なんか思てたんと違う 作:似非地球人
04区画には様々な民間施設が存在する。
軍人でない民間人が経営する施設であり、民間人は勿論、軍人も頻繁に利用している。軍の施設に十分な設備があるにもかかわらず、だ。
それは一般にサービスが良いだとか、稀に男がいるだとか、軍では禁止されているものが扱われているだとか、様々な理由に基づくことではあるのだが、例外的にもう一つ
稲穂隼がいない。
それが一つの安住の地として、軍人たちの憩いの場となっている理由である。
彼を欲さぬ理由は様々。
単純に軍人としての男や稲穂隼が嫌い、という嫌悪的な理由を持つ者もいれば、騒いでいる姿を見られたくないという理由の者、酒を飲んでしまえば自我を失う自信があるから、なんてセルフセーフティをかける者もいる。
稲穂隼が利用する民間施設は数少ない上特定されているため、こうして彼の見えぬ所で荒々しい宴会やらが行われているのだ。
なのだが。
「おい、なんでアイツここにいるんだ」
「さぁ? でも、一か月くらい前はたまに来てたみたいよ」
「男がいると、落ち着いて飲めんな……」
いた。
居酒屋。
遠巻きに防衛や哨戒の面々が眺める中、奪還の中に例のヤツが。
心なしかいつもより露出の少ない服装で、居酒屋に似つかわしくなく背筋をピン伸ばした姿で。
だというのに。
「……なんだ、まぁ騒がんならいいか」
「そうね。ああしていれば……別に気にならないわ」
何故か、心が騒がなかった。
「隼、本当にそれだけでいいのか? この店に来るのは久しぶりなんだ、もう少し値の張る物でもいいんだぞ?」
「あはは、良いんだよ
「? 話ならいつもしているだろう?」
「ん? んー、別にいいでしょ」
「まぁ、いいが……」
ニコニコと笑いながら隼が言う。ニコニコ──カラカラ、という方があっているだろうか。
いつものように飄々として、こちらの目線をひらひらと躱す──何故か懐かしいと感じるのは、最近戦闘続きだったからか。
いや、戦闘続きなのはいつものことではあるのだが。
「
「うるさいわ。……なんでもない、気にするな、アホめ」
「ひどいなぁ」
何か思うところがあるのか、出雲が少し離れたところに座っている。
酒に呑まれない所はいつも通りだが、それにしても進みが遅い。度数も強いものではないし、頻りに隼を見つめては口元を撫でていて、箸の進みも遅くなっている。
「弧金、はい、あーん」
「わーい、あーん」
……肉串をあーんするのはどうなんだ。いやまぁ、羨ましい半分少々恥ずかしいのだが。
走雷はそういうところ、頓着ないのは良い所であり悪い所だな、と思う。嫉妬がないワケではないが、半分以上は憧れ……か。私が堅物すぎるというのは自他ともに認めるところではあるのだが。
私もああいう風な人懐っこさを出せたらなぁ、という。まぁ、無理なのだが。
「ねね、隼ぇ、後で部屋に来てくれなぁい?」
「む、走雷……それは」
「弧金、そういうのはまだダメ。そういうのって何ぃ~? って聞くのもダメだよ」
「……ぶぅ」
また、違和を覚えた。
……いや、しっくりきた、というべきか?
……貞操に対する危機感が戻りつつある? それは──喜ばしいことだ。
ひと月も経たねば完治しないというのは流石は男、なのだが……うん、いや、本当に。
出雲が訝しんでいたのもコレか? という視線を彼女に向ければ。
「おい、隼。ちぃと話があるけぇ、」
「隼君」
突然出現した気配に、思わず得物を取り出し──ゆっくりと降ろす。
椅子に座る隼の背後にゆらりと現れたのは、隼を救った恩人。確か、身月と名乗っていた収集の女。
やはりエースか、全く気配を悟れなかった。正確に言うならばほとんど
筋力には秀でていないが、その技術は侮りがたし。
私以外の面々も同じような反応だったようで、出雲以外はみな武器に手をかけているものの、静観するつもりの様子だった。
「やぁ、身月さん……だったかな?」
「そう。覚えていてくれて嬉しい。お礼を言いに来た」
「お礼?」
隼が疑問に感じるのも無理はない。
助けたのは彼女で、助けられたのが隼だ。お礼を言うのはどちらかと言えば隼の方である。
……今でも悔しさを覚える。まさか
他部隊を侮るつもりはないが、強さに関しては奪還のプライドがある。
なにより、私が助けたかった。
「多くは言わない。ありがとう」
「……こちらこそ、ありがとう」
ほら、面白くない。
至って当たり前。当然。礼をすることに他意などないはずなのに……悔しい。
「すまない。水を差すとはわかっていたが、言いたかった。全員完治した事を報告する」
「それは良かった。ところで、この手は何かな」
「あっ……いや、それは、その」
気付けば。
隼の肩に手を置いている女。改めて得物を握る。
「……ごめんね」
