IS ~across the sky~   作:シャオレイ

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第五話 蒼い泪

 アリーナ上空。十分程度の試験飛行を経て彼方と一夏は定位置へと着いた。彼方たちが出てきたゲートとは別、反対方向から青い機体を身に纏ったセシリアが飛んでくる。その姿は堂に入ったものであり、確かに代表候補生としての実力を匂わせていた。

 

《もうよろしいんですの? わたくしとしてはもう少し時間をかけて頂いてもよろしかったのですが》

 

 オープンチャンネルでの通信だ。それに対し、一夏が返す。

 

「ああ、大丈夫だぜ。もう準備は出来てるからな」

《あら、随分と威勢がいいんですのね。でしたら、少しは期待してもよろしいのかしら?》

「もちろんだ。楽しみにしとけよ。なあ、彼方」

「どこまで行けるかわからないけど……。多分、オルコットさんにも少しは楽しんでもらえるんじゃないかな」

 

 口上での前哨戦もそこそこに、視界の端のウィンドウでは試合開始までのカウントダウンが行われていた。一つ、また一つと減っていく数字を見ながら、各々が武装を展開する。彼方は機関銃二門を両手に、一夏は唯一の武装である長刀を、セシリアは長大なビームライフルを現出させる。

 徐々にゼロへと近づいていくカウントを見つめながら、彼方はほんの少し、後ろへと重心を傾ける。逆に、一夏は前へと。セシリアに気づかれないように。

 

 そして、

 

『3』

 

 試合が、

 

『2』

 

 始まる。

 

『1』

 

 刹那、彼方と一夏が視線を交差させ、

 

『0』

 

    《warning!》

 

 敵性ISの存在を感知。

 データとの照合から〈ブルーティアーズ〉と判明。

 全武装、及びスラスターのロックを解除。

 通常巡航モードから、高速戦闘機動モードへと移行。

 戦闘行動を開始してください。

 

 斑鳩の警告音と共に、

 

「行って、一夏っ!」

《行きなさい、ブルーティアーズっ!》

 

 ――二人の声が、試合開始を告げるブザーと重なった。

 

 * * *

 

「うぉおおおお!」

 

 先制攻撃を仕掛けたのは一夏だった。入学以前、二人での模擬戦の時に得意としていたイグニッション・ブーストを用いて瞬時にトップスピードへ到達した。長刀を振りかぶり、大上段の構えで突撃する。

 一夏は彼方との会話を思い出していた。

 

『一夏、オレたちが勝つのは、正直かなり難しいと思う』

『かなり、か……。でも、可能性はゼロではないんだろ?』

『確かに、ゼロではないよ。でも、かなり勝率は低い。だから……』

 

 ――俺は、近づいて、斬ればいい!

 

 勝つために彼方の考えた戦術は極めてシンプルなものだった。それこそ、素人でも出来るような。二人の機体、白式と斑鳩は双方共に高速戦闘型のISだ。対するセシリアのブルーティアーズは中距離射撃型であり、高速での戦闘を得意とする型ではない。このデータは、専用機が届く前から分かっていたことだ。

 

 しかし二人は実際に自分の専用機に乗ったことはないために、それ以上の機体差での戦術は立てられない。

 故に、

 

《あら、ただ単純に突進ですの? けれどそれでは、わたくしに届きませんわよ!》

 

 ブルーティアーズが真価を発揮する、そのタイミング。ビットによる全方位攻撃に対する、それの対抗手段をこそ彼方は思索した。

 

 白式が一夏に警告音を伝える。

 

 【警告 敵自立機動砲台からのロックオンを確認】

 

 一夏がそれに意識を向けることはない。なぜなら、彼には信頼するパートナーがいるからだ。

 

 【警告 敵自立機動砲台に高エネルギー反応検出】

 

 だがしかし、それが放たれることはない。

 背後から銃撃音が鳴り響く。両手に機関銃を構えた彼方だ。放たれた十五ミリの弾幕がビットの攻撃を防ぎ、一夏の道を切り開いた。

 そして、“セシリアはビットを操作中には動けない”。つまり、一夏を攻撃しようとビットを動かしている最中はその場に固定されることになる。格好の的だ。

 

「ビットを操作中にお前は動けない。なら、そのビットを彼方が抑えておけば、俺はお前に集中出来る!」

《っ! なるほど、そう役割分担をしてきた訳ですわね……!》

 

 しかしビットによる迎撃が失敗したことを悟ると、セシリアは白式の刃から逃れるように動きつつ自らもレーザーを放つ。だがそう簡単に一夏も当たらない。持ち前の運動神経と、機体の運動能力によって攻撃を回避する。そして再度白刃を閃かせ、一夏はセシリアへと迫る。

