戦姫絶唱シンフォギア Evolution's Symphony 作:セグウェイノイズ
あと後半やっつけです
未来→惣一→響→クリス→弦十郎→クリス→翼→弦十郎の順
視点変更のときわかりやすくなるようにいろいろ模索中です
「お邪魔します」
「よう未来ちゃん。珍しいじゃないの、今日は一人か?」
「響は用事があって……」
響が病院に走って行った後、未来は一人ナシタへと赴いた。そのまま帰ろうかとも考えたが、今は無性に誰かと話をしたい気分だったからだ。
最初はふらわーにでも寄ろうと思っていたが、こちらの方が近かったのでナシタに入った。
「で、注文は?」
「おまかせセット一つお願いします」
「えッ、どうしたんだよ未来ちゃん。いつもは死んでも頼まない的な雰囲気出してるってのに」
「いいから作ってください。お腹空いてるんです」
思わず言葉に棘が出てしまう。
自分でも分かっている、これは八つ当たりだ。
未来はナシタに寄る前に少しだけリディアンの図書室へ向かっていた。時間ができたのと思うところあって、気分を落ち着けたいと思ったからだったのだが。
リディアンと病院は隣接している。ゆえにこちらからも病室の様子が見えるときがあるのだ。
ふと、窓の外を見つめたとき、見えてしまった。
響が話題のアーティストであり大ファンの風鳴翼と仲睦まじく話しているのを。
それにそのとき響が見せた笑顔は、近頃よくするようになった作り笑顔などではなく、本当に楽しそうなものだった。
知り合いとは翼のことだったのか、とか。
なぜまだ知り合って数か月もないはずの翼の前でそんな笑顔をみせるのか、とか。
自分でも分からない感情の波に流され、気がついたときにはリディアンを出ていた。
肩をすくめながら材料を用意する惣一。
「未来ちゃんがそんな顔するってェと……やっぱ響ちゃん絡みか?」
「まあ……」
「俺は二人がここにいる時のことしか知らねぇしなぁ……」
野菜をパンに挟みながら、しばらくの沈黙。
それが破られたのは、未来の前のテーブルに料理が並べられたトレイが置かれたときだった。
「ま、とにもかくにも腹ごしらえだ! 腹減ってると嫌な事ばっか考えちまうもんだし。バイト先の店長の受け売りだけど」
そう言って出されたのは、野菜やハムなどさまざまな食材が挟まれたサンドイッチと香ばしい匂いが食欲をそそる褐色のスープ。
そして、トレイの右端に控えめに置かれてあるコーヒーのような何か。
一瞬後悔が頭をよぎるも、もう遅い。
コーヒー以外が美味しいことは分かっているのだから、未来は覚悟を決めた。
「い、いただきます」
スープを一口飲んでみる。
美味しい。ここで味わったことのない味だ。
ちょうどいい温度で温められたスープで、ささくれだっていた未来の心が解けていく気がする。
「……おいしいです、すごく」
「だろ〜!? スープの味付け変えたんだよ! 自分でもイケると思ってたんだよなァ」
褒められるとすぐ調子に乗る。
それが惣一の美点であり欠点であるのかもしれない。だが、そんな彼だからこそ未来も話す気になれたのかもしれない。
「あの……聞いてくれますか?」
「当たり前でしょうが。"子供が迷ってるなら、それを解決する手助けをしてやるのが大人の仕事だ"ってダンナも言ってたし」
「ダンナ」とは誰のことなのか未来には知る由もないが、そんな人物なら会ってみたいと思う。
コーヒーを丁重に断りながら、数時間前の出来事を話し始めた。
「なるほどなァ。それで未来ちゃんは不安ってか」
「響がなにか隠し事をしてるのが気になるんです。全然言ってくれなくて」
惣一は未来の隣のカウンター席に腰掛け、いつものように茶化すことなく本腰を入れて話を聞いてくれた。
