「まったく、こちらは魔力強化して全力で振るっているのにな」

 

「こっちだって、震脚と発勁と魔力にもう一度の震脚の計四工程を踏んで防いでいるんですけどね」

 

 お互いに一歩も譲らない。いや、その前にゼストは未だに本気ではない。打ち込みは本気化もしれないが、それと技術面の本気は全くの別物である。

 

「さて、ならば準備運動は終わりだ。ここからは、単純に力だけと思わないことだ」

 

 ゼストが警告してくる。それはつまり、技術面でも本気を出すという合図―――!

 

「行くぞ!」

 

 再びゼストが突進をしてくる。ここまでは、先ほどと変わらない。しかし、この次に、先ほどとは違う、明らかな変化があった。

 

 ラプターは先ほどと同じ行動をして防御しようとした。震脚からの左肘を薙刀の軌道上に出し、魔力で防御しつつ発勁を使い、敵の薙刀が左肘の力場に当たるのを待った。

 

 しかし、ゼストの薙刀はその軌道を全く別のものへと変えた。最初は唐竹かと思った軌道が、横切りのそれに一瞬で変化したのだ。これにはラプターも目を見張ったが、それでも体は反射的に反応し、肘から拳を上へと向け、再び震脚を行い、左腕を加速。そして、綺麗に弧を描く薙刀の軌道から予想される、最終的に攻撃されるポイントの一歩手前に、アッパーを繰り出せるようにする。もちろん、相手の薙刀の速度も計算して、だ。その為の、震脚による加速だ。

 

 だがしかし、、ゼストはその更に上手をいった。ちょうどピンポイントの位置にこないと迎撃出来ないのを知ってか知らずか、綺麗な横切りの軌道を、斜め下に変えたのだ。ゼストが狙うは、ラプターの左太ももだ。

 

 だからこそ、ラプターは自分に出来る最後の手段―――全体重を地面に向けて落とし、倒れ込む。震脚は使わない。使った所で、意味は無いから。使用するのは、肘と魔力と発勁と全体重。

 

 そして、もうこれ以上は変化しないだろうと、ラプターは思っていた。これ以上軌道が変化すれば、ほぼ間違いなく敗北が確定してしまうからだ。

 

 しかし、ゼストはラプターの想像に収まるような男ではなかった。

 

「ッ!?」

 

 軌道が更に変化した。まるで、肘の攻撃から逃げるように、右肩に向けて―――つまり斜め上に向けて、軌道を完全に変えたのだ。既に今使える全技能は使い、ネタ切れだ。今更回避することなど、まず間違いなくゼストが許してくれる筈がない。そもそも、ラプター自身が避ける為のネタなどもう持ち合わせていない。

 

 こんな時、右腕があればまだいくらでも対処は出来たのだが―――やはり無い物ねだりをするものではない。

 

 薙刀が綺麗な軌跡を描いて、左肘の攻撃から逃れる。ひらり、とまるで蝶を思わせるような柔軟な動き。武人として言葉を贈るなら、見事の一言に尽きる。

 

 だが、それでもタダでは終わらない。ラプターは刃の触れる、本当に刃が触れる部分をピンポイントに、極細の魔力シールドを、右肩に展開する。もちろん、極度に薄い為にゼストにはそれが見える筈がない。薙刀の軌道は変わらず、そのまま、まるで魔力シールドに吸い込まれるようにして迫り―――

 

 キィィン! という、甲高い金属音の後に、ゴォオン! という大地を穿つ音が聞こえた。

 

 つまり、どちらの攻撃も不発したのだ。薙刀の斬撃はピンポイントに展開したシールドに防がれて、甲高い金属音が。左肘は目標を失い、ただ悲しく大地を抉り、そして砕き、破砕音が。

 

「っ!」

 

 軌道変更を多様にしようしたせいか、ゼストの攻撃は通常より大振りになっていた。そして、ラプターは地面に伏せた状態で、足場を深さ30センチ、半径0,7mほど、崩した。崩した足場の範囲内に、ゼストは足を着いていた。

 

「くっ!」

 

 足場が崩れ、体制を崩すゼスト。その隙にラプターはすぐに立ち上がると、既にゼストは体制を整えて薙刀を再び振るう動作に入っていた。左腕は完全なフリー。相手は両手で薙刀を握っている。ラプターは完全に立ち上がれた。ゼストは薙刀を振るった。

 

 そしてこの瞬間に、ラプターは勝つのを諦めた。だが、負けようと思っている訳ではない。ラプターの目が、何よりそれを物語っている。彼の闘志はまだ、消えていない。

 