 振り切られたそれはしかし、セシリアに当たることはなかった。寸前で避けられたためだ。

 一瞬出来た隙を、セシリアは狙う。構えられたライフルと、ビットが一夏に銃口を向けた。ビットは彼方の牽制によって攻撃自体を止めることは出来たが、セシリアの本命は自らのライフルだ。放たれたレーザーが一夏のシールドエネルギーを削る、その瞬間。

 

「お、らぁっ!」

 

 側方にイグニッション・ブーストをかけることで、直撃を避ける。しかしそれは直撃を避けただけであり、レーザーはシールドに掠っていた。攻撃を受けたことによる警告音が鳴り響く。だが、致命傷ではない。エネルギーはまだ残っていて、自分には相棒がいる。自分はまだ戦える。

 

「さあ、行くぜ――!」

 

 自らの背中は全て彼方に任せ、一夏はセシリアへと斬りかかった。

 

 * * *

 

 一夏に向けられるビットを牽制しながら、彼方は自身が立てた作戦が効果を上げていることを感じる。こちらがビットを牽制することで、一夏はセシリアただ一人に集中出来ている。そして、ビットによる一方的な攻撃を出来なくさせれば、攻撃のチャンスは生み出せる。ならば、自分はこのまま牽制を続ければいい。

 けれど、

 

 ――このままじゃジリ貧だ。確かに、ビットの攻撃のいくらかはオレが防いでる。でも全部じゃない。オルコットさん自体の攻撃もある。ビットの攻撃が止んだ時に彼女に対して撃っているとはいえ、こちら側のエネルギーの減りの方が早い。

 

 視線はそのままに、斑鳩と白式の状態を表すステータスウィンドウを確認する。半分程に減っているエネルギー残量、そして“処理終了時間を示すメーター”に、些かの不安を覚えつつ、牽制を続ける。

 

 ――早く、早く来てくれ! その時が逆転のチャンスなんだ!

 

 グリップを握る力が、焦燥から強くなる。一夏の顔にも焦りの感情が浮かんでいる。そろそろ限界だ。そう思った時、祈りは通じた。

 

 【「初期化」及び「最適化」の工程を完了。“一次移行(ファースト・シフト)”を開始しますか】

 

 来た、と心の内で叫ぶ。視界に表示されたウィンドウを、視線による操作で動かす。かちり、と何かが切り替わるような感覚が訪れた。

 

 ISが輝きに包まれる。

 

 白式は、灰色から純粋な白へと変わる。アンロックスラスターが大型化し、白と青だけだったカラーリングに金色が加わった。そして何より構えられた輝く長刀こそが、白式の本当の姿なのだと感じさせた。

 

 斑鳩は、色こそ変わらないものの、肩部のスラスターが少し大きくなり、腰部背面に二枚の小型スラスターが追加された。二対四翼、それを見て彼方は、主翼と水平尾翼のようであると考える。ようやく、斑鳩の翼が揃った。

 

 だが、本調子になった相棒への感慨はすぐに抑える。瞬時にセシリアへと視線を向けて、叫んだ。

 

「一夏ぁっ!」

《応っ!》

 

 突然の出来事に一瞬動きが止まったセシリア。それこそが、彼方の狙いだった。試合中に、一次移行をした瞬間、奇襲を仕掛ける。後は、双方どちらかのエネルギーが尽きるまで攻撃を続けるという、策と呼べるかどうかも分からないような作戦。完全に博打と言っていいそれはしかし、この場においては最上の選択肢だった。

 

 だがしかし、ただ呆然としているほどセシリアは甘くはない。即座に意識を改め、迫り来る驚異へと対処する。

 

《これまで初期設定で戦っていたことは賞賛に値しますっ。ですが、わたくしはそれで墜とされるほど、弱くはありませんわ! それに――》

 

 ビットが、動き出す。“セシリアが動くのと、同時に”。

 

《――ビットと同時に自分を動かすことが出来ないのは、マニュアル操作だからです。オートでは動きに精彩を欠きますが、あなたたちを攻撃するくらいは出来ます!》

 

 一夏が迫り、雪片を振るう。それが躱されれば、即座に彼方が射撃をする。

 セシリアのビットが一夏を狙えば彼方がそれを迎撃し、ライフルが彼方を狙えば一夏がセシリアへと肉薄する。

 

「これで、終わりだ!」

 

 一夏の光剣が振りかぶられ、最後の一撃を入れようとする。だが、それに対してブルーティアーズの腰部に展開される物があった。弾道ミサイルだ。

 

