試合は開始直後から動いた。
イグニッション・ブーストによって加速した一夏と、それに追随するようにシャルロットが彼方へと迫った。
「う、わ――!」
彼方は寸でのところで一夏の斬撃を回避するが、それによってラウラと分断されてしまう。雪片の一撃から逃れつつ咄嗟にラウラと合流しようとするも、シャルロットの援護射撃によって行動を阻まれてしまった。
《尾上彼方、今援護を……》
《させないよっ!》
彼方の援護に入ろうとしたラウラにシャルロットが妨害を行う。一夏の援護に使っていたアサルトライフルとは違い、ショットガンを手にしていた。
一瞬のうちに装備を切り替える技能。高速切替(ラピットスイッチ)だ。
シャルロットからの射撃が止んだほんのわずかな時間に、ちらりとその方向に視線を向ける。シャルロットがラピットスイッチを習得していたことは予想の範疇ではあったが、その使用している機体とのあまりの相性に彼方の表情が思わず引きつった。
ラファールは汎用性を強みとした機体だ。多くの武装から場面によって適切なものを選び、使用する。まさしくラファールにとって最適な技能だ。
――これはまずいことになったな。
彼方は自分が狙われているという状況を利用し、一夏をラウラの射線に誘導しようとるす。だが、
《一夏っ、深追いしないで! 誘導されてるよ!》
《っ、とぉっ!》
あえなくシャルロットに看破され、彼女の射撃によって彼方自身の退避ルートも潰されてしまった。
どうやら相手は、徹底的にこちらを分断し早々に自分を倒すつもりのようだ。
確かに、ラウラと戦うのであれば自分を先に落として二対一の状態に持ち込むのが良策だ。そしてその戦術を選んだということは、恐らくシュヴァルツェア・レーゲンの“特殊機構”を知っているのだろう。
「随分とオレを狙うんだねっ」
《そりゃ、お前を先に倒さないと、ボーデヴィッヒを相手には出来ないからな!》
間違いない。彼方はそう確信した。
シュヴァルツェア・レーゲンにはAIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)という機構が搭載されている。これは簡潔に言ってしまえば、対象の動きを止めることのできる機構のことだ。
一対一であれば強力な効果を発揮するが、発動されるのに集中力を要求される。そのため、対象は視認出来るものに限定される。
一夏たちはシュヴァルツェア・レーゲンの情報を得ているのだ。彼方がセシリアを調べたときのように、一夏たちもラウラのことを調べたのだろう。
具体的なことは分からずとも、「迂闊に近接戦をしかけることは自殺行為」だということは分かっているようで、シャルロットは白兵戦を出来るだけ避けようとしているのが見てとれる。
彼方にとって救いなのは、シャルロットがラウラの妨害に手一杯で、こちらに対する攻撃が最小限となっているところだろうか。
《ちぃっ! 面倒なっ》
《ごめんね。でも、しばらくは付き合ってもらうよっ!》
ラウラのワイヤーブレードをグレネードで迎撃し、近接戦闘に持ち込もうとしたところをショットガンの面攻撃で留まらせる。仮にラウラが主砲である大口径のレールガンを放とうとしても、その隙を逆に利用されてしまうに違いない。
目まぐるしい攻防の中でシャルロットがラウラを止められ続けている理由は、その豊富な武装からくる選択肢の多さゆえだろう。
彼方は、シャルロットの情報を調べなかった訳ではない。だがそれでも、シャルロットに対する効果的な戦術は立てられなかった。
それは、ラファール自体に特筆すべき能力がないからだ。
白式の零落白夜、ブルーティアーズのビット兵器、甲龍の衝撃砲。ラファールは、そのような機体の代名詞ともなるような能力や武装を持ち合わせていない。
しかしだからこそ、目立った弱点が存在せず、対策を立てられることもない。
「まったく、やりにくいったらないね……!」
彼方は一人、そう愚痴を漏らす。段々と思考が冷めていき、どうすべきかを考え始める。
まず、ラウラからの支援はあまり期待しないほうがいい。なにせ、シャルロットの目的はラウラの足止めだ。お互いにダメージは少ないが、それゆえに状況が硬直してしまっていた。
同時に、彼方がラウラの援護を行うことも難しい。
彼方は、狭い空間であれば斑鳩に匹敵する機動性を持った白式に追われている。これが広い空間であれば斑鳩の最高速で振り切ることも可能だが、それが出来ない以上は機動力も活かして逃げるしかない。
――相手が一夏じゃなければ、行けるっていうのに……!