 ゼストから振るわれる薙刀。ゼストとの距離は少しだけある。だからこそ、ゼストは刺突しなかった。刺突より薙ぎ払いの方が、当たるのが早いからだ。

 

 ラプターは振るわれた薙刀を避けない。しかし、左腕を出す。

 

 薙刀は、先の何十センチかだけが、刃となっている。それ以外はただの棒と全く変わらない。つまり、手で防ぐときは、その部分を持てばいいのだ。

 

 半ば無理矢理に、ラプターは発勁にてゼストの薙刀のベクトルを殺し、その薙刀を脇でガッチリとホールドする。近距離戦、それもゼロ距離は不味いと考えて、しかしデバイスを手放すのは更に愚策だと考え至り、ゼストは左手だけを薙刀から離し、拳を握る。その間に、ラプターはゼストの右腕をガッチリと掴み、何十センチか跳躍して、ゼストより少し高い位置に、頭を持っていく。

 

 そんなことをしている間に、ゼストの左の拳がラプターの鳩尾を捉え、そしてめり込んだ。しかし、ラプターは必死にゼストの右腕に握力を加えて踏ん張り、左拳の威力が消えたところで、左腕で右腕をホールドしたまま頭を思いっきり後ろに引く。

 

「ま、まさか―――!」

 

 ゼストが気付いた。しかし、その時には既に遅かった。回避も、防御も、何もかもが遅かった。

 

「ディバイン・シュラーク!」

 

 ゼストが最後に見たのは、ラプターが自分のデコの中心に砲撃魔法を撃つための魔力をチャージしていた光景と、こちらにものすごい勢いで近づくその頭。

 

 ―――つまり、頭突きだ。デコにディバインバスターという名の爆弾を搭載した、頭突き。

 

 その頭突きがゼストの頭に直撃した瞬間、お互いの頭が轟音と共に大きくシェイクされ、その衝撃で脳震盪を起こし、ゼストとラプターはお互い同時に、意識を失うのであった。

 

 

                                      ◆

 

 

「イテテ・・・・・・あ~、頭が痛い」

 

「二日酔いの気分―――いや、それ以上に悪い・・・・・・」

 

 それから三時間後に、ゼストとラプターは起き上がった。お互いにまだ痛む頭を抑えながら、苦悶の声を上げる。

 

 試験の結果として、勝負は引き分け。つまり、ゼストと同格の強さと処理され、ラプターは正式に、陸戦魔導師Sランクを所得していた。

 

「それにしても、最後のはアレ以外に、方法は無かったのか?」

 

 ゼストの言うアレとは、〝男女平等ディバインバスター搭載式全力頭突き(ディバイン・シュラーク)〟のことだろう。しかし、相手が薙刀などという武器を持っており、尚且つあれほど繊細な軌道変化をすることが出来るのであれば、もはや詰んでいた。アレ以外に、方法は無かった。

 

「俺が武器持っていたら、もうちょっと考慮した。だが、武器持ってないのに斬撃系武器をインファイターに使うとか、もうあれしか方法無いだろ」

 

「・・・・・・次手合せするとしたら、デバイスが出来た後にしよう。アレはもう二度と、食らいたくない」

 

「善処する」

 

 普通の人間ならトラウマレベルの自爆攻撃なのだろうが、ゼストは頭を抑えるだけで別段辛そうではなかった。どれだけ頑丈に出来ているんだ、このおっさんと思ったことは内緒だ。

 

「ただ、次は集束砲撃魔法バージョンを試そうと思う」

 

「その時はお前の頭を叩き割ってやるから覚悟しておくんだな」

 

 少し脅しのつもりで言ってみるも、ゼストは恐れることなく逆に堂々と、そう言い返してきた。流石はSランク騎士。肝が据わっている。

 

「それで、真面目な話なんだが・・・・・・どの集束砲撃魔法が一番威力が高いと思う?」

 

「まさか、本気でやる気なのか?」

 

「やる。今度は震脚とかすればきっと、脳震盪を起こさないで済む」

 

 その場合は相手より身長が高い事が条件になるのは―――置いておこう。身長など、いずれ伸びていくものだ。

 

「俺だから良かったが・・・・・・他の奴にはあまりやるな。絶対に、トラウマになる」

 

 ゼストの忠告に、とりあえずは頷く。当分このような自爆技使う事は無いだろうなと、心から思ったからだ。

 

 そもそもラプターは、つい最近―――ほんの二週間ほど前に、直射型の砲撃魔法をマスターしたばかりなのだ。集束砲撃魔法は使えない。使おうと思えば、また一から練習が必要になってくる。

