IS ~across the sky~   作:シャオレイ

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 一ヶ月近くも更新出来ず、すみません。新学期が始まってしまったごたごたのせいで、中々執筆に集中することが難しい状況でした。これから更新速度は落ちるとは思いますが、何とか続けて行きたいと思っています。

 今回も説明回です。
 作者自身、軍事、政治関連について然程詳しいわけではありません。その部分に関してはご容赦いただきますようお願いします。


第十三話 パートナー

 シャルロットは、一夏が買ってきた紅茶の缶を掌で転がしていた。ひんやりとした冷たい表面部分が掌の熱を奪う。

 どうしてこんなことをしているんだろうと自分の行動に疑問を抱きつつ、蓋が開けられていない紅茶缶をそのままにシャルロットはぽつぽつと話し始めた。

 

「織斑くんは、デュノア社って知ってる? フランスの企業なんだけど」

「ん? 確か、ラファールを造ってる会社だったっけか」

「うん、そのデュノア社。そこは僕のお父さんが経営してる会社なんだ」

「へぇ……ってことは、デュノアは大企業のご令嬢なのか」

「……そう、かもね」

 

 シャルロットは俯いてそう答える。一夏の言葉は、シャルロットにとって素直に受け取ることが出来ないものだった。

 

「なんか、はっきりしない言い方だな」

「はっきりしない、か」

 

 シャルロットは紅茶のプルタブを引いて蓋を開けると、その中身を一口含んだ。缶紅茶独特の甘さが口腔に広がる。

 どう話していいのか、シャルロットは迷っていた。一夏が持ちかけてきた段階で断っていれば、こうはならなかっただろうということはシャルロットには分かっていた。しかし、その時はなぜか彼に頼ってしまいたいと思ってしまった。

 それは自身が困っていた時に声をかけられたからだったのか、それとも、

 

 ――織斑くんの人柄、かなぁ。

 

 一夏は不思議そうにこちらを見ている。不思議なのはこっちだよ、そう言いたい気持ちを抑えてシャルロットは口を開いた。

 

「さっき話してた人はね。僕のお父さん」

「親父さんと……? それにしては随分と他人行儀だった気がするけど」

 

 無遠慮なまでに切り込んでくる一夏だったが、今のシャルロットにとって、それは自分を後押しするものとなった。

 

「そうだね。確かにそうだ」

「じゃあ、何か事情があるのか?」

 

 シャルロットは少し迷い、しかし言った。

 

「僕はね――」

 

 * * *

 

 彼方と本音が通常の状態に戻り、お互いの顔を普通に見れるようになるまで少し時間がかかった。その間、不思議そうな顔を浮かべていたラウラはしきりに、何故だ? と本音と彼方に質問をしていた。

 さながら、子供に答えに困る質問をされた時の親のようだったと後に彼方はそう語る。

 

「そ、そういえば~、おがみんのお父さんはどうして自衛隊をやめちゃったの~?」

 

 露骨な話題逸らしではあったが、ラウラの意識を別の話題に移すことには成功していた。

 

「あ、ああ。父さんが自衛隊を辞めたのは、白騎士事件が関係してるんだ」

「白騎士事件が~?」

 

 白騎士事件。本来宇宙空間での作業用パワードスーツとして開発されたISが軍事転用されることになった事件の通称であり、未だに未解決な世界最大級の事件として扱われる事件である。

 白騎士事件は篠ノ之束がISを発表した一ヵ月後に発生した事件だ。その内容は二つの段階に分かれている。

 第一波は、日本を射程に収めた弾道ミサイルを有する複数のミサイル基地がハッキングを受け、約四百発の弾道ミサイルが日本の東京を目掛けて飛来した。

 第二波は、ミサイルの飛来に合わせて突如として太平洋上に旧日本軍の潜水空母に近い未確認の潜水艦が現れ、内部から爆弾を内包した多数の無人航空機を東京へと飛ばした。

 第一波であるミサイル攻撃は、偶然にも横須賀基地に配備されていた海上自衛隊のイージス艦が半数以上を迎撃することに成功する。しかし、ミサイル迎撃に力を取られてしまったために無人航空機に対する迎撃は間に合わないとされた。

 そのため、百里基地(茨城県)からスクランブル発進した部隊に無人機の撃墜命令が下された。

 