一撃をもらう覚悟で一夏を抜ける方法を、彼方は取ることが出来なかった。
一夏の操る白式には、零落白夜があるからだ。
零落白夜は、はっきり言って反則レベルに強力な単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)だ。防御力の低いISであれば、一撃で半分以上のシールドエネルギーを奪われてしまうほどの攻撃力がある。
斑鳩自体、それほど防御力が高いわけではなく、白式の零落白夜を使った一撃は間違いなく致命傷になる。
その状態でラウラの元へ向かったとしても、即座にシャルロットに残りのシールドエネルギーを削られてしまうだろう。
だとすると、取れる手段は二つ。ラウラがシャルロットをどうにかすることを期待するか、それとも自力で一夏をどうにかするかだ。
しかし、
「避けるのが上手くなったね、一夏っ!」
《シャルロットとの訓練の成果だぜ! あんだけ苦労して弾丸を避け続けたんだ、これぐらい当然だ!》
彼方の放つ弾丸を、これまでに無かった繊細な機動でかわしていく。今までの大振りなそれではなく、近接戦を主とするISに特有の動き方へと近づいていた。ゆらゆらと柳のように揺れ動き、照準を定めづらい。さらに一夏は、彼方の視線の動きや全身の動きから射線を予測し回避するという芸当まで見せた。
彼方は内心で焦りを募らせていた。思ったよりも、一夏に攻撃を与えられていない。一夏の回避能力が向上したことにより、射撃が中々当たらなくなったからだ。
弾幕を一夏が避けているため、一夏の推進用エネルギーを減らすことは出来ている。だが、彼方も一夏から逃げ続けなければならないため、双方のエネルギーが時間に応じて少なくなっていた。
――弾だって無限にあるわけじゃないってのに!
一夏の攻勢を防ぐために止む無く弾をばら撒いているが、後々シャルロットとも戦うことを想定するとあまり多くの弾薬を使うことはよろしくない。しかし、弾幕を弱めればその隙を突いて一夏は接近してくるだろう。
彼方は視界内に映るウィンドウから、シュヴァルツェア・レーゲンのステータスを確認する。予想よりもエネルギーは減っておらず、機体に損傷も少ない。十分に戦うことが出来る状態だ。
――今の状況じゃあ“あれ”は使えない。
彼方は新たに装備覧に追加された武装を睨みつけた。強力な装備ではあるが、如何せん今の状況では使うことは出来ない。大きな隙を晒してしまうことになるからだ。
――となると、「鶫(ツグミ)」で対応するしかないか……?
鶫に搭載された対IS用ジャミンググレネード。効果範囲内に電磁パルスを発生させ、ISのハイパーセンサーを使用不能にする武装である。
しかしその強力な効果と引き換えに、ジャミンググレネードにはいくつかの欠点が存在する。
第一に、効果範囲が狭いことだ。近接用装備である鶫に搭載されているグレネードは、そもそも近接戦を想定していない斑鳩が敵の接近に対し用いてその隙に離脱をするための物だ。そのため、射程距離は短く効果範囲も狭い。
そして、相手のハイパーセンサーを無効化できる時間が短いこと。一秒にも満たない時間であり、攻勢に使うことは難しいのだ。
三つ目に、保有している数が少ないこと。元より緊急用であるジャミンググレネードは、使用されるそのときが訪れないようにすることが斑鳩パイロットに求められることだ。以前にアンノウンに対して使用した方法は想定されていない使用法であり、本来の使い方ではない。
――そう考えると、鶫を正しい用途で使用したことは無いんだな。
ふと思い立ったことに彼方は薄く笑みを浮かべるが、それで決心が付いた。
――このままじゃなにも変わらない。なら、こっちから仕掛ける!
幸いにも、一夏の雪片の斬撃距離より鶫のジャミンググレネードの飛距離の方が優っている。
鶫を直ぐに展開できる状態にしたままで、彼方は反転、一夏へと一直線に飛んだ。
――この時、彼方にはほんの少しの油断が存在していた――
彼方が近づくにつれ、弾幕の密度が高くなる。
―― 一夏の攻撃手段は、雪片だけなのだと――
鶫のジャミンググレネードの飛距離限界のギリギリの位置で鶫を展開。柄の上部に設置されたトリガーに指をかける。
―― 一夏が口角を吊り上げる――
《かかった……!》
彼方がトリガーを引く瞬間、一夏が“何か”を投擲した。
斑鳩のハイパーセンサーによって強化された彼方の眼は、しっかりとそれがなんであるかを捉えていた。
一夏が“白式の背面に隠していた”、球状の武器。
――手、榴弾っ……!?
