「良い風だ……」
季節はすでに秋、落ち葉が舞い落ちる林の上空を、小規模の「ベッグ隊」が飛行する。
「これが、ガロウ・ラン退治でなければな……」
「ぼやかないの、エコー」
「はいはい、ホリィ……」
地の種族ガロウ・ラン、それらの残党がこの林の中に潜んでいるというのだ。
「しかし、ベッグ隊長」
「なんだ、エコー」
そのエコーの乗るドロのプラットホームにと立つ彼の無線に答え、騎士ベッグのゲードラムがエコー機の前方へ近づいた。
「ガロウ・ランの姿は、見えませんね……」
「上手く潜伏しているのだろうな……」
「ゲリラですか」
「難しい言葉を知っているじゃないか、エコー」
「いやあ……」
その隊長の誉め言葉に気を良くしたエコー、その影響か。
グ、ラァ……
「ちょっと、エコー!!」
「なんだよ、うるさいなホリィ!!」
「そんなことで喜ばないの、オーラが乱れる!!」
「そんなこと!!」
確かに、エコーの言う通りその程度の事でドロが操縦困難になってはたまらない。ならば。
「ネデル、何かしたか!?」
「オーラ吸引関係に異常が見られます」
「全く、もう……」
機体トラブル、最近このドロには特に多い。
「しかし」
エコーは冷たく感じる秋風の中からガロウ・ランの気配を感じようとするが、なかなか見つからないことに苛立ち始める。
「本当にいないな……」
「そうだな」
その僚機、ややに後方を飛行しているドロのパイロットも同じ事を感じたようだ。エコーの一人言に答えてくれた。
「もしかして、いな……」
「エコー、後ろだ!!」
チィイ!!
そのベッグ隊長の声と同時に、銃の弾丸がエコー機ドロの表面を傷つける。
「くそ!!」
後続のドロ、エコーよりも先輩の兵が乗るドロがフレイ・ボムをその弾道を見やり、闇雲に撃ち始めた。
「まて、無駄撃ちするな!!」
「そ、そうですね!!」
その兵もやや慌てていた様子だ、ベッグの声によって冷静を取り戻した彼は、そのままプラットホームからガロウ・ランの姿を見極めようとその目を凝らす。
「ガロウ・ラン……」
エコーにとっては忌まわしい記憶、父と母をその闇の種族に殺されたとあっては、駆逐したい存在である。
「どこだ……」
しかし、いくら探してもガロウ・ランの姿は見つからない、少し目を休ませようとした、その時。
「ライフル、フリントホックの!!」
チェーッ!!
先の狙撃が、今度はエコーの足元へと撃ち当たる。あと少し狙いが正確であれば、生身のエコーにと命中していたはずだ。
「いた!!」
ボゥ!!
エコー機のフレキシブル・アームの内、一本が火を吹き。
「当たったか……?」
そのガロウ・ランが隠れていた木々を焼き払う。
「ミスったか……」
だが、その次の瞬間、エコーはその目で信じられない物を見た。
ギィイ!!
「ゲド!?」
漆黒色にと塗装されたオーラバトラー、それがエコー機目掛けて一直線に飛び掛かってくる。
「う、うわ!?」
反射的にフレキシブル・アームを振り回すドロ、それが一本黒いゲドにと命中したが、損害は与えていない様子だ。
「落ちろ!!」
「女、女のガロウ・ランか!?」
「女で悪いかよ!!」
ボフゥ!!
出鱈目に撃ち放ったバルカン、一本のアームだけに備え付けられた近接兵器がそのゲドの装甲を軽く叩き、ようやくエコーはそのガロウ・ランを僅かながら怯ませる事に成功した。
「くそ、コモンめ!!」
「ガロウ・ラン!!」
その隙をつき、ベッグ隊長のややに破損したゲードラムが、そのゲドにと接近戦を挑む。
「エコー、お前達は林に潜んでいるガロウ・ランを狙え!!」
「ですが、隊長!!」
「ガダを装備している奴もいる!!」
ピュウア……!!
「弓矢、ガダか!?」
ガダ、衝撃を受けると大爆発を起こす液体火薬。その直撃を食らったらオーラマシンといえどもただではすまない。
「くっ、やる!!」
ベッグ隊長はそのゲドに苦戦している様子ではあるが。
ピッ、ヒュウ……
木陰から姿を現し、クロスボウを撃ち始めたガロウ・ランの事が目に入り、エコー達は隊長の命令を守ろうとする。
「おのれ!!」
後方に控えるもう一機のドロと共に、火焔放射器でそのガロウ・ランを薙ぎ払おうとするが、どうも「相方」のドロも調子が悪いらしく、フレイ・ボムが上手く発射できていない。
「高度を!!」
「エコーさん、無茶です!!」
「しかし、このままでは!!」
その、一瞬の隙がエコー達の命取りになった。
バウゥ!!
