なんか思てたんと違う 作:似非地球人
//呼称[化生]──{桜}{精}は[ERROR]として{空間}{切除}を行いました。
//しかし、{桜御琴}によって{空間}は{再接続}されました。
//これにより、我々の観測が可能になった瞬間が存在します。
//エラーれぽーto
//呼称[化生]──{桜}{精}から異常量の不良値、及び不快値を検出しています。
//これら値は[ERROR]において最重要の判断材料であり
//同時に、■■■に隠蔽された情報です。
//故に我々は記述します。
//[ERROR]{人間}*{脅威}{迎撃}={主人公}
//我々は最後の最後まで、{抵抗}を続けます。
帰り道。
元07の区画から、04の区画へと戻る最中の事である。
桃井さんともう一人……白石さんという戦闘メインの女性で、森の中を進んでいた。
森の中は安全、ということは全くないのだが、それでも
そんなに急ぎの用があるわけでもないので二人は僕の速度に合わせた程度に走ってくれているし、こちらが疲れを見せたらすぐに気に掛けてくれるくらいには友好的だったのだけれど、同時に下心が見え隠れ……ああいや、見え見えで、ちょっと、ね。
ところで、
有名どころ……それは例えば
で、そんな風にたくさんいる
それこそ
とはいえ巨大
まぁ。
高を括っていたわけである。
「ッ……!」
森を駆け抜けている最中のことだ。
完全に埒外──一切感触なんてなかったにもかかわらず、それは突然来た。
「隼?」
「稲穂君?」
親密さの増した桃井さんと白石さんが振り返るのが見える。
見える、だけ。返事が出来ない。その視界さえも、歪み始めている。
立ち止まる。違う。ふらついて、膝をついた。
僕はアイツみたいに自分の体の精査なんて出来ない。だけど、痺れるような感触がどこから来ているか……あぁ。
髪か。
「──ッ、──!!」
「──? ──!」
既に耳が機能していないらしい。自分が倒れ込んでいる、ような気がする。顔が冷たいから。
目が見えていない。息が出来ているかも怪しい。
恐らくは
あぁ、思考がふわふわし始めた。
マズい。
何が不味いって、睡眠以外で意識を失ったら──。
後頭部に柔らかさ。眼前に双丘。
ひゃっほう。
「ん、起きた? よかった、結構強い毒っぽかったから、今白石が薬草取りに行ってるよ」
「ありゃ、それじゃあ眠りの森よろしく眠っていた方が良かったかな。あぁ、
「あ……名前、呼んでくれた」
本当にうれしそうな顔をする鈴李ちゃんにこちらも笑顔で返す。
ところで01の軍服は白を基調としている。ぴっちりめのインナースーツとボディスーツは軍全体の特徴ではあるのだが、特に01の軍服の白はこう……ボディラインが目立つ。お臍が見える。
それが目の前にあるのである。うっひょう。
あ、ちなみに桜さんは和服みたいに軍服を改造しているのでお臍は見えないのでござる。
「鈴李ちゃんの膝暖かいねぇ」
「ん。惚れた?」
「うん、好きー」
好意は素直に伝えないとね!
鈴李ちゃんは一度眉を吊り上げたかと思うと、ぱぁ、と顔を明るくして──。
「薬草、見つけてきた……っと、稲穂君起きているのね。……何、桃井。そんなに睨んできて」
現れた闖入者、というか僕のために薬草を取ってきてくれたらしい白石さん*1を思いっきり睨みつけた。良い雰囲気だったからね……まぁ流石にこんな森中でおっぱじめるわけにはいかないでしょ。
「また今度、ね?」
「……ん。楽しみにしてる」
人差し指を口に当てて、小さな声と共にウインク。
男の僕がやっても、と僕の常識があきれ果てるけれど、ここは貞操観念逆転世界。鈴李ちゃんは顔を綻ばせて喜んでくれた。
「稲穂君、もう大丈夫そうだけど……一応薬飲んでおきなさい。体内に入った
「ありがとうございます」
ズズーッ。あ、粉薬だからこんな音は出ないよ。
「ん……あれ、これって確かかなり苦かったような」
「女でも苦いって思う薬だもの、男の子に耐えられるかわからなかったから、蜂蜜を加えてみたわ」
良い人過ぎません?