自分でも上手く話せたか分からないが。
自分では答えの出せない悩み。当然惣一でも簡単に答えられるものではないと思ってばかりいたが、その予想に反して彼はほんの3秒ほどで唸るのをやめた。
「当然、響ちゃんにも何か事情があるんだろうが……そんなに気になるんなら直接訊いてみりゃいいじゃねえか」
「ちょ、直接てすか?」
「ああ。前にダンナにも言ったけど、一度腹割って話し合うとな、思わぬ発見があるもんなんだよ」
「思わぬ発見……」
一度は面食らってしまったが、考えるとそれが最適解な気がしてきた。
遠回りして考えることより、至極単純なことだった。しかし、不思議と惣一の言葉には説得力がある。
何も分からないまま、未来が勝手に思い込んでいるだけかもしれないのだ。一度彼の言う通り腹を割って話し合えば、きっと。
「響ちゃんは実は風鳴翼と仲がいいのを隠していた! とか?」
「うーん……」
微妙だ。多少は驚くが、隠さなければならないほどのことではない。それに響なら真っ先に満面の笑みで未来に言いに来るに違いない。
その後も様々なアイデアを出し合い続けたが、どれもそれらしきものではなかった。
「……あっ、もうこんな時間かよ!?」
何気なく壁掛け時計を見ていた惣一が突然声を上げた。
急ぎエプロンとハットを外しシャツの上に黒い革ジャンを羽織る。何事かと訳を尋ねると、
「悪い未来ちゃん、俺今日バイト入ってんのよ」
「こんな時間にバイト、ですか?」
「ああ。知ってると思うけど、うちの経営なぜか火の車だろ?」
「なぜか……まあ」
「だからバイトでもしてないとやってらんないって訳」
惣一がバイトをしているのは知っている。給料のいい夜間のバイトの方がいいのでは、と一瞬考えたが夕方からしないと経営が回らないのか……と気づきこれ以上言わないようにした。
どう考えても経営が火の車の理由は一つしかないのだが、本人はそれに気づいていない。
というか見て見ぬふりをしている。
「今からですか?」
「いや、まだ時間あんだけど……ここの買い出しもしなきゃなんねえから早めに店閉めることにしててさ」
「……手伝いましょうか? 寮に戻っても暇なので」
「マジで!?」
リディアンの寮からそう離れていない森林公園。
普段通学路としても利用しているが、ここの近くにこれほど安いスーパーがあるとは知らなかった。
この値段なら料理で失敗してもギリギリセーフだと信じたい。
袋に大量の食材を詰めて自転車の荷台に乗せている。他にもハンドルに引っかけたり惣一自身が両手に持ったりと大変そうだ。
普段ならバイクを使っているそうだが、今回は自転車にしてくれたのであまり大変ではない。
「いやあ助かった! おかげで余裕持ってバイト行けるってもんだ」
「いえ。私も色々アドバイスもらいましたし、お互い様です」
「だな。で、なにか新メニューの案とかねえかな?」
「うーん……わたしは料理が得意じゃないからよか分からないですけど……」
しばらく道を歩いていると、遠くからこちらに走ってくる人影が見えた。
焦っているのか、きょろきょろと辺りを見回しながら走っている。
その姿に、未来はどこか見覚えがあって。
「……ん? あれ響ちゃんじゃねえの?」
「……ごめん、二人とも」
目の前で妙な鎧を纏った親友が音楽を流しながら車を殴り飛ばした。
訳が分からない。
響は一度こちらを一瞥した後、表情を厳しいそれに変え森中に飛び込んでいった。
「あっ、響……」
「待て未来ちゃん!」
思わず追いかけそうになった未来の腕が掴まれ、強い力で引き戻される。
しかし響の後を追いかけたい。今すぐにでも響に問い詰めたい。
「でもッ!」
「でもも何もねえよ! 見ろ、もう戦いが始まってる!
