なんか思てたんと違う   作:似非地球人

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12.陽に照らされた丘は

 海形(うみなり)は第04小隊観測部隊副隊長という肩書を持っている。

 役割としては隊長の補助と再確認、他部隊への連絡など様々。副隊長にしては雑用っぽい仕事が多い気がしないでもないのだが、海形にとって片手間で済むことはタスク扱いですらないので問題ないらしい。

 副隊長としての海形は有能であり、優秀であり、雄弁であるのだが、如何せん周囲で遊ぶ性格が普段の彼女の評価を爆下げしている。割と嫌われている。

 

 そんな海形は、ロマンチストである。またオカルティストであり、ミソロジストでもある。

 

 歴史が好きなのだ。特に──化生(Ghrowhst)関連。加えて、軍のことも。

 観測部隊は多かれ少なかれ、化生(Ghrowhst)が好きだ。もちろん好意ではなく、観察対象として。初めから好きだった者もいれば、初めは憎んでいて、時を経て好きになった者もいる。

 海形は前者だった。初めから。生まれ落ちたその日から、化生(Ghrowhst)の観察が好きだった。

 

 虫種(Bugs)水棲種(Bogs)鳥種(Birds)獣種(Beasts)

 世界には多種多様な化生(Ghrowhst)が蔓延っていて、そのどれもが()()()()()()()()。虫であったり魚であったり鳥であったり動物であったりするのはわかりきっているが、そうではなく──何らかの怪異を元にしている()()()()()

 はず。多分。おそらく。

 曖昧な言葉で飾ってしまうのは、海形がそれを知らないからである。

 海形だけじゃない。軍本部から"名付け"の為される化生(Ghrowhst)が何を模しているのかを、軍の誰しもが知らない。模している事すら知らない者もいる始末だ。

 

 おかしい。そう言い切れる。

 

 その名前が、何かを表している事くらいわかる。文字面からして何かを指している事が伝わってくる。けれど、それがなんなのか、知らない。

 軍本部だけがそれを知っていて、名付けを行使している。

 知らない事はおかしいと思った。思うことにした。

 だから、軍本部が何か──歴史の一端、あるいは記録を隠し持っているのではないかと考えている。

 記録の保管庫は化生(Ghrowhst)の襲撃により失われた、というのが現代人の常識であるが、だからこそ失わせたのは軍本部なのではないかと。だって化生(Ghrowhst)は知識なんかに興味はないのだ。化生(Ghrowhst)が記録を襲う必要がない。

 隠している、と考えるのが普通だと、海形は思っている。

 

 あるいは。

 

「各地に点在する遺跡──コレ、宇宙人の痕跡なんじゃないんですかねぇ、って海ちゃんは思うわけですけど……そこんとこ、どうですか?」

//検知。測定開始。

 問う。

 正面。海形の胸部と腰部をやたらと見る……警戒している、件の男。

 

 稲穂隼に。

 

 

*

 

 

「どうですか、と問われても……そんなのあるんだ、って感じ」

 

「まぁまぁ、そう言わずに。ここには今海ちゃんと貴方しかいないわけですよ。いいでしょう、少しくらい」

 

「さきっちょだけ! みたいな? ……おっと、思ったより冗談が通じない」

 

 めちゃくちゃグイグイ距離を詰めてくるメカクレっ子に若干引き気味な男子こと、僕。右目が完全に髪で隠れているけれどそれ見づらくないのかなぁと思わないでもないが、属性として好きなので問題はないです。

 いやしかし、彼女の恰好。

 ピッチリしたインナースーツの上に軍服、というのは他の人と変わらないのだけど、両腰が丸見えだったり胸の大きさがはちきれんばかりなのを無理やり押し込めているのが伝わってきたり……えっろ。

 

「それとも、なんでしょうか。見られているから話せない……ですかね?」

 

「そこまでわかっているんだったら聞かないで欲しかったかな」

 

 まぁ面倒なので、開き直る。

 言葉を濁せば大丈夫なはず。

 

 ぱぁっと顔を輝かせる腰丸出しお姉さんに若干引きながら、若干腰と胸を舐めるように見つめながら、半歩下がって問いかける。

 

「もしかして君も僕の事を宇宙人だと思ってるクチ?」

 

「その口ぶりだと、違うのでしょうか?」

 

「違うね。僕は宇宙人じゃない。僕()宇宙人じゃないよ」

 