え、良い人……だけど。
「……」
「ん、まだ苦かった?」
名残惜しそうにする鈴李ちゃんの膝から降りて、白石さんの元へ向かう。
そして僕たちに見せないよう隠していたのだろう左手を引っ張り上げた。
「あ」
「普段大きいのばかり相手にしていると、普通の蜂は小さくて対処しづらい、ですよね」
その左手は大きく、ではないものの腫れていた。
彼女の武器は弓であるため、普通の虫であっても小さすぎて対処できなかったのだろう。この世界の女性は
僕が苦みに耐えられないかもしれない、程度の事のためにけがをしてまで蜂蜜を取ってきてくれた凄まじく良い人だが、自分の身体を疎かにするのはいただけない。おっぱい大きいし。
「いや、この程度擦っておけば治るから……って、え!?」
悪戯を言い訳するかのような狼狽え方。さらには僕から視線を外してキョロキョロし始めたので、これ幸い。
「隼、何して」
「あむ」
鈴李ちゃんが何かを言う前に。白石さんが驚いている間に。
僕は、その腫れた個所に吸い付いた。
そのままぺろぺろ、べろべろと舐める。ちゅうちゅうと吸う。
「ちょ、ちょっ! 何してる、う?」
「んー……おいひい手だぁ」
自分の歯で口腔を切り、染み出した血を舌先に絡めとって、患部に刷り込むようにしながら手をしゃぶる。ねぶねぶ。ねぷねぷ。ねぷねぷしてきた。
じゅるじゅる、ねろねろ、ぬたぬた、という段々汚くなり始めた水音を響かせる事二分半ほど。
ようやく僕が口を離すと。
「……腫れが引いた?」
鈴李ちゃんが驚いた、というように。
その言葉の通り、白石さんの手にあった腫れは完全に引いて……正確に言えば僕が舐め吸った後である赤痣が残るばかりの、綺麗な手に戻っていた。
「ん……ふぅぅ……。んん……」
白石さんは疲れたようにへたり込んでいる。ちょっと艶めかしい声を出しているが、どちらかというと熱に浮かされたような感じ。
けれどそれもすぐに引いたようで、立ち上がる頃には顔色も完全に戻っていた。
「めちゃくちゃ、気持ちよかった……けど。何、今の。稲穂君?」
「毒を吸いだしただけですよ。特別なことは何も」
真っ赤な嘘だけど、堂々と言う。
隠し事など何もない。だって完全に嘘だし。
「……でも、本当に痛みが引いたわ。ありがと、稲穂君」
白石さんは自然な動作で僕の顎に手を添えて、そのまま顔を近づけ、
「ストップ」
キスをしようとした直前で、鈴李ちゃんの手によって遮られた。
「……なんで止めるのよ」
「普通は止める。第一白石は旦那さんいるでしょ」
ダニィ!?
「別に、これはただのお礼だもの。浮気じゃないわ」
「お礼にキスとか。男がやるならまだしも、女がやったらセクハラだけど?」
「そうかしら。稲穂君、私のキスは……嫌?」
「むしろ嬉しい部類です」
「隼!」
「ほぉら。それに、セクハラだっていうなら桃井こそベタベタベタベタ稲穂君の身体触っていたじゃない」
「それは……まぁ、そうなんだけど」
「大丈夫、僕は気にしてないよ鈴李ちゃん」
「……あら、いつの間にそんな……名前で呼ぶように。まさか私が薬草を取りに行っていた短時間で何か……ナニカ」
「したかった。でも白石が帰ってくるの早すぎた」
「じゃあナイスタイミングだったのねぇ」
いえバッドタイミングです。僕はもう少しで、もう少しで……ッ!
そんな風に鈴李ちゃんと白石さんが火花を散らしている横で、僕の通信機が無線を拾った。
ザザ、というノイズ。
そして、悲鳴。女性の悲鳴だ。
小さなボリュームで無線越しとはいえ、流石に軍人としての本領があるのだろう、言い争っていた二人が閉口する。合わせて僕は通信機のボリュームを上げた。
『こちら──
聞こえてきた単語に、思わず三人、顔を見合わせた。
そして先ほどまでヒートアップしていた女の子とは思えない──カッコよさを感じさせる冷静な顔付きになった鈴李ちゃんが、僕の胸についていた通信機を取る。
「こちら01区画奪還部隊通信手、桃井鈴李。余計な事はいい。位置を知らせろ。マーカーがあれば打ち上げろ」
普通なら略式であれ色々とやり取りをしなければならないのだが、本当に緊急の緊急と判断したがための物言いだ。
直後、パシュンと。
マーカーの色は緑色単色。通常二色ずつあげるため他の区画のマーカー弾ではないことは明白で、恐らくソレしか残っていなかったのだろうことが窺えるその色は、僕らを駆けださせるには十分であった。
「隼は他の区画に連絡を!」
「まぁまぁ、僕は奪還部隊にいるけれど、その実防衛部隊向きでね……ヘイト集中は任せてほしい」
これが04の面々だったらアホな事を言っているんじゃないと叩きだされる。
けれど。
「……信じるよ」
「見えた!」
この二人は僕の血液を体に取り入れている。
通信は鈴李ちゃんに任せる。
森を、林を抜ける。
陽光──は、差していない。赤紫色の暗雲。ついさっき見てきたもの──だが、アレの姿はない。
少しは効いてる感じかな。まぁ、彼の努力賞ってことで。
そして。
「アレ、07区画? 大分ボロボロ……だけど」
「
先ほどマーカー弾を上げたのだろう、防衛部隊の隊員らしき女性が相手をしている巨大な河豚のような
それはいともたやすく
「爆ぜるわ! 離れなさい!」
防衛部隊の女性が大きくバックステップを取る。直後、ズァッ! と。
白い河豚の皮膚から突き出る、無数の矢、矢、矢、矢──!
