なんか思てたんと違う 作:似非地球人
幸いにしてその身に楔を打って海へ繋ぎ止めた後、彼の
第04小隊奪還部隊の隊員としてはあり得ない指示を出した出雲ちゃんは隊長にこっぴどく絞られた様子だったけれど、彼女も彼女で特に折れるという事は無く、むしろ強気な姿勢で押し返したという。
まぁ彼女にとっては速い所隼君を取り戻したいだろうし、妥当かなって。
が、しかし。
「あのぅ、知っての通り僕ってば奪還部隊で、そういう頭使う仕事は向いてないっていうかぁ」
「問題ありません。今回隼隊員に課された任務は、報告という、誰にでも出来るものであるからです」
「うひゃあ」
笠雨さんにぴしゃりと言われ、返す言葉もない。あったけど封殺された。
奪還部隊のみんなは今戦場に向かっている。
僕が行けば一発で見つかるだろうその
「隊長や出雲ちゃんが報告したんじゃ」
「凍理隊長より、情報の出所が稲穂隼隊員であると伺っています。
「え、えぇ~、いや、だから僕も名前を知っていたくらいで詳しくないっていうかぁ」
「その辺りも含めて、報告してください」
言って、笠雨さんはとある部屋の前で止まった。
「失礼します。奪還部隊の稲穂隼隊員を連れて参りました」
「おお! 入ってくれ!」
中から聞こえたるは、おおらかそうな声。勿論の事女性だけど、なんだろう、声質的にアマゾネスっぽいというか、そんな感じの。
笠雨さんに続いてそこへ入る。あ、ちょっとピリっとした。誰か疑いの目を向けているなこれは。
「それでは」
「うむ、本部の連中にはよろしく言っておいてくれ!」
「失礼します」
今来たばかりだというのに、無駄口をたたくつもりはないと笠雨さんが退室する。これまた大仰に手を振って、別れを告げるは、おぉ、声から想像できる見た目で最も想像通りと言えるリアルアマゾネスな女性が一人。そしてU字型のテーブルを囲って座る、六人の女性。目つき怖いなぁ、可愛いけどサ。
さて、僕としては「報告をしろ」と言われただけで、何用なのかがわかっていない。きょろりきょろり、きょろきょろり。
「ええと?」
「うむ。奪還部隊04小隊稲穂隼隊員だな」
「はい」
「単刀直入に聞こう。お前は何者だ?」
一瞬で空気が変わる。先ほどまでのピリっとした感じなど比にならない程、空気が死んだ。いやぁ、まさかこんなところでガチモンの殺意を向けられるとは思わないじゃん。怖いよ。
「ええと、何者と問われましても。奪還部隊04小隊隊員の稲穂隼であります」
「しらばっくれるなよ、
あちゃあ。稲穂隼君が雰囲気に流されて言ってしまった言葉が僕に返ってくるのかぁ。
いや確かに間違っていないというか、稲穂隼君本人は
けど僕は違うんだよなぁ。
「ええと、いくつか訂正させてください。ええとー、
「普通の
「はぁ」
「ああいや、余計な茶々を入れたな。それで?
「はい。軍人になる前から、研究していました」
「ではどうしてそれを軍に還元しない? 知識は武器だ。お前の知恵一つで、救われる命があるやもしれんぞ」
「聞かれなかったもので」
また、空気が重くなった。リアルアマゾネスな人もそうなんだけど、その周りの六人から来る圧がやばい。というかこの辺の説明ほとんど稲穂隼君からの受け売りなんだけど、合ってるよね? 僕詳しい事知らないよ?
