なんか思てたんと違う   作:似非地球人

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2.手のひらを太陽に

//開始

 僕の世界が変わってから三週間。

 一か月に満たないこの時間で、この世界のことは大体把握できたように思う。

 

 男の少ない世界。人類種の脅威がのさばる世界。脅威の好物が、男である世界。

 片や女性は強く、片や男性は守られる。

 貞操観念逆転などとは烏滸がましい、ただ単純に弱い男のいる世界である。

 

 それ以外のコト──例えば文化水準などは、変わっていない。

 正確には変わっていなかった、というべきかな?

 

 僕らの所属する軍。その各隊に振り分けられた区画。

 そこに残っていた、文化水準を指し示す娯楽や施設──の、残骸。

 人々の記憶にもまだ、多少は新しい出来事。

 所々が大きく変わっている部分もある。化生(Ghrowhst)の出現があるのだからそれは当たり前だけど、大まかな分岐点ともいうべきところは変わっていなかった。

 置き換えられていた、というべきかもね。

 

 それは外交的なものであったり、天災であったり、内乱であったり──それらがすべて化生(Ghrowhst)を因とするものに変わっていたくらいで、結果は同じ。

 

 正確なことは何もわからない。

 図書館やデータ系統の保存サーバーが軒並み死んでいて、電力供給もままならない地域ばかりの現状。

 記録なんかできたものではない、って事。

 

 まぁ僕は歴史家ではないし、たとえ知れたところで何が変わるわけでもない。

 強いて言うなら化生(Ghrowhst)の出現ポイント……何が原因で現れたのか、どこから現れたのかくらいは調べたかったけど、それは僕だけでなく世界中の誰もが思っていることなのだろう。

 

 

 さて。

 

 先も言った通り、僕は軍隊に所属している。

 一応、国防軍の成れの果て、になるのかな。自国民を守っていることには変わりないわけだし。

 

 ただ、振り分けられた各隊に横のつながりがないことだけは少し異質かもしれない。

 元皇居周辺に置かれた本部を基として、観測部や測量部、研究部なんかが割り振られている中で、僕らは奪還部隊──化生(Ghrowhst)に奪われた土地を取り返す尖兵だ。

 攻撃系の部隊の中でも特に死にやすい部隊。無論哨戒部隊や防衛部隊が楽、なんてことはカケラもないのだけど、死地に踏み込んではその主を積極的に狙う様は、正直なところ内部から見ていても危なっかしい。

 

 そんな奪還部隊は01から09まで人員が割り振られていて、僕のいる隊が04。噂では00もあるらしいけど、基本的に他の隊に関わらないのでどうでもいい話だ。

 

 要するに、僕のいる部隊は最上級に危ないトコロで戦っている、女性からしたら非力極まりない硝子細工の人形みたいなもので。

 奪還部隊にいるもう一人の男性──第02小隊のお爺さんの前例がなかったら、絶対に許されていなかったと思う。

 

 許されていなかった、というか。

 今も辞める事を推奨されている、というか。

 

「隼隊員。聞いていますか?」

 

「いえ、聞いてませんでした。多分僕の命令違反とかその辺の話だと思うんですけど」

 

「はい正解です。軍規違反についてのお咎めです。ほとんどがとってつけたような理由ですが、上からのお達しであることに違いはありません。回数が多すぎてそろそろ言い逃れも難しいです。どうするおつもりで?」

 

「どうしようもないです……」

 

 当たり前なのだ。

 常識。それは恐らく、軍隊に所属しない民間人ですら当たり前の話。

 

 男が戦場に出るべきではない──鋼の一般論。

 男は守られて然るべきであり、男は何が何でも生を優先すべきであり、男は弱い生き物であり、男は、男は、男は。

 

 軍規違反、というのは実はほとんどない。だって隊長がほとんど報告していないはずだから。

 それをとってつけたような理由でやいのやいの言われるのは、偏に言って「心配だから」である。

 