 全く。

 稲穂隼といい、この腰丸出しお姉さんといい、出雲ちゃんといい。

 なんだよ宇宙人って。僕はれっきとした地球人だってのに。

 

 いやれっきとしてるかどうかはわからないけど。血統書とかないし。

 

「……譲歩、ありがとうございます。その上で聞きますけど」

 

 お姉さんは何かを察したように言う。うんうん、触らぬ神に祟りなしだよ。ところでおっぱい柔らかそうですね。腰骨えっちですね。

 触ってもいいですか。

 

「貴方は海ちゃんたちの敵ですか? それとも、化生(Ghrowhst)の敵ですか?」

 

「何を言っているんだ。僕はみんなの味方だよ」

 

 ところで。

 

「僕からも一つ……いいかな」

 

「なんですか」

 

「この後お茶しない?」

 

「ヤです。海ちゃんは彼氏、いるので」

 

 なん……だと……!?

//測定終了。観測不要。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一つ明らかにしておくことがあるとすれば、僕はハーレムの夢を諦めていない。

 というよりハーレムこそが僕の最大の目的であり、申し訳ないが稲穂隼君の……あー、妹ちゃんを人間に戻したいとかいう荒唐無稽な願いは二の次だ。いやまぁしっかりとした手順を踏めば出来ると思うよ? 僕が協力すればの話だけど。

 でも、人間に戻った妹ちゃんがそのまんまであるかどうかは保証しない。やったことないし。

 

 話が逸れたね。

 

 まぁ、僕はハーレムの限りを尽くしたいだけなんだよ。ささやかな願いさ。

 お姉さんや少女たちに囲まれて、いちゃいちゃちゅっちゅしたいだけ。贅沢は言ってないだろう。

 

「だから、そろそろ睨むのやめようよ、出雲ちゃん」

 

「黙っとれ。どうすれば隼に戻る。気絶させればええんか?」

 

「こわーい。でも僕は気絶しないから無理だよ。この前彼が出てきたのは特例。基本的には僕のほうが強いのさ。あ、ちなみにカラダは稲穂隼そのものだから、稲穂隼に許可を取らずに好き勝手出来るチャンスでもあるんだけど……どう?」

 

「……」

 

 キッと眼光を強くする出雲ちゃん。怖い怖い。僕としては仲良くしたかったのに……。

 うーん、これは望み薄。脈なしかなぁ。さっきの腰丸出しお姉さんといい、二連続玉砕とは。

 

「まぁ無理なんだよ。仕組み的にね。いろいろと言葉を伏せて言うなら、戦場に連れて行ってくれると稲穂隼が起きてくる確率は上がるよ」

 

 頭さえ吹き飛べば出てくるからね。

 そんな言葉はもちろん言わない。

 

「……わかった。それなら、これからの奪還任務すべてにお前を組み込む」

 

「ヒュウ、それはいいね」

 

 監視がないとよりありがたいんだけど。

 ま、それは高望みか。いい感じにひとりになって──良い感じに。

 

「じゃあこれから、また。よろしくね、出雲ちゃん」

 

 ふん、と出雲ちゃんは鼻を鳴らして、そっぽ向いてしまった。

 嫌われたなぁ。まぁそりゃあそうか、とも思う。愛しの愛しの隼君がよっぽど好きなんだろう。

 

 ま、折角の主導権、早々に手放す気はサラッサラないんだけどね。

 

 それじゃあ、また。

 

 

*

 

 

 どう思う? と問われて、正しい言葉を返した。

 

 どう考える? と問われて、正しい言葉を返した。

 

 どうしてほしい? と問われて。

 

 私は、間違った言葉を返した。

 

 

*

 

 

「隼ェ! 戦場に出てくるなと、お前はまた!」

 

「いや大丈夫大丈夫だって僕桜隊長と共闘したおうわぁ!?」

 

 突き出していた槍を軽々とはじかれて、大きくのけ反る。お腹に迫る鋭い爪。

 それはほとんどmm、当たるか当たらないかというところで──粉微塵に切り裂かれた。

 隊長こと、凍理ちゃんである。

 

「出雲も何を考えている……葉祓(はばらい)! そっちはどうだ!」

 

「二頭は潰した! けど、多分これ繋がってる!」

 

「多頭の獣種(Beasts)か……新種だな」

 

