戦姫絶唱シンフォギア Evolution's Symphony   作:セグウェイノイズ

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今週中に投稿とかいった翌日に投稿できました
時系列的に、今回の最初の方のクリスのシーンは朝→前回のラストのシーンは昼
になっているので間違いはないと思います


EPISODE08「激情インスパイア」

 彼は任務遂行中、何かを考えることはない。

 強いて言うならば、心の根底で燃える祖国への愛があった、と言えるだろうか。

 

 しかしそれは我々の中では当然のことであり、だから今回の任務に不平不満を唱える者など一切なかった。もちろん、そんな者がいればその時点でそれを裏切りとみなし、祖国のために葬るのみであったが。

 それでも疑問────にも満たないほどの、僅かなくすぶりは恐らく彼の部隊全員にあった。

 

 作戦を説明された際に上司から紹介された人物が不可解なのだ。

 上司からは、「今回の任務遂行中に限りこの男を直属の上司とみなし、彼の命令は絶対とせよ」といきなり通達された。

 

 全身を奇妙なスーツと鎧で覆い、自らをブラッドスタークと名乗った新たな上司。やけにフランクに話しかけてくるが、正直言って不気味だった。

 彼が任務中に初めて抱いた感情は、一種の恐怖だった。経歴も一切不明、得体の知れない者を上司とし行動するのが。もしブラッドスタークが盤面を読み違えたりでもしたらどうするのか。

 それを押し殺しながら彼は訓練に励んでいた。

 

 引き金を引く。

 放たれた銃弾は一直線に人間を模した的の頭部に命中し、風穴を空ける。即座にもう3発発砲、その全てが今空けた穴に吸い込まれるように飛んでいく。

 

 その後も他の部分に当たることや撃ち外すこともなく、今日の訓練は終了した。

 銃の手入れのためにその場を離れようとしたその時。

 

 

 

『ブラボー』

 

 

 

 拍手とともに歩行音と声が聞こえてきた。

 

 ────即座に頭を切り替える。

 足音の感覚から身長は約200cm。声の聞こえた高さから頭部と口の位置を割り出し、半秒にも満たない速度で振り返り声の主の眉間に照準を合わせる。

 声の主はすぐに両手を上げ、大げさな演技で銃を下ろすよう言ってきた。

 

 

 

『おいおい。俺は武器一つ持っちゃいねえだろ?』

 

「……君か、スターク」

 

『いい加減慣れてくれよ。優秀なお前達なら、俺の声くらいもう覚えてるはずなんだがな』

 

 

 

 赤い鎧に身を包んだ上司、ブラッドスタークがそこに立っていた。

 スタークはいつも突然事前の連絡なしに現れる。どうやら部下にも敵襲と間違われ銃を突きつけられているようだ。

 

 

 

「そちらこそいい加減、アポイントメントというのを覚えてもらいたいものだ。

 それが礼儀だと言う事くらい、学校かママにでも習わなかったか?」

 

『生憎、そういった事は教わらなかったんでね』

 

「それで、要件は?」

 

 

 

 この男は何を言っても変わらないのだろう。

 スタークは射撃場へと向かい、いつの間にか持っていたライフルを構える。

 

 

 

『お前の意思を聞きに来たんだよ。本当に()()をやるつもりなのか?』

 

 

 

 言い終わると同時に弾を発射する。紫色のエネルギー弾は一瞬で的に直撃し、木っ端微塵に的を吹き飛ばした。

 ガッツポーズの後『ナイスショット!』と自画自賛。その問いかけの文面だけ見ればこちらを心配しているような口ぶりだが、実際はこちらの返答を楽しもうとしているのが隠せていない。

 

 わざと気付くようにしているのだろうが。

 しかし愚問だ。答えはもう決まっている。

 

 

 

「当たり前だ。全ては……私の信じていた、輝かしき祖国のために」

 

()()をぶっ壊すだけなら、スマッシュにでもなった方が手っ取り早いと思うんだがなァ』

 

 

 

 論外だ。

 スタークの見立てによると、自分のハザードレベルは2を超えないらしい。つまりネビュラガスを投与されるとスマッシュという怪物に成り下がってしまう。

 一度スマッシュになると、倒されて成分を抜き取られないと人間の姿に戻ることはなく、その間意識はないらしい。

 

