戦姫絶唱シンフォギア Evolution's Symphony   作:セグウェイノイズ

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1期の時系列が思ったより隙がなくて初顔合わせが最終決戦になってしまいました

フィーネのテンションは原作より低いです

隊長の動機は本編中に挟める場所がなければ決着後に捏造設定集に置いておきます




EPISODE13「淡雪のメテオライト」

 特異災害対策機動部一課の奮戦も空しく、私立リディアン音楽院はノイズによって蹂躙された。

 今回動員された機動部の人間のほぼ全てが炭化され、学院内への侵入を許してしまう結果となった。

 

 しかし機動部がノイズを押しとどめていた間に学院内にいた学生、教師、超大型ノイズ出現の報を受けここまで避難に来ていた近隣住民たち。

 彼ら彼女らが、その間に学院地下に存在する地下シェルターへの避難が完了したのは、せめてもの救いだろうか。

 

 

 

 

「学校が……響の帰ってくる所が……」

 

 

 

 そんな中、一般人の避難誘導のため最後まで学院内へ残っていた少女が一人。

 小日向未来、立花響の親友。

 ほんの少し前、響に《響の帰ってくる場所を守る》と誓ったばかりなのに。既にリディアンの校舎はところどころが破壊され、今にも崩落しそうになっている。

 

 それでも、未来の戦いは続く。

 リディアンは破壊されようとも、そこで共に暮らす学生たちは無事だ。命さえ無事ならば、またいつかリディアンは再建されるはず。

 

 つい先ほど、同じく学院内を探し回っていた慎次から「避難誘導が完了した」と連絡があった。

 今は彼女自身も避難シェルターへ向かっている所だ。

 避難誘導をしている途中、惣一の姿が見えなかったが無事だろうか。

 

 

 突然窓ガラスが粉砕された。

 あまりに突然の出来事であったため、思わず足が止まってしまう。

 そして、窓ガラスを破ったモノを見た瞬間────背筋が凍る。

 

 

 

「ノイズ……!?」

 

 

 

 未来の前には人類の天敵である特異災害、ノイズの姿があった。

 思えば当然だ、今近辺にいると考えられる人間は未来と慎次、たった二人だけなのだから。

 二分の一の確率でノイズの刃が未来に向けられただけの話。

 

 すでにノイズは攻撃体勢に入っている。

 以前未来が引きつけた巨大ノイズは動きがこれほど機敏ではなかったため、なんとか逃げることができたが、今回は全く違う。

 

 気づけばノイズは目前に。回避も逃走も間に合わない────。

 

 

 

「未来さんッ!」

 

「緒川さんッ!?」

 

 

 

 すんでのところで、横から飛び出した影が未来をノイズの攻撃範囲の外へ追いやった。

 スーツ姿の男性。この状況で未来を助けてくれるのは一人しかいない。

 

 緒川慎次。風鳴翼のマネージャーであり、二課のエージェントでもある彼が助けてくれたのだ。

 

 

 

「ギリギリでした……次、上手くやれる自信はないですよ」

 

 

 

 そう言いながらも微笑みを絶やさない。未来を安心づけようとしてくれているらしい。

 素早く立ち上がり、未来の前に出る慎次。ノイズは攻撃が外れたことで奥の壁に激突し、明らかな隙だと未来にも分かった。

 

 

 

「走ります! 《三十六計逃げるに如かず》と言いますからッ!」

 

「は、はいッ!」

 

 

 

 慎次の判断は迅速だった。

 ノイズの状態を確認するや否や未来の手を取り、教員棟のエレベーターへと走り出す。

 人間が激しく動いたことでノイズの動きも活発となり、二人を追ってくる。

 

 時折危ないところもあったが、二人はなんとか二課本部へ繋がるエレベーターへ到着できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はい、学舎の破壊は以前拡大中ですが、未来さんたちのおかげで被害は最小限に抑えられています。

 これから未来さんをシェルターまで案内します」

 

『分かった』

 

 

 

 エレベーター内で状況を報告する慎次。少なくとも本部やシェルターのある場所にノイズが到達する頃には自壊しているだろう、というのが本部が出した見解だった。

 

 

 

「それよりも司令。……カ・ディンギルの正体が判明しました」

 

『なんだと?』

 

 

 

 信じられないようなことを口にした。

 カ・ディンギルというのは少し前のブリーフィングでも名前が上がっており、響と二人でそれについてネットで検索してもゲームの攻略サイトしか出てこなかったものだ。

 

 それをほんの数時間で発見するとは……と感嘆。

 しかし、弦十郎の反応はそれに驚きというのがまるでなかった。最初から何かを知っていたかのように感じられたが、今は慎次の言葉に集中する。

 

 

 

「物証はありません。しかし恐らくは────特異災害対策機動部二課本部、そのエレベーターシャフトこそカ・ディンギルだと考えます」

 

「それって……!?」

 

『……続けてくれ』

 

 

 

 特異災害対策機動部二課本部、エレベーターシャフト。つまり、今未来と慎次が利用しているこの空間。

 それこそがカ・ディンギルの正体だと、彼は言う。

 

 

 

「塔なんて目立つもの、誰にも知られずに建造するには地下へと伸ばすしかありません。

 そんなことが行われているとすれば、ここしかないと思い至りまして」

 

「ならここも危ないんじゃ……!」

 

 

 

 少しの情報からここまで看破したのは凄まじい能力だ。だがそれでは今呑気にここを利用している場合ではないのではないか。

 それを危惧しての発言だったが、慎次の表情に焦りは見えない。

 

 

 

「いえ、その心配はないと思います。そうですよね司令?」

 

『……ああ。恐らくはな』

 

「? どういう……」

 

「未来さんはタイミング的に"彼女"と会ったことがなかったと思いますが、我々二課には櫻井了子という女性が所属していました。

 ……彼女こそ、今回の事態の首謀者"だった"と僕と司令は考えています。尤も、僕はつい最近知った事ですけどね」

 

 

 