 ジャラジャラとしなる鎖を引きまわしながら、戦場を俯瞰する。奪還任務で訪れたここは、三方を山に囲まれた盆地であり、一方には海がある、化生(Ghrowhst)さえいなければリゾートビーチにでもなっていそうな場所だ。化生(Ghrowhst)は基本自然の破壊は行わないので、砂浜も這いずり痕以外はキレイなものである。

 これでみんなが水着だったら眼福なんだけど……ううむ、如何せん血腥い。

 そこそこ戦えるとはいえ、女の子たちには全くと言っていいほど適わないのも事実。まぁ僕は匂いを撒ければそれでいい、みたいなところはあるんだけど。

 

「走雷! そっちの二頭はどうだ!」

 

「さっき。どっちも潰した。直った。再生力」

 

「やはりか」

 

 槍を手中に引き戻して、砂浜にサクっと刺す。

 足から振動を感じて、ソレがどこにいるのか探す。

 

 多頭で、根本が繋がっていて、再生力かぁ。 

 んー、()()が名付けそうな名前……といえば。

 

「隊長、あれは雨乞龍骨(ワルタハンガ)だと思う」

 

「なんでお前が……いや、話してくれ。あとで聞けばいい」

 

「あー、いや僕も詳しい事は……えーと、多分再生力がすごいってのと、雨とか洪水とか使うと思うよっていうのと」

 

 誰かに裂かれた後だよ、っていうのくらいかなぁ。

 という言葉を紡げたら良かったのだけど。

 

 来た。

 

「──!」

 

 何がって……水が。海辺だしね。

 がぼごぼ。

 

 

*

 

 

 多頭の獣種(Beasts)……隼のいうところ、雨乞龍骨(ワルタハンガ)というらしいその獣種(Beasts)の討伐は、それなりに苦戦をしたものの成功。損害は軽微。

 それはそれとして、戦闘中に雨乞龍骨(ワルタハンガ)の水によって浚われ、バチャバチャともがいていた隼が水没していくのを見て、疲れた体などものともせずに隊員全員で彼を救出した。

 その隼が、未だに目を覚まさないのである。

 恐らく大量の水を吸ったのだろう。つまり、人工呼吸が必要となるわけだ。結構な緊急事態。

 

 ……なのだが。

 

「だ──だれがやる?」

 

「その」

 

「ふむ……」

 

 人工呼吸とは。

 口をつけてやることである。

 つまりキスである。

 

 ……別に、キス自体は皆初体験ということはないはずだ。結構な頻度で隼を……いやまぁそれはおいておいて。

 だからこれは、牽制である。

 キスをして、さらに目を覚ました目の前に顔があったら……ポイント高いよな、っていう。

 

「じゃ、私がやる」

 

「走雷……」

 

「だって。早くしないと隼死んじゃうし」

 

 それはその通りであります。

 

 言うが早いか、弧金は彼の頭を自分の膝に乗せて──ガン! と痛めの音がした。

 

「~~~ッ!」

 

「あれぇ、起きた?」

 

 いきなり隼が飛び起きたのだ。

 そのまま弧金の額にごっつんこである。男の身体能力程度では弧金にダメージはないし、逆に男の耐久性能では女の額はさぞ固かっただろう。

 彼はゴロゴロゴロゴロと額を抑えたまま砂浜を転がる。砂まみれだ。

 

「ッ……うう、痛いなぁ。君ね、無理矢理やるにしてももう少し方法がゴポ」

 

 寝ころんだまま何かを呟いた隼が、ごぽっと水を吐いた。駆け寄る。

 しかし隼はもう一度ごぽっと水を吐くと……吐き切ると、ふぅ、と一息吐いて立ち上がった。

 

「よし」

 

 そして横になる。

 

 ……ん?

 

「は……隼?」

 

「うぅ……くるしいよ~」

 

 かつてこれほどまでの棒読みがあっただろうか。

 隊長だってもう少し上手い。かの堅物桜隊長だってもう少しやるだろう。

 

 ええと。

 

「う~。人工呼吸してほしいな~~」

 

 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ。

 転がる。軍のインナースーツは砂大の粒を通すような作りはしていないとはいえ、付着はする。軍服とインナースーツの間はジャリッジャリだろう。それはもうジャリッジャリだ。

 河原の砂利くらいジャリッジャリである。

 

「隼、人工呼吸してあげる~」

 

「走雷ァ!」

 

 呆れ返っていた隊員の中で、唯一。

 真に受けたのかチャンスと思ったのか、弧金が嬉々として隼の元へ向かう。さっきの人工呼吸とて同じ目的だったのだろう、抜け駆けする気満々である。

 

