戦姫絶唱シンフォギア Evolution's Symphony   作:セグウェイノイズ

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戦姫絶唱シンフォギア原作9話の三つの出来事!
一つ! 響と翼と未来がデートに行く! 演歌も歌う!
二つ! 翼がライブ中エア奏の声を聞いて吹っ切れた!
そして三つ! 後藤が誤ってオーズを撃ってしまった!

クッソ長いくせにほぼ流れ同じです


EPISODE12「灼熱のレクイエム」

 静寂が辺りを包む。

 それはクリスの眉間に風穴が空いたからではなく、何かの故障でトランスチームガンが撃たれなかった訳でもない。

 引き金は引かれ、エネルギー弾が放たれたのは事実。クリスが動かなかったのも同様だった。

 エネルギー弾を"殴って"消し飛ばした人間が割り込んでくればそれも当然かもしれないが。

 

 

 

『なッ!?』

 

「……お、お前はッ……!?」

 

「近くでノイズ被害の後処理中でな。イチイバルの反応を検知した事から、君が近くにいると判断した」

 

 

 

 突如クリスを守るように現れた大男、風鳴弦十郎。なぜか右手にはビニール袋を持っている。

 あまりにも唐突な登場に、ローグだけでなく助けられたクリスまでもが思考停止する。

 先に思考が復活してしまったのはなまじ視力がクリアゴーグルによって強化されていたローグの方であった。

 

 

 

『ヒィィィィッ!? 日本の最終兵器ッ!? こんなもの僕の計画では……』

 

「その言葉、そっくりそのまま返そう。俺もこの状況は些か予想外だった。再び相見えたな、ナイトローグ」

 

『だッ、だがしかしッ! いくら貴方だって、ノイズ相手では……』

 

「彼女に手を出すなら、お前をぶっ倒すッ!」

 

 

 

 以前彼にこっぴどくやられたのがよほどトラウマとなっているのか、ローグは弦十郎の姿を確認した瞬間、悲鳴を上げ10メートルほど飛びずさった。

 ソロモンの杖を掲げ牽制を行おうとするも、それも落ちてあった小石を蹴り飛ばし、彼の背後の壁にめり込んだのを認識し、逆に"ソロモンの杖ごとき簡単に叩き落とせる"と牽制し返されたことで失敗に終わった。

 

 その上「お前をぶっ倒す」という事実上の勝利宣言。

 泣き落としの手段も持ち合わせていないローグは、頭をかきむしるような動作をしながら黒煙を撒き散らしその場から消えるしかなかった。

 

 嵐のように現れ去っていったローグのいた場所を茫然と見つめるクリス。一体何がなんだか訳が分からない。

 

 

 

「怪我はないか?」

 

 

 

 その上、どこからか現れたこの男はこちらの身を案じてくる。あまつさえほんの数時間前に助けられたばかりだというのに、二度も命を救われるとは……。と何故か苛立ちが先に出てしまう。

 

 

 

「……お前もアイツも、余計なお世話なんだよッ!」

 

「まあそう言うな」

 

 

 

 邪険に扱うクリスを受け流し、弦十郎はビニール袋に手を入れ、中からあんパンを取り出した。

 こんな状況、こんな場所で食事など何を考えているのか? とも思ったが、どうやらそうでもないらしい。

 袋を開けたあんパンをこちらに差し出してきたのだから。

 

 

 

「差し入れだ」

 

「信用できるものかよ」

 

「何も塗っていないぞ」

 

 

 

 敵とも味方とも知れない大人────少なくともスタークよりはマシではあるが────が渡してきたものなど、何が入っているか知れたものではない。

 その警戒に気づいたのか、毒は入っていないと証明するために弦十郎は一口かじりだした。

 そこまでされれば確かに毒は盛られていないのだろうが……。

 

 考えるのも面倒になってきたので彼の手からあんパンをひったくり、食らうことにした。

 久方ぶりの食事とあって、思った以上に美味かった。好物になりそうだ。

 

 

 

「当時の俺達は、適合者を探すために音楽界のサラブレッドを探していた。天涯孤独となった少女の身元引受先として、手を挙げたのさ。

 ところが、日本に帰国直後に少女は消息不明。相当数の職員が駆り出されたが、捜索に関わった大多数が死亡、あるいは行方不明という最悪の結果で幕を引くこととなった」

 

 

 

 いきなりそんなことを言い出した。

 言い訳でも言いたかったのか、しかしそれならフィーネの方がまだマシだ。騙されていたとはいえ、二年間寝食の場所を提供してくれたからだ。

 内容が内容だ、ただでさえ自分でも低いと思っているクリスの沸点は一瞬で沸騰した。

 

 

 

「何がしてえんだオッサン!」

 

「俺がやりたいのは、君を救い出すことだ」

 

「……ッ」

 

「引き受けた仕事をやり遂げるのが、大人の務めだからな」

 

 

 

 大人の務めなどと言い出した。

 結局今の説明だって、結論を言えば「自分を助けられませんでした」だ。今更助け出すなどと言われても、口先だけの大人の言うことにはもう騙されないと決意したクリスには響かなかった。

 

 

 

「ハッ、大人の務めときたか! 余計な事以外は、いつも何もしてくれない大人が偉そうにッ!」

 

 

 

 聖詠を口にし、シンフォギアを着装する。

 そのまま飛び上がり、ビルの屋上に着地。普通であれば追いかけてこれる高度と距離ではないだろう。

 しかし弦十郎の場合、彼も同じように飛び上がって追いついてくる可能性がある。

 一刻も早くその場から離脱するために、向かいのビルや電柱など、できるだけ遠くの着地先を選んで跳躍する。

 

 結局、弦十郎が追ってくることはなかった。

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二日前、気づくと響と未来は寮の部屋の中にいた。

 朝が明けて惣一に連絡すると、彼が慎次に連絡してあおいと共に寮まで運んできてくれたらしい。

 後で礼を言わなければならないと思い連絡するも、お互いに仕事中であるためか繋がらなかった。

 