「っ……い、いや。なんでもない。それでは、失礼する」
来た時と同じように、一瞬で姿も気配も消す女。これだけ気を張っていても悟れないか。ここは褒めておこう。
やはり、貞操観念が戻っている。
前のようなガードの硬い隼だ。
ならば。
「隼、明日も奪還の仕事があるが……来るか?」
「おい、隊長」
出雲が文句をつけてくる。が、少し黙っていろ。
私の考えが正しければ。
「え? いや、いいよ。僕が行っても足手纏いだろうし、あ、でも制圧したら連れてってね。調べたいことあるし……」
「……」
出雲の眉間がさらに深い皴を刻む。
「自慢の槍裁きはいいのー?」
「男が戦場に出ても邪魔でしょ。もちろん護身の槍は持って行かせてもらうけど、わざわざ戦うつもりはないよ」
「ふーん」
やはりか。
その辺の常識も戻っている。
これは、良い事だ。
「うむ、隼の完治祝いをしなければな!」
「へ?」
「ああいや、お前は気付いていないのだろうが、お前が頭を打ってから色々おかしなことになっていたんだ。経過観察の結果、それが完治したことがわかった。祝わなければならんだろう」
「……なるほどね」「そういうことにしていたのか」
ようやく察したらしい。まぁ、私だって昨日まで常識がおかしかった、などと言われてもすぐには信じられないだろうからな。この物分かりは早い方だ。
ほかの面々も完治を悟ったのだろう、よかったよかったと口々に言う。一部、もったいないとか呟いている奴は後で私から直々に話をしよう。
「あ、ちょっとお手洗いに行ってきてもいいかな」
「む、ああ。別に許可を取らんでもいいが……」
「あはは、まぁそこはね」
席を立つ隼。
ふと、視線。主は出雲。
……まぁ、出雲は信頼できる。頷いて返す。
同じく席を立つ出雲を視界の端に追いやって、新しく注文を行うのだった
「まさか、そんなことになっているとは思わんかったわ。やっぱりあの日、頭を打っただけっちゅーのは嘘……いや、それは本当で、且つ別の事があった。そういうことじゃな?」
「あはは、男のお花摘みについてきて、開口一番それかい?」
「茶化すな。……
「君はいつもそうだね、鳴。頭がいいんだ。本当、羨ましいよ」
「……違うんか。違うのは
「わからない、というのが答えかな。僕は宇宙人だと思っているけれどね」
「それはまた……荒唐無稽な話じゃの」
わからない。
それは本当だ。
僕の内側に住み着いた奴が、何者なのか。何が目的なのか。全く分からない。
ただ。
「残念なことに、招いたのは僕なんだよね……だから、あんまり噛みついてほしいとは思わない」
「ソイツに悪いから、か?」
「それもある」
人が良すぎじゃ、と顔を顰められた。
でも、これは譲れない。僕はアイツが大嫌いだけど、勝手に呼んでおいて勝手に帰ってくれ、というのは何か違うと思う。
もし叶うのなら、共存という道も選べるかもしれないのだ。もちろん、主導権は僕の状態でね。
「嫌わんでくれ、と言われてものぅ。隼じゃない奴と分かった以上、ソイツの時は普段通りの態度なんて取れんわい。隊長たちも……いや、アイツ等は盛り猿じゃし、いいか」
酷い言い様だ。彼女らだって節操は……あるよ、うん。
「……じゃが、確実にソイツは隼を蔑ろにしてるじゃろ。戦場に出ようとする……男が。あり得ん事じゃ」
「あー……うーん」
それは、難しい所がある。
僕はあんな痛い事を頻繁に行えるような異常な精神性を持ち合わせていないので無理なんだけど、アイツは感じているはずの痛みを全て無視して行動が出来るっぽいので、適材適所と言えば適材適所なのだ。
アイツが住み着いた事で起きた体質の変化。それが最も効率よく刺さる手段が、単騎突貫だからね。
「それでも、か?」
「……うん、それでも、かな。それに、もし……出ていかれたら、困るから」
「……デメリットを抱えてなおも、か。相変わらずお前が軍に入った理由は聞かせてはくれんのじゃな」
「そうだね。あんまり、人に知られたくない事だし」
「10年を共にした仲間にも、か」
「うん。ごめんね」
それを言ってしまったら。
僕は軍にいられなくなると思うから。
「この会話は、ソイツは聞いとるんか」
「多分ね。寝てるときもあるけれど、今は起きていると思う」
「……宣言しておくが」
すぅ、と。
目を細める鳴。瞳に月灯りが差し、金色に輝きを放つ。
「儂が好いているんは、お前じゃあない。隼じゃ。覚えておけよ、宇宙人」
面と向かって言われると、照れるような思うところがあるような。
ああ、そうだ。一つ。
言っておかなきゃいけない事があった。
「睡眠以外で気絶とかしちゃうと、簡単に出てくるから……守ってね」
「ふん、言われんでも、じゃ。……守るさ、必ず」
じゃ、儂は先に戻るぞ、と。
