こんな少女もいたのでしょう。   作:≒=≠

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第3話

郷愁というのは唐突に訪れるものだ。

 

あの頃の熱量は錯覚でもなんでもなく、ただ純粋なエネルギー、自分の人生の中でも1、2を争うぐらいには、輝かしく燃えた青春の1ぺージには違いない。

 

そう。奪われることには慣れていた。現実生活で一番大事なはずのものを、私たちはいつも奪い合っていた。

文字通りに身を引き裂く痛みとともに、自分自身が世界から失われるときの感覚を、なんどもなんども、幾度となく擬似体験し続けたあの夏の日は、私の中で燦然と輝いている。

 

その日々すら、例えるなら自分が知らぬところで勝手に進んだセーブデータとでもいうのだろうか、誰かの日常の余波を受けて、自分の手の届かないところへと消え去ってしまった。

 

 

だから私は、あのとき掲げたナイフを、どこかにおろすことなく今に至る。

 

あれから何年たっただろう。

あのとき高校生だった私は、もう大学生になった。モラトリアム期とはいえ、高校の頃とは違って、色々と社会に馴染んですでに何年目かだ。

 

ふと、奈子が語っていた言葉を思い出す。

「こんなフレーズがあってね。人が人生の中で殺人を行えるのはただ一度だけだ。って」

なにかの小説からの引用だったその言葉は、いったいどんな文脈で語られたのだったか。

なんにせよその一度を、私はきっと永遠に奪われたまま、これからを生きていく他ないのだろう。

 

 

 

あの日、サバイバルガンマンのオンライン環境は閉鎖された。

オーバーヒートした熱は私を焼くことも破裂させることもなく、静かに、静かにその熱量を閉じていった。

 

いつか訪れる終わりを、全く意識することがなかったといえば嘘になる。

ゲーム文化にはそれほど詳しいわけでもないけれど、オンライン環境というものは、永遠に運営されるわけではないということは当然知っていた。

いつかは閉じられる理想郷。

 

それでも、こんなに早いとは思わなかった。

 

ユートピアは失われて初めて、その美しさを永遠のものにする。

 

 

「ちーちゃん」

 

頭上を、ざぁと電車が駆け抜ける音がした。

ちょうど今の便でついたのだろう。

あの頃から、変わらずに隣にいる奈子の声で、感傷がふいとたち消える。

今日はお互いバイトもないし、講義が終わったら一緒に帰ろうと声をかけていた。

購買で買っておいたペットボトルは、そこにわずかに残るばかり。

ルームシェアは案外順調に続いていて、今日もこれから一緒に晩御飯のための食材を買いに行くところだ。

 

「ところで、そろそろ他の呼び方でもいいんじゃないかと思う」

 

「えー?ちーちゃんがちーちゃん以外になるイメージってないもん」

 

相変わらずだ。

 

違う学校とはいえ、通学先は近所で、今も変わらずに私と彼女は気のおけない友人同士のままだ。

 

「それで、最近はどう?」

 

最近どうも、こうも、私生活は共有していて、学校の話はそれなりに交換していて、どうもこうもあったもんじゃない。

というか。

「その導入、前と一緒だよ」

 

まぁ確かに、会話に定型文があると、テンションをリセットするのにちょうどいいのは確かだ。

 

「いいじゃない。変わらないものも大事でしょ?」

 

うんうん。

 

「まぁ、そろそろ実習とか忙しくなってきたかなぁ」

 

そいういえば最近、フィットネスジムを始めた。

体を動かす楽しさに気づいたのは、今の今になってからという、あまりに今更な状況だ。

脳で好き勝手に動かしていた体を、現実の側ならどれだけ近づけられるのかと、今更ながらに思い立って、とりあえずランニングとかで軽く動かすところから始めている。

 

「んー、それじゃあ、この日は都合合うかしら?」

 

そういって奈子がおずおずと、けれどニヤニヤと取り出してきたのは、JGEのパンフレットだった。

 




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