 

「だけど俺って、あんまり砲撃適性高い方じゃないんですよね」

 

「当たり前だ。あんな技を発想する奴が、適性あって堪るか」

 

「今度砲撃魔導師にこの技教えてきます」

 

「犯罪者が可哀想だ。やめてやれ」

 

「犯罪者は撲滅すべし! きっとこれを砲撃魔導師全員に教えれば、犯罪者も反省する筈」

 

「その前にトラウマが植え付けられるだろうがな」

 

「それが目的だからね~」

 

「とにかくやめろ。そんなことして存在が露見しても、俺達は面倒見てられないぞ」

 

「ま、それもそうか」

 

 軽口と冗談とツッコミの応酬。これだけ話せれば、お互いに既に頭痛も大丈夫なのだろう。

 

「あっ、メール来てる」

 

 気付いて、とりあえずホロウィンドウを開いてその文面を確認するためにメール画面を開き、そしてメールを確認する。

 

『義手の方は無事、片付きそうだ。ただし条件がいくつか付いた。今からすぐに、地上本部地下2階に来てくれ』

 

「・・・・・・地上本部、地下2階? そんな場所あんの?」

 

「ん? あぁ、大方あっちの交渉のケリがついた様だな。だが・・・・・・口で説明しても、分かる場所には無いからな。俺が案内しよう」

 

 そう言うと、ゼストはベッドから起き上がり医務室を出て行く。ラプターもそれについていく為に、すぐにベッドから降りて、ゼストの後を追うのだった。

 

 

                                     ◆

 

 

「へぇ・・・・・・そりゃ気付かない訳だ」

 

 地上本部地下2階の入り口。それは、レジアスの仕事部屋の本棚の後ろに隠してあったエレベーターからのものだった。どうやら入口はそこしかないらしく、また出口もそれだけらしく、地震でも来て入口が塞がったら完全に詰むような場所だった。

 

「到着だ」

 

 と、エレベーターは止まり、扉が開く。外に出て、部屋の中を見てみれば―――何やら、怪しい機器が大量に、ついでに生体ポッドまである。ただし、機能するかどうかは不明。

 

「言っておくが、これを作ったのはレジアスではなく、先代の中将だ」

 

「おっと、危ない。危うくあのおっさんに頭突きするところだった」

 

 危なかった。あの攻撃でトラウマが生まれる者が出なかったことに、ゼストはホッと安堵して、その部屋の奥へと向かう。

 

「結構広いな・・・・・・」

 

 ただの隠れ部屋程度に狭いと思っていたら、地下2階はかなり広いスペースになっていた。生体ポッドがざっと見三十二機はあり、更に資料や研究結果を書くために用意されたであろう机は8台ほどある。それでいて空間に十分な余裕があるのだから、本当に広い。ぶっちゃけレジアスの仕事部屋より豪華だ。

 

「お、来た様だな」

 

 奥の部屋に入ると、そこにはレジアスの他に、見知らぬ人物が二人―――いや、正確には見た事あるような人物一人と見知らぬ人物一人がいた。

 

 見知らぬ人物の方は、黒と紫の中間の色の長髪の、三十代前半くらいの女性だった。

 

 もう一人は、何やら硬そうで無機質な台の上に乗せられていた。年齢はまだ十にもなっておらず・・・・・・五、六歳程度。金色の綺麗な長い髪が特徴的な少女。

 しかしこの顔、どこかで見た覚えがあるような・・・・・・。

 

「それで、本当にアリシアを治してくれるのね?」

 

「っと、少し待て。ラプターにはまだ、詳細を伝えていない」

 

「・・・・・・てか、何の騒ぎ?」

 

 状況が全く飲み込めていないラプターは、ただ周囲をキョロキョロと挙動不審に見る事しか出来ない。

 

「ラプター。お前は確か、闇の書事件にて、闇の書の防衛プログラムを浄化したと聞いている。それは本当か?」

 

「え? あぁ、まぁそりゃ俺だけど」

 

「ならば、それと同じ要領でそこのアリシア・テスタロッサを治すことは可能か?」

 

「・・・・・・あぁ、なるほど。つまりそこのアリシアとやらを治せば、義手は作りますよ。そういうことか?」

 

「アリシアを治してくれるなら、何だってしてあげるわ」

 

 何だってって・・・・・・まさか、親バカなのか? などと思いつつも、とりあえず魔力で目を強化してまずは目視で解析する。

 

「・・・・・・あー、人間タリィ。DNAデータ一つずつ分析せにゃならんのか」

 