 現地点は二課の廊下。

 今日は響一人ではなく、未来と惣一も一緒だ。

 

 

 

「リディアンの地下にこんな基地があったんだ……」

 

 

 

 物珍しそうにきょろきょろと辺りを見回す未来。惣一もどこかそわそわしている。理由を訊くと、

 

「だって秘密基地だぜ!? それも地下に! 男なら憧れない訳ねえって。俺も作ったことあるしな、地下基地」

 

 など興奮した様子で言っていた。

 確かに惣一なら子供の頃に秘密基地の一つや二つ作っていそうだ、などと考えていると、廊下の角から見覚えのあるシルエットが見えた。

 

 

 

「あっ! 翼さーん!」

 

「立花か。……其方は協力者の?」

 

 

 

 翼と慎次が歩いてきた。今日は翼に未来と惣一の紹介をするためにやってきたのだ。

 恐らく二人とはほぼ初対面のはず、と考えていたが、予想は当たっていた。

 

 

 

「響の友達の小日向未来です」

 

「わたしの一番の親友です!」

 

「大人気喫茶店nascitaのイカしたマスター、石動惣一だ。よろしくな翼ちゃん」

 

「こっちはわたしの恩人です!」

 

「小日向に石動殿。立花はこういう性格故、色々と迷惑をかけているとは思うが、どうか支えてやって欲しい」

 

「いえいえ。響は残念な子ですので、ご迷惑をおかけするとは思いますがよろしくお願いします」

 

「ええーッ、なに? どういうこと!?」

 

 

 

 紹介を終えるや否や、翼が響の保護者のような台詞を言ってきた。

 未来も同じような台詞で返し、響が二課で迷惑をかけていないかなど事細かに尋ねるなど、なぜかもう仲良くなったらしい。

 いくらなんでも早すぎないかと思う。

 

 

 

「早えなァ、もう仲良くなってやがる。青春だねぇ」

 

「響さんを介して、お二人も意気投合できたみたいですね」

 

「はぐらかされた気がする……」

 

 

 

 その光景を微笑ましげに見つめる大人二人。

 響のおかげのようなことを慎次が言っていたが、どうも腑に落ちない。

 

 

 

「それより慎次よ、また新作コーヒーの味見してくんねえかな?」

 

「えっ! えっと、すみません。その日はスケジュールが……」

 

 

 

 後ろの雰囲気も不穏なものになってきた。慎次の反応からして、恐らく惣一を送り届けたときにでもコーヒーを飲まされたのだろう。

 見た目だけはまともなのが罠だ。匂いも普通のコーヒーなのだから警戒しなかったのも仕方がない。

 

 そこで「美味しい」とか「独特な味」とかお世辞を言ってしまったのだろうか、実験台として認識されてしまったようで響は心の中で手を合わせる。

 

 

 

「でもみんなとここにいるって言うのはちょっとこそばゆいです」 

 

「小日向と石動殿を外部協力者として二課に移植登録されたのは、司令が手を回してくれた結果だ。

 それでも不都合な思いをさせるかもしれないが……」

 

「自分でも理解しているつもりです。不都合だなんて、そんな」

 

「この年になってこんな事になるなんてなァ。これだから人間ってのは面白いもんだ。だからそんなに気にすんな」

 

 

 

 後ろで慎次がほっとひと息ついていた。

 

 シンフォギアの存在を知った一般人は基本、様々な契約書にサインをした後そのことを口外しないという条件で普通の日常に戻れる。

 しかし響の戦闘場面をしっかりと目撃した未来と惣一に関しては「響と近すぎる」という理由もあり、外部協力者という体で二課に組み込み、万一のことがないよう計らってくれたのだ。

 

 何より、二人に隠しごとをする必要がないというのが響の中で最も大きい。

 今日は一日いいことが起きそうな気がする……と、響の心は浮き足立っていた。

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スタークとローグに引っ掻き回されてしまったが、なんとか彼女、フィーネの目論む計画は実行できそうだ。

 ここで陽動を起こし、一気に牙城を突き崩す。

 そして月を穿てば、こちらの計画はほぼ完了だ。

 

 

 ────これは自分の悲願であったはずなのに。

 幾星霜を経てなお変わらぬ宿願であるはずなのに。

 なぜか心のどこかで、「今は止そうか」などと考えてしまう自分がいる。

 

 一体何を考えているのか。

 「あの御方」の元へ向かうはずだった塔は崩された。せめて理由は聞かせてもらいたかった。

 そのためには何を犠牲としても問題ないはずだったのだが。

 

 

 

「風鳴弦十郎……あの男は一体……?」

 

 

 

 自らを正面から打ちのめし、その上で治療を施させた櫻井了子の上司。

 彼が甘いというのは分かっていた。それも利用してやろうとも思っていた。

 しかし、それを知ってもなおあれは豪快に笑い、「それがどうした」と言い放った。甘すぎる。

 

 そんな男への興味が、今彼女を引き止めているのかもしれない。

 ……そんな訳がない、と否定する。

 だが、心のどこかで────。

 

 

 

 

「手前勝手が過ぎたな」

 

 

 

 

 窓が全面破られたのに気づいたときには、すでにフィーネの胴体には鉛玉が数十発、叩き込まれていた。

 瞬間感じた激痛、熱さに悶え椅子から転げ落ちる。

 

 

 

「スタークめ……! 初めからこのつもりでッ!」

 

 

 

 防弾チョッキに印刷されているマークを見るに、相手は米軍だ。

 スタークと契約を結ぶと同時に干渉してきた米国、間違いなくスタークと結託している。

 そもそも米国所有のソロモンの杖を受け取ったのも、なぜかエージェント経由でなくスタークから直接手渡された。

 