なんで響ちゃんがあんな力持ってんのかなんて事は生きてりゃいつでも聞ける。今は避難するんだ」
その言葉の直後、惣一が指差した先の森から轟音と爆煙が上がる。
断続的に起こる衝撃と彼の存在もあって、未来は一周回っていくらか落ち着きを取り戻した。
「……はい!」
未来の手が引かれる。惣一が先行で走り、ひとまず公園の外にまでたどり着く。元より出口が近かったこともあり、ほんの数分で出ることができた。
もう寮は目と鼻の先だ。このまま惣一と寮まで逃げ込めば……。
と、突然惣一が未来の手を離してきた。
何事か、と尋ねると、
「未来ちゃんはこのまま寮に向かって走れ。俺は助けを呼んでくる」
「えっ、そんな……」
「いいから! 帰ったら俺に連絡よこしてくれよ!」
寮とは反対側に向かいながら言われる。
だが、どう考えても危険だ。危険すぎる。
「でも、それじゃ惣一さんが……」
「大丈夫だって。じゃ、また今度な。チャオ!」
最後はいつもの調子だった。
それでも、と食い下がるより前に、すでに惣一の姿は消えていた。
「面白くなってきたじゃねェか」
ここは監視カメラの死角となっている。バイト帰りの偵察で調べたので間違いはない。
響があそこに現れたのは、恐らくクリスを探すため。
彼女が現れたのはフィーネの指示によるもので間違いない。
思えば、響のガングニールから流れる音楽が変わっていた。また一つ強くなったということだろうか。
未来の話を聞く限り翼も目を覚ましたようだ。戦場に赴く可能性は高い。
高鳴る鼓動を抑えるべく、一度大きく深呼吸する。
【コブラ!】
「蒸血」
トランスチームガンにコブラロストボトルを装填し、引き金を引く。
【ミストマッチ……! コッ・コブラ……コブラ……】
全身が銃口から噴出される赤黒い『トランジェルスチーム』で覆われ、花火を思わせる激しいスパークを奔らせる。
【ファイヤー!】
赤い鎧と青緑色のクリアゴーグルが装着され、ブラッドスタークへの変身が完了する。
後は頃合いを見て戦場に乱入するだけだ。
たった今、戦闘の火蓋は切られた。
前方から飛んでくる茨。今までの少女との戦いで、あの茨の威力は十分分かっている。
響は棘と棘の間の節を掴み、攻撃の威力を削ぐことに成功する。
「どんくせえのがやってくれる!」
「どんくさいなんて名前じゃない!」
「?」
挑発のつもりだったのか、威勢のいい表情だった少女が一気に困惑に染まる。
翼との問答を経て、響にも言いたいことがあったのだ。
何事かと身構える少女。
「わたしは立花響、15歳! 誕生日は9月の13日で、血液型はO型ッ! 身長はこの間の測定じゃ157センチ! 体重は……もう少し仲良くなったら教えてあげるッ! 趣味は人助けで、好きなものはごはん&ごはん!」
少女は何も言わない。なぜか固まっているらしい。
「後は……彼氏いない歴は年齢と同じィッ!」
「なッ、何をトチ狂ってやがるんだ、お前?」
他人を知るにはまず自分から。響はそう思っている。
だから自己紹介をしただけなのだが、なぜ「トチ狂っている」と言われたのか。
「わたしたちはノイズと違って言葉が通じ合うんだから、ちゃんと話し合いたいッ!」
「なんて悠長! この期に及んでッ!」
しかし、少女はそれに聞く耳を持たず問答無用とばかりに茨の鞭を振り下ろす。
間一髪。すんでのところで回避。
連日行っている弦十郎秘蔵の戦術マニュアルや修業にて、響の動体視力は以前とは比べ物にならないほど成長した。
バッティングセンターに連れ出されたときは何事かと思ったが、それにも意味があったようだ。
次第に鞭の速度と威力が上がっていく。
反面、初撃よりも精度は明らかに落ちている。つまり、相手は焦っているということ。
今なら、と攻撃の合間をぬって少女への対話の試みを続ける。
「話し合おうよ! わたしたちは戦っちゃいけないんだ!」
と。
突然、攻撃の手が止まった。少女を見ると先ほどのように固まっている。
今が好機だ、と響は拳を開き、少女に近づく。
「だって、言葉が通じ合えば人間は……」
「────うるせえッ!!」
空気が震える。
少女から発せられた言葉は、決して友好的なそれではなく、これ以上の対話を拒否するものだった。
響や翼とそう変わらぬ年齢のはずなのに、こんな激情がなぜ身についたのか。
「分かり合えるものかよ人間が! そんな風にできているものかッ!