 と、苦笑しながら付け加えた。

 どうやら彼らは前々から敵の正体を知っていたらしい。櫻井了子という名前は確か響が何日か前に出していたような気がする。

 つまり、組織の中にいたその女性が裏切ったということだろうか。

 

 それにしても、今の慎次の言葉に一つ引っかかるところがあった。

 わざわざ「だった」と過去形を用いたのには何か理由でもあるのか。

 

 

 

『……数日前、俺がフィーネとしての本性を表した彼女を倒した。たった数日で反旗を翻すとは考えにくい』

 

 

 

 なるほど、確かに自分を倒した相手にこれほど早く牙を剥くということはないだろう。

 慎次によると、万が一ここにブラッドスタークという彼女の協力者が侵入したとしても、各所に取り付けられた監視カメラがその様子を撮影している。

 つまり、《見つからない》ということはないはずだ、ということだった。

 

 

 

『念の為、デュランダル保管庫の護衛を頼む』

 

「分かりました」

 

 

 

 それより先話している内容については《企業秘密》と冗談めかした口調で言われ、深く聞くことはできなかった。

 

 

 

「とにかく、詳しい話は後ほど。間も無く到着します」

 

 

 

 数秒後、エレベーターが停止する。扉が開かれ通路へ出る二人。

 慎次に地下シェルターまで案内される。途中の分かれ道で彼は「道なりに進めばシェルターです」と言い残し、デュランダルというものの保管庫へ向かった。

 

 

 礼を言おうと慎次の方へ振り返ったその時、未来は見てしまった。

 慎次も信じられないものを見たかのような表情でそこを見つめている。それも数瞬、直ちに()()の元へ駆け出した。

 

 未来は()()を見たことはない。しかし、この白を基調とした二課本部の通路においてそれは明らかに異質な存在。

 赤色は警戒色だとよく聞くものだが、未来もそれを視認した瞬間警戒を通り越して戦慄を覚えた。

 

 

 

 

 ────二人が見たのは、奥の突き当たりの扉の前に、煙を撒きながら現れた赤き刺客の姿だった。

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トランスチームガンは一度行ったことのある場所なら、座標が変わっていない限り瞬時に移動することができる。

 詳しい理屈は不明だが、知りたければ葛城巧にでも聞いてほしい。

 

 事前に借り受けたフィーネの持っていた二課の通信機を突き当たりの扉の前にかざす。

 数秒後ロックが解除され、いとも簡単に聖遺物の保管庫へ侵入することができた。

 

 

 

『ご招待にあずかりました、ってな』

 

 

 

 軽口を叩きながらスタークはデュランダルの元へと近づく。

 ここは表向きはデュランダル保管庫だが、実際はカ・ディンギルのエンジンとなる場所だ。無尽にエネルギーを放出する《無限の心臓》ことデュランダル。その特性を利用して月を穿つ、というのがフィーネの、そして奴の目的だという。

 

 ────そんなことをしても無駄だ、というのをスタークは知っているが、言わないでおくことにしている。

 

 

 

『さて、どうやるんだったかな?』

 

 

 

 フィーネから受け取ったメモを見る。

 なにやら複雑なパスワードが記されている。これはカ・ディンギルの起動コードらしい。

 

 

 

『これと……これを同時押し? 指が太くて打ち辛ェんだよ』

 

 

 

 悪態をつきながらコードを入力する。

 《指が太くて打ち辛い》とはビルド(戦兎)の言だが、確かに打ちづらい。

 あの時、もう少しキーを大きくしてやればよかったと今更ながら思う。

 

 苦戦しながらもコードを打ち終わり、最後にエンターキーを叩く。後は通信機のスイッチを押せば完了だ。

 

 

 

「ブラッドスタークッ!!」

 

『おっと、よう風鳴司令! それに、その腹心の緒川だったか?』

 

 

 

 保管庫の扉を殴り飛ばしながら現れたのは二課の司令、風鳴弦十郎。追って拳銃を構えた緒川慎次の姿も見える。

 彼らの後ろの通路に瓦礫がある。どうやら弦十郎は天井をぶち抜くという最短ルートで駆けつけたらしい。

 

 

 

「……監視カメラに侵入の様子はありませんでした。映っていたのは、突如煙と共にここに現れた姿のみ。

 どうやってここに?」

 

『さあな。種は明かしちゃつまらねえだろ?』

 

 

 

 早速拳を握る弦十郎。以前奏にも言ったことだが、まだ装者や彼と戦うのは時期尚早だと考えている。

 現在協力関係を結ばんとしている組織との契約が確定して以降でも遅くない。

 

 だから、一旦彼には退場してもらうことにした。

 

 

 

『それよりこんな所にいていいのか? ()()()()()()ぞ』

 

「……まさか、カ・ディンギルをッ!?」

 

『正解ッ!』

 

 

 そう、起動の準備だけなら通信機のスイッチを入れる必要はない。

 確かにスイッチさえ押せば建立が開始されるのだが、そのタイミングは奴に任せていいだろう。

 

 激しい振動が起きる。今気づいても遅い、回避不可能だ。

 建立が始まると同時に脈打つ無限の心臓。苦渋の表情で退避を始める二人。

 そんな二人を尻目に、スタークはパフォーマンスをするように両手を広げ、口上を叫ぶ。

 

 

 

『さあさあお立ち合い! これより拝めるのは、地上より天を突く魔塔ッ! カ・ディンギルだァッ!!』

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一部始終を見てしまった未来。

 この非常事態においては天井が空いているということもあり、司令室の方が近いという理由で特別に司令室へ連れて行ってもらうことになった。

 状況が確認できればシェルターへ案内してくれるそうだ。

 

 道中、通路の照明が一斉に消えた。

 何かが起きているのかもしれないと司令室へ急ぐも、案の定室内も非常灯以外全て消灯している。

 こちらに気づいたあおいが出迎えてくれる。

 

 

 

「司令ッ!」

 

「状況はッ!?」

 

「数分前に本部内からのハッキングを確認しました!」

 

「こちらからの操作を受け付けませんッ!」

 

 

 

