隣人は学園の人気者だったようです   作:☆さくらもち♪

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オリジナル小説となります。
不定期更新ながらも、投稿していく感じですので見ていただけると幸いです。


新春始まるは雨の色

新春の季節は新たな門出の一つ。

社会人としての新生活。

新入生としての入学式。

様々なイベントがあるも、それは人間全てには当てはまらない。

 

「……ねむい」

 

ベッドの中で眠り続けるのは、本来であれば新入生として高校に行くはずの少年。

一目見れば美少女と勘違いされる事間違いなしの見た目の持ち主である釘宮(くぎみや)悠紀(ゆき)は、世間で言う引きこもりに当たる人物だ。

誰かと会話する際に何を喋ればいいのか、その内容と早く話さなければという焦りで会話をするのが苦手になってしまっていた。

また悠紀自身が自分以外に興味を持たない事が周りとの関わりを絶っていた。

親しい友人はおらず、家族は仕事の都合により離れて暮らしている。

恋人など周りに興味を持たなかった悠紀に居るはずもない。

 

「ん……お腹空いた」

 

人生に飽きたような生活を送っているが、好きなことは勿論あった。

 

「冷蔵庫……なにがあるかな」

 

台所にある冷蔵庫を開けて中を見ると充分と言える材料が入っていた。

それらで何を作るか考え決めると早速行動に移る。

 

「〜♪」

 

鼻歌を歌いながら手際よく動かされる手は料理慣れしていることが分かった。

悠紀の趣味の1つ。

それが料理。

スープとサラダとフレンチトーストがあっという間に出来上がると、それを食べながらスマホを弄る。

 

「あ、今日入学式……」

 

朝ご飯を食べている途中に気づいてしまうも、気がついた時には10時を過ぎていた。

 

「……いいや」

 

諦めてご飯をすぐに食べ終えると、食器を洗って自室に戻る。

悠紀の部屋には3枚あるモニターとパソコン。

そしてゲーミングチェアといった、快適空間があった。

パソコンの電源をつけると、ヘッドホンを装着する。

 

「……よし」

 

深呼吸をし、力を抜くとマウスの左クリックがカチッと鳴った。

 

「あーあー……テステス」

 

悠紀の目の前に置かれたマイクのテストをしながら、モニターに流れるのは大量のコメント。

 

「おはようございます!今日も配信始めていきますよー!」

 

引きこもりになった代わりに悠紀が始めたのは配信。

それも数年ほどで名を上げた超有名配信者としての仕事が悠紀の本業。

 

「今日入学式だっけ?いやー新春はいいですよね」

 

数年も配信者として活動していればやがては慣れてくるもの。

送られてくるコメントの相槌をうちながらも、両手はずっと動いていた。

 

「お!『クルミ』さん1万スパチャ、ありがとうございます!」

 

悠紀が配信しているサイトは『mooTube』。

世界的動画サイトでありながらも、生放送も行えるサイトで、悠紀はその配信者。

登録者が一定以上いれば《スーパーチャット》という視聴者から有料チャットが行えて、その収入で生活をしていた。

登録者も100万人を超えており、超有名配信者として様々なサイトに取り上げられている。

 

「そうですね、今日はゲームしながら雑談していこうかなと。今回参加は出来ないんですよー、次の配信では参加企画にしたいと思います!」

 

有名FPSゲームの配信をしながら雑談をしていると、突如としてメールが届いた。

それに気づいてはいたが、対戦中だったので対戦が終わってから届いたメールを確認する。

 

「えっとー……?」

 

悠紀に届いたのはチェスゲーム。

どっかの最強ゲーマー兄妹みたいな感じだなと思いながらも、その相手を見た。

 

「『ココア』さん……ですかね?とりあえず対戦は受けますが……」

 

一旦FPSゲームを終えて、チェスに集中する。

最初こそ雑談出来ていた悠紀だったが、途中から口数が減っていった。

 

「ここは……いや違う……」

 

悠紀の頭の中で次の一手を探す。

チェスとは『二人零和有限確定完全情報ゲーム』という分類のゲーム。

常に勝利への最善手を打ち続けると先攻が勝てるゲーム。

しかしそれはチェスの盤面である10の120乗という膨大な盤面を完全に記憶していれば。

 

そう、していていれば。

勝てるのだ。

 

チェスは圧倒的な先手有利のゲーム。

後手は引き分けに持っていければ上々と言われる事が多い。

 

「……ひっかけ」

 

そして悠紀は1つの賭けに出る。

完全な悪手でも、善手でもない。

中途半端な()()として処理されるぐらいの一手を打った。

その結果によって負けたとしてもカバーしきれるぐらい。

しかし勝てれば必勝出来るだろうと踏んだ。

 

(どう来るかな)

 

お互いの持ち時間は一手30秒。

そのギリギリで対戦相手であるココアが、置いた。

悠紀の想定した未来であり、完全なる必勝の手。

 

「ふふ……」

 

そして悠紀が進めた駒によって、勝敗が決まった。

 

「チェックメイトです。ココアさん」

 