 片手間に解析しながら、死んでいるかどうか脈を取り―――死んでいない事を確認する。

 

「死んでいないけど、眠ったままってことは、脳死状態か、それとも何かが原因で眠っているだけか・・・・・・ふむ」

 

 とにかく全身を見て、何か異常なデータが紛れ込んでいないかチェックをするが、そんなものは何処にもない。

 

「衰弱とかそういう気配も無ければ、何か特別異常なものを摂取したわけでもないときたか・・・・・・。正直、専門外もいい所だな。他に何か分かっている事は無いのか?」

 

「私たちが、過去から未来に・・・・・・26年ほどタイムスリップしてしまったことくらいね。あとは・・・・・・次元航行エネルギー駆動炉ヒュウドラの暴走した時に、飛ばされた、ということかしら。アリシアの方はいつ飛ばされたのか、正確には分からないわ」

 

「あ~・・・・・・ちょっと待って」

 

 条件を絞り込み、その本人のデータを事細かに解析していく。一応魔力で目を強化すれば、基本どんなものの情報も入手可能なのが、この〝観察眼〟の良い所だ。情報量がそこら辺にある草木でも億を超えるという、デメリットはあるが。

 

「呼吸器官は全て正常。脳も異常なし。・・・・・・リンカーコアも正常、と。って、何だこれ? 何かが体の中のデータを書き換えて・・・・・・あ、んン? え・・・・・・?」

 

 ラプターの顔から、余裕がスゥッと消えていった。代わりにそこにあるのは、焦燥と哀れみ、そして怒り、だけだった。

 

「・・・・・・残酷だけど、アンタ、諦めろ。これが現実だ」

 

「え・・・・・・?」

 

 女性の顔から、血の気が引いていく。

 

「俺ですら、これは〝体の内部全ての情報を凍結させて進行を止める〟ことしか出来ない。全盛期の時にやった結果がそれだ。今じゃ明らかに、無理だ」

 

 まさか、こんな事になるとは思わなかった。此処に居る四人の誰もが、そう思った事だろう。事実、ラプターですら、この事態は予測していなかった。

 

「問題点を、簡潔に挙げていく。

 その1.俺の魔力が圧倒的に足りない。

 その2.俺の脳が途中でオーバーヒートする。

 その3.とにかく処理速度が追いつかない。

 その4.人手が足りない。

 どうやっても、いたちごっこなんだ。どれだけ元通りにしても・・・・・・直した端から情報を書き換えられる。

 ―――これは昔、古代ベルカ時代にガリアで流行り、ガレアを滅亡させた病気だ」

 

「どうにか、どうにかならないの!?」

 

「俺がどれだけ無理しても、処理速度が文字通り追いつかないんだ。そして俺と同じ技術をもつ者も居ない。教えられるものでもない。大方、詰みに入っているな」

 

「・・・・・・お前が直した端から、第三者がその部分の情報を凍結させる―――を繰り返せば、どうなる?」

 

「・・・・・・は?」

 

 不意に、ゼストが口を開いた。今まで黙りっぱなしだったのに、今だけはそうやって口を開いた。

 

「そういえば、お前にはまだ奴の名前を教えていなかったな。奴はプレシア・テスタロッサ。魔導師ランク条件付きSSの、魔導師だ。情報を書き直した瞬間に凍結させることくらい、問題ないだろう」

 

「・・・・・・どうなんだ? プレシア・テスタロッサ」

 

 少し考えてから、ラプターが女性、プレシアに訊く。すると彼女は問題無いかのように、一度頷いた。

 

「出来るわ。キッチリと正確に、確実に」

 

 そう言われ、ラプターは考える。作業時間と、効率的問題の時間について。

 

 部分によるのだが、作業時間は一か所につき本気でやれば1秒掛からない―――が、その量が半端では無く、すぐに書き換えられるために、この流行病は、恐ろしい。

 

 この病の本当に恐ろしいところは、進行スピードと元に戻さなければならない器官の量だけだ。

 

「・・・・・・条件を、二つ付けさせてもらう」

 

 ピースがカチリ、とはまった気がした。それも良い方向で。希望が、見えた。

 

 だからこそ、後はモチベーションの問題だ。自分のモチベーションを上げる為にも、ラプターはプレシアに対して条件を付ける。

 

「一つ。アリシアを完治させることが出来れば、地上本部専任の技術開発要員になれ。

 一つ。これも同じくアリシアを完治させることが出来た場合、この病にある人物が掛かっている。それは俺の大切な人だ。だから、もしその人が見つかった時に、絶対に手を貸せ」

