「お前のデバイスと義手、両方が完成した」
そう告げられたのは、今より三日前のことだった。管理局入局から三週間ほどが経ち、ようやくその報せが来たのだった。
「それで、アリシアは何処も異常はないよな?」
「えぇ。今は至って健康な状態よ。私も仕事がひと段落したし、ようやく子育てに集中出来るようになったわ」
「そりゃおめでたいことで」
ラプターとプレシアは演習場で走り回るアリシアを見て話していた。
アリシアの治療は無事に上手くいった。しかし、再発のリスクも極微量にだが存在した、といった状態だった為、念の為の確認だった。
「それで、私が製作した義手の方はどうかしら?」
「絶好調。やっぱりレシピが良かったのもあるけど、作り手の技術が凄いわ。今じゃもう元の右腕より動くくらいだ」
ラプターは右肩を回しながら右腕をブンブンと振るって見せる。うむ、今日も絶好調だ。
ただしこの義手、戦闘目的で作られた為か指というものが存在しなかった。それが不便といえば不便なのだが―――戦闘面では十全の力を発揮しているので、統計学的に差し引きゼロ、といったところだ。
「それと、前から不思議に思っていたのだけれど・・・・・・いいかしら?」
「ん?」
何を不思議に思っているのだろう、と逆にラプターが不思議に思っていると、プレシアはそのことを躊躇なく聞いてきた。
「闇の書のことよ。確か、貴方が浄化したのよね?」
「あぁ、そうだが? それがどうかしたのか?」
表面には出していないが、内心では驚いていた。なにせ、プレシアはロストロギアについて全く興味が無いと思っていたのだから。
「どうやって浄化したのかしら?」
「まず、魔力で目を強化して〝観察眼〟を使って解析。その後にデータの海から改悪されたプログラムを見つけて、それを集めて最終的にはマルチタスクでそれらを浄化処理していった」
「それは、どの項目を対象にしたの?」
「ナハトヴァール―――闇の書の防衛プログラムだ。まぁ、今は完全に繋がりが切れて、独立したプログラムになっているけどな」
顎を動かして小動物形態でアリシアと戯れているナハトを差す。しかしプレシアは、釈然としない表情で、口を開いた。
「確か闇の書には、無理に外部からの操作をすると、その主ごと飲み込んで転生するシステムが、あった筈よ」
「・・・・・・えっ?」
ラプターの顔から、血の気がサァッと引いていく。顔面蒼白とはまさしくこのことで、しかしプレシアはそんなラプターに構うことなく疑問を口にする。
「まぁ、そのシステムはそもそも闇の書の本体の方に関係する事項だから、管理人格に直接そういったプログラムを植え込むのは、セーフなのかもしれないわね。それに結局、貴方が自分の体内に防衛プログラムを吸収して改変したわけであり、闇の書には直接触れなかったわけだから、起動しなかったのかもしれないわね」
「すまん。ちょっとナハト連れて行ってくる」
「え?」
と、プレシアが反応した瞬間には、既にそこにラプターの姿は無く、同時にナハトの姿もどこにも見当たらなかった。
「母様? ナハト何処に行ったか知らない?」
「さ、さぁ・・・・・・」
アリシアの純粋な疑問に、プレシアは曖昧な返事を返すことしか出来なかった。
◆
「全く、ようやくひと段落だ」
山積みになった問題を9割方解消して、レジアスは一つ溜息を吐く。ここ最近、事件の件数が増えているのもあるが、何よりデバイスの件の後処理がとにかく大変だった。
ゴンゴン! と、その時に非常識なノックが聞こえてきた。もはやこの非常識なノック、する奴はラプターしか居ないとレジアスは分かっており、だからこそ「入れ」などとは言わない。どうせすぐに、平然とした顔で入ってくるのだから。
「ちょっとアースラまで旅行に行く許可くれ」
挨拶なしに入って来て早々、上司に対してこの物言い。まだ十歳ばかりの少年であり、こちらから頼んでここに居座ってもらっているので、口のきき方などに対しては何一つ指導は出来ない。これは最近のレジアスの悩みの一つになっていた。
