IS ~across the sky~   作:シャオレイ

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第八話 クラス対抗戦

 謎の女生徒が現れてから数分後。ようやく本音が起き、彼女が女生徒と知り合いであることが判明した。

 

「初めまして、かしら。私は更識楯無。このIS学園の生徒会長をしているわ。よろしくね、彼方くん」

「は、はい。よろしくお願いします。あの、なんでオレの名前を……?」

「あら、あなたは自分が有名人だっていう自覚がないのかしら? 世界で二人だけの男性IS操縦者さん? それに私は生徒会長だもの。有名どころは抑えてあるわ」

「そう、なんですか?」

「ええそうよ」

 

 楯無はにっこりと笑うと持っていた扇子を開く。そこには「会長」の二文字が書かれていた。彼方がその扇子はなんなのだろうと思っていると、本音が楯無に話しかける。

 

「お嬢様はどうしてここに~?」

「もう、あなたを探しに来たのよ。本音ちゃん」

「わたしを~?」

「見回りに行ってもらったら全然帰ってこないんだもの。虚ちゃんも心配してたわよ?」

「あう~、ごめんなさ~い」

 

 話し方や接し方から、二人は親しい関係なのだと推測することが出来る。だが、本音の楯無に対する呼び方に疑問を覚える。普通、先輩のことを「お嬢様」とは呼ばない。無論、それは生徒会長であってもだ。本音の付けたあだ名なのかとも思ったが、彼女の付けるあだ名は、「おがみん」であったり「おりむー」であったりと元の名前と近い物が付けられていた。

 

「……どうして布仏さんは会長のことを、お嬢様、なんて呼ぶの?」

「それはね~。わたしが楯無お嬢様の家に仕えてるからなんだよ~」

「仕える?」

「布仏家は、代々更識家に仕えてて~……。えっと、使用人みたいな感じかな~? あ、あと虚ちゃんっていうのは、わたしのお姉ちゃんなんだ~」

「使用人……」

 

 あまり縁のない言葉に、それがどういったことを意味するのかを少し考えてしまう。ふっと彼方の脳裏に過ぎったのは、メイド服姿の本音だった。いつものような柔らかな笑顔を浮かべているというのに、どこか蠱惑的な雰囲気を纏っている。

 

 ――っ! 何を考えてるんだオレはっ。

 

 急に現れた妙な妄想を即座に追い払う。しかし、その僅かな時間にそれを探知した人物がいた。

 

「ほほ~う」

「うわっ……」

 

 唐突に楯無が彼方へと近寄る。その距離は近く、顔の細部が見て取れるほどだった。楯無は彼方の後ろに回り込み、身体が密着するほど近づくと耳元へ唇を寄せ囁く。

 

「……本音ちゃんで何を考えたのかなぁ」

 

 囁かれた声とそっと肌を撫でる吐息に、体中にぞわりとした感覚が広がった。耳を抑えて飛び退くと、顔を真っ赤にして楯無を睨む。

 

「別に何も考えてなんていませんっ!」

「やぁん、怖い。冗談のつもりなのに~」

 

 そうは答えつつも、楯無の目には「私には全てお見通しよ」という考えが見て取れた。二人のやり取りに本音は首を傾げていたものの、どうやら彼方を困らせているらしいということだけは理解したのか、たしなめるように言う。

 

「も~、お嬢様。あんまりからかっちゃだめだよ~。おがみん、そういうのに耐性無さそうなんだから~」

「へぇ、いいことを聞いちゃった」

「全然よくありませんっ」

 

 妙な人に目を付けられた。彼方はそう思った。その妙な人である楯無は扇子で口元を隠しつつも、楽しげに笑っているのが分かる。

 

「それにしても……」

 

 くるりと本音に向き直ると、彼方に向けていたような笑みを浮かべた。まさか、と彼方が直感すると同時に楯無が口を開く。

 

「まさか本音ちゃんがお仕事をサボって男の子とイチャイチャしてるなんてねぇ?」

「ふぇっ……!?」

「そうだ! 虚ちゃんにも言って上げないと!」

「ま、待ってよお嬢様~!」

「あ、もしもし虚ちゃん? 実はね~……」

「わーっ、わーっ!」

 