 もちろん力という点においては人間をはるかに超える能力を持つ。しかし、”計画”を達成するためには人間のままでないと意味がないのだ。

 

 

 

「前々から言っているだろう。私はかつての祖国と、私自身の信念を貫くために行動するのだと」

 

『はいはい。なら、俺から言うことは何もない。くれぐれも”奴ら”にはバレないようにな』

 

「分かっている」

 

 

 

 黒煙がスタークの全身を包み、その場を後にする。

 ────特異災害対策機動部二課、フィーネ、そして■■。

 そのすべての動きを計画に入れ、現時点で概ね思惑通りに動けている。唯一不確定要素たりえるのがブラッドスタークだ。しかしスタークは今、こちらと協力関係にある。

 

 あくまで利害の一致というだけのつながりのため、いずれは敵対することになるのかもしれない。

 それでもその時はその時だ。

 アレ────()()穿()()ため、彼自身の本懐を果たすため。

 彼は動き始める。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 あれから数日経った今でも、あのときの光景は鮮明に思い出せる。

 驚愕。慢心。黒化。暴走。戦慄。閃光。屈辱。羨望。

 それは彼女の感情の形容であったのか、立花響を形容するものであったのか。それは分からない。

 しかし最も彼女、銀髪の少女の心を支配していたのは、恐怖だ。

 

 起動には相当量のフォニックゲインが必要となる完全聖遺物。それを立花響は一瞬で起動してみせた。

 少女はまだ完全聖遺物など起動させたことはないが、それがありえないことだというのは分かった。

 そしてそれを見た櫻井了子が見せた表情は、恍惚。

 それを見た瞬間、彼女の興味が向こうに行ってしまうような、そんな恐怖だ。

 

 次いで、立花響が掴んだデュランダルを振り下ろし、完全聖遺物のポテンシャルへの恐怖。

 自分はネフシュタンの鎧を使いこなせていないのか? と一瞬思う。

 すぐにその疑念を頭から追い出すも、どうしても脳裏にこびりついたあの光景は離れることはなかった。

 

 

 

「化け物めッ……!」

 

 

 

 思わず吐き捨てる。

 恐怖を越して苛立ちさえ覚え始めた少女だったが、唐突に後ろに気配を感じる。

 すぐに分かった。これはフィーネのものだ。スタークやローグのような、気分の悪くなるようなものではないから、という理由しかないが。

 

 フィーネは薄く微笑み、じっとこちらを見つめている。命令の督促にでも来たのだろう。

 

 

 

「分かってる。自分に課せられたことくらいは、こんなものに頼らなくてもアンタの言う事くらいやってやらあ」

 

 

 

 フィーネの持つソロモンの杖を指差しながら威勢よく言い放つ。

 それができれば、きっと。きっとフィーネも見直してくれるはずだ。

 そう少女は信じている。

 奴より優秀というところを見せる。先ほどまでの恐怖や苛立ちはどこへやら、今少女の胸中は、激情で埋め尽くされていた。

 

 

 

「あたし以外に力を持つ奴は、全部この手でぶちのめしてくれるッ! 

 ……そいつが、あたしの目的だからな」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 ────暴走するデュランダルの力……怖いのは、制御できないことじゃない。

 ためらいもなく、あの子に向かって振り下ろしたこと。

 わたしがいつまでも弱いばっかりに……! 

 

 

 

 響は走っていた。

 隣で未来も一緒に走ってくれているが、今の響にはそれも見えていないほど思考に集中している。

 

 思い出すのは先日のデュランダルの一件。

 毒を打たれながらも起動したデュランダルを掴んだ瞬間、響の心を、言うなれば「抑えきれない破壊衝動」が覆い尽くした。

 

 "目に映るもの全て破壊する"という衝動のままに、一切の呵責なく銀髪の少女に向けてデュランダルを振り下ろしたのが怖いのだ。

 

 しかし、あれから数日経った今思うのは、あのとき響がもっと強くあればあんなことにはならなかったのではないか、という疑念。

 速度を上げる。もうゴールは過ぎているが関係ない。

 もっと遠くへ、遠くへ。もっと強くなるために。

 

 隣で走っていた未来をとっくに追い抜いていたことには、気づかない。

 

