隣人は学園の人気者だったようです   作:☆さくらもち♪

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人の温もり

窓から差し込む日光によって意識が浮上してきた悠紀。

昨日配信を終えた後、様子見で寝室のベッドを見ると安心そうに寝ていた雪白の姿を見た後にゲーミングチェアで悠紀は寝ていた。

起動しっぱなしだったパソコンの時計を見れば午前の5時。

物音が一切していないことから彼女はまだベッドの住人になっているのだろうと察する。

 

「朝ご飯、作らなきゃ……」

 

まだ眠気が残っており、もう一度寝たい気持ちがあったものの、雪白に朝ご飯を作ってあげなければならないだろうと気づく。

 

「何作ろうかな」

 

台所の冷蔵庫に辿り着き、中身を物色しながら朝ご飯を考えていた。

基本的に和洋中なんでもござれの如く、作れない料理が少ない。

料理の為に調理器具も性能の良いものを買っているだけあって、気持ちだけはプロ精神だった。

 

「ふぁぁ……」

 

朝ご飯を考えている途中、寝室から欠伸をしながら出てくる少女がいた。

彼女こそ、元々お風呂を貸すつもりがご飯まで振る舞い、寝床まで貸していた相手。

天城雪白という、美少女だった。

 

「ん……天城さん、おはよう」

 

「ふぁい……おひゃようございます……」

 

「洗面所は、お風呂場の隣だから。洗っておいで」

 

「ふぁ〜い……」

 

自然と悠紀と会話する彼女の姿を見ていて少し危機感がないな、と思いながらも寝起きの姿が可愛く見えていた。

朝が弱いのか、単純に寝惚けているのか。

 

「可愛い」

 

クスッと笑いながら、朝ご飯を決めると早速作業に入る。

玉ねぎを切って、1番大きい輪っかをくり抜くと、それをフライパンに入れて中に卵を割って入れた。

綺麗な形に目玉焼きが作れる方法で、目玉焼き用の道具無しでもお手軽なこれは悠紀がよく使う手法だ。

空いたスペースにソーセージとベーコンも焼きながら、食パンの準備も同時に行っていた。

 

「いい匂い……」

 

「ん、おはよう」

 

「おはようございます、釘宮くん」

 

「もうすぐ出来るから、待っててね」

 

「はい!」

 

誰でも出来る簡単なものなのに、嬉しそうな声でご飯を待つ雪白の姿。

本当に餌付けしてる感じだな、と思いながら出来上がった朝ご飯を皿に盛り付けてテーブルに運んだ。

 

「じゃ、いただきます」

 

「はい、いただきます」

 

パクッと口に運ばれた途端、至福そうな表情で料理を味わっていた。

味付けは至ってシンプルな塩と胡椒だけなのにも関わらず、ここまで美味しそうに食べてもらえるのであらば料理人としてはこれ以上とないだろう。

 

「こんなの、誰でも出来るのに」

 

「釘宮くんが作ってくれたからです。それだけでも私にとってはすごく美味しいですから」

 

「そっか。良かった」

 

「そういえば……私これから学校に行きますが、釘宮くんは学校あるんですか?」

 

「学校……か」

 

悠紀の活動しているもので充分食べていけてしまう為に気にしていなかったが、一応悠紀は高校に入学は出来ていた。

模試の順位なども出されたらしいが、興味がなかった悠紀は合格していたのを確認して手続きするとすぐに帰ってしまっていた。

 

「……僕、不登校だから」

 

「そうなんですか……」

 

しょんぼりとした雪白だったが、それもすぐに消えた。

名案を思いついたようで、少し怯えながらも提案を告げた。

 

「な、なら。少しずつ学校に慣れるのはどうでしょうか……?」

 

「ん……そもそも学校一緒だったかな」

 

「はい。入学試験の順位は一応上位者なら記憶していましたから。釘宮くんは1位でしたよ」

 