「丁度その時、飛行教導隊が百里基地に教導に来ていたらしいんだ。そういうこともあって、この部隊の中に父さんもいた」

「しかし、二佐は教導隊の所属だろう? 普通、教導部隊にスクランブルはかからないのではないか?」

 

 ラウラの指摘に、彼方は頷く。

 スクランブルとは、軍用機の緊急発進を差す言葉だ。領空侵犯などが起こりそうになった時にそれを防ぐために戦闘機が出撃するのだが、それが通常飛行教導隊にかけられることはない。なぜなら、飛行教導隊の存在目的はあくまでも空自飛行隊の練度の上昇であるためであり、自国の直接的な防衛力として働くのではないからだ。

 だが、それは平時の場合である。その時は緊急時であり、さらに言えば教導隊が出なければならない理由があった。

 

「出撃出来る機体数が少なかったんだ。だから、その分を補うために教導に来ていた飛行教導隊にスクランブルがかかって……けど知っての通り、それとは別の存在が現れた」

 

 無人機迎撃のために出撃した自衛隊の部隊よりも早く、無人機へと迫る影があった。

 世界最初のIS、「白騎士」だ。

 

「太平洋側の海中から突然出現した白騎士は、無人機を、そしてイージス艦が迎撃仕切れなかったミサイルを次々に撃破していった」

「そこは授業でも習ったね~」

 

 白騎士事件は、IS学園の授業でも既に学んでいた。IS学園のみならず、普通の学校の教科書にすら書かれる程に重大な事件だった。

 たった一機で多大な活躍をした白騎士だったが、その力も万能のものではなかった。

 

「白騎士は多くのミサイルや無人機を破壊したけど、それは全てではなかった。いかにISといえど、あまりにも荷が重すぎた」

 

 どれだけ白騎士が、ISが優れていたとしても、所詮は一機だけだ。全てをカバーすることは出来なかった。

 

「いくつかのミサイルや無人機を、白騎士は取り逃した。それを自衛隊の戦闘機部隊が迎撃したわけだけど……そこで別の問題が起きたんだ」

 

 迎撃は成功し、全ての攻撃を防ぎきった。そう判断が下りそうになった瞬間だった。太平洋上から無人機を発進させたと思われる潜水艦が、巡航ミサイルを発射したのだ。

 ミサイルを発射した潜水艦は即座に潜水を開始し、その行方は今に至るまで分かっていない。

 

「白騎士を対象にしたと思われる巡航ミサイルを、白騎士は迎撃しようとはしなかった。回避行動を取ろうとしていたことを考えると、残弾とエネルギーが殆ど無かったんだろうね。そしてそれを自衛隊の戦闘機が迎撃した。迎撃したのは、父さんだった」

 

 乗機であるイーグルに搭載されていた短距離ミサイルを使い切ってしまっていた三郎は、機銃でミサイルを迎撃した。ミサイルの後ろに回りこむ余裕が無かったために、白騎士の前に出て真正面から相対しての迎撃だった。

 

「迎撃には成功した。けど、爆発で飛び散った破片を真正面から受けて、父さんの機体は操縦不能になった」

「お、おがみんのお父さんは大丈夫だったの~!?」

 

 慌てたように本音が彼方に聞く。彼方自身、その話を聞いた当時は途轍もなく焦った物だった。表面上、焦っていなかったのは母親である未央だけであり、彼女はいつも通りの和やかな笑みで、きっとお父さんは大丈夫よ、と言って息子二人を宥めていた。

 今考えてみれば、決して心中は穏やかではなかったのだろう。彼方はその日の夕飯の味付けが若干おかしかったことを思い出す。

 

「間一髪、ってところだったらしいよ。ギリギリのタイミングでベイルアウト……脱出が出来たんだって」

「……よかった~」

 

 ほう、と息を吐いて本音は安心したように胸に手を置いた。

 

「まあ、怪我も無く、ってわけにはいかなかったけどね。パラシュート降下のための高度が足らずに海面に叩きつけられて、全治三ヶ月の怪我をした。……病院に搬送されてから機密保持のためにしばらく面会出来なかったけどさ」