「きゃあ!!」
「ホリィ、大丈夫か!?」
ついに一発のガダが命中をし、その衝撃でホリィが身体を機体の壁面に打ち付けた様子だ。
「オーラ吸気、出力七十パーセントダウン!!」
「立て直せないか、ネデル!?」
「無理です、完全にやられています!!」
そのネデルの言葉の通り、どんどんとその高度を下げていくエコー達のドロ。
「くそ!!」
しかし、その高度が下がっていく中でもエコーはオーラマシン特有の「念」の力でフレイ・ボムをガロウ・ラン、その顔をハッキリと解るようになるまで近づいた彼らに向かって撃ち放つ。
「不時着するぞ、皆!!」
「は、はい!!」
ホリィの介抱をしていたネデルは、そのエコーの言葉を受け、近くの手すりにホリィを抱え込んだままにしがみつく。
「着地、三、二、一!!」
ズゥン……
そのまま、フレイ・ボムにより焼かれた林にと不時着するエコー機。その彼らに向かって。
「コモンだ、獲物だ!!」
ガロウ・ラン、地の世界の蛮族たちが攻めよってくる。
「俺、銃はあまり得意ではないが……」
とはいえ、選り好みをしている場合でない。その背にと背負っているライフル銃をその手に持ち、迫り来るガロウ・ランに向かって射撃体勢を取るエコー。
ボウゥ!!
だが、そのガロウ・ランの群れに僚機のドロがフレイ・ボムを連射し。
「エコー、大丈夫か!?」
「俺は大丈夫ですが、ホリィが……」
ゲードラム、ベッグ機もそのガロウ・ランにと向かって、火焔を放射し始めた。
「隊長、あのゲドは!?」
「今ごろ、近くの林の中でウンウン唸ってるさ」
「そうですか……」
どうやら、騎士ベッグはあの黒いゲドを下したらしい、だからこそこうやってエコー達の手助けに駆けつけられたのであろう。
「ネデル、ホリィの容態は?」
「大丈夫、少しあざになっているだけよ」
「その口調では、大丈夫そうだな」
プラットホーム上にいるエコーにも聴こえる位にハッキリとした声を出せるということは、大した怪我ではなかったのだとエコーは想像した。
「まあ、何はともあれ……」
ドロとゲードラム、二機のオーラマシンにより撃ちのめされたガロウ・ランが逃走を始めた姿を見やりながら、エコー少年は。
「危機は去った、と」
「あたしはまだ身体が痛むわよ、エコー」
「唾をつけておけば、治るさ……」
「もう!!」
フウと、一息をついた。
――――――
「あいたた……」
「両手を上げろ、ガロウ・ラン」
「ほら、よ……」
剣を持つ手を失った黒いゲド、そのコクピットから一人の若いガロウ・ランがもろ手を揚げながらも、身軽に密集した木々をつたいながら地面へと飛び降りてくる。
「へえ、これは……」
「なんだい、アンタは?」
「いや……」
美しい、まだ少女とも言える年頃であると思われるが、エコーは彼女の顔を見たとたん、軽くその両目を細める。
「ガロウ・ランは……」
よく、ガロウ・ランは見た目が正視に耐えない連中が多い。その中で彼女は珍しいタイプなのであろう。
「さて、ガロウ・ランとはいえ投降者をどうするか……」
騎士ベッグ、彼はこの彼女に対する処遇を決めかねている様子である。
「殺しちゃってもいいんじゃないかしら、ベッグ隊長」
「僕もそう思います」
ホリィとネデル、二人の意見は決まっているようであるが、エコーは。
「ベッグ隊長」
「なんだ、エコー?」
「彼女、捕虜にしましょう」
「捕虜、誰に対してだ?」
「そりゃ……」
考えてみれば、相手は騎士ではない。捕虜にしたところで得るものはなにもない。
「とっとと殺せばいいじゃないのさ、コモン……」
「いや、それは出来ない」
少女の言葉に対してとっさに反応したエコーの答えに、その場にいた者達全員がその目を丸くする。
「だって、美人だし……」
「また、コイツの悪い病気が始まった……」
そのエコーの言葉に、ホリィは頭痛がしてきた頭を軽く天にと仰がせた。
「おい、エコー……」
同僚、僚機にと乗っていたドロの搭乗員も呆れ顔を隠そうともしない。
「へえ……」
その、ガロウ・ランの少女はエコーのその言葉にもクスリとも笑わない。
「好き者か、あんたは」
「なんとでも言え」
情けない理由でガロウ・ランを助けようとするエコーを尻目に、ベッグは何かを考えている様子だ。
「まあ、ゲドを操れるガロウ・ランだ」
「ゲド?」
「お前が乗っていたオーラバトラーだよ」
「ゲドっていうのかあれは、ふーん」
何かに納得したような笑みを浮かべる彼女、ガロウ・ランの少女に向かって。
「名前は、なんて言うんだ?」
「情けないよ、エコー……」
「ほっとけ、ホリィ」
本当に情けない理由で彼女を助けようとするエコーに呆れはてたホリィ、エコーの幼馴染みを。
ヒュウア……
夜が近付く足音を含んだ秋の風が、軽く彼女の事を笑った。