気に入らねえ……気に入らねえ気に入らねえ気に入らねえェッ! 分かっちゃいねえことをべらべらと口ずさむお前がぁぁぁッ!!」
一口にまくし立てられ、少し気圧されてしまう。
自分でも自覚しているが、響は無自覚に相手の地雷を真上から踏み抜いてしまうという悪癖がある。
まさか今回も踏んでしまったのかと、不安を覚えたのも束の間。
少女は大きく飛び上がり、鞭の先端から高密度の光球を生成した。
まずい。以前の戦いであれを食らった翼が大きくダメージを負ってしまったのは記憶に新しい。
「お前を引きずってこいと言われたがもうそんなことはどうでもいい……! お前をこの手で叩き潰す! 今度こそお前の全てを踏みにじってやるッ!!」
黒いスパークを奔らせた光球が、次第に大きさを増していく。
まともに食らえば敗北は必至。
響だってここでやられる訳にはいかない。
「喰らいやがれぇぇぇッ!!」
裂帛の叫びと共に放たれる光球。
回避は不可能。ならば、受け止めるしかない。
両腕を交差させ、NIRVANA GEDONの直撃に耐える。
凄まじい圧力が響を襲う。歯を食いしばり、衝撃が終わるのを待っていたのだが。
「もってけダブルだァッ!!」
そんな響の願望に反して、続けて放たれた二発目。そんなものを耐えられる訳がない。
ならば。
そして、大爆発が起きる。
響は光球に押しつぶされ、当初の宣言通り少女に叩き潰され────。
「……ッ!?」
違う。
両手の間で生成したエネルギーによってNIRVANA GEDONを相殺したのだ。
響の見立ては構築が完了したアームドギアで危機を脱する! というものだったが、構築の途中でエネルギーが暴発し結果相殺という形になってしまった。
そのことを知らない銀髪の少女は驚愕の表情を見せている。
これは2度目の挑戦だ。
球状に広がっていくエネルギーを押さえ込むように両手で包む響だが、ほんの数秒で抑えきれず爆発、吹き飛んでしまう。
「なら……!」
この少女とは、本気で話し合いたい。
本当の気持ちで、向かい合いたい。
そのために一番手っ取り早いのは……。
響は右手に三度アームドギア生成のためのエネルギーを出現させる。
そして、それを
ギア形成のエネルギーはある。しかしそれを具現化できないのであれば、エネルギーを直接相手にぶつければ同じこと。
右手を握り締めたと同時に腕部ユニットの一部がスライドする。
準備は整った。
「させるかよッ!」
しかし、攻撃の瞬間まで待ってくれないのが戦場だ。さすがにそこは理解している。
茨の鞭が響に風穴を穿たんと伸びてくる。それを、響は。
「稲妻を喰らい、雷を握り潰すように打つべしッ!」という弦十郎の助言。
────雷を、握り潰すようにッ!
それに従い、握り潰した。
二本纏めて握り潰したので、少女は動きを大きく制限される。
「なんだと!?」
そしてそれを力の限り引っ張る。
当然、想定外の行動に少女は対応などできるはずもなく、響にされるがままに引っ張られる。
防御体勢など取れない。正面がガラ空きだ。
腰部のバーニアを点火。瞬間的に加速した響は、ほんの数瞬で少女の目前へと迫った。
────最速で……
右腕を振りかぶる。
────最短で、
腰を捻る。
────真っ直ぐに!
真っ直ぐに、少女へと伸びていく拳。
────一直線にッ!
