IS ~across the sky~   作:シャオレイ

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 ・オリジナル主人公
 ・オリジナル展開
 ・オリジナル設定
 ・原作改変

 お好きな方はどうぞ

 ※初期投稿時と比べて大きく改稿しています。(2018/03/25)


第一話 始まりの日

 尾上(おがみ)彼方(かなた)は、周囲からは「いい人」という評価を受ける人間だ。しかし逆に言えば、その程度の曖昧な認識しか残らない人間だという意味でもある。

 それも無理もない話だった。無造作に伸ばされた髪は目元が隠れるほどの長さで顔つきを覚えることが困難になっており、ブランドものでも何でもない安物の黒縁眼鏡をかけた彼方は、良く言えば文学少年、悪く言ってしまえば地味以外の何者でもなかった。

 本人の性格も温厚で、決して自分から表に出るようなタイプではない。彼は「物静かな少年」のまま中学を卒業し、ごく普通に高校へ入学する、はずだった。

 

 事の始まりは、二月の上旬、世間一般では受験シーズンとなる時期のことだ。

 ごく普通の中学三年生である彼方も例に漏れず、高校受験を控える学生である。彼は受験会場である市民館へ向かい――その場で迷子になっていた。

 

「迷子、になった、かな……」

 

 彼方は方向音痴というわけではなかったが、その日に限って建物で迷った。受験票には受験室の番号は書いてあるものの、それがどこかは分からない。しばらく歩きまわってみようにもそれらしき番号の部屋は見つからず、職員も見つからない。

 途方に暮れていると、背後から足音が聞こえてきた。救いの手が差し伸べられた、そう考えた彼方は後ろを振り向き、

 

「やべぇ、迷ったかも……」

 

 それが救いの手ではなく、自分と同じ哀れな子羊だということを理解した。

 

 彼方と同じ境遇にあった少年は、名を織斑一夏といった。彼もまた彼方と同じように、迷子となっていたらしい。

 

「そっか、尾上も迷子になっちまったのか」

 

 同じ境遇の人間がいるというのは強い安心感をもたらすもので、そう笑いながら言った一夏に彼方は安心感を得た。二人は共に教室を探すことにした。二人の受験票に書かれた部屋の番号が近かったためである。まだ時間的に余裕があるといっても、早く見つけるに越したことはない。彼方と一夏は受験室を見つけるべく、廊下を進んでいった。

 十分後、二人は女性が受付をしている部屋を見つけた。場所を聞こうと近寄ると、女性はこちらを見ずに多忙さを滲ませながら声を発した。

 

「あなたたち受験生ね!? 早く中に入って着替えなさい!」

 

 いきなり怒鳴られたことと、あまりの剣幕に驚いた二人は慌てて奥へと進む。入り口から少し離れたところで彼方と一夏はお互いの顔を合わせた。

 

「はぁ~……驚いたなぁ。というか、なんであんなに怒ってたんだ?」

「うん……まだ試験までに時間の余裕はあるはずだけど。それに、驚いてここに来たけど合ってるのかどうか」

「とにかく、進もうぜ。それにしても、着替えさせるのはカンニング対策ってことか?」

「そこまでやるのかな。なんか少しおかしい気もするけど……」

 

 本来志望校で行うはずの入学試験は、去年度に起こったカンニング騒ぎによって、こうした市民館で行われることになっていた。だがそのことを踏まえても、どこか釈然としない。

 彼方は言い知れぬ違和感を覚えながらも、二人で更衣室らしき場所へと向かっていく。カーテンを手で除けて中に入る。しかし、二人を持ち構えていたのは予想もしない物だった。

 

「なんだこれ?」

「これは……」

 

 そこには、光を受けて鈍く輝く巨大な鉄塊が鎮座していた。

 無限の成層圏、空を支配する者、現行最強の兵器――インフィニット・ストラトス、通称IS(アイエス)の姿がそこにはあった。

 

「なんでこんなところにISがあるんだっ?」

 

 彼方はにわかにテンションを上げると、設置されているISの傍へと近寄った。まるで子供のようにはしゃぐ彼方に一夏が声をかける。

 