 司令室前方のモニターは一つ残らず砂嵐を映すのみとなっている。こんな芸当ができるのは了子しかいないらしい。

 ブラッドスタークの侵入、カ・ディンギルの起動とこちらで起きた状況を説明する慎次。

 

 こちらから響たちに状況を説明することは不可能。何か自分にできることは……と、未来の携帯でならば連絡することが可能ではないかと思い至った。

 

 

 

「私、響に連絡してみます!」

 

「ッ、そうか……! 頼むッ!」

 

 

 

 履歴から響の番号にかける。

 祈るような気持ちでコール音を聞く。たった数回程度だったのかもしれないが、未来にはそれが永遠のように感じられた。

 

 

 

『未来?』

 

 

 

 繋がった。雑音が混じっているものの、これなら伝えることができる。

 

 

 

「響、学校がノイズに襲われてるの、だから……」

 

 

 

 無念なことに、言い終わる前に通話は途切れてしまった。

 わざわざ響に状況を知らせるなど敵が見過ごすはずがなかったのだろう。

 

 

 

「駄目か……!」

 

「本部の機能のほとんどが制御を受け付けません。地上及び地下施設内の様子も不明です……」

 

 

 

 二課のことはよく知らない未来であるが、今起きているのは最悪の状況であるということくらいは分かる。

 なんとか今の通話で状況が伝わればいいが……。

 

 

 

「クッ……已むを得ん、我々もシェルターへ退避だッ! 通信用の器具の持ち出しを忘れるなッ!」

 

「了解ッ!」

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妖しく光る月が大きく見える夜だ。

 現実か夢想か、太陽の光を反射して光っているはずの月光が赤く輝いている気がしてくる。

 

 要するに、月が赤く見える錯覚に襲われるほどその光景は凄惨だったということだ。

 

 

 

「リディアンが……」

 

 

 

 響たちシンフォギア装者が未来からの連絡を受け現着したときには、すでに私立リディアン音楽院は陥落していた。

 目の前に見えるは瓦礫の山。辛うじて正門から続く中央棟のみが原型を残している状況だった。

 

 未来を探すも見つからず、思わず天を仰ぐ響。

 

 ────そこには、男と女がいた。

 彼女らの名は、

 

 

 

「櫻井女史!? それに……ブラッドスタークッ!」

 

『よォ、シンフォギア装者諸君! まさかクリスを味方につけるとはなァ、ローグは失敗したって訳だ』

 

 

 

 隣の病院で入院しているはずの櫻井了子に、フィーネの協力者ブラッドスターク。

 なぜ二人が共に居るのか。

 自分を誘拐した人物が隣にいるというのに、了子に焦りの表情は見えない。……いや、まさか。

 嫌な想像が頭をよぎる。そんなはずはないと首を振り否定するも、直後発せられたクリスの言葉に打ち砕かれた。

 

 

 

「フィーネッ、お前の仕業かァッ!!」

 

 

 

 違うと言ってほしい。

 しかしその問いに応えないことこそが、何よりもの証拠だった。

 

 

 

「そうなのか……? その沈黙が答えなのかッ!? 櫻井女史ッ!」

 

「アイツこそが、あたしが決着をつけなきゃいけないクソッタレッ! フィーネだッ!」

 

『おーい、呼ばれてるぞ、櫻井女史』

 

「……姦しい」

 

 

 

 眩い光が了子を包む。

 光が収まると、そこにいたのは「櫻井了子」ではなかった。

 月光を透過するほど淡い金色の髪に、全身を覆う金色の鎧。かつてクリスが纏っていた《ネフシュタンの鎧》に酷似しているが、細部が違う。

 

 何より違うと感じたのは、彼女が纏う気配だ。

 どちらかと言うと垂れ目気味でころころと表情を変えていた了子とは一転、今の彼女は能面のように表情が固定され、ただ切れ長の目だけがこちらを見下ろしている。

 

 響は”彼女”と会ったことはない。それでも理解できた。

 彼女こそが、一連の事件の主犯格、フィーネであると。

 

 

 

「……嘘ですよね? そんなの嘘ですよね!? だって了子さん、わたしを守ってくれました!」

 

『あれはただデュランダルを守っただけだと思うぜ。何たって、巫女様がご執心だった完全状態の聖遺物だったんだからな』

 

「了子さんがフィーネだというのなら、じゃあ、本当の了子さんは?」

 

 

 

 茶化すように答えてきたスタークを睨みつけ、了子に問う。

 そう、了子とフィーネでは性格が違いすぎる。ただの模倣では何年も前から共にいた弦十郎や翼を欺くことなどできないはずだ。

 

 

 

「櫻井了子の肉体は、先だって食い尽くされた。いや、意識は十二年前に死んだと言っていい」

 

 

 

 返って来たのは訳の分からない答えだった。

 

 曰く、超先史文明期に生きた巫女《フィーネ》は自らの子孫たちがアウフヴァッヘン波形に触れた際、遺伝子に刻印したフィーネとしての記憶、能力が呼び起こされるよう施していたらしい。

 

 

 

「十二年前、風鳴翼が偶然引き起こした天羽々斬の覚醒は、同時に櫻井了子の内に眠る意識を目覚めさせた。

 その目覚めし意識こそが、私なのだ」

 

「まるで、過去から蘇る亡霊……!」

 

 

 

 思わず口に出る翼。

 授業で聞いたことがあった。先史文明期とは、人類が文字を発明するよりも前の時代のことを指す。

 つまり今目の前にいる彼女はそんな時代から今まで生き永らえているということなのか。

 

 

 

『怖い話だよなァ。歴史上の偉人の中にこいつが混じってるってのもあるが、世界中のパラダイムシフトに片っ端から立ち会ってきたって話だぜ?』

 

「……シンフォギアシステム」

 

「その様な玩具、為政者からコストを捻出する為の副需品に過ぎん」

 

 

 

 ノイズから人々を守るために作り出されたと思っていたシンフォギアも、全て彼女の計画の一部だったという。

 響はまだ鵜呑みにできないでいる。しかし、それを平時のように聞いていられないのは翼とクリスだ。

 