 

 

 

「もう。いきなりペース上げるんだから。すぐ息が上がるのも当然じゃない」

 

「あはは……ごめん未来、付き合ってもらっちゃって」

 

「それはいいけど……」

 

 

 

 結局走れなくなるまで走った。未来によると直角のトラックを20周ほど回ったらしい。

 息も整い汗も拭いた。元より今は放課後であったのでもう後は寮に帰るのみだ。

 いきなり制服のポケットに入っていた二課の通信機が音を鳴らし始める。この音はノイズの発生を知らせるものではない。つまり誰かからの連絡だ。

 

 

 

「響です。……はい、…………ええッ、了子さんが!? はい、わかりました!」

 

 

 

 連絡してきたのはあおいだった。彼女の口から語られた衝撃的な知らせに思わず飛び上がってしまった。

「どうしたの?」と尋ねてきた未来には「知り合いが怪我をして入院した」と早口に説明し、リディアンの隣の病院に駆け出した。

 

 

 

「ごめん未来、先に帰っといて!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫なんですか了子さんッ!?」

 

 

 

 伝えられた病室に到着する。階段を使ったためまた息が上がってしまったが、息を整えるのも惜しい。

 

 勢いよく扉を開け放ち了子の名を叫ぶ。

 果たしてそこには、ベッドでノートパソコンを叩く了子と、隣でリンゴを手で握り潰している弦十郎の姿があった。

 

 

 

「響ちゃんじゃない! なに、そんなに心配させちゃった?」

 

「当たり前ですよ! 了子さんが階段から落ちたなんて聞いたら……」

 

 

 

 数分前、あおいからは「了子が階段から落ちて怪我をした」と聞かされた。

 それで、てっきり階段から落ちたというのだから大怪我を予想していた響だったが、了子の様子を見る限り杞憂だったようだ。

 そういえばあおいとの通話は途中で切ってしまったのだが、切る直前に「幸いそれほど……」とかなんとか聞こえた気がする。

 

 

 

「……そう。そうなのよ~! うっかり足を踏み外しちゃって」

 

「という訳だ。数日間了子くんは本部に出向く事ができん」

 

「いつも心配してくれてありがとう。お姉さん、ちょっと感激しちゃうかも?」

 

「大事にならなくてよかったですよ~……」

 

 

 

 頭に包帯を巻いてさえいるが、いつもの了子だ。

 とりあえず安堵の息を漏らす。と、リンゴジュースを作り終え手を洗った弦十郎が話しかけてきた。

 

 

 

「時に響くん。君に一つ頼まれて欲しいのだが……」

 

「? どうしたんですか師匠?」

 

「先日、翼が目を覚ましたというのは聞いているな?」

 

「はい。一番危険な状態は脱したって」

 

 

 

 そう、それは聞いている。

 デュランダル争奪戦の翌日翼が目を覚ましたのだ。それから2日ほど経ち、ようやく集中治療室を出ることになったと聞いたときから見舞いに行きたいと思っていたのだが、弦十郎の方から切り出されるとは思っていなかった。

 

 

 

「何と言うか……色々と心配でな。見舞いに行ってもらえないだろうか。緒川も君に行ってほしがっているんだ」

 

「はい、それは大丈夫ですけど……師匠や緒川さんは行かないんですか? 叔父さんとマネージャーなのに」

 

 

 

 当然の疑問を口にする。

 見る限り翼と弦十郎の仲は悪くないように見えたし、慎次もまた翼のマネージャーとして良好な関係を築けていると思っている。

 なのになぜ響に任せるのだろうか。

 

 

 

「俺はこの通り、了子くんにつきっきりでな。緒川はスケジュール調整やらエージェントの仕事やらで、とても動ける状況じゃあないんだ。

 もちろん、時間のある時に見舞うつもりだが」

 

「そ・れ・に! そろそろお互いの頭も冷えたでしょうから、仲直りしてきなさいってコトよ!」

 

「なるほど……分かりました!」

 

「それと……まあ、それについては行って貰えれば分かる」

 

 

 

 そういうことなら納得だ。響は快諾し、弦十郎から見舞い品のリンゴを受け取り翼の病室の番号を確かめ、病室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翼の病室は了子のそれの三階上だった。