IS用に開発された、歩兵が使うそれよりも少しばかり大型のハンドグレネードである。白式のパワーアシストによって素早く投擲されたそれは、射出されたばかりのジャミンググレネードに近づき、内部の炸薬によってその身を破裂させた。
――まずっ……!
ハンドグレネードの爆破の衝撃により、ジャミンググレネードが“斑鳩の至近距離で”誘爆した。ジャミンググレネードの起爆によって起こった電磁パルスによって、斑鳩のハイパーセンサーが狂いだす。
最後のジャミンググレネードの欠点。それは、“無効化できるのはあくまでもハイパーセンサーを含んだ少数の機能だけ”だということだ。
ただ単純にISを動かすことはできるため、即座に離脱することは可能なのだ。
アンノウンに対し使用した際に絶大な効果をもたらしたのは、あれが完全に機械だったからに他ならない。人間であれば身体を動かし、肉眼で確認することもできる。
だが、尾上彼方にとって、それは致命的とも言える隙を作り出してしまうものだった。
狂いだしたハイパーセンサーによって、今まで補われていた“彼方の視力”が元に戻ってしまった。
眼鏡が無ければ目の前に立つ人の顔を判別することすら難しいほどの彼方の視力だ。急に視界が潰されたことと、予想外の出来事が起こったことへの混乱で、対処が一瞬遅れる。
「はぁああっ!」
通信機能も一時的に麻痺したために、聞こえてくるのは一夏の肉声だ。そしてそれが意味することは、白式の刃がすぐそこに迫っているということだった。
彼方は視力を奪われた状態で、声の方向から逃れようと斑鳩を動かす。だが、一夏にとってはそれも作戦の一部だった。
「そうすると、思ってたぜ!」
衝撃。大きく機体を揺さぶられる。
その瞬間、ハイパーセンサーの機能が回復、視界がクリアになり同時に各種ウィンドウが表示される。彼方に理解できたのは、斑鳩のシールドエネルギーを表す数値が半分を下回っていたことと、目の前にいる一夏が光り輝く雪片を振りかぶって二撃目を用意しているということだった。
瞬時に状況を確認して一夏の一撃を避けられないことを悟った彼方は、せめて一矢報いようとして手に持った鶫で突きの姿勢を取った。
零落白夜による白式の斬撃によって斑鳩の残りのシールドエネルギーが無くなるのと、彼方の鶫が一夏のシールドに突き刺さるのは同じタイミングだった。
シールドエネルギーが無くなったことによって彼方は戦闘から脱落した。
「……まさかそんな手を使うとは思わなかったよ。デュノアさんの入れ知恵?」
《俺もこんなに上手くいくとは思ってなかったけどな。まあ、長い付き合いが仇になったって感じか? シャルロットはその辺りを見抜いてたようだったけど》
シャルロットは、彼方が一夏と対峙した時に考えるであろうことを推測し、それへの対策を練っていたのだろう。
つまりは、彼方の作戦負けだった。
反転しシャルロットの加勢に向かった一夏を見つめつつ、視界に現れた指示に従ってアリーナの脱落者スペースへと移動する。ピットへと戻らないのは、試合中に隔壁を開くことができないからだ。これは流れ弾などへの対策だった。
よって、脱落者に関してはアリーナに留まる必要があった。ISを装着していればエネルギーシールドで身を守ることができるため、安全上の問題は無い。
試合での敗北条件は「規定されたエネルギーの全損」である。IS自体のエネルギー全損だとしてしまうと、試合が終わる度にISが自閉状態に入ってしまい、フィールドから運び出す手間がかかってしまう。そのため、試合では規定されたエネルギーを削り合うことがルールで決められている。
このタッグトーナメントだと、脱落した者は規定のスペースで待機し、もし脱落者が試合内容に故意に影響を与えた場合はそのチームの失格となるルールだった。
彼方はハイパーセンサーを使って試合の様子を確認する。早々に脱落してしまったことに対して彼方は罪悪感を抱いていたが、参加資格を失ってしまった以上彼方には何もできることはなかった。
アリーナ中央部では、ラウラが一夏とシャルロットの戦法に翻弄されていた。
シュヴァルツェア・レーゲンの機構、《AIC》は一対一、さらに言えば相手が白兵戦を得意とするISであれば無類の強さを発揮するが、多対一ではその力を十全に発揮することはできない。