「んちゅ~」

 

「わぁ~っとわぁ!?」

 

 砂を気にしない弧金が再度隼の頭を膝に乗せた。

 しかし、隼の頭がブン! と横に動き、反動で膝から落ちる。

 

 ……さっきから何をしてるんだろうか。

 

「……隼、もしかして私……いや?」

 

「そんなことはないさ! 君ね、彼女を傷つける……うん、だろう。そう。そんなことはないよ走雷! さぁおいで、チューしよう」

 

「……じゃあ」

 

 今度は逃げられないように、と。

 顔を固定する弧金。がっちりホールド。

 

 そして──キスをした。

 人工呼吸じゃない。当たり前だ。隼はピンピンしてるのだから。だからこれは、本当に単純に趣味のキス。

 

「……隊長、隼の貞操観念って」

 

「葉祓。私も治ったと思ったんだが……まさか溺れたから、ということは……ないよな?」

 

「現実を見ると、その」

 

 キスだ。接吻だ。口吸いだ。

 雨乞龍骨(ワルタハンガ)との闘いでそこそこ疲れている隊員の前で、弧金と隼が熱烈なキスを交わしていた。

 ……ズルイ。

 

「っぷはぁ……隼ぇ、甘い……ん~」

 

「わぁ、みんな見てるけどいいの?」

 

「いい……」

 

 そのまま。

 そのまま、隼を押し倒す弧金。その瞳は爛々と輝き、もはや獣種(Beasts)のソレだ。

 

 というかいいわけないでしょ。

 

「そこまでだ、走雷。隼も乗せるな……全くお前は、ようやく直ったと思ったのに」

 

「え? ……あー、あー、もしかして僕、また変になってる?」

 

「とびきりな。帰ったら検査だけは受けておけ」

 

「はぁい」

 

 止められてジタバタしている弧金を引き剥がしながら、隊長は帰投準備を始める。それを見て、私たちも戦闘に使った残骸や化生(Ghrowhst)の素材を回収し始めて──気付いた。

 

 あれ。

 

雨乞龍骨(ワルタハンガ)の素材……どこいった?」

 

「あ、そうそう。さっき言い損ねたんだけど、雨乞龍骨(ワルタハンガ)は殺し切っちゃダメだよ。アレは完全に死ぬと復活するタイプらしい……もとい、復活するタイプだから、動けないようにして放置しておくのが最善なんだって。ついでにいうと素材を持ち帰るのもダメ。復讐に来るから」

 

「……」

 

 遠く。

 海が不自然に持ち上がった。いや海が持ち上がる時点で不自然なんだけど、さらに、さらに高く。海に出きた山は、一つ。しかして巨大。先ほどの六頭の頭をまとめ上げればああなるんじゃないかな、という大きさ。

 

「対処方法は」

 

「どこかに縫い付けて、逃げる……くらいかなぁ」

 

「ここの奪還は?」

 

「無理になるねぇ」

 

 言いながら、ジャラジャラと槍の鎖を引き絞る隼。槍を振り回すごとに体の砂が落ち、その小さな体があらわになる。

 かわいい。

 

「お前はすっこんでいろ。今度は森の方でな」

 

「ェー」

 

「どんな声を出しているんだ……邪魔なんだ。わかってくれ」

 

 鬼熊(カリストラ)の爪を用いて作られたベアクローを嵌める。他、それぞれの得物を構える隊員に、さすがに観念したのか隼が後ろに下がっていく。

 私たちは守ることに長けていない。攻めることに関しては誇りがあるけれど、守りは他部隊の役割だ。

 だから、隼には安全なところにいてほしい。

 一緒にいるなとは言わない。けれど、危ない目にあってほしくないのだ。

 

『あー、こちら出雲。隼も戦ってええぞ』

 

「さっすが出雲ちゃん!」

 

 ──ん?

