四葉といっしょ   作:筑前うぉっしゅべあー

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2話

 夏休みが終わり9月に入ったとはいえ、昼過ぎの日差しはまだ強い。じりじりと照り付けるような暑さにシャツの下が汗ばむ。

 

 授業を終え放課後となり、四葉と連れだって彼女の家へと歩く。顔合わせとはいえ、まずは学力を把握するために小テストでもしてみるかと思うが、0点のテストを見る限りあまり期待はできないだろう。

 

 考えながら歩いている俺に対し、あっちへふらふら、こっちへふらふらと落ち着きのない彼女である。ちょこまかと頭のウサギ様リボンを振り回しながら動く様を見ていると小動物のようで思わず口元に笑みが浮かぶ。和む。

 

「上杉さーん。こっちですよー!」

 この日差しの中、肩にかけたエナメルのスポーツバッグの重さを感じさせない動きは、体力が決してあると言えない自分からすれば感嘆の思いである。見ているだけで暑い。

 

 人間関係なんて赤の他人の顔色を窺う面倒なものだと思っていたが、短い間ながらも四葉といるとそれを感じさせない。自分で言うのも何であるが、取っつきにくいであろう俺に気にせず接することのできる無邪気さを感じさせる明るさと人徳の賜物なのだろう。

 

 

「上杉さん。ここです!」

 

 そう、案内された四葉の家は予想していたよりも高いマンションであった。

 内心、ガチのお嬢様であったことにびくつく。四葉がカードキーを操作している間にフロントを見回すが、一般の住居には見えない奢侈さである。水瓶が置いてあるとは。

 

 ロックを解除した四葉の後ろに続いて、知識としては知っていたオートロックを初体験する。段々緊張が高まっている一方で、ちゃんと知識としては知っていたが、四葉がいないときにどうやって開けてもらえればいいか聞いておいた方がいいだろうなどとがとりとめもなく頭をよぎる。

 

 乗り込んだ30階までの高階層行エレベーターは普段のエレベーターよりも内臓に感じる加速感が大きい。速度が速いのか、心臓の鼓動が急なのか。あれだけ天真爛漫に自由に振る舞っていた四葉が急に静かになり、密室に2人きりなことを意識すると、どことなく居心地の悪さを感じる。隣に立つ四葉をチラッと見るが、頬が赤くなり、こころなしかリボンがしな垂れているように見える。

 

 何を言うか決めぬまま、口を開いては出かけた言葉を飲み込む。こんなにも自分の踏ん切りが悪いとは思いもしなかったのだ。

 少しの逡巡の後、意を決して話しかけようとするが、エレベーターの到着を告げる気の抜けるような軽やかな到着音に勢いを削がれる。

 

 エレベーターから降り、四葉と相対する。

 顔が上がり、まだ頬が赤い四葉と目が合う。やけに自分の唾を飲み込む音が大きく聞こえる。口の中の水分は急激になくなっていき、渇く。喉彦はひりつき、張り付いてるようでなんら意味をなさない。

 

 目に映るのは、胸元に手を当て、伏し目となった彼女。胸騒ぎがし、この形容しがたい感情が伝わっては大変だと、なぜか胸に焼け残る。彼女、四葉と会ってから、心を乱されすぎではなかろうか。

 

「あのー。すみません。何をしているんですか?」

 

 ふと我に返り、振り返ると、そこにはいくらかやる瀬ない風情で四葉と同じ顔をした女子生徒がたたずんでいた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 彼女は四葉の妹で五月というらしい。

 五月を見たときあまりの顔のそっくりさから姉妹とは思ったが、まさか五つ子であるとは思いもしなかった。部屋の前で話してるうちに、他の姉妹達も帰ってきたので紹介してもらう。

 

 さっきから面倒くさい絡み方をしているショートカットが長女の一花。

 何が気に入らないか睨んでくる蝶の髪飾りが次女の二乃。

 ヘッドホンを首にかけた表情があまり変わらないのが三女の三玖。

 アホ毛と星型のヘアピンをつけた敬語を使っているのが五女の五月。らしい。

 

 アクセサリーや髪形の特徴がないと誰が誰か分からないだろう。4人は黒薔薇女子の制服を着ており、大まかにだが事情を察する。四葉だけが落第し、転校してきたのだろう。彼女たちの父親にも電話越しではあるが、念を押されて頼まれた。それにしても,あの親父はどのように俺を家庭教師に押し込んだのだろうか。

 

 四葉の部屋で彼女と向かい合い座る。彼女の部屋はところせましと観葉植物が飾られた、なんとも個性的な部屋であった。

 

 前の高校での授業がどこまで進んでいるか進捗を聞き、とりあえず基本的な問題で作った小テストを渡し、解いてもらうこととする。後ろで解答するのを監視するが、名前を書いてから一向に進まないペンに業を煮やし、思わず四葉の頭のリボンを鷲掴みにしてしまう。

 

 ビクッと身じろぎした四葉へ、すまんと謝りながら崩れたリボンを整える。彼女は気にしないかのように皺を伸ばす動きに合わせて、リボンに血と神経が通っているかのように揺れ、こそばゆいかのように小さく笑っている。後ろからであると、首筋と華奢な肩が眩しく目に映って毒である。

 

「そんなに何が楽しいんだ?」

 

 はにかむ四葉へ尋ねる。

 

「怖い先生が来るかと思って嫌だったんですが、上杉さんとなら。これからのことを考えると楽しそうです!」

 

 満面の笑みで返されると何も言えなかった。

 

 四葉の解答に容赦なくバツ印を付けていき、復習しておくようにと言いつける。帰る支度をするが、姉妹たちはそれぞれの部屋にこもっていたようで玄関を出るまで会うことはなかった。

 

 マンションを出ると、生暖かい風が吹く。見上げると、すでに夕焼け空の鮮やかな茜色は西の空に少しばかり残るばかりで、夜がくる直前を感じさせる色合いの空であった。

 

 

 帰り道に空を見上げてふと思い返す。

 四葉の机の上に伏せられた写真立てが、明るい雰囲気の部屋の中で異質で訝しく、どこか印象に残った。

 

  

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