 今度は急ぐ必要もなかったのでエレベーターを使いゆっくりと移動する。落ち着いて見てみると、ガラス張りの壁面からは街を俯瞰することができることに気づいた。

 エレベーターから降り通路を歩く途中、その通路の壁もガラス張りになっていたので風景を楽しんでいるうちに目的地にたどり着く。

 

 

 扉をノックするも返事がない。

 おそるおそる扉を開けると────予想外の光景が広がっていた。

 

 

 ベッドのシーツはめくれあがり、枕は床に無造作に置かれている。

 最近真新しく置かれたのであろう花瓶は倒れ、中の水が溢れ花は落ち、クローゼットは乱雑に開けられたままとなっていて、そこから靴下や下着など衣服が無残に飛び出ていた。

 誰がどう見ても正気を疑う光景。響は一瞬あっけにとられ放心していたがやがて、

 

 

 

「まさか、そんなッ……!?」

 

 

 

 響が二課への協力を要請されたときに、弦十郎から「シンフォギアのことを無関係の人間に知られると、その人に危害が及びかねない」と言われた。

 翼は関係者どころか当事者であることに加え、長い間シンフォギア装者として活動していることから裏での知名度も相当に高かったはずだ。

 

 いつもなら心配など誰もしていないが、今はまだ病み上がりで不測の事態への対処ができなかったのかもしれない。

 例えば、誘拐のような。

 もし誰かにかどわかされたのだとすれば、一刻も早く弦十郎にこのことを知らせなければ……。

 

 

 

「何をしているのかしら?」

 

 

 

 後ろから声をかけられた。これは翼のものだ。理由を言おうと振り向き、この事態を伝えようとしたその瞬間。

 響は今の状況をようやく理解した。

 

 

 

「翼さん!? 大丈夫なんですか!? 本当に無事なんですかッ!?」

 

「入院患者に無事を訊くってどう言う事?」

 

「だって、これはッ!」

 

 

 

 胡乱げに響を見つめる翼に、病室が襲撃にあっていたことを伝えたが、そんな事実はないというのでひどい有様となっている病室を指差す。

 

 

 

「わたし、翼さんが誘拐されちゃったんじゃないかと思って! 二課の人たちが、陰謀がどうとかって言ってたし! ……え? えっ?」

 

 

 

 響が必死に状況を伝えていくのに比例して、翼の顔がだんだん俯かれていく。

 心なしか顔が赤いような……。

 

 

 

「あー……」

 

 

 

 襲撃事件の犯人が分かった気がする。

 それと同時に、翼が「片付けられない女」だという新事実も発覚した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 響はまず衣服の片付けから始めた。いつもは未来と二人で寮の片付けをしているのだが、翼がこの惨状を引き起こした張本人で、まだ病み上がりな以上手伝わせる訳にはいかない。

 つまり一人でやらなければならないのだ。

 

 

 

「そんなのいいから……」

 

「わたし、師匠や緒川さんからお見舞いを頼まれたんです。だからお片付けさせてくださいね!」

 

「私は、その……こういう所に気が回らなくて」

 

「意外です。翼さんって、なんでも完璧にこなすイメージがありましたから」

 

「真実は逆ね。私は戦う事しか知らないのよ」

 

 

 

 てきぱきと片付けながら翼と会話する。

 思えば、こうして落ち着いて翼と話す機会は今までなかった気がする。

 初対面は最悪、その後翼に攻撃され、響の無遠慮な発言でさらに溝は深まった。

 そこから1か月微妙な関係が続き、銀髪の少女との戦いで翼が戦線を離脱したためこういった時間がとれなかった、というのも大きいだろう。

 

 とりとめのないことを話しているうち、最後に地面に落ちていたテレビのリモコンを拾い上げ、ようやく片付けが完了した。

 

 

 

「おしまいです!」

 

「済まないわね、いつもは緒川さんがやってくれているのだけど」

 

「ええッ!? 男の人にですかッ!?」

 

「……?」

 

 

 

 思わず声が大きくなってしまった。

 翼はしばらく何を驚いているのか、とでも言いたげに首を傾げていたが、数秒の沈黙の後に一気に赤面する。事の重大さを理解したらしい。

 

 

 