 単純に単純な話。

 お上に身内がいるから、めちゃくちゃ心配されてる。

 私情込々のそれってどうなのクラスのお話。

 

「一応、後で手紙出しておきます。多分、それで今回も見逃してもらえると思うんで……」

 

「……果たしてそれがどれだけ持つことやら。ですが、わかりました。上手くいくことを祈っています」

 

 目を伏せ、ため息をついて去っていく女性。

 

 04小隊に所属しているものの、本来は本部所属──各隊に一人は割り振られた、本部との連携役である役職の人だ。単独で化生(Ghrowhst)の巣での殿を務め、2日と16時間を戦い続けた、一種の英雄。もっともこの世界の女性はそれを超える人がわんさかってほどじゃないにしてもいるから、こんな役回りに落ち着いているのだけど。

 

 笠雨(かさめ)さん。苗字なのか名前なのかは知らない。教えてくれなかった。

 非常にきっちりとした性格の人で、時間にも厳しい。けど僕に関してはすごく甘いように感じる。今みたいに、見逃してくれることも多いからね。

 

 ちなみにおっぱいが大きい。もう一つ付け足すなら、おっぱいが大きい。あとおっぱいが大きい。

 身長は175㎝程。メガネをかけているけれど、なくても特に問題ないとか。でも伊達ではないらしい。女性の視力は12.0が平均らしいので、僕の常識で測っていいことではない。

 

 あ、出雲ちゃんはぺったんこだからね。大丈夫、安心して。

 

従姉(ねえ)さんに手紙出さなきゃ……」

 

 ため息を吐きつつ。

 

 自室へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 槍を振るう。

 

 取り回しのいい武器ではない。狭所で使うにはリーチの都合上難しいし、詰められたときに対処できる武器とは言えない。

 利点は中距離に対応できること、敵との接点が持ち手から遠いこと、間に合いさえすれば、防御にも向いている事。突き刺すだけで深い傷を与えられること。

 

 つまるところ、上手く扱えれば強い武器なのだ。

 

 上手く扱えれば。

 

「ていっ!」

 

 地面に突き刺さった、藁の巻かれた丸太。

 そこへ、本物と同じ重量の練習用槍を叩きつける。右薙ぎ。

 藁の奥、丸太の芯に達した槍を感じた瞬間に引き戻して、今度は大ぶりの時計回り。

 両手で持った槍を左から思いっきり丸太へアタック。

 

 それでも丸太は倒れません。

 

「……ふぅ」

 

「おつかれー」

 

「ありがとー」

 

 近くで座ってこちらを見て居た女の子、彼女も同じく04の、走雷(はしら)という少女である。水筒とタオルを渡してくれたので、垂れていた汗を拭いて水をゴキュリ。

 彼女は僕同様槍使いであるので、こうしてたまに僕の鍛錬を見に来てくれるのだ。

 

 ……まぁ、足元にも及びませんけどね。僕が。

 

 一息ついたところで、また槍を持つ。

 

 今回の目標は、この丸太を倒す事。

 結構深く根元が埋まっているので無理味マシマシなのだけど、この程度のことは民間女性でも出来るらしいからオソロシイ。オシロスコープ。

 

「せやぁ!」

 

 今度は突き。

 当然藁に少し刺さっただけで止まってしまうけれど、そこを起点にスライディング。僕と槍と丸太が三角形を描くようになったら準備完了。根元に足をつけ、穂先にもう片方の足をやり──柄を引く!

 

 少し、動いた!