 先にしてやられた、という訳だ。

 

 それでもやられっぱなしでは性に合わない。自分をここまで追い詰めた輩には然るべき報復をしなければならない。

 傷口に手をかざす。青い燐光が腹部の傷口を覆ったと思うと、フィーネの表情が苦痛に歪んだ。

 めりめりと、肉が裂けるような音と共に傷口が修復されていく。

 

 

 

「……広木の件と言い、わざと痕跡を残して立ち回るあたりが、品行下劣な米国政府らしい。どうせ奴の差し金だろう?」

 

 

 

 元より米国は切り捨てるつもりでいた。

 先を越されてしまったが、計画が大きく変わった今、ここで襲撃を受けたのはむしろ僥倖と言えるかもしれない。

 この身を"食い破られる"痛みに耐えながらゆっくりと立ち上がり、挑発する。

 

 

 

「聖遺物に関する研究データは我々が活用させてもらおう」

 

 

 

 引き金が引かれ、無数の弾丸が発射される。

 

 ()()()()()()のみから。

 

 

 

「────と、茶番は此処までだ。君にはまだやって貰いたい事がある」

 

 

 

 出来上がったのはフィーネの死体ではなく、屍の山。

 弾丸の無駄撃ちなど一発もなく、屍にはどこまでも正確無比に眉間に風穴が空いている。

 

 もはや原型を留めていない人だったものを見つめるフィーネ。今彼女が驚いているのは目の前で人が死んだことなどではない、それを実行した人物にだ。

 ここでそれをしたのがどこかから乱入してきた何者かであればまだこれほどの衝撃は感じなかったはず。

 

 視線を屍の中、ただ一人立っている男へ移す。

 未だ硝煙の煙る機関銃を投げ捨て、こちらに近づいてくる。彼は確か日本に派遣された部隊の隊長だ。

 広木殺害の際にも音頭をとっていたと記憶している。

 

 フィーネの見立てによれば彼以上に愛国精神を持つ人間は部隊には存在しない、と思えるほど身内の裏切りというものに縁遠い男だと思っていたが、なぜ。

 

 不意に右腕の装備を外し、剥き出しとなった腕を見せつけてくる男。

 そこに取り付けられていたものは、フィーネを唖然とさせるに足るものだった。

 

 

 

「まさか、貴様が……!?」

 

「修復は済んだか? なら、準備が出来次第地下の研究室へ身を隠せ。替えの服を用意してある。

 間も無く特機部二がやって来る頃合いだ」

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 曇り空。

 雪音クリスが洋館へ飛び込んできたのは、すでに惨劇が繰り広げられた後のことだった。

 ガラスが砕け散り、外からの光を乱反射している。そのガラスの欠片のほとんど全てに血がコーティングされているのであまり眩しくはない。

 

 

 

「何がどうなっていやがんだ……?」

 

 

 

 足音が聞こえた。

 背後を取られないため、反射的に振り向く。足音の主は赤い服を着た男だった。

 それも、この数日間で嫌というほど見たことのある類の。

 

 米軍部隊の屍を確認しながら近づいてくる弦十郎。

 

 

 

「違う、あたしじゃないッ!」

 

 

 

 まさかこの惨劇はクリスが繰り広げたものだと思っているのか。

 そんな弁解にも意に介さず、つかつかと歩み寄ってくる。後ろからは黒服のエージェントたちが十数人、弦十郎の後についてきていた。

 エージェントたちの手には一人残らず、黒光りする拳銃が握られており、不幸にもクリスはそれを「犯人を射殺しにきた」と思ってしまった。

 

 こんなところで濡れ衣を着せられ殺されては堪ったものではない、と身構えるクリス。

 しかし誰一人クリスに向かって銃口を向けようとはしない。むしろ彼女を守るように周囲を警戒、銃を構えている。

 

 

 

「誰も君がやったなどと疑ってはいない。……犯人の目星はついている、一応はな」

 

 

 

 歩いてやってきた弦十郎がクリスの頭に手を置く。

 つまり、彼らは初めから真犯人の捜索にやってきたのか?

 

 

 

「風鳴指令!」

 

 

 

 先行していたエージェントの一人が弦十郎を呼びつける。

 二人の会話を聞けば、死体の一つに張り紙がされているらしい。エージェントが読み上げたのは、「I LOVE YOU SAYONARA」という言葉────。

 

 

 

「伏せろッ!」

 

 

 

 不注意にもエージェントが張り紙を剥がした直後、距離があるこちらからでも分かるほどの大きさで糸が切れる音がした。

 

 そして轟音、熱風。

 要するに屋敷が爆発したのだ。

 瓦礫が落ちてくる。ギアを鎧おうにも時間がない。

 無情にも瓦礫は一直線に、クリスの頭上へと────。

 

 

 

「どうなってんだよこいつは……」

 

「衝撃は発勁(はっけい)でかき消した」

 

「そうじゃねえよッ!」

 

 

 

 間一髪、割り込んで来た赤い影がクリスを抱き抱えた。何秒経っても瓦礫は落ちてこない。どうせ赤い影、弦十郎が殴り飛ばしでもしたのだろう。

 上を見上げると。

 数十キロはあろう重さの瓦礫を片手で持ち上げている弦十郎の姿があった。

 

 「衝撃は発勁でかき消した」。意味が分からない。いや、それもそうだがもっと気にかかることがある。

 

 

 

「なんでギアを纏えねえ奴があたしを守ってんだよ!?」

 

「俺がお前を守るのはギアのあるなしじゃなくて、お前よか少しばかり大人だからだ」

 

 

 

 大人だから、と彼は言った。

 クリスが今までに出会った大人は全て、何かにつけて「大人の言うことを聞け」だの言ってきた。

 愛していた両親に至っては「歌で世界を救う」「難民救済」など叶わない夢をつらつらと言い、そして死んだ。

 大人など大嫌いだ。叶わぬ夢を大人が見るな。激情のまま、紡いだ言葉をぶつける。

 

 

 

「大人が夢を、ね」

 

「本当に戦争を無くしたいのなら、戦う意思と力を持つ奴らを片っ端からぶっ潰していけばいい!