「馬鹿者が。あそこは他の隊の領域だ。無理に決まっているだろうに」
「なら第97管理外世界〝地球〟までの旅行許可くれ。ついでに経費も出してくれ。というか今すぐ行かせろ」
「理由を言え」
「闇の書事件が終わっていない可能性がある。事後処理に行く」
「分かった。ミッドの臨界空港の、これに書かれているゲートに乗り込め。一番後ろ側の席は、テロ対策の為に管理局員スペースとなっているからな。これなら経費から落とせる」
「行ってくる!」
そんな2分にも満たない短い遣り取りで、ラプターを他世界派遣してしまうあたり、レジアスがラプターをどういう風に使いたかったのか分からなくなってくる。
しかしまぁ、レジアスもふざけた理由であれば即却下していた。今回はたまたま闇の書事件との関係があると聞いたからこそ、行かせただけだ。多少はラプターが後で面倒な事を起こさない為という理由も含んでいるのだが、一番の理由は他世界派遣に慣れてもらう為と、こちらから率先して貸しを作って非常時に使える様にする、というのが目的だった。
ラプターは至って誠実な人間だ。多少性格に難があるように見えるが、結局のところは言葉遣いが悪いせいでそう見えるだけで、根は普通に善人なのだ。本当に困っている時は協力してくれるだろうし、何より貸し借りには堅実だ。休暇返上してもらう理由として、これ以上の理由は無い交渉材料となる。だからこそ、レジアスは素直にラプターの行動を許したのだ。
「さて、今回の行動がどう転ぶか・・・・・・まぁ、こちらは露見しても何も困らないのだがな」
レジアスは急ぎ、ミッドの臨界空港にラプターが警備班として乗ることを伝える為、メールを送るのだった。
この件でどう転んでも、地上本部は痛手を負わない。むしろ、ラプターは公式な資料として闇の書事件の解決者となっているのだ。今は死亡扱いになっていても、もしそれが復活したなどと世間に広まれば―――確実に、その現所属部隊が、注目のスポットライトを浴びる事になる。
また、これは初任務という形で今後付けの書類を作っている。ラプターほどの腕前の局員が、現時点の三等陸士で収まっていいはずがないのだ。任務で一つでも功績を残せば、それだけで昇進の理由に繋げる事が出来る。
全くもって、ラプターを入局させてから更に忙しさが増す毎日だが、それと同時に地上本部の発展の土台が築き上げられている手ごたえを、レジアスは感じ取っていた。
もう少し、もう少し時間が経てばと思いながら、レジアスは書類仕事に没頭するのだった。
◆
「ふぅ、地理がさっぱり分からん」
あれから、ラプターは何事もなく〝地球〟に到着していた。荷物はトランクの中にある服や下着、そして無限書庫から借りた大量の本だけだった。
ポケットマネーは約日本円にすると五万円。任務経費として降りた宿泊費などは五十万円ほどだ。正直、なぜここまで任務の待遇が良いのか理解に苦しむ。
そしてすぐにはやてに会いに行こうとした矢先に、ラプターが一番困ったことがあった。地理が分からない、と。
「えーっと、海鳴市には・・・・・・」
一応、はやての住所は調べた。行く前にささっと調べて、ちゃんとわかった。
しかし、地理に関してだけは調べるのを忘れていたのだ。困った様に頭を掻きながらも、とりあえず標識などを見て、現在地が何処なのかを確認する。
「・・・・・・ふむ、ナハトはこの辺りの地理分からないのか?」
どうやら、めぼしい情報は見つからなかったらしい。
『私が目覚めたのはアルカンシェルぶっぱされると同時だったからね~。全然分かんない』
全くもって使えないロストロギアだった。
「しゃあない。オーディン、この辺り一帯の地図を頼む」
『(了解)』
管理局が総力を結集して作った最新技術の塊のデバイス、名を〝オーディン〟。命名はラプター。このデバイスのコンセプトはどうやら、全能のデバイス、とのことらしい。だからこそ、何となく無限書庫の中にあった本の中の神話に出てきた全知全能の神の名を取って、ラプターが命名したのだ。