どこまでも、この先の未来へまでも飛んでいける。
この想いを貫けば、きっと。
「胸の響きを、この想いをッ!」
「まさか、アームドギアのエネルギーを直接ッ!?」
狼狽する少女。
しかし、もう何をしても間に合わない。
「伝えるために────ッ!!」
入った。
突き進む槍の如く少女に突き刺さった正拳。
こちらに逆流してくるエネルギーごと相手にぶつけるべく、右腕のハンマーパーツとでもいうべきユニットの位置が伸ばしたバネが勢いよく戻るように、一気に戻される。
衝撃が少女の身体を突き抜けるのを感じる。
少女の身体が響の拳から離れたと認識した瞬間、遠方にて爆発音が聞こえた。
まだ音楽が聞こえる。
ということは、立花響は近くまで来ているということだ。
今受けたのは何だ? あんなものはパンチではない。
アームドギア形成のエネルギーを利用したといっても、度が過ぎている。
この力は、以前風鳴翼が放った絶唱に匹敵しかねないではないか。
周囲のノイズも殲滅対象に含まれていたため威力も分散されていた翼の絶唱とは違い、今の攻撃は一点集中型だ。
微かに動く首を腹部の鎧に向けると、すでにそこは鎧の原型を留めていなかった。
それどころか肩部の鎧や茨の鞭などもほぼ全壊。
どう考えても力を手にして数ヶ月の者が出していいものではない。
それ以上の思考は、全身を蝕む痛みが許さなかった。
ほぼ全壊まで追い込まれたとしても、ほんの一欠片でも残っている限り再生するのがネフシュタンの特性。
その際に装着者ごと再生しようとするのが欠点だが。
「食い破られる前に片を付けなきゃってのに……!」
少女は動き出す。
土煙が晴れていく。この時間で響が近くにいないとも限らない。しかし、攻撃が飛んでこないということはまだ追いつかれていないということ。
痛みを堪えながら立ち上がると。
「なッ……」
ほんの数メートル先に、立花響が立っていた。
それも、戦いは終わったとばかりに完全に構えを解いて。
その姿を見て、少女が最初に抱いたのは、"怒り"だった。
「お前、バカにしてんのかッ!? このあたしを────
「……そっか、クリスちゃんっていうんだ」
「ッ!?」
言ってしまった。自身の名前を。
《雪音クリス》。これから倒す相手に余計なことは知られたくなかったというのに。
この能天気な娘に名前など知られれば……
「ねえクリスちゃん、こんな戦いもうやめようよ。ノイズと違って、わたしたちは言葉を交わすことが出来る! ちゃんと話をすれば、きっと分かり合えるはず!
だってわたしたち、同じ人間だよ!?」
この思考と三度も顔を合わせると、嫌でも分かることがある。
"一度目偶然二度奇跡、三度目必然四運命"とは誰の言葉だったか。それが本当ならクリスと響が相対するのは必然ということになる。
だからというべきか、響が何を言ってくるかなんとなく予想できた自分がいた。
それが何よりも腹立たしい。
「……臭えんだよ。嘘臭え、青臭えッ!」
再生が終わるまで鞭を使うことはできない、というか、そろそろ面倒だ。
そこでクリスは正面から響に迫り、殴り飛ばし、蹴り飛ばす。
完全聖遺物の力もあって、完全に構えを解いていた響は後ろに吹き飛ばされた。
続けて仕掛けようと思った矢先、
「グッ……!」
鎧が再び再生を始めた。
最も損壊の大きい部分、つまり腹部から優先的に
この痛みも面倒だ。だが、ネフシュタンを手放すということはすなわち。
しかし、ここで響を倒すには
言いようのない苛立ちを吐き捨てるかのように舌打ちする。
クリスが嫌うアレをやる以上、ここで決着をつけなければ気が済まない。
まずはこの邪魔な鎧をどうにかしなければ────!