《お生憎様っ、ブルーティアーズは六機ありましてよ!》

 

 一夏の光剣よりも早く、ミサイルが射出される。ここでミサイルの直撃を受ければ、一夏はひとたまりもない。間違いなくシールドエネルギーをゼロにされる。ただし、“一夏が直撃を喰らえば”だ。

 

「いや、これで終わりだよ」

「え……」

 

 ミサイルの前に、彼方が踊り出た。直撃を受けた彼方のシールドエネルギーはゼロになる。だが、セシリアを食い破る牙は残っている。

 

「――っ!」

 

 爆煙を切り裂き、光剣がセシリアへと迫る。一夏とセシリアの視線が交わる。勝った、そう確信した瞬間だった。

 

 

 

 ブ――――

 

 

 

「は……?」

「え……?」

「はい……?」

 

 光剣がセシリアへと当たる直前、試合終了を告げるブザーが鳴り響いた。何事かと、彼方が急いで両機のステータスを確認する。

 

「白式のエネルギーが、ゼロになってる……?」

 

 彼方にとって、今後の相棒となる斑鳩を使用しての初戦闘は、なんとも呆気ない結末を迎えた。

 

 * * *

 

「さて……なぜ貴様らが負けたかわかるか」

 

 ピットに戻った二人を待っていたのは、呆れたような顔を浮かべた千冬だった。その後ろには箒と本音、そして真耶もいる。

 なぜ負けたのか。あれはほぼ間違いなく勝ったと思ったのだが。ふと思いついた可能性を、彼方は口に出した。

 

「もしかして……オルコットさんのビットの攻撃が、最後の最後に当たっていた、とかですか?」

「それもある」

 

 彼方の言葉に、千冬はそう答える。千冬の返答に、彼方は首を傾げる。千冬は、それも、と言った。ということは、ビットの攻撃以外にも別の要素があったということだ。いくつか可能性を考えてみるものの、それがなんなのかが分からない。

 

「一夏、何か覚えはある?」

「いや……、特になにも、だな。そもそもあの時は完全にオルコットを斬ることしか考えてなかったし」

 

 はて、と二人して疑問符を浮かべると、ため息を吐いた千冬が一夏に装備ウィンドウを開くように言う。

 

「ん? 装備を、って……」

 

 データリンクが続いている彼方にも、その情報が送られてくる。雪片二型。白式唯一である武装の真の姿、なのだが、その説明欄の部分に問題があった。

 

「ワンオフ・アビリティーっ!? そんな、ありえない」

 

 ワンオフ・アビリティー。二次移行(セカンド・シフト)を果たしたISが発現する、その機体固有の特殊能力のことを指す。しかし、全てのISがワンオフ・アビリティーを発現するわけではなく、さらに発現するか能力も発現するまでは不明であるため研究することも困難であるという、ある意味でISの一番の特殊性を表す性質だ。

 それを、白式が発現している。普通ではありえないことだ。

 

「でも、これになんの関係……が?」

 

 説明文を読んでいて、ふと目に留まる部分があった。

 

「零落白夜……、“エネルギーを消滅させる性質を持つ”? これって」

「ああ、そうだ。白式の零落白夜はエネルギー消滅をさせる性質を持つために、ISのシールドエネルギーを貫通し、絶対防御を発動させることが出来る。だが、それは同時に自らのエネルギーを削ることにも繋がる諸刃の剣だ」

「それはつまり……」

「自滅だ」

 

 さぁっと、一夏の顔から血の気が引いていった。油をさし忘れたブリキのおもちゃのような動きで彼方を見る。その動きのシュールさと、表情のあまりの悲愴さに思わず苦笑する。

 

「そ、その、ほんとすまん。彼方にあんなことさせておいて……」

「いや、オレが庇ってなかったら完全に詰んでたよ。あの時点だとオレの武器では完全に火力不足だったから、一夏が一撃入れるしかなかったし」

「まあ、どちらにせよ勝ちはなかっただろうがな」

 

 千冬の言葉に一夏と彼方が振り向く。

 

「どういうことだよ、千冬姉」

 

 興奮しているためか、一夏の口調が普段に戻っている。だがその場での言及はせず、千冬は説明を続けた。

 

「まず、零落白夜が発動していなければあの場での勝利はなかった。ただの斬撃では一撃でオルコットのエネルギーを削りきることは出来ず、反撃を受けて負けていた。だが、零落白夜が発動していたとしても、結果はあの通りだ。あの状態で勝つには、織斑が零落白夜の性質をよく理解した上でそれを使いこなしていなければ無理だっただろうな」

 