 携帯電話を取り出して耳に当てる楯無と、それを必死で阻止しようとする本音。普段からは考えられないほどの取り乱しようだ。その様子を見て、逆に彼方は落ち着きを取り戻してきた。

 

「会長」

「なぁに? 彼方くん」

「あっ、おがみん助けて~!」

 

 こちらに助けを求める本音を楯無が楽しげに見ている。手に持った携帯電話を無視して、である。

 

「そろそろ止めてあげてください。それ、繋がってませんよね?」

「え……?」

「あらら、ばれちゃったか」

 

 舌をぺろりと出して携帯電話の画面を見せる。そこにはホーム画面が表示されているだけで、どこにも繋がってはいなかった。それを見た本音は珍しく怒ったような表情になると、両手で楯無を叩き出した。楯無も口では痛い痛いと言っているものの、本音のしているそれは全く痛そうには見えない。単に、筋力の問題だろう。

 

「ほら、本音ちゃん。生徒会室に戻りましょ? お菓子とお茶も用意してあるわよ~?」

「……ほんと~?」

「本当本当。だから行きましょうね~」

「は~い!」

 

 お菓子で釣ろうとする楯無もそうだが、それですぐに機嫌が良くなる本音も単純すぎではないだろうか。悪い人に騙されそうだと――現在進行形でいい様に誘導されている最中であるが――少し不安になった彼方に、楯無たちが話かける。

 

「彼方くんもどう? 来るなら歓迎するわよ」

「お菓子も美味しいよ~?」

「あ……。い、いえ、すいませんが遠慮しておきます。道具を片付けたりしなくちゃいけないので」

「あら、そう。残念だわ」

「う~ん。今度は一緒にお菓子食べられるといいね~」

 

 楯無が扇子を開く。そこには「残念」の二文字が書かれていた。先ほど出した扇子とは文字が違っていたが、これはどういう仕組みなのだろうかと彼方は内心頭を捻る。

 

「それじゃあ、またね。彼方くん」

「ばいば~い、おがみ~ん」

 

 手を振りながら去っていく本音と楯無に、彼方は彼女たちの姿が見えなくなるまで手を振り返していた。

 

 * * *

 

 二人が彼方の元から去り、生徒会室へと向かう途中。本音は楯無に疑問に思っていたことを質問した。

 

「ねぇお嬢様~」

「なぁに、本音ちゃん」

「なんであそこが分かったの~?」

「それはね、私が生徒会長だからよ」

「あう~、またそうやってはぐらかす~」

「ふふふ……」

 

 冗談めいた言葉ではあるが、実際に楯無の言葉に嘘はない。彼女が生徒会長であるからこその特権を駆使した結果だからだ。本来なら外部からの侵入を防止するための監視カメラなどを用いて、二人を見つけ出した。

 本音からの追求をのらりくらりと躱しながら、楯無は彼方の人柄を思い出す。楯無が本音に彼方の監視を頼んだように、彼方は一級の監視対象だ。それこそ、もう一人の男性IS操縦者である一夏よりも重要度は上である。

 

 ――普通の男の子、だったわね。

 

 楯無からして見ると、彼方はごく一般的な男子だった。反応を見る限り、それは演技には思えなかった。つまりはそれが素の状態であるということだ。

 

「それで、お嬢様~。おがみんはどうだった~?」

「そうねぇ……。とってもからかい甲斐のある可愛い後輩だったわ」

「も~、おがみんをいじめちゃダメだよお嬢様~」

 

 これは楯無の本心だ。もしも彼が普通の男子高校生なら可愛い後輩として純粋に、下心なくからかって遊んでいただろう。だがしかし、彼を取り巻く環境がそうはさせない。

 

「ああ、それと本音ちゃん」

「なに~?」

「この前頼んでた彼方くんの監視、もう止めちゃってもいいわ」

「は~い。でも、なんでそんな急に~?」

「もう必要なくなったからよ。そんなことよりほら。早く生徒会室に行かないとお菓子なくなっちゃうかもしれないわよ?」

「え~っ! 急がないと~!」

 