「ぶっ飛べよ! アーマーパージだッ!」
クリスが鎧っていたネフシュタンの鎧が爆裂。数多のパーツとなって四方八方へ飛び散った。
飛び散ったといってもその欠片一つ一つが完全聖遺物だ。周辺の木々や地面が土煙や木端をまき散らしながら穿たれる。
もちろん響には狙って当てていない。
ここまで見せたのだ、必ず自らの手で倒してやる。
恐らく響は未だ状況を理解できていないだろう。
その隙に。
「Killter ichaibal tron」
「この歌って……!?」
「見せてやる」
これを使うのは久しぶりだ。
奴に威を示すために、クリスは歌う。
「────イチイバルの力だ」
「イチイバルだとォッ!?」
新たなる聖遺物の登場は、二課本部をも衝撃の渦で包んでいた。
かつて、二課の司令の前任がイチイバルの紛失騒ぎの責任を取り辞任するという曰く付きの聖遺物。
まさか向こうに渡っているとは。
「アウフヴァッヘン波形検知!」
「過去のデータとの照合完了! コードイチイバルです!」
照合結果からしても誤認ということはないらしい。
……しかし、イチイバルを所持していると"彼女"は一言も言っていなかった。一杯食わされたようだ。
「失われた第二号聖遺物《イチイバル》……。やはり、そう簡単に話してはくれんか……!」
土煙が溢れ出るフォニックゲインで振り払われ、お互いの姿が明らかになる。
向こうは先ほどと変わらず、惚けた顔をしている。
対して、こちらは。
「クリスちゃん、わたしたちと同じ……」
「────歌わせたな」
白と緑を基調としていたネフシュタンとは一転、黒と赤を基調とし、腰部には茨の鞭の代わりに大型のミサイルユニットが。
緑のバイザーの代わりに赤い鋭角状のヘッドギアが装着されている。
これがイチイバル。
クリスが適合した、第二号聖遺物のシンフォギアだ。
「あたしに歌を歌わせたな! 教えてやる、あたしは歌が大っ嫌いだッ!」
「歌が、嫌い……?」
『傷ごとエグれば、忘れられるってコトだろ!?』
この娘の掲げるいい子ぶった正義なんて、剥がしてしまえばいい。
両腕のユニットを変形、クロスボウ型にする。
そこから5本の光矢を充填、発射。高速で響の足元へ飛来、地面を抉る光矢に響はただ逃げ惑うことしかできない。
しかしそれはただの陽動だ。
アームドギアを巨大化、ガトリング型に変形させる。
右腕に3門、左腕に3門。計6門の銃口が、薬莢を撒き散らしながら盛大に火を噴く。
《BILLION MEIDEN》により、横に打ち付ける雨のように一直線に飛んでいく銃弾。
『全部! 全部! 全部! 全部! 全部ッ!!』
まだ足りない。
ダメ押しとばかりに腰部のユニットを展開、生成した多数の小型ミサイルを一斉に発射する。
周囲への被害を考えずに放たれたミサイル、《MEGA DETH PARTY》だが、そのほとんどが障害物に当たらず響の元へ不規則に蛇行しながら迫っていく。
直後、大爆発が起こるもクリスは攻撃の手を休めない。
爆撃は終わってもガトリング砲の射撃は止めない。
感情のまま放つその姿は、まるで、怒りを何かにぶつけているようで。
「否定してやる! そうッ、否定してやるッ!!」
地形を変えてしまうほどの時間、攻撃を続けた。
やってしまった。力で敵を捻じ伏せると誓ったものの、これでは……。
いや。
何かおかしい。具体的には言えないが、何かがおかしい。
目を凝らして爆煙を見ると、次第に晴れていく煙と共に何か壁のようなものが見えて来た。
あれは壁、否。
「盾……?」
思ったままの言葉だった。
見えたのは銀地に青のラインが入っている物体だった。
ガングニールにあのような機能はあったのか。そもそもあったとしても響はアームドギアを使えない。
あの一瞬で使えるようになるなどというのはテレビの向こうの話だ。
なら、誰が。
「────剣だッ!」
聞こえるはずのない声が聞こえた。
よく見ると、盾だと思っていた物体の両橋には刃が付いている。つまり、巨大な剣が地面に突き刺さり爆撃から響を守ったのだ。
そんな芸当ができるのはただ一人────。
「ハッ! 死に体でおねんねと聞いていたが、足手纏いを庇いに現れたか?」
「もう何も……失うものかと決めたのだ」