 

「いや主旨違うからだめじゃないかな」

 

「ですよね」

 

 てこの原理で引き抜こうとしたワケだけど、槍で倒すと全く関係ないのでOUT。

 走雷がコツン、と丸太の頭を小突いただけで、僕が浮かした数mm……+何cmかが地面に埋まる。

 

 ……ふぅ。

 

「あきらめる?」

 

「……あきらめないよ!」

 

 あぶな。

 今日は諦めよう、とかいうところだった。僕はかっこよくなりたいのである。弱音は吐かない。

 

 もう一度槍を握り直し──滑った。汗で。

 手から離れた槍はフリーフォール。向かう先は僕の足。

 

「っとと」

 

 なんてことはなく、超反射神経で走雷がキャッチしてくれた。

 気まずい沈黙。

 

「今日はやめとこっか」

 

「……うん」

 

 僕は──弱いッ!!*1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いろいろ透けている。

 

 目のやりどころに困る。彼の鍛錬に付き合う日は、いつも思う。

 正直大して激しい運動はしていないように思うのに、結構な量の汗をかく彼。汗が染みこんだ低防護スーツは肌の色を透過するので、しかもよりによって白を選んでいるので、見える。

 

 狙ってやっているのではないか、と思うことはある。

 同時に、こんなに頑張ってる彼に失礼が過ぎる、とも思う。

 

 でもエロいんだから仕方ない。生唾は飲み込んでも仕方がない。

 

「……」

 

 奪還部隊の男性は2人だけ。2人だけのために更衣室を用意する、なんてお金はない。

 だから、申し訳ないけれど、男の子にも女子更衣室で着替えてもらうことになっている。

 

 端に用意されたロッカーの前で、恥ずかしげもなく上のスーツを外す彼。

 私の目の前で。ジュースを飲みながら、普通にガン見している私の前で──彼は肌を晒した。

 

 こちらにまで届く汗のにおい。女からは感じない、オトコのにおい。

 また、生唾を飲み込む。ジュースを飲んでいるにも関わらず。

 

「……」

 

 今度は下部パーツ……つまり下のスーツに手をかける彼。

 一瞬こちらをチラ、と見てきたから、首をかしげておく。

 すると彼は目を瞑って頷いて、思いっきりそれを脱いだ。

 

 生唾を飲む。

 素直に。美味しそうだと思った。

 

「……」

 

 小さな足。爪先。踵。踝から足首にかけてのライン。

 細い。弱そう。柔らかそう。美味しそう。

 脹脛。膝窩。太腿。ぷるぷる。お尻は丸い。全然引き締まってない。

 

「……じゅる」

 

 おっと危ない。

 涎を飲み込む。

 

 化生は食欲で、女は性欲で男を食らう──なんてのは、昔から言われてきた事だけど。

 

 こうして無防備な男の子を見ると、女にも食欲も多少はありそうだな、なんて猟奇的なことを思ってしまう。

 化生が男を好むのもわかるというものだ。

 

 

「走雷?」

 

 

「なに?」

 

「ジュース零れてるけど……」

 

 本当だ。

 お腹から下腹部にかけて、だばーっと。

 

 いやでも。

 目の前でそんな、半裸になられたらもう。困るよ。

 これ襲っていいのかな。

 

「ねぇ、隼」

 

「うん?」

 

「隼って体重いくつだっけ」

 

「体重? 48kgとかだったと思うけど……もしかして僕太った? お腹出てる?」

 

「んーん。そういうことじゃない」

 

 軽すぎる。

 誰にもばれずに簡単に持ち運べる重さだ。

 そういえば自分のロッカーに投擲用の槍を入れる袋があったはず。槍が入るのだから、人間、それも男の子くらいは平気で入る。

 

 いけるんじゃあ、ないだろうか。

 

 普段着のインナースーツはジュース程度を通す材質ではないのでタオルでしっかりふき取って。

 立った。

 

「走雷?」

 

 ジュースをベンチにおいて、無言で自分のロッカーへ。

 白い袋(お目当てのモノ)を見つける。上がる口角。

 

 袋を取り出し、ロッカーを閉め。

 

「はし、」

 

 

 彼に被せた。

 

 

 はい。

 

「──!? ──!!」

 

 武器運搬のための袋である。

 耐久性はもちろん、防音性もあるこの袋。

 足を取って横に寝かせ、しっかり口を閉じる。

 

 袋越しに、彼の肌を触る。これに関しては不可抗力。見えないから触っても仕方ない。くにゅ。

 