 走り出す本音を見ながら、楯無は携帯電話を取り出す。電話番号を打ち込み、そっと耳に当てる。相手は二コール目で応答した。

 

「更識楯無です。依頼の件で連絡を――」

 

 * * *

 

 釣り道具を十蔵に返した後、彼方は一夏を迎えに剣道場へと向かった。ISによる訓練が出来ない日には、一夏は箒に剣を鍛えてもらうか、セシリアに座学でISのことを教わっていた。セシリアのそれには彼方も参加していたが、箒の訓練は一夏だけが受けていた。なので一夏が箒と訓練をしている日は、彼方は機体をメンテナンスしているか釣りをしているか、それか一夏たちの試合を観戦している。

 今日は一夏の訓練をセシリアや鈴音も共に見ているという話を聞いていたため、剣道場には四人いる、はずだった。

 

「……」

 

 しかし、彼方が道場にたどり着いた時にいたのは一夏一人だった。その一夏も、道場の真ん中に座り込んでなぜか首を捻っている。

 

「……どうしたの一夏」

「おお、彼方か。いいところに来てくれたな。ちょっと相談したいことがあるんだ」

 

 この場にいたであろう三人が居らず、一夏だけがいるということに若干の嫌な予感がするものの、彼方は一夏の話を聞くことにした。

 

「実はさ、鈴を怒らせちまったんだ」

「凰さんを? 何をやったのさ」

「いや、それが……」

 

 一夏から一連の話を聞き出すと、どうやら一夏は鈴音との間に交わした約束の内容を間違って思い出したようだ。それも、かなりひどい間違い方を。

 

 ――料理の腕が上がったら、毎日酢豚を“おごってくれる”……なんて勘違い、普通は起こらないよ。

 

 彼方は思わず顔に手を当てた。一夏と鈴音の約束の内容が、推測出来てしまったからだ。妙なところで天然気味な一夏は、本当に意味が分かっていないようだった。話を聞く限りではその間違い方には箒とセシリアも怒り、落ち込む鈴音を慰めながら彼女を部屋まで送っていったようだ。

 

「……もしかして本当に分かってない?」

「彼方は分かったのか!?」

 

 驚いだような表情を見せる一夏に、逆に彼方が驚かされる。このままだと流石に鈴音が可愛そうだと考えた彼方は、どうにかしてあげたいと考えるのだった。

 

 * * *

 

 結局一夏の勘違いが正されないまま、クラス対抗戦の日になった。あの日以降、鈴音とは録に話も出来ていないらしい。一夏は鈴音との約束を勘違いし、その内容を思い出せないという負い目から。鈴音は意地を張ってしまい、その性格から素直になれずに。

 しかしその一方で、女性陣は仲良くなっていた。同じ苦労を分かち合うと意味合いもあったのだろう。いつの間にか仲良くなっていた鈴音たちに一夏は首を捻っていたが、彼方が女の子にしか理解出来ないこともあるんだよ、と言うとそういうものかと納得していた。

 

「それにしても……アリーナってこんなに人が入ったんだな」

 

 試合が始まる前、周りを見渡しながら一夏がそう言った。そしてそれは、隣に座っていた彼方も同様だった。

 彼方たちがアリーナに人が集まるのを見たのはセシリアとの試合の時だけであり、その時はクラスメイトとその他の生徒が少し混ざっていた程度でそれほど多くはいなかった。しかし今は、数多くある客席が全て埋まっている。アリーナでは一年生はクラス別に席が用意してあり、その他の学年は自由席だ。一年生全員は元より、その上で他学年生の半分以上が入れていることからその巨大さが伺える。

 さらに通路を購買部の職員が行き来し食べ物や飲み物を販売しており、テレビで見る野球中継のスタジアムのような様相を示していた。

 

「そうだね……。この中で戦うのは大変そうだ」

「人がいっぱいだもんね~」

「……ところで布仏さん」

「なぁに、おがみん?」

「その両手に抱えたお菓子は一体なに?」

「さっき買ったんだ~。みんなも食べていいよ~」

「……うん、後でもらうよ」

 