実際、オーディンの性能は他のデバイスと比べて明らかに群を抜いていた。インテリジェントデバイスであるだけでなく、自己進化機能というものがあるらしく、無駄にアップデートやデータを追加したりしなくて良いらしい。また、戦闘面でも優秀であり、セットアップした場合には指の先から二の腕までを覆うガントレットとなり、強度、熱耐性、共に優秀。レジアスから聞いた話では、誰かが悪戯でかなり出力の高いAMFを組み込んだという話もあるみたいだが、事実かどうかは不明。少々不安の残るデバイスだが、その能力は十全に発揮してくれている。
現に、今も地図を数瞬のうちに検索し、ホロウィンドウで展開してくれた。その地図を見る限り・・・・・・どうやら、海鳴臨界公園という場所らしい。
「俺が調べたはやての住所を検索して、そこをマークしてくれ」
言うやすぐに、その位置はマッピングされる。実際はやての住所もこのオーディンを使って調べたわけで、やはりマークを付けるのは一瞬で終わった。
「・・・・・・おっ、結構近いじゃねえか」
徒歩にして約10分。しかし、急がねば。手遅れにならぬ前に。
「ナハト、しっかりと掴まっておけよ」
『え、ちょっとまっ―――ッ!?』
ナハトを肩にしっかりと掴まる様に警告して、その後すぐに急加速する。ナハトが何かを必死に念話で伝えてくるが、そんなことは後回しだ。今ははやての様子をすぐにでも見て、無事かどうかを確認しなければならないのだから―――!
「っとと、危ない。通り過ぎるところだった」
少しスピードを出し過ぎていた為、ただのスニーカーでは止まるのが難しかったが、通り過ぎる事だけは回避する。
「今何時?」
『6:32』
と、表示される。これもオーディンの機能だ。このオーディンに搭載された時計機能は最大23:59まで表示される為、今は朝の6時32分となる。
「時差ボケしたな。まあいっか」
時差ボケを自覚しながらも、何の躊躇いもなくインターホンを鳴らす。そして三秒して誰も出ない為、もう一度鳴らす。しかし、二秒しても誰も出ない為、もう一度。一秒しても誰も出ない為もう一度。0,5秒して誰も出ない為もう一度。0,25秒しても誰も出ない為もう―――
「このような朝っぱらから何処の無礼者だ!?」
と、現れたのはディアーチェだった。冬だからかセーターを着て出てきたあたり、既に目覚めていたと分かる。目も眠そうな気配はない。うん、まさしく健康体。
―――で。
「よっ、おはよう。そして久しぶり」
手を前に出して軽いノリで挨拶をする。
それを見た瞬間、ドアを開けたまま、ディアーチェがしばし硬直する。しかし、すぐに目つきをキッ! と鋭くすると、その目に怒りを宿して怒鳴った。
「貴様ら・・・・・・よもや、ラプターの姿をして出てきおったか!」
「・・・・・・はい?」
ディアーチェの様子が、明らかに違う。朝早くからインターホン連打されて気分が悪いとか、そういった様子では無い。まるで親の仇でも見るような目で、ディアーチェはラプターを見ていた。
「って、ちょ、結界!?」
しかも広域結界。周辺の空域を付近の空間から切り抜き、相互干渉できないようにする、という結界魔法だ。これを用いる際には、大抵、何か激しい戦闘行為を行う時などに限られてくるのだが・・・・・・。
「レヴィ、シュテル、ユーリ、子鴉! ラプターの姿を謀る不埒者を、今ここで仕留めるぞ!」
「え、謀る?」
意味が分からない。というか、何だろうこのギスギスとした戦闘モードは。などと少しの油断をしていると、横から何かが飛んでくるのが目の端にチラッと映る。
「光雷斬!」
「のわぁ!?」
間一髪で、横から飛んできた光の刃をトランクを置いて空へと逃げて避ける。今のは明らかにレヴィの声。それもこちらを本気で攻撃してきていた。一体、何がどうなっているんだ!?
