なんか思てたんと違う 作:似非地球人
01区画の少し離れた場所で、vs
といっても僕のやることは簡単。
「隼……それは、必要な事、なんだな」
「はい。
指の腹を斬って出した血を、小瓶の中に詰めていく作業。
といっても失血死するような量じゃない。どころか本当に一滴二滴だ。
つまりは、自らを使役する
ピク、と。
小瓶が動く。
「……見逃せば、良いのだったな?」
「はい。正直僕の方に嚙みつきたい気分ではあると思いますけど、彼女らはあくまで確実に食せる方を優先する。賢いですからね、元の
そこには何もいないはずなのに、小瓶がカタカタと音を立てて動いていく様は、まるでポルターガイストだ。
「まだですよ、まだ。白石さんも桜隊長も、まだ動いちゃダメです」
「わかっている」
「ただ、注視してください。
「……
「はい。けど、相手はあくまで僕たちが幻術にかかっていると過信している。なら──」
浮く。
浮き、上がる。
瞬間、風が二迅、僕の隣をすり抜けた。
「手応え、ありだ! 本隊! 狙撃班!」
「着色完了!」
何もなかったはずの空間から噴き出るのは赤。
して、また瞬時に離脱する二人。
直後遠方、第01小隊の皆さんが準備を行っていたその場所から、数えるのも億劫になる量の矢が降り注ぐ。
「隼、飛び上がれ!」
「了解っ!」
槍を使っての跳躍。
そして槍を抜いたそのタイミングで、地面を何かが薙ぎ払う。視認できなかったけど多分桜隊長の何かしら。
これによって、幻術で隠れ逃げようとしていた、あるいは僕に噛みつこうとしていた
「黒と、紫の……
「さしずめ
「ッ、対象
逃げたか。
まぁ、そりゃそうなる。桜隊長の一撃で死ななかったのは流石の
小瓶は。
……ちぇ、手放したか。亜空間でも僕の血を飲んでくれたら一発K.O.だったのに。
「隼、次はどこに現れる?」
「先にも述べましたが、
「つまり、奴が体力切れで出て来た時がねらい目か」
「ただしどこに、と問われるとちょっと厳しいかも。僕の周囲からそう離れたがらないとは思うんですけど、万一全力撤退してたらわかりません」
もうちょっと血を流してみるか? あんまりやると他の
「観測班より入電! 森の中に、稲穂隼隊員の述べた通りの容姿をした傷だらけの女性の姿あり!
「森の中のどこだ」
「あ、矢を撃ち込んだりしちゃだめだよ。また逃げられちゃう」
「A3、JB3です!」
なんて?
とかって聞く前に、桜隊長の姿は消えていた。
「今のは、何?」
「あれ、04はこういうことしてないのかな? 今のは座標だよ。01区画周辺を盤面と見て、縦軸と横軸を定めているの。こうすれば、どこに何がいるのか、どこで何が起きているのかがすぐにわかるでしょ?」
成程。
エクセル方式か。あるいは将棋でもいいけど。
……かなり賢いのでは? 口頭でどこどこのどこ、とかって伝えるのの何倍も良い。
あー、でもどっちみちウチじゃ無理か。奪還部隊は基本的に把握できていない場所に赴くから、それが使えない。防衛部隊とかにはそういう符号があったりするのかな。信号弾だけじゃないのかも。僕が知らないだけで。
「白石さんは、どれくらい戦えるの?」
「あ、もしかして私のことなめてる?」
「そうじゃなくて――」
ガン、と。
見えない何かを槍で受け止める。わぁ、全然無理だ。
「──稲穂君に、近づかないで」
そう言いながら、僕に剣……剣? のようなものを向けてくる白石さん。
もう一度攻撃を受け止める。ひゃあ、手首の骨が逝ったねえ。まぁ気付かれない内に戻すけど。
「ま、桜隊長の戻ってくるまでの間くらいは相手してあげようか、にゅ」
一突き。
やっぱりそれ剣じゃないのか。槍? よくわからない長物武器。
それが僕に口に突き刺さって、そのまま首の骨まで貫いた。あっぶな。頭吹き飛ばされてたら彼が出て来ちゃってたよ。
「さて、意味ないとは思うけど、えい」
刺さったままの口と喉で言葉を発し、一応、という名目で貰っていた気付け薬を白石さんに投げる。
ぱふ、なんて音で彼女に当たったそれ。当たった衝撃で袋が破れ、中の気付け薬が白石さんを覆う。十分に吸い込んだはず──だけど、変化なし。
うーん、仮に
長物武器の身を横に押して、自分の顎やらなにやらを砕いて刃先から抜け出す。おー痛い痛い。
「さて、これはどうしたものだろうね」
白石さんは彼氏さんのいる身。
いずれ全女性をハーレムに入れたい僕だけど、だからってNTR属性は持ち合わせていない。その彼氏さんが死んで、未亡人となったのならウェルカムだけど──今はダメだ。人の恋路を引き裂いてまでハーレムを作るほど、僕はまだ終わっちゃいない。
今更ではあるのは自覚しているけれど。
弾く。いなす。
力負けしている以上モロに受けるのはマズいので、できるだけ力を受け流す方向で、骨折は辞さない感じで。
「このッ……、何!? なんですか!? 今見たことも無い獣種と戦っていて忙しい──え?」
お。
成程、桜隊長の方だけじゃなく、こっちを観測した人がいたのかな。
あびねー。僕が完全にぶっ刺されてた所、見られてないよね?
