幸福に生きたい   作:さよならフレンズ

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民についての情報が少なすぎるので前話の最期を少しだけ改定しました。


思惑

「草薙王は日本に厄災を齎すおつもりなのでしょうか?」

 

 真っ向から護堂を見据えて問いただすのは清水の信頼を得ている冬馬だ。

 正史編纂委員会に所属している以上、代表として護堂とエリカの思惑を見極めなければならない。

 確かに日本の呪術師を束ねている正史編纂委員会と清水との関係はうまくいっていない。7人目の王となったばかりの清水に愛人とばかりに数々の美しい巫女を送り込んでみるも興味は薄く、しかし清水は男色の気がある訳でもなかった。

 人間不信となっている清水は王としての威厳が欠如しており、古老との話し合いも上手くいかなかったという。

 だが今まで数々の神獣や神と戦い、日本を守護してきたこと、それも事実。

 

「そんなこと、誰がするかッ!どういうことなんだよ、エリカ!?」

 

 護堂のエリカを糾弾する声を聞いて清水は呆れたように溜息を付く。

 どうやらこれはエリカの独断行動らしい。正確にはこのゴルゴネイオン案件は赤銅黒十字の意向ということだ。自分の愛人の手綱ぐらい握っておいてほしいものだが、神殺しとなったばかりの清水も最初は組織の事情を知らなかったことも事実。護堂もそうなのであろう。

 だから愛人であり騎士であるエリカが政治面でサポートしているのだ。

 

「これは私達の今後の行動に必要なことなの。どうにかするわ」

「大丈夫なんだろうな……」

 

 制止するエリカに愚痴を言いつつ護堂が渋々引き下がったのを見て、清水はますますその確証を強めた。このままでは主導権を握れないと見た清水は、エリカを真っ向から非難することに決めた。

 

「で、イタリアの魔術師は自分の尻を自分で拭けないような奴らなのか?」

 

 あまりにも品がない罵詈雑言。国際問題にまで発展しそうな粗暴な言い方であるが、実質いつ爆発するか分からないミサイルが持ち込まれたようなものである。

『イタリアに被害を齎したくないから、日本に持ち込めばいいか』

 赤銅黒十字の言い分は、無茶苦茶なこれなのだ。確かに日本は神殺しが2名存在するが

だからといって日本に神具を持ち込む必要は皆無である。護堂か清水のどちらかをイタリアに招集すれば済む話である。これで憤らないほうがおかしい。日本としてはいい迷惑だ。

 エリカは清水と交渉を開始する。実際に清水は政治や交渉ごとに疎い。

 彼を言い負かすことができればエリカの目的は完遂する。

 

「御身の品格をご自身で貶めるような言動はお慎み下さい。イタリアでのサルバトーレ卿と清水王の決闘の結果は聞き及んでおります。御身に助けを求める訳にはいきませんでした」

 

 言動を窘められると共に1年前の事件に対して言及されては、清水も己を頼らなかった理由を納得せざるを得ない。

 日本がイタリアに対して強く出れない理由の一つがこれだった。

 あの決闘でイタリアに多くの死傷者が出たのは間違いないのだから。

 

「破壊活動に対してはそちらの王も負けてはいないようだがな。しかしどうする?都内に神具を持ち込むわけにもいかないんじゃないか?」 

 

 嫌味を交えながら清水は問いかける。

 まつろわぬ神を呼び寄せるかもしれない神具を東京都に持ち込むのは危険すぎる。

 とは言え日本近海のど真ん中に放り投げたり、無人島に置いておくのも不安が残る。

 神が襲来した場合、次は本土に襲い掛かることになりかねない。

 

「護堂には、転移の権能があります。媛巫女にゴルゴネイオンを持たせ、助けを呼ばせれば権能が発動いたしますわ」

「成程な……」

 