「そんな大怪我したんだ~……。後遺症とかは大丈夫だったの~?」

「特に大きな障害が残ってることは無かったよ。その代わり戦闘機には乗れなくなって……怪我が治るまで入院してから、父さんは自衛隊を辞めた。引き止める人は多かったらしいけど、結局退役したんだ。父さん自身、そろそろ乗れなくなる歳だって分かっていたみたいだったから。その後は飛行機関連の知識を買われて、今は芳野重工で働いてる」

 

 芳野重工と聞いて、本音がふと気がついたように彼方の首元に下がっているドッグタグを見た。

 

「確か、斑鳩を作ったのって~……」

「芳野重工だね。オレも、初めて聞いた時は驚いたよ」

 

 彼方の専用機である斑鳩は、芳野重工製だ。芳野重工は元々航空機関連を手がけている会社であり、IS開発にもそのノウハウは受け継がれていた。特に推進器系は世界でもトップクラスだ。

 斑鳩の設計班の一人に父の名前が記してあったのを見た彼方は、驚いて自宅に電話をかけた程だった。

 

「斑鳩……。私もデータは持っている。イギリス代表候補生との試合の動画は見させてもらった」

「そ、そうなんだ。……それで、オレの戦い方は本職の軍人さんにはどう映ったのかな」

「未熟だ」

 

 たった一言でラウラが彼方の問いを切り捨てた。しかし、だが、と置いてラウラは続ける。

 

「見込みはあるだろう」

「よかったね~、おがみん」

「そう感じてくれたなら嬉しいよ。オルコットさんとの試合の後の成果を、学期末のトーナメントに反映出来ればいいけど……」

 

 彼方の脳裏に学期末トーナメントのことが思い出される。

 数週間後に控えた学期末トーナメントはペアでの出場となる。つまり、二対二の形になるのだ。彼方自身、そろそろパートナーを決めた方がいいとは考えていたが、それを誰にするかは決めていなかった。

 

「パートナーも決めないといけないし」

「おがみんはおりむーと組むわけじゃないの~?」

 

 本音が首を傾げる。彼方が組みそうな相手として真っ先に考えられるのが、一夏だったからだ。

 

「確かに、それは考えたよ。でも、二人で違う相手をパートナーにしようって決めたんだ」

「どうして~?」

「一夏から提案してきたんだよ。偶には、ってね」

 

 彼方は入学して以来、一夏と試合をすることは無かった。セシリア戦、アンノウン戦、その両方で、彼方は一夏と共に戦ってきた。しかし、相対する者として戦うことはなかった。

 入学以前であれば、一夏と試合をすることはあった。しかしそれは練度の低い時期に、互いに専用機ではない訓練機を使っての話だ。訓練を重ね、専用機を手にした今、お互いがどれくらい成長したかを確認したいと二人は思っていた。

 

「……候補は決まっているのか?」

 

 ラウラが彼方に問いかけ、それに対し彼方は首を横に振ることで応える。

 

「いや、全然。誰に声をかければいいかも決まってないよ」

「そうか……」

 

 彼方の言葉を聞いてラウラは少し考え込むような仕草を見せた後、ふっと顔を上げて彼方の目をじっと見つめた。

 

「……尾上彼方。貴様、私のパートナーにならないか?」

「えっ?」

「え~っ!」

 

 提案をされた対象である彼方以上に、なぜか本音が驚いていた。

 

「どうしてか、理由を聞かせてもらっていいかな」

「ある種の消去法だ」

 

 ラウラの言う消去法が何を指しているのか、彼方には理解出来なかった。どのような判断基準によってそれが為されたのか、それをラウラに問う。

 

「単純に、私と組むことが出来るかどうかだ」

「それは一体、どういう意味で?」

「ISに対する認識の違いだ。私のそれと、一般生徒のそれはかけ離れている」

 

 私は軍人だ。

 そう告げたラウラに、ようやく彼方の理解が及んだ。

 

 ISは本来、宇宙空間での作業を目的とした物ではあるが、現在ではスポーツとしての側面が世間一般の認識としては強い。現代兵器最強でありながらそのような地位に甘んじているのは、国際条約によるものだった。

 ISは強力だ。戦闘機並みの速力、ヘリコプターを超える機動性、戦車以上の装甲、ハイパーセンサーによる索敵能力の高さに加え、量子変換による装備の収納によって本体を肥大化させることなく、“様々な武装を、多くの量”持つことにより、火力とその汎用性を保っている。そして利便性はそのどれもを上回っていた。