AICは性質上、パイロットの集中力が必要となる。対象を視認し、それを強く意識することでAICは発動することができる。同時に複数の対象にAICを使用することは不可能なのだ。また、AICを発動させている間は、ラウラも動くことができない。動いてしまうと力場を保持しておけなくなるからである。
二つの性質を見抜かれ、一夏が囮の時はシャルロットが、シャルロットが囮のときは一夏がラウラへと攻撃をしかける。一夏の零落白夜を警戒して白式への対処を重点的に行っているせいで、ラファールからの攻撃を防ぐことが段々とできなくなっていた。
《くそっ……!》
ラウラの苦渋に満ちた声が通信越しに聞こえてくる。離脱しようにも、この狭いアリーナ内で二機を相手に逃げることは難しい。最悪の場合、大きな隙を与えることになってしまう。
そして、シュヴァルツェア・レーゲンから二機へと攻撃をしかけることも難しくなっていた。一夏たちが慎重策を取ったためだ。
白式による一撃必殺を狙うのではなく、それを脅しに抑え、シャルロットによる銃撃によって着実にダメージを与えていく。しかし、露骨に零落白夜を狙っているわけではないが、それでも当てる気が一夏の中にあるため、それを無視することはラウラにはできない。
シュヴァルツェア・レーゲンに搭載されている武装は、大型レールガン一門、ワイヤーブレード六機、両手首からプラズマを出現させ、それを手に纏って攻撃するプラズマ手刀、そして特殊機構であるAIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)である。
ワイヤーブレードは既に半数が一夏たちによって無力化され、他の武装も現在の状況では役に立ちにくい。ラウラと一夏たちの距離は、大型レールガンを使うには近く、プラズマ手刀で格闘戦を挑むには遠いのだ。
少しずつ減っていくエネルギー残量に、ラウラが焦りの表情を浮かべ始めた。
このままではなぶり殺しになってしまう。その光景を見つめていた彼方に、そんな思いが生まれ始めた。
どうすればこの状況を打開できるのか。何もできないと分かっていても尚、彼方は打開策を考え、
しかし、予期せぬ事態によって、状況は変わってしまった。
!警告!
『メインユニット』による干渉を検知。
当機への干渉を阻害しました。
僚機への干渉が行われました。
『シュヴァルツェア・レーゲン』との通信が遮断。
IFFを解除。敵性存在と断定します。
戦闘を開始してください。
唐突に眼前に現れた、斑鳩の発する警告文。
それがなんであるかを理解するのは、ラウラの状態が変化し始めてからだった。
「なんだ……?」
ガクン、と。ラウラの体から力が抜けるように見えた。手足がぶらりと垂れ下がり、瞳からは生気が消えたようだ。
異常に気づいた一夏とシャルロットが攻撃を止め、一端距離を取った。会場内でもざわざわとした空気が流れ始める。
しかし次の瞬間、“シュヴァルツェア・レーゲンが動き出した”。搭乗者であるラウラが明らかな異常事態にあるというのに、である。
《っ!? あぶねぇっ!》
《え……? きゃあっ!》
不意を突くようにラウラがシャルロットへと迫る。プラズマ手刀を展開しつつ、だが、その攻撃はシャルロットを抱きしめるようにして庇った一夏へと直撃した。
《ぐうっ……》
態勢を崩された二人へとラウラが容赦なく追撃をしかける。散会して攻撃を逃れようとするが、先の一撃でスラスター系にダメージを受けたのか、白式の動きが目に見えて鈍くなっていた。
彼方は咄嗟にモニター室へと通信を繋いだ。これもルール違反ではあるが、非常事態だ。
「織斑先生! 聞こえてますか!?」
《ああ、聞こえている》
「いったいボーデヴィッヒさんはどうしたんですっ? あれじゃまるで、ISが勝手に動いてるみたいだ」
《みたい、ではなく、その通りだ》
「……なんですって?」
千冬の言葉に彼方は眉をひそめる。
《ボーデヴィッヒは完全に気絶している。……奴が動き出してから完全に通信が途絶えているせいで、バイタル情報も更新されていないがな。間違いなく、その直前には意識を失っていた》
彼方の脳裏に、クラス対抗戦の際に現れたアンノウンの姿が過る。無人で動く、鋼鉄の機械。
《シュヴァルツェア・レーゲンは、暴走状態にある》