 彼方の隣に座りニコニコと笑いながらそう答える本音は、両手一杯にお菓子の袋を抱えていた。既に一組の間でそのお菓子が回されており、観戦ムードが広がっている。

 席の並びは一夏の隣に箒、彼方の隣に本音が座っていた。

 

「しかし、オルコットはどう戦うつもりだろうか」

 

 箒がそう話を切り出す。彼女自身、セシリアや鈴音とは訓練時に何度か相手をしているが、鈴音の手の内が全て明かされているわけではないために戦闘の想像がつかなかった。

 

「まあ、見た目的にも鈴は近距離戦っぽいしな。距離を取って戦うのがベストじゃないか?」

「でも、そう簡単にはいかないと思う。凰さんだって代表候補生だ。奥の手の一つや二つあってもおかしくはない」

「りんりんのISは情報が全然ないもんね~」

 

 そうこうしてセシリア対鈴音の勝負を想定していると、にわかに会場が騒がしくなった。

 

「……そろそろ始まるみたいだ」

 

 アリーナの大型モニターにセシリアと鈴音の写真が映り、双方のゲートが開いた。蒼と朱の機体がアリーナへと躍り出る。場内に歓声が響き渡る。すっと定位置に止まると、モニターにカウントダウンの数字が表示された。

 

「あの二人、何か話してるみたいだよ~?」

「え、本当に?」

「うん、だって口元が動いてるし~」

 

 本音はそう言うが、彼方にはそれが見えない。ISを装備しハイパーセンサーが作動している状態ならまだしも、眼鏡をかけているとはいえ視力の低い彼方ではそれを判別することは出来ない。

 

「何話してるんだろうな」

「そうだな。あの二人の性格だ、兆発のような軽口でも叩きあっているのだろう。……始まるぞ」

 

 箒の言葉が合図のように、試合開始のブザーが鳴り響く。

 先手を取ったのは鈴音だった。青龍刀を両手に、セシリアへと迫る。セシリアはそれに対し、後退しつつビットを放つことで対応する。だが、

 

「――ビットが壊れたっ?」

 

 放たれたビットが突如空中で爆発を起こす。観客も何が起こったのか理解出来ていないようで、疑問を浮かべるような声が辺りから聞こえてきた。

 

「お、おい。あれは何が起こったんだ?」

 

 一夏のような反応が周囲にある中、本音だけがその問に答えた。

 

「え~っとねぇ。多分、あれは衝撃砲っていうのだと思うよ~」

「衝撃砲?」

「せっしーのブルーティアーズと同じ第三世代兵器なんだけど、あれは空間に圧力をかけて砲身を作って、その余剰で発生する衝撃を砲弾にして打ち出す武器……って聞いたことがある~」

「そんな武器があるの?」

「うん~。それで一番の特徴が、砲身も砲弾も見えないからどこに向けて飛ぶのかとかどうやって飛んでくるのかとかが分からないんだ~。だから、ISの警告か自分の勘を頼りに避けるしかないんだって~」

 

 フィールドでは見えない砲弾に苦戦するセシリアの姿が見える。しかし、それは鈴も同じだった。セシリアの飛ばすビットの全方位攻撃に、対応するために攻撃の手を緩めざるを得ない。

 

「……すげぇな。俺だったら零落白夜で一発逆転を狙うくらいしか対策が思いつかないぞ」

「流石は代表候補生だね。ここまでレベルの高い試合になるなんて」

 

 決定打にはかけるが、双方が共に少しずつシールドエネルギーを減らしていく。痺れを切らした鈴音が勝負をしかけるか、このまま耐久戦を続けてじりじりと削り倒すようにセシリアが持たせられるか。試合の行方はその双方であると誰もがそう思っていた。

 

 ――誰もが、この試合の行く末を、そう考えていた。

 

 

 

 

  《Warning!》

 

 敵性存在を感知

 会敵まで00:04

 回避は不能と判断

 装備を展開してください

 

 




2018/04/02 改稿
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