聖戦士ダンバイン ~コモンの聖戦士~   作:早起き三文

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第23話「ワーラー・カーレン」

 

 その、宙を漂うエコーが聴いたのは。

 

「……水の音?」

 

 川、それがせせらぐ音色である。

 

「ここは……」

 

 薄暗い川底、そこにとエコーは「沈んで」いた。

 

「しかし、息が出来る……?」

 

 そのエコーの疑問通り、川の中だというのに、全く息苦しさを感じない。

 

「それはいいのだが……」

 

 しかし、いくら川の中で呼吸が出来るからといっても、ここはどこだという疑問の解決には、全くならない。

 

「確か、俺はあの泉にと降りて、そこに裸の女がいて……」

「それは、私の事でしょうか?」

 

 そのエコーの質問、それに対していずこからか投げ付けられる声。

 

「私は、シルキー・マウ」

 

 リィン……

 

 シルキー・マウ、そう名乗った女の姿が、エコーがいる川底にと鈴のような音と共に舞い降りる。

 

「フェラリオです、コモンの者よ」

「フェラリオ、か……」

 

 フェラリオ、それはいわば妖精のような種族。その種族に属する女が、薄絹のような衣服を身にとまとい、エコーの顔を覗き込んだ。

 

「フェラリオにも、人間と同じ大きさの奴がいたんだな」

「私は、小妖精のようなフェラリオとは違います」

「まあ、その辺りは俺にはよく解らないが……」

 

 その違いとやらは、あまり学があるとは言えないエコーにとって、彼女にと言った言葉の通り良くは解らない、しかし。

 

「それよりも、ここはどこなんだ?」

「ワーラー・カーレン、天の河です」

「ワーラー・カーレン……」

 

 どこかで聞いたようなその名前、それをエコーは思い出そうとするが。

 

「お喋りが過ぎるぞ、シルキー・マウ!!」

 

 パァ……!!

 

 年配の女と思われる女の厳しい叱責の声、それが放たれたと同時に。

 

「う、うわ!!」

 

 エコー達を包んでいた川が、文字通りに「干上がる」

 

「お、おどろかせやがって……」

「コモンよ」

「な、何だよ……?」

「名乗れ」

 

 何か、その身を竦ませているシルキー・マウを横目に見やりつつ、エコーはその法衣の様な物に身を包ませた女の顔を正面から見つめ。

 

「二度言う、名乗れ」

「俺の名はエコー」

「エコー、鳴り響く者という意であるか」

「あんたは?」

「ジャコバ・アオン、聞き覚えはあろうな?」

 

 そのジャコバとかいう女が吐くその威圧的な声に、エコーは軽い反発を感じ、その為。

 

「無学であるか、コモンよ?」

「悪いな、無学で……」

「フム……」

 

 言外に彼女の名を「知らない」と答えたエコーに対して、ジャコバ・アオンはその鼻を一つ、小馬鹿にしたように鳴らしてみせる。その態度が余計にエコーにと反発を生ませる。

 

「何ゆえ、そなたがここにやって来たのか、我にはわかっておる」

「俺には、さっぱり解らない……」

「このシルキー・マウ、愚かなフェラリオが地上人を召喚したその余波」

「はい?」

「そして、それによって力を使い果たしたこやつが水に消えた勢いに、呑まれたのであろう」

「すまない、言っている意味が……」

 

 そのエコーの言葉は正論ではあるが、それに構わずジャコバ・アオンは。

 

「招かざる客よ、コモン」

 

 断じるように、吐き捨てるようにそうエコーにと言葉を絞り出す。

 

「直ちに、このワーラー・カーレンから立ち去れ」

「だから、俺は何でここに来たのか、どうやって帰るのかも……」

「このフェラリオのでき損ない」

 

 そう言いながら、ジャコバ・アオンはその女に脅えきっているシルキー・マウに向かって、その人差し指を伸ばしながら。

 

「シルキー・マウに聴け」

 

 何か、呪のような物を唱え始める。

 

「慈悲を、ジャコバ・アオン……」

「ならぬ」

 

 その哀願に満ちた言葉を放つシルキーが、その呪を受け。

 

「この女の、身体が縮んでいく……?」

 

 徐々にとその体躯を、以前に出会ったチャム・ファウ、小妖精の姿へと変えていく光景を、エコーは呆気にとられつつ、呆けたように見詰めている。

 

「この庭から追放する、シルキー・マウ!!」

 

 ビュウ……!!

 

 ジャコバ・アオンのその烈帛に満ちた怒声により、身体が縮んだシルキー・マウはその背にと新たに生やした翅を震わせ、そしてエコーの服を掴み。

 

「う、うわ!?」

「シルキー・マウの手により、コモン界に戻れ!!」

 

 そのエコーを掴んだシルキー、彼女の身体が緑蒼色に染まると同時に、彼と彼女の輪郭が歪み始めた。その時。

 

「何だ、この真っ黒な、それでいて蛍の様な光が瞬く光景は……?」

「オーラ・ロードです、エコー」

「なんだって、シルキー・マウとやら?」

「天の河、そうとも言えます」

「だから、訳がわからないと……」

 

 その、地上の人間ならば一般知識として知っている光景の中で、エコーは。

 

「オヤジ、オフロク……?」

 

 何か、懐かしい顔をその目前にとよぎらせながら。

 

「何だ……!?」

 

 彼は、その意識を失った。

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