 

 モチベーションを上げるのは、この辺りだろう。どちらにしてもラプターの利益にもなれば、他の者の利益にもなる。

 

「分かったわ。それで、アリシアが助かるのなら」

 

「契約成立。ナハト、出てこい」

 

『ほぇ~? 何々~?』

 

「こいつはひょんなことから俺の仲間になったナハトヴァールっつう奴だ。今からこいつに、俺とプレシアの全思考をリンクさせてもらう。・・・・・・それと、今回は例外中の例外だ。俺の秘術を、お前だけに教える」

 

『思考リンクね~。了解~』

 

 気の抜けるのんびりまったり声で言いながら、魔法―――というか元から内蔵されているシステムを使って、ナハトヴァールはラプターとプレシアの思考をリンクさせた。

 

(まぁ、俺の思考とリンクしているなら、俺と同じ様にやればいい)

 

 中央に6個の魔法陣。そして、外側に64個の魔法陣を展開する。48個を〝制御機構〟にし、残り全てを〝魔力精製機構〟にする。

 

「―――オーケー。そっちも展開出来たな。やり方も何処を凍結させるかも、すぐに頭に入ってくる筈だ。思考リンクしているからな。・・・・・・準備は良いか?」

 

「いつでも大丈夫よ」

 

 ならば、やるか。リベンジマッチ。昔の自分が敵わなかった、相手に。

 

「1分以内に決める! フルドライブ!」

 

 アリシアに手を当てて、脳のリミッターを吹っ飛ばし、本体思考を16384分割までして、神速の如き速さで、作業は開始されていった。

 

 まず、頭全体を一気に、分割した思考が元のデータを読み取ってそれに書き直す。メチャクチャにされているのは細胞や遺伝子の内部データだ。だからこそ、魔力によるデータ処理で処理することが出来る。

 

 3秒。それで、頭から首に掛けての書き直しは終わる。プレシアが情報の凍結をして、もうこれ以上書き換えられないようにする。―――成功だ。

 

 続いて、右手から右肩にかけて正常化作業を行う。もう既に激しい頭痛が襲ってきて言えるが、そんなものは関係ない。とにかく、今はこの少女を完治させることが何より重要視されるのだから。

 右手から右肩、完了。すぐにプレシアが凍結させ、そして今度は左手から左肩に移り―――こちらも一瞬にして作業を完了させ、次の腰から両膝にかけてを正常化させる。その後は右膝下、左膝下と作業を順調に進めていき、それに合わせて全くロスすることなくプレシアが情報を凍結させていく。

 

 本来であれば、この速度でやっても、進行を進めていくのがこの病気だ。しかし、今は限りなくプレシアの情報凍結魔法に助けられている。だからこそ、これほどに作業がスムーズに進んでいるのだ。魔力が足りないのも、一人でやればいたちごっこになるからであり、これほど順調に進めば、魔力は十分に足りる。

 

「最後、胴体!」

 

 ここまでに掛かった時間は僅か20秒程だ。そしてここが最終関門。まず、胃などの、心臓以外の臓器を正常化させては情報凍結させる。そして最後に残るのが―――心臓。

 

「っぐ・・・・・・」

 

 クラッ、とラプターが眩暈に襲われ、思わずアリシアに当てた手を放しそうになるが、それを何とか堪えて、最後の処理―――心臓部分を、正常化。同時に、プレシアが情報凍結させた。

 

「ッ、チェック!」

 

 すぐに全ての部分にウイルスが潜伏していないか、スキャンする。分割している思考が膨大な量のデータを処理していき、そして開始からちょうど一分―――

 

 ―――アリシア・テスタロッサの病気は、完治した。




 さて、今回タイムスリップしてきちゃったプレシアとアリシアの登場です。ついでにゼストとの対決です。

 プレシアとアリシアのタイムスリップに関しては原因とかもちゃんとありますが、それはまた今度公開されます。

 皆様の感想、批判、ご指摘を心よりお待ちしながら、次回の話を執筆していこうと思います。あ、お気に入りの方も出来れば登録してほしいなぁ。

 また、お気に入りに登録してくださった方々、二次創作者チャンプルンの我儘を聞いて下さり、誠にありがとうございます。

 さてさて、そしてついにラプターの新技、男女平等ディバインバスター搭載式全力頭突き―――通称ディバイン・シュラークが登場。軽くトラウマものの技です。これをなのはやシュテルが使える事になったら・・・・・・ダメだ。怖すぎる。

 と、余談はここまでにして、次回を楽しみに、お待ちしただけたらと思います。
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