 

 

「お前の戯れに、奏は命を散らせたのかッ!?」

 

「あたしを拾ったり、アメリカの連中とつるんでたのもそいつが理由かよ!?」

 

「……さあ、どうだろうな」

 

 

 

 地面が鳴動する。

 何かが来る。そう直感的に理解できるほど、気配は濃密だった。

 やがて地面が隆起する。唯一残っていた中央棟を下から抉り、それは現れ出でる。

 

 とても高い塔だ。響の感想はそれだった。

 外壁を覆う妙な模様は、いつも響たちが本部へ行く際に通っているエレベーターシャフト周囲の模様そのもの。

 つまり、地上から本部まで続くほどの全長ということ。高いのも納得だ。

 

 

 

「これこそが、地より屹立し、天にも届く一撃を放つ荷電粒子砲カ・ディンギル」

 

「カ・ディンギル……こいつで、バラバラになった世界が一つになるってのかッ!?」

 

「そうだ。今宵の月を穿つ事によってな」

 

 

 

 月を、穿つ。

 そんなことを口にした。穿つ、つまり貫く。つまり、彼女は遥か上空に浮かぶ衛星を撃ち落とすつもりだというのか。

 どうして、と叫ぶ。

 フィーネは月を見つめ、独白のように言葉を紡いでいく。

 

 

 

「────私はただ、あの方に並びたかった。その為にシンアルの野にあの御方へと届く塔を建てようとした。だがあの御方は、人の身が同じ高みに至ることを許しはしなかった……。

 我らは怒りを買い雷霆に塔が砕かれたばかりか、人類は交わす言葉さえ砕かれる果てしなき罰を掛けられてしまったのだ。

 人類の相互理解を妨げるこの呪い《バラルの呪詛》を、月を破壊することで解いてくれる! そして再び、世界を一つに束ねるッ!」

 

 

 

 次第に熱を帯びてくる口調に肩をすくめるスターク。それに呼応するようにカ・ディンギルの先端に光が集まっていく。

 先端を包む緑光が強くなっていくのに比例して周囲の空間が放電を始める。

 

 月破壊の準備が進められているのは、誰の目から見ても明らかだった。

 

 

 

「呪いを解く……それはお前が世界を支配するってことなのか!?」

 

『そいつが世界から争いを無くす唯一の方法だとよ』

 

「安いッ、安さが爆発しすぎてるッ!!」

 

「永遠を生きる私が余人に歩みを止められる事など有り得────。……いいや、いい加減耳障りだッ!」

 

 

 

 月を穿つことで世界を束ねるなど、決して看過していいことではない。

 吠え猛るクリス。言葉に出さないものの、翼も同様に思っているだろう。

 何にせよ、ここで止めなければ始まらない。

 

 

 

「Balwisyal Nescell gungnir tron」

「Imyuteus amenohabakiri tron」

「Killter ichaibal tron」

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 弦十郎がシェルターの扉の瓦礫をどかす。殴った方が早かったのだが、中に一般人が隠れているかもしれないとの判断でそれは取り止められた。

 

 案の定中には人がいた。よく見ると、未来の見知った人物だった。

 

 

 

「小日向さん!」

 

「みんな!」

 

 

 

 創世、詩織、弓美の三人が揃ってここに隠れていたようだ。三人とも未来が避難誘導を担当していたのだが、カ・ディンギル建立などもありその後の消息が不明だった。

 こうして再会できたことに、今は喜ぶべきだ。

 

 

 

「この近くの電力は生きているようです!」

 

「他を調べてきます!」

 

「ヒナ、この人たちは?」 

 

 

 

 早速器具を接続する朔也。慎次は他の場所を探しに行った。

 未来は「電力が生きている」という言葉に安堵していたが、彼らのことを全く知らない創世たちは戸惑っている。

 

 こっそりと彼らについて尋ねてくる創世。しかし壁際で瓦礫をどかしスペースを広げていた弦十郎には聞こえていたようだ。

 

 

 

「我々は特異災害対策機動部二課。一連の事態の収束に当たっている」

 

「それって、政府の……?」

 

「モニターの再接続完了、周囲監視カメラの映像映しますッ!」

 

 

 

 再接続されたモニターに映し出されたのは、今まさに戦わんとしている響たちの姿だった。

 向かい側には金色の鎧を纏った女性に、つい先ほど目撃したコブラ男ブラッドスタークが。

 

 

 

「響ッ! それにクリスも……」

 

「これが、了子さん……?」

 

「どうなってんの? こんなのまるでアニメじゃない!?」

 

 

 

こちらの意図が伝わっていたことに安堵する未来に、裏切り者の櫻井了子らしき女性を見て驚くあおい、そして状況が掴めず混乱する弓美。

 三人の中でも比較的平静を保っていた創世が得心が行ったような様子で話しかけてきた。

 どうやら、以前シンフォギアのことで響と喧嘩をしてしまったときのことを思い出しているらしい。

 

 

 

「……そっか、前にヒナとビッキーが喧嘩したのってこれに関係することだったんだ」

 

 

 

 ごめん、と口に出そうとするも、それは出なかった。

 

 なぜか。理由は口を開いた直後、扉が開け放たれたからに他ならない。いや、開け放たれたというのは正確ではない、扉が吹き飛ばされたというのが真実だ。

 

 異常に隆起した上半身。

 岩を手で握りつぶしたような形状の上半身に、灰色の下半身。角ばった両拳は鉄板程度簡単にぶち抜いてしまいそうなほどだ。

 

 ────一般的に、そういうモノを人は《怪物》と言う。

 

 

 

「うわァァッ!?」

 

 

 

 阿鼻叫喚に包まれるシェルター内。怪物は扉から一番近くに居た朔也に狙いを定め、鈍重な足取りで近寄ってくる。

 腰が抜けたのか、朔也はその場から動くことができない。助けようにもあの巨体相手にどうすればいいというのか。そうこうしている内に怪物はすでに朔也の目の前に。

 

 その剛腕が上げられる。彼を叩き潰すつもりなのだろう。

 