「ちょ、待て! 約束破っちまったのは謝るから! ここは平和的に―――」
「問答無用! 恩人に成りすました不埒者を、この手で葬ってくれるわ!」
ダメだ。話し合いが通用しない。それも成りすまし詐欺か何かと勘違いされている為に余計に収拾がつかなくなっている。
「ナハト! 何か良い案考えてくれよ!」
『もう夜天の書と切り離されているから私に言われても知らないよ!』
「ふっざけるなぁぁぁ!? っとわあちっ! 熱線とかありかよコノヤロウ! オーディン、何か良い案ないか!?」
『(誤解を解くことが先決ですが、話し合いが通じない時点で実力行使する他無いかと)』
「ちっくしょう! オーディン! とにかくセットアップ!」
『(了解しました。セットアップ)』
刹那、両手の手の先から二の腕にかけて魔力粒子に覆われ、そしてデバイスが展開される。
見た目は黒く、機械的だが、漆黒の金属は怪しい光を帯びており、どこか不気味なものを思わせる。
「くっそがぁ! 相手は誰だオラァ!?」
「僕たち全員だよ」
と、突然後ろから声が掛かる。振り返って見れば、そこにはクロノが居た。
「ちょ、クロノお前まで―――あぁ、フルメンバーか」
なのは、フェイト、はやて、クロノ、ユーノ、アルフ、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、リインフォース、シュテル、レヴィ、ディアーチェ、ユーリ。全員勢揃いのこのメンバー。
「・・・・・・オーディン。これって逃げた方が良いよな?」
『(逃げられれば、そうですね)』
「分かってたよコンチクショウ!」
全知全能のオーディンですらこの反応。これはもう、生き残ることが最優先される状況にある・・・・・・!
「・・・・・・はやて、ディアーチェ。僕からはどう見ても、あのラプターは本物のように見えるんだけど」
「騙されちゃアカン。あれはラプターの皮被った偽物や」
「騙されるでない。容姿や行動は似ているが、アレは間違いなく闇の欠片ぞ」
「お前等もしかして約束破った腹いせにわざとやってんじゃねぇだろうな!?」
「「問答無用ッ!」」
もはや言葉は通じない。分かっていたが、言葉が通じない。おかしい、同じ言語で話している筈なのに・・・・・・。
「紫天に吼えよ、我が鼓動!」
「響け終焉の笛!」
―――ッ!? 不味い。アレは明らかに集束砲撃魔法以上の攻撃力を誇っている。チャージや詠唱しているところを見るだけで、それが分かるほどに強力な魔法!
「オーディン! こっからはガチでいくぞ! 俺ももう切れた! 訓練成果、男女平等ブレイカー搭載式全力頭突きを叩き込むぞ! あの二人に!」
遂にラプターが切れた。攻撃しようとしているのははやてとディアーチェのみで、他の全員は高みの見物を決め込んでいた。
ディアーチェの闇色の魔法陣が五つに分散する。はやての前にベルカ式の三角形の純白の魔法陣が出現する。
「出よ巨重―――ジャガーノート!」
「―――ラグナロク!」
闇色の大きな弾丸が飛んで爆散し、辺りが闇色の爆発に包まれる。純白の光が一直線上に、真っ直ぐにラプターを包み込む。
「グングニル!!」
刹那、闇色と純白の全てが消し飛んだ。何故消し飛んだか。それはラプターが本気で怒り、ラプターとオーディンの成せる最大出力打撃を繰り出し、ラグナロクとジャガーノートを相殺してしまったのだ。
「えっ!?」
「なっ!?」
「はやて、ディアーチェ」
いつの間にか、ラプターは二人の前に居た。連携プレイをする為に近くに居たのが、今は逆に仇となって二人はラプターに首根っこを容赦なく掴まれる。
「テメエ等一度―――」
ラプターの額に光が集まっている。それは明らかに、砲撃魔法―――それも集束砲撃魔法のチャージの合図だ。
「反省しやがれぇぇェ!!」