 それが一番合理的で現実的だッ!」

 

「そいつがお前の流儀か。なら訊くが、そのやり方でお前は戦いを無くせたのか?」

 

 

 

 言葉に詰まる。

 こちらを煽りたかったのかどうかは分からないが、同じようなことをスタークにも言われたのを思い出す。

 『お前のやり方は、一つ潰して二つ三つ新たな火種を撒くことだ』と。

 クリスの考えはスタークにも、ローグにも、フィーネにも、弦十郎にも、そして互いの素性も知らぬ未来にも否定された。

 

 

 

「いい大人は夢を見ないと言ったな。そうじゃない。大人だからこそ、夢を見るんだ。

 大人になったら背も伸びるし、力も強くなる。財布の中の小遣いだってちっとは増える。子供の頃はただ見るだけだった夢も、大人になったら叶えるチャンスが大きくなる。

 夢を見る意味が大きくなるんだ」

 

 

 

 大人だからこそ、夢を見る。

 叶わない夢を見るのではない、そんな夢を叶えるために大人は夢を見る。彼はそう言った。

 それなら、自分の両親は────。

 

 

 

「お前の親はただ夢を見に戦場に行ったのか? 違うな。《歌で世界を平和にする》って夢を叶えるため、自ら望んでこの世の地獄に踏み入れたんじゃないのか」

 

「なんで、そんなこと……」

 

「お前に見せたかったんだろう。《夢は叶えられる》という揺るがない現実をな」

 

 

 

 夢は、叶えられる。

 不思議とその言葉は、ささくれ立っていたクリスの心にすとんと落ちた。痛みは感じない。

 

 

 

「お前は嫌いと吐き捨てたが……お前の両親は、きっとお前の事を大切に思っていたのだろうな」

 

 

 

 力強い手で引き寄せられる。

 大切に思っていたからこそ、両親はクリスをあの場所(バルベルデ)へと連れて行ったと彼は言う。

 

 瓦礫が崩れ、壁から一筋の光が差し込む。

 いつの間にか空は、雲一つない晴天へと変わっていた。それはまるで、何者かが天からクリスを祝福しているようで。

 

 分厚い胸板に顔を埋め、言いようのない感情を発露する。

 それは今まで両親のことを勘違いしていた自分への戒めか、彼らの考えが理解できて感極まってしまったからか、それとも他の何かか。

 

 

 彼女の心も、涙を流すと共に暗雲が晴れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フィーネの屋敷の探索はエージェントたちに任せ、弦十郎は二課へ戻ろうとしていた。

 穴があれば入りたい気分だ。

 まさか他人の前であそこまで号泣してしまうなど夢にも思わなかった。ばつの悪い思いで髪の先端を弄っていると、クリスも撤収用の車に乗り込むよう言われる。

 

 

 

「やっぱり、あたしは……」

 

「一緒には来られないか?」

 

 

 

 こくりと頷く。

 今さらどの面を下げて仲間面をすればいいのか。今まで戦ってきた者同士がそう簡単に分かり合えるはずがない。

 開いていた車の扉を閉めながら、クリスに近づく弦十郎。

 

 

 

「お前は、お前が思ってるほど独りぼっちじゃない。

 お前が一人道を往くとしても、その道は遠からず俺達の道と交わる」

 

「世慣れた大人がそんな綺麗事言えるのかよ」

 

「本当、ひねてるな……ほれ」

 

 

 

 弦十郎が何かを投げよこしてくる。

 無骨なデザインの箱状の物体だ。これと似たようなものをフィーネも持っていた気がする。

 

 

 

「なんだよこいつは?」

 

「二課の通信機だ。限度額内なら公共交通機関も利用できるし、自販機で買い物もできる代物よ。便利だぞ」

 

 

 

 よく仲間にもなっていない人間にこんなものを渡そうとするものだ。

 心の内を見透かされているようで落ち着かないが、たとえ望んでいないものだったとしても借りは返さなければならない。

 

 

 

「カ・ディンギル!」

 

「ん?」

 

「フィーネとスタークが言ってたんだ、カ・ディンギルって。

 そいつが何なのかは分からないけど、もう完成してるみたいなことを……」

 

 

 

 貸し借りはこれでイーブンだ。

 この情報が彼にどのような利益をもたらすのかは定かでないが、それ以上の情報を持ち合わせていないクリスはそれしか提供できるものがない。

 

 

 

「カ・ディンギル……安心しろ、今アタリは付いた。ここからは反撃の時間だ」

 

 

 

 しかし彼はそう、力強い笑顔で答えた。

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 弦十郎が本部へ戻ったとほぼ同時に、探索を続けていたエージェントから連絡が入った。

 報告を聞き、彼らを急ぎ帰投させた後しばらくして響と翼にブリーフィングを行うと通達。間も無く通信が繋がった。

 

 

 

『何か緊急の用件が?』

 

「収穫があった。……了子くんを発見、保護した」

 

 

 

 鋭い、研ぎ澄まされた防人としての声で尋ねてくる翼。

 響と和解後も何か思い悩んでいるようだったが、少し前参加したライブで良いことでもあったのか肩の力が抜け、今のコンディションは最高と言えるだろう。

 

 先ほど入った連絡は、屋敷地下の独房のような場所で了子が見つかったというものだった。

 幸い怪我はしておらず、変わったところといえば服が変わった程度。念のため隣の病院へ入院させたが、この調子だと明日にも退院できるだろう。

 

 

 

『ホントですかッ!?』

 

『やはり櫻井女史を拐かしたのはフィーネの一派だったのですね。して、容態は?』

 

「命に別状はないそうよ。監禁場所でもピンピンしてたとか」

 

 

 

 画面の向こうで飛び跳ねている我が弟子が容易に想像できた。ガングニールを纏ったのが響で良かったとつくづく思う。

 翼も声に嬉しさを隠し切れていない。

 

 

 

『よかったぁ……。了子さんならきっと大丈夫です! 前にもわたしを守ってくれたんですから!』

 

『いや、戦闘訓練も碌に受講していない櫻井女史にそのような事は……』

 

『えっ? 師匠とか了子さんって、人間離れした特技とか持ってるんじゃないんですか?