 次の瞬間、叩き潰された。()()()

 

 

 

「司令ッ! あッ、ありがとうございます!」

「構わん。それよりこいつは?」

 

 

 

 怪物をシェルターの外にまで吹き飛ばしたのは二課の司令、風鳴弦十郎その人だった。響の格闘の師匠だとは聞いていたが、まさかここまで規格外だとは。

 恐らく普通の人間であれば即戦闘不能になるほどの攻撃だったのだろう。怪物の胴体からは煙が上がっている。

 

 だというのに。

 怪物は立ち上がった。まるで痛みを感じていないかのように。

 

 

 

「なんでッ!? なんでこんなことに……」

 

 

 

 頭を抱えうずくまる弓美。無理もない、未来だってこの前の一件がなければ恐怖のあまり叫んでいるところだ。

 刻一刻と状況は悪くなる。

 

 シェルターの通路から、何か金属がこすれる音がした。

 まさか────と全員がその予想を否定する。しかし現実は非情である。

 

 灰色のボディに、どこかプレス機を思わせる両腕。あんなものに挟まれれば瞬く間に潰されてしまうだろう。

 つまるところ、怪物が一体増えたのだ。

 

 なぜここにばかり……と呪う。しかしどれだけ思っても怪物がいなくなることはなかった。

 ゆっくりと近づいてくる怪物たちに対し、弦十郎の判断は迅速だった。

 

 

 

「……こいつらは俺が相手をする。藤尭ァ! 一時的にシェルターのハッチを解放しろ! それくらいなら可能な筈だッ!」

 

「しかし司令、この状況で指揮系統を失うというのは……」

 

「非常事態だ。ここにいる者の中で、この化け物に対処できるのは俺以外にいないッ!」

 

「……了解ッ! 30秒後解放しますッ!」

 

 

 

 こともあろうに弦十郎は一人で怪物と戦うなどと言いだした。二課職員の誰一人弦十郎の無事について異議を挟む者がいなかったのは気になったが、それでも最後にはそれを了承した。

 

 彼は最後にこちらを振り向き、安心させるかのように笑った。その後剛腕を振るい、怪物たちの気を逸らす。シェルターは瞬く間に静寂を取り戻した。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 剣と刀が交差する。

 実際には、高速機動を駆使して猛攻を加える翼をスタークが短剣でいなしているというのが正しいが。

 やがて鍔迫り合いへと発展し、お互いの獲物に力を込める。

 

 

 

『因縁の対決だなァ、翼!』

 

「お前に構っている暇はない。押し通らせてもらうッ!」

 

『いいのか? 俺は二年前の首謀者かもしれないんだろ?』

 

「今は私怨を果たす状況ではないッ!」

 

 

 

 弾かれるように飛びずさる。すぐに体勢を立て直した翼は身体を反転させ、両脚を開く、脚部ブレードが展開されたのと同時に高速回転を始め、スタークに向かって突進する。

 

 

 

━━━━━━━━逆羅刹━━━━━━━━

 

 

 

 逆羅刹により瞬時に距離を詰め、そのまま勢いに乗りスタークを切り裂こうと試みる翼。しかし彼はそう甘くない。

 

 

 

【アイススチーム!】

 

 

 

 いつかローグがしたようにスチームブレードで地面を突き刺す。地面の破片はすぐに凍り付き、即席の氷壁として機能する。

 かつてはこの技により遅れをとってしまった。だが。

 

 

 

「同じ手に二度嵌る私だと思うなッ!」

 

 

 

 いつまでも同じところで立ち止まっている翼ではない。

 初めからこの状況を読んでいたかのように、脚部ブレードを氷へと食い込ませる。

 横方向にではなく、縦方向に。

 

 そのまま回転力を高める。一瞬速度が落ちたものの、すぐに復活。

 次の瞬間には、翼の身体は宙を舞っていた。氷壁をジャンプ台としてスタークの防御を突破したのだ。

 

 

 

『流石防人様だ』

 

 

 

━━━━━━━━蒼ノ一閃━━━━━━━━

 

 

 

 紫電を纏った斬撃が、一直線に飛んでいく。

 それを間一髪で避けるスターク。これで戦況が変わらないのは知っている。だから今はただ、好機を待つ。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 まず響が突撃する。掌底や回し蹴りでフィーネの隙を作り、その隙にクリスがチャージした砲撃を放つということに決まり、それを実行して数分。

 未だフィーネは隙を見せない。

 

 連続で回し蹴りを繰り出す。後ろに飛びのくフィーネを見て、響は作戦Bを思いついた。

 

 

 

「クリスちゃんッ!」

 

「……ッ、おうッ!」

 

 

 

━━━━━━━━CUT IN CUT OUT━━━━━━━━

 

 

 

 クリスに目配せする。怪訝な表情になったクリスだが、すぐに意図を汲んでくれたらしい。

 腰部アーマーを展開し、多数のミサイルを発射。『CUT IN CUT OUT』が不規則にフィーネへ向かって飛んでいく。

 

 ネフシュタンの鞭で空間を薙ぐフィーネ。

 その数秒後、攻撃範囲に入ったミサイルが一つ残らず爆発。攻撃は不発に終わってしまった。

 

 

 

「はぁぁぁぁッ!!」

 

「舐めるなッ!」

 

 

 

 激しい爆発が辺りを覆う。その爆煙に乗じて横から全力の右ストレートを放つ、という作戦だ。

 しかしそれも読まれていたのか、フィーネはこちらを見ようともせずに拳を受け止められる。反撃を食らう前に全身を捻り、なんとか攻撃範囲から離脱できた。

 

 

 

「チッ……決定打が入らねえ」

 

 

 

 吐き捨てるクリス。

 そんな時、フィーネの横にスタークが合流したのが見えた。後を追い翼も追いついてきた。

 これで戦力は3対2。厄介なスタークを翼が押さえていてくれたからこそ、二人もフィーネとの戦いに集中できたのだが、スタークの攻撃にも気を配らなければならないのは痛い。

 

 

 