チャージし終わった瞬間、ラプターは怒鳴りながら自分の頭を思いっきり後ろに引き、そして前へと本気で加速を付けると同時に二人の頭を同時に自分の方へと接近させた。
その瞬間、爆音、轟音、破砕音、閃光、悲鳴が、結界内を包み込んだのだった。
◆
「ったく、今度やったらまたさっきの〝男女平等ブレイカー搭載式全力頭突き〟・・・・・・通称ブレイク・シュラーク、ぶち込むからな」
「「はいもうしませんすみませんでした」」
はやてとディアーチェがシンクロして反省する。これだけやればもう大丈夫だろうと思い、とりあえず溜息をひとつ吐く。
現在、先ほどいたメンバーは全員アースラの医務室に集合していた。
ラプターの全力頭突きを食らった二人は、あの後目を回しながら気絶してしまったのだ。その為にすぐにアースラの医務室へと運ばれて、今の今までずっと治療を受けていた。
ただし、ラプターが死なない程度には加減していた為、内部的な破損は無く、ただの脳震盪を起こしただけに収まった。ただし、頭突きを食らった二人のデコは未だに赤い。
「あ~、新技二つも披露しちまったじゃねぇか。ったく、次はディバインバスターとブレイカーを二つ搭載した頭突きでもやってみっかなァ・・・・・・」
ぶるっ、とはやてとディアーチェ二人の体が震える。それは先ほどの頭突きの恐怖を思い出してしまったからだ。トラウマには・・・・・・なっていないことを願う。
「てかテメエ等。特にはやて。今回テメエの為にわざわざレジアスに借り一つ作ってまで来たのに、随分な挨拶してくれたよなァ?」
「ま、まぁまぁ。ラプター、そのくらいにしてあげなよ。二人ともトラウマになっているぞ」
クロノの仲裁が入り、仕方なく引き下がるラプター。そして先ほどのラプターの言葉に、リインフォースが反応を示す。
「主のため・・・・・・?」
「あぁ。プレシアっていう科学者から聞いたんだよ。〝闇の書には、無理に外部からの操作をすると、その主ごと飲み込んで転生するシステムがある〟ってな。まさか俺が下手に操作してはやてが闇の書に飲み込まれているんじゃないかと、今日知ったのに今日の朝早くから上司に借り一つ作ってミッドの臨界空港の地球行の飛行機に乗ってはるばるすっ飛んできたんだぞ」
「そ、そうなんや・・・・・・」
しゅん、とはやてが落ち込む。どうやら、本当の意味で反省をしたらしい。
「ったく、それだけ元気なら問題なさそうだが・・・・・・念の為、調べさせてもらうぞ」
ベッドの上に居るはやての頭に手を乗せて、〝観察眼〟で検索範囲を絞って何か異常がないか見て・・・・・・何も無い事を確認してから、ラプターははやての頭から手を放す。
「ったく、とんだ骨折り損のくたびれもうけだ」
つまり異常なし、ということである。
「・・・・・・ってか、はやて。お前、顔真っ赤だぞ? 熱でもあんのか?」
「ふぇっ!?」
「いや、奇声上げられても困る。医学に関しては全く知識ねぇから、そこまでは面倒見れないからな」
「う、うん・・・・・・」
―――妙だ。いつもならノリの良いはやてが、何故かいつになくしおらしい。先ほどの事をまだ気にしているのか、それとも本当に病気でも患っているのか・・・・・・分からん。
「僕たちは、どうやらお邪魔の様だな。みんな、いこう」
クロノが言って退出すると、次々と部屋の中から出て行って―――最終的に部屋の中はラプターとはやてとディアーチェのみとなってしまう。
「ったく、お前達は悲しんだかもしれないけど、俺だって大変だったんだぞ? ナハト救った、と思った瞬間にアルカンシェルで蒸発しかけて、ナハトに次元移動で救われて。そして気付いたら無人世界に居たから仕方なく軽犯罪になると分かっていてミッドチルダまで移動して、その後は地上本部にスカウトされて・・・・・・やれやれだよ」
はぁ、と溜息を吐いて言葉通りやれやれ、といった風な仕草をする。
「・・・・・・貴様、まさか我を忘れている訳ではあるまいな?」