 戦闘機であれば空、戦車であれば陸という概念に囚われない。人型が装備することが出来るのであれば、ほぼ全ての武装を、時間を用いずに換装することが可能となり、待機状態にさえしておけば、生身の人間が一人で持ち運べる。ISはありとあらゆる戦場、状況で運用が可能な究極の汎用兵器なのだ。

 

 だがそれは個としての強さであり、一つの戦場を支配する戦術兵器になることは出来ても、一つの戦争に勝利する戦略兵器にはなりえない。他国に対する抑止力、戦略核のような兵器にISはなることは出来なかったのだ。

 さらに言えばISは強力な兵器ではあるが絶対的に数が少なく、その全てを集めても五百に足りない。兵器として、量産が出来ないというのは致命的だ。

 故に、ISは“強力ではあるが、兵器としては欠陥品”だったのだ。だが、欠陥品とはいえ、それは強力な兵器。故に国連はISの兵器転用を抑止し、国内でのテロ防止、もしくは侵略国家に対する防衛目的でのみ軍事運用を許可した。

 

 しかし、ISの変遷はこれで終わらない。

 ISは防衛目的にのみその使用を許されていたが、防衛に使われるその兵器が弱くては話にならない。さらに言えば、他国を牽制するためにその強力さをアピールする必要があった。

 戦力の誇示、すなわち実際に運用することだが、それを行うことは難しかった。何とか出来ないかと各国首脳が頭を悩ませている時に出た案が、ISによるスポーツの大会を開くのはどうだろうかというものだった。

 

 オリンピックが国の威信、民族の優秀さを示すための大会であったように、それと同じようなことをすればいいのでは、といった話が持ち上がったのだ。

 分かりやすく自国のISをアピール出来ると考えた各国首脳はどういった形でそれを実現するかを模索しようとしたが、先んじて動いた国が存在した。

 ISのスポーツ転用を提案した、日本である。

 日本の行動は早かった。白騎士事件により、ISの強さ、有用性を間近で確認していた国なのだ。ISの防衛兵器利用を真っ先に考え、実行していた。

 かくしてISによる世界大会、モンド・グロッソが開催され、日本は開催国として優勝者を輩出する。

 このようにしてISは「スポーツ」として世間一般に認識されるようになった。

 

「……この学園の多くの生徒はISを兵器であると認識していない」

 

 軍人であるラウラはISをスポーツのための道具としてではなく、兵器であると認識している。人を容易に殺傷することの出来る、兵器であると。

 

「だが、貴様は違う。“ISは兵器である”と認識している」

 

 ラウラはそう断言した。彼方自身そのことは重々承知していたが、それだけで自分をパートナーとしてもよいのかと彼方は疑問に感じた。

 

「よって、私は貴様をパートナーにしようと考えた」

「そんな風に即決しちゃっていいのかな?」

「問題ない。そのためにこうして話していたのだ。私の目的のためにもな」

「目的……?」

「私の目的は、織斑一夏を見極めることだ。そのために、貴様と組む」

 

 彼方は、ラウラの転入初日の一夏に対する態度を思い出した。明らかな敵意を内に孕んだ視線をよく覚えている。

 

「らうらんはなんでおりむーのことを試そうなんて思ってるの~?」

「……私怨だ。それ以上でも、それ以下でもない」

 

 本音の質問に、ラウラはそう答えた。すっと視線を逸らすことでそれ以上聞かれることを拒んでいるようにも見える。

 

「……分かった。ボーデヴィッヒさん、君の誘いを受けるよ」

「おがみん?」

 

 彼方には二つの思惑があった。一つは現役軍人の動きを直接見て学ぼうということ。もう一つは、彼女の内に抱えている物が気になったことだ。

 ラウラは、アンバランスだ。それは精神的な物であると彼方は認識している。推測ではあるが、ラウラをこの学園に送ったという司令官の懸念もそれなのではないかと考えていた。

 彼方はラウラの持つ事情を知らない。一体どうして、この精神的に幼い少女が軍人であるかも分からない。

 だがそれでも、彼女を放っておくのは気が引けた。

 自分に何が出来るのかは分からないが、目の前の小さなクラスメートの悩みを聞くくらいのことは出来るだろうと思う。

 

