配信を終えてお風呂も済ませてソファーに座ってくつろぐ姿が一人。
お風呂から上がった悠紀は長い黒髪の扱いにも慣れて、しっかりと水分を拭き取るとドライヤーで乾かしていた。
見た目は美少女だが、髪を切ってすれば女顔の可愛い男の子としても見える容姿。
表情を出さないように努めれば人形にも見られたことすらあった程には容姿が整っていると自覚していた。
それ故に自覚し始めてからは手入れはしっかりとしており、女性が羨むだろう髪質やもちもちの肌を手に入れても怠らずにしていた。
「ん……?」
服を着ようと立ち上がろうとする際に、悠紀のスマホに通知が入った。
相手は『天城雪白』と表示されており、『お迎えお願い出来ますか?』と送られていた。
「了解……っと」
返事を返すと、適当に服を選んで着替えると家の鍵をして外に出かけた。
高校への通学路にはもう学生が歩いていた。
「……一人で過ごせる気がしない」
例え高校に行けるとなったとしても一人で過ごすのは厳しそうだと判断していた。
もし、雪白が一緒ならどうなるのだろうと考えながら。
通学路を歩いているといつの間にやら高校に着いていた。
「ん……どこだろ」
雪白の姿を探すも、校門前には見当たらない。
意を決して校門をくぐると、校内を散策する。
高校の構造は完全に頭に入ってるため、そのうち見つかるだろうと踏んでいた。
「一応、連絡しとこう」
今どこにいるか、と送るとすぐに既読がつき、返信が送られてくる。
『校舎の裏です』
「校舎裏……告白場所にはうってつけだけど……」
想いの丈を伝えるにはかなり立地のいい場所でもあったが、同時に出入りの手段が少ない。
左側は物で塞がっているため通行不可。
右側だけからのみ行ける校舎裏は告白場所だけでなく、男女の行為もするのにも都合がいい場所でもあった。
裏側近くになってから足音を立てないように歩くと、男の声だろうか。
かなりの声で喋っているのが分かった。
「俺、本当に好きなんだ!付き合ってくれ!」
「好きな人が居ますので……」
「その人よりも好きになってもらえるように頑張るから!お願い!」
やんわりと断られてるのにも関わらず、めげずに縋り付く様は悠紀には滑稽に見えた。
自分本位で相手のことを考えられない時点で付き合ったとしても長続きしないだろうな、と思いながら。
「……雪白。迎え、来たよ」
「ごめんなさい、来てもらって」
「んーん、いいよ」
名前で呼んでしまったが、この場を脱するならばその方が都合がいいと考えての事だった。
雪白もそれに気づいているだろうが、気にすることなく受け入れていた。
「なんだお前!」
「君こそ。誰」
「天城さん、こんな奴が彼氏なの!?俺の方が良いって!」
男子生徒の台詞を聞いてから、雪白の何かが我慢出来なくなったのだろうか。
纏っていた雰囲気が変わっていた。
「こんな奴、と貴方に言うほどよく知っているのですか?よく知りもしないのに悪く言うのは貴方の価値を下げますが。考えもせずに言葉にするのは頭の悪い方ですね」
雪白の言葉に何も言い返せなかったのか、言い淀んでいると、ターゲットを悠紀に移した。
そして拳を構えながら真っ直ぐと悠紀目掛けて走る。
いきなりの行動に雪白は対応出来ずに、『悠紀くん』と口を動かしていた。
「……つまんないね」
失望したように。
なんの抑揚もない声で呟く。
向かってくる拳を受け流すと、その拳の腕を掴んで足を払うとその勢いで地面に投げた。
「愚直すぎて、なんの面白みもない。もうちょっと、考えたら」
「いってぇ……」
「無理やり付き合ったところで、どうせ長続きしないよ。アクセサリーみたいに、女の子を扱うのはゴミクズだよ」
雪白に帰ろうと、告げると頷かれた。
帰る途中、雪白が心配そうに悠紀の様子を伺っているのを感じていた悠紀は雪白の手の小指だけ、自分のと絡めた。
「名前呼び、ごめん」
「へっ?良いですよ。助けてくれましたから」
「ん……そか」
「これからも、名前呼びで構いませんよ。その代わり私も悠紀くんって呼びます」
「うん」
通学路を歩きながら、途中ご飯の材料を買わないといけないことに気がついた悠紀は、雪白にスーパーに寄ると伝えた。
大丈夫だと頷かれ、スーパーへの道に切り替える。
「ごめんなさい」
「……何が?」
「本当は私が自分で断らないとダメでした」
雪白が謝罪しているのは先程の告白現場の事だろう、と察した。
本来であれば悠紀が手を出さなくとも、付き合えませんと告げるだけで終わったことだった。
「あんなにしつこいと思いませんでした。きっちりと断るべきでしたね」
「……断るつもりなら、そうしたのが、いいよ」
「悠紀くんも、そうだったんですか?」
「……女の子は、苦手」
小学校の自分はもっと明るかったな、と思い出していた。
容姿はその時から良かったからか、女子からの告白が絶えなかった。
告白ラッシュが始まると同時に悠紀の持ち物が消えたりしてから、人と関わるのを苦手としていった。
学校に行かずに家に引きこもるようになったのは、そういう要因もあったのかもしれない。
思い返すように喋っていると、雪白の表情があまりよろしくなかった。
何か失言したのだろうかと、先程自分の言葉を思い出す。
「……雪白は別」
悠紀にとっては家族以外での異性に始めて興味を抱いた。
話してみれば、悠紀の言葉をしっかりと聞き取ってくれて、雪白も意識しているのか急ぐように喋りはしなかった。
そんな雪白を苦手になる原因もなく、どちらかといえば好印象だろう。
「ありがとうございます……悠紀くん」
優しく柔らかい笑顔でお礼を言われた悠紀は、少し照れるように頷いた。
「可愛いなぁ……」
もしこれが恋というものであるのならば。
幸せで暖かい感情だろうと、思いながら。
それを、表情に出さずに心の内に秘めた。