 清水はエリカの狙いを察した。日本で護堂が神を弑逆することで、護堂の権威を高めようとしているのだ。態々化身の一つを明かしたのもそれが原因だろう。

 つまり正史編纂委員会に自分と護王は有能である、清水に頼らなくても神を追い返せるとアピールしているのである。

 転移の権能を使えるのならゴルゴネイオンは北海道等の人が少ない荒野にでも配置すれば大丈夫、という算段であった。

 隣の冬馬もそれに気づいたのだろう、清水を擁護するために反論しようとするも清水は目配せして止めた。

 

「構わない。こちらは東京の守護に回らせてもらう。護堂もそれでいいか?」

「俺もそれでいいぞ。……後で説明しろよエリカ」

 

 清水の確認に、護堂はどこか不満げに頷く。

 双方の王が納得したことで秘密裏に行われた会談は、こうして終わりを告げたのであった。

 

 

 両者の会談後、清水と冬馬は車内で改めて今後について話し合う。

 日はすっかり暮れていた。

 

「清水さん、あれで本当に良かったのですか?」

 

 エリカの策謀が成功すれば相手の欲求を通すがままにしていた清水の立場は危うくなるだろう。正史編纂委員会としては問題ないのだが、清水に絆され入れ込んでいる冬馬個人の立場としてみては不味い展開なのは間違いない。

 今後を鑑みる冬馬に、優しいですねと清水は僅かに口角を上げる。

 

「日本が無事ならば、それが一番いいことですから。私が日本代表のカンピオーネであるという責務である権威を放棄したことが今回の原因ですから、仕方ないですね」

 

 儚げなその表情を間近で捉えた冬馬が慌てて元気つけようとするも、数秒の後には清水の表情は一転していた。

 どうやら冬馬をからかっていただけのようだ。

 清水は悪戯好きということはないが、ユーモアは嫌いではない。

 

「冗談です。私の直感ですけど、多分大丈夫ですよ。これはブランデッリにとっても賭けの筈です」

 

 確かにエリカの思い通りになれば日本での清水の権威は多少貶められるかもしれない。

 だが清水はエリカよりも、当事者でありながらどこか納得していない護堂の様子が気にかかった。

 護堂は神殺しになったばかりであり、数ヵ月前までは普通の高校生だった。

 そんな護堂の力が舞台が他人に用意された状況で十全に発揮できるとは、清水には思えなかった。

 まつろわぬ神はそんな事情など知ったことではない。必死に神具を取り戻しにくる筈である。この意識の差は大きい。

 そしてエリカの思惑が失敗すれば、それは己にとっては有利に働くだろう。

 

「護堂にはブランデッリがいますが私にも甘粕さんがいますし、何とかなるでしょう。神具を霊視して、襲来するまつろわぬ神の正体だけは確かめておく必要はありますが」

「勿論です、承りました。清水さんの仰せのままに」

 

 冬馬は恭しく清水に頭を下げ、清水は顔を綻ばせる。

 他人からすれば堅苦しいやり取りかもしれない。しかし清水にとっては冬馬との時間は嫌いではなかった。

 異性と違って決して自分のパーソナルスペースに踏み込んでこないのが一番の理由である。

 

 清水は自宅に送ってくれた冬馬と別れ、独り言のように自らを鼓舞するような呟きをする。

 

「ブランデッリの企みが成功しても、条件がイーブンに戻っただけだ。

それに天運が護堂を選ぶか俺を選ぶかなら、俺が負ける筈はない。

俺は誰よりも幸運でなければならないからだ」

 

 春風が夜の都内を吹きすさぶ。

 清水は巷では運命を操る王だとも言われているが、清水はそれが嫌いだった。

 しかし幸運の王、という呼び名は清水も気に入っている。

 運命を操ることなどできない。清水は自分に襲いかかる幸運を信じているだけだ。

 

 果たして、数日後。まつろわぬアテナが襲来し北海道に転移した護堂が体内に死の息吹を吹き込まれ、敗走する。アテナは、己の権威を示すためもう一人の神殺しを求めて清水の護る東京都に侵攻するのであった。

 

 清水とアテナ。両者の激突の時は間近だった。

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