響が走り去っていった後、翼はそのまま病室に戻ろうとした。
実際戻ったのだが、その数分後に爆発音が聞こえた。
急ぎ弦十郎に確認を取ったところ、渋々ながらもネフシュタンの少女が響と交戦中という旨を聞かされ、ここに急行したのだ。
〈翼。……無理はするな〉
「はい」
響の助っ人に立つことを認めてくれた叔父には感謝しかない。
思えば今まで反抗的な態度ばかりとっていたものだ、と自省する。後で職員たちにも謝らねばならない。
「翼さん……?」
天ノ逆鱗の後ろで目をつぶっていた響が翼の存在に気づく。
戦う理由はある。それにネフシュタンの少女、雪音クリス相手にここまで持ってこれたのだ。
今の彼女を素人、足手まとい扱いなど誰ができようか。
「気付いたか立花。だが私とて十全ではない。力を貸してほしい」
「……はいッ!」
クリスが標的を翼に変更し、砲門をこちらに向けてくる。
銃火器を得物とする相手との立ち合いは初めてだが、対処できない相手ではない。
銃弾を発射。それを天ノ逆鱗から飛び降りることで難なくかわし、着地と同時にX字に斬撃を仕掛ける。
かわされたと見るやいなやクリスの頭上に飛び上がり、反撃を未然に防ぐ。刀を一閃し後ずさらせることも忘れない。
数歩下がったところで、その小柄な体とは不釣り合いなほど大きなガトリング砲は翼の攻撃範囲に入っている。
刀の柄でガトリング砲を押す。
体勢を崩したクリスの背後に移動し、刀を担ぎ刃を彼女の首元に向ける。
以前とはまるで動きが違う、とでも考えているのだろう。クリスの動きが止まっている。
当然だ。今までの翼の戦闘はノイズの殲滅に逸るあまり必殺技を連発する、いうなら燃費の悪いものだった。
しかし翼の、天羽々斬の本来の戦闘スタイルはむしろ逆。高速機動にて戦場を駆け回り、卓越した技量にて敵を葬るものなのだ。
言うなら"余裕のできた"今の翼に、感情のまま得物を振るう今のクリスなど敵ではない。
それにしても妙に体が軽い。なぜだろうか。
「翼さん、その子はッ……!」
「分かっている」
左腕のガトリング砲で剣を弾き、距離を取られる。
響がここまで言うのだ、刃を交える敵ではないと信じたい。それに、十年前に失われた第二号聖遺物の事も質さなければならない。
第2ラウンドが始まろうとした刹那、空から飛んできた何かがクリスのアームドギアを両門とも破壊する。
「なッ!?」
空を見上げる一同────そこにはノイズが。
元々三体いたのだろうか、その最後の一体が無防備となっているクリスに襲い掛かる。
不意打ちを食らって隙ができたクリスは対処することができない。だが攻撃を受けていない翼なら切り捨てることができる。
それは未然に終わった。
横から飛び出た響が、身を挺してノイズの攻撃からクリスを守ったのだ。
「立花ッ!?」
「お前なにやってんだよ!?」
「ごめん……クリスちゃんに当たりそうだったから、つい……」
そのまま受け身もとらず落下してくる響を抱きとめるクリス。
彼女も思わず、といったようで抱きとめた後に目を見開いている。
妙な沈黙が一同を覆う。
それを破ったのは、嫌なほど聞き覚えのある声だった。
『随分と仲良くしてるじゃねェか。俺としては嬉しい限りだが、こんなのフィーネの奴が見たらどう思うだろうなァ?』
背後から聞こえる声の主を探すが、相手は隠れる気がないのか木にもたれかかっていた。
右手には見覚えのある聖遺物、ソロモンの杖が握られている。
「スタークッ!?」
声の主────ブラッドスタークが今のノイズを召喚したのか。
しかし、入院中に目を通した報告書によるとスタークとクリスは協力関係にあったはずだ。
なぜクリスの行動の妨害など行ったのだろう。
それより今気になるのは、スタークの口から妙な単語が出たことだ。
「フィーネ……終わりの名を持つ者……?」
明らかに人名としての使い方だ。
だとすると、フィーネという人物が一連の事件の首謀者である、という可能性が高い。
まずはフィーネについて質さなければ……と、スタークに刀の切っ先を向けたのも束の間、先に仕掛けてきたのはスタークの方だった。
地面を滑りながら3人に接近し、すれ違いざまに足、腰、腕と各部を触っていく。