 天下の往来独り占め作戦のときだって了子さんが……』

 

 

 

 いきなり新たな通信が割り込んでくる。

 発信先は隣の病院から。十中八九彼女だ。恐らく、デュランダル移送の際に響に自身の能力の一部でも見せてしまったのだろう。

 「助けてくれた」と言っていたので、それが結果的に響の命を救ったことは間違いないと思うのだが。

 

 

 

『もしもし弦十郎君? 悪いんだけど私のデスクから口紅持ってきてくれない?』

 

『了子さん!』『櫻井女史!』

 

『あら〜、響ちゃんに翼ちゃんじゃない! お久し〜』

 

 

 

 やはり了子だった。

 ブリーフィング中だと推測したのか、フィーネの方ではなく了子の方で連絡してきた。

 口紅が欲しいというのは方便だろう。何か用件があるはずだ。

 

 

 

『よかったです元気そうで!』

 

『ごめんね油断しちゃって。階段から落ちるわ攫われるわとんだ災難よ。厄年じゃないはずなんだけど』

 

『厄年か……。櫻井女史の年齢は確かさんじゅう……』

 

『それ以上はどちらのためにもならないわよ翼ちゃん』

 

 

 

 相変わらず凄まじい掌握能力だ。響たちと話し始めたばかりだというのにもう自分のペースに持って行っている。

 

 ……良い機会だ、この場面でなら教えてくれなかったことも言ってくれるだろう。

 

 

 

「……ついでだ了子くん、一つ訊きたい事がある」

 

『何かしら? まさか弦十郎君まで私の年を……』

 

「カ・ディンギル。この言葉が意味するものは?」

 

 

 

 今まで即答していた了子の言葉が止まる。してやられた、とでも思っているのだろうか。

 

 

 

『……カ・ディンギルとは古代シュメールの言葉で「高みの存在」。転じて、天を仰ぐほどの塔を意味しているわね』

 

「何者かがそんな塔を建造してきたとして、なぜ俺達は見過ごしてきたのだ?」

 

 

 

 ようやく口を開いてくれた。

 後はカ・ディンギルの場所を彼女から聞き出すだけだ。

 

 

 

「だが、ようやく掴んだ敵の尻尾、このまま情報を集めれば勝利も同然。相手の隙に此方の全力を叩きこむんだ。

 最終決戦、仕掛けるからには仕損じるな!」

 

『それより弦十郎君、口紅まだかしら?』

 

「ああ、今向かおう」

 

 

 

 ブリーフィングを終了する。早速了子の元へ向かおうとする弦十郎だったが、それは突如司令室に警報が鳴り響いたことで止められてしまった。

 

 

 

「どうしたッ!?」

 

「飛行タイプの超大型ノイズが三体! いえ、もう一体出現ッ!」

 

 

 

 このタイミングでのノイズ出現の知らせ。話ができすぎているとしか思えない。

 しかし今から彼女に問い質そうにも、この状況で司令官が不在というのは絶対に避けなければならない案件だ。

 愚痴を言っても仕方がない、と頭を切り替え、響たちへ連絡するよう指示を出す。

 

 

 後になって考えると、ここで飛び出さなかったのは僥倖だったかもしれない。

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その場所から近い位置に存在するビルの屋上に二人は立っていた。

 一人は赤い装甲に身を包み、右手に銃剣、左手に銀色の杖を持つコブラ男。

 もう一人は米軍の急襲用装備を身につけ、露出した右腕には金色に輝くガントレットを装備した長身の男。

 

 

 

『さて、そろそろアンタの出番だ。今さらできない、なんて言うつもりじゃねえよな?』

 

「冗談が上手くないな、君は。私が怖気ずくとでも?」

 

『そっちこそ冗談はよしてくれよ。ここで怖気ずく奴が、あんなこと考えつく訳ねえだろ』

 

 

 

 長身の男を茶化すコブラ男にも慣れたものだ。何故だろうか、当初は胡散臭さしか感じなかった彼が今ではかけがえの無い相棒のように感じている。

 これから計画が始まり、そして終わる。

 

 悲しいかな、彼がこの違和感に気づくことは終ぞなかった。

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今は人を襲うというより、ただ移動しているってことですね。分かりました!」

 

「響、大丈夫なの?」

 

「大丈夫、わたしと翼さんでなんとかするから!」

 

 

 

 ブリーフィングを終え、未来との散歩を再開しようとした響だったが、通信を切った数秒後にまた連絡が来た。

 今度はブリーフィングではなく、ノイズ出現の知らせであり急行してほしいとの旨だった。

 

 未来にリディアンに戻るよう頼む。

 響も最近知ったことなのだが、二課本部には避難シェルターがあるらしい。地上にある避難用シェルターが使えなくなったときのための予備らしいのだが、いざとなれば近辺の人をそこに避難させなければならない。

 その際の誘導役を未来には手伝ってもらいたいのだ。

 

 了承してくれる未来。

 

 

 

「ごめん、未来を巻き込んじゃって」

 

「巻き込まれたなんて思ってないよ。私がリディアンに戻るのは、響がどんな遠くに行ったとしてもちゃんと戻ってこられるように、響の居場所、帰る場所を守ってあげられることでもあるんだから」

 

「わたしの、帰る場所……」

 

 

 

 少し前にリディアンのことを「帰る場所」と言ったのを思い出す。

 いつしかリディアンが、響にとってかけがえのない場所となっていたらしい。その場所を守ると未来は言った。

 これが未来の戦い。また一つ、帰る理由ができてしまった。

 

 

 

「未来はわたしにとっての陽だまりなの。未来の側が一番あったかいところで、わたしが絶対に帰ってくる所!