 そして、と千冬は彼方へと向き直る。

 

「尾上の作戦もだ。確かに、あの場において取れる選択肢は少なく、あの作戦も有効ではあった。しかしそれでも、荒い作戦だったと言わざるを得ない」

 

 ぐぅの音も出ない程の正論だ。そう彼方は思う。色々と制限のあった上での作戦だったが、もう少しいい作戦があったのではないかと考えながらの戦闘だった。

 

「精進しろ」

 

 そう言った千冬の顔には淡い笑顔が浮かんでいた。やはり、弟の晴れ舞台を見るのは姉として嬉しかったことなのだろうか。彼方はそう考えた。

 

「そして織斑、私のことは先生と呼べと何度も言っている」

 

 どういう原理か、ISのエネルギーシールドを貫通してダメージを与える出席簿での攻撃を一夏に食らわせて、その場を去っていった。

 二人がISから降りると、今まで乗っていた鉄塊は姿を変え白式はガントレットへ、斑鳩は鳥の紋様が刻まれたドッグタグへと姿を変えた。

 

「お、っと。これがISの待機状態で奴か」

「そうだね。これは……ドッグタグだな」

「俺のは、なんだ、ガントレットっていうのか?」

 

 待機状態になった愛機をしげしげと眺めていると、箒と本音の二人が近づいてきた。どうやら試合中もピットから様子を見ていたようだ。

 

「おがみんもおりむーもお疲れさま~」

「惜しかったな、二人共」

「でも、負けは負けだ」

「うん。惜しかったけど、でも勝てない勝負じゃなかった」

 

 一夏は苦々しげに、彼方は少し表情を翳らせて、

 

「悔しいなぁ……」

「……うん」

 

 拳を握り締める。例え相手が自分よりも遥かに格上だったとしても、それでも悔しいという感情が沸き上がってくる。決して、愛機に乗ったのが初めてだったから、などという言い訳はしたくなかった。

 

「次は、勝ちたいな」

「そうだな。……もっともっと、強くならねぇと」

 

 本気を出した、初めての試合。そして、初めての敗北。悔しさを糧に、二人は決意を新たにした。

 

 * * *

 

 布仏・本音は、IS学園生徒会長からの仕事を思い出していた。……こんな仕事を言い渡される程に“彼”は危険な人物なのだろうかと。

 尾上彼方を監視する。それこそが、本音へ告げられた仕事の内容だった。生徒会長は同時に、こうも言っていた。

 

『彼は、イレギュラー過ぎる。なぜこんなことになったのか、調べる必要があるわ。あなたは彼の動向を見張っていて。……ううん、一緒に過ごして彼の人柄を知ってほしい、というのが正しいかしら。うん、そうね。正しくは、“お願い”。彼と話して、彼の人柄を教えて欲しいの』

 

 その言葉の意味することが本音には理解出来なかったが、仕事はしなければならないし、それがなくても彼とは友達になってみたい。なにせ、世界で二人だけの男性IS操縦者の片割れだ。そうそう知り合える人ではない。

 

 一週間ほど彼と共に過ごしていたけれど、会長の言うような懸念材料は出てこない。むしろIS操縦者である、ということを除けば本当にただの男の子だ。本音は内心で首を傾げつつ、廊下を歩いていく。

 

 今は、クラス代表を決めるための模擬戦の後、放課後の時間だ。彼女が向かうのは、IS学園生徒会室。先ほどまで行われていた試合の内容を、お菓子を食べながら会長に話すためだ。

 

「それにしても……」

 

 本音はぽつりと独り言を漏らす。

 

「結構かっこよかったな~、おがみん。普段は普通の男の子なのに、ああいう場面だときりっとするんだねぇ~」

 

 彼の普段の印象は、その見た目や性格から地味に見える。比較対象が一夏なので、ある意味ではしょうがないが、それでも凡庸なそれだろう。けれど、試合をしているときの彼の印象は違っていた。

 

「目、きらきらしてたもんねぇ」

 

 いつもと、目の色が違っていた。例えるならば、本当に好きな物を目の前にした子供のような、そんな目。

 

「ISが好きなのかな? それとも、空を飛ぶこと?」

 

 う~ん、と人のいない廊下で本音は一人、唸り声を上げる。

 

「まあ、いっか~。これから仲良くなっていけば、そんなことも知っていけるだろうし~。……でも、資料室で凄い近くで顔を見た時は、驚いちゃったなぁ」

 

 本音はその時のことを思い出し、頬を染める。頬に差す朱が抜けないままに生徒会室へと入り、そのことを本音が会長に追求されるまで後数分足らずのことであった。

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