 ――妹がいたらこんな感じなのかな。

 

 ふとそんな考えが彼方の脳裏に過ぎった。

 

 * * *

 

 シャルロットは身の上を一夏に話し始めた。

 

「僕はね、長い間お母さんと二人だけで暮らしてきたんだ」

「二人だけで? でも、さっき電話してたのは……」

「そう、お父さん。とは言っても、つい一、二年前に初めて会ったんだけどね」

 

 シャルロットは生まれてから十数年、父親のことを知らずに生きてきた。唯一それを知る母がそれを語ることが無かったからだ。

 

「お母さんは、僕の前では全然お父さんのことに付いて話さなかった。誰なのかも、どんな人なのかも。唯一知っていたことは、お母さんが時々、お酒を飲みながら夜に泣いていたってことだけ」

 

 いつも気丈に振る舞い、笑顔を絶やすことの無かった母が、自分のいない時だけに流した涙。それがシャルロットの知らない父親が原因だとは、なんとなしに気づいていた。

 

「父親がどんな人なのかも知らずに、お母さんを泣かせる悪い奴だって小さい頃は思ってたよ。お母さんにそれを言ったことは無かったけどね」

 

 シャルロットに人生の転機が訪れたのは、唐突な母の死と自身のIS適性の判明が原因だった。

 

「けど、そんな生活もお母さんが死んじゃって終わった。それから一週間後くらいかな。お父さんと初めて会ったのは」

 

 父と初めての対面を果たしたのは、少し前に受けたIS適性検査の結果が原因だった。高ランク判定をたたき出したシャルロットの資料がIS関連企業であるデュノア社の社長、つまりはシャルロットの父親へと渡されたことで彼は自分の娘の存在を知ることになった。

 

「それから僕はお父さんに引き取られた。幸いにも、お父さんも、今の奥さんも快く受け入れてくれたよ。流石に引き取られた当初はどう接していいか分からなかったみたいだったけど」

 

 その後、シャルロットはISパイロットとしての教育を受けた。適性が高かったこともあってか、訓練は順調に進んでいった。何より、彼女はそれこそが引き取ってくれた父親に対する恩返しだと考えていた。

 デュノア社の手厚いバックアップとシャルロットの努力によって、遂に代表候補生となった。だが、シャルロットの心にはしこりのような物が残り続けていた。

 

「……お母さんが僕にお父さんのことを話さなかった理由なんだけど、お父さんは僕のことを知らなかったんだ」

「知らなかった……?」

「そう。お母さんとお父さんは、学生時代に付き合っていたんだって。その時に僕が出来たんだけど、二人は学生だったし、お父さんは企業の御曹司で婚約者……今の奥さんがいたんだ。お母さんはお父さんに迷惑をかけないようにって、僕のことを知らせずに自分一人で行方をくらまして……」

 

 そこからはシャルロットの説明通りだ。

 シャルロットの心に刺さっている刺は、幼い頃に抱いていた父親に対する印象とは裏腹な今の父親の態度である。シャルロットにとって父親とは母を泣かせていた“悪い奴”だった。

 だが父親と再会し共に暮らすようになってから、その認識がぐらついている。

 シャルロットに対し、シャルロットの父親はとても誠実に接している。今まで放っておいてしまった罪悪感があるのだろう。シャルロットがISの訓練を始めてからというもの、支援企業としては過剰な、親としての私情が混ざっている程の支援を行っていた。周囲から非難の声が上がりそうにもなったが、シャルロットがISパイロットとして優秀な成果を出し続けたことでそれらは段々と無くなっていった。

 しかし、極論から言ってしまえば、シャルロットにとって父親とは“他人”なのである。今まで影も形も見たことがない人物、シャルロットの知らない人物だ。シャルロットは母親似と言われたことから、父は自分を娘として見ることが出来ているのかも知れない。しかし、シャルロットが父を肉親であると認識することは難しいことだった。

 

「僕の悩みはね、お父さんとどう接すればいいのか分からないこと、ってとこかな」

 

 半ば強引に話を終わらせたシャルロットは、紅茶を少し口に含む。手の体温で温くなった紅茶は、シャルロットの気分を一新させてはくれなかった。甘ったるいと言える程の甘さが口の中に残るような、そんな気がしていた。