「……ハッ!? 確かに考えてみれば色々問題がありそうだけど、それでも散らかしっぱなしにしているのはあまり良くないから、つい…………。

 そ、それより! 櫻井女史の負傷の程度はどうなのかしら?」

 

 

 

 早口でまくし立てた後、我に帰り咳払い。唐突な話題転換だったが、翼の意外な一面を知ることのできた響は上機嫌に了子の様子を伝えた。

 

 

 

「怪我も大したことなかったみたいで、いつも通り元気な了子さんでした」

 

「そう、それは何よりね。今はこんな状態だけど、報告書は読ませてもらっているわ。私が抜けた穴も貴女がよく埋めてくれているという事もね」

 

「そんなこと全然ありません! 今でも二課の人に助けられっぱなしですよ」

 

 

 

 少しだけあっけにとられてしまった。以前会ったときに比べて、翼の纏う雰囲気が全く違うことに気づいたからだ。

 鋭いオーラ、というのには変わりないのだが、例えると以前は「鋭く尖った棘」だったのが今は「研ぎ澄まされた刀」のような。物騒なものではなくなっている気がする。

 響の返答に微笑を浮かべたことからもそれがうかがえた。

 

 翼に連れられ、エレベーターをさらに登り屋上に向かう。当然だが、屋上から見る景色は下の階よりも見晴らしがよく、いくらでもこの光景を見ていたいと思った。

 

 翼にもこのことを伝えようと振り向くと、彼女はすでに中央のベンチに腰かけようとしていた。

 慌てて追いつき、翼の隣に座る。

 

 それにしても翼に褒められるというのは嬉しい。アーティストとしての翼のファンだからというのもあるが、最後にあったときよりも響のことを少しだけ認めてくれているような気がしたからだ。

 

 

 

「うれしいです。翼さんにそう言ってもらえるなんて」

 

「でも、だからこそ聞かせて欲しい。貴女の戦う理由を」

 

「えっ?」

 

「ノイズとの戦いは遊びではない。それは、今日まで死線を超えてきた貴女なら分かる筈」

 

 

 

 先ほどまでの雑談をしていた雰囲気は一気に消え失せ、翼に尋ねられた。

 響の戦う理由。いつかの夜、翼に問いかけられた際はなにも言うことができず、おかげで剣を当てられかけた。

 だが今はどうか。少し考える。

 

 

 

「よく、わかりません……わたし、人助けが趣味みたいなものだから……」

 

「それで? それだけで?」

 

 

 

 真っ直ぐこちらを見据える鋭い瞳。

 思わず、慌てて「勉強やスポーツとは違って人助けは誰かと競う必要がない」とか、「自分には特技や人に驕れるようなものがないから、せめて誰かの役に立てれば」とか。

 

 また悪い癖が出てしまった。早口であまり関係のないことを言い、最後は笑ってごまかす。未来にもよく言われていることだ。

 

 しかし翼はまだ響を見つめている。なぜか、それが響の心を落ち着かせてくれた。

 彼女が訊きたいのはそんなことではないはずだ。答えでなくとも、響がしっかりと考えたことを話せばいい。

 幸いにも翼はじっと返答を待っていてくれている。

 

 落ち着いて考えると、すぐに理由に行き着いた。

 

 

 

「……きっかけはあの日かもしれません」

 

「あの日?」

 

「わたしを救うために、奏さんが命を燃やした二年前のライブ。奏さんだけじゃありません、あの日たくさんの人が亡くなりました」

 

 

 

 しかし響は生き残り、こうして日常を過ごしている。

 だからせめて、自分の心身は誰かの役に立つため、誰かの助けとなるために使いたい。

 明日も未来や友人たちと笑い合いたいから。響の人助けはそういう理由だった。

 

 息を呑み反応を待つ。

 数秒の間を空けて、先に口を開けたのは翼の方だった。

 

 

 

「貴女らしいポジティブな理由ね。だけど、その想いは前向きな自殺衝動なのかもしれない。

 誰かの為に自分を犠牲にする事で、古傷の痛みから救われたいという自己断罪の表れなのかも」

 

「あの、わたし……変なこと言っちゃいましたか?」

 

「……変かどうかは私が決める事じゃないわ。自分で考え、自分で決める事ね」

 

 

 