「どうしたんだ、いきなり」

「あ……。ご、ごめん。オレ昔からISのことが好きで……、こうして直に見るなんて初めてだったから」

「へぇ、そうだったのか。それにしても、俺もISをこんなに近くで見るなんて初めてだ」

「そりゃそうだよ。女の子たちならまだしも、オレたちは男なんだから」

 

 ――ISは男性には使えない。

 それは当たり前のことだった。どれだけISに、空に憧れようと、男ではその資格すらない。そのことが彼方の心を締め付ける。彼方は少し寂しそうな眼差しでISを見つめた。

 それにしても、と一夏がISの表面装甲に手を伸ばす。

 

「これ、どうしたらいいんだ?」

「あ、織斑っ。勝手に触ったらまず……」

 

 い、という音は口から出ずに終わった。予想外の出来事が起こったからだ。一夏が触った直後、塊のようであったISが己の内をさらけ出すように展開し始めた。当然、二人は大いに慌てる。

 

「おわっ、なんだこれ!」

「そんな、いきなり動き始めた?」

「ど、どういうことだよ!」

「オレにだって分からない。でも、まさか……ISが起動してる、のか? 男に対して?」

「はぁっ!?」

 

 ISの展開はあっという間だった。二人の身長ほどしかなかったISは、人が搭乗できるようにコックピットの位置こそ空洞になっているものの、全体は大きく膨らんでいた。空洞のようなコックピットは、まるで人を待っているかのようだった。

 呆然としている一夏とは対照的に、彼方の顔にはなにかを決意したような、そんな色が瞳に浮かんでいた。

 

「……乗ってみよう」

「え」

 

 彼方の言葉に一夏は呆けた声を出して彼方を見つめる。少ししてその言葉の意味を理解したのか、一夏が声を上げた。

 

「何言ってんだっ。『ISは男には動かせない』、ISの一般常識、それくらい分かってるだろ?」

「でも、このISは織斑が触ったことで動き始めたんだ。……もしかしたら、男が動かせるISなのかもしれない」

「そんな、まさか……」

 

 自分が触った結果今の状況になったこともあって、一夏は強く否定することが出来なかった。戸惑う一夏をよそに彼方はコックピットへと手をかける。今の彼方の脳内には、こんな場所にISがある理由、そしてもしも乗ったらどうなるかという考えはなかった。

 

「おい尾上、お前乗り方なんて知ってるのか?」

「前に、本で読んだことがあるんだ。確か、この部分に座って……」

 

 腰掛に座り、ISに背を預ける。その瞬間だった。

 

「う、わっ……」

 

 脳内に情報が流れ込んでくる。初めての経験に思わず彼方は声を上げた。その姿を見た一夏は、やっぱりと静かに頷いた。

 

「尾上、お前も『ソレ』起こったのか?」

「ソレ、って……織斑も、その、頭の中に情報が流れてきたの?」

「ああ。……なんて言っていいか分からない感覚だよな」

「うん。って、うわぁっ!」

 

 混乱からかどこかずれたような会話をしている二人だったが、ISが動き始めたことでその会話が途切れた。コックピットの彼方を包むように、装甲が閉まっていく。やがて、アンロックユニットが空中に浮かび上がり、IS――日本製第二世代量産機「打鉄」がその全貌を現した。

 一夏は、男がISを起動できてしまったという驚きを。彼方は、自分がISを動かすことが出来たという喜びと戸惑いを感じていた。

 しかし、その時間も長くは続かない。

 

「ちょっと! いつまで騒いで、いる……つもり……」

『あっ』

 

 一夏と声が重なり、先ほどまで受け付けにいた女性と視線が重なった。

 二人が、“この場所がIS学園の試験場である”ということを知り、“男がISを起動させた”という報告がIS学園の教師陣に届いたのは、二人が本来受ける高校の試験開始時刻をとうに過ぎてからだった。

 

 * * *

 

「つ、疲れた」

 

 長時間拘束されての事情聴取による疲れが滲む声で一夏は呟き、ベッドに倒れこんだ。その隣のベッドでは彼方が同じようにベッドに寝そべっている。

 

「しょうがないよ。オレたち、あんな大事件を起こしたんだから」

 