「ふざけているなぁ、本当に。それで、お前は何者なんだ。早く言った方が身のためだぞ」
「え、ですから
「それだけじゃあ、ないだろう。なぁ。どうしてお前は
「対抗は出来てるかどうか怪しいですけど。僕、ほとんど役に立ってませんし」
「屁理屈はやめておけ、私とてそんなに気は長くない。
これは、不味いかなぁ。完全にフォーカス合わせに来てるというか、逃がすつもりはないぞ、という意志を感じられる。
最悪暴れまわって取り押さえられている隙に血を飲ませて……が一番楽だけど、はてさて、全員に飲ませるとなるとそれなりの労力を要すぞ。
「……だんまりか」
「何者か、という問いが難しいんです。僕は人間ですよ。それじゃダメですか?」
「ダメだな。が、確かに聞き方が悪かった。お前の経歴をまず言ってもらおうか。無論、ここにいる全員の口の堅さは約束しよう。必要最低限以外は漏らさんでいてやる。それでどうだ」
「ふむ」
ううん、稲穂隼君の経歴か。いや言うのは構わないんだけど、一応他人の過去だからなぁ。僕が話していいものか、みたいな倫理観が……。
まぁ今更かぁ。
「簡単に言えば、僕の家族は
「……」
シン、と静まり返る部屋。真偽を見定める瞳と、多少の同情の色。まぁ、同じような境遇の人は少なくは無いはずだ。相手が
ちなみに子供でも無理だとわかる、と言ったけれど、理論上は可能である。というか僕がやる気になれば出来ない事もないって感じ。やんないけど。
「そうか」
「はい。納得していただけ──」
次の瞬間、眼球のすぐそばに剣があった。
ミリだ。こちらが少し前方に屈むでもすれば、たちまち僕のプリティアイズが潰れてしまうかのような距離。大剣と呼ばれるものだが、いつの間に出し、いつの間に付きつけたのか。視認はまぁ、出来なかった。男の動体視力なんてそんなものだ。
「そうまでして嘘を吐く理由はなんだ、稲穂隼」
「嘘、ですか」
「それが本質ではない、と言った方がいいか? その境遇、経歴そのものは本当だろう。だが目的は違うな。否……それは
へえ。
へえ!
「いいえ、本当ですよ。境遇も経歴も軍に入った理由も本当です」
「……」
「が、今の目的は違います」
「言え」
「はい。ハーレムです」
ふぅ……初めて口に出したかもしれない。一応隠し通してはいたんだけどね、引かれるだろうから。こう、貞操観念逆転世界である事を再認してもらって、元の世界でいう所の「イケメンの集まる軍学校に入った理由が逆ハーしたかったからって公言しちゃう女の子」みたいな……何、地雷? そんな感じになっちゃうからさ、言えなかったんだよね。
でも言えって言うなら仕方ない。
「ハーレムです」
「ふざけているなぁ」
「いえ、本気ですよ。僕は女の子が大好きなんです。カッコイイ子も可愛い子も。女の子ばかりの軍に入れば、ここに所属していれば、あんまりモテない僕でもみんなに愛されるんじゃないかって期待しました」
「……ふざけているなぁ?」
「期待してたんですよ。いえ、確かにみんな愛してくれますし、めっちゃ守ってくれます。でも違うんですよ。僕自身もカッコよくないと! むしろ僕が守る側でないといけない! いいですか、僕は本気で04小隊のみんなを守りたいっつってんですよ。笠雨さんとか、隊長とか、誰に言っても軽くあしらわれますけど、本気なんすよ!」
アツくもなろう。だってハーレムだぞ。男の夢だろ!