「誰が忘れるか。生還しないと地獄で消し炭にしてやるとか言う女を、俺は一生忘れねえよ」
「なっ・・・・・・!」
ラプターのおどけて言った言葉に反応して、ディアーチェが絶句する。羞恥と怒りからか、その顔は徐々に赤みを帯びていく。
「貴、様ぁ・・・・・・こちらに来い!」
「へいへい」
これは腹パンくらい食らうかな、などと軽い気持ちでディアーチェの方へと近づく。
「しっかりと、目を瞑れ」
「はいはい」
若干顔が赤いディアーチェに命令されながら、苦笑してそれに従うラプター。目を瞑り、いつ来るか分からない痛みにグッと耐えようと気を引き締めた時だった。
―――チュッ。
頬に柔らかい感触が伝わってきた。ついでに、効果音まで付いてきた。
咄嗟に目を開けて見てみると、既にディアーチェは先ほどの体勢に戻っていたが―――その顔は先ほどより真っ赤だった。
「お前・・・・・・」
「ふんっ! 生還したことに対しての褒美に過ぎん。しかし、王からの褒美だ。ありがたく、受け取るのだぞ!」
「・・・・・・」
今度はラプターが絶句した。まさかこの王様モドキの少女が、ここまで可憐で可愛い女の子に見えるとは、思わなかったのだ。
「・・・・・・こほん」
と、硬直してディアーチェを見詰めてしまっていたラプターを我に返したのは、そんなわざとらしいはやての咳払いだった。
「王様可愛いし、見惚れるのは分かる。せやけどウチをはぶって桃色空間展開は、ちょお酷いんちゃう?」
「え? いや、む、むぅ・・・・・・」
『これが俗に言う修羅場って奴か~』
「ナハト、お前は少し黙ってろ」
「否定せんっちゅうことは、本当に王様ラブなんか!?」
「何でそこまで話が飛んだ!?」
「そ、そうなのか、ラプター・・・・・・?」
「っ!?」
ディアーチェの、絶対に普段は見られないであろう、か弱い女の子としての姿。それに上目遣いが加わり、またもや見入ってしまいそうになり―――それを何とかグッと抑え込み、練習したが滅茶苦茶下手な念話をオーディンに送る。
『状況を打破する手段を!』
『(ハーレム)』
ダメだこのデバイス。使って3日で壊れてしまった。もうオーディンとかいう名前ではなくインキュバスとかにすべきだったかもしれない。帰ったらすぐにメンテナンスに出してやろう。
「ま、今日だけは許したる。ウチの為に、何も顧みずに駆けつけてくれたんやろ?」
「まぁ、な」
「だったら、今はそれで満足や。ウチは見ての通り、超元気や。それにラプターの心配しとったプログラムは、もうずっと前に解決しとる。心配せんでも、大丈夫や」
「そうか・・・・・・よかった。本当に、良かった」
あの時の二の舞にならずに、本当に良かった。もし、二の舞になっていれば・・・・・・ラプターは、過去のトラウマから、絶対に抜け出すことは出来なかっただろう。
しかし、この少女は強かった。ラプターの見落としていた部分を、この八神はやてという少女は補ってくれていた。本当に、強い少女だ。
「む、ラプター、何故に泣いておる?」
「何でラプター、泣いとるん?」
「えっ・・・・・・?」
言われて、目元に手を当てて初めて気が付いた。自分が、涙を流している事に。
「ははっ・・・・・・過去の二の舞にならなかったのが、嬉しいんだよ」
涙を流したまま、ラプターがはにかむ。その笑みは、どこまでも優しさが溢れている、眩しい笑顔。はやてとディアーチェの大好きな、笑顔だった。
「大丈夫。大丈夫よ。ウチは死んだりせぇへん。だから、大丈夫」
「そうだぞラプター。我らは決して、撃ち滅んだりはせぬ。我らは王なのだ。滅びれば、王の民も滅びる。だからこそ、王は滅びぬ。滅びるわけにはいかぬ。そこの子鴉も、夜天の王。決して滅びたりはせぬ」
ギュ、とラプターの首に手を回して、はやてとディアーチェが抱き付く。しかし、ラプターの涙は止まらない。