いきなりのスタークの蛮行に思わず変な声が出てしまう。クリスと響も同じだったようで、奇しくも揃って抗議する形になった。
「何をするッ!?」
『まあ落ち着けって。そうだな……。
クリスが2.9、翼が3.0、響が3.2ってところか。なんだよ、翼にも抜かれちまったなァクリスちゃん?』
「何のつもりだ!? あたしにノイズをけしかけたりなんかしやがって! こいつをフィーネが知ったら……」
今の蛮行は装者たちの"何か"を測っていたらしい。
数値を聞けばどうやら響が最も高く、クリスが最も低い。だがそれがなんだというのか。
『そのフィーネから伝言を頼まれてな。"お前はもう用済み"だとよ』
「ッ!?……なんだよそれッ!?」
『俺が知る訳ないだろ』
スタークは大袈裟に肩をすくめ、クリスに伝言を伝えた。
用済み、つまり裏切られたという形になる。フィーネという人物に、その取り引き相手のブラッドスターク。
シンフォギアと適合した装者をこうも容易く切り捨てるとは、一体何の目的があるのか。
そのまま背を向け森に消えようとしていたスタークだが、そんなことは許さない。
「待ちなさいブラッドスターク。このまま逃げおおせるとでも思っているのかしら?」
『翼か。いつかも聞いたなァそんな台詞。とにかく退院おめでとさん。身体は大事にしろよな』
「……こちらの質問に答えなさい」
『なんだ。てっきり斬り掛かってくると思ってたが、八つ当たりは終わったらしいな。お前も響に絆されたってクチか……やるじゃねェか響』
「不要な会話は認めていないわ」
気持ちを乱すな。
少なくとも翼はまだ、二年前の惨劇にスタークが関わっていると疑っている。
今までの翼であれば、この時点で大技を放っていただろう。しかし、今は違う。
怒ったまま、その感情に蓋をするのだ。
「おいッ! ちゃんと訳を話しやがれッ!」
『知らねえって言っただろ。そんなに知りたきゃ、本人に訊くのをオススメするよ』
そんな翼の感情もいざ知らず、声を荒げて二人の前に立つクリス。なおも抗議をやめない。
しかしスタークはどこ吹く風だ。適当にあしらった後、周辺に散らばっていたネフシュタンの欠片を回収し、トランスチームガンから煙幕を撒き散らし撤退した。
「待てよッ!!」
どこに消えたのかは翼たちには知る由もない。クリスは心当たりがあるのか、一直線にどこかへと消えていった。
追いかけようとも思ったが、響の安全が最優先だ。先ほどの戦いでダメージを負ったらしく足元がおぼつかなくなっている。
「……一先ずは本部へ戻ろう。戦闘を見られたという者達も、すでに二課が保護しているはず」
「はい。……クリスちゃん、未来……」
多くの謎を残したまま、今回の一戦は終了した。
「反応ロスト、これ以上の追跡は不可能です」
「こっちはビンゴですよ」
シンフォギアを解除したのか、アウフヴァッヘン波形を追っての少女の追跡は不可能となってしまった。
しかし、イチイバルを纏った少女、雪音クリスの身元については調べがついた。
「雪音クリス、現在16歳。2年前に行方知れずとなった、過去に選抜されたギア装着候補の一人です」
朔也の言う通り、クリスは元々二課がギア装着候補として名の上がっていた少女だった。
しかしある日、内戦の続くバルベルデ共和国からの帰国直後突如として失踪してしまった、という経緯がある。
これも"彼女"からは教えられていない。だが。
「……君の言う事はやはり正しかったようだな」
「司令?」
「いや、なんでもない。それより雪音クリスの居場所の特定を急ぐんだ。俺は少し野暮用ができた」
彼女はこうも言っていた。
"あの子は貴方にとっても無関係の者ではない"と。
やはり、イチイバルの件は知っていて隠していたのだろう。
病院に赴こうとしたその時、二課の通信機に着信が入った。
相手の名は緒川慎次。弦十郎の腹心だ。
あおいに連絡を繋ぐよう指示。間もなく音声がスピーカーを通して発せられた。
〈司令ッ!〉
「どうした、緊急事態か?」
慎次にしては妙に焦っている声色だ。
一体何があったのか続きを促すと、
〈調査部から、病院の306号室がブラッドスタークの襲撃に遭い、了子さんが攫われたとの報告が!〉
「何だとォッ!?」
彼氏はいなくても嫁はいるんだよなぁ