 彼方の言うとおり、この出来事は前代未聞の大事件だった。

 一夏がISを起動させ、彼方がISを装着した後のこと。受付の女性の声を聞き駆けつけた数人の女性に彼方はISから降ろされ、一夏共々少し離れた部屋へと連行された。連行された先ではISを所持していた組織である『IS学園』の教師たちが待ち構えており、二人は事情聴取を受けることとなった。

 

 この市民館には高校受験をしにきたということ。この建物の地図を忘れ、さ迷っているところで二人が出会い、共に受験室を探していたということ。探していると受験室前の受付に女性がいて、その人に場所を聞こうとしたこと。なぜかIS学園の受験生だという誤解をされたこと。着替えをすることを指示され、思わずそれに従って奥に進むとISがあり、一夏が触れたことで起動し、彼方が乗り込んで装着してしまったこと。

 

 それまでのことを話しきると、教師たちの間でざわめきが起こった。何人かは彼方がISに乗っていた場面を直接その目で見ていたが、それでも“ISを男が起動させ、装着した”という事実はあまりにも信じがたいことだった。

 唐突に現れISを起動させた二人が他国や企業のスパイなどではないという確信が得られたのは、彼方の場合は身元がすぐに判明したということと、一夏の身内がこれ以上なく信頼できるものだったからに他ならない。

 

 織斑千冬。

 ISの世界大会、モンド・グロッソにおいて初代チャンピオンとなり、最強の代名詞であるブリュンヒルデの称号を持っていた女性。そして、現在IS学園で教鞭を取る人物。それが、一夏の姉だった。

 彼方も初代ブリュンヒルデのことを知っていたため、そのことを知らされたときは大いに驚いたのだが、それは教員たちも同じようであった。一夏は一夏で、自分の姉がIS学園で働いているということを知らなかったらしく、同じく衝撃を受けていた。

 

 おかげで話はスムーズに進んだのだが、それでも今日だけで全ての処理が終わるわけがなく、数日間かけて検査を行うこととなり、こうしてISを起動させてしまった二人の波乱に満ちた一日が終わりを迎えた。

 今日は一先ず、学園側が用意したホテルの一室に二人は泊まることになった。外で泊まるとこに対して、彼方は両親に「今日は友達のところに泊まる」という連絡を入れていた。一夏は一人暮らしであり、唯一の肉親である千冬には学園側を通して連絡が入れられていた。しかし彼方の方は、受験を受けることが出来ず、それどころかこうして情報漏えいが起こらないように嘘をつかなければならないことに若干の罪悪感を覚えていた。

 そんな彼方を横目に、ベッドに倒れたままで一夏が呟いた。

 

「なぁ、尾上」

「どうしたの、織斑」

「俺たち、どうなるんだろうな」

「……前例がないことだからね、どうなるかは分からない。でも、今まで通りの日常を送ることは難しいと思う」

 

 世界で初めてISを起動出来た男。その肩書きは二人に一生付いて回るだろう。それは二人にはどうしようもないことだ。だが――、

 

「オレは少し嬉しい、かな」

「え?」

「その、さ。少し恥ずかしいんだけど、オレはずっと空を飛ぶってことに憧れてたんだ」

「空を飛ぶ、か。確かにそれならISは最適だな」

「うん、だからオレはISを動かせるってことが……空を飛べるかもしれないってことが嬉しい。昔からの夢が叶ったわけだから」

「そっか……。良かったな、夢が叶って」

 

 一夏は人懐っこそうな笑顔でそう告げた。その笑顔に釣られて、彼方も笑みを浮かべる。

 

「そうだ。多分これから長い付き合いになるだろうから、俺のことは一夏って呼んでくれよ」

 

 確かに、これから自分たちは世界で二人しかいない男性IS操縦者になるのだから、付き合いも長くなるだろう。そう考えた彼方は一夏の申し出を受けることにした。

 

「わかった。オレのことも、彼方でいいよ」

「おう、分かった」

「そろそろ寝ようか。明日から大変だろうし」

「そうするか。……それじゃあ、これからよろしく頼むぜ、彼方」

「うん、よろしくね、一夏」

 

 明日からは様々な検査を行うことになる。大変になるのはこれからだ。

 彼方は電灯のスイッチに手を伸ばし、灯りを消した。

 

 * * *

 