 これまで未来や惣一に「お人好しすぎる」「自分のことも勘定に入れてくれ」など言われた響だが、前向きな自殺衝動とまで言われたのは初めてだ。

 それほど他の人の目には異常に映るのだろうか。

 

 自分で考える、とも言われたが、響にはいくら考えても分からないことがあった。デュランダルを掴んだ瞬間、目の前の銀髪の少女に向けて剣を振り下ろしたことだ。

 

 

 

「力の使い方を知るという事は、即ち戦士になるという事。それだけ、人としての生き方から遠ざかるという事なのよ。

 ────貴女に、その覚悟はあるのかしら」

 

 

 

 再び問いかけられる。

 これもあの日に投げかけられた問いだった。"胸の覚悟"と翼の称したそれ。

 銀髪の少女と遭遇した夜に半ば意地になって言いかけたことだが、いくつかの死線をくぐり抜けた今の響になら、また違った答えが出てくるだろう。

 

 

 

「────守りたいものがあるんです。それはなんでもないただの日常、そんな日常を大切にしたいと強く思っているんです。

 ……だけど思うばっかりで空回りして」

 

「戦いの中で、貴女が思っているのは?」

 

 

 

 今度は即答できる。翼の目を真っ直ぐに見つめ返し、響の"覚悟"を構える。

 

 

 

 

「ノイズに襲われている人がいるなら、1秒でも早く救い出したいです。最速で、最短で、まっすぐに、一直線に駆け付けたい!

 そして……もし相手がノイズではなく誰かなら。どうしても戦わなくちゃいけないのかって胸の疑問を、わたしの想いを届けたいです」

 

 

 

 

 

 薄く微笑む翼。どうやら響の決意が伝わったらしい。

 今思えば、いくら刀を突きつけられていたとはいえ、なぜあの時こんな簡単なことを言えなかったのかとさえ思う。

 答えはずっと前から知っていたはずなのに。

 

 

 

「今貴女の胸にあるものを、出来るだけ強くはっきりと思い描きなさい。それが貴女の戦う力……立花響のアームドギアに他ならないわ」

 

「翼さん……」

 

 

 

 今この瞬間、響と翼の間のわだかまりは完全に解かれたことが肌で感じられた。それは向こうも同じだろう。

 先ほど感じた、翼と少しだけ距離が縮まったというのはやはり正しかった。正しくなった、といった方が正確か。

 

 真面目な話は終わり、とばかりに響のおすすめの飲食店の話をする。翼はふらわーやナシタのことを知らないはずだ。だから今度案内しようと話し始めた響だったが。

 

 それは突如鳴り響いたアラームで中断させられた。

 さすがにもう1か月半もノイズと戦っているのだ、ある程度意識を切り替えることくらいはできる。

 ベンチから立ち上がり通信を始める。

 

 

 

「響です」

 

〈件の鎧を纏った少女が出現したッ! 場所はリディアン近くの森林公園! 詳しいポイントはすでにそちらに送ってある! 響くん、頼めるか?〉

 

「分かりました! すぐに向かいます!」

 

 

 

 翼に覚悟を言った直後に銀髪の少女が現れるという状況。まったく凄まじい偶然だと舌を巻く。

 通信の内容が聞こえていたのか、翼が響の通信機を手に取り自分も出撃すると進言した。

 

 

 

「司令、なら私も……」

 

〈駄目だッ! 今の状態のお前を戦場に立たせる訳にはいかん〉

 

「しかし、相手が完全聖遺物を纏う以上立花だけでは……」

 

「わたしなら大丈夫です、翼さん」

 

「立花……」

 

 

 

 安心させるように力強く頷く。

 翼は一瞬なにか言いたげな様子だったが、やがてゆっくりと頷き返し通信機に向けて不承不承ながら了承した、との旨を告げ響に返す。

 

 

 

「それじゃあ、行ってきますね!」

 

 

 

 エレベーターが下り翼の姿が見えなくなるまで大きく手を振る。彼女も見えなくなるまで見送ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 寮で暮らす生徒たちにとっては、リディアンへの通学路にもなる森林公園。敷地はかなり大きく、その中央に一本の大きな道が通っていて寮通いでなくとも景観目当てでそこを通ってリディアンにまで登校する生徒も多い。

 生徒たちからは大通りとも言われているその道からは枝分かれするように小さな道があり、それぞれ豊かな自然を観光することができる。

 

 そんな場所に銀髪の少女が現れたというのだ。

 通信機に送られた詳細データによると、この辺りに少女がいるはず。前後左右上下とあらゆる方向を探し始める響。

 

 

 

「……新作は何が……と思う?」

 

「わたしは……が……」

 

 

 

 正面から話し声が聞こえた。次第にこちらに近づいてくる。

 会話から察するに、間違いなく銀髪の少女ではない。一般人だ。それも二人。まずい、もし戦いに巻き込まれたら────!