「……それは、本気で言っているの?」
問題は
通信機の存在を彼女らが学習した場合、聴覚情報も幻聴に変えてくる可能性が高い。そうなったら外部からの通信も意味が無くなる。
だから早いとこ桜隊長帰ってきてーというのが本音。
「……この、目の前の
「ソダヨー。けどそれを言葉にするのはマッズいなぁ。改造
「はぁ? やっぱり嘘? ……ああ、そう。今私、耳もやられたわけ」
へえ。
流石01。味方が嘘を吐くなんてあり得ないと一瞬で判断して、自分を疑う方向にチェンジしたか。
「──ごめんなさい、稲穂君。あなたに刃を向けた事、謝ります。そして──どうか、逃げて。私はもう私が信じられないから、せめて」
「わーわー! ばっかじゃないのかな、それは流石に!」
白石さんは自らの武器を自らに向けた。首か心臓か、どちらかを貫くつもりなのかはわからないけれど、自刃しようとしていることだけはわかる。
弾く……は、無理だ。
だから穂先に自らの肩をぶつけて刺さらせる。人間の肩から肩へかけての骨の厚みは相当なもの。これなら女性の力がどれほど強く、男性の身体がどれだけ弱くても……アイヤー、無理そうだね。
ぞぶぞぶと身を貫いてくる長物武器。このまま僕がどこかへ行けば、単純に僕の身体が裂けて、武器のコースは変わらず終わるだろう。白石さんの握力はそんな小細工をものともしない。
やむを得ないか?
血を飲ませるべきか? ──忠誠を誓うレベルまで飲ませたら、意識剝奪も叶うけど……彼氏持ちを?
考えろ考えろ。これは余計な倫理か? 今までさんざんなことやってきた僕だけど、みすみす死なせるのと彼氏からNTRるの、どっちが悪か。
いやどっちも悪だよね!
「けど、優先順位は、命!」
誹りは受けよう罵倒は受けよう。
ただゴメン、見捨てられないや!
首を180度捻り、目を瞑って自刃しようとしている白石さんに、キスを──。
「隼、白石を投げながら跳べ」
「──ッ、了解!」
肩が貫かれているのでそこまで力は出せないけれど、背負いながらジャンプするくらいはでき……なそうだから、ジャンプしたふりをして白石さんだけ浮かせる!
直後、僕の足首から先が消失した。
「……すまない。できなかったか」
「あはは……っと、桜隊長、白石さんの拘束お願いしていい?」
「ああ」
じゅ、ぐと。
音を立てて……足と肩が再生を始める。
「……やはり、そうなんだな」
「うん。ああでも、秘密にしてほしいかな」
「無論だ。……観測部隊からも、今お前の身体は見えないようになっている」
「気が利くなぁ、流石桜隊長」
そうだった、人間の観測部隊もいるんだった。あぶねー。
よーし上の目も消えたね。君達は実際に見ているわけじゃないから、僕が今どういう風にどうなったかは把握できないだろ。残念でした。
「痛みは、あるのか?」
「あるよー。死ぬほど痛い。でも、痛いからって思考を止めるとか、馬鹿のすることでしょ」
「……そう、だな」
「稲穂隼君でさえこの前の
おっけぃ、飛び散った血も回収したから誘蛾灯にもならないはず。
「
「殺した」
「流石」
「……隼。……白石のことは」
「ああ、気にしてないよ。本人と周囲は気にするかもだけど、ほら僕今無傷だし」
「そうではない。最後、何かする気だっただろう。何か、どうにかできる手段があって、しかし迷っていた。だが自身のためではなく白石のため……に、思えた。違うか?」
「あー。まぁそれは追々話すよ。ちょっとこっちも事情が込み入っててね。桜隊長になら話しても良いとは思うけれど、僕には僕の目的がある。勿論稲穂隼君にも。だから、それの目途がついてからかな、話せるようになるのは」
「そうか」
鋭いにも程がある。
いいなぁ、ホント。桜隊長はドストライクだ。なーんで稲穂隼君があんなに嫌っているのか全く理解できない。
「これで、
「うん。全く同じ
「……そう、だな」
04に対する罪悪感は多少ある。
本当だったらどこに属することもなく放浪するのが一番良い。僕の目的から見ても。
ただ、一応宿主は隼君だし。
「感謝する」
「蓮流ちゃんの敵討ち?」
「ああ。……これでようやく、けじめをつけることができた」
四年半。
