「シュンジ王は」
「ん?」
「よくその、ゲドバインを操れますね」
夕焼けにはラース・ワウ、ドレイク・ルフトの居城が美しく映え、田舎からの「お上り」の名観光地として名高い。
「まあ俺はな、エコー君」
「俺は?」
「聖戦士、らしいからな」
そのラース・ワウの上空を、アの国の隣国にして同盟国「リ」の国王、シュンジ・イザワとアの騎士見習いエコー少年が、悠々とオーラバトラーを駆る。
「聖戦士、今一つ俺には実感の無い呼び名だがね」
「しかし、そのゲドバインを操れるのでしょう、シュンジ王は?」
「良い機体だ」
「なのですか?」
「うん」
エコーの問いに、彼の「接待飛行」の相手、シュンジ王はコクピットの中で軽く頷いた気配をエコーは感じた。
「ショット殿が、アルダム数機と引き換えにくれただけのことはある」
「さすがは聖戦士、オーラ力が高い」
「へえ……」
「はい?」
接待飛行、その聞き慣れない言葉はショット・ウェポンが言い出した事であるが、彼のお陰でこの「ドラムロ」を操れる特権を手に入れたエコーにとっては、断れる話ではない。
「俺、いや私は何か変な事を言いましたか?」
「いや、よく知っているなと思ってな」
「何を、でしょうか……?」
「聖戦士とは、オーラ力の高い者」
接待には、もっと位の高い者が当たるべきだとエコーは思ったが、生憎他のオーラバトラー乗りに手空きの者がいなかった。軍備に忙しいのだ。
「よく知っているね、君は」
「いや、私は地上人は皆聖戦士だと……」
そのエコーのあたふたした言葉、それにシュンジは笑いながら。
「なんだ、当てずっぽうか」
「すみません……」
「いや、ヤマカンでも正しい答えかもしれない」
コンッ……
ゲドバインのその拳で、エコーの初期型ドラムロのその手を軽く叩く。
「ショット殿が言うには、な」
「はい」
「地上人はオーラ力が高い」
その言葉、それを証明するかのように、シュンジはゲドバインの速度を急速に上昇させた。
「そして、その高いオーラ力が」
「ま、待ってくださいよ!!」
そして、シュンジのいきなりのオーラバトラーのストップに、今度はエコー機ドラムロが前に出る形となる。
「もう、お人が悪い……」
「オーラマシンいかんに関わらず、奇跡」
「奇跡……」
「すなわち、聖戦士たる行いをさせると言っていたよ、ショット殿は」
「なるほど……」
その理論的な説明、それはエコーにも理解出来る話であった。
「その奇跡の力で、シュンジ王はリの国を救ったのですね?」
「リの人達、そしてドレイク殿のお陰だよ、エコー君」
「謙遜を……」
だが、シュンジはそのエコーが放った本気の「世辞」に、すぐには答えない。
「シュンジ王?」
「……」
そのまま、何かを考え込んでいるかのような空気、それをゲドバインの中のシュンジは醸し出している。
「……エコー君」
「はい」
「そろそろラース・ワウ、機械の館に戻ろう」
「は、はい!!」
何か、話が消化不良に陥ってしまったが、エコーは自分があまり深入りすべき話題、では無いような気がした。
「あれ?」
「君も気が付いたか、エコー君」
「はい」
夕闇が迫るラース・ワウ、その郊外の森から、一機のオーラバトラーが低空飛行で、まるで誰かに見つかるのを恐れているかのようにと宙を疾る。
「あれは、ダンバイン……」
「ショウ・ザマ君のオーラだ」
「解るので?」
「ああ……」
その不審な挙動を見せているダンバイン。その機体の顔がこちらを向いたような気がしたエコーは。
「聖戦士ショウ・ザマ!!」
「バカ、エコー君!!」
迂闊にも、無線を使ってそのダンバインにと声を掛けてしまう、そして。
ギュア……!!
「言わんことではない、エコー君!!」
そのダンバインが急激加速を行い、エコー達から離れていく姿を見て。
「す、すみません!!」
「追うぞ!!」
「はい!!」
シュンジ、そしてエコーは自機のスピードを上げる。
「まて、ショウ君!!」
さすがにゲドバインは素早く、そのダンバインにも追い付かんばかりの速さではあるが、エコーのドラムロは。
「く、くそ!!」
全くと言って良いほど、その二機のオーラバトラーには追いつく気配がない。シュンジ王の機体、それの後ろ姿を見るのみだ。
ガッ!!
ショウ機ダンバインも速かったが、シュンジのゲドバインがそれを上回った。そのままシュンジはダンバインを背後から羽交い締めにする。その時。
「……なさい、シュンジ王!!」
「……ル様!?」
一陣の強烈な突風が吹き荒れ、そのせいか無線が不明瞭になる。
「女の声……!?」
「……」
「だれだ……!?」
そのエコーの問いに答えるのは、無線から流れる雑音のみ。
「……謝します、シュンジ王」
「……らばだ、シュンジ」
スゥ……
短いながらも緊迫感が感じられた無線の声、それが終わると共にシュンジはゲドバインからダンバインを解放する。
「シュンジ王!!」
ようやく追い付いたドラムロ、エコーはそのやり取りの内容を聞き出そうとシュンジを問う。
「あれは、やはり!!」
「ああ、ショウ・ザマだ」
「やっぱり……」
「そして、リムル様も乗っておられた」
「リムル様ですって!?」
リムル・ルフト、ドレイク・ルフトの一人娘の名である。
「なぜ、リムル様にショウ殿が……」
「さあ、な」
その時、エコーの頭にと浮かんだのは。
――マーベル様は、ドレイク様のやり方に付いていけないらしい――
ややに昔の、ネデルが言っていた台詞である。
「もしや、お二人ともドレイク様にご不満が……」
「へえ、やはり……」
「そうなのですね?」
「やはり、君は勘が良い」
「笑い事じゃありませんよ、シュンジ王」
その言葉は、仮にも一国の主に対する態度ではないが、それはエコーは気がつかない。
「なぜ、逃がしたのです?」
「何を言っているんだ、君は?」
「だから……」
「フェアではないだろう、リムル殿もいるし」
「あ……」
確かに、あのままダンバインと戦っていたら、リムル・ルフトの身の安全は保証できない。
「すみません、考えが浅すぎました」
「まあ、気持ちは解る」
「はい……」
「さて、俺は」
もはや夕闇の時刻が近づき、ラース・ワウのその姿にも陰りが差してくる。
「ドレイク殿への、言い訳を考えなきゃな……」
「お気持ち、察します」
「ミの国攻めに、このゲドバインで先陣を切るので納得をしてもらえないかな?」
「ミの国?」
「おっと……」
どうやら、天下の聖戦士殿と言えども口を滑らす事はあるらしい。そのシュンジは。
「今のは内緒だぞ、エコー君」
「は、はい……」
「ヨーシ」
エコーにと口止めを依頼しながら、ゲドバインの中で豪快に笑った。
「はは……」
そのあまり慣れているとはいえないシュンジの演技じみた笑いに追従するエコーの媚び笑いもまた、下手くそであると言える。
――――――
――気持ちは解る――
そのシュンジ王の言葉、エコーがその真意に気が付くのは、随分のちの刻になってからであった。