 これまでもそうだし、これからもそう。だからわたしは絶対に帰ってくるッ!」

 

「響……」

 

「一緒に流れ星見るって約束、まだだしね! じゃあ行って来るよ!」

 

 

 

 未来に見送られ、その場から走り去る。

 リディアンを守るためにも、一刻も早くノイズを倒さなければならない。

 

 ……とは言ったものの、どこへ向かえばいいのか分からない。弦十郎へノイズ侵攻場所の情報を聞こうと通信機を取り出したが、その前に向こうから連絡が入った。

 

 

 

「響です!」

 

『翼です』

 

『ノイズ進行経路に関する最新情報だ。計4体の超大型ノイズは、四方から東京スカイタワーへ向かって侵攻している!』

 

 

 

 街の中心に存在する巨大な電波塔、東京スカイタワー。全長634メートルを誇る日本で最も高い建物。

 聞けば、スカイタワーには政府の非公開組織が通信に使う電波情報を統括制御しているとかなんとか。

 要するに、そこを破壊されれば不味いということだ。

 

 しかし、ここからスカイタワーまでは遠すぎる。

 バイクを持っている翼に乗せて行ってもらうのも手だが、あいにく翼は仕事で 響のいる場所とは真反対の所にいる。

 つまり、走っていくしかないのだが、そんなことをしていればどう考えても間に合わない。

 

 突風が吹く。あまりに強い風に、思わず目をつぶる。

 しばらくして目を開けると、響の目の前にヘリが出現していた。

 

 いや違う、風はヘリが着地するときに出たものだったのだ。

 

 

 

『何ともならないことを何とかするのが、俺達の仕事だッ!』

 

 

 

 心強い大人たちに感謝を告げながらヘリに乗り込む。

 これなら間に合う。翼と同じタイミングで到着するはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現場に近づくと、現場の惨状がはっきりと分かった。

 スカイタワーの周囲を旋回飛行している超大型ノイズの一部が扉のように開き、そこから色とりどりのなにかが地上に投下されている。

 投下されている物体はどう考えても小型のノイズだ。つまりあれは、大規模なノイズプラントと同義。

 あんなものを野放しにしておけるはずがない。

 

 

 

「着きました!」

 

『私も間も無く到着する。共に往くぞ立花ッ!』

 

「はいッ!」

 

 

 

 地上を見ると、車一つ走っていない道路に一つだけ動くものがあった。あれが翼の駆るバイクだろう。

 ヘリのパイロットに礼を言った後、扉を開け地上へ飛び降りる。

 

 常人なら間違いなく即死する高度。しかし、響に恐怖はない。あるのはただ、心の内で燃え滾る"人助け"の意思のみ。

 真下に位置するノイズめがけて拳を振りかぶり────。

 

 

 

「Balwisyal Nescell gungnir tron」

 

「Imyuteus amenohabakiri tron」

 

 

 

 着装と同時に引き伸ばされていたハンマーパーツ。力の限り、全力で腕を突き出す。

 接触と同時にハンマーパーツが元の場所へ戻り、超大型ノイズに大きな風穴を開ける。

 あと3体、それに加えて生み出されたノイズも倒さなければならない。

 

 

 

━━━━━━━━蒼ノ一閃━━━━━━━━

 

 

 

 バイクを乗り捨て現着した翼も、シンフォギアの着装と同時に大剣を薙ぎ払う。

 青い斬撃が空中の超大型ノイズに向かって一直線に進んでいくも、そこより下で飛行する飛行型ノイズが否が応にも盾となり、威力を減衰させてしまった。

 響も翼も、そもそも射程が足りないのだ。

 

 

 

「相手に頭上を取られるのがこうも立ち回りにくいとは……!」

 

「だったらわたしたちも空から……」

 

 

 

 翼と合流する。

 射程が足りないのなら、頭上から攻撃をすればいい、と空中のヘリを指差す響だったが、

 

 

 

「そんなッ!?」

 

「よくもッ!」

 

 

 

 指差した先にあったのは、飛行型ノイズに襲われ爆発四散したヘリの姿だった。

 周囲にパラシュートは見えない。ということは、ここまで自分を送り届けてくれたパイロットは……。

 

 襲いかかってきたノイズを殴り倒す。

 感傷に浸る時間さえ与えてくれない。降りかかる火の粉を振り払うように倒していく二人だが、全く数が減らない。

 倒す度に頭上から追加が降ってくるのだからそれはそうなのだが。

 

 

 

「どんどん増えてく、どうすれば……」

 

「臆するな立花。防人が後ずされば、それだけ戦線も後退するという事だッ!」

 

 

 

 響を鼓舞する翼。しかしこの数、一体どうすればいいのか。

 あれこれ考えている内に、飛行型ノイズが形を鋭角化させ襲いかかってきた。

 一先ずはこれを対処しようと身構える二人。

 しかしそれは未然に終わった。なぜならば、

 

 

 

 

━━━━━━━━BILLION MAIDEN━━━━━━━━

 

 

 

 

 襲いかかってきたノイズが、一体残らず撃ち落とされたからに他ならない。

 思わず振り返る二人。この攻撃と荒々しい音楽は間違いない、彼女だ。

 

 

 

「……こいつがピーチクパーチクうるせえから、ちょっと出張ってみただけ。

 それに勘違いするなよ、お前たちの助っ人になったつもりはねえッ!」

 

『助っ人だ。少々到着が遅くなったかもしれないがな』

 

「なッ……」

 