 翌日から彼方と一夏のIS漬けの日々が始まった。

 一夏の場合、唯一の肉親が織斑千冬だけであり、彼女自身がIS操縦者でもあるためことの説明は容易だったが、彼方はそうではない。家族はISとは関係の薄い一般人だ。

 受験に失敗し、代わりにISを動かせることが判明しました、などといった説明をして受け入れられるとは思ってもみなかった。説得には時間がかかる。そう、想定していたのだが、

 

「……そうか、良かったな」

 

 説明を聞いた父親はただ一言呟くように答え、母親は手放しでそのことを喜んだ。両親は彼方が空に憧れていたこと、しかし事情があってその夢を断念せざるを得なかったことをよく知っていたため、彼方の夢が叶うかもしれないということをただ純粋に喜んだのだ。

 さらには彼方が自身の兄に事情を話したところ、彼もまた両親と同じように喜んだ。自分によく懐いていた弟の夢が叶うということは、兄にとっては朗報だった。

 

 一方彼方自身と説得に訪れた学園の教師は、ここまで簡単に話が進むとは思っていなかった。このような展開に混乱したものの、最終的には問題はなかったという結果だけを見ることで混乱を収束させた。

 こうして彼方と一夏の周囲に対する説明と説得は終わり、本格的な検査が始まった。

 身体検査から始まり、血液検査、CTスキャンなどを使った細かい検査を経て、二人がISを使うことが出来た原因を調べた。しかし、出た結論は『ISが動いたのは偶然ではないが、原因は不明』というものだった。

 もしISの生みの親である篠ノ之束がいたならば別の結論が出たかもしれないが、それはあくまでも仮定であり、彼女は現在行方不明である。よって、この検査結果は一時保留とされた。

 

 検査と平行して、二人はIS学園でISの基礎知識について学ぶことになった。それらはこれまでに触れたことのない知識であり、本来であれば大学で学ぶような専門的な知識だった。今まで普通の中学生だった二人には理解することが困難だったが、担当の教師が根気強く講義をしてくれたため何とか理解し、最低限度の知識を得ることが出来た。

 複雑かつ多岐にわたる検査と、ISを操縦する上で必要な知識の勉強。これだけでも二人を疲労させたが、その上でIS学園の特性上の問題が精神的な疲労を蓄積させた。

 

 ISは女性にしか動かせない。それが二人の現れるまでのISにおける常識である。そして、IS学園は、IS操縦者の育成、及びISを研究するための国際機関である。

 つまり、学園にいるのは女性ばかりだということだ。その中の男性は用務員などの数名と――彼方と一夏の二人だけだった。

 彼らの状態は、女子校に男子がいるのと同じ状態であり、それゆえに好奇の視線が向けられるのは当然のことであった。

 出来るだけ学園生と接触を少なくさせようとも、それは決してゼロにはできない。

 普段二人は学生寮ではなく、急きょ空けられた設備棟の一室に暮らしている。ISに関する勉強はそこで行っているが検査だけは学園の設備を使用するため、学園内を移動しなければならなかった。

 

 目撃情報が随所から挙げられ、それについて調べようとした新聞部が学園側からの圧力をかけられたりもしていた。

 そうこうして、学園内に二人の噂が蔓延するのにそう時間はかからなかった。現状として、彼方たちがISを扱えるという情報は隠蔽されている。しかし、その情報が出回るのも時間の問題だとされていた。二人が検査や勉強に勤しんでいるなか、学園上層部では二人の処遇をどうするかで日夜会議が行われていた。

 

 自身たちの裏で行われている会議などのことは一切知らない彼方たちであったが、当人たちは検査も兼ねたISでの実機訓練が始まっていた。IS学園で暮らし始めてから一週間が経った頃である。

 最初はごく簡単な歩行訓練から始まり、いくつかの段階を経て、ついに飛行訓練が行われた。彼方が熱望してやまなかった瞬間である。とはいえ最初から自力で空を飛べるわけがなく、初回は教師の付き添いの元、空中へと浮かぶことからだった。

 しかしそれでも彼方の心は歓喜に満たされ、今にも叫び出しそうになるほどだった。明確に近くなる空に、思わず涙が零れそうになった。

 

 ISの訓練はそれだけでなく、実際の装備を使った射撃訓練、近接長刀を使った格闘訓練なども経験した。そしてそれらの訓練を経て、ついに教員との模擬戦闘訓練を行うことになった。

