ザァ、ア……
低い低木が繁る、激しい雨が降りそそぐ低地を、ラース・ワウのガロウ・ラン残党討伐軍が進む。
「っくしょ!!」
それの地上部隊、オーラ・パンツァー「アケロン」の機体外部席へと座るエコー少年のくしゃみが雨音にかき消された。
「俺も、ドロなら濡れる事もないのにな……」
陸戦型オーラマシン「オーラ・パンツァー」とはその呼び名の通り、地上専用のオーラマシンだ。その「アケロン」の上空を数機の飛行型オーラマシン、クラゲのような外見を持つ「ドロ」及び。
グゥン……
「あれが、マーベル様のゲドかな?」
ややに低空飛行を始めたオーラバトラー、人型オーラマシンである「ゲド」が空を舞う。
「オーラバトラー……」
オーラバトラー、それは新しい戦力であると同時に、地位と力の象徴。
「いつかは乗りたいモノ、だが……」
その時にエコーの頭へとよぎる、ある言葉。
――必要オーラ力というものがあるらしい――
――必要、オーラ力?――
――なんでも、その数値を満たしていないと、オーラマシン全般には乗れないらしいのだ――
いつか、いつぞやにした騎士ベッグ隊長との会話がエコー少年の頭へと疾った。
「各員」
その雨にかすれてよく見えなくなったゲドを眺めているエコー少年の横、機体外スピーカーから上官の指示が出る。
「ガロウ・ラン共の姿が見え始めたぞ……」
「りょ、了解……」
そう言いつつに、初陣であるエコーはその手に持つクロスボウへと付いた雨粒を神経質にその手で振り落とした。
「ガロウ・ラン……」
ガロウ・ラン、凶悪にして残虐無比な闇からの蛮族。個体てあるならばコモン、このバイストン・ウェルの住人が「手懐ける」事も可能であるが、集団となると、あたかも蝗のようにコモンの世界を食い荒らす、地の世界の住人。
「無理はするなよ、初陣の小僧」
「了解、ベッグ隊長」
「うむ……」
ボフゥ……
前方、エコー少年が座るアケロンからややに前方に位置する同型機から、遠く眼前にと拡がる森林に向かって火線が疾る。
「馬鹿め……」
その騎士ベッグの呻き声からして、その火焔放射器による射撃は早すぎたのであろう。恐らくは距離を見間違えたのだ。
バァア……
「飛竜を確認!!」
その時、エコー少年の目には森林から羽ばたいてきた飛竜、ガロウ・ランが乗騎ならぬ乗竜として使用している飛竜達の姿がその瞳へと、雨を切り裂いて入った。
「飛竜を確認!!」
同時にあちこちから、先頭を行くバーン・バニングスのブラウーネやドロからも同じ報告が入る。
「周囲へ目をやれ、エコー!!」
「了解、隊長!!」
「ヨゥーシ!!」
その気迫に満ちた声に、ベッグはエコーが初陣の恐怖に囚われていない事を確信した様子だ。彼の満足げな声がスピーカーを通して出る。
「アケロン・ワン、ガロウ・ラン地上部隊と交戦中!!」
先頭を行くアケロン、オーラパンツァーが戦闘に入った事に、各アケロンの緊張が一気に高まった様子だ。
「左翼、ガロウ・ラン散兵!!」
「フレイ・ボムで蹴散らせ!!」
フレイ・ボム、それはアケロンやドロ、ブラウーネに搭載されている火焔放射器の名前である。
ボゥ!!
「アケロン・ワン、ガダの直撃を受けた!!」
「大丈夫か!?」
「な、なんとか……」
確かアケロンの先頭機にはホリィ、エコーの幼馴染みの少女が乗っていたはずだ。その中破したアケロン・ワンを心配そうな目で見つめるエコー少年、その時。
キュイ……!!
雨とオーラマシン部隊の隙間を切り裂き、一匹の飛竜にまたがったガロウ・ランがエコーの乗るアケロンへと急降下を仕掛けてきた。
「強獣!!」
その強獣という巨大生物の操り手、ガロウ・ランの手から放たれる榴弾はガダ、ニトログリセリンに似た成分を持つ爆発物だ。
「目が、合った……!!」
シュ……!!
そのガロウ・ランと目が合った瞬間に、反射的にクロスボウを撃ち放ったエコー少年。その太矢が雨を引き裂く。
「当たった!!」
その飛竜の乗り手がグラリとよろめいたのをその目にしたエコーは思わず、無意識に喝采の声を上げた。
「どうですか、ベッグ隊長!!」
「でかしたぞ、エコー!!」
「へへ……!!」
しかし、その間にも左翼からのガロウ・ラン達、それらが駆る陸戦強獣隊の勢いは止まらない。
「こちらアケロン・スリー、ドロ隊に支援を頼む!!」
「雨で強獣との見分けがつかねぇよ!!」
「お前、リの国の奴だな!?」
ベッグ隊長が通信を入れた、空色にと塗装されたドロから、中年らしき騎士の怒鳴り声が返ってくる。
「だから、根性がない!!」
「言ったな、やってやろうじゃねえか!!」
そういいつつに、そのドロは火焔放射器をもってして頓挫したアケロン達に迫りつつあったガロウ・ラン地上部隊を掃討していく。
「右翼、ガロウ・ラン散兵部隊!!」
「アケロンのフレイ・ボムで蹴散らせ!!」
しかし、その散兵隊は身軽に強獣を操り、そのフレイ・ボムの波を潜り抜け、エコーの乗るアケロン・スリーにと迫り来た。雨音がその強獣の足音にかき消される。
ザ、シュ!!
「オーラバトラー!!」
そのエコーがハッと息を飲んだ時に、マーベル機と見慣れぬオーラバトラーがその部隊を蹴散らす。
「こちら、リのシュンジ・イザワ!!」
雨がますます激しくなっていく中、その不明機からの通信が各アの国部隊の耳を打つ。
「アルダム、リの国機は機体不良により後退する!!」
「マーベル、こちらゲド、ゲドバイン!!」
散兵隊を蹴散らした二機のオーラバトラーからややに悲鳴が混じった声がエコーの耳へとこだまをした。
「オーラコンバーターの異常により、後退する!!」
「地上人マーベル、後退を許可する!!」
「すみません!!」
そのバーン機ブラウーネからの許可を得て、マーベル機「ゲドバイン」も上空へと退避を開始する。
「オーラバトラー二機を後退させて、ガロウ・ランに勝てるのか、バーン?」
「弱気だぞ、ガラリア……」
「私はただ……!!」
それのガラリアの駆るドロから聴こえた声は、激しい豪雨によってかき消された。
バン、バァン……
信号弾、騎士バーン・バニングスからの信号が雨の中でもクッキリとエコー少年の瞳には見える。
「ガロウ・ランは撤退を開始した……」
「追撃するぞ、バーン」
「ああ、ガラリア……」
そのガラリア機ドロが破損したアケロン・ワンの上空を通り過ぎ、そのまま散り散りになって逃げようとするガロウ・ランの強獣に向かってフレイ・ボムを放つ。
「勝った、のか……?」
初陣、そして一匹とはいえ戦果を上げることが出来たのだ、最初はもっと高揚感の出そうな物だと、出陣前は期待していたものだが。
「おや……」
だが、自らの手が震えている事にエコーは気が付き、微かに苦笑する。
「親父達の仇に、一矢報いたというのにな……」
そのエコーの独白は、激しくなってきた雨によって叩き落とされた。