《You Winner》と表示されたモニター。

悠紀が気がつくとチェスにかけていたのは3時間ほど。

 

「えーっと……『対戦ありがとうごさいました!急なメールでしたが、対戦出来てありがたかったです!』、はい!こちらもかなり緊張しましたが、楽しかったです!対戦ありがとうございましたー!」

 

送られてくるコメントには、絶賛の嵐。

チェスを知らない視聴者ですら、対戦画面を魅入ったほどのプレイだった。

大量のスパチャとコメントで溢れる。

 

「いやー……結構いきなりでしたけど良い経験にはなりましたね。身内以外とチェスを差したこと無かったんで」

「では今日の配信はここまでにさせていただきたいと思います!皆さん、お疲れ様でしたぁー!」

 

配信を終えてもなお流れ続けるコメントはやはり有名配信者だからだろう。

スパチャも流れていたが、配信が止まったのでお礼も言えなかったがこれはいつもの事だった。

 

「チェス……か」

 

どっと疲れた悠紀だったが、飲み物が切れていた事に気がつくと着替えて買いに行くことにした。

しっかりと鍵をかけて外に出ると雨が降っていた。

 

「結構降りそうだなー……」

 

傘をさして外を歩いているとチラホラと制服を着た学生が帰り始めていた。

その制服は悠紀も持っている高校の制服。

すぐに帰りたくなった悠紀は早歩きでスーパーに着くと飲み物を適当にカゴに入れる。

 

「これ……お願い、します」

 

少し喉が詰まる感覚になりながら、レジをして買い終えると家路を急いだ。

悠紀の家はマンションで、セキリュティ対策のオートロック有り。

なので不審者などはそんなに入らなかったりするのだが。

 

「……?」

 

悠紀の家の隣の玄関前で座り込む女の子の姿が写った。

制服も先程見ていたものなのですぐにどこ高校なのかも分かったが。

 

「……えっと、何かあった、んですか」

 

隣人ならば話を聞くぐらいなら良いだろうと、声をかけた。

 

「いえ、何も」

 

しかし返ってきたのは冷淡な言葉。

拒絶しているのがはっきりと理解出来た。

 

「はあ……」

 

生きている上で1人になりたいのだろうと、すぐに思考から消え去る。

女の子の前を通り過ぎて自分の家の鍵を開ける。

 

「……風邪、引きますよ」

 

「知ってます」

 

「……家、入らない、んですか」

 

何となく、女の子が玄関前にいる理由が分かったような感じがあった。

このマンションはその号室にあった家の鍵がなければ電気やガス、水道が使えない。

鍵と共に渡されるカードキーがその役割を果たしているため、カードキーがなければ家の電気もガスも水道も、何もかも使えない。

 

「……お風呂、ぐらいなら、貸しますけど」

 

お風呂という単語に女の子の身体が少し反応した。

よく見ればびしょ濡れで、近くに傘も見当たらない。

学校から家まで濡れて帰ったのだろう。

 

「……あ、あの」

 

「はい?」

 

「お風呂……貸していただけますか」

 

「どうぞ」

 

かなり憂鬱そうな表情をしていたが、彼女が家に入るならば最優先である程度の水分を拭き取ってもらわなければ家の中が濡れる。

玄関に入ってもらうと、悠紀は急いでタオルを何枚か持ってくる。

 

「濡れてる状態で、中を歩かれる、のは困るので」

 

「あ……すみません。ありがとうございます」

 

粗方乾いたようで、彼女をお風呂場に案内する。

 

「あ、服あります、か?」

 

「……ない、です」

 

ここまできて重大なる事に気がつく2人。

悠紀は見た目美少女だが、実際は男の子。

持っている普段着などは貸せても下着までは貸せなかった。

 

「……下着、どうしよう……」

 

今のご時世ならコンビニに女性物の下着は売っている。

しかしそれを悠紀が買いに行くにはあまりにも羞恥が勝ってしまう。

かといってタオルで拭いたとはいえ服は雨水を吸いきっている為買いに行かせるのはなかった。

 

「あの……」

 

「は、はい……?」

 

「下着……男性物でも、いいですか?」

 

「……へ?」

 

彼女が素っ頓狂な声を上げた辺で悠紀が察する。

もしかして自分は女の子に見られているのではないか、と。

 

「あの……自分、男なんです、けど」

 

「なっ……あ、わわ……」

 

念の為に服を脱ぎ出した辺りから彼女の身体を見ないようにしていたが、それでも慌てるようで。

そもそも、見た目が女の子なのに男の子だと告げられた時の相手の反応としては何も間違っていない。

 

「と、とりあえず……下着、どうしますか」

 

「え、ええっと……」

 

男物の下着が駄目なら頑張って買いに行こうと、悠紀は考えていた。

 

「お、お貸し、願えますか……?」

 

だが、その心配はなかったらしい。

ホッと一息ついた悠紀は、すぐに頷くとその場を出る。

 

「……真っ白」

 

目を外していたとはいえ、見えてしまう部分はあったわけで。

 

「……綺麗、だった」

 

少し身体が暑いと実感しながら、彼女に渡す服を探し始めた。

 

 

 

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