 

『隼が戦場に出ると言って聞かん以上、弱いままじゃあ困るっちゅーとんじゃ。鍛錬以上に経験を得られる実戦で、無理矢理にでも強なってもらう必要があるじゃろ』

 

「……正気か、出雲」

 

『正気も正気よ。お前らこそ、勝手にうろちょろついて来とる隼が知らんところで死んでもええんか?』

 

「……後で詳しく聞くぞ」

 

 ついこの間まで隼が戦場に出ることを唾棄していた出雲が、この手のひら返しだ。そもそも今回の奪還任務への隼の同行を許可したのも出雲である。

 ……何か隠しているなぁ、これ。

 

「さぁてみんな、来るよ!」

 

「お前が仕切るな、莫迦者が」

 

 まぁ、守りは苦手だけど。

 雨乞龍骨(ワルタハンガ)の攻撃が届く前に、倒してしまえばいいわけだし。

 ガチン、とベアクローを鳴らす。速攻勝負だ。

 

「先行します!」

 

 あ、えっとなんだっけ、倒しちゃダメなんだっけ?

 

 

*

 

 

 まぁ、そろそろ頃合いだとは思うけどね、という言葉を飲み込んで、葉祓ちゃんに追従する。彼女は爪による斬撃を得意とするスピードアタッカー。その速度は到底僕に追いつけるものではないので、追従するといってもすでにかなりの距離がある。

 ので。

 

 ぐぐ、と体を引き絞る。

 構えるはもちろん槍。カタカタと震えるソレを、まっすぐ雨乞龍骨(ワルタハンガ)に向けて──投擲する。いい感じの軌道で飛んでいく槍。引っ張られ、伸びていく鎖。並走を開始し、鎖が伸び切るあたりでジャンプする。

 カツ、という固い音。

 

「あ、あれ、刺さってない」

 

「邪魔なので蹴り飛ばしますね!」

 

 あぁ! 僕の槍が蹴り飛ばされた!

 

「そらみたことか……防御力以前に攻撃力がないんだ、でしゃばるな莫迦」

 

「あ、隊長この鎖その辺の岩に埋め込んで」

 

「ん? ……あぁ、なるほど」

 

 雨乞龍骨(ワルタハンガ)の近くに浮かぶ僕の槍と、埋め込んでほしい鎖の先端を見てどういうことなのかを察したらしい。隊長は僕から受け取った鎖の先端を思いっきり踏みつけて、地面へと埋め込んだ。

 それを受けて、フリーになっている槍を誰かが拾う。誰かというのは、遠くて見えないのだ。

 

「巻くよ!」

 

虫種(Bugs)の鎖で拘束できるかは不安だけど……」

 

「何を言っている。無理に決まっているだろう。拘束されているやつを全員で叩いて海に流すんだ。素材さえ持ち帰らなければいいんだろ?」

 

「あー、いやそれだと……うーん、そう、だね」

 

「懸念点があるのか?」

 

「いや、無いんだけど……いやないよ。大丈夫、派手にやっちゃって」

 

 話している間に槍と鎖が雨乞龍骨(ワルタハンガ)の体に巻き付く。苦しそうに身をよじる彼女を注視すれば、腹の部分が……あぁ、まぁアレなら大丈夫か。膨らんでいることを確認した。

 

 さっき海水が来たとき手首から先を流していたんだけど、食べてくれたみたいだ。

 お粗末様でした。

 

 雨乞龍骨(ワルタハンガ)に殺到していくみんなを見ながら、ふと考える。

 海にいる水棲種(Bogs)はこの手法で網羅できるんじゃないだろうか。殲滅の必要はないとわかったわけだし……問題はみんなが見ているところではできないってことかなぁ。

 

 彼らの監視も考えると少し面倒か……でも地道にやるにしても数がなぁ。

 

 それに、人間側にも監視されてるとは思わなかった。彼女、どこまで気付いているんだろう。彼らの事は知っていたみたいだけど、僕の事は知らなかったみたいだし……チグハグだなぁ。早めに虜にしておこうかなぁ。

 

「それに、少し驚いた。僕が起きている時に僕の体を動かせるなんて。内なる力ってやつ?」

 

 それにしちゃ、弱すぎるけどねぇ。




ぐろうすと図鑑

ワルタハンガ / 雨乞龍骨

一匹の蛇の形をした獣種(Beasts)。再生力に優れ、頭を割いても割かれた頭がそれぞれ一つの頭になるほど。また、息の根を止めても骨の状態から再生が可能。
水を操る。雨も降らせる。洪水も起こす。この龍骨で雨乞をすると必ず雨が降る、らしい。


女性名鑑

葉祓 / ハバライ

小柄ながら爆発的な推進力を持ち、両腕のベアクローで敵を切り裂く姿は子供たちの間で人気らしい。映像媒体もないのにどのようにして子供たちがそれを知ったのか。
絵が上手い人間というのはどこにでもいるものである。
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