「王だからこそ、リスクを背負う事がある。俺には分かるんだ。かつて、イクスがそうだったように、オリヴィエがそうだったように、クラウスがそうだったように、誰しもがリスクを負っていた。そして俺の力及ばないせいで―――俺は王を、救えなかった。だからこそ、王様名乗る奴は、心配で堪らないんだ。かつて俺が、命を代償にしても、救えなかったから。側近だったにも関わらず、俺は王を救えなかった」
「でも、ウチらのことは救ってくれた」
「U-Dの暴走と、そこの子鴉は管理人格、加えてナハトヴァール。貴様は全てを救った。貴様は立派に、王の側近としての役目を果たすことが出来た。自信を持つのだ」
「あぁ・・・・・・そうだったな。―――ありがとう」
ギュ、と二人の後頭部に手を添え、抱きしめる。持ちず持たれずのこの関係が、今はどうしようもなく、ラプターの心を癒してくれた。かつて救えなかった王に対するトラウマを、和らげてくれていた。
『(覗き見とは感心しませんね)』
と、急に待機形態の指輪型デバイス、オーディンが点滅しながら発言する。はて、覗き見とは一体、などと思い、二人を放して首を後ろに向けようとして―――首が何かの力によって動かない事に気が付いた。
「お、おい・・・・・・? なんか、首が動かないんだけど」
「王様。ここは平等に、二人同時に、って思うんやけど」
「しかし、それは流石に不純ではないか?」
「王様がえぇなら、先手必勝や!」
何を話しているのだろうと考えた矢先、ラプターははやての手によって突き飛ばされ、バランスを崩し突き飛ばされた方向にあった―――先ほどまではやてが寝ていたベッドへと転倒する。
「っとと、何するん―――ッ!?」
仰向けになった瞬間、目の前にははやての姿があった。それもただ姿があったわけではない。同じベッドの上に上がり、こちらを逃がすまいと四つん這いになってラプターの上に覆いかぶさっていたのだ。
「他にライバル作らん為や。堪忍な」
そう言って、はやては目を瞑ってラプターへと顔を近づける。その行動の意味を理解した瞬間、ラプターは顔を出来る限り引いて大声で言った。
「ナハト! とにかく次元移動しろ! 場所は海鳴臨界公園だ早く! オーディンもナハトのバックアップだ!」
『あーあ、折角のチャンスを逃しちゃうんだ~? ま、いいや。座標特定はもうオーディンが済ませているから―――次元移動!』
刹那、はやての目の前からラプターが消える。どうやら、本当に次元移動してしまったようだった。
「・・・・・・あれっ? ラプターは?」
「あやつなら逃げおったわ。本当に次元移動しおったぞ」
「ラプター君ならきっと、彼の実家に帰るんだと思うよ。死亡報告してしまったけど、生きている事が分かれば、きっと親御さんは喜ぶだろうからね~」
と、いつの間にかエイミィ・リミエッタが部屋に入ってきてそんな情報をもたらした。
「ほんなら、少し追ってみよ。家の場所、教えてもらえますか?」
「もちろん! 今そっちのデバイスにデータを送るね~」
個人情報を何だと思っているんだ。と、外に居た面々が思ったのは秘密だ。
「よしっ! いこ、王様」
「こ、コラ! 引っ張るでない!」
はやてはディアーチェの手を引いて、早速ラプターの実家へと向かうのだった。
「・・・・・・闇の欠片事件、まだ終わっていない事を伝えていないんだが・・・・・・」
最後に、扉の外に居たクロノが、頭が痛そうにしながら溜息を吐くのだった。
と、新たな―――というか過去の事件介入の予感というところで今回は終了です!
完全に原作ブレイクしていますが、そこは目を瞑っていただければと思います。
それでは、感想、批判、ご指摘の方を、今日もまた心よりお待ちしております。
PS.お気に入り数が何と10を突破しました! お気に入り登録してくださった皆様、本当に、ありがとうございます! そしてこれからも、ご愛読の方をよろしければ是非、お願いいたします!