鳴は来た時より心なしか軽い足取りで、居酒屋の方へ戻っていった。
僕もトイレを済ませて、速いところ戻らないといけない。
の、だけど。
「……」
こんな話、誰かに聞かれるわけにはいかない。
だから、鳴が細心の注意を払っていた。僕だけの感知なんかでは遠く及ばない、通信手としての観察力、察知力を用いてまで周囲を見張っていた鳴。
実際鳴だけは身月さんの登場に気付いていたようだし。
だけど、格上までは見抜けない。
「……初めまして、かな」
「そのようだ。お前が稲穂隼か」
軍服を着物風に改造したソレを完璧に着こなしている女性。
奪還部隊01小隊隊長、桜
「はい、僕が稲穂隼です」
「……」
疑問はある。
なんでこの人、04の区画にいるんだろう、って。
それも多分、かなり頻繁に来ているよね、って。
けれど、有無を言わせない雰囲気が僕に口を噤ませる。
「最近」
「はい」
「最近……
「そうですね。数えるほどしかいない……確認されていないはずの強大種が」
「物分かりが早くていい。原因は、お前か? それとも、私が知るあの男か?」
直球だ。
ドストレート。
「おそらくは、アイツですね。僕が軍にいた10年、一度もこれほどの事は起きていませんでしたから。それは桜隊長の方がよく知っているのでは?」
「そうだな。ここ最近の異常だ。だから、異常が頻発している04区画を調べに来ている」
「ああ」
そういう事ね。
確かに大人数を動かせば、表立って
口ぶりからして上の指示ではなく、01の研究部や観測部からの申告でもあったんだろう。最も調査に向いている人物は、最も強い桜隊長であるのも納得。
「
「はい」
「言い知れぬ高揚感があった。戻って冷静に分析してみれば、明らかに常以上のコンディションだったと言える。
「はい」
「最近会った、
「……はい」
「あれが
「そうですね。
「詳しいな」
「はい。その調査を10年間、してきました」
胸を握る。
その先に、あるはずだから。
「なるほど。お前はアイツのような強さはないが、強かではあるようだな」
「否定はしません」
「
「存分に人間を食らい、十分以上の知性を身に着けている相手です。討伐は、危険の一言かと」
「だろうな」
ただ一つ言えることは、その改造後の
ある程度の種に対する知識──対策が出来てきている人類にとって、これは致命的。
そして厄介なことに、改造を施された
ただひたすらに人類を襲うだけでなく、偏食が増し、男を襲うために手間暇をかけるようになるのだ。
例えば、女に気付かれずに軍の施設に侵入する、などといった、ね。
「時にお前は、
「……知っていますよ。知っていますけど、機密情報なんで知らないふりをしています」
「そうだな。私達木っ端には知らされていない情報だ。私も知っている」
その名は……僕はあまり、好きじゃあない。
だって。
「
「聞かれたらコトですよ」
「周囲に人がいないことはわかっている」
そうだ。
裏切り者。背信者。
「人類が転化した
「眉唾ですけどね。少なくとも、一般軍人や民間人の間では」
「でも、ホントウだ」
それが何故なのかはわからない。
けれど、彼女らが一端の知性を持つ──持ち得る理由は、基礎が"そう"だからだ。
食われるはずの人間が、食う側に回った。
転化の時点で知性は失われるけれど、そこから人間を相当数食えば、現在蔓延る凶悪強力な
「あの男は、違うな?」
「本人は否定していましたね」
「お前も、違うな」
「ええ、見ての通り」
そうであってたまるものか。
僕程
「……縁者か」
「僕、貴女の事キライかもです」
「だろうな」
鳴も鋭いけど、デリカシーがある。
この人にはない。鋭すぎて、僕は引いちゃうかな。
「あの……出雲とかいったか、通信手には悪いが、私が好んでいるのはお前ではない」
「ですよね」
だって、この人にとっての稲穂隼は、アイツなのだから。
この人からしてみれば、僕の方がニセモノだ。
「さっき鳴にも言いましたけど、僕はアイツをどうこうするつもりはありませんよ。ただ、使わせる気がないだけです」
「……わかった。今日は手を引く」
踵を返す桜隊長。
その背に呼び掛けようとして──やめた。
もう、決裂している。
「……まぁ、カッコイイのは認めるけどね」
でもやっぱり、嫌いかも。
ぐろうすと図鑑
レイアー / 臥牛城
霊峰に聳え立つ数多の霊的存在が蔓延る城の主。
山の麓には
女性名鑑
凍理響 / コゴリ ヒビキ
04隊の隊長。堅物。頑固。奥手。パワータイプ。筋肉美人。
出雲鳴 / イズモ メイ
通信手。鋭い。
桜御琴 / サクラ ミコト
01隊の隊長。察する能力がもはや超能力。割と天然。仕事は出来る。書類仕事を溜めずにさっさとやってしまうタイプ。
稲穂隼 / イナホ ハヤテ
主人公 / イナホ ハヤテ
エロ魔人。