『お互い手こずってるみたいだな。どうだ、一つ協力する気はねえか?』

 

「…………」

 

『冷たいねェ、ちょっとは反応してくれよ。……まあいい、そろそろ頃合いだ』

 

 

 

 瓦礫の上に移動する二人。

 奇しくも戦闘前のように二人を見上げるような形となり、一旦戦闘の激化は抑えられた。

 なかなか攻めてこない二人を見てクリスが挑発を仕掛ける。

 

 

 

「どうした、ビビってるってのか?」

 

「……直にカ・ディンギルの第一射が始まる。無駄な足掻きだと呆れていた」

 

「随分と舐めてくれたものだな」

 

 

 

 フィーネを睨む二人。しかし二人より見上げるのが一瞬遅れた響は、見てしまった。

 

 

 

 ……最初はスタークがなぜかフィーネの後ろに移動したのを不思議に思ったからだった。あまりにも自然な動きだったため違和感を感じていなかったのだ。

 しかしそれも一瞬、響は《感じてしまった》。

 

 

 

「ッ!? 了子さんッ!!」

 

 

 

 その直後見えたのは。

 

 

 

 

 

 

 ────黒鉄色の針が、フィーネの腹を貫通する姿だった。

 

 

 

 

 

 

「…………?」

 

 

 

 不思議そうに自らの腹部を見つめるフィーネ。

 しかし針が引き抜かれ、自らの状態を自覚した途端、傷口を押さえうずくまりだした。

 

 

 

『随分気持ちが入ってないみたいだったからなァ、やりやすかったよ』

 

「スターク貴様ッ、ここで裏切るつもりかッ!?」

 

『多くは語らないでおくよ。中途半端に聞いて逝くと寝覚めが悪いだろ? だがまあ簡単に言っちまうと、お前は終わりって事だ』

 

「な、にを……グッ!?」

 

 

 

 ネフシュタンの力があればその程度の負傷など容易に治療できるはず。二課の資料にもそう記されていた。

 しかし突如、フィーネの表情が変わったことで何かがおかしいとすぐに分かった。

 

 今までの《外部からの痛み》に耐えていた様子とは一転、目を見開き口を開け、絹を引き裂くかのような絶叫を上げながらのたうち回っている。

 

 そのあまりに異常な光景に思う所があるのか、クリスも思わずクロスボウを落とし手を伸ばしていた。

 

 

 

「フィーネ……?」

 

「あれは……毒、なのか?」

 

『それも本気の、な。響に打ったのとは比にならない』

 

 

 

 つまりスタークはフィーネに毒を盛ったのだ。

 明確な裏切り行為。しかしそれに対し怒る者はいない。

 

 スタークはフィーネの身体を軽々と持ち上げ、遠くの崩落した建物まで投げ飛ばす。間髪入れずにトランスチームガンとスチームブレードを合体させ、フィーネの周囲のまだ残っていた外壁に向かって引き金を引いた。

 

 

 

【スチームショット! コブラ!】

 

 

 

 赤黒いコブラがフィーネの周囲を食らいつくす。コブラが通り過ぎた空間にあった外壁は粉砕され、その全てがフィーネの下へと降り注がれる。

 

 

 

「フィーネッ!?」「了子さんッ!?」

 

 

 

 もはやフィーネの生存は絶望的だ。それでも今すぐにでも助け出したいと衝動に駆られる響とクリス。翼に引き留められなければスタークを無視して本当に向かっていたところだった。

 

 改めてスタークを見上げる。

 いくら敵対していたとはいえ、後ろから協力関係だった仲間を刺すなんて到底許せることではない。早く彼を倒してフィーネを……と、スタークの隣にもう一人、誰かがいることに気付いた。

 

 

 

「だ、誰ですかッ!?」

 

「その格好……アメリカの奴らか!」

 

「その通りだ、第二号聖遺物イチイバル」

 

 

 

 逆光でよく見えないが、サングラスをしていることは分かる。

 黒い防護服を着用し、背中からは銃口のような影。なぜか左手には見覚えのある完全聖遺物、ソロモンの杖を、右手にはスタークの持つトランスチームガンと同型のものが見える。

 クリスの言葉を信じるならば、彼は米国の軍人ということになるのだろうか。

 今までもブリーフィングの際に何度か名前の挙がっていたアメリカ。まさか本当に関わっているとは。

 

 

 

「……最初から米国と繋がっていたのか?」

 

『まあな。だが良かったじゃねえか、こうしてフィーネの計画は阻止されたんだからよ』

 

「それは……」

 

 

 

 否定できない。過程はどうあれ、フィーネは倒された。

 彼が日本で暗躍していたことも含めて今後は追求しなければならないだろうが、それは弦十郎たちの仕事。飲み込めないところも多いものの、これにて一件落着ということなのかもしれないが……。

 

 

 

「スターク、フィーネの通信機を」

 

『はいよ』

 

 

 

 スタークに投げ渡された通信機のスイッチを押す男。カ・ディンギルの停止でもしたのだろうか。

 

 ……その予想に反して、カ・ディンギルの頂上を覆う光は一向に収まる気配を見せない。

 響は思わず男に尋ねる。

 

 

 

「でも、全然光消えないですけど……」

 

 

 

 

 

「無論だガングニール。此れよりは────()()()()穿()()のだから」

 

 

 

 

 

 今、彼は何を言ったのか。

 月を穿つ、確かにそう聞こえた。聞こえたのだが、まだその意味を理解できないでいる。

 

 正気か、と翼が叫ぶ。対照的に男は無表情を崩さず、

 

 

 

「無論正気だとも。私の計画も、これがあれば実を結ばれる」

 

 

 

 そう嘯きながら右手の防護服を外す。

 そこには"何か"があった。

 

 金色のガントレット(籠手)だろうか、男の肘まで覆われている。

 白い指抜きグローブのような薄い膜の上にも金色のラインが走り、心なしかその辺りが発熱しているように見えた。

 

 

 

『こいつはフィーネの作った……そうだな、一言で言うと、《シンフォギアを纏わずともノイズを倒せる機械》だ』

 