彼方は、ラウラへと視線を向ける。操り人形のように揺さぶられるままに動く姿に危機感を覚えた彼方は、千冬へとラウラ鎮圧の許可を求めた。
「織斑先生。ボーデヴィッヒさんの、いや、シュヴァルツェア・レーゲンの鎮圧を許可してください。このままじゃあボーデヴィッヒさんが危険です」
《なに?》
「先生方が展開できるまでどれ位の時間がかかりますか? あれはアンノウンの場合と違って、強力すぎる武装などは搭載されていません。あくまでもシュヴァルツェア・レーゲンのままです。それだったらオレたちでも十分に戦えます」
《……分かった。織斑とデュノアにも同様に許可を出す。暴走状態にあるシュヴァルツェア・レーゲンを速やかに鎮圧しろ》
「はいっ」
《ISを装備した教員が配置に着くまで後十分はかかる。最悪の場合はそれまで持ちこたえるだけでもいい》
「了解!」
彼方はゆっくりと動き出した。それと同時に会場へとアナウンスが入る。説明としては不足のあるものではあったが、少しの間時間を稼ぐには充分だった。
シュヴァルツェア・レーゲンがどのように攻撃対象を設定しているのかは分からないが、ゆっくりと後ろに回るように動いている彼方に対して反応は無かった。
彼方は一夏とシャルロットに通信を繋いだ。
「一夏、デュノアさん。聞こえる?」
《っ、彼方か!?》
《うん、聞こえてるよ。織斑先生からの指示も聞いた。どうするの?》
「ボーデヴィッヒさんを一刻も早く解放したほうがいい。そのためにも、それぞれの使える最大火力で一気に倒す」
その提案に対し、シャルロットが否を唱える。
《でも、一夏がちゃんと動けないんだ! 僕を庇ったときに、スラスターを損傷して……》
「オレとデュノアさんでボーデヴィッヒさんを止める。三人の中で一番火力があるのは一夏の零落白夜だろうから、それを外すことはできない」
シュヴァルツェア・レーゲンからの攻撃を必死に防ぎながら、一夏が叫ぶように言った。
《彼方はどうするつもりだ!? 斑鳩にはそんなに強力な武器はないだろっ?》
一夏の言葉に、彼方は新しく加わった新武装の展開準備を済ませながら答える。
「大丈夫。斑鳩にも新しい武器が加わったんだ。……デュノアさん。君の使える一番火力の高い武器はどんなもの?」
《今展開してあるシールドに搭載されてるパイルバンカーがそうだよ。使うなら近寄らないといけない》
「……分かった、デュノアさんはそれを直ぐに使えるようにしておいて。二人はオレの合図でシュヴァルツェア・レーゲンから離れるんだ」
二人が頷いたことを確認して、彼方は武装を展開した。
斑鳩の前方に粒子が集まり、コンマ数秒で形を成す。
顕現したものは、巨大な砲。シュヴァルツェア・レーゲンの右肩に据えられたレールガンほどもある大砲である。
一〇〇ミリ榴弾砲、「千鳥(チドリ)」。大口径、高火力であり、非常に広い効果範囲を持つ斑鳩の新武装。しかし威力相応のデメリットが存在する。大口径であるがために反動が強いのだ。そのため、使用する場合には発射姿勢を取る必要があった。
およそ斑鳩の運用思想とはかけ離れた装備ではあったが、今この時はそれに感謝した。
背を見せたままのラウラに手早く照準を合わせる。同時に斑鳩が発射姿勢を整えた。強烈な反動を軽減するためにPICを専用の設定に変更し、砲をしっかりと機体と体に固定させることで、PICで消しきれない微反動に耐える体勢を取る。
シュヴァルツェア・レーゲンはこちらを見ない。ハイパーセンサーでこちらを確認しているのか、それとも近くにいる対象のみに襲いかかるだけなのか。
どちらなのかを彼方が判断することはできないが、その動作の中から発射タイミングを掴んだ。
「――今だ、離れてっ!」
急な合図だったにも関わらず、一夏とシャルロットはそれに敏感に発射した。
発言した次の瞬間に、「雲雀(ヒバリ)」とも「鶫」とも違った重い引き金を絞る。
引き金と連動し、撃鉄が動く。雷管を叩いた瞬間、凄まじい衝撃と共に榴弾が打ち出された。衝撃に若干姿勢を崩したものの、その弾は真っ直ぐシュヴァルツェア・レーゲンへと向かった。
発射の轟音に反応して、シュヴァルツェア・レーゲンが振り向き様にAICを使用しようとするが、遅い。
信管によって内部の炸薬が爆発し、大規模な爆風を引き起こした。アリーナに二度目の轟音が響き渡る。