「助っ人?」

 

 

 

 赤い鎧を纏い、両腕に巨大な機関銃を構えた銀髪の少女。彼女の名は────。

 

 

 

『そうだ。第二号聖遺物イチイバルのシンフォギアを纏う装者────雪音クリスだッ!』

 

 

 

 少女────雪音クリスという頼もしい助っ人の登場に、思わず抱きつく響。

 

 

 

「クリスちゃーん! ありがとーッ! 絶対に分かり合えるって信じてた!」

 

「この馬鹿ッ! あたしの話を聞いてねえのかよ!?」

 

 

 

 思えば長かった。あの夜に出会ってからというもの、ずっと顔を合わせる度に戦ってきた関係だったが、ようやく実を結ばれた。

 顔を赤らめながら響を引き剥がすクリス。翼が近づき、三人での共闘を提案する。

 

 

 

「とにかく今は、連携してノイズを……」

 

「勝手にやらせてもらう! 邪魔だけはするなよな!」

 

 

 

 しかしクリスはそれを突っぱねる。

 両腕のユニットをクロスボウへと変形させ、5本ずつ光の矢を生成。滞空するノイズを次々と撃ち落としていく。

 圧倒的な射程、制圧性能だ。

 

 

 

「空中のノイズはあの子に任せて、私達は地上のノイズをッ!」

 

「はい!」

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 滞空しているだけのノイズなどイチイバルの敵ではない。いつかと同じように片っ端から撃ち落としていくクリス。

 上空で旋回する超巨大ノイズに攻撃を届かせるためには、少し高度が足りない。近くのビルの屋上まで跳び、狙撃体勢に入ろうと数歩下がると、背中が何かとぶつかった。

 

 一瞬壁とも思ったが、声がしたので違うと判断する。振り返ると、壁の正体は今まで幾度となく得物を打ち合ってきた防人気取りのシンフォギア装者、風鳴翼だった。

 せっかく狙い撃とうとしているのになぜ邪魔をするのか。

 

 

 

「何しやがるッ! すっこんでな!」

 

「貴女こそいい加減にして。一人で戦っているつもり?」

 

「あたしは何時だって一人だ。こちとら仲間となれ合ったつもりはこれっぽっちもねえよッ!」

 

 

 

 無言の戦いが始まる。

 ノイズが刻一刻と増殖していく以上こんなことをしている暇はないのだが、これはこれだ。

 

 

 

「確かにあたし達が争う理由なんてないのかもな。だからって……争わない理由もあるものかよ!

 こないだまでやり合ってたんだぞ? そんなに簡単に人と人が……」

 

「分かり合えるよ。誰とだって仲良くできる」

 

 

 

 突然、手を握られた。

 当然相手は翼ではなく、もう一人の能天気の方。一蹴しようとも思ったが、その確信を持った言葉に思わず口をつぐんでしまう。

 

 

 

「どうしてわたしにはアームドギアがないんだろうって、ずっと考えてた。いつまでも半人前はやだなって。

 でも、今は思わない。何も握っていないから、二人とこうして手を取り合える。仲良くなれるからね!」

 

 

 

 翼の手も握る響。

 なんという解釈だ。確かにこの成長速度でアームドギアが発現しないのは妙だと頭をよぎったこともある。

 しかしその理由が「手を繋ぎたいから」だとは誰が推測できるだろうか。

 

 隣で翼が刀を突き立てた。

 この状況で何を言っているのかと一喝でもしてくれるだろう。

 

 

 

「は? お前……」

 

 

 

 事もあろうに、翼もクリスに手を差し伸ばしてきた。この女まで手を繋ぎたいなどと言うつもりなのか。

 

 自分の意思とは無関係にクリスの手は翼へ近づいていき、手を握られたことで正気に戻った。

 慌てて手を振りほどく。

 

 

 

「この馬鹿に当てられたのかッ!?」 

 

「そうだと思う。そして、貴女もきっと」

 

「……冗談だろ」

 

 

 

 まさか、自分も当てられたというのか? 彼女の流儀、信念のようなものに。

 にわかには信じがたい話だ。

 

 ノイズの数が増えてきた。

 これ以上となると、三人でも流石に厳しくなってくるだろう。

 ……実のところ、策はある。

 

 

 

「本丸を叩かない限りキリがない……」

 

「だったらあたしに考えがある。あたしでなきゃできないことだ。イチイバルの特性は、長射程広域攻撃。派手にぶっ放してやるッ!」

 

 

 

 その考えを口にした直後響から「絶唱を歌うつもりではないか」と言われる。

 自分の命はそんな安物ではない。使うにしても相応のタイミングで使う。少なくとも、今はその時ではないのは明白だ。

 

 

 

「ならばどうやって……」

 

「ギアの出力を引き上げつつも放出を押さえる。行き場のなくなったエネルギーを限界までため込み、一気に解き放つ!」

 

 

 

 そう、それが成功すれば間違いなくノイズは殲滅できる。

 ただ、その作戦には一つ致命的な穴が存在する。それが今まで実行できなかった理由でもある。

 理由は単純、チャージ中にクリスは身動きが取れないからだ。つまり丸裸も同然、この数相手にチャージが終わるまで待っていろと言って聞く訳がない。

 

 同じような懸念を翼も口にする。

 つまりこれは理論上可能な作戦。せめて、チャージ中邪魔をされなければいいのだが……。

 

 と、そこで翼の表情に翳りが見えないのに気づく。響も同様だ。むしろ笑っている。

 一体、なぜ?

 

 

 

 

 

「それならわたしたちがクリスちゃんを守ればいいだけのことッ!」

 

 

 

 

 

 ────。

 ────ああ、そうか。やっと分かった。

 今まで差し伸ばされた手が、向けられた笑顔が。

 ずっとクリスには、どうしようもなく眩しく感じていた。

 

 しかし、差し伸ばされた手を繋ぐこと。それだけが人と人とを紡ぐ絆となる。そんなことに今さら気づくとは、やはり自分は馬鹿だった。

 この二人は頼まれてもいないことを引き受けた。なら。

 

 

 

────あたしも引き下がれないじゃねえか!