「──ッッ!!」

 

 袋を俵抱きにして、更衣室を出る。

 本気で気配を消して、自室へ直行。

 

 今なお弱々しく暴れる袋を自身のベッドへ寝かせる。

 

 みっしょんこんぷりーと。

 

 しっかりお尻で足を抑えて、そーっと袋を取る。

 

「ぷはぁっ!」

 

 ……密封性が高すぎたみたいだ。

 罪悪感。

 

「大丈夫ー?」

 

「……ふぅ。はぁ。ふぅ」

 

 息を整える彼に、少しずつしな垂れかかる。

 逃げられないように手首をつかんで、少しずつ。

 

「ふぅ~……いや、大丈夫だけど……顔近い近い」

 

「ならよかったー」

 

「うんうん良かったねー、初めに声をかけてくれればもっと良かったね。というかここ、走雷の部屋? 別にこんな誘拐紛いの事をしなくても、いってくれれば行くのむぐっ」

 

 両手足を押さえて、半裸の彼に。

 唇を、落とした。

 

 まだ完全に息が整っていないのだろう、彼の意思とは裏腹に、こちらの口に吸い縋る様が情欲をそそる。

 そこへ舌を入れてやれば、この通り。

 私の舌を熱心に(ねぶ)る雛鳥がそこに。

 

 これはイケる。

 確信した。私は知っているのだ。男は女同様、体は正直なのだと。そういう本に書いてあった。

 

 じゃあ改めて──。

 

 

 

「首を落とされるのと──隼から離れるの、どっちがいい?」

 

「ごへんははい」

 

 すぐに謝った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「走雷隊員は三日間、隼隊員に接触禁止になりました。貴方が被害を申し出れば、もっと重くできたのですが……」

 

「いえ、別に酷いことされたわけじゃありませんし……」

 

 僕としては、好都合も好都合な展開──お持ち帰りを阻止してくれた(しまった)のは、たまたま走雷に用事があった笠雨さんだった。

 笠雨さんは素手で人の首を落とせるらしい。怖い。

 

「……貴方はもう少し危機感を持つべきです。この女所帯、いつ襲われてもおかしくはないのですから」

 

「う……まぁ、それでみんなが喜ぶなら……」

 

 むしろ大歓迎、と言いますか。

 大好物、と言いますか。

 

 でも本音(そんなこと)は口に出さないで、あくまで自分にソウイウ意思がないことをアピールしつつ、嫌ではないことをアピールアピール。Beer! Beer!

 

「これは一度痛い目を見ないとわからなそうですね……。いっそのこと最後まで……」

 

「もしかしたら明日にでも化生(Ghrowhst)に食べられちゃうかもしれないんだし」

 

「それはあり得ません」

 

 否定が来た。

 

「私達が守ります。貴方をむざむざと化生共に食わせるほど、私達は──私は落ちぶれてはいませんので」

 

「あ……うん」

 

 思わず頷いてしまうくらいの意思があった。

 言葉に安心できる自信があって、それが心地よい。

 

「……報告は以上です。私はこれで」

 

「笠雨さん」

 

 毅然とした態度のまま立ち去らんとした彼女を呼び止める。

 そして言う。

 

「いつか僕は、君も守れるように強くなるからね」

 

 言った。

 

「冗談は好みません」

 

 受け取ってくれなかった……。

 冗談じゃないんですけど。

 

 くぅ、かっこよさって……難しい。

//終了

*1
顔を手で覆いながら




女性名鑑

笠雨(かさめ)さん

秘書然とした姿の眼鏡の女性。おっぱいが大きい。かなり強い。
身長175cm。体重??kg。握力測定不能。ボンキュッボン。


走雷(はしら)弧金(こがね)

言葉はふわふわだけど内心はアクティブ且つ本能に忠実な女の子。
身長164㎝。体重??kg。握力は気分で変わる。スレンダーだけど大きい。



主人公

稲穂隼
無防備。

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