 相手を勤めるのは、これまで二人にISの基礎知識を教えていた山田真耶だった。普段はほんわかとした雰囲気を纏っており、戦いなどとは縁のなさそうな風体ではあるがその実、IS学園でも上位に食い込む実力者である。

 

 模擬戦を行うに当たって、通常とは違ったルールが決められた。

 まず、用意されたISは二種類。防御力が高く、近距離での格闘を得意とする打鉄と、高い汎用性を誇り、多様な武器を扱うことのできるラファール・リヴァイブの二つだ。その内からどちらか片方を選択し、教員がそれに合わせる。

 次に、シールドエネルギーを本来の試合の半分の値に設定し、銃の弾倉も少数という制限が設けられた。ようするに、二人がISの戦闘機動を体験するための訓練である。彼方がラファール、一夏は打鉄を選択し、順番は彼方が先になった。

 

 PIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)による独特の浮遊感にようやく慣れ始めてきた彼方は、ふわふわとアリーナの空中に浮かび上がった。

 

《尾上くん、大丈夫ですか?》

 

 彼方と同じくラファールを装備した真耶が通信を飛ばす。彼方の視界の先には、空中に停止する真耶の姿が見えた。

 本来であれば彼方の視力はかなり低く眼鏡が無ければほぼ見えない程度の視力なのだが、ISのハイパーセンサーがそれを補っていた。網膜に投影されたそれには、視界に映る景色の他に機体の状態を表すウィンドウが表示されている。

 

「はい。大丈夫です」

 

 視界に表示されたウィンドウには「Sound Only」と書かれた枠があり、文字の裏の直線が真耶の声に合わせて振動する。

 

《そうですか。では次に装備を展開してみましょう》

 

 そう言うと真耶の乗るラファールの右腕部の先端に光が集まり、瞬時にその形を成す。五一口径アサルトライフル『レッドバレット』がラファールの量子格納庫から展開された。

 

《慣れればこうして即座に展開することが出来ますが、慣れていない内にはちょっと時間がかかります。実際にやってみてください。焦らずにやればきっと出来ます》

 

 真耶の言葉に、彼方は片手に武装を展開するように意識を向けた。

 ――ISは操縦者の脳波を読み取って機動する。空を飛ぶのに操縦桿は必要なく、武装を展開するのにもスイッチや発声による操作を必要としない。考えたことをISが読み取り、それを実行する。

 こうして強く武器を展開することを考えれば、

 

「……!」

 

 量子が集まり、形を作る。その手には真耶と同じアサルトライフルが握られていた。

 

《以前よりも展開は早くなっていますね。今ラファールに格納されているのはこれ一挺ですから展開は簡単ですが、これが複数になり種類も多くなってくると段々と難しくなっていきます。まあ、最初はこうして装備を出す感覚を掴んでもらうだけで十分です》

 

 既に初弾は装填済みであり、セーフティは解除されている。引き金を引けば即座に弾丸が飛び出す状態だ。

 重みは、殆ど感じない。ISのパワーアシストによって強化された腕力では、まるでプラスチック性のモデルガンを持っているようだった。けれど、それが人を容易に傷つけることができるのだという事実が、彼方の腕に重くのしかかった。

 彼方の表情が沈んだ物になったことを悟った真耶は、フォローをするように通信越しに声をかけた。

 

《まあ、最初は不安ですよね。銃を人に向けるなんて》

「……ええ」

《安心してください……というのは違うかもしれませんが、“絶対防御”がありますから安全です。言ってみれば、すごい重装備をしてサバイバルゲームをしてるようなものでしょうか。多少の衝撃や痛みはありますけど、それほどまでひどい怪我をすることは稀有ですから》

 

 ――なんだかすごくざっくりした説明だ。

 彼方は思った。しかし、それで気分が軽くなったのは確かだった。

 

《それでは、始めましょうか。始めはゆっくりとやっていきましょう》

 

 二人が定位置に移動すると、試合開始を告げるブザーが鳴り響いた。

 

 

   《Warning!》

 

 敵性ISの存在を感知しました。

 データとの照合から〈ラファール・リヴァイブ〉と判明。

 全武装、及びスラスターのロックを解除。

 戦闘行動を開始してください。

 

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