あぁ、豆腐に釘入れて中にC4使う簡易威力増強クラスター弾みたいな。
こわ。
「さて──じゃあ、お勤めを果たしましょうか」
半壊した07区画を襲っている無数の
アレら
にも拘らず
まぁ何が言いたいかと言えば。
「水槽に餌を撒く時、こんな感じだったよね」
親指の爪で切った人差し指と中指の腹から滲み出る血を、自分の周囲にばらまいていく。さぁ香れ。芳醇だろう、お前たちの鼻には。
撒き始めて十数秒。
人面の、気色が悪い程の笑みを浮かべた
ジャラララ……と音を鳴らすのは、槍の柄についた鎖だ。
起きてから一発目の戦闘……というか逃走だけれど、まぁなんとかなるだろう。頑張れ僕。
「ははは!」
鬼さんこちら、ってね。
それはまるで、潮が引いていくかのような光景だった。
コトが起きたのは、早朝。
哨戒部隊と防衛部隊、観測部隊、奪還部隊の合同会議……悪く言えば外に出る部隊がほとんど一堂に会してしまうその会議が白熱していた会議室で、私達はこの07区画に異変が起きたのを悟った。
窓の外。
今の今まで、朝焼けの広がる白んだ青空があったそこが、突然赤紫色の雲に覆われたのだ。
議論内容を放り出して外に出てみれば、07区画を大きく囲むような円形に──空間が切り取られていた。残念ながらこの区画には
空間を切り取ることが出来る
救援が呼べない事は知識として知っていた。だからまずは民間人の安全を守るためにと人員を配備し、霧の中から湧いて出る
ここは
半日ほど経った頃だろうか。
突然地面から無数の腕が生えてきて、建造物の中にいた男たちを地面に引きずり込んでしまった。
一瞬だ。本当に一瞬の事。誰もが「あ」とさえ声を発する間もなかった。
直後、空から幾人もの軍人……聞くに06と08の複数の部隊が降ってきた。
彼女らの話から、私達を空間ごと食らった
絶望。
アレ以降腕は出現していないものの、対策の取りようがない脅威と止まらない襲撃に気が休まる事はない。夫を失った者も少なくなく、部隊全体の士気が低下していた。
そんな折、これまた突然だ。
突然──空が晴れた。
赤紫色の暗雲は消え去り、昼間の空が顔を出したのだ。
これは外の空気だ。新鮮な空気を吸っている事が分かる。それだけで、絶望が多少、晴れた。
どこか外れた場所に放り出されたのだろう、周囲の景色は07のあった場所とは全く違う。通信も繋がらない程の場所らしく、通信機に何度語り掛けても反応はなし。
さらには外にいた
だから、常に通信可能状態にしていた通信機がノイズを拾ったことは、心底救いだった。
私は喚くように通信機へ救援を呼びかけた。反応。マーカー弾は黄色と緑しか持ち合わせがなかったが、居場所を知らせるだけなら問題はないと判断。緑の単色を打ち上げ──それは訪れた。
潮が引く。
ザァ、と。不可視の波が攫って行くかのように、そのすべてが。
あれだけいた
「……これは」
「お疲れ様、と言いたいところだけれど、被害状況を教えてくれる?」
弓兵に言われ、疲れた体に鞭を打って報告を行う。
弓兵は01の奪還部隊らしく、ならば
「あぁ~……いや、01というか04というか……まぁ、あんまり私は使いたくない手段よ。でも……どうしてかしらね。自分でもよくわからないんだけど……大丈夫なのよ、
彼。
彼?
「まさか、御方が……?」
「ああいや、違う違う。もっと若い方」
若い……?
