赤い巫女服の少女、博麗霊夢は友人の突然の質問に目を丸くしていた。もちろん、本当に丸くしていたわけではなく、“驚いて目を見張る”という意味だが。
「どうしたの、急に。この間は突然『星が綺麗ですね』の意味を聞いてきて、答えたらしばらく固まってたわよね?その後、顔を真っ赤にして飛び出て」
「そ、その話はもういいだろ!!」
慌てたように霊夢の友人、霧雨魔理沙は彼女の話を遮った。
「そういえば、紅魔館で『月が綺麗ですね』が愛してるという意味だと教えられてから、どうしてそういう意味になるのか色々聞き回っていたみたいだけれど、それは解決したの、魔理沙?」
「いや、その…。」
「ああ、霖之助さんのところにも行ったのよね?…………もしかして」
「うわぁぁぁっ!」
(魔理沙の羞恥心が爆発しそうなので)閑話休題。
「他の遠回しな言い回しについて……だったわね?」
「おう。やられっぱなしで終わる私じゃないぜ?」
「(別に彼はからかって言った訳ではないと思うけれど、)…そうね、確か、こんな言葉が………。」
博麗神社から出ていく魔理沙を見送る。
「(………香霖堂に向かうのでしょうけど、果たして彼に意味は伝わるのかしらね。普段から言う言葉だし。…まぁ、いいか。)」
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「こーりん!遊びに来たぜ!」
香霖堂の扉を豪快に開く。
「魔理沙…頼むから、もう少し静かに入ってきてくれないか。」
「……悪い。」
緊張しているのか、私は素直に謝っていた。
「どうしたんだい、今日はなんだか素直じゃないか。何か用でもあるのかい?」
「きょ、今日は!!」
前のめりになって香霖に詰め寄る。少し不思議そうにしていた。
「今日は………」
なんだこれは。遠回しな言葉である分、意味を知っているとなんだかとても恥ずかしい。もしかしたら普通に好意を告げるよりも恥ずかしいかもしれない。言うのも恥ずかしいし、言われるのも恥ずかしい。何かメリットがあるのだろうか。
だが、ここまで来たからには言うしかないのだ。前にからからわれた仕返しなのだ。そう、これはただの仕返しなのだと自分に言い聞かせ思いきる。
「今日は暖かいな!」
どうだ!これでお前も少しは私の恥ずかしさが…
「そう…かな?いや、まぁ、気温の感じ方は人それぞれだしね。それで?本題は?まさかそれを言う為だけにここに来たわけではないだろう?」
伝わるわけがなかった。それはそうだろう、冷静になって考える。『月が綺麗ですね』だとかは月を本当に見てない限り、遠回しの言葉だと気付くだろう。しかしだ、『暖かいですね』だなんて言葉、猛吹雪の中ならともかく、別に普段から使う言葉だ。
「魔理沙?」
「だから…その……。」
「?」
「私は、幸せなんだよ馬鹿野郎ー!!」
猛烈に恥ずかしくなって、私は飛び出した。香霖にとって意味不明な言葉を並べながら。
「なんだったんだ、一体…。」
香霖を翻弄できるようになるのは険しい道のりだ。
“あなたが隣にいてくれて幸せです”