 

 

 

「あっ、響!」

 

 

 

 なんたる偶然なのか。

 その一般人というのが、小日向未来と石動惣一だった。普段から呪われてるかもとうそぶく響だったが、今日ほど呪われていると思った日はあまりない。

 

 

 

「未来……!? それに、惣一おじさんも!? どうして……」

 

「案外言霊ってのも本当なのかもなァ。案外再会早かったじゃないの。未来ちゃん、今がチャンスだぜ?」

 

「……はい。ねえ響、わたしあなたに伝えたいことが……」

 

 

 

 惣一になにやら言われた未来は歩きから走りに変わり、今度は確実に響に向かって近づいてくる。

 

 

 

「来ちゃダメだッ!」

 

 

 

その叫びも虚しく、

 

 

 

「お前はァァッ!」

 

 

 

 最悪はさらに続く。

 視界の端に映った白い影。元々銀髪の少女の出現を受けてここに向かったのだ、少女がいるのは当然のことだった。

 茨の鞭を響の前へ叩きつける少女。地面の舗装が砕け。煙とともに激しい衝撃が近くにいた響と未来を襲い、それは鞭と比較的近かった未来の方が大きかった。

 

 悲鳴と共に身体が宙を舞う未来。

 

 

 

「未来ちゃんッ!?」

 

 

 

 突然の事態であったが、惣一の行動は早かった。

 未来が地上に激突する直前その間に割り込み、未来を抱きとめることで怪我を防いだ。

 

 

 

「フゥーッ、危ねえ危ねえ! いろいろと触っちまってるのは勘弁してくれよ!」

 

「いや、そんなの全然……。助けてくれてありがとうございます!」

 

「二人とも早く逃げるんだ!」

 

「しまったッ、あいつの他にもいたのか……!」

 

 

 

 未来が無事だという事実に安心し、頭上への注意が散漫となってしまっていた。

 未来と惣一の周囲が暗くなる。不思議に思ったのか二人が上を見上げると。

 

 

 

 乗用車が落ちてきた。

 

 

 

 銀髪の少女が鞭を振るった先には一台の車が停車してあったのだ。不幸にもそれが衝撃で打ち上がってしまったらしい。

 あの距離では逃げることは不可能。二人とも車の下敷きとなってしまう。

 助かる手段はただ一つ、シンフォギアを纏い車を破壊することだ。しかし二人はシンフォギアのことを知らない。

 正体を露見されればどのような被害が及ぶか分からない、と弦十郎が言っていた。

 

 それでも二人を。

 大切な人を護るために。四の五のいっていられない。

 決断はいつも最速に。

 

 覚悟は決まった。

 

 

 

 

 

「Balwisyal Nescell gungnir tron」

 

 

 

 

 

 地面を蹴り、一瞬で二人の前にまで躍り出る。

 右腕で車の扉を殴り抜く。車は容易く落下の方向を変え、二人の後ろで鉄塊と成り果てた。

 二人を救えた。しかし────。

 

 

 

 

 

「響……?」

 

「おいおい……何の冗談だってんだ?」

 

 

 

 

 

「……ごめん、二人とも」

 

 

 

 嘘は暴かれた。

 たとえそれが大切な人を守るためのものだったとしても。

 なんでもない日常を護るといったのは響自身であったはずなのに。

 二人を守れたはずなのに。

 響の心は、一向に晴れる気配を見せなかった。




煉獄滅殲スコーピオンディストピアがかっこいい要素しかない


5期の翼さんだと
「すまないな立花。不肖ながら、平時であれば緒川さんが私の代わりに片付けを行って頂いているのだが」
くらいSAKIMORI濃度濃くなりそう
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