 

 

 

 自然と頬が緩む。

 

 

 

『なんでなんだろ? 心がグシャグシャだったのに、差し伸ばされた温もりは、嫌じゃなかった……』

 

 

 

 立花響は戦う。

 人と人は分かり合えるということを証明するために。生きるのを諦めない、全ての人々の命を救うために。

 

 

 

────誰もが繋ぎ繋がる手を持っている。わたしの戦いは、誰かと手を繋ぐことッ!

 

 

 

 風鳴翼は戦う。

 天羽奏が見ていたモノへ至るために、自らの歌を待ってくれている人々に応えるために。

 

 

 

────砕いて壊すも、束ねて繋ぐも力……立花らしいアームドギアだッ!

 

 

 

 雪音クリスは歌う。

 街を破壊せしめる雑音を一掃するため、この街を守護(まも)るため、ようやく見つけた()()()()を叶えるために。

 

 胸の内より溢れ出すこの感情は何だ? 無論、手を繋いだ温もりだ。

 眩い光が、迸る力が、彼女の魂を励起させる。

 

 

 

「「────託したッ!!」」

 

 

「ぶっ放せェェェェッ!!」

 

 

 

 チャージ完了。

 二人がノイズを対処してくれたおかげで滞りなく工程を終えることができた。

 この身を燃やしながらの激唱、蔓延るノイズたちへの制裁、高鳴る鼓動────全部。

 激情ではない、その全てをノイズにぶつける。

 

 背部からは全長数メートルはあろう大型ミサイルが四基。腰部からは小型ミサイルが搭載されたアーマーが4対展開する。

 腕部のアームドギアを機関銃の形に変形させ、発射の際の反動に耐えるため地面にはアウトリガーが突き刺さる。

 

 空を睨む。

 決して撃ち零してはならない、やっと見つけたこの想い、果たさない訳にはいかないのだから────!

 

 

 

『嗚呼ッ……二度と、二度と迷わない! 叶えるべき夢をッ!!』

 

 

 

 全霊の想いよ、轟け。

 展開した武器を一切に発射する。もちろん全てロックオン済みだ。

 大型ミサイルの側面から無数の小型ミサイルが分離し、各個ノイズを撃ち落とす。

 

 数百単位で放たれたミサイルと弾丸のカーニバル、『MEGA DETH QUARTET』。

 

 

 

━━━━━━MEGA DETH QUARTET━━━━━━

 

 

 

 今まで破壊するしかできないと思っていたクリスの歌。本当はずっと焦がれていた、夢を叶える未来へ向かうための歌だった。

 歪んだ欺瞞(フェイク)を引き千切り、遙か彼方の存在までも断罪するレクイエム。

 

 ずっと見えていたというのに目を背け続けていた理由。やっと、答えが見えた。

 この答えもきっと────、きっと届くだろう、天より見守る両親へと。

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やった……のか?」

 

「ったり前だッ!」 

 

「やったやったー! 勝てたのはクリスちゃんのおかげだよー!」

 

「やめろッ! なにしやがるんだ!?」

 

 

 

 地上のノイズを倒しながら確認する翼、それに威勢よく応えるクリス、嬉しさのあまりクリスに抱きつき、振り回される響。

 

 一旦合流し、シンフォギアを解除する。

 響を指差しながらクリスは「仲間になった覚えはない」と言い張ってきた。響からしてみればクリスはとっくに仲間、友達だと思っているのだが。

 

 

 

「あたしはただ、フィーネ等をぶっ倒して本当の夢を果たしたいだけだッ!」

 

「夢? クリスちゃんの夢!? どんな夢!? 聞かせてよー!」

 

 

 

 クリスの夢。一体どんな夢なのか。気になる。とても気になる。

 手を握りながら尋ねると、クリスはぶんぶんと腕を振って手を振り解こうとしてきた。

 

 しかし、この会話に途中から加わっていなかった翼が怪訝な表情をしたのに目ざとく気づき、無理やり話を変えられた。

 

 

 

「……む?」

 

「どうしたんだよ?」

 

「司令室へノイズ殲滅の報告をしようとしたのだが、連絡が繋がらない」

 

「えっ? でもスカイタワーは壊れてないですよ」

 

 

 

 司令室と連絡がつかない、というのはおかしな話だ。

 弦十郎の説明によれば、二課の通信回線は常時スカイタワーを介して行われるため、混み合って電波が悪いなどということにはならないらしい。

 

 ならばなぜ繋がらないのか。

 繋がらないのではなく、応答できない理由でもあるのかもしれないが……。

 

 

 

 静寂が包む市街地に、携帯の着信音が鳴り響いた。

 響の個人用のものだ。相手の名前を見ると、《小日向未来》の文字が。

 

 未来にはリディアンに向かうよう頼んでいるため、今はそこにいるはず。避難誘導も同時に頼んでいるので今頃は二課内だろう。

 連絡するついでに弦十郎に通信が繋がらないのは何か訳があるのかと訊いてみよう。

 

 そんな気持ちで応答した。

 

 

 

「未来? どうしたの?」

 

『響!? 学校がノイズに襲われ……』

 

 

 

 ……通話はそこで切れた。

 学校が、ノイズに?

 未来の身は?

 

 どうしたのかと訊いてきているらしい二人。しかしそれもあまり耳に入ってこない。

 

 

 

「未来……?」

 

 

 

 我に返ったのは、思わず携帯を取り落とした音を聞いたときだった。

 




次回「淡雪のメテオライト」

ほぼ原作通りのところを文字に起こすのいやーきついっす
ここまで丁寧にするのは1期編だけと決めました


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