 シャルロットが話を終わらせたのは、これ以上は愚痴になってしまうと感じたからだ。厚意から一夏が相談に乗ってくれているのは分かっているが、流石にただのクラスメートに話すような内容ではないだろう。そうシャルロットは思っていた。

 

「ごめんね、こんな話聞かされても困るよね」

 

 自嘲の笑みを浮かべつつ、シャルロットは一夏へと謝罪の言葉を述べる。

 

「いや、別に構わないって。俺の方から話してくれって言ったわけだし。それに俺だってそんなことがあったら困るどころじゃないだろうからな」

「……ええっと、そうだ。織斑くんのご両親はどんな人なのかな。出来れば親子付き合いの参考にしたいな、なんて……」

 

 シャルロットは何気なく話題を変えたつもりであったが、それが盛大に地雷を踏むことになろうとは考えてもみなかった。

 

「いや、俺は両親のことは知らないんだ」

「え?」

「俺は両親のことを知らないんだよ。物心付く前には既に居なくて、千冬姉と二人だったし。千冬姉も全然教えてくれないんだ。預けられた先の親戚の爺さんもそうだった」

 

 一瞬、一夏の言ったことが理解出来ずにシャルロットは素で聞き返してしまった。律儀にも繰り返す一夏の言葉に、シャルロットは顔を青くした。

 

「だから、少しデュノアの気持ちも分かるっていうか……、あれ、どうしたんだ?」

「……その、ごめん。無神経だった」

「おいおい、そんなこと言ったら俺の方が無神経だったって。デュノアの家庭の都合に首突っ込んだような形なんだからさ」

「で、でも……」

「いや、本当に気にしなくていいんだって」

「その、話を聞いてくれたお礼と、変なこと聞いちゃったお詫びをしたいんだ」

「そんなことを別にいいのに……。あ、いや、ちょっといいか?」

 

 一夏が何かを思いついたような表情を浮かべる。

 

「なに? 僕に出来ることなら何でも言って」

「そ、そんなに力入れるようなことじゃなくてだなぁ。……今度のトーナメントで、組んでくれないか?」

「トーナメントで?」

 

 それを聞いた時にシャルロットの頭に浮かんだのは、彼方の顔だった。シャルロットは、いや、誰もが一夏は彼方と組む物だと考えていた。

 一夏は彼方と組んで戦うことが多かった。訓練の時でも一番に相性が良かったのは彼方だ。そしてそれが、一夏と彼方が今の今までペアに誘われなかった理由でもある。それ故に箒たちは一夏と組もうとすることを早々に諦め、誰と組むかを考えていたのだ。

 

「織斑くんは尾上くんも組むんじゃないの?」

「ああ、今回は別々にすることにしたんだ。ずっと同じ相手がペアだと練習にならないしな」

 

 シャルロットが知るのは後々のことになるが、これは千冬の入れ知恵だったりする。

 

「それで、どうだ? 受けてくれるか?」

「……うん。それくらいでいいなら、喜んで」

 

 シャルロットはそれに同意した。何より、シャルロット自身もパートナーが決まっていなかった。転校したてであるがゆえに、誰と組めばいいかが判断しにくかったからだ。ある種、シャルロットにとってもありがたい申し出ではあった。

 

「よし! それじゃあ、早速明日から練習を始めようぜ」

「うんっ。よろしくね、織斑くん」

「それと――」

 

 一呼吸置いて、一夏は続ける。

 

「――デュノアの悩み。俺に出来ることなら、いつでも相談に乗るからさ」

「……ありがとう」

 

 シャルロットは一夏の言葉に、笑顔で頷いた。それは久々の心からの笑顔だった。

 翌朝、シャルロットたちが互いを名前で呼ぶようになっていたことに箒たちは驚愕し、さらに男子二人が転校生とペアを組んだという話は瞬く間に学校中に広まった。

 




 戦闘機じゃミサイルなんて落とせねぇだろJKという方は脳内でエスコン変換して下さい。彼方の父親に関しては、メビウス1ほどではないにしろ黄色の13くらいかそれ以上の実力があります。

 次回、ようやくタッグトーナメントです。

15/05/14
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