短いようで長い時間だっただろう。だというのに弔い合戦もできないで、彼女はあんなに病んじゃって。……彼女を虜にしたのは失策だったか。NTR属性は本当にないんだ。こうして解決できて、彼女の気が晴れるというのなら……彼女がもし、軍に復帰して、あるいは桜隊長の隣に並ぶ未来を考えたのなら。
いやでも正当防衛だしなー。
「ん……ぅ」
「起きたか、白石」
「さ……くら、隊長……?」
拘束しておいて、とは頼んだけど、気絶させて、とは言っていない。
でもまぁ正解か。幻術は気絶で基本解ける。媒介に花粉だのなんだのを使っていたらそれを除去する必要があるけれど、少なくとも
「……本当に、桜隊長?」
「ああ」
「あぁ……ここで多くを語らないあたり、本物ね……」
お前は幻術にかかっていたんだ、とか。お前は隼を殺そうとしていたんだ、とか。
そういう説明の一切を省く桜隊長の桜隊長っぷりに、納得ができたらしい。
して、白石さんは。
僕の姿を認めた。
僕の再生は残念ながら衣服までは取り戻せない。だから肩口に彼女の使う武器と同じサイズの穴が開いていることとか、靴が無いこととか、首元のインナースーツが何かに貫かれたようになっている事とかは丸見えだ。
それを見て、何をどう判断するかは彼女次第だけど。
「……ごめんなさい」
「何が?」
「ごめんなさい」
「だから、何がですか? 白石さんは僕を守ってくれた。なのに何を謝るんですか?」
深く背負い込むタチだったかー。
これはマズい。蓮流ちゃんの再来になりかねん。
……しょうがないなぁ。
「白石さん」
「……」
「ごめんね」
「!?」
キスを、する。
加減はする。彼女を虜にするつもりはない。ただ──少しだけ弄る。
「隼、何を」
「……」
「……」
ふぅ。
こういう細かい作業苦手なんだけど、うまくいったかな。
「ちょっと裏技で、僕を傷つけた記憶を封印しました。催眠術師みたいなものだけど、効果はそこそこあると思いますよ」
「……解くことは、できるのか?」
「僕がやれば。まぁ解かない方が良いでしょう。01も、人員が潤沢で余っているというわけじゃないだろうし」
「それはそうだ。だが」
「白石さんのためにならないのはわかってるし、本来なら彼女が乗り越えなければならないことなのも理解してる。けど流石に今にも自刃しそうな人を放っておく趣味はないかな」
「……ああ、そうだな」
さて、と。
余った小瓶を一つ、森の中へ放り投げる。蓋はしてある。甘いけど。
桜隊長は殺した、と言っているけれど、
申し訳ないけれど、信じきれない。
だからこその保険。あの小瓶の中の血は芳醇な香りを放つだろう。そして、瀕死のダメージを受けているはずの
たんと飲んでほしい。
それが君の最後の晩餐なんだから。
「戻るぞ」
「はい。……ただ、僕と白石さんが戦っているところはばっちり見られちゃってたみたいなので」
「案ずるな。口添えはする。白石は私の大事な部下だ」
カッコイイなぁ。
それでこそって言葉をちゃんと吐いてくれるのが。
「隼。お前の言う通り、お前を01区画に置いておくことはできない。それは……できそうにない」
「うん」
「だが、私はお前が好きだ。だからまたちょくちょく会いに行っていいか?」
「勿論。ただ凍理ちゃんとあんまり喧嘩しないでね」
「響はああ見えて寛容だ。そして頭が固い。適当な来訪理由を正式にでっち上げれば納得するだろう」
正式にでっち上げる、とは。
「そして、いつの日か。お前の抱えている秘密を私にも教えて欲しい」
「僕のこと、嫌いになるかもよ?」
「それはない。たとえお前が人間ではないのだとしても、私はお前が好きだよ、隼」
……ちぇ。
それ僕が言いたいんだけどな。
やっぱり敵いそうにないや。……この人は、最後の最後にしなきゃね。
ぐろうすと図鑑
ツチミメ / 飯縄遣
貝殻の水着みたいなものを纏い、髑髏面で顔を隠す
フウィコヨティロ / 黒狐
幻術を扱う非常に小さな
ティルナコヨティロ / 浄土狐
強力な幻術を扱う黒と紫の中間色をした小さな
女性名鑑
白石 / シライシ
フォシャールを武器として使う。取り回しの難しい武器ではあるが、その膂力を持ってすれば