「馬鹿言ってんじゃねえ! そんなのがありゃあ今頃……」

 

 

 

 クリスの言う通りだ。シンフォギア以外にノイズを倒せる手段が開発されているのなら、世界はノイズに脅かされる心配などないはずなのだから。

 

 

 

『そいつは無理な話だ。こいつの起動には途方もない精神力が必要な上に、他にも大量の欠点がある。

 要するに欠陥品って奴なんだからな』

 

 

 

 詳細は分からないが、とにかく量産は不可能らしい。

 続けて何か話を続けようとしていたスタークだったが、男が片手をあげたことでそれは止められた。

 

 

 

「無駄話はそこまでだ。君はまだやる事があるのだろう?」

 

『おっと、そうだった』

 

「逃げるつもりかよッ!?」

 

 

 

 男に促され、トランスチームガンで撤退しようとするスターク。クリスが引き止めるも、彼は止まらない。

 

 

 

『次のステージの準備をしに行くのさ。その時、お前達がまだ生きてたらまた遊んでやるよ。じゃあな』

 

 

 

 それは逃げるのとどう違うのか、とも思ったが、それを口にする前に文字通り煙に巻かれてしまった。

 スタークはいなくなった。言葉から、しばらく彼と会う事はないのだろう。

 いずれにせよカ・ディンギルの発射を止めるのは確かな事実、そのためには男の持っている通信機を奪わなければならない。

 

 四の五の言っている時間は恐らくない。それを直感的に悟った三人はそれぞれの得物を構え直す。

 幸い相手は生身の人間一人。ソロモンの杖を持っているとはいえ、響たちならすぐに無力化できるはずだ。

 

 

 

「貴方を拘束させてもらいます。降伏か抗戦か、好きな方を選びなさい」

 

「天羽々斬、冗談は止してもらおう。私は飛びかかる火の粉を振り払うのみ。

 戦闘などという言葉は正解ではない、これはただの処理だ」

 

「処理たぁ随分と言ってくれるッ!」

 

 

 

 先ほどからしきりに月を見上げていたクリスがクロスボウを男の足元に向けて発射する。

 これで多少は怯んでくれればいいのだが、という意図をもっての行動だった。しかし────。

 

 

 

「無駄な事だ」

 

 

 

 男が左腕を振るうと、ソロモンの杖からノイズが即席の盾として召喚された。光の矢はノイズの中央に命中し、瞬く間に炭化する。

 やはりソロモンの杖は厄介な代物だ。同じことを思っていたのか、後ろから舌打ちが聞こえる。

 

 続けてノイズを大量に召喚する。

 盾としての運用とは違い、今度は矛としてその全てが響たちに襲い掛かってくる。

 その数は最早召喚者である男すら見えないほど。雪崩のように押し寄せるノイズに対処するので精一杯で、男を捕捉する暇などない。

 

 ()で、()で、()で対処していく装者だが、いつの間にか男の姿がなくなっていることに気付いたのはノイズが目減りしてきてからのことだった。

 他二人より一足早くそれに気づいたクリスが呼びかける。確かにいなくなっている。だとすれば一体どこへ消えたのか……。

 

 

 

 突如、前方のノイズの中央に穴が開く。

 響が攻撃した訳ではない。もちろん翼でもクリスも同様だ。なら誰が────。

 

 

 

「隙だらけだ」

「なッ!?」

 

 

 

 突如、ノイズを破壊しながら男が現れた。その右拳は一直線に響へと向かっていき、拳を視認した瞬間、響は遠くへ殴り飛ばされていた。

 

 一体何が起きたのか。

 茫然としながら頭を働かせる響。そうして辿り着いた答えは、到底信じられないようなものだった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 つまり彼は、《大量のノイズの影に隠れながら接近、攻撃範囲に入った瞬間隠れていたノイズごと攻撃を加える》という戦法をとったのだ。

 

 信じられない。そもそも強化された身体能力とアームドギアを用いてノイズを倒すことの多いクリスたちシンフォギア装者だが、生身の人間がノイズごと響を殴り飛ばしたという事実を受け入れることができない。

 風鳴弦十郎という例外はあるのだが。

 

 同じ戦法で翼も攻撃を加えられる。なんとか受け身を取ることができていたが、接近戦に不安の残るクリスでは対処できるか分からない。

 このままではカ・ディンギルが発射されてしまう。いや、収束する緑光を見る限り、もう発射を止めることはできないだろう。

 幸い、男は響と翼の相手をしていてこちらにはまだ攻撃してこないようだ。

 

 月を睨む。

 あれを破壊されれば、地球にどのような影響が出るか予想できない。せめて直撃は避けたい所だが────。

 

 

 

「────ッ!」

 

 

 

 こういうことを天啓というのだろうか、突然クリスに月の破壊を阻止する方法が舞い降りた。

 この方法ならば阻止できる確率は高い。しかし。

 

 そのためにはあるものを犠牲にしなければならないのだ。

 

 ……いや、()()()()()()()で阻止できるのならば安いもの。

 即断即決、クリスはアームドギアを一旦元の状態へ戻し、エネルギーをチャージする。

 

 

 それを見た二人は時間稼ぎのために動き回り、こちらへの注意を散漫にしてくれた。

 恐らく日中に放ったMEGA DETH QUARTETでカ・ディンギルを破壊する作戦とでも認識したのだろう。しかしそれは正しくない。

 

 それほど大掛かりなチャージ時間は要さない。あと数秒で完了だ。

 

 男がこちらに気付いたのと、チャージが完了したのは全くの同時だった。

 両肩に巨大なミサイルを二基展開、一方には角度を上に調節して発射の体勢を取る。そう、今までの二人の攻撃はただの時間稼ぎ。

 

 

 

「本命はこっちだッ!」

 

 

 

━━━━━━━MEGA DETH FUGA━━━━━━━

 

 

 

 ミサイルの数こそ圧倒的に少ないものの、MEGA DETH QUARTETよりも圧倒的に短いチャージ時間で発射できる『MEGA DETH FUGA』。

 まず左肩のミサイルを発射する。ミサイルは進行方向上に立つ男を素通りし、弧を描きながらカ・ディンギルへと向かっていく。

 

 

 

────ロックオンアクティブッ!