よく記憶していたな、と感心しながらも学校の不登校は陥ると中々行きづらさがあった。

それと同時に悠紀自身の人との絶望的な交流力も合わさって中々行こうと思えなくなっていた。

 

「……人に会うのは、好きじゃない」

 

「でもこうして私と話せていますよ」

 

「それは、待ってくれる。会話しやすいから」

 

焦ってしまわなければ人と問題なく会話は出来た。

相手によっては急かしてくる事もあり、焦ってしまって上手く会話が出来なくなるだけ。

雪白はしっかりと聞きと喋りを使い分けているために悠紀としても会話がしやすかった。

 

「……保健室登校とかなら、まだ行ける……かも」

 

「そうですね……最初は私の下校の時、迎えに来てくれませんか?」

 

「それは……良いけど。どうして?」

 

「釘宮くんの復学の為ですよ?とりあえず私と一緒なら会話もなんとか出来ると思いますから」

 

「ん……分かった。連絡くれたら、迎え行くよ」

 

「じゃあ、連絡先交換しておきましょうか」

 

お互いの連絡先を交換すると、雪白が少し嬉しそうな顔をしていた。

小声で『釘宮くんのだ……やった』と呟いていたが、悠紀は聞き取っていなかったようだ。

悠紀としてはゲーム関係を除けばプライベートとしての初めての連絡先だった。

 

「下校出来そうな感じになったら連絡入れますね」

 

「ん……分かった」

 

「あっ……釘宮くんが無理だったら全然来なくて構いませんので……。その時は連絡してくれれば大丈夫です」

 

悠紀の不登校を治そうと手伝ってくれる雪白だが、結局は悠紀に託していた。

元々本人が治すしかないため、雪白はその支援に過ぎない。

嫌がっている様子がなくても、実際にはと考えて無理して来なくていいように言っている辺り、雪白の優しさが出ていた。

 

「行く、から。ちゃんと連絡入れてね」

 

「はい!」

 

「……時間大丈夫?」

 

そして気がついていなかったが、いつの間にやら7時を過ぎており、ちゃんと登校している雪白に教えると本人も気づいていなかったようで、慌ただしく学校の準備を始めた。

 

「釘宮くん、制服ってどこにありますか?」

 

「あ、乾かし終わってるから、持ってくる」

 

悠紀が部屋に置いていた服を雪白を渡すと、雪白が驚いていた。

雨に打たれて濡れていた制服は綺麗に乾燥しており、しかもアイロンまでかけられていたからだ。

 

「釘宮くん……ありがとうございます!」

 

「んーん……いいよ、別に」

 

すぐさま制服に着替えた雪白の姿は綺麗で、制服もしっかり似合っていた。

悠紀達が入学した高校は女子生徒の制服が可愛いと評判で、制服も少し種類があったりと中々に手が込んでいた。

雪白の制服も可愛く組み合わされており、本人を引き立たせる素材になっていた。

 

「可愛いね」

 

「ふぇ!?そ、そうですか?」

 

「うん。可愛い」

 

「あ〜……う〜……ありがとうございます。と、とりあえず学校行ってきますね!」

 

「うん。行ってらっしゃい、天城さん」

 

「はい、行ってきます、釘宮くん」

 

ガチャりと開かれた玄関から雪白が出てゆくと、悠紀の家は物静かに変化していた。

 

「……この家、こんな静かだった」

 

一人で暮らすのは慣れていたつもりだったが、天城雪白という少女の存在は悠紀にとってかなり大きなものになっていた。

たった1日だけでこれほど絆されると思っていなかったのだ。

 

「寂しい、な」

 

初めて、悠紀が零した静寂。

先程行ったばかりの彼女が早く帰ってこないかな、と思いながら。

 

「……配信しよう」

 

一生帰ってこなくなるわけじゃない。

そう理解していた悠紀は、気持ちを切り替えてパソコンの前に座った。

 

 

 


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