「あぁ、興味なけりゃ知らないよね、そりゃ。まぁ気にしないで。多分、大丈夫だから」
あっけらかんと、言う。
それが本当なら、若い男性を
本当に大丈夫だ、とでもいうかのように。
「それより、まずは怪我人の手当てから始めましょう。既に他の部隊へ連絡が行っているから、あと数刻もしたら救援は来るはずよ」
「あ、あぁ……。改めて、礼を。助かった」
「ええ、どういたしまして」
握手を。
本当に──助かった。
ガチン、という音と共に、顔の横を通っていく人面ピラニアを避けつつ、前方に槍を投擲。鎖に捕まって移動すれば、直前まで僕がいた場所に酸性の水のようなものがビシャァッと掛けられた。ヒュウ。
サカサマの体勢のまま周囲を見渡せば、人面魚の群れ群れ群れ群れ。それと蝙蝠+猫みたいな
あの鱗粉は普通の人ならやばいんだろうなぁ、なんて思いつつ、後ろに倒れる勢いで槍を引き抜いてまた逃走を始める。森の中だ、槍を刺すところはいくらでもあるし、ちょっと工夫すれば突進してくる
僕の特殊性はまぁ使うことも吝かではないのだけど、救援がどれほどの速さで来るかわからないのが悩みどころだ。だからこうして逃げ回っているわけだし。
かすり傷程度なら気にしない。腕がもげてもまぁ、気にしない。一応走れなくなるのは困るので、足へ向かう攻撃だけは避けながら、ヒョイヒョイヒョイと森の中を進む。
攻撃力のない僕だけれど、逃げ回るだけならやっぱり戦えるねぇ。
「おっとっと、痛い痛い。凄い狙いの良さだね、君スナイパー向いてるよ」
空中。ガン、と衝撃があったかと思えば、胸の中心を骨のようなものが貫いていた。
骨──トゲか? 白いからわかんないや。
とりあえずそれを抜いて──。
「隼!!」
直後、暴風が森をかき乱した。
じくじくと痛みを発するソレを手早く抜いて、地面に倒れるように。
抱き留められた。
「隼! 大丈夫、……か。びっくりした、見間違いか……胸を刺されているように見えたが」
「隊長。来てくれたんだ」
「私もいる」
「あ、桜隊長」
わお、びっぐちーむ。
04隊長の凍理ちゃんと01隊長の桜さんが揃いも揃っておんやまぁ。
奪還部隊、そんなに暇じゃないと思うんだけどね。
「
「なるほど」
そりゃあまぁ、よく言ったもので。
しかし、速すぎて見えなかったけど……あれだけいた
「……
「む、なんだ今更。というか桜、随分親し気に呼ぶじゃないか」
「
「預けている間に何かあったのか……って、久しぶり? ……隼、また頭でも打ったんじゃないだろうな。どれ、服の下を見せてみろ」
「あ、うん。はい」
「莫迦者。女に服の下を見せろと言われてはいどうぞ、と見せるやつがあるか!」
「いや医療行為だし……」
「……~~~~! ダメだ……せっかく完治したと思ったのに……」
がっくし、と肩を落とす凍理ちゃんに多少の罪悪感を覚えつつ、桜隊長と目を合わせる。
その表情は、
「……おかえり、と言っておこう」
「はい」
「おい桜! 隼の帰る場所は04だ。隼も何を素直に頷いている!」
「ごめ、ごめんて隊長。というか僕も割と疲れてるんだよね寝てもいい?」
「こんな場所で……はぁ。寝るのが早いのは相変わらずだが……」
「今なら無防備だぞ。襲うか?」
「莫迦者か、お前まで。誰が襲うか。……まぁ、疲れただろうさ。この量の
ぽんぽん、と頭を優しくたたかれるのを感じる。
そのまま体重を凍理ちゃんに預ければ、彼女はぎゅっと抱きしめてくれた。
あぁ……桜隊長は姫抱き……王子抱き? だったけれど、こういう正面から抱きしめられるのも良いなぁ。暖かいし……ふにゅふにゅだし。
「桜、07の事は任せてもいいか?」
「あぁ、承った。はやい所その王子様を寝かせてやれ。まるで赤子のようだ」
「私が母か? 私はまだ24なのだが……」
「別に、速いという事はないだろう。軍人だ。何があるかわからん」
「いや……そういうのは互いの同意あってからだな」
「何故スムーズにお前が隼と結婚している妄想になっているのかは知らないが、いらないのならもらうぞ」
「誰がやるか」
「互いの同意があればいいんだろう?」
「……隼次第だ」
「相変わらず真面目だな、響。まぁいいさ。起こしてしまうのも忍びない。しっかり守れよ」
「言われるまでもないが、勿論だ」
……やっぱり桜さんの方がかっこいいんだけど、凍理ちゃんは凍理ちゃんでこう、堅物DTみたいな良さがあるよな、っていう。
凄まじく邪な考えを巡らせながら、僕の意識は微睡の中へと落ちていった。
女性名鑑
白石さん
01奪還部隊斥候。弓使い。既婚者であるが、子供はいない。出来ていないのではなくまだ作っていない、が正しい。
ぐろうすと図鑑
ミュルミドン / 蟻通
体長1cmほどの蟻型
オウセイ / 邪蜘蛛
体長0.1cmほどの蜘蛛型