「レーテな」
「なんだ、エコー?」
「ガロウ・ランにも」
明るい光に照らされた小高い丘。それの上にと立つエコーの両親達の墓の墓前には花束が手向けられている。
「親っているのか?」
「産みの親はいるに決まっている」
「では……」
「育ての親という、概念は薄い」
何処か寂しげに答えたレーテ、ガロウ・ランの少女の髪が、暖かくなってきた気候のそよ風にと、微かになびく。
「そうか……」
「親というのは、どういうもんなんだ」
「ガロウ・ランに殺された」
「フン……」
「それ以上は、あまり言いたくない」
「なぜ?」
「良い想い出ほど、失った時の痛みが増すからな」
「ハイハイ……」
なにか、その彼エコーの答えが彼女の気にと触ったようだ。そのまま暫し無言で過ごす二人。
「なあ」
「なんだよ、エコー?」
「お前、好きな奴とかいるか?」
「はあ?」
その無遠慮なエコーの質問に、レーテはまさしく「呆れた」といった表情を見せる。
「いるわけないさ」
「そ、そうか?」
「でも、強いて言えば」
「言えば?」
「あのネデルとかいうお坊ちゃん、なかなか……」
「そ、そうなのか」
「そう」
その言葉を最後に、再び沈黙が二人の間にと訪れた。
「エコー」
「おう、ホリィ」
その僅かな間の後、ホリィとネデルが丘の下手から駆け上がってくる。
「弁当な?」
「ベッグ隊長が買ってくるって」
「へえ……」
五人分、その弁当を持ってくるのは大変だろうと、エコーの頭にあまり意味の無い疑問と心配が生まれ。
「手伝ってくれば良かったのに、ネデル」
「ベッグ隊長が、別にいいって言ってました」
「そ、そう?」
ネデルへと、ややに強い口調で言葉を放ってしまう。
「墓参りか……」
そう呟き、ホリィはちらりとレーテへと、何か複雑な感情が混じった視線を向ける。
「お前のお袋さん達の墓も、その内に參らないとな、ホリィ」
「うん……」
その言葉を吐いた後、エコーから放たれた視線にもまた、レーテは動じた様子は無い。
「おーい、お前達!!」
その時、丘の麓の方から。
「弁当、買ってきたぞ!!」
「はい、ベッグ隊長!!」
騎士ベッグ、エコー達の上官がその手を振りながら、丘の下手へと来るような仕草をしてみせる。
「行こうぜ、レーテ」
「ああ……」
そのエコーの掛け声と共に、彼らの仲間は墓の前から立ち去り、ベッグ隊長の元へと向かった。
――――――
「このチッタ、旨いねえ……」
「ネデルが選んでくれたんだぞ」
「へえ……」
チッタという小麦で作った団子を口に含んだレーテは、そのベッグの言葉に。
「いいねえ、いいねえ……」
「な、なんですかレーテさん?」
「フフ……」
ネデル、その彼女の言い方に困惑する彼にと、微かにすり寄っていく。
「全く……」
そのレーテにホリィは魚のフライを食べながら、呆れ顔であるし。
「……」
干した果物を口に含んでいるエコーに至っては、何か不機嫌な顔をしている。
「旨いな、このナゲナのフライは」
騎士ベッグ、彼はこの場の微妙な雰囲気に気が付いているのかいないのか、我関せずといった風情で弁当箱にフォークを突き刺す。
「ほ、ほらあの噂を聞いたか?」
「なんだよ、エコー……?」
「ギブン家の当主が戦死したって話さ、レーテ」
「そんなこと、あたしが知るもんか……」
その素っ気ないレーテの返事、しかしエコーはそれにもめげず。
「ねえ、ネデル……」
「そ、それとミの国がさ!!」
「なんだよ、全く……」
「つながってたと、ホントかな!?」
「うるさい奴だ……」
レーテの気を自分に引こうと必死だ、その必死さにホリィが忍び笑いを漏らした。
「風の噂では、そう聞いているな……」
その疑問の答えには、先程から黙々と弁当を食べていた騎士ベッグ、中年の隊長が答えてくれる。
「ミの国、がねえ……」
そのレーテに辟易しているネデルのぼやきも無理はない。ミの国と言えば、アの国とは比べ物にならないくらいの小国であるからだ。
「本当に、戦争が始まるんですかね?」
「私が知るもんか、ネデル」
「ですよね、隊長……」
何か、休暇をとっての墓参りだというのに、この場の空気が天候に似合わず重くなってしまう。
「さ、さあみんな!!」
「なんだよホリィ、急に……」
「お弁当が冷めちゃうわよ、ね!!」
その空気を吹き飛ばそうと、エコーの隣でランチボックス、ショット・ウェポンがオーラマシン発明の副産物で、いつでも食べ物が暖められる器具を指差しながら、ホリィは叫ぶ。
「まあ、そうですよね」
「そうそう」
ホリィのその言葉、それにネデルとレーテも賛同をし。
「ほら、ネデルあーん」
「だから、止めてくださいよレーテさん!!」
ベッグ隊長がネデル達のやり取りに苦笑しながら、弁当をがっつき始めた。
「おい、俺たちも食べようぜ」
「ええ、エコー」
その隊長の姿を見たエコーとホリィ、彼らも冷めない内に弁当を食べる事にしたようだ。
――――――
「ねえ、エコーさん」
「なあに、ネデル?」
「エコーさんはなぜ」
エコーの生まれ故郷の近くの街でとった宿、そこで男部屋と女部屋に別れながら、休息をとるエコー達。
「ドレイク様の軍に入ったんですか?」
「徴兵さ」
「嫌々ですか」
「いんや……」
その時レーテ、彼女から風呂が空いたとの言葉がエコー達にと伝わる。
「今は、ドレイク様に忠誠を誓っている」
「忠誠を誓う理由は?」
「ガロウ・ランを駆逐してくれた恩もあるし、それに……」
風呂にと入る準備をしながら、エコーはその自身の額に指を付け、どこか昔を思い出すような仕草をしてみせた。
「俺の少し前に死んだバアちゃんも、ドレイク様とショット様がもたらした技術革新のお陰で、一時期病気から快方した」
「恩人、ですか……」
その言葉にエコーは頷き、そのまま部屋から出ようとする。
「エコー」
「ホリィ、風呂は出たのか?」
「ええ」
その風呂上がりの格好、薄着のホリィからは微かに石鹸の薫りが漂う。
「ネデル、行こうぜ」
「はい」