一〇〇ミリ榴弾の直撃を食らったシュヴァルツェア・レーゲンは体勢を崩し、爆風によって吹き飛ばされた。
そして、シャルロット・デュノアはその隙を見逃さない。
榴弾の効果範囲外にいたシャルロットはシールドを構えて、シュヴァルツェア・レーゲンへと迫る。
シャルロットが持っていた実体シールドは、その姿を大きく変貌させていた。シールド部分がスライドし、内部がむき出しの状態になっている。今露わにされているのは、巨大な杭だ。
灰色の鱗殻(グレー・スケール)。通称、盾殺し(シールド・ピアース)と呼ばれるそれは、巨大な杭を炸薬によって打ち出す武装だ。貫通力のある鋭い杭を高速で打ち込むことでエネルギーシールドに深く突き刺すという仕組みにより、第二世代の武装としては破格の威力を持ち、リボルバー型の発射機構によって連続の刺突が可能となっている。
しかし高い威力と引き換えに、杭を直接打ち込むという構造上どうしても敵に肉薄しなければならない。
だが、そのデメリットはこの状況では関係なかった。
体勢を崩したシュヴァルツェア・レーゲンへ素早く取りつき、杭を向ける。
「ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね!」
シャルロットは気を失っているラウラに対しそう断ってから、杭を打ち出した。
炸薬によって打ち出された杭が、エネルギーシールドへ突き刺さる。リボルバーが回転すると同時に杭が戻され、次の薬莢に込められた炸薬が杭を再び押し出した。
六連装のリボルバーに収められた全ての薬莢が役割を果たし終えると、シュヴァルツェア・レーゲンの動きは目に見えて鈍くなっていた。
《今だ、一夏!》
離脱したシャルロットの声に、白い機影が躍り出た。
残り少ないエネルギーを零落白夜の煌々と輝く光に変え、白式を纏った一夏が雪片を振りかざす。
《終わりだぜっ!》
もはやシュヴァルツェア・レーゲンの抵抗は無かった。雪片の一太刀によって機動が停止したシュヴァルツェア・レーゲンは、半重力制御を失い地に落ちようとした。
「よ、っと……」
重い鎧と化したシュヴァルツェア・レーゲンを身につけたままのラウラが地面に叩き付けられる前に彼方が抱きとめる。ラウラの呼吸が安定していることを確認してほっと胸をなで下ろした彼方は、モニター室へと通信を繋げた。
「織斑先生、シュヴァルツェア・レーゲンの鎮圧が終了しました。ボーデヴィッヒさんにも目に付く範囲での異常はありません」
《ああ、こちらでも確認した。そのままボーデヴィッヒをピットに運べ。そこでISを解除する》
「了解しました。一夏とデュノアさんも同行させますか?」
《そうしてくれ》
彼方はラウラを抱えたまま、こちらを見つめる二人へと声を出した。
「二人共、こっちに。ピットに戻るよ」
《ああ、分かった。……けどよ、アリーナはこのまんまでいいのか?》
一夏の言葉に、ハイパーセンサーを使って周りの観客席を見る。やはり突然の展開に困惑しているようで、ざわめきと懐疑の視線が混じっている。
「……その辺りの対応は先生に任せよう。とにかく今は、ボーデヴィッヒさんを連れて行かないと」
《お、おう》
《一夏、尾上くん。隔壁が開いたよ》
シャルロットの声に彼方と一夏が彼女の後に続く。
彼方は自分の抱えている少女へともう一度だけ視線を落とし、ISを装備した教師たちのいるピットへと入っていった。
今回は完全に戦闘シーンオンリーでお届けしました。戦闘の書き方が雑かもしれませんが、許してください。
次回に色々な説明が入って、同時にのほほんさんとの久々のラブコメが書けます。正直作者が一番楽しみにしてました。
また、作中で出てきた「灰色の鱗殻(グレースケール)」ですが、原作の設定とは若干異なっています。
この武器は原作では69口径(約1.7センチ)という設定なのですが、アニメで確認したところ、杭の太さが明らかに3~5センチほどの太さがあります。パイルバンカーである以上太くあって欲しいという作者の願望も相まって(作者脳内での主なパイルバンカーイメージは、アルトアイゼン・リーゼのリボルビング・バンカーです。というかグレースケールのデザイン自体がリボルビング・バンカーにしか見えな(ry )この作品では原作の設定よりもアニメデザインを元に書いています。ご了承ください。