切歌と調に狙われながら、マリアの姉御を愛でていたい 作:ゴマ醤油
フィギュア
「ねえ切ちゃん」
「何も言うなデス。非常にまずいのは理解してるデス」
私たちの手に包まれたそれを調と何度も顔を見る。
緊張から大量の汗が滴るのを肌で感じる。
まずいデス。人生至上類を見ない大ピンチです。これほどのピンチは先日起きた死闘の数々なんて目じゃないぐらいにヤバイ状況デス。
調もおたおたしているばっかりで全く役に立つとは思えないのデス。
「どうする、デスか」
「……どうしよう」
なぜこうなったのか。思い返すはほんの十分前。
本当に些細な出来事から起こった事件。
「ふふんふーんデース!」
目的の部屋がある廊下を鼻歌を歌いながら一人の少女が歩く。
手に持っているのは一つの機械。私の日常をより彩るための神アイテム。
S.O.N.G.での活動により懐に入ったお給料でようやく買った最新の機材。
まあつまるところ、小型カメラである。
本当に小さな設置型のカメラ。最新技術のあーだこーだで殆ど無制限に使える便利な一品。
通常外出時の家の様子を確認するために使うものなのだが、彼女──暁切歌の使用目的はそれとは異なる。
「──ふうっ」
到着した部屋の前に立ち、息を整える。
慎重にドアを開け中に誰もいないのを確認すると、部屋の電気を点ける。
実を言うと誰もいないのは知っていた。この部屋の主は今現在、某剣の先輩とお出掛けしていると聞いているからである。
珍しい組み合わせではあるのだが、まあ彼女は誰とでもそれなりに仲が良く──見る人によってはビジネスライクと言われるかもしれない程度に──比較的いろんな人と接せれるからまあおかしくはない。
まあ、今重要なのはそこではない。
確かにその
「よしっ!」
そそくさと彼女のベッドのそばに行き、周囲を確認する。
意外と物が多いのだが、これが彼女なりの整頓であるのは前回の行動の際に理解している。
だからこそ、狙うはあまり手の付けられていない辺り。
そう、例えば──。
「ここ、デス!」
枕そばにある本棚の隙間に上手くカメラを差し込む。
本の多さとは反対に彼女はあまり読書をしない。あくまでマリアが勧めてくれた本だけを置く棚。これが今回は役に立った。
「さあーて! あとは帰るだけ──」
一安心し部屋から退去しようと思った瞬間、後ろから僅かに部屋の扉が開く音がした。
すぐに死角となる壁に張り付き、様子を伺う。
(まずい、とってもまずいデス!)
つい手に持っていたギアを更に強く握る。
一歩、また一歩と確実に近づくその足音の軋み。何かを警戒するように移動しているのか不審者のように明らかに音を殺している。
ここで思いつくのは二つ。
このまま相手の出方を伺うかこちらから出向くかの二択。
いつもの切歌ならこのままやり過ごすという冷静さも持っていたかもしれない。彼女は自称常識人。意外とシビアに物事を考えることが多く、冷静な判断も出来なくはないのが彼女の売り。
(──確保デス!)
──だが、悲しいかな今はシリアスではない。
すでに他人の部屋にカメラを置くという常識から逸脱した行為を行なっている彼女にそのような考えは存在しない。
愛とは人を惑わせる。何よりも恐ろしく、未知な力。
その情動に突き動かされ勢い良く飛び出す切歌。
ここで誤算が一つあった。
切歌は知らない。彼女に何やら人がいるのが分かるように、相手にも彼女がいると気づける可能性を──。
「──えっ」
「──デス!?」
どちらもが速度を出し、接敵しようとした。
当たり前というべきか偶然と言うべきか、その二人の頭は勢い良くぶつかりお互いに負傷する形になっていた。
一体誰だ。そう思いすぐに顔を上げるとそこにいたのは良く知る少女。
私のかけがえのない親友。月読調が頭を手で摩りながら痛みに悶えていた。
「調?」
「──切ちゃん?」
なんでこんなところにいるのかと調をよく見てみる。
いつものような格好をしている調。荷物は特に持っておらず、手には何かを握っているように──あっ。
「……調。その手に何を持っているのデスか?」
「……えっと、な、何もないよ?」
「嘘デス。カメラが見えてるデス」
「えっ」
私の鎌かけに慌ててそれを確認する調。
気付いた時にはまあ遅い。その動作が手に持っているものをカメラだと告げてしまっている。
「ねえ切ちゃん。なんでこれがカメラだって分かったの?」
「──え?」
「だってこれ、見かけだけならただのおもちゃだよ?」
だが、墓穴を掘ったのは切歌も同じこと。
この質問、返しは非常に簡単なのだが切歌の頭には一切浮かんでこなかったために目を背けることしかできなかった。
気まずい沈黙が走る。
二人は察してしまったのだ。目の前にいるこの相方が、自分と全く同じ機材と方法で大好きな彼女の寝顔を堪能しようとしていたのだと。
「──どこに隠したの?」
「言わない、絶対に言わないデス!」
ここで協力し合えていれば後の悲劇は生まれなかったと断言できる。
だがしかし、お互いにとってここだけは譲れない一線。