「どう思う?」
「結婚を前提にお付き合いしたいですね」
「死んでくれ」
お、好感触な子いるじゃーん。
この世界、男が狙われすぎて男の数が少ないので、男側がハーレムと宣う事にあまり抵抗がない。いやハーレムとは呼ばない、が正しいんだけど、加えて自分から求める奴はいないに等しいんだけど、あちら側の倫理観として多妻一夫制は問題ない、という事だ。
「私にそういう誤魔化しは効かないぞ、稲穂隼」
「いやぁ、眼球に刃物突きつけられている状態で冗談を言うと思いますか?」
「これほどの殺意を一身に受けて尚飄々としていられるヤツだ。それくらいは軽いだろう」
「じゃあ、本部の古閑子音さんに繋いでください。あの人僕の従姉なんで、僕が普通の人間で、さっき話した事以外の特別な経歴を持っていない事が分かると思いますから」
「……」
ゆっくりと刃が降ろされていく。
ふぅ。最初からこういえばよかった。隼君のお
「その、対策本部長から、お前を呼び出せという命を受けているんだがな?」
「え」
「古閑対策本部長から伝言がある。お前が何者か、という問いに対し、答えをはぐらかした場合にのみ伝えろ、と仰せつかっている。ただ一言だ。『貴方じゃないわ』だそうで。心当たりは?」
……まぁ、稲穂隼君を愛しているのだろう彼女であれば気付くのもわからなくもない、か。さて、はて。
面倒だなぁ。
「だから問うている。お前は何者だ。稲穂隼ではないお前は、何者だ」
面倒なので。
一歩前に、出た。
「ッ──!?」
降ろされていく途中の刃。彼女が刃を引くのと、僕が一歩踏み出すの。どちらが速いかと言えば勿論、彼女の方が早い。女性の身体能力は男性を隔絶している。
が故に。
「それ以上動くと、」
「だと思ったよ」
そのまま、身体に張り付いた冷たい感覚を無視して、思い切り一歩を踏み出した。踏みつけた。
ぴしゃっ、と全身に走る赤。驚愕の呼気が耳元から、そして目の前、さらには部屋全体から聞こえる。
リアルアマゾネスな人だけじゃない。僕の動向を監視していた六人だけ、でもない。この部屋にはもっとたくさんの女性がいた。ずっと隠れていただけだ。その内の一人が僕に
だから、今すぐにでも僕を殺す準備が整っていた事はずっと知っていたのだ。
なれば一歩を踏み出せば、最終警告さえも無視して動けば、僕が八つ裂きにされるのは当然の事。
噴き出す血液が部屋に充満していくのも、当然の事である。
「お前何を、っ!?」
リアルアマゾネスな人がバックステップで壁際にまで退避する。流石アマゾネス。異様な雰囲気でも感じ取ったか、あるいは野生の勘かな? いや見た目アマゾネスなだけでこの人がアマゾネスかどうかなんて知らないけど。
「どうした、お前達……」
「……申し訳、ありません、でした」
「いや、いいよ。気にしてないから。それよりさ」
「はい。たとえ隊長であろうとも、彼を傷つけるのは許せません、から」
ゆらりと立ち上がり、リアルアマゾネスな人に向かって行く女性達。あの人隊長なんだ。まぁそうだろうけど。
僕は僕で、どくどくだくだくと流れ出る血の池に身を倒すばかり。ただ、もし正常な判断が出来る人がいたのなら、気付けたかもしれない。血液がまるで雨天に霧立つが如く、超スピードで気化して行っている事に。
気化して、吸われて──僕に戻ってきている。
「……出てきたとしても、他小隊の改造人間やら、他国のスパイだろうと思っていたが……まさか、人間である、という所まで嘘か、貴様」
「僕からすれば、君達の方がよっぽど人間とは思えないけどね。僕は人間だよ」
殺到する。女の子達も──血も。
逃げ場は、なかった。
「失礼します、笠雨です」
「おう! 入れ!」
「はい。……
「ん、なんだ」
「いえ、どうして隼隊員を
「どうして、と問われると難しいが……可愛いから、だろうな。あるいは争奪戦に勝利したから、でもいいが」
「ふむ。これより隼隊員を奪還部隊の元にまで送り返しますが、離別の挨拶は必要ですか?」
「私が直々に連れて行こう。そうだ、笠雨。報告書は纏めておいた。本部への連絡を頼んだぞ」
「はあ。ではそのようにいたします」
言って、笠雨さんが出て行く。
出て行かないで欲しかった。ちゃんと強制的に連れて行って欲しかった。
ちょーっと飲ませる量が多すぎたな、って。
「ふふふ……ああ、私には男など無縁なものと思っていたが、どうして、なかなか……抱き心地の良いものだ。この筋肉のついていない細腕も、触れたら折れてしまいそうな足も、余りにも弱そうな柔肌も……なるほどこれは守りたくなる」
「隊長、そろそろ代わってください。あと、服の上から胸を揉むのは流石にどうかと。セクハラの域を超えていますよ」
「何、皆で
「……悪くないですね」
さて。
これは、今日中に帰れるかなぁ。
岩屋 / イワヤ
筋肉の人。第04小隊長。