 

「させるものかッ!」

 

 

 

 一発目はしっかりと狙いを定める(ロックオンする)

 破壊させまいとソロモンの杖から大型の飛行型ノイズを召喚する男。複雑な軌道を描きながらミサイルを追い、やがて追いついたノイズはミサイルに張り付き、自爆。

 爆炎と爆煙が空中に飛散し、周囲の視界を奪う。

 そして、二発目。

 

 

 

「もう一発は……ッ!?」

 

────スナイプ! デストロイィッ!!

 

 

 

 空を見上げたときには、すでに二発目のミサイルはクリスを乗せて遥か上空へと突き進んでいるところだった。

 目的地はただ一点、夜空に浮かぶ丸い月。

 

 

 

「クリスちゃんッ!?」

 

「何のつもりだッ!?」

 

 

 

クリスの行動が予想とあまりに違ったためか、男だけでなく響とクリスまでもがあっけにとられている。

 

 

 

「……だが、今更カ・ディンギルの発射を止める事など……」

 

 

 

 そう、今更発射を止めることなどできはしない。()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

「────Gatrandis babel ziggurat edenal」

 

 

 

 

 

 

「この歌……まさかッ!?」

 

()()ッ!?」

 

 

 

 空気が変わる。カ・ディンギルと月との線上でミサイルを乗り捨て、最期の攻撃の準備を始める。

 

 腰部アーマーから無数のエネルギーリフレクターを展開、周囲にばら撒く。

 続けてアームドギアを小型の銃に変形させ、カ・ディンギルに向かって銃口を向ける。絶唱により爆発的に高まったフォニックゲインが、両手の銃を長大なレーザー銃へと変化させた。

 両腕を合わせ、左右のレーザー銃を組み合わせる。

 

 イチイバルの絶唱は本来、死角なく広域に放射する殲滅型。

 しかし月を穿つほどの砲撃と()()()()ためには、それでは突破されかねない。

 

 そこでクリスは一計を案じた。

 自身の命を代償とした、一度限りの大技を────。

 

 

 

 

 

「Emustolronzen fine el zizzl────」

 

 

 

 

 

 銃口にエネルギーが集まってくる。間違いなくクリス最大の攻撃だ。

 これではまだ足りない。周囲に放出され始めているエネルギーを無数のリフレクターで反射、ベクトルが全てカ・ディンギルに向かうように調整する。

 

 その様は。月の下で淡く光る赤い雪、赤い蝶のようで。

 

 

 

 地上から緑光が一直線に向かってくる。絶唱を歌い終えると同時に引き金を引き、収束したエネルギーを一点に放出。

 地上と天上、両極から放たれた一条の光。間もなくそれはぶつかり、カ・ディンギルか雪音クリス、どちらかが消えるせめぎ合いが始まった。

 

 

 

「一点収束、押しとどめているだとォッ!?」

 

 

 

 そんな男の狼狽が目に浮かぶようだ。

 

 ────砲台にヒビが入ってくる。

 全身のアーマーも砕けていき、砕けたものからその熱量のあまり蒸発していく。

 

 絶唱は本来これほど長く攻撃を放つものではない。

 すでにクリスの身体は限界を迎えている。血を吐き、押し負けるのも時間の問題だ。

 

 

 それでも。

 今のクリスに、数年前から胸の奥でずっと感じていた痛みはない。

 

 今、胸の内に満ちているのは────。

 

 

 

 

────ずっとあたしは、パパとママの事が大好きだった

 

 

 

 

 真意に気付かされた今、両親が嫌いだとなぜ言えようか。

 《歌で世界を平和にする》、その願いを受け継ぎ、叶えられるのは誰だ? もちろん、自分しかいない。

 

 次第に赤光と緑光の対決、その決着の時が近づいてくる。勝者はクリスではない。それだけは明らかだ。

 

 

 

 

────二人の代わりに、歌で平和を掴んで見せる。

 あたしの歌は……そのために────!

 

 

 

 

 まぶたを閉じて、耳をすませば。

 胸の内に流れるメロディが聞こえてくる。

 墜ちてもなお、あの場所()を照らす星の光は決して消えない。だから何度でも手を伸ばす。

 なぜか。それが叶わぬものではないと知っているからだ。

 

 

 ふと、両親の背中を見た。

 

 

 クリスは今、二人と手を繋いでいる。ようやく走り出した自分の夢、今は叶わなくとも、いつか、必ず────。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「損ねた? ……そうか、わずかに逸らされたのかッ!」

 

 

 

 雪音クリスはカ・ディンギルの砲撃に押し負け、光の奔流に飲み込まれた。

 

 しかし押し負ける直前、クリスはリフレクターを利用して砲撃の軌道をわずかに逸らした。結果、月は一部が砕け割れたものの、破壊されることはなかった。

 月の破壊阻止は成功したのだ。一人の少女を犠牲にして。

 

 空から何かが墜ちて来る。

 

 淡雪のように仄かに輝く、赤い光。

 その正体が世界を護った少女であることは、誰の目から見ても明らかだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さよならもいわずに、それっきりだったのよ……? なのにどうしてッ……」

 

 

 

 その儚い散り様に、友情を結んだ少女は涙し。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前の夢、そこにあったのかッ……そうまでしてお前がまだまだ夢の途中であるのなら、俺達は……どこまで無力なんだッ!」

 

 

 

 襲い来る怪物たちを蹴散らしながら、彼女を必ず救うと誓った男は拳を地面に叩きつける。

 

 そして、

 

 

 

 

 

 

「ああああああアアアアアアアアァァァァッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 誰よりも長く、彼女と分かり合えると信じた少女の慟哭が、月下に木霊する。




次回「憤怒のオーバーフロー」

隊長の戦闘スタイルを思いついたときは正直頭ジーニアスと思いましたが出番が少なすぎて書いてみるとそうでもなかった


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