おおよそなんでも分けあえる二人であるのだが、この騒動の中心に位置する少女──鳴神雷華に関することだけは別。
なんでそうなったかはマムにも分かりはしないのだが、彼女の一番になりたいという独占欲だけはこの二人の関係でも退くことは出来ないことの一つなのだ。
──まあ本人からすれば、一番は揺るぐことなくマリアなのだが。
とにかく、そんな他人が見てれば下らないと言えるその我が儘が事件を起こしたのだ。
「どいて切ちゃん」
「お断りデス! 調は早く帰るデスよ」
先に来ていた切歌が勝ち誇ったような顔をしている。
それを見て突っかかってしまうのはしょうがないこと。
「あっ」
「あっ!」
キャットファイトの余波が偶然にも何かを倒してしてしまう。
ガタッと聞こえたその瞬間にはもう遅い。
見たことのある人のフィギュア。この部屋の主が心から好いている人物を象った人形。
──マリア・カデンツヴァナ・イブが無残な姿で転がっていた。
「…………また明日」
「待つデス調。逃げようとするなデス」
あんなにも部屋に突入したがっていたのに踵を返した調の肩を掴みこの場から逃がさないようにする。
「離して切ちゃん! 私は、私は──!」
「何を言ってるかわからないデスけど、調も共犯。逃すわけには行かないのデス!」
嫌がる調をずるずると引きずり壊れたマリア人形の前に立つ。
服の皺一つまで精巧に再現しているそれ。世には出回ることのない黒いガングニールverのマリア。
……左腕が取れていなければこれでも売れそうな出来である。
「どうするの切ちゃん。雷ちゃんにはすっごく怒られるよこれ」
「怒髪天爆発デスよ多分 」
彼女が怒っている様子を想像する。
おおよそのことなら溜息を吐きながら許してしまう彼女だが、マリアに関係することだけは別だ。
フロンティア事変や魔法少女事変の際にも、マリアが侮辱されるとすぐにミョルミルを展開して相手を肉塊に変えようとするぐらいにはバイオレンスでデンジャラスなのだ。
「マリアに相談するのはどう?」
「無理デス。いくら器用なマリアでも自分のフィギュアを直すのは、すっごく苦い顔をしてくるはずデス」
取れた腕と残りの体を両手に持ち調と話し合う。
あまりにも真剣に悩んだので、つい時間の流れが思考から抜け落ちていた。
「誰もいないけどたでーまー……ってあれ?」
部屋の扉が開く音で思わずそっちを見る。
そこにいたのは買い物袋を持った少女──鳴神雷華がこっちを驚いたような目で見ていた。
「…………」
「………………デス」
「………………………………えっと」
「ごめんなさいデス!」
「ごめんなさい」
どういう状況かと悩んでる雷華をよそに二人がその形を作るのは一瞬だった。
頭を地につけ、これ以上ない謝罪の形を全身で表現する。
──土下座。かの防人が見れば見事と口から出てしまうぐらいには綺麗なフォームをしていた。
「……とりあえず、話を聞こうか」
いつものように溜息を吐きながらこっちに近づいてくる。
──今、尋問の時間が始まる!
「つまり、忍び込んで私のものを壊したと」
「……切ちゃんが」
「調が暴れるからデス」
正座を保ったままの二人から話を聞く。
おおよそ理解した。つまりマリア人形をへし折ったと。
「とりあえずカメラは回収するとして。今回は許すよ」
「えっ」
「えっ!?」
私の返しがよほど意外だったのか勢い良く顔を上げ、こちらを見る二人。
怒る立場の私が言うのもなんだが、一体どうしてそんなに驚いてるんだろうか。
「だって雷華がマリアに関連することで怒らないなんておかしいデス! 偽物と言われても違和感がないのデス!」
「うん。熱でもある? お腹痛い?」
酷いなこいつら。今からでもギア使って叩いてやろうか。
「まあこれ試作品だからさ。本物はちゃんとした材料で作るし」
「そ、それがお試しなの?」
調が驚いてるがそんなにだろうか。
確かに試作品だろうと姉御は姉御。全身全霊をかけて作品を創り上げるのに変わりはない。
だがまあ、今回は本当に急いで作った部分もあるし脆くなってしまった感も否めない。
「とにかく今回は良いよ。次からは気をつけてね」
これ以上は意味がないので話を切ると二人とも目を輝かせて正座を辞める。
相当怖かったのだろうか。まあしょうがないか。
……あ、そうだ。
「ねえ二人とも。この完成品マリアにプレゼントしたら喜ぶと思う?」
「困った顔されるだけだと思うよ」
「あんまり嬉しくないと思うデス」
ばっさり切られた。ちくせう。
久しぶりの投稿です。
体調を崩しています。よって、当分投稿は遅くなると思います。
コメディ? 原作やる?
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コメディ(時系列適当、キャラ崩壊ある
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原作(GXから
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自分で決めろバーカ